漆黒企業にようこそ

    作者:小茄

    「カズナちゃん、カズナちゃん」
    「えっ? あ、はい!」
    「コピー終わった?」
    「いえ、まだ……」
    「学生じゃないんだからさぁ、あんまりゆっくりやられても困るんだよねぇ!」
     オフィスの一角に、中年男性の嫌みったらしい声が響く。カズナは今年からこの会社で働くOLなのだが、上司との折り合いが良くない。
    「す、すいません」
    「何を吸わないの? 『済みません』でしょ? 最近の若い子は日本語も満足に喋れないんだからなぁ」
    「は、はぁ……」
    「ちょっとカズナちゃん、お茶まだ? 自分でコンビニ行った方が早いよこれなら!」
    「あっ、済みません!」
     のみならず、先輩や同僚との折り合いも悪い。
    「あ、カズナちゃん。これ今日中にやっといて」
    「えっ……」
    「えじゃないでしょ、残業代出ないけど。君が遅いせいで皆に迷惑かかってるんだから、文句ないよね?」
    「は、はい……すみません」
    「ちょっと可愛くておっぱい大きいからって、今までちやほやされて来たんだろうけどさぁ……社会ではそれだけじゃダメなんだからね!」
    「いえそんな……はい……」
     その上、サービス残業、各種ハラスメントは当たり前。いわゆる、ブラック企業である。
    「最近の若い子と来たら、セクハラだの何とかハラだとか……文句があるなら別に辞めてもいいんだからね。代わりは幾らでも居るしさ」
    「い、いえ! 頑張りますので……(そうだ、私が頑張らなきゃ……お母さんの治療費も、妹達の学費だってあるし……)」
     とは言え、カズナの家庭にも経済的な事情がある。ブラックだからと言って、辞めることも許されないのだ。
     
    「情報の裏付けに大分手間取ってしまいましたわ。セレスティの仰っていた通り、ブラック企業で延々……いえ永遠に働かされると言う悪夢を見ている女性が居ますの」
    「えぇ、あの話……やはり、事実でしたか」
     有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)の言葉に頷くのは、今回の情報をもたらしたセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)。
     今年から社会人となったカズナと言う二十代女性が、絵に描いたようなブラック企業でさんざんな目に遭うと言う悪夢に囚われていると言う。
     救い出さなければ、このまま彼女の精神は疲弊し、ついには命さえも奪われてしまうだろう。
     
    「夢の中に入る所までは、特に障害はありませんわ。夢は彼女の務めるオフィスですわね。かなり広大なフロアですけれど、見通しは良好ですわ」
     そのオフィス内には、上司や同僚など、カズナをいびるシャドウの手下達が多数存在する。
     幸い、それらの戦闘能力自体は低い。蹴散らす事は容易だろう。
    「ただ、貴方達が問答無用の力ずくで悪夢を壊したとしても、カズナが精神的に立ち直れるかどうかは疑問符がつきますわ。逆に、カズナが自らの力で悪夢を打ち破ったと思わせる事が出来れば、二度とこの様な悪夢に囚われる心配も無くなるでしょう」
     励ます、慰める、手助けする……新社会人として苦悩する彼女を助けるアプローチは、無限に存在するはずだ。
     そして悪夢を打ち破ったその後は、張本人であるシャドウとの戦いだ。
     ソウルボード内のシャドウは、戦闘に関して全力を発揮する事はない。灼滅者達が力を合わせれば、倒せるはずだ。
     
    「貴方達ならきっと大丈夫でしょう。早い帰還を期待しておりますわ」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    風水・黒虎(跳梁焔獣・d01977)
    射干玉・夜空(高校生シャドウハンター・d06211)
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    坂上・海飛(絶えぬ篝火・d20244)
    七篠・零(旅人・d23315)
    シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)

    ■リプレイ


    「まったく、最近の若い女の子はちょっと叱るとすぐ泣くしさぁ。仕事ってモノを舐めてるんじゃないかねぇ」
    「い、いえ……そんな事は決して」
    「だったら出来るよねぇ? 今日中にこの書類」
     オフィスの一角で、一人の若い女性がねちねちと上司の嫌味を聞かされていた。
     彼女の名はカズナ。現在、学生の就職活動は比較的売り手市場と言われてはいるものの、やはり内定を取る事は簡単ではない。特に、彼女の様に余り要領の良くないタイプにとっては。
    「は、はい……頑張ります」
    「頑張るのは当然でしょぉ! 大事なのは、出来るか出来ないかなの!」
     とは言え、どうにかこうにかこの会社に就職する事が出来たカズナに、想像を絶する様々なハラスメントや苦難が降り懸かっていた。
     それは現実ではなく、シャドウの作り出した悪夢なのだが、夢を見せられているカズナがそれを知る術はない。
    「あ、社員さんすか? アルバイトの山田っす。よろしくっす。みなさん、社員さんは大変そうっすね」
    「え? あ、どうも……そ、そうですね……特に私はまだ不慣れなので、皆さんに迷惑かけてしまって……」
     すっと近づいて行って、声を掛けたのは山田・菜々(家出娘・d12340)。カズナはばつが悪そうに、苦笑いを浮かべてそう答える。
    「ほらそこぉ、駄弁ってる暇あんのかぁ? 大体――」
    「いやー、新しく入った子っすか? やる気もあるし、根性あって良いっすねぇ!」
    「「?!」」
     と、上司の言葉を遮ってカズナを褒めちぎるのは、ワイシャツ姿のギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)。
    「その通りだ。カズナちゃんの仕事が終わらないのは、一つの仕事をやってる間に次々どうでも良い雑用を押しつけるせいだろう」
     同じく、彼女を庇う様に歩み出る風水・黒虎(跳梁焔獣・d01977)。
    「え、えっと……」
    「お疲れ様です。いつも頑張ってらっしゃいますよね。私も手伝いますので一緒に頑張りましょうね!」
    「あっ……えっと、有難うございます!」
     セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)はカズナの抱える書類を半分以上、肩代わりして微笑み掛ける。
    「き、君達ぃ! 勝手に何をしてくれてるんだね! それはカズナ君の仕事であってだなぁ!」
    「あーっ! 持ってきてたライターが落とした拍子に火がついて部長さんの重要な書類が! あーっ! 部下Aさんにぶつかってしまって持ってた珈琲をコピー機にぶちまけてしまった!」
    「「?!」」
     カズナを助ける灼滅者達を追い払おうとした上司達だが、そんなタイミングで坂上・海飛(絶えぬ篝火・d20244)がそこら中を大混乱に陥れる。
    「コピーは機械にデータさえ読ませちゃえば、自動で走らせられるよ。やってご覧……ほら、簡単だろ?」
    「は、はい……有難うございます」
     そうこうしている間に、七篠・零(旅人・d23315)が手取り足取り、コピー機の使い方を指導。
    「キミはお母さんや妹たちのために十分頑張っているよ。その頑張りを認めてくれている同僚たちもちゃんといるよ。だから、悩みの相談やヘルプは遠慮なくてくれていいんだよ」
    「えっ? ……どうしてそれを……でも、はい……有難うございます。助かりました」
     ポンと肩を叩きつつ、励ましの言葉をかける射干玉・夜空(高校生シャドウハンター・d06211)。カズナは、少し驚いた様な表情を浮かべた後で、灼滅者を見回し深々と頭を下げる。表情も大分和らいで見える。
    「……って、えぇ!? あ、あの……何してるんですか? そこで……」
     と、視線を上へ向けたカズナが素っ頓狂な声を上げる。
    「……私の完璧な忍術を見破るとは、この女できるでござる」
     視線の先、天井に張り付いていたのはシルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)。やや狼狽しながらシュタッと降り立つ。
    「怪しい者ではなく、ごく普通の忍者でござるよカズミ殿」
    「え、に、忍者……? っていうか、私……カズナ、ですけど」
     ぽかんと口を開けるカズナに対し、まるきり悪びれる様子もなくしれっと言ってみせる。
    「え、えぇい! カズナ君! 何を訳の分からない連中と遊んでるんだ! 書類は!」
    「終わりました。そちらにあった分は燃えてしまいましたし……」
    「えっ……」
     と、再びいびりを再開しようとする上司達だが、状況はカズナの言う通り。
    「じ、じゃあお茶はどうした!」
    「お待たせしました」
    「なっ?!」
     別の内容で難癖をつけようとしてみれば、今度はセレスティが同僚達の前にお茶を置く。
    「ぐ、ぐぬぬ……」
    「それにしても、忍者の侵入に気付くのが一人だけとは、それだけ視野が狭量になっているということでござろうか」
    「いやぁ確かに。こんなにピリピリした部署は初めて見たっすよ」
     シルヴァーナと海飛は、逆にカズナをいびっていた彼らに視線を向け、あざ笑う様な物言い。海飛に至っては、自分でメチャメチャにしておいてどの口が言うという状況だ。
    「なんの騒ぎだ!」
     と、そこに現れたのは恰幅の良い壮年男性。
    「し、社長!?」
    「実は……新入社員のカズミ君がですね……とにかく、無茶苦茶な状況でして」
    「喝ーっ!! この腰抜けどもがぁっ! 新入社員は新兵と一緒だ、甘やかせば役立たずとなって足を引っ張る! 徹底的に鍛え、扱き抜いて命令に従う忠実な兵士に仕立てあげろぉっ!!」
     と、社長は空気も震える様な大音声で、無茶苦茶な育成理論をぶち上げる。
    「ひでぇ話っすね。カズナさん、ここは悪夢の中っす。この社員の振りした奴らも、悪夢のエキストラ。ちょっと暴れるんで、安全なところに下がっていてくださいな」
    「えっ? 悪夢……ですか?」
     ギィの言葉に、きょとんと目を見開くカズナ。
    「そう言う事、さぁほら座って」
    「すぐに現実世界に帰して上げるから」
    「えっ、わ……きゃぁっ!?」
     黒虎と夜空は、カズナを椅子に座らせると安全な場所まで強制的に退避させる。
    「さあ、目覚めの時間すよ。悪夢にはでていってもらうっす」
     菜々はそれを確認すると、スレイヤーカードを解放。他の灼滅者も一斉に戦闘態勢に入る。


    「邪魔をするな! 洗礼も受けずに一人前の社員になった者が居るかぁっ!」
    「セクハラが洗礼とは見上げた会社っすね」
     ギィは殺到する社員らの言葉を鼻先で笑い飛ばすと、無敵斬艦刀『剥守割砕』を大きく振り上げる。
    「まったくだ。女の子には紳士的に接するのが真の男ってもんだぜ」
     これが振り下ろされるのに呼応し、縛霊手を身につけた拳で殴りかかる黒虎。
    「ぎゃあぁーっ!」
    「さ、一網打尽といこうか」
     ――バッ!
     二人の攻撃で脆くも吹き飛び、絶叫を響かせる悪夢の衛兵に、夜空のバスターライフルより放たれた円盤状の光線が更なる追打ちを掛ける。
    「何でもかんでも助けて貰おうとする能なしを産むだけだと、なぜ解らん!」
    「頑張ろうとしてるのが解ってるから、助けようと思うんだよ」
     社員にそう返した零の背に、炎翼が羽ばたいて破魔の力をもたらす。
    「お、おのれぇ……カズナ! 貴様、そんな事で一人前になれると――」
     ――バキャッ!
    「余所見は良くないっすね」
     菜々は尚もカズナに対し精神攻撃を続けようとする社員の顔面に拳を叩き込み沈黙させる。
    「貴様等、それでも我が社の社員か! 行け! 戦え! 矢尽き刀折れるまで戦え!」
    「「お、おぉーっ!!」」
     社長の激励を受け、士気を高揚させた社員達はときの声を上げて一気に突っ込んで来る。
    「燃えろ燃えろ! 敵も書類も機材もまとめて燃えちまえ!」
     海飛の掌から迸る炎。それは瞬く間にオフィス内を紅に染めてゆく。
    「って……カルビが燃えてるー!? 貴様等……よくもカルビをー!!」
    「自分でやった様に見えたけど……」
     若干霊犬のカルビも毛が焦げたが、幸いダメージは無い様だ。
    「う、ぐっ……こいつら……」
    「その様に無駄な力を入れていては、私の忍術を見破る事は不可能でござる」
     シルヴァーナは蒼く燃える炎を敵中に解き放ち、凍て付かせる。
    「う、うわあぁーっ! 我が社に栄光あれぇーっ!」
    「この様なやり方をしていては、栄光なんて無いと思います」
     ――ドッ。
    「はぐっ……!」
     セレスティは、直線的に突貫してくる部長の攻撃をかわし、逆に妖の槍を突き立てる。
    「……くっ、良くも我が社員達を……我が悪夢を……」
     配下達は掻き消え、オフィスは無茶苦茶の状態。社長――シャドウは、怒りに声を震わせる。
    「許さん! 貴様等を皆殺しにした後で、改めてその女をこの10倍程酷い悪夢に監禁してくれるわぁっ!!」
     シャドウは悪夢の瘴気を身に纏わせ、灼滅者達へと飛びかかる。


    「余計な手出しを、あと少しであの女の精神を荒廃させる事が出来たものを!」
    「可愛くておっぱいの大……いや、そうでなくても女の子は守る!」
     黒虎の足下から伸びた影業が、シャドウの脚に絡みついて動きを鈍らせる。
    「せっかくのご登場っすけど、でていってもらうっすよ」
     鬼神力を宿した腕を、力任せに叩きつける菜々。
    「ぐぬっ……この程度で」
    「俺はなぁ、頑張ってる人を困らせるシャドウが一番嫌いなんだよ!」
     間髪を入れず、白熱を帯びたエアシューズの蹴りを見舞う海飛。今度はカルビも、どんぴしゃのタイミングで援護射撃を行う。
    「心にゆとりなくして、良い仕事無しでござる」
     解体ナイフを自在に振るい、シャドウの急所を的確に抉ってゆくシルヴァーナ。
    「がはっ……!」
    「戦いも仕事も、一人じゃ大変だね」
     零は相変わらず緩い笑みを浮かべつつ、影で形成した触手でシャドウを絡め取る。
    「う、ぐぅぅ……小賢しいっ! ガキ共に社会の厳しさを教えてやるわぁっ!」
     ――ガキィン!
    「厳しさってのは……その程度、っすか? カズナさん、偽社長に何か言ってやりたい事があったら遠慮無くどうぞ」
     ギィは斬艦刀でシャドウの腕を受け止め、払いつつカズナへと水を向ける。
    「えっ……あ、えっと……その……私、負けませんから! 頑張って、皆さんのお役に立てる様になります!」
    「ぐっ……! ぐぎぎ……」
     カズナは、暫し考えてから社長へそう言葉を返す。それは、彼女を悪夢に捉え続けるのは不可能だとシャドウに思い知らせる内容だった。
    「そう言う事っすよ」
     ――ザンッ!
     ギィは燃えさかる炎を刀に纏わせ、最上段から振り下ろす。
    「ぐわぁぁーっ!! 腕がぁぁっ」
    「さぁ、終わりにしましょう」
     苦悶の叫びを上げるシャドウの懐へと飛び込むセレスティ。
    「エネルギー、フルチャージ。シュゥゥゥトォッ!!」
     ――ババッ!
     閃光を放つ無数の拳がシャドウの顔面に直撃すると同時に、狙いを定めた夜空のバスターライフルから迸るのは闇を穿つ白光。
    「ぐわぁぁぁーっ!! お、覚えていろ……!」
     シャドウは捨て台詞を残し、跡形も無くその姿を消した。


    「もう大丈夫ですよ。よろしければどうぞ」
    「あ、有難う。えっと……助けて頂いて有難うございました!」
     笑顔でチョコレートを差し出すセレスティと、皆へ深々と頭を下げるカズナ。
    「逃しちゃったっすね」
    「そうだね、まぁ良いんじゃない。悪さする様なら、またボク達が懲らしめればいいんだし」
     ぽつりと呟いた菜々に、夜空は笑顔でそんな相槌。
    「それにしても、仕事って大変だなぁ……」
     カルビを撫でつつ、滅茶苦茶になったオフィスを見回して感慨深げに呟く海飛。
    「ところで、この後飯とカラオケでもどう? 今日は俺が奢っちゃうぜ!」
    「えっ!? ぁ……でも、私、付き合ってる人が居るから……」
    「んん?!」
     爽やかに微笑んでナンパを始める黒虎だが、カズナはやや顔を紅くしつつそう答える。
    「残念だったっすね。さぁ、自分らの役目はここまでっす」
     ギィはそんな黒虎の肩をポンと叩きつつ、皆を見回す。
    「うむ。カズミ殿、そろそろ出社時間でござるよ」
    「は、はいっ!」
     シルヴァーナの言葉に力強く頷いたカズナ。その表情を見る限り、二度とこの様な悪夢に囚われる事は無く、また実際の会社でもたくましくやっていけそうである。
    「誰かに甘えたって良いんだから、一人で頑張りすぎないようにね?」
    「ですね……程々に頑張りますっ」
     とは言え、頑張りすぎも禁物。零はそう付け加えると、皆に続いて悪夢を後にする。

     かくして、灼滅者達はブラック企業の悪夢から一人の女性を救い出す事に成功したのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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