闇色ノ記憶匣

    作者:一縷野望

    ●心象風景
    『――殺した殺した、君が殺したんだよ』
     あの日、厳かなる神祀る処は清浄とは逆さまの空気が満ちていた。
     ぺたり。
     輝乃はその感触を思い出す。ねばった赤水が足裏に張り付き床に縛り付けるような……そう。
     恐怖。
     哀しみ。
     恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖苦痛恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖、苦悩。
     ……………………悔悟。
     人前では決して泣かぬと心に鍵をかけた少女は、頭を抱え蹲り嵐で揺られる木の戸のようにカタカタと震え続ける。
    「違う、違う」
     紡がれる否定の声は叫びすぎてもはや嗄れ。心の奥底、声帯を使用していなくてもそうなるのが妙に可笑しくて。
    『違わないさ、愛する人を失った絶望で『人から闇へ完成した父親』を、君が殺したんだよ?』
     ――都合良く忘れていた罪を輝乃の『闇』は謳い、絵巻のようにるりるり広げ嗤ってみせる。繰り返し繰り返し。
    『まぁでもさ、いいじゃない』
     崩壊寸前の心を護るように縮こまる、その腕を掴みつるしあげると『闇』は唇を耳まで裂けさせた。
    『大切なものなんて、その小さな指の隙間を抜けて落ちていくのさ。だったら最初から壊しておけばいいんだよ』
     にたりにたり。
     首を揺らしいたぶる度揺れる髪は、輝乃が闇へ堕ち殺しきった賭け事好きの女に似ている。それがまた、傷口をガリガリとひっかき幼い心を嬲る嬲る。

    ●現
    『――』
     内にそんなおどろおどろしい責め苦を抱えながらも、線香を嗅ぎ墓前で手をあわせる羅刹の佇まいは妙に澄んでいた。
     翡翠と蒼天をまとめる陽の結び、和の衣纏い彼女は待っている。灼滅者達が輝乃の両親が眠る此の地に訪れるのを――。
     
    ●予知
    「やっと……見つけた。よかった、まだ罪は犯されてないや……」
     文庫本めいた手帳をぎゅうと握りしめて、灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は小さく息をついだ。
     六六六人衆・白妙の令嬢との死闘で闇堕ちした琶咲・輝乃(相対する守護の龍と破壊の鬼・d24803)は今、山間にひっそり佇む神社にいるのだという。
    「……輝乃さんのご実家、なの……ですね」
     機関・永久(リメンバランス・dn0072)はぽつり呟いたきり、黙る。
    「皆が辿り着いた時、闇堕ちした輝乃さんは墓前に手をあわせている」
     もちろんそんな所では仕掛けられないし、意外にも向こうから戦いにむいた場所への移動を促してくる。
     そして戦場についたら、ダークネスは即座に兇刃を向けてくるので油断してはならない。
    「輝乃さんを取り戻すには、戦うしかないよ」
     輝乃を塗りつぶしているのは滅芽というダークネスである。 聞かれなければそう名乗ることはないけれど。
     滅芽は非常に残忍で残酷な破壊の権化だ。壊れにくい灼滅者へは天敵であるというコトもあり強い嫌悪を抱いている。
    「滅芽は、心の深淵に堕ちた輝乃さんをいたぶっている。過去の罪を見せつけて、ね」
     忘れていたのだ。
     父を、沢山の人を殺めてしまったという過去を。
     妻を亡くし絶望から闇堕ちした父に襲われて、必死で抗った結果――殺してしまった。それが『哀』の感情を代償に心を護るために封じた記憶。
     ダークネスはこの過去を引きずり出し輝乃に浴びせて心から愉しんでいる。
     その上で、輝乃を救いに来た灼滅者達を全て壊し、仕上げとしゃれ込むつもりだ。
    「特に輝乃さんが特別な感情を抱く人や、義兄弟と思っている人を狙い斃し……トドメを刺そうとするよ」
     奴は破壊の権化だ。
     感情が結ばれていないからといって攻撃対象から外れるわけではないので、そこは勘違いしてはならない。
    「奴は神薙使いと人狼のサイキックを使用するよ」
     特に禍々しき邪竜の如き巨腕から繰り出す鬼神変を好んで使うのだという。気を抜けば短時間で意識を狩りとられてしまうだろう。
    「ダークネスに痛めつけられてる、輝乃さん。彼女に……俺達の声は、届くの、でしょうか?」
     永久の問いに標は一度躊躇い、すぐにこくりと頷いた。
    「届くよ。ううん、届かせて。言葉をかけるのを諦めないで。でないと……」
     これ程の力量だと灼滅者側が押し切られてしまいかねないと、エクスブレインは言外に告げる。
     もし無理矢理に斃せたとしてもそれはダークネスの灼滅。輝乃という少女は永遠に失われてしまう。
     輝乃に呼びかけて絶望から救い出すコトが必須なのだ。
    「じゃあ俺は……うん。輝乃さんに伝えたい言葉ある人、ついてきて、ください」
     永久は紫苑を眇め、教室に集まる熱へ小さく頭を垂れた。
    「真実を知り絶望している輝乃さん。罪を封じるために『哀』を失い泣けなかった輝乃さん」
     大人びている彼女だけれど、まだたった8歳の少女。
     親の庇護下にあるべき時期に過酷な経験をし、学園に辿り着いて……ようやく表情の彩を灯しはじめた彼女の闇堕ち。
    「どうか、こんな命の結末にしないであげて」
     お願いだよ、と標は予知を締めくくった。


    参加者
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)
    四季・彩華(自由の銀翼・d17634)
    双見・リカ(高校生神薙使い・d21949)
    笹川・瑠々(はいてない狂殲姫・d22921)

    ■リプレイ

     あの日、妻を亡くした彼の絶望が芽吹き、忘れ形見の少女に消えぬ疵を穿った記憶。
     その匣を一生開けずに済ませるなんて弱さ、忘れてしまうがいいよ。


     ダークネスの髪が抜けるように白く変じたのに、双見・リカ(高校生神薙使い・d21949)が注意を喚起する。
    「滅芽」
     即座に、爆ぜ柘榴の如く膨れあがったかぎ爪が四季・彩華(自由の銀翼・d17634)の繊細な腰に向け翻った。
    「輝乃を取り返しに来たよ」
     瞼を下ろし勢いを殺すように慈悲の白雪を胸前で構え、
    「さあ……壊せるものなら、壊してみなよ」
     挑発する。
     ……しかし、痛みは訪れない。
     瞳開けば、自分を背に庇い二の腕を贄に差し出す鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)の背中が映る。
    「刻まれた罪は消えやしなくとも未来なら変えられる」
     あの日の後ろからの優しい熱を忘れない。
    「俺にそう教えてくれたのは」
     琶咲輝乃――だからその名を、呼ぼう。
    『ふうん、輝乃は優しいんだね~♪』
     からかい露わで二人の刃をじゃれるようにはじき返す。
     ここあのしゃぼんの行く先見据え、望月・心桜(桜舞・d02434)は髪色の帯に指をあてる。
    「わらわ、思うんじゃよ」
     心桜はカチリと帯留めを外した。解けた帯は脇差をくるみ、癒しと護りを其の身に授ける。
    「その罪は、人を不幸にさせるための罪ではなかったんじゃないかって」
    『輝乃は今から君たちにしようとしてることを、父親にしたんだよ?』
     ――内側で震える娘が角のある部分をぎゅうと押さえ込む。
     ごめんなさい、ごめんなさい……と、枯れ尽くした声が胸に響く度、滅芽というダークネスは口を歪め嗤う嗤う。
    「琶咲」
     禍々しい龍鱗に覆われた手を引き寄せて、木元・明莉(楽天日和・d14267)は膝を折った。
    「琶咲はまだ子供だ、だから焦んなくても構わないよ。無理に向き合う必要はない」
     怯え泣きじゃくる子を宥める優しい笑みで、明莉は輝乃へ、そして滅芽へも呼びかける。
    『甘い言葉で宥めようったってそうはいかないよ?』
     鋭く狙う蒼は抜け目なく止められて、桜が散るように蒼を零した。
    「……そんな優しい話ではないけどね」
     すと、再び身を屈めた明莉の背を超えて赤の嵐がやってくる。
    「輝ちゃん」
     情熱のリングスーツに腰には黄金のベルトを巻いた稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)は、二の腕内側でダークネスの首を狩る。
    「人間誰でも、一生を過ちなく過ごす事はできないわ」
     ここが本番、鋼鉄の拳を額に叩きつける。
    『くー……』
     星が出そうな痛さを堪え幼子は喚く。
    「罪ってのは赦されるものなの、己ではない誰かによって、ね」
    『赦されるわけないよ』
     希望を遮断するように言い切る娘は、手の甲への違和を感じ慌てて手を引いた。
    「それを決めるのはお前じゃない」
     闇に咲く赤色光の如き瞳を眇め、杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)は刃を鞘に収める。
    「ほら、周りを見てみなよ」
     宥氣が話したいのは『輝乃』
    「君の為に皆が来てくれた。皆、輝乃さんを大切に思っているからこそなんだよ」
     空を包むように、集った者の心が声となりたゆたう。皆が違う言葉を発しているのに、それはとても柔らかく耳に心地よい調べだ。
    「……聞いて、ください。耳をふさが、ないで」
     機関・永久(リメンバランス・dn0072)が張った糸を辿るように、リカが前へと踏み込む。
     鋭さに預けた巨腕は、身をよじるダークネスの上半身を捉え後ろから激しく揺さぶった。
    「琶咲さん、これは琶咲さんの力だよ」
     集まった皆へ振り向かせるように、殴った。
    「みんなは琶咲さんのために集まったんだもの」
     自分と同じ力を持つ少女を。
     三分の一を癒し支える力に裂く意味を知る者として、輝乃が抱く優しさを自分でも気付いていないそれを標にしたい。
     ヒュ。
     糸で縛られつんのめるタイミングで、刃が太ももを押えるように奔った。
     血の糸を引き大鎌を天へ流しあげた笹川・瑠々(はいてない狂殲姫・d22921)。主を支えるように回り込む古鉄丸は、体躯揺らす衝撃と共に無数の銃弾を吐き出す。
    「お主が居ないとパーティーの防衛ラインが壊滅するではないか!」
     地にさしたもう一振りの柄に指をかけ、瑠々は不遜に片眉をあげた。
     連れ戻すのだ、罪に怯える大切な彼女を――。


     ――ガンッ!
     古鉄丸の紅蓮の装甲が、龍の一手で剥がれる。
    「古鉄は装甲の厚さが取り得じゃ、そう簡単に抜けると思うな?」
     限界が近い自覚は、ある。
     庇いにまわる脇差、宥氣は回復に重点を置いている。また心桜とここあも仲間の体力の減衰を少しでも見逃さないと、迷宮鎧と桜火の色変え仲間を必死に支える。
     しかし攻撃手の晴香と瑠々の重い一撃は毎回敵を捕らえるわけでは、ない。
     このように、暴虐的な滅芽の前でも堪えるには秀でていたが、痛みを与えるには些か弱い布陣と言える。
     全て理解し、故に彩華は時間を稼ぐべくわざと己が身を晒す。
    「輝乃を想う繋がりや絆が、僕を守ってくれたから……」
     庇わないでと目配せし土蹴り前へ。その腕を敢えて掴み堰き止めるように胸の肉を暴かせた。
    「壊すことはできないよ。そして解決もできない」
     彩華の次手の判断の前に、滅芽とリカ双方からの風が草木を天へ向ける勢いで駆け巡った。
    「効果はボクの方が上だよ」
    『どこが? 殆ど直ってないのに?』
    「対象が多いからね」
     リカの風は前に立つ全てを包み小さな疵をそぎ取った。
    「これが四季さんが、そしてみんなが言う絆の力」
    『ああ、そういうことか。確かに数の暴力は面倒だよねー』
     でも面倒なだけ。
     滅芽は気付いている、灼滅者達が彩華を傷つけまいと立ち回っているのに。
     拘っている内に輝乃が顔をあげるのを待っているのだ。
     であれば、現実を知らしめるため誰彼構わず壊してしまうのが、良策。
    「変えようが無い過去を悔やむ意味は無い」
     因果は古鉄丸に託し、手にするは螺旋。巡るように捻り渾身の力でもって瑠々は振り下ろす。
    『輝乃の愚かさはそこじゃない、忘れていたこと』
     痛烈な痛みに滅芽は歯がみする。
    「しかし、今、失わない努力をする意味はある!」
    「そう、だからこそ壊すんじゃなくて守らないといけないと思う」
     音もなくつきだした掌底から、蒼と黒色混ざり合う光が弾け出る。それは静逸な声音で語り苛烈な攻撃を見舞う宥氣そのものだ。
     陰と陽、それぞれ極まれば反する要素に染まるという――。
    「確かに大切な人や物は簡単に自分の元を離れてしまう」
     だから護るのだ。
     壊してはならない。
     宥氣はかっきり言い切った。
    「ボクはみんなと共に在る力を選んだ優しい女の子を戻してあげたいんだよ」
     巨腕を撓らせリカは囁く。
    『優しい? 輝乃の何を知ってるの知らないよね?!』
     辛うじての相殺。
     ――輝乃の優しさ、それは滅芽が顕現しているコトが証明している。
     命を救いきるために、自らを省みずこんな恐ろしい匣をあけたのだから……。
    「人殺しの罪を背負っていても構わない、待っている」
     滅芽の視線が彩華から逸れた、その事実を慎重に受け止めて脇差は人の命を吸った刃をすらり抜く。
     声が届かねば止まらないのだろう、だがまんじりともしてられない。
    「お前が言ってくれたんだ」
     その言葉が人に戻してくれた、生きていてもいいと赦してくれた。
    「ほら、輝ちゃんは赦して救ったんじゃない」
    『それが免罪符になるとでも?』
     薙ぎ払われた晴香は逆らわずに横倒し、だが倒れきる前に蹴り上げたつま先は滅芽の膝裏を鋭く叩く。
    「極限状態で己を守る為に犯した罪は、重く問われない――『人間は誰しもそうなりうる』から」
     上半身を血に染めながらも地面を転がり、晴香は膝裏への蹴打は止めない。連れ戻すには力業が必要だと知っているから。
    「約束したよな、一緒に思い出作るんだって」
     心臓を突きその奥で震える子へ届かせるように脇差は喉を振るわせる。
    「うん、だからそのままの輝乃嬢に帰ってきてほしいんじゃよ」
     ……ああ、本当ならば。あなたがくれたこの焔、あなたを照らしあなたの心の苦しみを燃やし尽くしたい。
     彩華を中心に盾と剣の仲間を包み、心桜は胸を痛めた。
    「輝乃嬢」
     待ってると囁き首を傾けて、桜の髪をやわらに流す。受け止める心はここにあると示すように。
    「私達はそれを知った上で、戻ってきてほしいの」
     あなたを包む社会は思うよりずっと懐が深いと立ち上がる晴香が継いだ。
    『でも……輝乃は壊したんだ、壊したんだよ?! あんなにあっさりと父と他の人を。あの肉の爆ぜる感触を忘れちゃだめなんだ』
     ……闇に堕ちて襲い来た父の修羅を忘れさせるものか、もう二度と。
     鍵爪に曲げた掌をわなわなと蠢かせて、滅芽はだだっ子の様に白い髪をぶんぶんと左右に揺らす。
     その意地は、闇に堕ち頑なだった自分を見せられているようで、脇差は小さく苦笑する。
     ――大丈夫、それなら連れ戻せる。同じならば。
    『ッ! きゃ』
     その姿が火煙に巻かれ一瞬消失したかのように、見えた。
    「琶咲」
     銃身に描かれた桜をなぞれば指の先には桜繋がりの心桜がいる。
    「滅芽嬢」
    「うん……琶咲と滅芽、聞いて欲しい」
     託すようなはにかみ笑いに頷いて、明莉は焔に巻かれる少女の両手を取りぐいと引き寄せた。
    「大切な物は例え壊しても消えやしないよ。形が失くなろうと忘れようとしても心にはずっと残る」
    『そんな事……』
    「もし嫌だと思っても絶対に消えやしない」
     忘れて封じたモノが溢れかえるのは必然だったのだと、明莉は穏やかに諭す。
    『え……』
     ――壊したモノが大きすぎて、受け止めきれず消した。その罪に苦しむ幼子は耳を澄ます。
    「結構残酷なモンだろ?」
     でも、優しい。

     ――ボクは……。
     怖いモノが周りを踊っている、だからそれを消す様に唱えたごめんなさいが、止んだ。違う、少女はようやく止めたのだ。
     そうして波のように響く外からの声音に身を委ね目を開ける。
     と。
     ――!!!!
     心の深淵、輝乃の瞳に映し出されたのは、砕かれた古鉄丸の傍で赤い花を咲かせる瑠々の無残な姿だった。

     明莉の腕を振り払い、ダークネスは即座に瑠々の腹を貫く。
    (「やああああああああ! ごっごめ……んなっさ……ぃ」)
    『あはははははは! さあ輝乃、昔々のはじまりだね。いや今度はもっと酷いかな、何しろ助けに来た人を……』
     黙れ。
     ぺたり。
     血に塗れた掌を瑠々はダークネスの口元に押し当てる。
    「あのな……お主ばかりでは無いのじゃよ……妾も……父を、手にかけている」
     同じ罪を背負いそれでも生きているのだと残し少女は崩れ落ちた。
    『……あ、あぁあ』
     抱き留めようとした輝乃の腕をすり抜けて。


    「お願いだよ、聞いて! キミが歩んできた道、広げてきた輪、積み上げてきた想い」
     ようやく見えた輝乃の萌芽、手折られる前にとリカは後ろで呼びかけ続けていた皆へ腕を伸べる。
    「これだけの方が力になりたいと思っているのです!」
     頷く翡翠の背でばさり、帰り待つ仲間の思い連ねた旗が翻る。
    「輝乃! 聞こえるかァ兄ちゃんだぞォ!!」
    「見えるか、琶咲。お前の帰りを祈る者達の言葉が」
     亮太郎と久遠は旗広げ枯れた喉を振り絞る。
    「お別れなんて嫌です」
    「輝乃、ちゃんと生きて」
    「またお話しまょう」
    「そのままでいいんだよ」
    「さぁ、帰りますよ」
    「罪は一緒に背負っていくよ」
    「笑顔になれるような『これから』を作りましょう」
     仲間と一緒に。
     望、パンドラ、桃、翔也、空虎、ライラ、ジュンの声に輝乃の震えが止まる。
     帰ってこいと赤兎。
    「自身の闇に、負けないで!」
    「恐怖も哀しみも……一人のものじゃないのよ」
    「目を見開き、見なさい」
    「失うのが辛くてない方が良いなんて、間違ってるんだ」
     玲那、紅葉と朱香に続き、ユリアーネが叫んだ。
    「随分と臆病じゃないか、羅刹!」
     旭の挑発に振り向いた滅芽へ清音が相対する。
    「あなたを迎えに来たの……」
    「輝乃、お前が居た事で、護れた命が確かにある」
     死地から帰してくれた恩に報いたい、二人の声が揃う。
    「戻ってきてほしいでござる!!」
     万感籠めて討魔。
    「あなた自身にも大切なものを守るだけの力はある」
     妹風蘭に続き「沢山の声無視できるはずがない」と朱毘。
     マスクを外しエリザベス。
    「あなたの証がその罪だけだなんて、許せないわ」
     一緒にしたいことは沢山ある。
    「もう大丈夫だ、我慢する時間は終わりだ」
     泣いてもいいと兼弘は腕広げた。
    「人間ってね、ダークネスから見りゃちっぽけな存在だろうけど……」
     滅芽が浮かべば下げるように晴香は蹴り上げ肘を入れる。
    「驚く程の懐の深さを持ってたりするのよ、時々ね!」
     更に声を聞けとがっちり掴みかかりバックドロップ!
    「ダークネス、琶咲にとって致命的ならば、お前に対しても同じ筈」
     その愚を知れと理利は厳しい眼差し。
    「絆が強ければ自分から離れない。だから安心して戻ってこい」
     もう攻撃手に手は出させないと、宥氣は巨腕掴み引き込み押さえ込む。痛みと疵は文具の光がそっと塞ぐ。
    「ダークネスなんかに負けないで!」
     上空箒にのった柘榴の声がこだまする。
    「御面屋のみんなも待ってるのじゃ」
    「もっと甘えたり頼りにして良いんですわよ?」
    「『ともだち』助けるのに、理由はいらないよ」
    「手前を想う皆の下へ帰ってこい。琶咲・輝乃ぉ!」
     翔、桜花、依織、あわせるように三成が芯強い声響かせる。
    「ここで終わりにはさせませんよ、ミコトさん」
     愛し人の命奪い、だからこそ知った手を繋ぐ尊さを巧は説く。
     糸括で紡いだ縁。日は浅くとも想いは強い。お花見の写真を翳して懸命に喉を枯らす。
    「君の名前は誰がつけた? 君の両親だろう?」
     輝願った人の娘を堕とした儘にするものかと、渚緒。
    「三色団子、美味しかったね!」
     8年しか生きてない、まだまだ続きの未来はあると、ミカエラ。
    「過去があるから、今の、未来の輝乃ちゃんがいるんだよ」
     大好きだから迎えに来たと和奏、そんな人はいっぱいいるんだと両手を広げ。
    「大丈夫よ、あなたが大事に思ってる人達は簡単に壊れやしないわ」
     糸括では入れ違いだったけれど、脇差の闇へは共に立ち向かった銘子は後ろからそと支え。
     糸伸ばす永久の唇が「羨ましい。でも、良いコト」と動くのを有無は見た。
    「大丈夫、大丈夫」
     泣いて喚いて、それで一縷の希望が残るなら。
    「あたし、またてるのちゃんの絵が見たいの! まってるよ!」
     だから戻ろうと杏子。
    「日常で楽しそうに笑う貴女こそ本当の貴女です」
    「今まで通り遊んだりお話したいです」
     京一に続くセレスティは、繋いだ親友の手を引き導く。
    『……うる、さい』
     耳塞ごうとする手を取り彩華はそっと頬を包みこんだ。
    「一人なら零れ落ちていく大切な物も、他の人の手と一緒に包めば守りきれる」
     輝乃が大切にした人達、だから此処に駆けつけてくれた。
    『でも、ボクはボクはッ……』
     黒に変わりはじめた髪を梳くように包んだのはセレスティの隣にいた義姉彩歌。
    「輝乃がいない部屋、とても寂しいです。輝乃がいるのが当たり前……家族、です」
    「お前は優しい子だ、でも抱え込むのは悪い癖だぜ?」
     義兄亮太郎は髪をくしゃり。
    『……う、うぅ』
     震える口元、瑠々の手を繋ぎ幼子はぎゅうと着物を握りしめる。


    『輝乃、輝乃……ああ、うるさい、うるさいうるさいうるさい!』
     髪を半分以上黒色に戻した少女は、ぎゅうと耳を塞ぎしゃがみ込む。
    「のう、滅芽嬢」
     ……貴女が消えてしまう前に。
     心桜は絆の桜燎園に灯る火のようにふわり微笑む。
    「壊すことで輝乃嬢を守ろうとしてたんじゃよな」
    『……っ』
     怯え瞳に涙を溜めながら、泣くことが出来ない貴女へ。
    「わらわたちを信じてもらえんかな。わらわたち、そう簡単に壊れんよ」
    『本当に?』
     その声は既に輝乃嬢。だから――お眠り、滅芽嬢。

     ――誰かを支えられる場所におかえりなさいとリカは口元を崩した。
    「おかえり、だな」
     腕を組む脇差は「よ」と手をあげて照れたようにそっぽを向いた。
    「ただ……いま」
     そう言って良いのか、まだ戸惑いが大きい。
    「お帰りなさい、私達のかわいい輝ちゃん」
     疵だらけの晴香へ、瞳を見開きごめんなさいと俯くのがらしい。
    「もう、泣いても大丈夫よ」
    「ええ」
     ぎゅう。
     強く抱きしめて、彩華は切々と紡ぐ。
    「君がいなくなってから、何だか、色あせてしまったような日々が続いた。僕だけじゃなく、きっと皆も……」
     寄せ書きの旗を持つ義兄と髪をくしゃり撫でる義姉。
     ――おかえり。
     彩華と明莉、心桜の声が交差する。糸括の皆で桜の写真を見せて、破顔一笑。
     輪の中にいる輝乃へ二三の言葉を紡ぎ、返事を待たずに宥氣は背を向けた。
    「ねぼすけがようやく目を醒ましたか、のう」
     サポートの手当を受けて、瑠々は起き上がり謝る前ににんまり笑って頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

     怖いモノを詰めて封をした匣が、開いてしまった。
     開けた指が、震えた。
     でも、
     大丈夫、大丈夫、と、沢山の手が伸びてきて撫でてくれたし支えてもくれた。
     恐がらなくていい。
     ゆっくりでいい。
     何があっても手をはなさない。
     変わらない。
     大丈夫。
     …………両手にいっぱいもらった大好きの欠片、未来へ歩きながら返せるだろうか?
     ううん、返していこう。
    「…………ありが、とう」
     この言葉を起点に。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 22/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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