『ギャルゲー』万歳!

    作者:天風あきら

    ●彼女と彼の世界
     帰宅ラッシュ時の電車に乗り、スマートフォンを弄るのが普段地味目な会社員している彼の日課だった。
     最近ハマっているのは恋愛シミュレーションゲームのアプリケーション。顔のない主人公となり、多種多様な美少女に囲まれて日々を過ごし、意中のキャラクターと絆を深めていく……そんな内容。初めはどこにハマる要素があるのか、と半信半疑ながら自分の名前を登録したのだが、引き込まれていくのはあっという間だった。
     そして今日も彼は画面をタップし、薄桃色の幻影世界へと浸っていく。
     しかしその日はアクシデントがあった。電車が普段ただ通り過ぎるはずの地点で、突然急ブレーキをかけた。
    「あっ……!」
     その衝撃で、彼はスマホを取り落とす。床に跳ねたスマホを、滑っていく前に拾い上げたのは彼ではなく。
    「……!?」
     すぐ目の前に現れた女性の容姿に、彼は驚いた。
    「ミズキ……ちゃん!?」
     ミズキ。彼が没頭するゲームの人気ナンバーワン・キャラクターの名前。切れ長の瞳、すっと通った鼻筋、優しげな笑みを浮かべる口元。涼やかに切り揃えられた髪が、ゲームの中の彼女のように、風に靡いた……気がした。
    「これ、貴方のですよね?」
     声をかけられて、はっとする。
    「すっ、すみません!」
     現実に引き戻された彼は、半ば強引に奪い取るように、スマホを受け取った。いい年してこんなゲームに熱中しているなんて、人に知られるのは恥ずかしい。
     しかし彼女はそれを不快に思った様子もなく、優しげな笑みで語りかけてきた。
    「その画面、その名前……今流行ってるみたいですね、そのゲーム」
    「い、いえ、その……」
     赤面するのを止められない。
    「ああ、すみません。困らせる気はなかったんです。ただ、最近よくその名前に間違えられるので」
     白い歯が薄い唇から覗く。
    「それは……失礼しました」
    「いいえ、いいんですよ。その名前で呼ばれるのも、なんだか光栄ですね」
     穏やかで優しい彼女の対応。なんだか再びゲームの世界に引き込まれて、現実感が無くなっていく。
    「……あの、どちらまで?」
    「え?」
    「この電車を降りられる駅は」
    「ふ、二つ先の駅です」
     ふわふわと浮上する頭は、少しだけ彼を積極的にさせた。まるで間違えてもやり直せるが故のゲームの中の主人公のように。
    「ああ、私もです。……よろしければ、エキナカのカフェでお茶でもいかがです? 後学のために、そのゲームのお話をお聞きしたいんですが」
     微笑と声音が甘く、身体に浸透していく。
     頷いた先に、何が待っているのかを知る由もない彼は、ミズキそっくりの女性が差し伸べた手を取った。
     
    ●どうしてだろう?
    「ねえセンパイ、『スターシャイン』ってスマホのゲーム、知ってる?」
     篠崎・閃(中学生エクスブレイン・dn0021)は、教室の隅に集まった灼滅者たちを前に、白水・瞬(高校生ファイアブラッド・dn0190)へ問いかけた。
    「あー、男子の間で流行ってるみたいッスね。個性豊かなキャラを揃えることで対象年齢も幅広くカバーしてる……って、なんスか、閃さん」
    「……詳しいね」
    「お、俺がやってるんじゃないッスよ!?」
    「……ふーん」
     瞬の慌てふためいた様子に、閃は半眼になった。
     まあ、それはさておき。
    「実は今、そのゲームのキャラにそっくりな外見をした婬魔が、それを活かして男の人たちを集めて、ハーレムを作ってるらしいんだ」
     その婬魔がゲームのキャラクター・ミズキに似ているのは、偶然以外の何物でもなく、ゲーム自体とは一切関係がない。しかし婬魔は異性に魅力的に見える容姿をしている者が多く、ただ『美女』と言って髪型などの特徴を意識すればキャラクターに似ることは十分可能だろう。
    「その婬魔は十八時前後の電車に乗って自分の外見に反応する男性を待ち、上手く接触できたら徐々に友好的な関係を築いて、拠点へと誘い込むらしい。随分と回りくどいことをしてるけど、それが彼女なりの自分ルールみたいだね」
     当然ながら、特に一人でスマホ操作に熱中している男性を狙うようだ。画面を覗き込むなどして、ゲームをしていそうな男性を物色する。
    「今回、皆にはこの婬魔の灼滅をお願いしたい」
     閃はそうして頭を下げる。
    「婬魔の能力は、催眠状態に陥れる歌声が中心だ。そのキャラになりきってキャラソンでも出す計画が上がったら、即採用だろうね。まあ、過剰伝播はしないから売れないだろうけど」
    「なるほどー……」
     瞬が難しそうな顔をして腕を組む。
    「あと、皆が接触する頃には、既に籠絡された男性達五人が強化一般人にされて、護衛として車内に配置されている。車両前方、後方に二人ずつ、真ん中へんの婬魔に近い位置に一人。婬魔の傷や状態異常を癒したり、婬魔への攻撃を妨害するのが行動のメインだ」
     尚、電車の他の乗客への対応も当然ながら課されることとなる。
    「……」
     そこまで語ったところで、閃がふと口を止めた。
    「……何スか? 閃さん」
    「いや、美少女を攻略するのが『ギャルゲー』って呼ばれるのに、男性を攻略するのを『乙女ゲー』って言うのはなんでだろう……と思って」
    「……大人の事情ってやつッスよ」
     純粋な疑問符を浮かべる閃の肩に、瞬はぽん、と手を置いた。 


    参加者
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)
    紅月・春虎(天衣無縫の幼き月・d32299)
    ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129)

    ■リプレイ

    ●偶然と見せかけた必然に張られた網
     夕暮れの電車内は、この時期にしては少し強めに冷房が入っていた。それでも乗客満員に近い中、人の熱気を冷やされたぬるい空気が吹き付ける。
    (「初めての携帯ゲームがこんな形になるなんて思わなかったです……。まぁいいけど」)
     内心で思いながら、スマートフォンで『スターシャイン』を起動する紅月・春虎(天衣無縫の幼き月・d32299)。向かいの席には北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)が座っているのが見える。彼もまた、囮として動くべくスマートフォンを起動していた。ウィッグと眼鏡で大人しげな雰囲気に変装している彼は、おどおどと挙動不審気味な演技をしていた。
     葉月を確認した春虎は、自身もまたスマートフォンに目を落とす。そこに既に映っているのは、赤みがかったロングヘアの快活そうな女。
    「ああ……ミズキちゃんが本当に居たらいいなぁ」
     思わず、といった体で紡ぐ独り言。もちろん、これも獲物を釣る餌だ。
    「……あの」
     そこへ、座っている席の頭上からかけられた声。するとそこには、今手にしている画面の二次元美女を、三次元にそのまま変換したような容姿の女性が立っていた。
    「──え、ミズキちゃん!?」
     思わず叫んで立ち上がる。周囲の乗客が胡乱な目を向けてくるのは痛いが、これも彼らを守るためと思えば安い。
    「あれ、ミズキ? 嘘、本物?」
     葉月もまた、座っていた席から立ち上がる。ミズキと呼ばれた女は振り返って、彼にも笑顔を向けた。顔を赤らめて、目を伏せる葉月(演技)。
    「私、最近よくその名前に間違えられるんです。そのゲームの登場人物らしいんですけど」
    「ああ、これです」
     春虎がスマートフォンの画面を見せると、女は瞳を輝かせた。
    「わあ、本当! 私そっくり」
     その一挙手一投足に、春虎は目を奪われたふりをする。葉月も勇気を出して、といった風に彼女の隣に立った。
    「あの、コスプレでもなく、こうしてそっくりなのって凄いですね」
    「ええ、そうですかぁ? でも嬉しいですね、私自身のことを言ってもらえる気がして」
     にこにこと応対するミズキそっくりの女性。
    「ミズキは音楽会のイベントのシーンが本当萌えで、尊いって言うか」
    「あら、私も音楽やってるんですよー。趣味の域ですけど」
     ゲームに対して『尊い』とかちょっとオタクくさい台詞にも、笑顔で返す。
    「あの、もしよければ電車下りて少しお話ししませんか? 良い場所知ってるんで」
    「ええ、いいですね。貴方もご一緒に、如何ですか?」
    「あ、はい……是非」
     勇気を出して振り絞った……ように聞こえる葉月の誘いに、ミズキ似の女は笑顔を見せた。更に春虎も同時に誘うという大胆さ。
     春虎は彼女に骨抜きにされたように、赤面して首肯した。
    「わぁ、ありがとうございます、お二人とも!」
    「あの、それでお名前は……」
    「あ、何なら『ミズキ』でもいいですよ。お二人にはこの方が馴染みがありそうですし」
     大胆にも堂々と『ミズキ』を騙る女。その正体を話し相手が知っているとは思いもしないのだろう。
     そして男子二人と女──淫魔は次の駅で電車を降りた。
     その駅で他に降りたのは、淫魔の手下五人と、灼滅者の仲間九人、他数名。

    ●これも一つの『攻略』法
    「はーい、すみませんが自動改札機が故障してしまいましたので、少々お待ち下さーい」
    「申し訳ありませーん」
     駅員の格好をして数名の乗客を足止めする瞬と燎。駅員の格好をして、燎のプラチナチケットの能力を用いれば、駅員に成りすますのは容易だった。念の為、自動改札機には瞬が一撃を入れて実際に壊してしまっている。その修理に追われるのは本物の駅員。
    「只今、手作業で対応させて頂いております。お降りのお客様は一列にお並び頂き、窓口へどうぞー」
     既に囮二人と淫魔の女、仲間達と淫魔配下の強化一般人と思しき男達が出て行ったのは確認済みだ。
     駅員の対応が間に合うようになってから、瞬と燎は示し合わせてこっそり駅を去った。予め下調べしていた決戦場へと。

     駅の高架下。生活の中心となる商店街や繁華街等からは反対方向の、電車音しか響かない場所。
    「安全な場所に逃げてね~v」
    「混雑時間に人払いなんて、大迷惑よね」 
     ぴこっと音がしそうなつけ耳を揺らし殺雨・音音(Love Beat!・d02611)は、それでも若干名いた一般人を無気力化し、更に玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)が鳥肌の立つような殺気を放ち、一般人は響き渡る言葉に導かれて人通りの多い通りへと逃げ去って行った。
    「ボクはサウンドシャッター担当デスヨ!」
     そしてオルトリンデ・アーヴェント(魔歌・d33648)が周囲の音を遮断する防壁を張る。
    「くっ……貴方達、ゲームのファンじゃなくて灼滅者だったのね」
     歯噛みする淫魔。
    「ううん、『スターシャイン』って知ってる~♪ ネオンもバ~ッチリやってますv」
    「なっ……」
     女子の音音から出た一言に、淫魔は軽くずっこける。
    「可愛い女の子は正義なのだ~☆ ブイブイッ。乙女ゲーの方がモチロン好きだけどね♪」
    「ギャルゲー、ね。乙女ゲーとかあたしにはまだまだ早いわね」
    「ギャルゲーに乙女ゲー……? ギャルゲーってなんですか?」
     どこまでも明るい音音に、妙に大人びた小六の玉城・曜灯(紅風纏う子花・d29034)。そして真逆に高一のスヴェトラーナ・モギーリナヤ(てんねん・d25210)は、純粋な疑問符を飛ばす。
    「淫魔が相手だから仕方ないんだろうけど……もうちょっと警戒心とか、現実に目を向けるとか出来なかったのかな」
     叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580)の冷静なジト目に、強化一般人と化した男たちは憤慨したように拳を振り上げた。
    「うるさい! ゲームの中の存在でしかなかったミズキ様が、目の前に現れたのだからこれが現実だ!」
    「……まあ、五人も同じ手口で配下になってるのが居る位なんだから無理なんだろうけど」
     肩を竦める秋沙。こればかりは、ハマった人間にしかわからないことだろう。
    「幸せな夢に付け込んで、悪夢に引きずり込むあなたを許すわけにはいきません! 神の名の下に、灼滅による救済を」
     ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129)の宣戦布告に、ミズキを名乗る淫魔は舌なめずりをする。
    「いいわ、貴方達も纏めて私の眷属にしてあげる……私のハーレムに加えるのは女の子でも構わないわ。そっちの子が言ったように、可愛い女の子は正義、だものね」
    「一緒にして欲しくないな~☆」
     音音の憤慨した台詞と共に、戦端は開かれた。

    「ふふっ、まずは私からね……」
     闇なる存在とはとても思えない、淫魔の清廉な歌声。その声は意地悪くも後方へ届き、スヴェトラーナと春虎に傷と催眠効果を喰らわせる。
    「くぅ……」
    「一旦引いて、左右から回り込みましょう。援護します……!」
     傷を負いながらも春虎は全員に後方からの指示を送る。
    「罪の無い男の子たちを巻きこんじゃうのはイケないんだぞっ、プンプンっ。ネオンちゃんがゲームに代わって成敗しちゃう☆」
     と、敵回復役を狙った音音の一撃は防ぎ手によって阻まれた。
    「ぐぁっ」
     たたみかけるように、流希が攻撃を受け止めた相手に向かって、一閃。
    「しかし、何だな。今は携帯電話でゲームをする時代なのか……。そうまでして、ゲームがしたいか、なぁ。こう、落ち着いてじっくり考えながらやるのがゲームの正しい姿勢だと思うのだがなぁ……」
    「いや、いつでもどこでもミズキたんと一緒! これが現代のゲーム事情!!」
    「で、お前らはそれに嵌り過ぎて、毒牙にかかったってわけか……。なんだか、哀れだな……」
     流希は嘆息しながら、サイキックソードを振り下ろした。
    「ぐっ……」
     傷を負いながらも立ち上がる男。
    「Are you ready?」
     スレイヤーカードを解放し、変装の解けた葉月は一転、イケメンバンドマンに変わっていた。
    「あー、ヅラ邪魔。演技してると肩こるぜ」
    「貴方、さっきのは演技だったのね……でもそんな貴方も魅力的よ」
    「そいつぁどーも! ……アンタを放置しておけないんでな。此処できっちり引導を渡してやらぁ!」
     応えながら、葉月は拳からエネルギー障壁を大きく展開する。
    「スヴィエ!」
    「にゃぁん」
     スヴェトラーナと呼応するウイングキャットのスヴィエ。スヴェトラーナが贈り主からの希望の祈りを込められた縛霊手『希望へと続くночник』から結界を展開する間、スヴィエは尻尾の輪を光らせて主を癒す。
    「凍りつきなよ……」
     そして秋沙が指を鳴らすと、若干後方に下がっている三人の強化一般人の周囲が冷気に包まれた。
    「受け取ってください、北条さん!」
     その隙に春虎から投げられた守護の符は、葉月を更に強化する。
    「おう、サンキュ」
     そんなやりとりがあった間、曜灯は淫魔の元へとひた走る。一瞬で肉薄し、流星の如く輝くエアシューズのローキック。
    「きゃっ……!」
    「逃がさない……!」
     周囲の強化一般人など目もくれず、逃走を阻止するべくひたすら淫魔の後を追う。
    「……何かあったら、私が彼らを置いて逃げる算段だって、よくわかったわね」
    「これだけガッチガチに守りを固めてたら、誰だってわかるよ」
     冷酷な淫魔を睨みつける曜灯の瞳が輝く。
    「歌声に自信あるみたいデスケド、ボクも負けマセンヨ!」
     びん、とオルトリンデの三味線型バイオレンスギターが鳴る。
    「さあ! ドイツの歌姫が奏でる和ロック、しっかり味わっていって下サイネ!」
     割ととんでもないジャンルちゃんぽん。
     とにかく、その音波は強化一般人へと響き、その膝を折らせる。
    「ぐ……も、申し訳ありません、ミズキ様……」
    「何、もうバテちゃったの!?」
    「もっと、お役に立ちたかっ……た」
     倒れこむ強化一般人。
    「キャラにそっくりな外見を利用してハーレムって事は、本当の自分を気に入ってもらったワケじゃないデスヨネ? 何だかそれって寂しいデスヨ」
    「うるさいわね! こっちの私の方が、画面で挨拶するくらいしか能のないミズキと違って、色んなコトさせてあげられるんだから!!」
    (「いいな~、あんなにはべらせちゃって。ねえ、私もあの人たち誘惑して横取りしちゃおうよ」)
    「黙って。私はもうしたくない」
     淫魔の言葉や行動に、呼び起されるウィルヘルミーナの闇。意識の、心の奥から囁きかける甘美な誘惑に、しかしウィルヘルミーナは断固とした拒絶を示した。
     そしてその闇を振り払うように、彼女はその情熱を二刀の剣舞にぶつける。
    「うぁぁっ」
    「──悪夢に囚われた哀れな魂に神の救済を」
     倒れ伏す強化一般人。
     しかし逃げられないことを悟っているミズキは怯まない。
    「──さあ皆、あいつらを倒したらスペシャルボーナスの台詞を生で聞かせてあげるわ!」
    「うぉぉぉお!」
     意気を上げる強化一般人たちだが……。
    「……それって、実際のミズキの声じゃないッスよね」
    「何だかなぁって話やなぁ」
     瞬と燎が追いついた時には、既に趨勢が決まっていたようなものだった。

    ●そしてヒロインは夕陽に沈み
    「ボクも歌は得意なんデスヨ? ミズキ(仮)さん、勝負シマショ!」
    「(仮)って何よ(仮)って! 私はミズキそのものよ!!」
    「それはゲームを作った人への冒涜デスヨ……」
     既に立っている強化一般人は無く。オルトリンデと淫魔の、歌声合戦が始まっていた。互いの歌声がぶつかり、反響し、不協和音となり、あるいは不思議なハーモニーを生み出した。そしてその音波は双方へと。
    「……やるわね」
    「観客さんが少ないのが残念デスネ」
     べん、とオルトリンデの三味線が最後の音を紡いだ。
    「行きます……!」
     余韻の緊張を破って突進するウィルヘルミーナ。二刀の剣が斬りかかる瞬間、刀身を非物質化させる。煌めきの軌跡だけを残して、外傷は残さず、しかし淫魔の霊的な部分のみを直接斬り捨てた。
    「ああぁ……っ」
     倒れ伏す淫魔。地を這いずり、それでもなおまだ動こうとする。
    「救済を受け入れなさい。そうすれば、神の御許で必ず救われるはず……」
    「……そんな、押し付けがましい救い、なんていらないわよ……かはっ」
    「それでも……ここで、灼滅されてもらうわ!」
     淫魔の背に解体ナイフを突き立てる秋沙。それを最後に、淫魔は今度こそ動かなくなった。

    「お疲れさん。初めましてな割には結構息合ってたな、俺ら。……俺ギャルゲーってよくわからへんのやけど……『スターシャイン』に出てくる白水お勧めのキャラとか、おるか?」
    「俺はミズキみたいな巨乳よりも、バランス良い肉付きのルリカの方が……って未プレイッスからね俺!?」
    「ああ、俺も未プレイや。なんとなーくどんな感じのゲームかはわかるんやけど……篠崎とかに変に誤解されるんは嫌やもんなあ、色々あるやろけど、頑張ってなー」
    「ちょ、なんでそこで閃さんの名前が出てくるんスか!?」
    「二人とも、遊んでないで手伝って~☆」
     わあわあと騒ぐ燎と瞬。そこに釘を刺す音音。只今、戦場痕消し真っ最中である。
    「ゴメンナサイ……」
     慌てて作業に戻る二人。
    「ああ、スヴィエ、こんな時までダンボールに入らないで!」
    「にゃ~ん」
    「……やっぱり、可愛いは正義、かもしれマセンネ」
    「でしょ♪」
     スヴェトラーナとスヴィエの微笑ましいシーンには、オルトリンデと音音の呟きが漏れる。男子二人よりはよっぽど周囲の目線の温度が違う。
    「──さて、帰りますか」
    「そういえば電車に乗ったの、今日が初めてかもです」
     行きの電車では緊張故気づかなかったが、今更ながら思い出したスヴェトラーナ。
    「じゃ、帰りは満喫して帰るッスか!」
    「……はい!」
     差しのべられた手を取る少女。
     そうして、灼滅者達は家路につくのだった。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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