「カモミールが一面に広がるハーブ園があるんですが、いかがですか?」
廊下で顔を合わせた鈴森・ひなた(高校生殺人鬼・dn0181)が持っていたのは、ハーブ園のパンフレット。
なだらかな斜面いっぱいに広がる、優しい香りのハーブガーデン。自然豊かな美しい景色を楽しみ、ハーブや花々に囲まれたひとときを過ごしませんか。
「今はカモミールが開花期で、摘み取りもできるんです」
カモミール。和名はカミツレ。
白く可愛い花をつけるハーブで、リンゴに似た甘い香りがすることから「地上のりんご」が語源になっている。
カモミールの摘み取りは期間限定の催しで、配られる紙コップに入るだけのカモミールを摘み取ることができる。摘み方は花だけでも、茎ごとでも。
また、このハーブガーデンは広い斜面に広がっていて、迷ってしまいそうなほど。
カモミールの畑だけでなく、ラベンダーガーデン、ローズガーデンも咲きはじめている。実用性の高いセージやタイム、ミントなどのキッチンバーブのガーデンもある。図鑑のように、とりどりのハーブを解説付きで植えている展示ガーデン区画も楽しい。
見て、触って、香りを楽しんで。据え付けのベンチで一休みもできて。
オープンカフェも併設されているのでゆっくり過ごせるし、ショップでお土産も買えるという。
「写真を見ていたら、とてもきれいで。今しか見られない光景を、ハーブに詳しい方も、あまり知らない方も、一緒に楽しむことができたらと」
●風薫るハーブ園
様々なハーブが香るハーブ園は、カモミール開花期がまさに盛り。
カモミールを摘み取って、みずみずしい香りのハーブティを味わってみませんか――。
「うわぁ、壮観だねっ!」
「心地良い春の風に吹かれて、直に生のハーブに触れながら茶の研究ってトコか?」
勇介(d02601)と健(d04736)は、ハーブの香りをいっぱいに吸い込む。曜灯(d29034)も楽しそうに見回して。
「これだけ沢山咲いてるのを見るのはあたしも初めてよ。……うん、すごくいい香り」
「ひお、カモミールとカミツレって同じのだと思ってなかったの」
陽桜(d01490)はカモミールに顔を寄せ、うふふ、と笑む。
「お花かわいいー」
「摘む前の花がこんなに可愛いなんてね」
良い薫りだね、と勇介は目を細める。摘み取り量は少なめだけど、この香りは、生のカモミールならではのもの。
(「研究会の留守番組の皆にも喜んでもらえるかな」)
「摘み方とかってあるのかな? 健ちゃん、ゆーちゃん、知ってる?」
「まぁ、花を潰さない様に綺麗に摘み取ってやるのが良さそうだよな? 勇介の方が研究熱心だから詳しいんじゃないか?」
「え、えっと、俺も生カモミールは初めてだから……」
初体験の摘み取りは、わからないことだらけ。
「陽桜ネ、フレッシュハーブティにするなら、花の部分だけでいいわ」
曜灯に教わり、一つ一つ摘んでいく。
「これそのまま飲めちゃうの?」
目をぱちくりの陽桜。コップの中の白い花たちは、香りもみずみずしく柔らかい。
「曜灯は飲んだ事あるのか?」
「パパが淹れてくれた事があるわ、苦みが薄くて飲みやすくなってるの」
フレッシュはドライより出にくいから、ちょっと多目に。曜灯から聞きながら、初めての生カモミールのお茶。一口試してみて、勇介は笑顔になる。
「うん、こっちの方が飲み易い!」
「いつも飲んでる味とはなんだか違う感じがするの。すごくおいしいー♪」
陽桜も初めての香りと味を楽しんで。お留守番のみんなとも一緒に飲みたい。
「他にも色々なハーブがあるみたいだけど 茶に出来るヤツどれ位あるんだろうなー?」
考え込む健。ハーブとお茶の世界は奥深い。
ふんわりと鼻をくすぐる、穏やかな甘い香り。
「初めて二人だけで出かけるの、嬉しいね」
嵐(d15801)の笑顔に、葵(d05978)も笑みを零し頷く。
「他にもスキな花はあるケド……カモミールの香りは一番スキ。葵みたいに優しい、香りがするカラ」
ここを選んで良かったと葵は思う。嵐の一番好きな花の香りなら、もっとよく知りたい
一つ二つと花を摘み入れる紙コップ。笑みを交わして、見せ合って。
「沢山取れた」
「僕も」
お茶しに行こうか、と嵐は手を差し出す。喜んで、と葵はその差し出された手を包み込む。
(「僕の気持ちが伝わるように。またこの香りに触れた時に、手のひらの温度を思い出してもらえるように」)
「また来ようね」
「ああ、勿論」
握られた手に、嵐は自然とまた笑顔になって。
(「いつも無表情でも、彼の前では一番咲く、あたしでいたい」)
次はどこへ、何をしようか。2人でなら、どこへ出かけても楽しい筈。
璃依(d05890)はわくわく笑顔、恋人とハーブガーデンなんてロマンチック。
「ね、カケル、どうどうー?」
「お、似合うな」
白い花を髪に咲かせる璃依に、翔琉(d07758)も笑顔になって。カモミールの花を少しずつ摘み取りながら、言葉を交わす。
「俺は月並みにお茶にするつもりだが、璃依は?」
二人で揃えたペアカップに注ぐ日が待ち遠しい。
甘い香りが漂う中、カフェでカモミール入ったスイーツとかもあったなー、なんて。
「なんかそんな話してたらお腹が空いてきたな……」
翔琉の言葉に答える、璃依の正直なお腹。……ぐぅーきゅるり。
「……ムードが……」
しょんぼりの璃依に、翔琉は小さく吹き出して、璃依の頭をぽんぽんぽん。しょんぼりから一転、璃依は柔らかふんにゃり笑顔に。
翔琉への大好きがいっぱいにあふれて、璃依は腕へと絡みつく。
……けどこのままじゃ、手が塞がってお花が摘めない、どうしよう?
出かける機会は多い流希(d10975)だけれど、ハーブ園は初めてとのこと。
「乾燥されていないカモミールも初めてですし、うん、いい香りですよ……」
摘み取り体験を楽しんでいる様子の流希に、よかった、とひなた(dn0181)も微笑んで。
ヒカリ(d06173)は、お花を摘みながらしみじみと思う。
(「今日はカップルさんが多いのだねぇ……」)
対して自分はひとりぼっち。ここはカモミールの花言葉通りにいくべきか、と周囲を見回せば、カモミールをスケッチ中のシャル(d26216)と目が合う。
「逆境に耐えるエネルギー、そして親交……確かにこうしてみると、小さいながらも元気を与えてくれそうな姿です」
表紙が無地の手帳に描かれたカモミールは、どこか味がある、万年筆の素朴なタッチ。シャルの摘み取ったカモミールは、茎がついたまま。
「これですか? 幾つかは、水差しにして観賞用にしょうかと思いまして」
花瓶はどうしましょう、とシャルは首を傾げる。
「普通の花瓶では大きすぎるよねぇ」
「……そうだ、使い切ったインクの小瓶がありました」
あれならきっと、丁度いい。
「ぼくは紅茶に入れたりポプリにしたり……。あとね、お肌や髪のお手入れにも使えるんだ。他にもいろいろ使えるからねぇ」
心にも体にも優しいお花だから、こうやって愛されるのかなぁ、と呟くヒカリ。
2人の間で、摘みたての白い花が、優しい芳香を漂わせている。
●ガーデンとカフェ
見渡す限りのガーデンでは、たくさんのハーブ達が柔らな芳香を放っている。
カフェでほっと一息ついて、普段と違う香りに包まれて。
「わたしも裏庭に植えて毎日見てるけど、こうして広いところで揺れてるのはまた違う風景ね」
樹(d02313)はゆったりと周囲を見回す。素敵な香りといっぱいの緑。
「最近、ちょっと気を張る出来事ばかりだったから……」
ここで元気をもらえそう、と彩歌(d02980)は微笑む。
「誘ってくれてありがとうございます、樹さん」
「急に誘っても来てくれるし、感謝してるのはわたしのほう」
交わされる言葉は、ハーブの香りのようにふんわりと、優しく2人を包み込む。
(「私がへこんだ時こうして気分転換に連れ出してくれるの、とっても感謝してるんですよ」)
気分の落ち着くハーブはと聞かれて、樹のお勧めはリンデンティー。
「ひととおり散歩した後に、飲んでみる?」
「初めて聞く名前ですけれど、樹さんのお奨めなら間違いありませんね」
なだらかな坂を歩いていけば、目指すカフェが見えてくる。
セオフィラス(d29040)とカカベル(d34471)は、2人とも人間形態でお出かけ。
「へぇ……キャスケット被ってるカカベルちゃんも、とってもキュートだね?」
セオフィラスはカカベルの手を取り、優雅な動作で、手の甲にキス。お姫様みたいと、赤くなるカカベルも愛らしい。
エスコートされて、カフェへ。楽しい1日にしたいと、カカベルも気合いが入る。
「こういうの、初めてなんですけど……どんな味がするのでしょうね」
「カモミールティーの味は確か……いや、止めておこうか」
初めての楽しみは、飲んだ時の方がいいから。
「もしかして、セオ様はお詳しいのですか?」
多少は知ってるくらいかな、そんなふうにさらりと言えるところも素敵だと、カカベルは思う。
セオフィラスの頼んだオレンジピールの紅茶も一口、お試しに。
「……美味しいです、とっても」
微笑むカカベル、その笑顔も愛らしくて。
「レディの微笑み、綺麗だよ……なんてね?」
ひなた(dn0181)が土産コーナーを通りがかったとき、さっきまで石鹸を見ていた貢(d23454)が、苗売り場にいた。
真剣に何やら考え込んでいた貢は、結局、苗を棚に戻す。
自分も何か買おうかととひなたも近づくと、おもむろに、名を呼ばれた。
ひなた、と。
「君がいつも色んなものへ誘ってくれるから、俺だけではとても思いつかないような場所の景色が見られる……いつも、それが嬉しい。君のお陰だ」
「いえ。……私はただ、何か『学生らしいこと』をしなきゃって思っていただけで……」
それでも、喜んでくれる人がいるのは、ひなたにとっても嬉しいこと。
(「それにしても……」)
この人が耳まで真っ赤なのも、見慣れたなぁとひなたは思う。――きっと、そういう体質の人なんだろう、と。
●カモミール畑のあちこちで
甘い香りを漂わせながら、白い小花がたくさん風に揺れている。
一つ一つ優しく摘み取って、持ち帰ったら何に使おうか?
香りを纏った風が、気持ちよく吹きわたる。
「カモミールは古くから、薬効の穏やかなハーブとして利用されてきたんですよねー」
「素敵、なところですね…」
嘉月(d01013)とチェーロ(d18812)は、カモミール畑に目を細める。
「祖母の家の様な素敵な園ね……」
仏蘭西の庭を思い出すというリヤン(d32540)の傍らには、ケープで翼を隠したシュエット。
「シュエット、完全に普通の猫っすね」
煌介(d07908)はそっと目を細める。闇を払う手助けをした彼女が楽しげで良かった。
きれいに形の整ったカモミールを選び、自然に感謝しながら優しく採取。
煌介は薬学部、嘉月は調理学部。どちらの学部も結構カオスで、皆個性的。でも居心地はよくて……摘み取りの中、そんな会話を交わすのも、楽しい。
会話を聞きながら、チェーロはかつての『家族』に思いを馳せる。今は義姉しか残っておらず、さびしくなったりもする、けれど。
(「それでも、暖かなものがあるから、大丈夫」)
リヤンは煌介をそっと見る。何処か祖母を思わせる、他人とは思えないひと。リヤンの視線に煌介も気づくけれど、互いにそのことには、まだ触れない。
ただ、と、リヤンは煌介へ。
「……チェーロさんの居る寮を紹介してくれて有難う」
「礼はチェーロに、かな」
ちいさく笑みを浮かべるチェーロ。この先の笑顔を、紡ぐきっかけになれたなら、嬉しい。
摘み取り後は、優しい青さの香残る茶を味わって。
「託さんは、しっかり学園になじまれているようで何よりですねー」
慣れました? との嘉月に、リヤンは控え目に微笑する。今が楽しくて、幸せ。
「……皆が優しい事、先のハーブの摘み方で、改めて良く分かって……嬉しいの」
誰もが葉を乱暴には扱わず、自分もその輪の中に居られて。
その言葉には、「俺も」と煌介も頷く。
ハーブの香りに、味に、空気。ほんわか安らぐチェーロに、思案顔で楽しげな嘉月。
煌介は改めて思う。――皆、大好きだ。
遊(d00822)と桃香(d03239)の2人は、もうすぐ誕生日。桃香は摘み取った花に顔を寄せ、すん、と息を吸い込む。
「……香りが似てるから、林檎系と合わせられそうな気も」
お茶、ドライフラワー、押し花、ケーキ。何に使うか考えることも楽しい。
桃香は、作りたてのフレッシュカモミールティーを差出して。
「あらためて、遊さんお誕生日おめでとうございます!」
カモミールの花言葉の一つは、『あなたを癒す』。
「いつまでも遊さんの傍にいて、どれだけでも癒しますから! ……約束、です」
遊の表情は自然と緩む。照れ臭いけど、好きな人に祝ってもらえる喜び。
「カモミールのように『清楚』で『癒しと強さ』を持つ桃香へ」
遊から桃香へ手渡される、優しい香りのフレッシュカモミールティー。
「オレからこの一年も『苦難に耐える力』を。誕生日おめでとさんな♪」
桃香はコップを受け取って、一口。
……うん、この人の傍でなら、私はきっとくじけずに頑張れる。
満開や、と悟(d00662)は目を輝かせる。
「黄色い所がもりっと出とる奴が摘み時や、綺麗な花はあかんで」
「え?」
悟の言葉は一拍遅し。想希(d01722)が摘んだ少し早いカモミールは、ならばと、悟の髪飾りに。
「金の勲章やな」
「ふふ、花盛りですね?」
想希の胸にも白い花を咲かせて、頬をくっつけての記念写真。
ベンチに腰掛け味わうのは、摘みたてのカモミールティー。
「ん……いい香り。優しい味がしますね」
目を細める想希。このカモミールでハーブ菓子はつくれる?
「花言葉は仲直りやし、仲直り後ほっとする味はどや」
「仲直りか……。雨降って地固まる……のような」
レモンムースとメロンジュレのトッピングに、林檎ジャムとカモミールの花。
飲み物は、蜜柑ジュースにソーダ水、カモミール茶をプラスして。
「苦い気持ちもぱーっと弾けてすっきりやろ」
「それで、フルーツポンチもいいかも?」
2人で作る春の味は、嬉しく楽しい共同作業。
ハーブの中に埋もれた大型長毛サイベリアンは、人目を忍んで猫になった紋次郎(d04712)。
「おー、良い匂いだな」
紋次郎が呟き振り返れば、十織(d05764)がもっさもさな黒犬になっていて。
「お前さん、そんなもふ犬だったんか。丁度良い、ちと乗せてくれ」
十織の背に乗るナノナノ九紡と、長毛猫の紋次郎。いつもと違う視点で、ぐるりのんびり園内巡り。楽だしふさもさで心地良い。
犬になっても変わらぬ十織の寝癖、紋次郎は前足伸ばして、てしてしてし。
せっかくだからと、摘み取り体験へ行く十織。紋次郎の分も一緒に。
カモミールには色んな効能がある、との十織の知識は、案内看板の受け売りで。
「けどまぁ覚えたんなら今から物知り、だな」
人姿の十織に抱き上げられ、猫の紋次郎はカモミールのにおいをふんふんと。
「風邪にも効くといいな」
「風邪はもう治った……と思う」
治りかけが肝心、と十織は摘んだ花を鼻先へ寄せる。
広い広いカモミール畑。加工も株分けもされていない、こんなに沢山のカモミールは、眞白(d26062)は初体験。
「いい香りだね! それにとっても綺麗!」
摘んだ花はポプリにでもしようと、眞白はせっせと花を摘み取る。
(「ハル君は農家の子だけど……花にも詳しいのかな?」)
悠(d24384)の知識は農家の子ならでは。カミツレはタマネギやアブラナ科野菜と一緒に植えるといいこと、味をよくし、生育を促進し、害虫対策にもなること。
「……カミツレってさ、地面を這うように生え、踏まれれば踏まれるほどよく育つんだ……どんな逆境にも堪え、そして強く育つ……まるで俺達みたいだろ?」
茎を長めに摘み取った花を、器用に指輪の形に成型する悠。片膝をついて、眞白の手を取って。
左手の薬指にカミツレの指輪を通し、照れ笑いの悠。
「今はコレだけど……いつか必ず本物を渡す」
悠に見つめられ、眞白の頬は熱くなる。ほてった頬は、きっと今、とっても赤い。
持ち帰るのは摘み取ったカモミールと、お土産のハーブ達と、楽しい思い出の数々。
帰宅後もしばらくは、優しいハーブの香りが周囲をふんわりと漂っていた。
作者:海乃もずく |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月25日
難度:簡単
参加:28人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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