アタシは女王様

    作者:一縷野望

     茫洋と中身のない夜空はまるで自分の人生のようだと、三橋・ルイ(みはし・るい)は肺に溜めたヤニ臭い息を吐き出した。
     10年前の妻子持ちの男と駆け落ちが転落の始まり。もちろん長く続かず、名士な実家には勘当されて、流れ流れて北の地へ。
     今はSMクラブの女王様だが、ちっとも指名がつきやしない。とうとうM女へ転向するか仕事を辞めるかの選択をつきつけられた。
    (「こんな仕事……女王様だからやってられんのよ」)
     若さというメッキが剥げたら仕事への矜恃もない女が残るだけ。客も見透かす、そら辺は。
     さりとて普通の仕事で暮らすには良家育ちの価値観が邪魔をする、金遣いは、荒い。
    「……帰ろ」
     ――目に掛かる髪をかき上げた先、明らかに異界の煌めき纏う女が佇んでいた。
    「こんばんは、ルイさん」
     心に忍び込む心地よい声。
    「ルイさん、誰もが跪き自らの淫蕩さを晒さずにはいられない……そんな『女王様』になりたくはないですか?」
    「あなたならなれそうね」
    「ルイさんもなれますよ」
     あっさりと言い切り女はルイの手をそっと握りしめる。
    「私があなたの魅力を最大に引き出してみせます。ねえ、私と一緒にすすきのの夜を支配しませんか?」
     ルイは即座に頭を縦に揺らした。それが人としての自分を失う選択だと知らず。
     ……知っていたとしても、恐らく彼女は頷いただろうけれど。
     

    「札幌繁華街のすすきので、ゴッドセブンのナンバー6、アリエル・シャボリーヌの動きがあったよ」
     灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は憂鬱さ隠さずに瞼を下ろす。これから語られるのは既に堕ちてしまったモノを灼滅せよという依頼。
    「シャボリーヌの接触を受けて闇堕ちしたのは、三橋ルイさんっていう27才の女性だよ」
     SMクラブの不人気女王様だった彼女は、淫魔として堕ちたことで人を絡め取り屈服させる魅力を身につけた。
     彼女は瞬く間に店のトップに登り詰め、それどころか店員も籠絡し今や店は彼女の支配下にある。
    「店員、Mで所属してる人……彼らのお金を吸い上げて好き放題。更には度が過ぎたSMプレイで怪我人もでてる」
     ……いつ、死人がでてもおかしくないぐらいに、店も彼女もブレーキがきいていない。
     更には近隣の同系統の店に乗り込んで、トップの女王様を排除するつもりらしい。
    「『女王様プレイ』の気高さふさわしさ比べだって」
     彼女はシャボリーヌの手駒。
     そうやって配下淫魔にした彼女達を使って勢力を拡大するのが目的なのだ。
     
    「キミ達がルイさんと接触できるのは、SMクラブからの帰宅途中だよ」
     人気のない裏道を通って彼女は自分の城から惨めさ溢れる自宅へ帰る。
     近くには戦うに丁度良い空地があるので、そこへ誘い込めばよいだろう。
    「ルイさんのポジションはジャマー。サウンドソルジャーのサイキックと、ウロボロスブレイド相当の鞭で攻撃してくるよ」
     どちらかというと鞭の攻撃を好み、弱った者を狙う傾向がある。
     ……虐めたいのだ。とても、とても。
    「敵は彼女1人だけど、決して油断はしないでね」
     今宵の相手は闇に誑かされて淫に堕ちた女。
     同情に煽られ手を緩め勝てる相手ではない……だから、どうか。


    参加者
    龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)
    彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    御手洗・黒雛(気弱な臆病者・d06023)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    アガーテ・ゼット(光合成・d26080)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    ミストラル・グランフィールド(霧覆ハムレット・d33302)

    ■リプレイ


     夜は存外明るい。
     錆びた鉄骨、小石混じりで積み上げられた土塊……それらは一様に惨めであり、覆い隠せぬ稀い闇は却って薄情だ。
     それでも惨めさを隠したかった女はダークネスという闇に手を伸ばした。だがそんな衣を纏った所で卒爾であり……。
    (「いやこんな難しい字面などそぐわないか。馬鹿で無価値なガラクタ女で充分」)
     ミストラル・グランフィールド(霧覆ハムレット・d33302)の口元には、やはりいつも通り柔和な笑みという『仮面』が浮かぶ。
     そんな彼の笑みから自分が持たない『自信』を見出して、御手洗・黒雛(気弱な臆病者・d06023)は縮こまるように俯いた。
    (「三橋さん……怖いのかな」)
     通話状態の携帯は未だ無音、しかし戦いはもうすぐ傍まで来ている。恐怖を堪え大丈夫と言い聞かせるように、母の手をぎゅうと握った。
     気取られぬよう灯りを消して潜む彼らの頬を、生ぬるい空気が撫でていく。
     メロディの無い停滞だけの空間、龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)は窮屈さを感じながらも、仲間達がルイを誘き出しに行った方へ蒼天を向けた。
    (「なんちゅう碌でもない淫魔や」)
     独善的な理由で甘言に乗った女へ滅びの焔を焚きつけるのを今か今かと待ち受ける迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)。背筋伸ばし傍らで座るミナカタには守護獣の如き気高さが漂っている。
    「……」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は無音で唇を動かし某かを呟くと、衣擦れの音もたてず首もとの骸から指を外した。
     破滅的終局の引き金を引いたルイ、けれどその選択は彼女が最も重視する生き方を護るため――アガーテ・ゼット(光合成・d26080)にはそう思えた。
     だが、それ以上の思索は一時置く。囮役と繋いだイヤホンに声が飛び込んできたからだ。
     アガーテの目配せに仲間達は気配尖らし居住まいを正す。

    「ルイ、アンタの噂は聞いてる」
     褪めた半目で縄を握り、彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)は不遜露わに呼び止める。
    『場所をわきまえないなんて、随分下劣ね』
    「貴方、Sのクセに露出も出来ないんですか?」
     縄打たれ身を震わせながら気を吐く笙野・響(青闇薄刃・d05985)と、淫靡な気高さ纏うさくらえを見比べて、ルイは煙草を取り出した。
    「アタシと勝負しない?」
     引き回すように響を押し出してさくらえは声を高ぶらせる。
    「この子を虐めていい声で鳴かせて悦ばせた方が勝ち、どう?」
     くくと喉鳴らし、縄で首元をなぞれば身をよじり息を荒げる仔猫。
    「ねぇ、アンタも感じてみたいでしょう? 待ちきれない?」
     やけに優しい毒は聞こえよがし。
    『ふーん……アンタはいいワケ? アタシに玩具にされるんだけど』
     ふーっと吹きかけられた煙が晴れた先には、響の強気な瞳がある。
    「彩瑠さんがいちばんだもん! ……きゃっ!」
     ぱしんッ。
     ルイはいきなり響の頬を張った。
    『主人を『様』付けできないなんて躾がなってないコね』
     淫猥な首輪と乱れ赦さぬ黒髪、相反する要素にルイはいたく興味をそそられたようだ。しゃがむと響の首に指をかけ乱暴に持ち上げせせら嗤う。
    『アタシがイチから躾け直したげるわ』
    「あぅっ」
     縄が撓り響の躰が遠ざかった。苦悶に震える姿を捨て置き、さくらえはついっと空地の方角を指さす。
    『……ま、ここだといつ邪魔が入るともしれないしね』
     意図を悟り「いいわ」とルイは先に立って歩き出した。

     じゃり……。
     不景気で金を出していた会社が潰れたか、何になるかもわからずそして何になることもできないなれの果ての空地に、くわえ煙草のルイが踏み込んでくる。
     じゃり、じゃり、り。
     石噛むような音が椀のように曲線描き鳴る違和感。
     つぷり。
     何かの切れる、音。
     ……ルイが状況を把握した時には、既に灼滅者達は滞り無く包囲を完了し、腰や腕や頭に結わえたライトで淫魔の女を照らし終えて、いた。
     さくらえに縄切られ煤竹の柄をから刃を晒す響。そう、全ては茶番。
    『つまんないコトすんのね』
     気怠さの中に潜む赫怒は、乱暴に捨てる煙草と漆黒鞭を指に巻き引く仕草に現われる。
    「アリエル・シャボリーヌ」
     腕撓らせ鞭に力をのせた刹那、夜を撃ち抜く様な硬質的な声音が流れを止めた。
    「彼女は何処にいるのかな?」
     フードとローブを縁取る金を揺らめかせ柩は、怜悧な瞳で堕ちた女を捉え問い詰める。
    『アンタも夜の一番花になりたいの? でも無理よ、貧相過ぎるわ』
     冷酷と優越孕む鞭が夜を裂く前に、柩はローブを翻し仲間の影へと走った。
    「人を怪我させるプレイ? あかんなぁ。加減知らんなんてガキやあるまいし」
     執拗な追跡はわざと絡まれに出た炎次郎により阻まれる。


    「だから、あんたは女王様やなくて、ただの馬鹿やな」
    『ちっ』
     女が毒づき鞭を戻す前に、光理の黒い十字架が跳ね上げるように手首を斬った。痛烈な苦痛、だが肉体には疵ひとつつかない。
    「はじめましょう」
     金の糸さらり、剣とは相反する天使のような見目は夜に燻る女が決して持たぬ輝き。
    『くっ』
     しかし魂入れられた疵にルイは歯がみ。その間、さくらえは素早く炎次郎の疵を塞ぎつつ護りを広げ、響は手首を突いた。
    『いいわ、相手をしてあげる。光栄に思いなさいな』
     アガーテの帯は一旦鞭から手を離し避け、続くミストラルの赫の軌跡と炎次郎の槍の巡りは素早く拾った鞭で叩き返した。
    「誇りもなければ加減もないド低能、つまんない女」
     この役回りから当てるのは難しい、が、ミストラルは笑みを崩さない。
     その脇でとアガーテは、ああ、と無音の息を落とす。
     着古した7分袖シャツに洗いざらしのジーパン……見窄らしい服に一切引き摺られぬ所作と体躯には、確かに他者を屈服させる傲慢と退廃が宿る。
     もちろん誘惑などされない。
     されど、その美をアガーテは、認める。
    「……ッ」
     びゅんっと鞭が撓る音は、臆病な黒雛に明確な恐怖を刻みつける。耳塞ぎしゃがみ込みたくなる恐怖を胸の下に押し込み、母が征けるよう手から指を離した。
    「護ります、皆さんが倒れないように!」
     あたたかな光は炎次郎の戒めを解き放つ。回復は不要とミナカタは地を蹴り刃でルイの頬を掠めた。
    「キミは女王様なんかじゃない」
     響の疵から生まれる隙を柩という射手は逃がさない。
    「惨めなただの負け犬さ」
     聖剣の横殴りで女の上体は思う様揺さぶられた。
    「……口の利き方を知らないようね」
     血を吐き捨て振り向き様、女王は逆手に持った鞭で瞳を隠す。再び盾の影に行く柩は、その盾と剣担う仲間達の肉が切れ血花咲く音を背中で聞いた。
    『まだ夜は始まったばかり、ひとり残らず屈服させてあげるわ』
     ――さあ、全て投げ出し跪きなさい。


     序盤はルイ優勢で事が運ぶ。
     初手から苛烈にして着実な阻害を見舞うルイに対して、灼滅者側は彼女を捉える鋭さに欠けていると言わざるを得ない。ルイの回避を止めるための攻撃も、当てる力に欠けるととたんに意味は失うのだ。
     だが、一切が当たらないわけでは、ない。
     ルイを恒常的に捉えられるようになるまで持ちこたえられるかが勝負――灼滅者達は、長期戦の覚悟を決める。

    「あうっ……」
     跳躍する金の蝶、光理の足に絡みつく鞭は容赦なく引き摺り斃した。
    「ッ……」
     何度か庇われはしたものの、ルイからの執拗な攻めの多くは光理へと向いていた。既に治しきれない負傷の蓄積に、黒雛は哀しげに唇を噛む。
    「み、皆さんを傷つけないでください……っ」
     癒しの風に紛れてしまう程の小さな囀り。とにかく前に立つ皆が少しでも長く戦えるようにと、祈る。
    『なぁに? 聞こえないわ、お嬢ちゃん。そばに行くから聞かせて頂戴な』
    「……うぅ」
     来ないでという悲鳴を押しつぶし黒雛は後ずさった。そんな娘を叱るように一度だけ振り返った『母』は、向き直ると剣で鞭を絡め取らんと試みる。
    「……まだ、です」
     黒雛の風とミナカタの眼差しで力を得た光理は、蒼穹で土を突きふらつく足で立ち上がる。そして渾身の力を籠めてルベルスティアをルイの胸に押し当てた。
     衝撃の度に女の唇が虚空を喰むのを目にする炎次郎は、金錫中央から刃から後方へ指をずらし持ち直す。
     怒り煽り気を惹きたかったがその技でルイを捉えるのは悔しいが難しい。故に螺旋にて、穿つ。
    「どうや? 俺からのサービス。ありがたく受け取れな」
     身を屈め頭突きの勢いで踏み込み突きこんだ切っ先を捻り肉を巻けば低い悲鳴があがる。
    「……」
     慎重に息を吐き、アガーテは髪散らし縦横無尽に鞭を振るう女を瞳に収めた。
     ごとり。
     腕が解け、蒼の刃に爆ぜる音。唸りあげ突き出された腕は斜め下方へ向き、太ももの付け根を打った。
    (「捕らえた、ここからだ」)
     部位の壊れる音が耳朶なぞるのをしかと感じた。
     すかさずさくらえは漆黒の蛇を向かわせる。
    『蛇……ね、アンタ実は男だったりしてね』
     完璧な女の幻想が未だ張り付く眼でルイは、舌伸ばし漆黒の牙立てる蛇を追い払う。しかし頭は払われど、尻尾は先の太ももを狙いぎゅうと絡みつくわけで。
    『しまったッ』
    「キミの選択肢は他にもあったはずだ」
    『……はぁうッ』
    「ゴッドセブンに目を付けられてしまったことには同情するけれどね」
     ひゅんっと空間を斬るように差し向けた杖は、柩の名に恥じぬ死路への案内人。
    「けれどキミは自ら『今』を選んだ、ならキミに残された道は一つだ」
     凍えるような最後宣告。
    「自ら堕ちることを選んだのなら仕様がない」
     慈悲無き会話遮断。
     ――それは、恋に破れ助け求め縋った家人に突きつけられたモノを思い出させた。
     やり直したかったのに、まだ大人じゃなかったから、受け入れて欲しかったのに……。
    「ねえ、SでMでもいいかなって思うんだけど」
     痛み堪えるように肩眉あげる淫魔へ、響は最初の淫蕩さを脱ぎ去った無垢さを向けた。
    「淫魔の力を借りてでは、ただ、いじめて、いじめらて、だけだよね」
     しゅと、裂く精密さはまさに殺人鬼の持つ業。仲間への印たれと、足の腱を斬り少女は淡々と続ける。
    「そんなので『いちばん』っていわれて嬉しいのかな?」
     ぱらり、落ちた髪を払いあげるようにかき上げて。
    『……煩いコね。SとMなんて、虐待するかされるかしかないの』
     ……虐待。
     そのキーワードは、ずっと柔和な笑みを湛えていたミストラルの面に微細な罅を走らせる――その罅は、頼りない南国の雪が水たまりに落ちた程度の変化であり、他者が気付けるモノではないのだけれど。
    「……はは、確かにその通りだね」
     虐げられた、だからこそ――虐げたい。
    『綺麗な坊や、アンタの刃はぬるいの……よ?!』
     今度も捌くとミストラルを挑発するように翳した鞭、しかし捕まったのはがらあきの腰。
    「馬鹿なの?」
     剣に戻した刀身を差し入れ、奪う。
    「結局、自分に中身がないってわからないからこうなるんだよ」
     毒の笑みと暴力で。
     痛み喚起する疵痕がつくまで、相手の人間性を壊すまで、後の人生を呪いとして蝕むぐらいに――苛めたい。徹底的に、嬲りいたぶり貶め、虐げたい。


     攻撃に徹した光理を執拗に狙い地につけた、其れがルイにとっての唯一の先行き明るい材料である。
    『……ッはぁ、はぁ。まず、ひとりね』
     上がる息を整え謳を奏でる。酷く醜い不協和音、疵が塞がっているのにルイの心は不快へと傾いていく。
    「うぅ……ごめんなさい、ごめんな……さい」
     下唇を噛みしめて瞳に涙を溜める黒雛の手を引く母。つられて顔を上げれば、共に癒し手として支えたミナカタの主炎次郎と目があった。
     血に塗れた体躯、それはようやく効きだした怒りの成果。
    「う、うん。がんばる……っ」
     黒雛はこくりと頷くと、母を見送り炎次郎へ光を注いだ。
     灼滅者達の攻撃を受け流すコトが稀になり出しているルイへ、響は軽い足音で近づいた。
    「ねえ」
     ゆるり伸ばした華奢な指が握る小刀は、ルイからプライドと共に護りを引きはがす。
    「相手への気持ちがないから、いちばんになれないんじゃないかな?」
    『うるさい! アタシは女王よ、みんなひれ伏すんだから!』
     滲む涙をその瞳で見られた……其れが、痛い。
    『次はアンタをさらけださせてやる!』
     しかし鞭は怒りに流され炎次郎へ。
    「おい、攻めばかりじゃ喧嘩には勝てへんぞ」
     腕引かれ急速に近づく焔に、唇が震えた。けれど無様だけは晒さぬと悲鳴はかみ殺す。
    「歯ぁ食い縛れ!」
     焔から顔を庇いのたうつルイへ向くアガーテの眼差しは最初から変わらない。
    「私はあなたを否定しない」
     ……尊敬。
     劣勢になってなお逃げる気配見せぬ女。ひとり残らず屈服させるという宣言を護るためだろう――胸裂いた指を引きアガーテは頭を垂れる。
    「ちまちま周りと比べてたみたいだけど、こんな有様だと誰も比べて『くれない』ね」
    『……ッ』
     ルイの毒づきは晴れやかなるミストラルの哄笑で押しつぶされた。
    「ほら、避けてごらんよ。ああやはり脳みそが足りてないね、そっちに行くなんて」
     押さえつけて何度も何度も矢をつがえては射るミストラル。
     それはコレが普段弄ぶ水鳥玩具よりつまらぬ反応しかしないとミストラルが見限るまで、続く。
    「もう十分にいい夢は見られただろう?」
     仰け反る背後に待ち構えるように佇む柩は、倒れた喉元に杖を突き立てる。
    「大人しくボクが癒しを得るための糧となってくれたまえ」
     堕ちるのを選んだこの女はただの捕食される側だと、かつて闇堕ちを拒絶した柩は強者の眼差しで見下ろした。
     さぁ、
     時間だ。
    「キミの滅びる道に僕が花を贈ってあげる」
     おやすみなさい、と、舞台から奈落へ叩き落とすように、さくらえは膨れあがった腕を叩きつけた。

     ――何になるかもわからずそして何になることもできないなれの果ての空地にて、今宵、やはり何者にもなり損ねた憐れな落伍者がそっとその命を、散らした。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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