●横浜市金沢区、野島公園
狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)は故郷に戻ったついでに足を伸ばして、野島公園までやってきた。
「この砂浜は変わらないな」
気候もかなり暖かくなったし、少し海辺を散策するか……そう思った時、彼女はひるがえるマントを視界の片隅に捉える。
その人物は感動の面持ちで、海に向かって大きく手を広げていた。
「ああ、この眺めこそ素晴らしい。遠くに近代的な湾岸を望む、小さな浜辺。歌川広重が錦絵に描き、伊藤博文が別邸を持ったのも頷ける!」
ああ解った。この妙に大袈裟な感動の仕方は、ご当地怪人に違いない。
(「我の前に現れるとは、この怪人も哀れな奴よ。何せ貴様は、そのせいで灼滅される事になるのだからな!」)
●武蔵坂学園、教室
「なるほど……バーベキュー場に怪人が出る事まではバーベキュー用の肉が教えてくれましたが、その現場は野島公園にあったのですか」
西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)は伏姫から一部始終を聞いて、新たな未来予測を得たようだった。
「怪人『ノジーマン』は、横浜市金沢区の平潟湾に浮かぶ島、野島のご当地怪人です」
金沢区と言えば野島の向かいにある人工島、八景島が有名だが、野島は横浜市唯一の天然砂浜である野島海岸、縄文時代の野島貝塚、伊藤博文別邸などのある由緒正しい島だ。
「そこでノジーマンは野島こそが金沢区、いや横浜、ひいては日本を代表する島であると主張して、野島公園内のバーベキュー場で洗脳バーベキューパーティーを開催するのです。皆さん、彼の灼滅をお願いします」
アベルの未来予測によると、怪人はバーベキューパーティーの参加者を十九名募集している。怪人自身を含めてちょうど炉の定員の二十名。灼滅者たちはその募集に応募すれば、怪人の懐に潜り込む事ができる。
「ですが、怪人を十分に油断させる事ができねば戦闘前に意図を察知され、逃げられてしまいます。それを防ぐには……皆さんが、存分に野島を楽しんでみせるしかありません」
「つまり……みんなでバーベキューを楽しめばいいってこと?」
姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)の質問に、アベルは静かに頷いた。
「もちろんバーベキューだけでなく、公園内の史跡を廻ったり、展望台に登ったり、浜辺を散策したりしても良いのですが」
ただし、あまりに遊ぶのに時間をかけすぎれば、その分一般人が強化一般人になってしまう可能性も増えてくる。幸い、全員が全員そうなるわけではないようだし、怪人を灼滅すればすぐに正気に戻るのだが……。
「それでも心配であれば、パーティー参加人数を全て灼滅者で埋めてしまえばよいのです」
けれど、とアベルは付け加えた。
「パーティーには何人参加しても構いませんが、戦闘に関わるのは八名までにして下さい。それを越えれば、怪人の『バベルの鎖』に察知される可能性が大幅に増えますので」
参加者 | |
---|---|
鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531) |
シェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452) |
葛城・百花(クレマチス・d02633) |
狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782) |
多和々・日和(ソレイユ・d05559) |
野々上・アキラ(レッサーイエロー・d05895) |
ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872) |
九重・朔楽(花見る人・d34203) |
●はるばる、野島公園へ
灼滅が灼滅者の魂を闇より引き戻す癒しであれば、日常の楽しみは魂を闇へと向かわせぬ歯止め。
(「つまり……折角の機会、ゆっくり堪能するのもまた良しという事」)
しかも狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)は横浜ヒロイン。皆に横浜の別の側面を知って貰えるのであれば、その魂はいかほど喜びに満ちよう。
「ビバ、横浜! フォーエバー、野島!」
その喜びを存分に叫びに篭めると、伏姫は駅前の橋を野島に向かって歩き出した。
「さて、我も彼奴の財布を空にしてやりに行くとするかの」
●ご当地怪人の涙
「なんと……これほどの人数に集まって貰えるとは、この感激をどのように表せば良いものか!」
募集人数を上回る数の灼滅者たちを見渡して、ノジーマンは男泣きに泣いた。
感謝のあまり人目も憚らず泣ける者など、人の中にもそうはいまい。だのにそれをできるこの男は、鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)がかつて戦ってきたご当地怪人たちと同様に、本来は愛に溢れているはずなのだ。
「それだけのご当地愛があるのなら、洗脳しなくても野島の魅力を伝えられたかもしれないのにね……どこで間違ったのかな」
悲しいね、と小声で囁くシェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452)に、珠音は神妙な表情で頷いた。
「まあでも、間違っちゃった以上は仕方ない。折角の奢りだし、存分に楽しんでからやっつけちゃおーっと」
……訂正。神妙なのは最初の一瞬だけだった。
●何事もまずは準備から
「ほ……本当に食べ放題でいいんですか!?」
「もちろんだ苦学生よ! 存分に食べ、そして存分に野島を楽しんで行きたまえ!」
がっし、と両手で怪人の手を包み込む多和々・日和(ソレイユ・d05559)。思わずよだれが垂れそうになるのを慌てて拭うと、恋人の柏葉・宗佑の方を振り返った。
「やっぱりお肉ですよね!」
「その通りであります隊長!」
びしっと敬礼してから顔を綻ばす宗佑に微笑むと、日和は嬉しそうに網へと向かって駆けていった。
「さて、火はどうなっておるかのう?」
八握脛・篠介が炉へ近付くと、怪人がばたばたと炭を扇いで火を準備し始めるところだった。
「であればワシらは、食材の準備じゃな。暴雨、鈴木、野菜を切れい」
「はい。最初はお野菜なのですか?」
鈴木・昭子の質問に、固い南瓜と格闘中のシェリーが横から口を挟む。
「じっくり時間かけて焼くものは、最初に乗せて気長に待った方がいいからね」
「なるほど。篠介くんは慣れていらっしゃるのでしょうか?」
「アウトドアはまあまあ得意じゃよ」
「食材……全部ノジーマンが用意してくれてるから、楽……太っ腹」
暴雨・サズヤは仕事の前に、食材の中から目敏く海老を見つけ出した。篠介に腸取りをお願いし、自分の仕事に取り掛かる。
●お肉の誘惑
「ところでノジーマンさん、今日のお勧め食材はどれかしら……」
訊こうとした葛城・百花(クレマチス・d02633)を、一瞬、怪人の憎悪の視線が貫いた。
「この食材はどれも……野島産ではない……」
けれども彼は、すぐに気を取り直す。
「まあどうせ、じきに世界が野島になるのだ。ならばどれも野島産だと言っても差し支えはない。というわけで君……全てお勧めだ!」
「……。だ、そうよ」
「いやっほーいっ! じゃあるぅはお肉ダヨお肉!」
小躍りした今瀬・ルシアだけれど、網に近付く様子は見られない。喜びようとは裏腹に、るぅはトマトとチーズとハーブソルトでトマトサラダ、さらに玉ネギとキュウリとツナでツナサラダを作り始めた。
「るぅちゃん、良い仕事するじゃない。でもお肉は?」
怪訝な顔の百花に悪びれず、ダッテ暑いの苦手なんだもん、とるぅ。彼女の代わりに肉を焼くのは、紫乃崎・謡と北斎院・既濁だ。
「ノジーマンさん……代わって貰っていい?」
食材に合わせて最高の焼き加減をキープするため、炭の量と場所を最適な状態に調整する謡。そんな謡と息を合わせて、既濁は肉と野菜をバランス良く鉄板の上へと配置してゆく。
「焼けたのから順番に取ってっていいぞ、でも肉ばかりじゃなく野菜もちゃんと食えよー」
「はわっ、このお肉のじゅーしーさは……うたちゃんキタク君、もしやプロではないでしょうか……!」
感動の面持ちの煌・朔眞は今日はデザート担当という事で、まずはサラダと肉を食べ始めた!
「タダ肉……だと……?」
ざわ……ざわ……、という効果音が聞こえてきそうな鬼気迫る表情の夜鷹・治胡とは対照的に、ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)は清楚な衣装に身を包み、天使のような笑顔を浮かべて治胡の手を取った。
「今日はお誘いを受けて下さり、ありがとうございます」
優雅にスカートの裾を摘んでから、けれど、とソフィ。
「バーベキューは初めてなのですが、どんな風にしたら……あら?」
治胡は、何やら苦しんでいた。洗脳のせい? いや違う……肉の魅力に抗えねェだけだ!
「ともあれ俺がやってみせる! いいかソフィ、よく見てろ!」
わくわく……と昭子は肉を見つめていた。何故だか、焼けるのはまだか、まだかと気にしてしまう魔力。
「そろそろいい感じだよ」
シェリーの掛け声と同時、昭子はその肉に箸を伸ばした。一方、ぼーっとしてばかりのサズヤ。
「ほら、育ち盛りでしょ?」
シェリーに肉や野菜を山ほど盛られ、ようやくサズヤは考え事をしながら箸を動す。
(「育ち盛りは沢山食べる……じゃあ、鈴木も?」)
●海ならでは
「やっべ、もう始まってた!」
バーベキュー場へ、浜辺から野々上・アキラ(レッサーイエロー・d05895)らが駆けて来る。その手には熊手とポリバケツ。どうやらバケツには、何か中身が入っているようだ。
「待てー! おれにも肉残しとけよー!」
後ろから追いかけるのは風間・海砂斗。こちらも手には同じようなバケツ。
二人とも、中身は貝だ。潮干狩りだ。
「思った以上に獲れましたね。時間が過ぎるのが早いです」
さらに後ろから追う星河・沙月に、アキラは自分のおかげとでも言うように胸を張った。もっとも彼、干潮時刻を調べるのも沙月任せにしていたのだが。
「仕方ねえから、展望台は肉食ってからだな!」
言って、アキラはバーベキューの輪に飛び込んだ!
「釣りもしたいところじゃね」
釣竿を背負った珠音へと、気付いた怪人が近付いた。
「野島は有数のメバルスポット。夏場は時期が悪いが覚えておくが良い」
「ナイスじゃよジーマさん、それじゃ行ってきまーす!」
「ジ……ジーマさん……?」
奇妙な呼び名に目をぱちくりとさせる怪人の事などさっぱり気にせず、珠音は意気揚々と出かけてゆく……さて、釣果のほどは?
●目指せ満腹!
「こ、これは美味しいです!」
「そりゃ、地元でもよくやったからなー」
九重・朔楽(花見る人・d34203)が感激するのも当然の話、沖縄出身の仲村渠・弥勒の前に、串焼き、網焼き、鉄板焼きと、多彩な焼き方が現れていた。
そして牛肉。月夜・純が塩胡椒を振りかけ下準備した肉は、シンプルな味付けながら、まるで魔法にでもかけられたよう!
「美味しい……!」
慌てて頬張る朔楽。負けじと弥勒は焼きそばだ!
「本当は沖縄そばでやりたかったんだけどなー」
「みるくん先輩……今度、寮でぜひ沖縄そば作って下さい!」
焼いた傍から、食材はどんどん朔楽の胃袋へと消えてゆく。この後で戦闘があるのだから腹八分目ですよ、という純の言葉は聞こえていない。
そんな朔楽の様子を、密かに覗う者がいた。
(「どうやら、すっかり打ち解けているようで何よりだ……はむ」)
朔楽が灼滅者となる瞬間を見届けたうちの一人、白石・作楽は、それを確認すると肉を齧る。
「ところで、ゲーセンの時は世話になったな」
「こちらこそ! ぬいぐるみ貰っちゃっただけでしたけど……」
ぺこぺこと頭を下げる姶良・幽花に桃のシナモンホイル焼きを手渡すと、作楽は再び朔楽を見守る作業に戻っていった。
●甘い時間
時間は、気付かぬうちに過ぎてゆく。
始めた頃は海の上空に浮かんでいた太陽も、いつの間にか、後方の彼方に横たわる鎌倉の山々の上へと差し掛かっていた。
ある者は海辺で足を浸し、またある者は芝生に大の字に寝転がり空を仰ぐ。けれども炎の周囲では、いまだ宴は終わらない。
「こんな風に……みんなでわいわいとしながら食べるご飯は美味しいです♪」
しかもソフィは、憧れの治胡に食べ頃の食材を取って貰えるのだから!
だろ、と治胡。そんな彼女にとっても今日は、どれも高級食材にも劣らない。
「わたし、本当に幸せです……!」
ソフィと治胡を真似て宗佑に肉を取って貰い、日和は蕩けそうな表情でそれを頬張った。そのリスのような顔を目撃し、思わずむせる宗佑。もっとも、そんなに喜んで貰えているのなら、見ている方も嬉しくなるのだけれど……でも、照れる。
そんな宗佑の耳元で、日和はそっと囁いた。
「あの……あとで、お散歩デートしませんか?」
彼ら彼女らが甘い時間を過ごしている間……小学生三人組にも、別の『甘い』時間が訪れようとしていた。
「マシュマロ持ってきたからこれも焼こうぜ!」
得意げに袋の封を切り始めた海砂斗に、首を傾げる沙月。
「それは、どう焼くのでしょうか?」
そんな沙月に声をかける謡。
「こうして串に刺して……表面に焦げ目がつくまで炙る。外はこんがり、中は熱くてとろとろだから、食べる時には注意だよ」
「なあオレ、今からニンニクのバター焼き作ろうと思ってたんだが。肉だってまだ残ってるぞ?」
到底、女子相手に勧めるとは思えない既濁の料理。その時朔眞が、ナイスアイディアとばかりにマシュマロを肉で挟み始めた! これぞデザート担当の本領発揮……?
「ごめん……後で食べるわ」
視線を逸らす百花。誰も、マシュマロだけを朔眞の皿に置く彼女を責められまい。朔眞の理解できない顔が理解できない。蜂蜜フルーツサラダを作ってくれたるぅが輝いて見える。
そうだ、とシェリーが思い出した。
「マシュマロも定番だけど、バナナも焼いちゃおう」
「む、それはワシも喰った事がないのう。一つ貰っていいか?」
焼きバナナを口に入れた篠介の表情が変わる。その濃厚な味は意外に美味しい!
「ホットケーキも焼いちゃおうか」
シェリーの追撃に、ぴくん、と昭子が反応した。それを見て、結構食べてなかったっけとサズヤ。
「大丈夫、甘いものは別腹なのですよ」
なるほど……とは思ったが、彼にはそれを真似できる気はしなかった。
●野島の風景
「オレ達……ワイルドだったよな」
芝生に寝転びアキラが言った。
「だって、海岸もワイルドだったもんな!」
「後は展望台まで登れば完璧だな!」
答える海砂斗。一方の沙月の答えは……ない。
「すげーなサツキ、まだ食べ続けてら」
アキラが呆れて眺めていると、沙月はハテナと振り返ってからまた食べ出した……こりゃダメだ。
「展望台、後回しになりそうだな……」
その頃。展望台には、朔楽ら三人の姿があった。
「場所が違うと、海も違うね」
工場、港湾クレーン、タンカー、街並み。怪人が洗脳さえしなければ、解り合えたと弥勒は思う。実際、奈良ヒーローの朔楽を見れば、バーベキューを通じて十分に野島パワーを吸収できていたのだから。
「古への 大和の都の 桜花 今日この野島で 咲き誇ろうぞ」
歌が、朔楽を灼滅の力で満たす。楽しい時間はもう終わり、闇との戦いが始まろうとしている。
「後片付けの方はお任せ下さい」
純の視線も鋭く変わる。
「それと……終わった後にはデザートを用意しておきましょう」
ありがとう、と朔楽は頷く。そして……生まれ変わった自分を闇へと見せにゆく!
●感謝、そして灼滅
満足した者、まだ遊び足りぬ者。そのどちらもが、今日、野島を満喫した者たちだ。
怪人は、密かに財布を確かめる。成長期の子供たちのために、溜めに溜めた伊藤博文の千円札を軒並み使い果たしはしたが、世界征服のための投資にしては安いものだ。見よ……彼の周囲に自ずと集いし、八人の少年少女たちを!
「今日はお誘いありがとお! 野島にかんぱーい!!」
珠音の音頭で天に掲げたプラコップ。それは忠誠の杯か……否、手向けの杯であった。
ノジーマンの手が震え、飲み干したコップが地に落ちる。何故? それは、シェリーの足元から伸びる縛めの影。
「貴様……我が配下になったのではなかったのか……?」
悲しげに目を伏せるシェリー。だって、今まで本当に楽しい時間だったのだもの。
「ご馳走様でした! でも……」
深く頭を下げる日和。それが再び上がった時、彼女の瞳に闘志が燃える。犬神の力が篭手へと宿り、雷となって怪人を襲う!
「おのれ!」
引き抜いたアマモが拳の衝撃を和らげるも、それを避けるように百花の『迅狼』が舞う。殺意の空間の中で力を得たそれは、違わず怪人の体を貫き通す!
「楽しませて貰ったお礼に、きっちり灼滅してあげるわ!」
百花自身は仁王立ちしたまま。けれども怪人は、それにアマモを当てる事すらままならなかった。
「チェンジ! カラフルキャンディ!」
七色のリボンがソフィの周囲を取り巻いたかと思うと、キュートさを増した衣装にドレスアップ! 現出する武具、織り出されるマント、そして飛びっきりの笑顔で決めポーズ!
「彩り鮮やかは無限の正義! 大阪アメちゃんヒーロー・ソフィ、参ります!」
名乗りと同時に攻撃を弾く。同時にアキラ。またの名を……レッサーイエロー!
「このまま、八景島の水族館や金沢動物園まで征服するつもりだろ! そんな事、このレッサーイエローが許さねえ!」
「ええい、黙れい!」
突如、アマモが八方向へと伸びる。けれども朔楽の剣が、静かに円月の構えを取った。
「大和が桜守、九重・朔楽……いざ参る!」
瞬く間に振るわれる剣筋が八つ……いや九つ! 全てのアマモを斬り捨てた剣は、怪人の胸にも達していた。
「バカな……だが、その程度では!」
アマモは斬った傍から伸びる。その向かう先は……珠音!
「避けろ!」
伏姫が警告を飛ばしたが、珠音はその場から動く事なく……。
「ごめん、食後に運動したから脇腹が……」
慌てて割り込む日和の拳。小柄な体が弾かれて、立ち木の根元に打ち付けられた。
だが彼女は立つだろう。そう、伏姫は予言する。そして彼女の言葉の通り、日和は拳から溢れる血を振り払って立ち上がると、一歩、また一歩と怪人との距離を詰める!
「解るかの? ご当地に、一番などはないのだよ」
ガトリングの銃口を突きつける伏姫。
「人あってのご当地、ご当地あっての人。ただ、それだけなのだ。それをお主は、人を洗脳するなどと……ご当地の名を借りた夢想家めが」
「ならば逆に説こう」
怪人は天を仰ぐ。それから……一気に跳び上がる!
「人なくしてご当地なし、ご当地なくして人もなし! 人を集める事もできずして、何がご当地か!」
……が!
「お、おのれ小癪な!」
怪人は足を朔楽の影に捕らえられ、バランスを崩すと頭から大地に叩きつけられた。作楽がその様子を見ていれば、それが自分が贈ったものと気付いたに違いない。
安心して、と百花は迅狼を指先で巻いた。
「野島の魅力は、私たちがしっかりと受け取ったわ……史跡の方も、これが終わったら回ってみるつもりよ」
そうか……と唸る怪人を、刺し貫く迅狼。
「ジーマさんの大好きな野島が失われないよう、ウチもささやかに手伝うつもりじゃよ」
優しく作った珠音の声が、怪人の魂を揺さぶった。また野島に来たいなぁとシェリーも。
「感謝します! でも、それとこれとは別の話!」
日和が拳を握り込むと、怪人はどうやら観念したようだった。ノジーマンは手を広げる。
「さあ来い灼滅者! 貴様らが真に野島を愛せると言うのなら、このノジーマン様を倒して見せよ!!」
にかっ、とアキラは歯を見せた。
「ありがとな、楽しかったぜ! いくぜ、動物園ダイナミーック!」
「私も野島を楽しんだので……野島キャンディキーック!」
野島の力を篭めたアメちゃんの力で、ソフィも怪人に跳びかかる!
島の端まで追い詰められた怪人に、伏姫がゆっくりと近付いていった。
「最後はせめてもの情け……サンセット夕照橋キックで送ってやる」
構える伏姫。睨み返すノジーマン。そして……伏姫が跳んだ!
「この平潟湾の波に抱かれて、眠るがいい!」
水路に蹴り出される怪人。そして空中で大爆発!
水面の大きな波紋だけが、今や怪人の存在を示す唯一の証拠になっていた。
●宴の後に陽は陰り
「ノジーマンさんの太っ腹、忘れません……!」
片付けを終えてもお肉を思い出す日和の手を、宗佑が取る。
「じゃあ、約束通り散策に出かけようか。それから、帰りは一緒に湾岸線でドライブだ」
こくりと頷く日和。
ソフィも治胡の大きな手を握り、展望台への歩みを進める。
「実は最後の『動物園』、金沢動物園じゃなくて野毛山動物園なんだぜ!」
得意げに解説するアキラは、友達たちの尊敬の眼差しを集めている。
ゆっくりと流れる、それぞれの時間。今日の楽しい作戦も、もう終わりだ。
そんな中、シェリーが感慨深げに呟いた。
「バーベキュー、初めてだったけど楽しいんだね」
えっ?
彼女、割にてきぱきして見えてたのは気のせいだろうか?
作者:るう |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 8
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