鬼の酒盛り

    作者:天木一

    「暑くなってきたな」
    「この陽気じゃもう夏だぜ」
    「喉が渇いたな、そこのコンビニで飲み物ゲットしようぜ」
     雲一つないような強い日差しの中、髭を生やしたむさ苦しい3人の男達がコンビニに入っていく。
    「お、ここ酒あるじゃねぇか」
     おもむろにビールを取り出すと蓋を開けて飲み始める。
    「お、お客さん、買う前に飲まれては困ります!」
     そこへ慌てて店員が駆け寄ってくる。
    「あ? そんな細けぇこと気にすんなよ。お前も飲め飲め!」
     男は店員を捕まえて無理矢理酒を飲ます。
    「あぶ、ぶはっげほっげほっ」
    「そら、つまみもあるぞ」
     咳き込む店員を見て笑いながら、男達が商品の食べ物を勝手に開けて食べ始めた。それを見て店内に居た客達は慌てて逃げ出す。
    「またビールかよ、酒はやっぱ日本酒だろ?」
    「何言ってやがる、こんな暑い日はビールが最高なんだよ!」
     2人の男が言い合いながら次々と酒を飲み干していく。
    「やれやれ、俺は酒よりこっちだな」
     そんな様子を肴にちびちび酒を飲みながら、残りの男はタバコを吹かす。それも店から勝手に奪ったものだった。
     店のものを好き勝手に飲み食いする宴会を続けていると、外で一台の車が止まった。
    「お巡りさん! あそこに居る奴らです!」
     もう1人居た店員が警察官2人を呼んで店に戻ってきた。
    「君達、店内で酒盛りをしちゃいかん」
    「ほら、立って!」
     警察官達が酔っ払った男達の腕を掴む。その拍子に手元の酒が零れた。
    「何をしやがる!」
     男が腕を振ると、警察官の体が壁に叩きつけられた。
    「げぅっ」
    「抵抗するか!」
     もう1人の警察官が銃を抜くが、横からその手を掴まれ、銃ごと握りつぶされた。
    「ぎゃああああ」
    「酒の席で無粋な真似をするなよ、なあ」
     叫ぶ警察官の頭から酒をかけた。いつの間にか3人の男達の見た目が変わっていた。皮膚の色が赤、青、黄色になり、頭からは角が生えている。それは物語に出てくる鬼の姿だった。
    「そらそら、まだまだ宴会は続くぞぉ!」
    「飲め飲め!」
    「がっはっはっはっ」
     誰も止める事の出来ない傍若無人な酒飲み達の宴は続く。
     
    「春には陽気に当てられて、羽目を外す人が出てくるものだけど、今回はそんな羅刹が事件を起こすんだよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者に事件の説明を始める。
    「3体の羅刹が徒党を組んでいてね。コンビニで勝手に酒盛りを始めて、止めようとした警察官に重傷を負わせてしまうんだ」
     羅刹はそのままのうのうと酒盛りを楽しみ、店を滅茶苦茶にして去っていくのだという。
    「みんなにはそうなる前に羅刹を倒して欲しいんだよ」
     現場には羅刹が来る前に到着する事ができる。上手くやれば被害を最小限に抑えることも可能だろう。
    「敵の情報はわたしから。羅刹は3体。それぞれの個体はそこまで強くはないようだ。だから3人で組んで動いているのかもしれないな」
     貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が引き継いで説明を続ける。
    「現われる場所はコンビニ。そこを占拠して好き勝手に飲み食いするのが目的のようだ」
     邪魔をしなければ一般人が襲われるような事はない。
    「無銭飲食で暴れるなど、春だからという理由で片付けられるものではない。今回はわたしも同行させてもらう、共にこの鬼達を退治しよう」
     灼滅者に向けてイルマがよろしく頼むと一礼した。
    「やる事がせこいダークネスだけど、それでも一般人からすればどうしようもない脅威だからね。みんなの力で解決して欲しい。お願いするよ」
     誠一郎が言葉を終えると、灼滅者達は作戦を練りながら現場へと向かった。


    参加者
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)
    レイヴン・リー(寸打・d26564)
    夏村・守(逆さま厳禁・d28075)
    坂東・太郎(シスコン拗らせました・d33582)

    ■リプレイ

    ●準備
    「いらっしゃいませー」
     どこにでもある街のコンビニに、若い男女の集団が自動ドアを潜る。それは客を装う灼滅者達だった。
    「人に迷惑かけなければ随分楽しそうな羅刹だな、で済むんだけどね。さすがに度が過ぎると対処しないわけにはいかないな」
     紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)はコンビニの本棚で雑誌を読みながらも、鬼が来ないか外の様子を窺う。
    「無銭飲食かぁ……なんかみみっちい感じ。自分でお金出してでも欲しい物にはきちんとお金を払うべきだし、そうでないものは欲しがらなくていいのに」
     何か面白そうな期間限定商品はないかと見て回る坂東・太郎(シスコン拗らせました・d33582)は、事件が終わったら買って帰ろうと購入リストを作る。
    「無銭飲食メインで灼滅されるとは思わないよなあ。ま、暴力アリかつ手配も出来ないんだから俺等が頑張らないと」
     ジュースを選びながら夏村・守(逆さま厳禁・d28075)は呆れたように呟き、行なわれる前に阻止しようとペットボトルを手にするとレジに向かう。
    「自由気侭、と言えばまだ聞こえも悪くないけど……こういうのは困るよな」
     闇を纏い一般人の視界から外れた迫水・優志(秋霜烈日・d01249)は、怪しまれぬよう仲間達が開けた自動ドアを潜って店内に入っていた。そして中の人数を確認するとバックヤードに忍び込み、監視カメラを切った。
    「馬鹿共の被害に遭わせる訳にはいくまい、戦いに巻き込まぬようにせねばな」
     それを受けて、爺臭い口調の白スーツを着た雛本・裕介(早熟の雛・d12706)は無風の店内に風を巻き起こす。穏やかな風はまどろみを誘うように人々を眠らせ、崩れ落ちる一般人を気遣うように支える。
    「その通りだ。戦いが始まる前に安全な場所に運ぼう」
     同じように貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)も客を支えて、引きずるようにバックヤードへと運び始める。
    「真っ昼間から酒盛りとは良いご身分だ。教育上宜しくない光景故、即刻退場させて灸を据えねばならんな」
     そう言ってヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)はバックヤードに店員を寝かせてた後、コンビニの入り口の方へと向かう。
    「よし、これで最後だぜ」
     レイヴン・リー(寸打・d26564)が上半身を霊犬の王狼が下半身を引っ張り、店内に残っていた最後の客を連れ込む。
    「ここはわたしに任せてください」
     手伝いに参加していた晶子が一般人を護る為バックヤードに残る。頷き任せると言って灼滅者達は店の方に戻った。
    「ちょうど来たようだな」
     出入り口付近に居た銀城・七星(銀月輝継・d23348)の視線の先には、こちらに向かって来る3人組みの男達の姿があった。
     ヴァイスは殺気を放って一般人を遠ざけ、太郎は音を封じる結界を張った。戦いの準備は全て整った。

    ●3色鬼
    「暑くなってきたな」
    「この陽気じゃもう夏だぜ」
    「喉が渇いたな、そこのコンビニで飲み物ゲットしようぜ」
     むさ苦しい3人の男達が店に足を向けると、ちょうど店から出てきた集団と向かい合う。
     男達はお前らがどけとばかりに道を開ける様子は無い。
    「じゃ、始めるぜ! 冷たい一杯の前の運動如何ですかってな」
     真っ黒の大百足となった守が取り込んだギターを鳴らして轟音を放つ。音が凶器となって吹き抜け、突然の衝撃が男の動きを止めた。
    「邪魔だ」
     そこで優志が真ん中の男を蹴り飛ばす。
    「なぁ!?」
    「何しやがるテメェ!」
    「ブチ切れんぞコラァ!!」
     男達が一瞬にして頭を沸騰させて怒鳴りつける。
    「出るほうが優先だ」
    「テメェがどきやがれ! ぶっ殺すぞ!」
     挑発する優志に隣の男が殴りかかろうとする。
    「邪魔をしなければ襲われない。……なら邪魔をすればいいわけだ」
     ニヤリと笑った殊亜がカードを解除すると、現われたキャリバーに乗り、一気に加速して拳を振り上げた男を撥ね飛ばした。
    「ぐぉおああ!」
     勢い良く男は地面を転がっていく。
    「随分陽気そうだね。頭の中が宴会場なのかな?」
    「んだとコラ、もう冗談じゃすまねぇぞ小僧!」
     嘲るような殊亜に向け、残る1人が右腕を巨大化させて水平に大きく振り抜く。
    「馬鹿は死んでも治らぬとは良く言ったものよな」
     その攻撃と同時に裕介も魔力を込めた魔杖を振り抜いていた。強烈な力がぶつかり合い反動で互いに仰け反る。
    「こちらも冗談で済ます気は無い」
     その隙にヴァイスが懐に飛び込み、腹に拳を叩き込んで吹き飛ばす。
    「俺達にケンカ売ってくるたぁな。たまげたぜ、全員ミンチにしてやるぁ!」
     起き上がった3人の男達の体が膨れ上がる。頭からは角が生え、そして皮膚が硬く変色し、赤、青、黄の3匹の鬼となった。
    「この身、一振りの凶器足れ」
     そんな姿に怯む事無く、七星は冷徹に見つめ殺気を放つ。殺意はどす黒く広がり鬼達を包み込んだ。
    「この程度でびびると思うな!」
     踏み込んだ黄色の鬼が前に立って棍棒を振るう。すると殺気が消し飛んだ。
    「続けていくぞ小僧ども!」
     赤鬼が分厚く、まるで刀のような鉈を持って七星に斬り掛かる。だがその前に王狼が咥えた刀で受け止めようとするが、勢いに負けて吹き飛ばされる。
    「ダークネスだからって人間のものを好きに出来ると思ったら大間違いだぜ。今日ここに来たことを後悔させてやる」
     その間にレイヴンがオーラの塊を飛ばしていた。オーラは死角から襲い掛かり赤鬼の眼前に迫る。
    「ぶぉ」
     不意を突かれ赤鬼は顔に直撃を受けてよろめく。
    「こん餓鬼がぁ!」
     そこへ青鬼が石を投げつける。石とは言っても握り拳よりも大きなものが砲弾のように飛んで来る。
    「無銭飲食するくらいだから、手癖は悪そうだねぇ」
     その前に立ち塞がる太郎は影を立てて壁にするが、石は影を貫通して太郎の腕に当たり骨にひびが入る。反撃にウイングキャットの信夫さんが魔法で鬼を縛りつけようとする。
    「ぬるぃ! こんなもんで俺を止められるか!」
     魔力の戒めを無視して青鬼は新しい石を手に出現させ、投げつけてきた。
    「来ると分かっていればやりようはある」
     イルマの影が獣となって飛びつく。鉤爪が石に当たり、軌道を逸らして誰も居ない空間を飛んでいった。
    「怪我はお任せだぜ! だから安心して戦ってくれよな!」
     守が投げた光輪が分裂し、太郎の身を護るように浮かぶと腕の傷を治していく。
    「俺達羅刹にケンカを売った事を後悔して死ね!」
     鉈を振りかざした赤鬼が突進してくる。
    「はいはい、徒党を組まないと暴れられない三流がデカい口叩くなよ。とっとと灼滅されちまえって」
     優志が漆黒の縛霊手を展開し、その目の前に結界を張り巡らせる。
    「ぬぉっこんなもので鬼の力が止められるかぁああ!」
     結界に取り込まれた赤鬼が動きを鈍らせながらも足を踏み出し、優志の頭上から鉈を振り下ろす。だが直撃する寸前、間に入った太郎が包丁で受け止める。
    「そちらの攻撃も温いね、やることも攻撃もみみっちいなんて、鬼って情けないのかな」
    「舐めるなよ小僧!」
     赤鬼が両手で鉈を持って力をいれて押し込み、そのまま太郎を真っ二つにせんと気迫を込める。そこへヴァイスが飛び込んだ。
    「暑苦しいな、付き合っていたら余計に気温が上がりそうだ」
     腕に装着した巨大な杭が撃ち出され、鬼の硬い皮膚を貫き胸に食い込む。赤鬼は杭を掴んで引き抜こうと力を入れた。
    「隙ありだぜ」
     続けてレイヴンの影が赤鬼の背後に伸び、背中に影の刃で斬りつけると、赤鬼の力が弱まった隙に太郎は飛び退き、振り下ろされた赤鬼の鉈は地面を抉る。
    「テメェら何しやがる!」
     黄鬼がフォローに入ろうと赤鬼に近づこうとするが、その前に殊亜が立ち塞がる。
    「連携されると厄介だからね、各個撃破させてもらうよ」
     邪魔だとばかりに棍棒を振り抜く黄鬼の一撃をキャリバーで受け止め、殊亜は跳躍して飛び降りながら上段に構えた炎の剣を振り下ろす。
    「打ち落としてやるぁ!」
     黄鬼は棍棒を構えて迎撃しようとするが、その足が引っ張られてつんのめるように動きが止まる。足元を見れば影の獣が足首に喰らいついていた。
    「そうはさせん!」
     その影を操るイルマに黄鬼の意識が一瞬逸れる。その隙に炎の刃が黄鬼の肩を深く裂き、炎が傷口を焼いて黒く固めた。
    「ぐぉおおお!」
    「ユウラ、ヤミ! オレの敵だ、喰い尽せ!」
     好機と七星の影が猫と鴉の形となって咆哮する黄鬼を呑み込む。
    「人界の決まりも守れぬ輩は塵と帰れ」
     身動きを封じられ、もがいて影から逃れようとしたところへ、裕介がフルスイングで魔杖を顔面に叩き込み、黄鬼の頭を吹き飛ばした。

    ●鬼退治
    「よくも黄鬼を殺りやがったな!」
     青鬼が裕介に向けて石を投げてくる。それを飛び込んだ王狼が代わりに受け止めた。
    「お前の頭を吹き飛ばしてやる!」
     続けて赤鬼が突っ込んできて鉈を振り回すと、割り込んだキャリバーを吹き飛ばした。
    「寄せ集めだとそれが限界だね、諦めたらどうかな?」
     優志の影が大型犬を形作り、地を駆けると大きく口を開いて赤鬼を呑み込む。
    「誰が寄せ集めだと!」
     赤鬼が影を斬り裂くと、そこには殊亜が待ち構えていた。
    「大した力も持たない羅刹が集まって悪さをしていたら、そう思われても仕方ないんじゃないかな」
     殊亜は懐に入ると真紅のオーラを帯びた拳で連打を浴びせ、その体を宙に浮かせる。
    「好機だな、仕掛けるぞイルマ!」
    「了解した!」
     そこへヴァイスとイルマが左右から挟撃する。ヴァイスのロッドは赤鬼の左肩を砕き、イルマの剣は右太股を斬り裂いた。
    「ちょろちょろと小賢しい!」
     赤鬼は力を込めて鉈を横一線に振り抜く。そこへキャリバーが突進して代わりに攻撃を受けて薙ぎ倒される。イルマは自分の方へ突っ込んでくるキャリバーを踏み台にして跳躍し赤鬼の頭上から剣を掲げて振り下ろす。赤鬼は屈むと肩を刃が抉った。それと同時にヴァイスもロッドを背中に叩きつけていた。更には殊亜が拳を側頭部に打ち込む。
    「舐めるのもいい加減にしろ!」
     赤鬼は全力で鉈を振り抜いた。風が刃となって周囲を薙ぎ倒す。
    「ふんっ」
     それを前に出た裕介が十字槍で受ける。勢いに押されて足が地面を滑るが、重心を落として耐え切る。
    「どうしたんじゃ、馬鹿の癖に力はその程度なのかのう?」
    「ふざけるな! 人間如きが! 鬼に敵うつもりか!」
     赤鬼は元々赤い顔を更に湯気が立つ程真っ赤にして力を込めてくる。筋肉が膨張して伝わる力が増えていく。
    「ふざけてるのはお前等の方だ、その赤い顔をもっと紅く染めてやる!」
     横から七星が正七角形の標識を振りかぶり、赤鬼の頭に叩き付けた。
    「ぐふっ」
    「赤鬼の!」
     頭から血を流してよろける赤鬼を助けようと、青鬼が次々と石を投げてくる。
    「石を投げるのは迷惑だから止めてほしいねぇ」
     その射線に入った太郎が包丁で弾き、腕で受け止め、被弾しながらも石を一つも仲間へと通さない。
    「キャッチボールなら人の居ないところでやれっての」
     守が光輪を投げ、分裂した輪が石を弾きながら太郎の傷を癒す。
    「ぬぉおおおおお!」
     体勢を立て直した赤鬼が咆えながら鉈を振るう。刃が裕介の脇腹を深く傷つける。だが裕介は意に介さずその腕を掴んで赤鬼を引き寄せた。
    「これで身動きできんじゃろう?」
    「人間如きの力で俺を押さえ込めると思うな!」
     赤鬼は力をいれて腕を解こうとする。流石に力では赤鬼が勝り腕の拘束が緩む。
    「一瞬でも動きが止まれば十分だぜ」
     跳躍したレイヴンが烏羽色に燃える炎の剣を振り下ろした。炎の刃が角を折り頭を割った。
    「ぐあああああぁ!」
     苦悶の声をあげて赤鬼は仰向けに倒れ絶命した。
    「赤鬼まで殺られただと!」
     青鬼は焦ったように石を投げながら距離を取ろうとする。すると退路を断つように手伝いの灼滅者達が待ち構えていた。
    「逃げられると思っているのかねぇ」
     磯良が魔力の光線で青鬼を撃ち抜く。
    「この期に及んで逃げようだなんて見苦しいね」
     いろはが駆け擦れ違う瞬間に大太刀を引き抜く。剣閃が奔り脇腹を斬り裂いた。
    「邪魔だ!」
     青鬼が石を持って振り回して活路を開こうとするが、その腕を絶奈の持つ巨大な杭に止められる。青鬼は石を至近距離から投げるが、絶奈は杭に当てて弾いた。
    「邪魔なのはどちらでしょうね?」
     絶奈は殴りつけるように杭を腹に突き刺した。
    「言わずとも分かると思いますが」
     高速で射出した杭の勢いで青鬼の体は吹き飛んだ。地面を転がると何かに引っかかって動きが止まる。それはいつの間にか張り巡らされていた鋼糸だった。
    「ナナ、がんばってー!」
    「姉さん、オレは大丈夫だから危ない事はしないでよ?」
     シアンとウイングキャットのエレルと一緒に応援すると、七星は振り向いて心配そうに声をかけながら糸を引っ張る。すると青鬼の全身に巻きついた刃物のように鋭い糸が締め付け肉を刻む。
    「こんなもので鬼が捕まえられると思うなぁ!」
     青鬼は糸を無理矢理引き千切って逃れて立ち上がる。だがその瞬間胸に小さな穴が開いた。
    「ホント、言う事だけは一人前だよね」
     青鬼の前方には指を差し向けた優志が立っていた。続けて漆黒の弾丸が放たれる。
    「この野郎!」
     攻撃を受けながらも青鬼は反撃に石を投げるが、王狼が飛び込んで刀で弾き飛ばした。
    「ええい数が多いんだよ!」
     青鬼は大きく足を上げて石を投球姿勢に入る。
    「オレ達にケンカを売るには力不足だぜ!」
     だがそれよりも速くレイヴンが間合いを詰めて拳を打ち込む。それに対して青鬼も負けじと殴り返す。拳がレイヴンの顔を捉える直前、動きを止める。
    「掴まえたよ」
     拳の前に太郎の手が差し込まれていた。太郎は手首を掴んで引き寄せると、信夫さんが肉球で殴りつける。
    「一気に畳み掛けるチャンスだな」
     続いて守の影が伸びて無数の刃となると青鬼を切り裂く。青鬼はもがいて拘束から逃れる。
    「さて、残る一体も鬼退治してしまおうか」
     殊亜がローラーダッシュで加速すると、勢いを乗せて炎を帯びた右足で蹴り上げる。青鬼はガードするが、殊亜は宙で回転して左の後ろ回し蹴りを顔に叩き込んだ。
    「ぐぉあづぁっ」
    「仕留める!」
    「涼しくなるよう胸に風穴を開けてやろう」
     焼けた顔を手で覆う青鬼の足にイルマの影の獣が喰らいつき、動きを封じたところへヴァイスがオーラを剣の形にして腹を突き刺した。切っ先が背中に抜けて大きな穴を開ける。
    「こ、のオレが、こんな若造ども相手に……負けるがぁ!」
     最後の力を振り絞って青鬼は巨大な石を抱え上げ投げようとする。
    「悪足掻きじゃのう」
     振り下ろされる一メートルもありそうな石に向け、裕介が構えた魔杖を全力で叩き込む。すると石が砕けて四散した。
    「人間がこんなに、強い……とは」
     力を使い果たした青鬼はそのまま崩れ落ち、消え去った。

    ●コンビニでお買い物
    「ナナ、鬼退治お疲れ様♪」
    「ありがとう姉さん。でも心配だからって来なくても良かったのに」
     シアンの顔を見て、保護者が来たような気分になった七星は気恥ずかしさと嬉しさを覚えるが、シアンは意に介さずに七星の世話を焼いていた。
    「これで元通りだな」
     優志がコンビニ内を見渡す。そこには元居た位置に人々が運び直されていた。
    「寝て起きたら何故か移動してたとかびっくりするもんね?」
     太郎が頷き、買い物の続きをしようと購入リストをポケットから取り出した。
     暫くして意識が戻った人々は、何があったのか不思議に思いながらも元通りに仕事に戻っていく。
    「ふ~暑いからアイスが美味しいね、イルマさんは何を買ったの?」
     買い物を終えて店の外に出た殊亜が袋から取り出したアイスに齧りついていると、イルマも買った物を袋から取り出す。
    「わたしはドーナツを買ってみた、最近流行っているそうだからな」
     イルマは取り出したドーナツをぱくっと咥え、もぐもぐと食べ始めた。
    「今日はお疲れ様、暑いから水分補給はしっかりな?」
     そう言って悪戯っぽい顔でヴァイスが背後から近づくと、イルマの頬にジュースを当てる。
    「ふわっ?」
     驚いてイルマが飛びあがり、落としそうになったドーナツを慌ててキャッチする。そんな様子を見て周りの灼滅者達は笑った。
    「ああ、勿論皆の分も用意してあるぞ? 好きなモノを持って行くといい」
    「ふむ、ではありがたく頂戴するとしようかの」
     ヴァイスの配るジュースを裕介は受け取り、一気に飲み干す。
    「お疲れー。運動の後はひやっこいの絶対おいしいな」
     ぐびぐびと守は酒でも飲むように美味しそうにジュースを傾けた。他の灼滅者達も喉を潤し一息ついた。
    「前と同じ人数でダークネス3体をこうやって相手にできるようになったって考えると、俺らもちっとは強くなったってことか。まぁ、上には上がいるってことで先はまだまだ長そうなんだけどな」
     レイヴンは飲み終わったジュースの空き缶をよっと投げる。すると吸い込まれるようにゴミ箱に入った。
    「俺未成年だからビール買えないし、ふっつーの炭酸だけど」
     こっそりと守は死んだ鬼達のお供えにジュースを添える。
     鬼達もジュースでも飲んでいれば、酒に呑まれる事も無く平和だったかもしれない。そんな事を思いつつ、灼滅者達は汗を滲ませながら、日差しの強い春の陽気の中を歩いていくのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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