ダンジョンレイル

    作者:柿茸

    ●北海道札幌市
     暗闇を、遠くから二条の閃光が照らす。次いで風圧と音。
     地下鉄のトンネルの中を、草臥れたサラリーマンや酔って寝ている大学生などを乗せた最終電車が、進んでいく。
     ドップラー効果を残し騒音は遠ざかり、やがて消えていく。
     ―――それから、しばらくして。
     唐突に、ぼんやりとした灯りが完全な暗闇に包まれていた空間に浮かび上がる。
     微かなその灯りが映し出すのはトンネルや線路の輪郭がぼやけていく様子。そして灯りが強まっていくにつれて、石煉瓦造りのトンネルがそのぼやけた空間に代わりに収まるように、徐々にその輪郭を現していた。さながら風景をクロスフェードで切り替えているように。
     やがて、変容が終わる。石造りの煉瓦に据え付けられた燭台で燃える蝋燭の照らし出す灯りの下、アンデッドと化した犬や猫、そして骸骨が歩き回っていた。
     
    ●教室
    「深夜の札幌の地下鉄がダンジョン化している……って言うのは、もう皆既に知ってるかな」
     田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)の今日のカップ麺は札幌ラーメンである。
     説明するところを簡単に纏めるとこうだ。
      錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が、札幌の地下鉄のトンネルが各地で、終電が終わった後、始発が出るまでの数時間程度の間ダンジョン化している事を発見した。
     今のところ被害などは出ていないが、みすみす放置しておくわけにもいかない。
    「ということで、今回君達に攻略……って言えばいいのかな? うん、まぁ攻略してもらうダンジョンはここ」
     そう言って地図に丸を描くのは菊水駅の駅の近くの線路。菊水駅から潜入するのが良いだろう。潜入にはそれほど手間取らないはずだ。
    「線路沿いにこっちの……東の方に進んでいけばダンジョンに当たる」
     線路が途切れ、蝋燭の灯りで照らされた石造りのダンジョンが出迎えるから、場所を間違えることはないだろう。
    「迷宮になっていて複雑に入り組んだ構造になってはいるけど、一応は線路の向こう側に繋がっている」
     そして、そのダンジョンの中には有象無象のアンデッドたちが待ち構えている。
    「猫や犬とかの動物系のアンデッドが主になるかな。あとは剣とか鎧で武装したスケルトンも……」
     目の前にあるカップラーメンが不味そうになりそうなことを淡々と告げる翔。気にしない方が良いのだろう。ちなみに数は全部で30体程度程のようだ。
    「あと、やっぱりダンジョンって言うと隠し扉とかが付き物だけど、このできちゃったダンジョンにもあるから、そこは注意してね」
     熟知しているアンデッドがそこを通って不意打ちしてくることも考えられるだろう。
     最奥には一際大きい、重装のスケルトンが待ち構えている。おそらく、こいつが親玉と言ったところだろう。
    「まぁ、最終的には全部殲滅する必要はあるんだけどね」
     殲滅完了すれば、このダンジョン化している空間は解除され、元のトンネルとなる。
    「敵の攻撃に関しては……ちょっと、数が多くて視えなかった、ごめん。噛みつく、ひっかく、武器で攻撃してくる、程度だと思うんだけど……。でも親玉に関しては視えたかな」
     その手に持つ武器を大きく薙ぎ払い近くの複数相手に攻撃するか、大ぶりの一撃で叩き潰すか、ぐらいの違いではあるが。
    「うん、まぁ。いつも通り油断してなければ大丈夫だと思うから」
     まだ被害も出てないし、被害者の事は特に考えなくていい分気が楽かもね。
     そう言った直後、キッチンタイマーが鳴る。カップ麺の蓋を開ける翔。
    「この現象が自然現象なのか、ノーライフキングが関わっているかは判らないけど……、まぁ、事件の規模は大きいから、見過ごせないよね」
     それじゃ皆頑張って、と。
     割り箸を割りながら告げるのだった。


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)
    左藤・四生(覡・d02658)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    木場・幸谷(純情賛火・d22599)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)

    ■リプレイ

    ●ダンジョンの いりぐちを はっけんした
     ダンジョンの石造りの壁を、蝋燭よりも強い光が照らす。冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)が各自持参してきた灯りによって照らされたダンジョンの中を眺め、ふぅん、と呟く。
    「此処だけっつーならともかく……自然現象っつーには不自然だわな。ま、裏で糸引いてる奴がいるにせよいないにせよ、潰しとくに越した事はねぇし、片付けと調査、しっかりやらせてもらおうか」
    「さあさ、楽しい大冒険だ。今一度死者に引導を渡しに行こう」
     烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)がシャボン玉と共にその言葉を宙に浮かばせ、ダンジョンに入った一行。異空間を進む中、先頭に立つアルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)は厳しい顔をしていた。
    「(多数のゾンビが外に出て行ったら……無力な人々が犠牲になる可能性もあります)」
     ……そんな事は見過ごせません。此処で必ず殲滅しましょう。
     そう強く思い、拳を強く握る。
     そんな様子を知ってか知らずか、左藤・四生(覡・d02658)はおっとりと口を開いた。
    「まだ被害が出てないうちに発見出来て良かったよね」
     詳しく調査もしてみたいけど、今のところは一般人への被害を抑えるのが第一かな。と言う言葉に、その後ろで殿を務める平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)が頷く。
    「ああ、その内に日中までダンジョンが展開されて列車が迷い込んだら大惨事だ。一般市民の安全のため、油断せずにアンデッド共を駆逐するとしよう」
     そう言って気を引き締める面々ではあるが。やはり普段は目にしない西洋風の石造りのトンネルと言う物はやはり子供心を刺激するもので。
    「……まるでRPGだね」
     そこを探索していればリアルなRPGをしている気分になると言うのも仕方ない。まだ小学生な風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)の言葉も最もである。
    「やっぱそうだよな!」
     と、それに反応したのは高校3年生の木場・幸谷(純情賛火・d22599)だった。
    「前後左右上下、全ッッ部罠の警戒をってしてるとさ、やっぱりこう、な、何か急にレトロゲー、いや卓上ゲーしたくなってきた……ッ!」
     わなわなと震える幸谷。3フィートの棒は持ったか。
     あ、そーいや、とわなわなしていた顔を上げる。
    「お前ら何か首筋ヒンヤリした箇所とかなかったか?」
     そういうゲームの定番だよなぁ、『空気の流れる向きがおかしい、隠し扉に違いない』なんて、さ。
    「ちゃんとチェックしてるよ」
     指に唾を付けて風向きを確かめていようとした幸谷を、彼方が蚊取り線香を掲げて制する。その煙は、ただ一定方向に来た道から奥へと靡いていた。影道・惡人(シャドウアクト・d00898)も壁を触診しながら後ろを警戒しているし、他の者も壁、床、天井に注意を向け、和守は特に後ろに注意を向けている。この様子なら特に問題はないように思えた。
     やがて十字路に差し掛かり、印を残して曲がり終えた時。最後尾の和守と惡人の視界の端で、曲がり角の別の向こう側の蝋燭が、何かの影を映し出した。
    「待て」
     和守が先行する6人に声をかける。振り返った面々に、見てみな、と惡人が顎で様子を伺っていた曲がり角の先を促した。
    「そこ見てみ、ほら居るだろ」
     言葉通り。6体の動物のアンデッドがこちらに真っ直ぐ向かってきていた。

    ●おおっと かくしとびら
    「なるほど、確かに数が多いだけのようだな」
     最後の一体が倒れたのを確認して、硝煙が立ち上るガトリングガンを下ろしながら和守は一息ついた。チラリと時計を確認したが、戦闘開始から5分と経っていない。
    「この調子なら何の問題もなく終われそうだな?」
    「でしたら、惡人さんもちゃんと戦ってください」
     倒した敵の数をメモしていた惡人にアルヴァレスがため息交じりに不満を言う。
     確かに戦闘時の惡人は、戦闘そのものよりも、その外へと意識を向けているようにも見えた。
    「あ? 勝ちゃなんでもいんだよ。それにこういう場所じゃ戦闘中も辺りの警戒は大事だろ。俺はそっち重視してたんだよ」
     メモを閉じ、それじゃ先進もうぜと歩み出すその背中に溜息をさらに一つつき、アルヴァレスも後に続く。
    「戦闘中にふと思ったんだけど」
     隣に並ぶ四生の声。
    「被害者はいない、って話だったけど、このアンデッド達はどこから来たのかな」
    「……流石に分かりませんね。そもそもどうしてこのダンジョンが出現するのかも不明です」
    「アンデッド絡みだろうし、ノーライフキングが一枚噛んでそうな気はするが」
     あるいはノーライフキングが作った後の廃墟かもな、と勇騎が逆隣に並ぶ。その手に持っているのはマッピングされた方眼紙。スーパーGPSで表示させた自分のいる位置も、大まかには現在地を十分示している。
    「ノーライフキングが噛んでるとしたら、このアンデッド達って、やっぱり……」
     後ろを振り向く四生。シャボン玉を吹かす織絵が通り過ぎていく。
    「誰かが下手に始末するからアンデッドになる」
     シャボン玉から口を離して紡がれる言葉。天井を見上げながら、全てが歪な場所だ、と思う。
    「全く、なっちゃいない」
     それは、殺人鬼であるが故に思うところなのだろう。そして、だから壊すとも。
     ゆっくりとシャボン玉が地面に落ちていき……ふわりと、横に流れて壁に当たり弾けた。
     あ、と織絵の前にいる彼方の声。視点を下げれば、彼方のもつ線香の煙が不自然に横へとたなびいていた。シャボン玉が割れた方向へ。
    「お? これはつまり隠し扉の予感?」
     幸谷が付近の壁を丹念に調べ始める。他の者も探ったり、辺りを警戒したりする中、んん? と声が上がった。
    「おおー。これじゃねえか?」
    「擦った跡があるね」
     次々と皆で確認する。じゃ、開けるか、と言う言葉に反論はなく、やがて扉のように、壁が開けられて―――。
    「……ま、敵ばかりのダンジョンで隠し扉ときたら、その裏は敵だらけなのは当たり前か」
     目の前に待ち構えていた、否、通り過ぎた後に奇襲をかけようとしていただろうスケルトンやアンデッドの小隊に、扉を開けた勇騎は再び気合を入れ直した。

    ●せんせいこうげき
     構えた勇騎の隣をアルヴァレスが駆け抜ける。
    「貴様等を灼滅する……詫びる積もりは無い……!」
     螺旋の槍が唸り、斬りかかろうとして来たスケルトンの頭蓋骨を破砕する。
     その横をすり抜けて勇騎に噛み付きにかかった犬のアンデッドの攻撃を、咄嗟に手に持っていた和弓を突き出して防ぎ、反撃に転じようとした瞬間、局所的な絶対零度が動物の群れに襲い掛かる。
    「そう熱くなりやがんな。感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
     隠し扉の外。手を突き出した惡人の淡々とした言葉。通ってきた通路から敵が来ないか確認するために視線を軽く横に移しながら、さらに口を開く。
    「おぅ、その動物達は霊的な攻撃に弱いみたいだぜ」
     先程の戦いの時から観察はしていたのだろう。推測ではある言葉だが、勇騎は頷き一つ、ジャッジメントレイを撃ち出し、今しがた噛みついてきた犬を射る。
    「ちょっとばかり数が多い……だからって、どうと言うことは無いがな」
     和守の七不思議の怪談がさらに動物アンデッド達に襲い掛かる中―――炎、織絵が駆けた。
    「有難く思え! 火葬してやろう!」
     飛び掛かってきた猫の、骨が見えている手を蹴り払い、燃える逆脚にてその身体を蹴り飛ばす。火球と化して飛んでくる猫を避けて身を崩したスケルトンに、幸谷がニヤリと笑う。
    「おおっと、スケルトン、は、トラバサミの罠、を、踏んだ!」
     わざとらしく文を区切った物言い。凄くいい笑顔で、地面に這わせていたウロボロスブレイドを跳ね上げる。
     刃に絡みつかれた骨に彼方の放ったマジックミサイルが直撃した。砕け飛ぶ骸骨の破片をみて、矢を放った残心の構えのまま軽く一息つく傍ら、ざっと全体を見渡した四生は織絵に帯を飛ばし、先程爪を蹴りはらった時にできた傷を覆った。
    「残り5体!」
     誰かが言う。間に、列が崩れた敵陣に踏み込んでいくアルヴァレス。
    「この間合……もらいました。この一撃で決める!」
     拳の連打が骨を穿つ。援護射撃が飛ぶ中、それを掻い潜って飛び込んできた猫のアンデッドが突如爆発した。
    「おイタは駄目だぜ子猫ちゃん」
     禁呪を唱え終わった幸谷が笑いながら指を振る。そこになだれ込む2体のアンデッド。
    「っていやあの、子犬ちゃんと子スケルトンちゃんならいいって意味じゃな痛い痛い噛むなー!?」
     スケルトンの剣を避けたところに足首を思いっきり噛まれて痛がる幸谷。足をブンブンと振って犬を引きはがそうとするが死んでも離さんと言わんばかりに喰らい続ける犬アンデッド。もう死んでいるが。
     と、足を振り切った瞬間、鉄柱が足を掠め噛みついていたアンデッドを貫き、壁に串刺しにした。
    「今一度殺される気分とは、どのような気分だ?」
     イキイキとした織絵の声。
    「いやあの、今俺の足ごと」
    「殺人鬼はそんなアンデッドにするだなんてヘマしないから安心しろ」
    「そっちじゃねえし!?」
     叫ぶ幸谷の足にはしっかりと四生が包帯のようにダイダロスベルトを撒きつけていく。
    「ま、まぁ。当たったとしてもある程度の怪我なら治せるんで……」
    「そう言う問題かな!?」
     フォローをしようとした四生の言葉に、当たった場合の被害者の本人はツッコまざるを得なかった。
     その背後、彼方の放った矢が、先程幸谷に斬りかかったスケルトンを穿ち、勇騎と和守の攻撃が、残る1体のアンデッドを撃ち滅ぼした。
    「怪我は大丈夫ですか?」
    「ああ、問題ない」
    「これぐらい平気平気」
     戦闘が終われば一息つき、負ったダメージを確認して、再び歩き出す。
     しっかりと準備や作戦を整えている灼滅者達によって、このダンジョンからアンデッドが一掃されるのはそう難しくないように思えた。

    ●せーぶは たいせつだよ
    「うっし、これで27体」
    「じゃああと3体前後だな」
     崩れ落ちた骨を傍目にメモをし、息を整え、辺りに警戒をはしらせる。
     マッピングの上に示したスーパーGPSは、入口からもう大分離れていることを示していた。
     相変わらず戦闘が終わると、気だるげにシャボン玉を吹かしながら前に進んでいく織絵。戦闘中はイキイキしていると言うのに。
     その隣には対称的に相変わらずルンルン気分の幸谷が並ぶ。必要以上に騒がしくはしないが、閉じたこの陰鬱な気分、少しでも気分を盛り上げようと―――。
    「でもさー、実際ボタンとかこんな雰囲気のダンジョンにあったら押したくならね?」
    「何度も言うが押すなよ」
    「分かってるって」
     ―――素なのかもしれない。振り返った和守に、ぶー、と口を尖らせて返すその様子に呆れとも苦笑とも取れる息が数人から漏れる。
    「しかし、どこまで続いてるのかな……」
    「ま、そろそろだと思うぜ?」
     四生の溜息。ほらよ、と惡人がライトを前に向ければ装飾の施された扉が見える。
    「如何にもRPGのボス、って感じだね」
    「うっひょー! 緊張してきた!」
     彼方の言葉にテンションを上げる幸谷。
     心霊手術を交えた本格的な治療を行い怪我を行った後。全員が目線を合わせ頷き、そして。
     蹴破られる扉。鎧が擦れる音と骨が傾ぐ音を掻き消す様に一斉に灼滅者達が雪崩れ込む。
     敵は今しがた起き上がった一際大きい、重装のスケルトンに、左右に普通のスケルトンが計4体。惡人と和守のガトリングガンが同時に火を噴き、骨に風穴を幾つも開けていく。
     アルヴァレスと織絵が弾丸の間を駆けた。2つの螺旋がボロボロになっていたスケルトン2体を粉々に砕き、幸谷の炎が重装のその表面を焼く。
     その炎が切り裂かれた。薙がれる大剣に前衛陣が切り裂かれる中、勇騎の蒼と白に輝く光の輪がそれを受け止めた。咄嗟に構えた腕に、リングスラッシャーごと剣が叩きつけられ石畳の上を滑る。だが、攻撃を受け止めたことでアルヴァレスまでその剣は届かない。
    「ぐっ……!」
     しかし弾かれることなく受け止めただけ、襲い掛かる衝撃は増える。顔を歪めた勇騎に、剣を受け止めた腕に四生のダイダロスベルトが巻き付けられた。
     後ろを振り向けば、四生は頷き返す。親指を立て返して十字架を降臨させ、光線にて残る2体の取り巻きを薙ぎ払う。
    「そこだっ!」
     さらに彼方の放ったマジックミサイルがスケルトンを1体、貫きバラバラにする。
     ボロボロになりながらも動くスケルトンが織絵へと切り付け……炎を纏った反撃のヤクザキックが骨を焼き飛ばした。
    「死人が、殺人鬼の手を煩わせるんじゃあない!」
     不機嫌そうに吼える隣でアルヴァレスが、惡人の援護射撃に追従し剣を振り上げた親玉の懐に潜り込んでいた。
    「零距離獲った……」
     突き穿つ! の声と共に叩きつけられた魔力の塊が鎧をへこませ、二周りは大きい体躯のその躯を吹き飛ばす。
     だが、相手の剣も身を抉っていた。四生、彼方、勇騎が回復を飛ばすが、アルヴァレスの怪我は完治しない。
     壁に叩きつけられて踏ん張り、体勢を立て直した骸骨の目の前に今度は和守が躍り出る。
    「どれだけ重厚な防具で身を固めようとも、無駄だ」
     防具と骨を透過し、僅かに残る魂に直接突き刺さる神霊剣。揺らぐ体にウロボロスブレイドが巻きついた。
     剣を引っ張る幸谷。倒れ込みそうになるスケルトンに、アルヴァレスが拳にオーラを湛えながら踏み込んだ。
    「これで終わりにさせてもらいます……!」
     幾千の拳の連打。重い鎧を着こんでいるのも物ともせずにフィニッシュブローのアッパーで宙に浮かす。それを狙うは、親玉を挟んで両側から構えられるガトリングガンと天星弓。
    「貫け……っ!」
    「対ダークネス用の特製弾だ。遠慮なく受け取れっ!」
     彼方と和守の声が重なり、弾丸の嵐と彗星の一撃が同時に襲い掛かり。
     砕け散った骨と鎧は、地面に乾いた音を立てて落ちた後も、動くことはなかった。
     数秒の間をおいて灼滅者達の緊張の糸が切れる。
    「皆さんご無事ですか?」
    「いや、アルヴァレスさんが一番傷が深いですけれど」
    「あはは……多かったですがなんとかなりましたね」
     苦笑気味に笑うアルヴァレスに、四生がラビリンスアーマーにて治癒を施したその瞬間。
     視界が暗転した、その一瞬後にはライトが遠くまで続く線路を照らしていた。ダンジョンが消えたのだ。
    「……探索、できれば良かったなぁ」
     元に戻った地下鉄のトンネルを見ながら残念そうに彼方は呟いた。探索する間もなく消えてしまった。
    「ま、残念だが仕方ねえか」
     帰るかー、と歩き出す惡人。それに続く灼滅者達。それでも、幸谷は少しだけ、その場に留まったままだった。
    「……浄罪に輝く灯よ、俯く魂に今一度の導きを」
     彼なりの送り出しの言葉。
     そして、じゃあな、と静かに微笑んだ顔で告げ、走り出した。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ