サディスティック・クイーンビー

    作者:志稲愛海

     艶やかな唇に滲むのは、満足気で加虐的な色を湛える笑み。
    「んふふ、いい眺めね」
     胸元が強調された露出度高めな黒のドレスを飾る、緩やかなウェーブを描く蜂蜜色の髪。
     そんな『女王蜂』の瞳に映るのは――必死の形相で、吊るされたパンを奪い合う人々の姿。
     まるでそれは、運動会のパン食い競争の様であるが。
     普通の運動会と違うのは……相手を傷つけても殺しても、何しても構わない、命懸けの『殺戮運動会』であるということ。
     密室に閉じ込められ、強制的に運動会の競技者とされているのは、千人程の一般人。
     そして、そんなMAD六六六主催の殺戮運動会の実権を握るのは、六六六人衆・序列六四五位『ミス・クイーンビー』と名乗る女であった。
     最初こそ、この理不尽な運動会への参加を拒否したり、逃げ出そうとする者もいたのだが。逃げようにも、此処は出口が見つからない密室。さらに女王蜂に逆らう者達は、次々とその毒針の餌食になってしまった。
     針の様なピンヒールでぐりぐり頭を踏みつけられている、既に絶命している男性の様に。
    「じゃあ次は、やっぱり運動会の定番の騎馬戦かしら?」
     壮絶なパン食い競争の次は、騎馬戦。
     だが勿論、ただの騎馬戦ではない。
    「最後の一騎になった人達には、水と食糧をたっぷりあげるわ。そうね、男ばかり勝つのも楽しくないから……女子供は、ナイフの使用OKにするわ」
     そんな女王蜂の言葉に、ざわりと、戦慄する声が密室内に満ちる。
     ミス・クイーンビーはそんなざわめきに、ふっと笑みを浮かべて。
    「勿論、みんな参加するわよね? 逃げ出す素振りが少しでもあれば、優先的に殺すから」
     いっぱい楽しませて頂戴ね――と。
     無機質な密室の空に、競技開始の銃声を鳴らしたのだった。
     

     松戸市にある八柱霊園には、遊び半分で行ってはいけないと言われている心霊スポットがいくつもあるという。
     だが、そんなオカルトめいた噂話よりも、ずっと恐ろしい現実。
     それが――この霊園に作られた『密室』で行なわれているという、『殺戮運動会』。
     恐らくこの密室は、ゴッドセブンのひとり『アツシ』の手で作られたものだろう。
     そしてその存在を突き止めたのは、勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)。
     みをきは仲間達と共に、不気味な夜の霊園内へと足を踏み入れて。
    「この石灯篭の下だ」
     夜の闇に佇む石灯篭の位置をずらせば……そこには、ぽっかりと口を開いた、『密室』へと続く地下階段が現われる。
    「この下の密室で、MAD六六六主催の殺戮運動会が開催されていることを突き止めた。そしてその実権を握っているのは、『ミス・クイーンビー』と名乗る六六六人衆の女で、ゴッドセブンのひとり『アツシ』から密室を与えられたダークネスのようだ。『ミス・クイーンビー』は食糧や水を餌に、一般人達を殺戮運動会に参加させては、人間同士が傷つき争いあう姿を面白可笑しく高みの見物して楽しんでいるらしい」
     冷静で淡々とした物言いのみをきであるが。
     助けに行こう――その露草色の瞳が、そう仲間達の姿を順に映す。
     だが今回の事件は、『密室』内で行なわれているためか、エクスブレインの未来予知には引っかからなかった。
     よって、いつもの様に「敵の予知を無効化する手段」を得ることができない。
     だが……このまま、ダークネスの凶行を見逃すわけにはいかない。
    「密室内には、どうやら千人程度の一般人が閉じ込められているようで、殺戮運動会の混乱の隙に潜入すれば、密室侵入に気付かれることはなさそうだ。『ミス・クイーンビー』は六六六人衆で、その手には殺人注射器と妖の槍が握られていた」
     殺戮運動会の参加者になりすますことが、ミス・クイーンビーに一番簡単に近づけそうではあるが。周囲には、必死の形相で競技に参加している一般人がいる。また、直接手っ取り早くミス・クイーンビーを狙うのも当然可能だが、あまり周囲と違う動きを見せれば、早々と敵のバベルの鎖の予知に引っかかる危険性もある。
     なるべく一般人に被害がでないよう女王蜂を撃破するべく、慎重に作戦を立てる必要があるだろう。
     エクスブレインの未来予測に頼れぬ状況下での、ダークネスとの戦い。
     それは、厳しい戦いになることが予想されるが。
     一歩一歩、地下に伸びる階段を慎重に下りていきながらも。
     灼滅者達は――『密室』へと今、足を踏み入れる。


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)
    森田・依子(深緋・d02777)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    齋藤・灯花(麒麟児・d16152)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    遠野森・信彦(蒼炎・d18583)

    ■リプレイ

    ●殺戮騎馬戦
     無機質な密室の空に、無慈悲にも響く開戦の銃声。
     そして始まるのは、数百もの人間騎馬による、命懸けの潰し合いであった。
     戦いを制しなければ水や食糧を得られないという、追い込まれた精神状態。
     さらに、出口が見当たらぬ密室において……『彼女』は、絶対。
     逆らえば、その毒針で自分達を惨殺するであろう恐ろしい女王蜂――『ミス・クイーンビー』の存在。
     其処彼処からあがる雄叫びを支配する感情の色は、恐怖と狂気であった。
    「普段、どれだけエクスブレインに助けられているかが実感できますね……」
     此処は、エクスブレインの未来予測も届かぬ特殊な密室。
     さらに敵は、序列六四五位の六六六人衆。
     下手な動きをみせれば、相手のバベルの鎖の予知に引っかかるだろう。
     むっと立ち込める異様な熱気の中、月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)は、改めて未来予測がない現状の厳しさを思い知りながらも。
     仲間達が組んだ騎馬へと、騎手として乗り込んで。敢えて女王蜂の遊戯に参戦する。
    「うおぉぉぉおおおッッ!!」
    「!」
     騎馬を担う遠野森・信彦(蒼炎・d18583)は、勢いよく突っ込んできた相手の突進を難なくかわしながらも。 
    「何やってんだ、早く倒せよ!」
     周囲の殺伐とした雰囲気に合わせ、わざと揺らいでみせつつ、騎手の彩歌を急かす言動を取れば。
    「あんた達がちゃんとしないからぁ! アタシ、死ぬかもしれないじゃない! 嫌だようこんなの、家に帰してよぉ……!」
    「ひでぇ言われよう……勝てば水とか貰えるんだから、泣き事言う前にお前はもう少し頑張れよ! 俺だって帰りてぇんだから!」
     闇雲に腕を振り回したようにみせ、一般人のナイフを叩き落した彩歌に合わせて。迫水・優志(秋霜烈日・d01249)がさり気なく相手の足をかけ、また1体、騎馬が崩れ落ちる。
    「お前ナイフ持ってんだから真面目に戦えよ……重いんだよ……早く帰りたい帰りたい……」
     そのへろへろな動きとくたびれきった様子は、いかにも弱弱しそうにみえるが。
     暗殺者教団を思い出しつつ、マジ泣きしながらも。殺る気溢れた一般人から狙い、目立たぬようやんわりと騎馬を打ち倒していく、エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)。
     自分達の敵は、数百にも及ぶ一般人の騎馬ではない。
    (「殺しを無理強いさせるなんて本当サイテーだよな、早く灼滅しなきゃ」)
     その緑色の瞳が一瞬捉えた――高みの見物と興じている、女王蜂なのだから。
     そして、いかにも劣勢な様子を演じつつも。
     灼滅者の騎兵は、東から北へと、確実に進路を取っていく。

     一方――東から西に果敢に攻める、一体の騎馬。
    「ごめん……なさい。どうしても此処で、負けられないんです」
     森田・依子(深緋・d02777)は、必死の形相でナイフを突き出してきた少女の手を、ぐっと掴んで。
    「少し痛いだろうが、すまない」
     騎手の依子を支える勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)は、逆手の膝を馬役の少年の鳩尾へと鋭く入れ、確実に動きを止めて相手の騎馬を崩す。
    「邪魔です、隅に退けていて」
     依子は倒した一般人達に手短に告げると、次の騎馬へと目を向けて。
    「どきなさい! いえ、おやすみなさってください!」
     齋藤・灯花(麒麟児・d16152)の、手加減した一撃が炸裂すれば。
     不意をつこうと背後から襲ってきた騎馬へと、すかさず力を加減した蹴りを見舞った、片倉・純也(ソウク・d16862)は。
    「壁に寄れ邪魔だ」
     ミス・クイーンビーがいる北以外の壁沿いへと、さり気ない誘導を試みる。
     なるべく怪我をさせぬよう心がけてはいるが、一般人達はまさに死に物狂い。
     地面に叩きつけられ、ぶつかった衝撃に顔を歪ませ、血を流し呻く人々。
     依子はそんな姿を見つつも、気迫を込め騎馬戦に参戦しているフリを演じ通す。
     女王蜂への燃える怒りを、痛むその胸の中に、ぎゅっと抑えこみながら。
     東から西、そして……北へ。
     手加減しつつも、確実に一般人達を打ち倒していく灼滅者の騎馬。
     騎馬の数も減り、その姿はきっと、ミス・クイーンビーの目にも止まっているだろう。
     だが――これまで果敢に攻めていた騎馬の足が、ふと止まって。
    「馬鹿げた騎馬戦は終わりだ。いや、終わらせる」
     密室に響いたのは、普段発しないような、大きく高らかな、みをきの声。
     それと同時に、純也が空へと掲げ鳴らしたのは――競技の終わりを告げる、ピストルの空砲であった。
     いや、終わるのは、騎馬戦だけではない。
     女王蜂の灼滅をもって、この『殺戮運動会』に幕を引くべく……ダークネスの前に立ちはだかる、灼滅者達。
     そして、そろそろ騎馬戦も佳境の頃かと、これまで高みの見物をしていた女王蜂だが。
    「……! なっ!?」
     突如鳴った空砲と共に、彼女のバベルの鎖が知らせた、微かな前兆。
     それは、女王に逆らう『邪魔者』の存在。
     西と東から迫っていた、ふたつの騎馬――灼滅者達の接近に、ようやく気がついたのだ。
     そんな女王蜂の動向に注意を払いながらも。
    「まいります!」
     純也の空砲を耳にした灯花は、即座に一般人に威圧感を与えるべく、王者の風を纏って。
    「助けに来てます! 助かりたくば大人しく離れてください!」
    「邪魔だから退け!」
     エルメンガルトも周囲にいる一般人へと罵倒し、素早く避難を促せば。
    「助けに来た。出たければ大人しく。巻き込まれないよう離れろ」
     みをきも割り込みヴォイスで、確実に人々へと声を届ける。
     密室にいる一般人は約1000人にも及ぶ。
     その全員を助けることは、難しいかもしれないが。
    「あら……どうやら数匹、虫けらが入り込んだようね」
    「! 危ない、そこから離れるんだ!」
    「……くっ!」
     咄嗟に声を上げた優志は、近くにいた少女を怪力無双で抱え上げ、思い切り地を蹴って。
     信彦も逃げ遅れた少年の存在に気が付き、怪力無双で安全な方向へと、彼の身体をぶん投げる。
     それと同時にミス・クイーンビーから放たれたのは、無尽蔵のどす黒い殺気であった。
     漆黒の殺気は、逃げ遅れた数人の一般人を飲み込んで。
    「……!」
     その犠牲に、唇を噛む灼滅者達。
     だが、騎馬戦で大半の騎馬を脱落させ、ESPを使うことを控えて。女王蜂にギリギリまで自分達の存在を察知させず、一般人をさり気なく壁側へと誘導した作戦は、犠牲者を格段に減らしたといえよう。
     もしも配慮が足りていなければ……一般人の大半が、女王蜂に惨殺されていただろう。
    「呆気なさ過ぎて、玩具にもならないわ」
     殺めた一般人を眺め、そうつまらなそうに呟いた女王蜂の声に。
    「ゆるせないです、こんなこと」
     灯花は愛すべき蕎麦のオーラを纏いつつ、ぐっと拳を握り締める。
     正義の味方に憧れる彼女にとって、ダークネスの残虐な行為は、決して見過ごすわけにはいかない。
     そして女王蜂の興味を引いたのは、純也の言葉であった。
    「其方と交戦でき、脱出の期待を持たせ得る灼滅者。それが撃退された時の一般人の顔に興味は、あっても見せはしないが」
    「そうねぇ……自分達を助けに来たと思った灼滅者が目の前でズタズタに引き裂かれたら、どのくらい一般人は絶望するかしらね?」
     くすりと、そうミス・クイーンビーは嗜虐的な瞳を細めて。
    「挑発に乗ってあげるわ。だから……存分にいい声で啼いて、楽しませて頂戴ね!」
     毒針の如く鋭利な得物の切っ先を、灼滅者達へと向けたのだった。

    ●女王の密室
    「ふふ、みんな纏めていたぶられるのがいい? それとも、一人ずつ順に嬲り殺しにしようかしら?」
    「……!」
     くすくすと笑む女王蜂から再び放たれるのは、強烈な漆黒の殺気。
     その衝撃は、確かに強烈な威力を誇るが。
    「悪いけど、倒させて貰うぜ……?」
     この手に戻れ、灼滅の力――そう紡いだ優志が、シンプルな漆黒のエアシューズに解放した力を込めた刹那。
    「!」
     女王蜂の殺気の闇を割くかの様に繰り出された、流星の如き蹴り。
     そして殺気の黒を塗り替えていくのは、血飛沫すら凍てつかせる白。
    「運動会やるなら健全にやって欲しいよね!」
     女王蜂を逃がさず捕える為に、エルメンガルトの風花が縦横無尽、敵を貫く冴え冴えとした彩りを放てば。
     同時に動いた依子が掲げるのは、1枚の鈍銀の硬貨。それは、譲れぬ物を護る鼓動を宿す盾。そしてその護りの輝きが、最前線に立つ灼滅者達へと広がり満ちる。
     さらに、白で染められた戦場を次に彩るのは、血の如き赤。
     みをきの成した魔力の霧が、後列から女王蜂を狙い撃つ仲間達の攻撃威力を上げ、ビハインドの霊撃がクイーンビーへと襲い掛かる。
     そんな衝撃を、蜂が舞うようにひらり避けた女王蜂だが。
    「逃がしません」
     振るわれるは、赤き斬仙の一閃。
     妖を絶つかの如く繰り出された彩歌の破邪の斬撃が、女王蜂の羽を斬り裂かんと唸りをあげて。
     戦場に靡く蒼紫を背に携え、地を蹴って。
     純也の左腕から一撃が繰り出された瞬間、蜂を捕らえる蜘蛛の巣の如く、網状に張り巡らされる霊力の光。
    「女王蜂? 弱いもん虐めることしか能の無い穀潰しじゃねぇか、笑わせんな」
     そして戦場を流れる流星に入り混じり燃えるその色は、冷静な蒼と好戦的な赤。
     藍の髪を揺らし、赤の瞳で確りと捉えた女王蜂へと、信彦の飛び蹴りが炸裂すれば。
     もふもふな尻尾にはめられた、金と銀の二重のリングを光らせ、灼滅者達を支える藤太郎。
     ……だが。
    「ふっ、急に襲いかかってくるなんて、不躾ねぇ」
     お仕置きが必要かしら、と。
     灼滅者達の猛攻にも顔色を変えず、蜂蜜色の髪を靡かせるクイーンビー。
     そんなダークネスに、灯花は言い放つ。
    「貴方に名乗る名前はありません!」
     刹那、戦場に展開する巨大な気の法陣。そのオーラは天魔を降らせ、女王蜂の毒にも負けぬ力を仲間達に与える。
     だが灯花の言葉に、クイーンビーは首をふるふる振って。
    「虫けらの名前なんて、興味ないわ」
    「!」
     毒針の如き穿つ強烈な一撃を、螺旋の軌道描く槍から繰り出したのだった。

    「ぐ……っ!」
     針で滅多刺しするかの如き死角からの斬撃や、一気に牙を剥く漆黒の殺気。
     そして全身を駆け廻る、女王蜂の毒を帯びた一撃。
     徐々に相手に苦痛を与えていきながら楽しむ、ミス・クイーンビーの戦い方。
     だが、そう易々と思い通りにはさせない。
     連携し動いたビハインドが霊撃を放つ、その隙に。
    「今、解毒と回復を」
     マフラーを風に躍らせながら、みをきが奏でるのは、立ち上がる力をもたらす癒しの旋律。
     普段と何ら変わらぬ、みをきの冷静な物言い。
     だが曇天の色から垣間見える露草色の瞳は、助けたい、と。
     そう、決意を湛えていて。
    「この毒針の一撃に、耐えられるかしら?」
    「来なさい。その針、この身より後ろには行かせない。誰にも通させない」
     その身を呈し、仲間を護る依子。
     そんな彼女は、友達の姉。護る為に躊躇せず身体を張る依子の心配をしながらも。
     誰か置いて帰るくらいなら……エルメンガルトは、強敵なダークネスを前に一瞬、そうよぎるも。
    「皆で帰る為に、死に物狂いで頑張ろ!」
     全員無事で帰りたい――その思いを乗せて。
     全身全霊をかけ、高速回転させた杭を、女王蜂目掛け突き刺す。
     さらに、エルメンガルトと同時に動いたのは、純也。
     あくまで淡々と、だがどこか暗を落とす彼の瞳が女王蜂を捉えれば。
    「一般人の絶望に興じるべく、灼滅者を折るのではなかったか」
     クールに言い放った言の葉とともに唸りを上げる、進木の直槍。
     音もなく螺旋を成す澄んだ透徹の刃が、高慢なクイーンビーの身を穿つ。
     そんな強烈な衝撃を続けて受け、上体を揺らしながらも。
    「く……! 虫けらは、苦しみもがきながら私の足元にひれ伏すものでしょ! つまんないわ!」
     興味が削がれたような態度で、そう吐き捨てるダークネス。
     だが悪趣味な女王蜂は、決して逃がしはしない。
    「女王蜂を名乗る割には序列低いと思ったら、逃げ出す事にかけての女王サマかよ」
    「出来損ない相手に尻尾を巻いて逃走ですか。ここで私達を潰せば、より絶望させることができるのに?」
     すかさず言い放った優志に同意するように頷き、依子は続ける。
    「女王様とは口ばかり」
    「な、なんですって!?」
    「配下もない女王ではこの程度でしょーね」
     激昂するクイーンビーを、さらに灯花も煽って。 
    「ま、何にせよ……逃がす訳ないけどな、オバさん?」
    「なっ、私は気品ある女王蜂よ!? 虫けらのあんたたちとは違うのよ!!」
     優志の止めの言葉にヒステリックに叫ぶ蜂は最早、気高き女王の欠片もない。
     そして、そんなダークネスへと叩き込まれたのは、蒼き炎の拳。
    「それなら俺達はあんたの城を崩しに来た働き蟻だ。……いいか、逃げんなよ?」
     月の如く冷静で、それでいて熱く豪快に燃え盛る、信彦の炎。
     さらに、薄暮の騎士の如く。黒一色に煌く銀のアクセサリーを揺らしながら、摩擦から生み出した炎の蹴りを、ヒステリックな蜂へと叩き込む優志。
     だが女王蜂は再び槍を放ち、灼滅者達を駆逐せんと、毒針の威力をより鋭くさせるも。
    「無駄です……!」
     彩歌の霊的加護を受けた赤き刃が非物質化し、女王蜂の霊魂を破壊すべく、容赦なく振り下ろされる。
     それでも、相手はダークネス。
     尚も倒れず、強烈な毒針を繰り出してくるクイーンビー。
     だが毒をも恐れず、仲間の盾となるのは、灯花や彩歌や依子。
    「灯花はヒーローです」
     鋭利な針に幾度刺されても、みをきや藤太郎たちが癒してくれるから。
    「いかなる逆境をも打ち払うのが、ヒーローではないですか! 意地があるのですよ、女の子にも!!」
     その身を呈して、仲間を護る意地を張ることができるのだ。
     だからこそ。
    「Qを破るは、武蔵坂のAたち、なのです!」
     全員で帰るために――それぞれが歯を食いしばり、己のやるべき事を成すのだ。
     一人で敵わないのならば、全員で連携し、力を合わせて。
    「こ、この私が……灼滅者なんていう、虫けらなんかに……ッ!?」
     灼滅者達の猛攻に、大きく瞳を見開く女王蜂。
     そして、標本にされるかの様に高速回転する杭に貫かれ、張り巡らされた霊力の網に捕まって。様々な決意の色を宿す、いくつもの灼滅の炎に焦がされながら。
     ミス・クイーンビーの身は、アツシの作り出した密室から、跡形なく消え失せたのだった。

    「何とか、なりましたが……密室、広がると危険な代物ですね…」
     利点が一つつぶされるのは純粋に辛い、と。そう口にする彩歌に頷きつつも。 
    「一先ず、出入口の解放をしようか……」
     騒然となっている密室内を見回し、優志は仲間達と共に、出口へと歩き出す。
     そして、見つけた密室に捕らわれた一般人を解放することができて。
     みをきは安堵したように、微かにそっと、その露草色の瞳を細めたのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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