流浪の剣客、旅館に泊まる。

    作者:のらむ


     九州のとある山奥に、長い伝統を誇るとある温泉旅館があった。
     遠路はるばるやってきた観光客たちにより、この旅館は賑わっている。
     そしてある日の夜、この旅館を目指し、ボロボロの下駄で山中を突き進む、無精髭を生やした1人の男がいた。
    「あー、やっと着いたぜ……ったく、こんなんなら意地張らずに車でも拾えばよかったぜ畜生」
     滴る汗を紺の袴で拭ったその男は、ようやく到着した旅館の引き戸を思いきり開け放つ。
    「邪魔するぜ!!」
     呆気にとられる受付の女性の元までダッシュで近づいた男は、古ぼけた財布をズイッと突き出した。
    「1人だ。予約はしてねえ。空いてるか?」
    「え、えっと……申し訳ありません。本日はどのお部屋も満室でして……」
     腰に刀をぶら下げた男に向けて緊張気味にに受付の女性がそう応えると、男は財布を袴の中に突っ込み、客室が立ち並ぶ廊下の方へズンズン歩き出す。
    「お客様、どちらへ……?」
    「空いてねえんだろ。直接話つけてくる」
     受付の女性にそう応えると、男は客室の扉を蹴り破り、中に突入する。
     そして腰に下げた2本の刀を抜くと、近場にいた男たちの首を一瞬にして斬りおとした。
    「悪ぃがここまで来るのは滅茶苦茶苦労したんだ。地図持ってくんの忘れたし。そういう訳で、部屋空けてもらうぜ」
     客室の中にいた客たちが一斉に悲鳴を上げて逃げ惑うが、男は坦々と斬り伏せていく。
    「……ついでだ。この旅館、全部俺の貸切にしちまうか」
     部屋の中にいた客を全て殺害した男は、その勢いのまま他の客室や宴会場へ向かう。
     そして男は手当たり次第に刀を振るい、旅館内にいた客が全て逃げるか殺された頃、男は受付へ戻る。
    「話はつけてきた。いくらだ?」
     全身に返り血を浴び、財布を突き出してニッと笑う男に底知れない恐怖を抱いた女性は、脚がすくみ一歩も動けない。
    「お、お、御代は結構です…………お好きなお部屋に、お、お泊り下さい……」
    「そうか、悪ぃな。飯はそこそこ美味いのを頼むぜ」
     男はそう応えると、とりあえず返り血を流そうと温泉へ向かうのだった。
     

    「六六六人衆序列五三〇位、真田・勇蔵(さなだ・ゆうぞう)。薄汚れた袴に下駄を履き、腰には二本の刀。生まれた時代を大分間違えた感じのこの六六六人衆が、とある山奥の旅館で大量殺人を行います。皆さんは現場へ向かい、これを阻止して下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は紅いファイルを開くと、事件の説明を続ける。
    「勇蔵はこの温泉旅館に宿泊するために訪れます。そして空き室が無い事をしった勇蔵は、旅館にいた客を皆殺しにし、自分が泊まる場所を作ろうとします。ほんと六六六人衆は、気安く人を殺しますね」
     資料をめくり、ウィラは説明を続ける。
    「この温泉旅館には、80人の宿泊客と16人程のスタッフが、各個室や宴会場などにばらけています。勇蔵はただ自分が快適に泊まれる場所を確保したいだけなので、スタッフに関しては特に危害を加えません。彼が殺すのは宿泊客のみです」
     80人の宿泊客の内66人が勇蔵の手によって殺害され、14人は幸運にも旅館から逃げ出す事が出来たとウィラは説明する。
    「皆さんは、旅館に空室が無い事を勇蔵が知り、客室の方へ歩き始めてから、勇蔵に接触することが出来ます。それ以前に勇蔵に接触したり、目立つような動きをすれば、勇蔵のバベルの鎖に察知されてしまうでしょう」
     そしてウィラは、旅館の構造についての簡単な説明をする。
    「この旅館の客室は、一階左手の長い廊下に立ち並ぶ扉から入ることが出来、その廊下の突き当りの非常口から外へ出られます。助かった客の内数人は、この非常口から外へ逃げ出しました。右手の廊下は温泉に続いています。男湯にいた客は皆殺しにされましたが、勇蔵は流石に女湯の中までは入らなかった様です。そして受付カウンターの横には階段があり、宴会場がある二階へ向かえます。宴会場にいた客は、逃げ出せず全て殺害されています」
     そしてウィラは、勇蔵の戦闘能力の説明をする。
    「勇蔵は、愛用している二本の刀と、蹴り技で戦闘を行います。攻撃・防御両方の面が優れていますが、命中・回避についてはやや低めです。総合的な戦闘力は、やはりかなり高いですが」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。部屋を空ける為なんてふざけた理由で、大勢人々を殺させる訳にはいきません。どうにかして一般人を守り、勇蔵に勝利して下さい。お気をつけて」


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    安曇・陵華(暁降ち・d02041)
    ヴィルクス・エルメロッテ(ディスカード・d08235)
    竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)
    日向・一夜(雪歌月奏・d23354)
    阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)
    大神・狼煙(リグレッタブルテラー・d30469)

    ■リプレイ


    「1人だ。予約はしてねえ。空いてるか?」
     温泉旅館の受付に財布を突き出す男、六六六人衆序列五三〇位、真田・勇蔵。
     直に彼が起こす大量殺人を防ぐべく、灼滅者達はこの旅館に訪れていた。
    「空いてねえんだろ。直接話つけてくる」
     勇蔵が受付の女性に言い放ち、客室の廊下に足を向けた、次の瞬間。
    「一凶、披露仕る」
     スレイヤーカードを解放した叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)が勇蔵の前に飛び出し、その行く手を遮る。
     一斉に行動を始めた灼滅者達は、それぞれが行動すべき場所に散って行った。
    「予定通り、客室の方は任せてくれ」
    「浴場の方は、私だな」
     ヴィルクス・エルメロッテ(ディスカード・d08235)と安曇・陵華(暁降ち・d02041)もまた、自身の担当場所に走り去って行った。
    「おうおう、こりゃあ随分と大所帯だな……なんだお前ら」
     勇蔵は腰の刀に手をかけながら、灼滅者達を軽く睨む。
    「てめぇのその馬鹿な行動を止めに来たんだよ……」
     大神・狼煙(リグレッタブルテラー・d30469)眼鏡を外しながらそう返し、鋭い眼光で勇蔵を睨みつける。
    「貸切交渉術、殺人手段、実行非推奨。自己中心的、猟奇行動、阻止遂行」
    「疲れたのは分かるけど、順番やルールは守らなくちゃダメだよ」
     ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)と日向・一夜(雪歌月奏・d23354)の言葉に若干首を傾げながら、勇蔵は刀を抜く。
    「ああ…………まあ、何となくお前らの言い分は分かったぜ。人を殺すなって奴だろ。だが知っての通りそいつは無理な相談だ。止めたきゃ力づくで止めるんだな」
    「最初からそのつもりよ。貴方みたいな脳筋馬鹿に、言葉が通じる訳ないじゃない」
    「よく分かってるな」
     竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)の挑発に勇蔵は坦々と返し、灼滅者達との間合いを測る。
    「多くの犠牲を出すわけにはいかない……覚悟する事ね!!」
     阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)が刀を構えながら突撃し、勇蔵は攻撃を待ち構える。
     そして戦いが始まった。


    「アンタは熟練の刀使いらしいけど……その実力がどの程度のものか、見させてもらうわ」
     千波が突き出した刃が勇蔵の首筋を掠る。
    「まあな。俺は結構強いぞ」
     そのまま勇蔵は刀を振るい、放たれた斬撃は一瞬にして前衛を斬りつけた。
    「…………」
     紙一重の所で斬撃を避けた山吹は不敵な笑みを浮かべ、槍を構えて勇蔵に接近する。
    「残念ね。満室で泊まる事も温泉で汗を流す事も出来ないのね。やだ汗臭いわ」
     そして突き出された槍は、勇蔵の肩を深く抉った。
    「ああ……そういや何日も山の中彷徨ってたからな。そりゃあ臭いわな」
     特に気にする様子も無い勇蔵に、宗嗣は獣化させた片腕の爪を振り降ろす。
    「随分と詰まらん理由で殺しをするんだな、三下」
    「イッテエ……別に理由が無くとも殺しはするぜ…………あー、四下?」
     勇蔵は抉られた腹を抑えながら後ろへ退がり、冷静に周囲を見渡す。
     旅館内では、多くの灼滅者達が避難誘導を進めていた。
    「全員、作戦開始。面倒はチリ一つ残すなよ」
    「了解だ。いざという時の対処は任せろ」
    「戦況報告は任せてください」
    『RiskBreaker』の3人が協力し、不測の事態が起こらぬよう警戒していた。
    「非常事態だ。荷物は置いて、速やかに非常口から避難するんだ」
    「旅館の中は危険です! こちらから避難して下さい!」
     ヴィルクスとクレンドがプラチナチケットを使用し、客室の一般人を避難させていく。
    「火事です!!早く避難口から逃げてっ!!」
    「客室は時間かかりそうですけど……このまま行けば、何とかなりそうですね」
     千巻とイブも同じく客室の一般人へ避難の呼びかけを行う。
    「館内で暴れていた方がおりまして。申し訳ありませんが念の為、外へ避難をお願いします」
    「はーい! 押さないで下さいねー! あの強面だけどお人形さん乗せた男の人に付いて行って下さいね!」
    「行けっ! つくもん発進! あ、イクさん後で俺も操縦させてください」
    「危ない人がいるから速やかに逃げ……あ、うん。残念だけどボクはお姉ちゃんじゃ……うん、まあ、別に良いけど……」
    「プッ」
    『残念』のメンバーが狼煙の手伝いをすべく、なんやかんやで客室の一般人を大量に避難させていた。
    「命に関わる事だ。手荒な真似だが、勘弁してもらおう」
     女湯へ向かった陵華は魂鎮めの風を用い、その場にいた女性たちを一瞬で眠らせた。
     更に男湯へ向かうと王者の風を使用し、安全地帯と思われる女湯へ移動させていった。
    「全く小賢しい真似しやがるぜ。だが……」
     勇蔵はチラリと、戦場と隣接する、宴会場へ続く階段に目をやる。
     パッと見た所、この上に続く階段はここしかない。
     ならば上の一般人はここから降りるしかなく、戦場を通り抜ける一般人を殺すことが出来ると、そう考えていた。
    「もしもし舞坂さん、そっちはどんな感じ? お客さんを女湯へ運ぶ隙ってある?」
    「無いですね。奇襲紛いの最初のタイミングならまだしも、今通ろうと思えば確実に数人は殺されます。別の場所から避難させた方が良いですよ」
     宴会場にいた東雲と戦場の様子を見ていた色葉が情報を共有し、その情報は宴会場にいた灼滅者達にも伝わっていく。
    「よし……避難袋は設置出来たぞ、愛莉」
    「了解だ……皆、階段は危険だ! この避難袋から逃げ……そっちは駄目だと言ってるだろう!!」
     來鯉が予め用意していた避難袋を設置し、ヴァーリが我先にと階段へ走る一般人達を強制的に眠らせた。
    「こっちからも逃げられるよ!」
    「多少手荒な非常口ですが、皆さんの命がかかっているので」
     階段からの逃走が危険だと予期していた祭莉と明彦が、外に放り投げた布団や座布団の塊に飛び降りる逃走手段も確保した。
     この時点で戦闘開始から数分が経過しており、ヴィルクスと陵華は戦場へ既に戦場に戻っていた。
    「客が全然降りてきやがらねえ……判断ミスか、クソ。これなら客室の方へ突っ込めば良かったぜ」
     殺せる客が数人は降りてくると算段していた勇蔵が、軽く舌打ちする。
     勇蔵はその第一印象に比べると大分頭は切れる様だったが、避難誘導に関しては灼滅者達の勝ちだった様だ。
    「俺達と戦ってるっていうのに、随分と余裕だな」
     狼煙が放った風の刃が、勇蔵の足元を斬りつける。
     勇蔵はそのまま踏みとどまり、後衛に向けて斬撃を飛ばすが、
    「黒影、這刃」
     足元の影を刃に変形させたガイストが、放たれた斬撃を相殺した。
    「避難はかなり進んだみたいだけど……戦闘はまだまだだね」
     一夜は勇蔵の胸に鬼の拳を叩きこみ、大きく後ずらせた。
    「チッ……客が消えただけならまだしも、受付の姉ちゃんらもどっか行っちまったじゃねえか……せめてもの憂さ晴らしに、てめえらの命頂いてくぜ」
     勇蔵はそう吐き捨て、刀を構えなおす。
     戦いは始まったばかりだった。


    「さて……早くこの男を倒して、皆で帰るぞ!」
     陵華は全身に纏わせたオーラを両拳に纏わせ、連続で突き出す。
     そして放たれた闘気の塊が、勇蔵の全身を打った。
    「帰らせねえよ、ガキ共が……俺の剣術を見なぁ!」
     勇蔵は二本の刀を振り上げながら、灼滅者達に突撃する。
     そして戦場を縦横無尽に駆け巡りながら、次々と斬撃を放った。
    「くっ……まだまだ!」
     陵華はのウイングキャット『ゴルさん』が魔力を放ち、同時に陵華が右腕に纏わせた風を放つ。
     魔力で創られた鎖が勇蔵の脚に絡みついた直後、陵華が放った風の刃が勇蔵の全身を切り裂いた。
    「さっきのは中々強力な攻撃だな……合わせて回復するぜ、誠!」
    「了解だ。行くぜ狼煙!」
     狼煙と誠がほぼ同時にヒールサイキックを放ち、後衛に与えられた傷を癒していった。
    「こんな理由で人を殺めるお前は、ここで灼滅したい所だがな……」
     宗嗣は長尺刀『大神殺し』を構え、その刃を非物質化させた。
    「やれるもんならやってみな。お前らが俺より強ければ殺せるだろうぜ」
     勇蔵は地を強く蹴り、宗嗣に向けて鉄下駄蹴りを放つ。
    「っと……そう易々と通す訳にはいかないわよ!」
     勇蔵の前に飛び出した千波が蹴りを受け止め、宗嗣はそのまま攻撃に繋げる。
    「その魂、断ち切らせて貰う」
     宗嗣が放他れた斬撃は勇蔵の魂にぶち当たり、その一部を砕いた。
    「この……!」
     目を剥いて反撃に出る勇蔵だが、宗嗣は更に蒼き刃の短刀を逆手に持ち、突き出した。
    「お前の様な奴に、負けるわけにはいかない」
     刃は勇蔵の心臓を貫き、どす黒い血が流れ出した。
    「あら、ちゃんと血は赤いみたいね。意外だわ」
     立て続けに山吹が放った鬼の拳が、勇蔵の顎先を強く打った。
    「ゲホッ!! ……ったくよー、ゆっくりと温泉に浸かりにきただけだっつーのに、何でこんな血生臭い事になってるんだか……」
    「んー……ほぼあなたのせい……だと思うよ」
     一夜は勇蔵にそう告げると、足元の影を、月の形をした無数の刃へ変形させていく。
    「そうか? 悲しい意見の相違だなぁ、おい」
     勇蔵は前衛に突っ込むと、怒涛の斬撃の嵐を巻き起こす。
    「ほんとにね。お部屋が空いていないから殺人するなんて、僕達には全く理解出来ないしね」
     そう言って一夜が放った無数の月の刃が、勇蔵の周囲を旋回しながら斬っていった。
     そして一夜は指輪に魔力を溜めると、形成した純白の弾丸の狙いを定める。
    「僕達が、誰も欠けずにみんなで帰る為に……あなたは倒させてもらうよ」
     雪の結晶にも似た弾丸は弧を描きながら勇蔵に接近し、肩を貫いた。
    「まだまだ……こちらの攻撃は終わらないぞ」
     更にヴィルクスが光輝く刃を振るうと、勇蔵の腕が深く抉られた。
    「痛え……!! ああ、全く。死にはしねえが痛ぇもんは痛ぇなぁ……!!」
    「自業自得。六六六人衆、灼滅、当為」
     ガイストは静かに呟くと怪談蝋燭に黒き炎を灯す。
    「黒煙、展開」
     そして放たれた黒煙が、仲間の傷を癒しつつそのジャマー能力を高める。
    「俺は灼滅されて当然だってか? そりゃあお前…………まあ、そうなんじゃねえか?」
     勇蔵は鉄下駄で蹴りを放つと、自身の力を一気に高める。
    「ピリオド、今、一任。宜しく」
     仲間の回復をビハインドの『ピリオド』に任せ、ガイストは怪談蝋燭に灯した黒炎を、赤く染め上げていく。
    「怪炎、散華」
     そして放たれた赤き炎の花は、勇蔵の全身に降りかかり、高められた力を削ぎ落とした。
    「熱いし痛えし誰も死なねえし……俺も相当性質の悪い輩に絡まれたみてえだな」
     勇蔵は自身の傷を癒しながら、うんざりした様子で呟いた。


    「いい加減誰が死ねや」
     低い声で呟きながら勇蔵が放った月の如き斬撃が、後衛に向けて襲い掛かる。
    「クッ……ゴルさんがやられた……これはお返しだ!」
     陵華を庇ったウイングキャットが消滅し、陵華が放ったオーラの塊が勇蔵の肩を砕く。
     追撃を仕掛けようと、ヴィルクスがサイキックソードを構え勇蔵と相対する。
    「部屋のための殺人に飽き足らず、ついでで皆殺し、か――理解しがたいし、許せないな」
     怒気の籠った声で呟きながら、ヴィルクスは剣に膨大な光を纏わせ、ウイングキャットの『フエル』は勇蔵に突撃する。
    「理解しようとすんなよ。頭が疲れちまうぜ?」
    「その口を閉じろ」
     そしてヴィルクスが放った光の刃が勇蔵の首筋を斬り、フエルのパンチが腹にめり込んだ。
    「うざってえ!!」
     勇蔵はそのままフエルに蹴りを放つと、フエルは消滅した。
    「これで2匹目。どうしたどうした、そろそろてめぇらも限界――」
    「どこを見ている、こっちだ」
     勇蔵が蹴りを放った隙に背後に回り込んでいたヴィルクスが、光の刃を勇蔵の背に突き刺した。
    「お前は、ここで葬られるべきだ――たとえ私が堕ちたとしても」
     そう呟いたヴィルクスが剣を振るうと、勇蔵の身体が壁に叩きつけられた。
    「まだまだ攻撃するよ」
     直後、一夜が放った純白の魔の弾丸が次々と放たれ、吹雪の様な勢いで勇蔵の全身に降りかかった。
    「チマチマとうざったい奴らだぜ」
     勇蔵は自身の傷を癒しながら、額の汗を拭った。
    「汗臭い男は嫌いというわけじゃないけど、傍若無人で理不尽な振舞いは大嫌いだわ。いつの時代の武士よ」
     山吹は拳に闘気で練り上げた雷を纏わせると、勇蔵との間合いを測る。
    「そうか? 俺なんかまだマシな部類だと思うけどな」
     ぼやきながら勇蔵は突撃し、流れるような斬撃を灼滅者達に放っていく。
    「その剣術は大した物だとは思うけど、使い方を完全に間違ってるわ」
     攻撃を終えた勇蔵の懐に潜り込んだ山吹は勇蔵の顔面を思いきり殴り飛ばし、纏った雷で全身を焼け焦がした。
    「別に間違っちゃいねえだろ。刀は人を殺す為にある」
    「自分の快適な生活の為に他人を殺す等、言語道断。貴方、友達が居ないでしょ。だから闇に堕ちたのね。嘆かわしい」
     立て続けに山吹が放った鋭い槍の刺突が、勇蔵の肺に大きな穴を空けた。
    「闇に堕ちてからの方が性質悪いのは確かだけどな」
     勇蔵の死角に回っていた宗嗣は長尺刀で斬り上げ、足元を斬りつけた。
    「ふん……闇に堕ちる前の俺の事なんか知ったこっちゃねえな」
     そう吐き捨てる勇蔵の前に、狼煙が進みでる。
     狼煙は右腕に装着したバベルブレイカーのエンジンを駆動させながら、鋭い眼光で勇蔵を睨み付ける。
    「俺達だっててめぇの事なんて興味ねえよ。てめぇは六六六人衆で、俺たちの敵。それだけだ」
    「分かりやすいな」
     そう言って勇蔵は軽く笑い、狼煙はジェット噴射で勇蔵に急接近する。
     狼煙が放った杭は勇蔵の心臓を刺し貫き身体を貫通した。
    「ゲホ……やってくれるな、強面野郎」
    「………………誰が強面だ」
     狼煙は杭を刺したまま左手のガンナイフの銃口を勇蔵の額に突きつけ、引き金を引く。
     零距離から放たれた弾丸は勇蔵の脳天を抉り、血飛沫が舞った。
    「……オラァァアァアアアア!!」
     あまりにも痛かったのか、突然ぶち切れた勇蔵は二刀の斬撃を放ち、後衛を斬りまくる。
    「……後衛、崩壊間近。至急、回復」
     あと数度の攻撃で後衛に立つ灼滅者の多くがほぼ一斉に倒れると判断したガイストが黒煙を放ち、即座に仲間たちの傷を癒す。
    「確かにこっちもかなり追い詰められてきたけど……それはアイツも同じの筈よ」
     千波は仲間にそう投げかけながら、刀を構えて勇蔵との間合いを詰める。
    「…………ハァッ!」
     振り降ろされた刃は勇蔵の首筋に迫る。
    「その刀捌きじゃあ、俺の首は取れねえぜ!!」
     しかし勇蔵は一瞬でその斬撃を見切って刀を振るい、攻撃を相殺する。
    「刀ってのはこうやって使うんだよ!!」
     そして勇蔵は刀を高く振り上げ、重い斬撃を千波に放つ。
    「私だって、そんな温い刀捌きで殺される気は無いわ!!」
     千波もまたその斬撃を見切り、放たれた斬撃を刀で受け止めた。
    「案外やるな…………そろそろ潮時か。追い詰めすぎて闇堕ちでもされちゃあ、本当に殺されかねねぇしな。あ、お前らって灼滅者だよな?」
     まだ勇蔵は体力的に余裕があったようだが、撤退の選択肢を考え始める。
    「逃げんのは勝手だけどね……最後に私の全力を受けなさい!!」
     勇蔵が思考を巡らせたその一瞬の隙に、千波は刀を構え突撃する。
     そして千波に続き、灼滅者達は一斉に攻撃を仕掛けた。
     山吹が放った鬼の拳が脳天を打ち、
     一夜が放った影の刃が全身を切り刻む。
     宗嗣が振るった短刀が肩を抉り、
     ガイストが放った弾丸が心臓を撃ち貫く。 
     陵華が放った無数の拳が勇蔵の全身を打ち、
     ヴィルクスが放った光の刃が首筋を斬る。
     ガイストが放った霊力の網が全身を縛り付け、
     千波が刀を振り降ろし、勇蔵を一閃した。
    「グ……!! 本当にやってくれたな。全員殺…………いや、だが…………」
     勇蔵は全身の傷を抑えながら、思考する。
     あと1、2回攻撃すれば、敵の後衛はほぼ倒せるだろう。
     だがその時点で、敵の誰かが闇堕ちする可能性がある。
     流石にそいつと戦うのは、あまりにもリスキーな選択だ。
    「………………やっぱ逃げるか。縁があればまた殺し合おうぜ! 縁が無い事を祈ってるけどな!!」
     灼滅者の闇堕ちを嫌い、勇蔵は全速力で駆け出した。
     戦況的にもこのまま勝てるかかなり微妙なラインで、勇蔵の撤退を阻止を意識していた者もいなかったため、勇蔵はそのまま戦場から離脱した。
    「じゃあな糞ガキ共!!」
     そして旅館の正面の扉を蹴り破ると、あっという間に山の中へと消えていった。
    「…………傍迷惑」
     勇蔵が消えて行った夜の山を眺め、ガイストが静かに呟いた。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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