悪徳金融会社『暁ローン』の殺人パーティ事件

    作者:相原あきと

     神戸にある暁ローンの自社ビル、その5階にあるパーティ会場には飲食関係から建築関係まで、暁ローンが裏で取り仕切る土地買収とその後の商業施設建築計画に関わる社長や上役が集められていた。
     未だパーティは始まらないが、集められた搾取する側の人間たちは、暁ローンの土地買収が予定通り進んでない事をボソボソと小声で雑談する。
    「皆様、大変長らくお待たせ致しました」
     会場の上座にマイクを持った金髪の少女が現れ出席者に頭を下げる。
     社長秘書のアマネです、と自己紹介があったが黒いゴスロリ服を着ており幾人かがその秘書らしからぬ恰好に眉根を寄せる。
     だが、アマネはその空気を無視し暁ローン社長大河田・照幸(おおかわだ・てるゆき)の登場をアナウンス。
     やがて口をへの字に歪めた、七三分けの小男が現れマイクを受け取る。
    「こんな足元の悪い雨の日に、わざわざお越し頂き誠にありがとうございます」
     大河田は当り障りのない挨拶から、自社で進める計画の進行具合について説明する。
     だが、集まった者達は進行具合の遅延について、遠慮なく不満を口にし、中にはガラの悪い怒声を放つ者までいる。今回の計画には裏稼業の者達も一枚噛んでいるので仕方が無いのだが……。
     大河田は額をヒクつかせ、マイクを強く握ると我慢できなくなり大声で叫ぶ。
    「ゴチャゴチャゴチャゴチャとゴミどもが~! お前達は黙って私の計画に出資していれば良いんだよ!」
     誰もが大河田の変わりように面喰い、しかし数秒後にはそれが大河田の本音だと理解し今まで以上の怒声が飛び始める。
     大河田はヒラヒラと手を振り。
    「まったく参りましたねぇ~、せっかく最後の晩餐を用意したのに無駄になってしまうよぉ……アマネくん、予定を繰り上げよう。彼らを……今、すぐ、殺しなさい」
     大河田の言葉に、秘書のアマネが頷き手を上げる。
     パーティ会場に通じる4つのドアの前に立っていた黒服が扉に鍵をかけ、同時にサイキックを使って周囲の人間から順に殺し始める。
     大河田はその風景を見ながら困ったジェスチャーをしつつ笑い声をあげる。
    「ははは、悪いが今更土下座をしたって遅いというものだ。私のやる事に文句を言わず黙っていれば、殺されずにすんだのにねぇ?」

    「みんな、軍艦島の戦いの後、HKT六六六がゴットセブンを地方に派遣して勢力を拡大しようとしているのは知っているわよね?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     今回の依頼はその中の1人、ゴッドセブンのナンバー3、本織・識音(もとおり・しきね)が、兵庫県の芦屋で勢力拡大のために起こしている事件だ。本織識音は、古巣である朱雀門学園から女子高生のヴァンパイアを呼び寄せ、神戸の財界の人物の秘書的な立場で潜りこみ、その人物の欲求を果たすべく悪事を行っているという。本織識音の狙いは、一般人の悪事に手を貸し、HKT六六六の宍戸のような一般人を探すことだろう、と珠希は言う。
    「今回の依頼は、その中の1人――『アマネ』と呼ばれているヴァンパイア秘書の灼滅よ」
     珠希の言葉に、教室にいた旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)が落ち着いた声音で。
    「どうやら尻尾を掴んだようだな」
    「はい、旅行鳩さんのおかげです」
     珠希が砂蔵にお辞儀し、今度は集まった皆に状況を説明する。
    「アマネの目をつけている暁ローンっていう会社の社長は、とある土地を強引に買収し、そこに商業施設を作ろうとしていたみたいなの。でも、みんなのおかげで計画は遅延、裏でつながっていた建築会社や飲食業者から文句が出て……それで、その文句を言って来た人たちをパーティと理由づけて自社ビルに集め、アマネたちに殺させる予定よ」
     ビルの5階にあるパーティ会場には殺される予定の人間が合計で20人。
     会場に繋がる扉は4面の壁に1つずつ、合計で4つ。
     会場にはアマネの他に強化一般人が4人いると言う。
    「暁ローンの社長はあくまで一般人だから、何をされてもみんなはバベルの鎖で平気だし気にしないで」
     当日のパーティは非公式らしく、時刻も深夜のため社員等の姿はない。珠希がバベルの鎖に引っかからずに侵入できるルートを教えてくれたので、侵入自体は問題無いだろう。
    「パーティの参加者は誰もが顔見知りみたいだから、そこに紛れ込むのはお勧めしないわ。扉から、または扉を破って突入する方法をとって」
     突入タイミングは太河田が挨拶を始めた瞬間から会場の一般人が全滅するまで。その間ならどこで突入しても大丈夫だと言う。
    「ただ、殺戮が始まって招待客が半数まで減ると、大河田は強化一般人を2人護衛につけて会場から退室していなくなっちゃうの」
     その後、アマネと残った強化一般人2人の計3人が会場内の招待客を全滅させると言う。
     珠希が言うには、大河田と護衛の強化一般人を見逃しても、アマネさえいなくなれば事件はこれ以上大きくならないと言うが……。
    「それと、皆がすぐに会場に跳び込んで戦闘を開始した場合、大河田は会場からすぐに逃げ出そうとするわ」
     その際、強化一般人が4人とも手一杯そうなら、護衛をつけずに1人で逃走を図ると言う。
    「戦闘能力に関してだけど……」
     強化一般人の黒服の男達は4人とも魔導書を持ち、使うサイキックは魔導書とダンピールのものを、4人とも神秘特化で妨害を得意とした戦い方をすると言う。
     秘書のアマネの方は大きな鎌を持っており、使うサイキックは咎人の大鎌とダンピールに似たものを、戦い方は攻撃特化、能力値は気魄特化だったと珠希は説明する。
    「アマネは逃走できそうなら逃げるみたいだけど、事件をこれ以上広げないためにも、ここでこのヴァンパイアの灼滅をお願いね!」
     珠希は一般人の救助に触れず、そう依頼の説明を締めるのだった。


    参加者
    旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)
    冴泉・花夜子(月華十五代目当主・d03950)
    阿剛・桜花(今年の春もブッ飛ばす系お嬢様・d07132)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)
    ローレンシア・カヴェンディッシュ(黄昏のローラ・d32104)

    ■リプレイ


     暁ローン本社ビル5階。
     突如四方の扉が乱暴に開け放たれ、同時に警備の黒服の1人が拳のラッシュを受け中央へ吹き飛び招待客が騒ぎ出す。
     黒服を殴り飛ばした山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)以外は、その混乱に乗じて一直線にヴァンパイア秘書アマネへと向かい取り囲む。
    「な、なんだお前達は!?」
     冷静に灼滅者をねめつけるアマネに対し、あからさまに驚いているのは大河田だった。
     そんな大河田に冴泉・花夜子(月華十五代目当主・d03950)が振り向き、腕で周囲の招待客を示しつつ。
    「こないだの工場放火は失敗して残念だったわね、大河田! アーンドここにいるモブたち!」
    「なっ!?」
     ザワッ、と工場立ち退き失敗の件を聞いていた数人の招待客がざわつき、大河田は花夜子を指差し。
    「私の邪魔をしていたのはお前達か!」
    「言ったはずだ……」
     鋭い視線と言葉に大河田がそちらを見れば、旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)と目が合い思わず気圧される。
    「『必ず、お前たちの背後には俺達がいる。後ろには気をつけることだな』……と」
    「その声! 貴様、あの時の!?」
    「覚悟はできているのだろう?……大河田照幸」
     ごくり、大河田が生唾を飲み込む。
     だが、予想外の事が起きる。
     アマネを包囲する灼滅者達を招待客がジワジワと囲みだしたのだ。
    「つまりアレか……おんどれらガキどもが、わし等の計画を遅延させた元凶かい」
     会話の流れから灼滅者達が大河田の計画の、ひいては自分たちが出資していた計画の妨害者だと招待客達が認識したのだ。
    「貴様ら! 相手が違うだろう!」
     招待客に声を上げるのはローレンシア・カヴェンディッシュ(黄昏のローラ・d32104)。足元で霊犬のクロエも威嚇する。
    「大河田は貴様達を皆殺しにする気だ! 死にたくなければとっとと逃げろ!」
     ローレンシアの言葉にお互い顔を見合わせた招待客だが、一拍置いて笑い出す。
     灼滅者達はこの後に起こる未来を知っているが、逆にその前に介入した今、その未来を知らない招待客にとって招かれざる客は灼滅者達の方だ。
     ならば――。
     と、阿剛・桜花(今年の春もブッ飛ばす系お嬢様・d07132)が殺界形成を発動させる。招待客の何人かがいつの間にかドアへ向かおうとし、しかし、途中でそれに気が付き思いとどまり、または連れて来たボディーガードに灼滅者を捕まえるよう指示を出す者も現れる。
    「どうして……!?」
    「ふふ、あははははっ!」
     笑い声をあげるはアマネだ。目に涙を浮かべつつ。
    「あなた達こそ、死にたくなければとっとと逃げれば?」
    「お黙りなさい! 私達はこの小娘の命を貰いにきましたわ! 巻き込まれたくなければ去りなさい!」
     桜花が招待客に避難を促すも、招待客がいなくなる様子は無い。
    「あははっ、もう、お腹痛い、やめてよ」
    「ツ、ツーサイドアップにゴスロリファッションだなんて、あなたこそ定番過ぎて笑っちゃいますわ! オーホホホホ♪」
     頭に来て言い返す桜花。だが笑い続けるアマネに「小娘!」「でべそ!」「貧乳!」と文句が小学生レベルに落ちていく。
    「やれやれ……」
     ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)が呟き、スッと手を大河田の方へ向け攻撃サイキックを――。
    「社長!」
     いち早く気が付いたのはアマネ、だがそれを見越したようにジークが何か白いもふもふした物をアマネに投げつける。それは三角耳がピンとした日本由来っぽい白い犬。
     アマネは右手に出現させた大鎌で犬を一刀両断しようとし、瞬後、犬から人へと戻った天槻・空斗(焔天狼君・d11814)が妨害。その時には、ジークの手からマジックミサイルが解き放たれ――。
     バギャンッ!
     派手な音を立て大河田の頭上の照明が破壊される。
    「今のはわざと外したんだぜ?」
     真顔で言うジークに、青くなった顔を真っ赤に変え大河田が叫ぶ。
    「アマネ! この会場にいる者を全員皆殺しにしろ! それと、護衛を2人私につけろ!」
     ジークの行動を見ていたアマネが冷静な表情で灼滅者を観察し、8人がダークネスでなく灼滅者だと認識、それなら……。
    「おい、アマネ! 聞いているのか!」
     さらに怒鳴る大河田に、部下2人へ社長を護衛し帰すよう指示を出すと。
    「残りは指示通り皆殺しを開始しなさい」
     最初に飛んだ首は、顔に傷の入った口調の荒い裏稼業の男たちだった。さらにアマネが大鎌を振るって近くの招待客を殺そうとするも、その間にルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)が立ち塞がり、思わず手を止めるアマネ。
     会場内に怒声と悲鳴が響き渡り混乱が始まる。
     そんな中、大河田は黒服2人を連れて会場から逃げ出す姿が見えた。もし灼滅者達が黒服4人に攻撃を仕掛けていれば、大河田は黒服を待たずに1人でさっさと逃げ出していただろう。その点については作戦通りだったと言える。
     しかし、残った黒服によってイキった招待客が逃げださずに殺さるのは計算外だった。今回のケースのように、意識的にこの場に留まろうとする招待客を追い払うなら殺界形成ではなく、王者の風やパニックテレパスを併用する方が的確で迅速にできただろう。
    「まー、こんなことする人もする人ですし、こんなとこに呼ばれる人も呼ばれる人ですからねー」
     逃げても死んでもあんまり気にはならないです。と見下すように視線を回していたルーナが、足元の霊犬モップを小突きつつ即座に移動。
     1人と1匹がどさくさで逃げようとしたアマネの退路を塞ぐ。
    「あ、元凶はダメですよー。逃がしてあげませーん」


    「目覚めろ。疾く翔ける狼の牙よ」
     空斗の手に可変武装の両刃剣が出現、刀身の隙間から黒い炎が噴き出し即座に炎剣形態へ。
    「吼えろ、焔天狼牙」
     ガキンッ!
     アマネは自身の大鎌で受け止め、空斗の焔天狼牙を炎ごと打ち払う。
     炎が散り、だが間髪入れずに今度は花夜子が炎を纏わせた大鎌を構えてアマネに接敵。
     悪行やってる裏の人間連中なんて正直助けたくないし、大河田も逃がしたくない……けど。
    「キミを灼滅させることが、最優先事項なの」
    「あら、それは光栄ね」
     花夜子の言葉にアマネが返しつつ大鎌同士での高速の打ち合いが続き、最後は鍔迫り合い――花夜子を押し返し、だが咄嗟にその場を離れたのはアマネ。瞬後、先ほどまでアマネがいた場所にナハトムジークの流星のような跳び蹴りが突き刺さり床を抉る。
    「そういや社長さんを素直に逃がしてよかったのか? 扉の向こうにまた油が撒いてあるかもよ?」
     ナハトムジークの言葉にアマネがピクリと反応する。
    「ああ……あのイタズラはあなたが、そう言えばこの前見た顔だわ」
    「ごーめんねー」
     指摘され、しかし悪びれずに言うジーク。
    「ま、いいわ。大河田が死んだらそれまでだし、見極め中に死んだならそこまでの人間だったって事だしね」
    「あー、何を勘違いしてるかわからないけど、別に罠は仕掛けなかったよ? ほら、二度通じるとは思わなかったもんで」
     笑いながら言うジークに、アマネのコメカミが僅かにひきつるのが見えた。
    「あなた……死刑よ」
     低く冷たい声でアマネが宣言する。

     ヴァンパイアを逃がさぬよう取り囲む灼滅者達だったが、だからと言って残った2人の黒服を放置するわけにはいかない。透流と砂蔵が一般人を虐殺する黒服に打ち掛かり、その矛先を自分たちへ。
     すでに灼滅者とアマネたちの人外の戦いに、裏稼業の者も含め生き残った招待客たちは会場から逃げ去っていた。透流と砂蔵はやっと集中できるとばかりに黒服を1人ずつ集中して倒そうとコンビネーションで攻撃を続ける。
    「暁ローンさんのこれまでの事件に関わってきたみんなのほうが、やっぱ思い入れは強いよね……」
     黒服へ雷を纏った拳で殴りかかりつつ透流が思う。
    「でも、私も足手まといにならないように頑張らなくっちゃ」

     一方、アマネを相手にする6人は正直攻めあぐねていた。アマネは自分たち6人より強く、あと1人……たぶん7人掛かりでやっと互角と言った所だった。
     ゆらり、アマネが大鎌で滑らかに空間を切り裂き、そこからさらに無数の鎌が現れ灼滅者達へと襲いかかる。
     即座に反応したのはディフェンダーの面々だ。空斗がジークを、桜花がローレンシアを、ルーナがモップを庇う。さらにルーナが自らの手番でヴァンパイアミストを発動、傷の回復と共に仲間達の攻撃力を底上げする。
    「ずいぶんと必死ね?」
     楽しげに挑発してくるアマネ。
    「ヴァンパイアめ、小悪党が混ざっていると言っても、ただの一般人を……よくも!」
    「そう? でも、こうやって遊んでいる間にも、私の部下が――」
     ドガッ!
     何かが飛んできてアマネの言葉が遮られる。
     それは強化一般人の黒服だった。
     飛んで来た方向を見れば、閃光百裂拳を撃ち終わった構えの砂蔵。
     その後ろでは透流の足元に2人目の黒服がすでに倒されているのも見える。
     2人もボロボロで時間もかかったが、灼滅者の連携の方が強化一般人より勝っていた。
    「やってくれるじゃない……でも、あんな悪党たちを救う事に意味があるの?」
    「命に貴賎などない」
     アマネの言葉に砂蔵が合流しつつ断言する。
    「命の価値は平等で、重いも軽いもない。それはダークネスであろうと、灼滅者であろうと変わらない。だから俺は奴らも助ける。拾える命を拾わない、理由になってない、からな」
    「ふーん、だったらどうして私の事を殺そうとするの? ダークネスだって命の価値は平等なんでしょ?」
     アマネの挑戦的な言いように、しかし砂蔵は迷わず答える。
    「言わなかったか? お前たちがダークネスである事、それだけが俺の『理由』に値する。お前達を灼滅するという『理由』にな」


     黒服が誰もいなくなり灼滅者が8人そろった事で明らかにアマネは劣勢に立たされていた。
    「悪人助けるなんてしたくなかったけど……アマネ、あんたの好きなようになんてさせてやらない!」
     花夜子がクルクルと手の中で大鎌を回転させつつ突進、再び鎌と鎌がぶつかり火花を散らす。
     こないだのことといい、大河田や、ここにいる招待客たちに花夜子はむかっ腹が立ちまくりだった。だが、花夜子は悪人を助けるんじゃなくアマネを倒すためだと自分を納得させ、その憤懣を力に換えてアマネの鎌を大きく弾く。
     その瞬間、まるで待っていたかのようにアマネに接敵しプスリと注射を刺すは透流、体内に流れ込んだ毒にアマネがガクリと膝を付きそうになり……その背後、ギラリと輝くは花夜子の大鎌の先端、見事なコンビネーションだった。死角からの一撃にアマネの背がザックリと切り裂かれる。
     こんな事なら大河田の護衛に2人もつけるんじゃなかった。そう内心で毒づきつつ、逃走経路が無いかと視線を巡らせるアマネ。
    「そういやその服、もしかして前にメモで教えた店で買ったのか?」
     前の時と違うゴスロリ服にナハトムジークがアマネに問う。
     それが何だと睨んでくるアマネ。
    「もしかしてあの店に何かあると思った? そいつは無駄な行動だったね。なんせ油で汚れると思ったから新しい服の購入先を教えただけだし」
     嬉しそうに言うジークを睨みつつ。
    「どうりで……最後の一人になっても何も言わないわけだ、まんまと騙されたわ」
    「キミは店の人を……」
     眉根をピクリとだけ動かし聞くジークに、今度はアマネがニヤリと笑う。
    「おい、ロリコン赤竹輪。ドストライクのアマネを前に照れんなよ。滑舌悪くなってんぞ」
     空斗のフォローに僅かにブレた気持ちを引き戻し。
    「誰がロリコン赤竹輪だ!」
     空斗につっこみ、同時にアマネへ制約の弾丸を撃ち放つ。
    「反応したお前の事だ」
     ジークと言い合いつつアマネを中心に対角の位置に回り込んだ空斗がグランドファイアで攻撃。
    「むかつく2人」
     憎まれ口を叩きつつ連携攻撃を繰り出してくる2人に毒づくアマネ。
    「先に言っとくと、逃がさねーよ?」
     ジークの言葉にアマネが怒る。
    「ここまでバカにされて、あなた達こそ無事で帰れると思わないことね」
     そのアマネの返事は空斗から。
    「それはこちらの台詞だ……つか、絶対殺す」

     戦いは続き、明らかに灼滅者側に軍配が上がりつつあった。2人ぐらい戦闘不能者が出ればアマネも逃げる機会があったかもしれないが。
    「おい、一つ質問に答えろ。僕に似たヴァンパイアを知らないか?」
     戦いながら問うローレンシアの言葉に、アマネは必死に回避しつつも。
    「さぁ、いたかもしれないけど……私、学校に好きな人がいるから、その人以外は眼中にないの」
    「そうか……なら、用は無い」
     ローレンシアが仲間達を素早く見回し回復が必要ないと判断、同時に足元へ霊犬のクロエがやってくると斬魔刀を咥えてアマネに飛びかかる。さらにその意図を察して時間差でギルティクロスを発動させるローレンシア。1人と1匹のコンビネーションが見事に決まる。
     大ダメージを受けてよろめくアマネ、その眼前へと飛び込んで来たのはルーナ。床を滑るようにエアシューズで駆けその軌跡からは炎が昇る。
     ガッ、ルーナの炎の蹴りを大鎌の腹でガードするアマネ。しかしルーナはボソリと。
    「恋人が……いるのですか?」
    「残念、片思いなのよね。でも、あの人の言葉だけで……私は今を生きられる」
     アマネの熱っぽい解答に、ルーナはありし日のあの言葉を思い出す。
     立場は違えど――。
     しかし、ルーナは灼滅者であり、アマネはヴァンパイアだ。その溝は深い。
    「ありがと、思い出した……私、生きて朱雀門に帰らないと」
     アマネのエナジーが一気に高まる。まるで、命を燃やすような輝き。
     空間が歪み、1つ2つ……今までの倍以上の鎌が虚空から現れる。
    「これで、終わりよ!」
     最大威力で複数の鎌が解き放たれ灼滅者を襲う。
     だが、大鎌の嵐の中を傷も無視して突貫する灼滅者が1人。
    「このくらい……」
     赤い甲冑の肩当てが飛び、腰垂れが切断させ、頬や太ももも斬り割かれつつアマネの前まで強引に突き進むは桜花。
    「誰かが……誰かが殺される心の痛みに比べれば!!!」
     振りかぶった拳は雷に包まれ、全力を放ち無防備だったアマネを殴り飛ばす桜花。
     拳の威力に壁まで吹き飛ばされるアマネ。
     壁からズリ落ちながらもまだ息があるヴァンパイアの少女の前に、砂蔵が立つ。
    「本織さんの話に乗らなかったら……こんな事には……」
    「理由になってない」
     トドメを刺そうと振りかぶる砂蔵に、アマネは僅かに笑い。
    「それは……私が、ダークネス、だから?」
    「………………」
     ドッ。
     そして1人のヴァンパイアが灼滅されたのだった。

     逃走した大河田はこれからも悪行を積み重ねるだろうが、アマネが灼滅された今、今まで通りの手法は取れなくなるだろう。
     そう、ASY六六六の起こす事件の一角を、灼滅者達は潰したのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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