ツルギの宿命

    作者:baron

     薄暗い別荘の隅に、ソレは居た。
     艶やかな黒髪に青い瞳、肌は小麦色で健康的であるが……。
     彼は『吸血鬼』であった。
    『ゴロゴロしてるのにも飽きたっすねえ。シャバにでも繰り出しますか』
     別荘の隅っこ、縁側で優雅に(?)昼寝をしていた吸血鬼は立ちあがると、栄光に満ちた二度寝天国を抜けだす事にした。
     何もしないのは大好きだが、それだけだといささか退屈だ。
     町で『食事』を行い、気に行ったモノを集めたくなるのは、長く生きたモノの宿命だろうか?
    「あら、こんな所に別荘なんてあったかしら?」
    「リフォームしたんじゃない? 大きい事は大きなお屋敷だったしね」
     別荘から吸血鬼が出てみると、昼日中に女生徒が連れ立っているではないか。
     吸血鬼の好みからは多少外れているが、食事と近況を仕入れるには問題はあるまい。
    『そこいく、おっじょうさ~ん。あっしと御茶をしばきにいきませんか~?』
    「やーだー。それってナンパのつもり? ルックスはいいけど、今時しばきに行くとかはないでしょ」
    「イケメンっていうよりは、子犬系男子って感じかな? 少しくらいお茶するのは構わないけどね」
     吸血鬼は女生徒達に声を掛けると、彼女達の奢りでいかしたイタリアンを愉しみつつ、情報を仕入れて行った。
     迂闊な事にオモチカエリするのも血を吸うのも忘れてしまったが、その後にとっかえひっかえナンパしまくり、自分に沖田全容を把握する辺りはソッチ方面の才能があるのかもしれない。
    『あっし、本当に自由だったんすねェ。それもで別荘に留まっている辺り、番犬根性が染みついていると言うかなんというか……。どうしよっかなあ』
     別の町に行こうか、それとも今度こそお姉ちゃん達を引っ張り込もうかと悩みつつ、吸血鬼は別荘に戻って行った。
     敵の臭いを嗅ぎつけたのか、あるいは、ブレイズゲートに認識を縛られているのかもしれない。

    ●ゲートと、吸血鬼の復活
    「最近になって、軽井沢の一角で失踪事件が起きているのは知ってるか? 狭い地域なのに不思議と噂以上にはならない事から、ブレイズゲートと推測されている」
    「バベルの鎖ですか。まあ一件二件退治しても同様の件が頻発するならブレイズゲートが怪しいですね」
     騒ぎの洋館は、かつて高位のヴァンパイアの所有物であったが、そのヴァンパイアはサイキックアブソーバーの影響で封印され、配下のヴァンパイアも封印されるか消滅するかで全滅したらしい。
     だがその地が、ブレイズゲート化した事で、消滅した筈のヴァンパイア達が、過去から蘇ってしまい再びかつての優雅な暮らしを行うようになった……と推測されている。
    「おそらく現れるヴァンパイアは消滅した配下の一人……だろう。別荘の一つを占拠し、かつての栄華を取り戻そうとしているなら、これを阻まねばらん」
     犠牲者を出さず生を謳歌するだけならまだ考慮の余地もあるが、被害が出ているなら捨て置けない。
     今ならばまだ、配下の吸血鬼レベル。事件もそう大きくは無い。
     大ごとにならない内に、対処=灼滅する必要があるだろう。
    「奴らはサイキックアブソーバー以前の暮らしを続ける亡霊のような存在だ。亡霊は亡霊のままに、始末を頼む」
     コクリと何人かの灼滅者が頷いた。
     ある者は詳しい話を聞き、ある者は友人たちに連絡を入れる。
     ブレイズゲートと化した、血塗られた屋敷の主人を灼滅する為に……。
    ●戦う宿命
    「この屋敷の近くで、最近怪しい奴が見かけられているんだ。影が無くて牙が生えていて……」
    「おかしいわね。この辺って都市伝説のブレイズゲートだったかしら? ただの愉快犯じゃないの?」
     ブレイズゲートを捜索中の灼滅者が、吸血鬼の噂を聞き付けた。
     あまりにも馬鹿馬鹿しい情報なので、仲間達は思わず真偽を疑ったほどだ。
    「調べてみると、廃屋が別荘に成ってるんだ。なのに。それなのに噂以上にはなって居ない。ブレイゲートで間違いねえな。とっととヴァンパイア(?)を蹴散らしちまおうぜ」
    「まだ一般人が浚われて居ないのはありがたいけど……。本当か確かめるのが面倒だな。どうす……!?」
     数人掛りで情報を集めると、確かに奇妙な事が幾つもあった。
     誰も知らない別荘、噂以上に認識できない存在。
     そして、徘徊する謎の人物。一部の嫉妬深いメンバーにとっては、ナンパに成功しているらしいというのが、なんとも腹に立つことで会ったそうな。
    「何か聞こえなかったか?」
    「確かに悲鳴が聞こえたわ。急ぎましょう、今からならまだ間に合うはずよ!」
     そして辿りついたのは、古風な洋館であった。
     剣をアレンジした紋章が掲げられ、入口近辺は時代がかった様相を見せる。
     灼滅者達は捜索に出た全員が集合したのを確認すると、急いで突入していった。
     奥から何者かの靴音が聞こえて来たのは、間も無くの事である。


    参加者
    東雲・凪月(赤より緋い月光蝶・d00566)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    霧凪・玖韻(刻異・d05318)
    織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)
    日凪・真弓(戦巫女・d16325)
    フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)
    小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)

    ■リプレイ


    「この地域は我々の管理下にある。貴公は何者か? 内部を改めさせて頂こう」
     笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)が屋敷の門をくぐった時、非常に気の抜ける光景が見かけられた。
     顔にモミジの痕を付け、シャツを上から羽織った少年が慌ててこちらに急行して来る。
    『そんな事を言われてもこまるっすよ。あっしはこの別荘の門番でやんすし……あ』
     少年は壁の破れ穴から逃げて行く一般人を見ながら、ひじょーに悲しそうな目をした。
     今にも、おっ嬢さ~んとダイブしたいという気持ちと、門番だからお仕事しなきゃ! という気持ちの板挟みの様に思われた。
    『はううー。せっかくナンパに成功したと言うのに……。悲しいでやんす』
    「ヴァンパイアの割には、なんというか……本当に気が抜けるな」
    「この時代に蘇ったのが不幸というか、何というか……。何にせよ放置も出来ん。ならせめて決着を付けてやるか」
     小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)と鐐は、ある種、気の毒な物を見るような目をしつつ……本題を進めた。
     頭悪そうな敵は珍しくないが、憎めない敵……それがバンパイアと言うのも珍しい。
    「とりあえず話を聞け。……我々は黒鉄の騎士団、今この地域を統括するもの。目覚めたところで失礼だが、傘下に入らぬとあれば……」
    『それを確認できる居るまでの間、そこのお嬢さん達とお付き合いしても良いってんなら、あっしとしても考慮する余地があるっすよ兄貴!』
    「(いいのか……。本当にいいのか?)」
     鐐の言葉に頷いた後、少年は期待するモノを見る目でじーっとこちらを見てくる。
     後ろに居る里桜たちを嬉しそうに眺めているようだが、実にアホの子であった。

    「(ナンパをするヴァンパイアさん……。なんだかイメージと違う感じですがこういう人もいるのですね)」
    「(それもナンパ者の犬かー、あまり被害が出ないうちに迅速に躾しなきゃね。ナンパがナンパじゃ無くなった時が危険だからな)」
     くすりと笑ったセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)と対象的に、東雲・凪月(赤より緋い月光蝶・d00566)は頭を抱えた。
     毒気が抜かれるこのイメージはまずい、……駄目だコイツ、早く何とかしないと。
    「(コイツがトップじゃないのが問題だ。バンパイアは基本的に命令次第だからな)」
    「(話あえそうですけど、仕方ありませんね。……とりあえず、有利に戦えそうな場所までお誘いしてみましょう)」
     凪月は消え失せそうになる戦意を抱え込みつつ、セレスティが本当に大丈夫か不安になった。
     いつも天然さんであるが、いつになく興味深々。
     もし既に魅了されて居るとしたら、危険かもしれない。


    「じゃっ、じゃあですね。とりあえずデートしませんか? 公園とかお池とかの周りをお散歩しません?」
    『デートっすか! 良いっすね。あんまり離れられないので、お屋敷の池で良いっすかね~』
     セレスティが誘い出すと、少年はあっさり頷いて満面の笑顔で手を取った。
     何気ない日常の光景ではあるが、どこっか違和感が拭えない。
    「(……冗談では無く、警戒心が削られていないか)」
     そんな様子を見ていた里桜は、二度目の脱力を感じると同時に……。アッサリと手を取られた仲間に注意を目線で喚起する。
     確かに一見、周囲に隠せるものが何もない有利な場所へ誘い出せたように見える。
     だが、もしかしたら陣形のど真ん中に忍びこんだかもしれないのだ。
     相手にとって囲まれても大きな差は無いが、逆にこちらは懐に入り込まれた形である。
    「(適当な所で話を打ち切って仕掛けましょう。やはり危険です)」
    「(魅了だとするなら付き合う義理はない。やはり吸血鬼なら水辺を利用するべきかな)」
     日凪・真弓(戦巫女・d16325)とフィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)は顔を見合わせて、お互いの表情を見直した。
     二人も毒毛が抜かれており、自分一人では危ういほどの親和性を抱いてしまっている。
     直接知りあうのではなく、友人に友人として紹介されたら信じてしまいかねないほどに……。
    「(こうしてると子供に見えるけど、凄まじい業を感じる。今はまだいいけど、黒幕が居るか。本領を取り戻したら危険だと思う)」
     フィオレンツィアとしても恋人にする気は無いが、もし警戒心を奪われて仲良くしている状態で、上位バンパイアの命令であの少年が豹変したらどうなるか?
     あるいは事故で血を失い、血を吸って補おうと思い付いたら危険だろう。
     彼が隠れ住む存在ならまだしも、業がむせ薫るほどのダークネスだ。安心できるはずもない。

    「(では適当な場所を見つけ次第、戦闘に入りましょう)」
    「(番犬狩りですね。私としては黒幕が居た方が嬉しいのですけれど……終わったら捜索してみましょうか)」
     容赦なく真弓が告げる言葉に、織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)はどこか嬉しそうに答えた。
     闘えると言う事は良いことであり、それが強い相手ならば尚更だ。
     犬の様な少年に好意を抱くという意味では、より良い好敵手として認識している。
     その意味では、最もズレが少ないのかもしれない。
    『この池なんてどうっすか! 小川を引き入れて水を綺麗にしてるんで、泳ぐには向かないっすけど……』
    「(気に行った女性に媚を売り、主人が居らずとも別荘の警備。完全に犬だな……尻尾が幻視できそうなくらいだ)」
     霧凪・玖韻(刻異・d05318)は女性陣を引き連れて歩く少年に、リードを引っ張る散歩好きのワンコを見た。
     ダークネスに転生があるのかしらないが、生まれ変わったらきっと来世は犬だろう。
     人狼の灼滅者の可能性もあるが……。ああ、そっちの方が時間が掛って、自分が現役の間は出会う事はあるまい。
     そんな風に日常の光景を思い浮かべ、平然と殺した後の事を考える。
    「(そろそろ仕掛けよう。時間を掛けてもやり難くなるだけだ)」
    「(玖韻が躊躇する姿は思い浮かばないけどね。……やるぞみんな!)」
     玖韻が促したことで、凪月は笑顔を苦笑いに変えた。
     友人に似た奴は倒し難いが、それでも親友自身が闇堕ちするよりは戦い易かろうと考える。


    「茶番はここまでにしましょうか。その頬にあるでっかいモミジの後は、女の子に悪戯とか吸血しようとしてビンタされた後でしょ? 私達は貴方のナンパの相手にはならないわよ。特に私は人が言う所の売約済みらしいから」
    『ノーおォォ、それは全人類にとって損失というものっすよ!』
     フィオレンツィアが啖呵を切ろうとしたが、盛大に気力を持って行かれた。
     駄目だ、話が通じない。
     というか、ペースが巻き込まれてしまう!
    「この周囲で犠牲者が出ている。君か、黒幕かしらないが、ソレを確認させてもらおう」
    「悪いな。アンタを倒して屋敷の調査をさせてもらうよ」
    『どうしてもやっるっすか? それなら仕方ないっすね。お嬢さん達とは、後でゆっくり仲良くするっす』
     そこへ玖韻が飛び蹴りを放ち、凪月がリボンを伸ばして刃に換える。
     迫る二人の攻撃を喰らいながらも、少年は血刀を振るった。
     烈風さえ感じる動きで、奇襲気味の攻撃に難なくカウンターを……。
    「黒幕が居るなら前菜ですが、門を任されている以上はそれなりに愉しませて頂けそうですね?」
     血色の刀が切り割いたのは、間に割り込んだ麗音。
     いつでも最前席で戦いを楽しめるように、待っていたのだろう。
     そして血染めのドレスを翻し、炎の剣で返礼をたっぷりと食らわせる。
    「さあ、それでは血を流したり流されたりを愉しみましょう? この一撃も素敵……、最後まで愉しませてくださいね」
     うっとりと抉られた肌に小指を這わせ、麗音は唇に塗った。
     戦化粧を施すと、ワザとつば競り合いを保っていた状態を覆し、ジュっと少年を焦がす。

     ギャンっと悲鳴を上げる前に、次なる仲間が踊り掛った!
    『おっと、そうそう喰らわないっすよ!』
    「技量はそちらが上だったな。だが勝負は搦め手も含めてのものだ。一手で駄目なら二手で、一人で駄目なら仲間と共に倒せばいい」
     鐐は羽織の端を刃に換えて伸ばすが、会えなく避けられてしまう。
     だが、その動きは予想した物だ。
     即座に手首を翻し、羽織の影に隠した闇を紅い刃に換えて振りかぶる。
     血で出来た刃同士のぶつかり合いは、ギンともカンとも言わず、互いに切り割きあった。
    「……正面からの戦いは流石に不利だな。川を使って追い込むぞ」
    「そうですね。水が苦手そうな感じですけど、十字架とかも嫌いなのでしょうか? ちょっと試してみましょう」
     里桜の繰りだした槍は、危うい所で避けられる所だった。もう少し狙いを絞るべきか?
     青い羽織を伸ばして退路を塞ぎに掛る彼女に合わせて、セレスティもリボンを伸ばし、布と布で巨大な十字架を作り上げる。
     二人の攻撃は共に避けられてしまったが、その動きそのものが追い詰める為の道筋となる!
    「次は当てて見せますよ」
    『あっしのハートは既に撃ち抜かれてやすよ!』
     セレスティは一瞬だけ顔を赤らめた後で、祈るように指輪を煌めかせる。
     そして精神力を弾丸に換えて撃ち込み、いけないワンコにお仕置きするのでありました。


    『おねえさーン。ちょいと、どいちゃあくれませんかね?』
    「上がらせる訳には参りません。暫くそのままでいてもらいますよ」
     池に落された少年が登ろうとするのを、真弓は体当たり気味に食い止める。
     肩をぶつけ合って剣を振るい合い、鍔競りあいに移行。
     さっきまで強気だったのに、水の中は苦手なのか元気が無い。
    「……今度は、こちらの番です。日凪真弓--推して参ります」
     押し切って斬撃を浴びせると、その影からもう一撃!
     真弓の返す刀は二枚刃だ。
     本身の下に、影の刃が顔を見せる。
    「吸血鬼はナンパしないと死んじゃうの? じゃあ、死ねばいいのに」
    『それはないっすよ。愛と共に活き、愛と共に逝くのが吸血鬼の本性。熱いヴェーゼを……アウチ』
     その好機は見逃せぬと、フィオレンツィアは怒りを力に換えて、酸弾やら毒素を叩きこんだ。
     弟分ならいいかな~と思えてくるのだが……。
     いずれ、調子に乗って壁ドンとかしそうな辺りが容易に想像できて、何気に腹が立つ。
     なんというか、こういう八方美人系は合う合わないが重要なのかもしれない。
    「でも、あれだね。水に落してからちょっとやり易くなったかな」
    「足場が悪いからな。……それになんだ、犬は泳ぐのが大好きな個体と、生理的に大っ嫌いな個体に別れるらしい」
     フィオレンツィアの言葉を拾った玖韻は、場違いな話を思い出して納得する。

     それで能力が変わる訳ではないが、テンションの問題は意外に重要だ。
     五分五分の勝負で、天秤が揺れるのであればタダの確率から、利用すべき価値が見出せる。
    「何にせよ、水に落ちた犬は叩くのがセオリーだ。このまま押し切るとしよう」
     玖韻は敵の動きが鈍ったことで、得物を糸に持ち変えた。
     池からの脱出ルートから伸ばしつつ、動きを邪魔するべく罠を仕掛けて行く。
    「苦手な場所に封じ込めて結界か。ならこっちは直接水辺から叩こう」
    「うーん。私はパス。でも、ここから狙っちゃいますね。それそれー」
     凪月がパシャパシャと音を立てて走り、池の上に次々、炎を浮かび上がらせていった。
     彼が包囲に向かったのに対し、麗音は炎の煌めきから影を伸ばす。
    「どうですか。愉しんでます?」
    『できれば、くんずほぐれつ生身でお願いするっす!』
     麗音は印を切って力の性質を変えると、食らいついた影は刃に切り替わった。
     噛みついた影の牙が鋭く変化し、切り割き始め、そして仲間への反撃と共に……少しだけ塞がって行く。

     少年の操る血の太刀が吸い上げる生命力は、『量』からするとかなりの回復であるが、『率』からすると他愛ない。
     吸血鬼の豊富な体力と、削って行く灼滅者の攻撃力に、まるで追いついては居なかった。


    「お前みたいなのは嫌いじゃない、別の形で会いたかったな。悪く思うなよ」
     鐐は斬撃をあえて受け切らせると、そのまま柄頭で顔面をブン殴った。
     そして血の刃を蹴って加速させ、強引に押し切ると深く池に沈めて行く。
    『せっ、せめて死ぬ時くらいは姐さんたちの胸の中、っていうか、陸にあげてくださいよ~』
    「可哀想な気もしないでもないが……まあ、敵に情けを掛ける必要はないからな、悪く思わないでくれ」
     里桜は脳裏にキャンキャンと泣き叫ぶ柴犬か何かを幻視しながら、苦笑いして軽くジャンプ。
     その場所を爪が抉るように血の刃が通り抜け、鉄拳でポカンとやった。
    「なんだか可哀そうですけどゴメンなさいね。本当のワンコに生まれ変わったら抱っこしてあげますから」
     セレスティは本気でそんな事を考えながら、水の中で燃えるナニカを見た。
     燃えては消えるESPの残り火に、まだ生きていることを悟り刃を突き入れる。
    「これにて、終幕です……」
     真弓が周囲の影を送り込むと、背中を向けてその場を去った。
     彼女が門の調査に向けて歩き去る中、ザブンと飛び上がる影が……。
    「日凪は終わりと言わなかったか? それに張った糸にも意味はある」
     ピンっと玖韻が糸を弾くと、少年は切り割かれて闇に帰った。
     ここに吸血鬼は滅び去ったのである。
    「主無き、滅びた館。残滓を守る門番だけが健在か……」
    「屋敷の中も、気になるね……調査して行った方が良さそうだ」
     鐐も門の調査に向かう中、凪月は朽ち果てた屋敷へと向かった。
    「まだ居ますかね? 黒幕さんが居ると嬉しいのですけど」
    「どうかな? 表札が落ちてたし、居ない気もするし……。まあ、手下が居ないって言う意味かもだけど、ブレイズゲートは良く判らないよね」
     麗音が調査に向かった仲間を見ながら、どうしよっかなーと呟いていると。
     割り箸を土に刺して祈っていたフィオレンツィアは、転げ落ちた紋章を近くに置いてやった。
     それは剣を形どった紋章であり、元の場所には何も描かれて居ない……空白だけが残る。
     まるで守護者の居なくなった、この別荘の様であった。

    作者:baron 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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