秋。
落ち葉が舞い散るには、まだ少し残暑が厳しいそんなある日。
主婦で賑わう商店街に、あやしーい影が忍び寄る。
「ふぅーはっはっはっはっはっは! 我こそは十万石饅頭怪人、じゅうまーんっ!」
とうっと掛け声を高らかに、十万石饅頭怪人と名乗るそいつは、商店街の上からしゅたっと地上へ降り立った。
真っ白い全身タイツ、頭にくっついているのは俵型のどでかい饅頭。
ご丁寧に、真っ白い後頭部には、焼印で茶色く『十万石』と記されている。
声といい身長といい、明らかにおっさん。
「い、イベントかしら……?」
あまりの出来事に、主婦は思考が止まってしまったようだ。
買い物袋を提げたまま、その場に立ち尽くす。
だがそう思うのも無理はない。
十万石饅頭といえば、ここ、春日部市の銘菓。
3cmほどの大きさの俵型の饅頭で、皮の部分が白く、焼印で十万石と記されている。
まさに目の前のストッキング男の頭部だ。
だが残念ながらキャンペーンなどではなかったらしい。
「ふぅーはっはっはっはっはっは! 全人類全て饅頭となり、世界制服の為の礎となるのだーーーー!」
十万石饅頭怪人が叫ぶと、その白い手から無数の十万石饅頭が歩行者達へ降り注ぐ!
立ち止まっていた主婦も、商店街の店員も、みんなみんな十万石饅頭怪人の餌食に。
降り注いだ十万石饅頭に当たった一般人は、その頭が怪人と同じく十万石饅頭に変わってしまったのだ!
「全ては、世界制服の為に!!」
「「「全ては、世界制服の為に!!!」」」
怪人が叫ぶと、怪人にされたプチ十万石饅頭怪人達も高らかに叫ぶ。
秋ののどかな商店街は、真っ白な地獄絵図(?)と化すのだった……。
「と、いうわけで~。怪人さん出現ですね~」
眠たげなエクスブレイン・透は、はふぅと欠伸を漏らす。
意味不明な形の抱き枕をひざに抱え、いつでも眠る準備ばっちりなようだ。
「現場は、埼玉県春日部市の商店街です。昼間から大暴れのようです~」
抱き枕を抱えたまま、器用に地図を取り出し、透は灼滅者達に場所を指し示す。
「十万石饅頭怪人は、十万石饅頭を投げて攻撃しています~。十万石饅頭に当たると、怪人になってしまう『怪人饅頭攻撃』と~、当たると爆発する『爆裂饅頭攻撃』、数分間爆睡してしまう『爆睡饅頭攻撃』があるようです~」
うとうとしているのか、透の口調は間延びしまくり。
「見た目の違いは~、饅頭の大きさ。一番大きい饅頭は手のひらサイズで、それが『怪人饅頭攻撃』です~。中くらいの大きさの、大体5cmぐらいでしょうか~? そして最後が一番小さい十万石饅頭。3cmぐらいで、マシンガンみたいに連続で、怪人の手のひらから発射されます~」
透が両手をふわふわと動かす。
たぶんマシンガンを撃つ真似なのだと思う。
とろとろとした動きのせいか、まったくそうは見えないのだが。
「あと~、怪人にされた一般人は~、掴みかかってきたり、パーンチとかキックーとかで、攻撃してきます~。もともとが一般人ですから、威力はさほどありません~。十万石饅頭怪人を倒せば、元に戻りますから、絶対に致命傷は負わせちゃ駄目です~」
怪人にされてしまった一般人は、およそ20名ぐらいだとか。
灼滅者が現地に付く頃には、もう少し被害者は増えているだろう。
「十万石饅頭怪人の攻撃は~、饅頭ですけど、中身の餡子は飛び散りません~。よかったですよね~?」
なにがどうよいのか。
きっと、見た目的とかなんとかだろう。
「十万石饅頭怪人は~、十万石怪人仲間を増やしてます~。集団の白い怪人集団と化してますから~、すぐ見つかります。そんなわけで~。皆様、ふぁいと~?」
はふぅと欠伸を一つ漏らし、透は笑顔で灼滅者を送り出した。
参加者 | |
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ラグナ・ユニバス(スリーピングタイラント・d02040) |
佐渡島・朱鷺(第54代佐渡守護者正統後継・d02075) |
光苑寺・華鏡(高校生エクソシスト・d03976) |
ヴァーリ・シトゥルス(バケツの底は宇宙の真理・d04731) |
雲仙・雲雀(ふわふわ・d04739) |
ブリギッテ・ヘンネフェルト(なまけもの天国・d05769) |
蓮見・香夜子(新米ご当地ヒーロー・d06000) |
三園・小次郎(愛のみぞ知る・d08390) |
●
埼玉県春日部市。
秋空の広がるその町に、灼滅者達は集まった。
眼前に広がるのは白い集団・十万石饅頭怪人とその手下とされた一般人!
「白いです……美味しそうです……」
ラグナ・ユニバス(スリーピングタイラント・d02040)は、この異常事態に動じていなかった。
紫の瞳が眠たげに怪人を見つめているのだが、現実を理解しているのかいないのか。
「この私が来たからには、もう大丈夫だ! 動物達から得た癒しと勇気、決してお前らに引けはとらん。怪人どもよ、覚悟しろ!」
佐渡島・朱鷺(第54代佐渡守護者正統後継・d02075)は十万石饅頭怪人にビシッと指を突きつける。
「さて、中々に愉快な御当地怪人なようだが、やっていることは捨て置けぬ。きっちり、消えてもらおうか」
眼鏡を直しながら、光苑寺・華鏡(高校生エクソシスト・d03976)は十万石饅頭怪人を睨む。
「全身タイツにお饅頭の頭……とてもユニークな怪人さんですね」
そういうヴァーリ・シトゥルス(バケツの底は宇宙の真理・d04731)は、前が見えているのだろうか?
銀のバケツを頭からすっぽりと被り、口だけをのぞかせて微笑んでいる。
「お饅頭……」
その横で、じゅるりと涎がたれそうな勢いで熱い視線を注いでいるのは、雲仙・雲雀(ふわふわ・d04739)。
お菓子が好きそうなふわふわの雰囲気なのだが、怪人は食べられないだろう、たぶん。
「あれって、弱みとかあるのかな」
ブリギッテ・ヘンネフェルト(なまけもの天国・d05769)は、十万石饅頭怪人の高笑いを聞きながら呟く。
果たして怪人に弱みはあるのだろうか。
「なんだか良い香りがする気がするわ」
蓮見・香夜子(新米ご当地ヒーロー・d06000)の気のせいではなく、あたりには十万石饅頭独特の、甘すぎずくど過ぎない美味しい香りが充満していた。
もともとの十万石饅頭はそれほど匂いの強い和菓子ではないのだが、十万石饅頭怪人の巨大な饅頭頭と、プチ饅頭怪人にされた被害者達の頭から香っているのだろう。
「プチ怪人も随分多いな。饅頭怪人を倒すには、まずはプチの奴らを片付けねェとな」
霊犬・きしめんを従えて、三園・小次郎(愛のみぞ知る・d08390)は護符の束を握り締める。
「ふぅーはっはっはっはっはっは! 来たな邪魔者ども! われらグローバルジャスティス様の為の世界征服饅頭計画、決して邪魔はさせんのだ!!」
プチ十万石饅頭怪人を作るのに必死だった十万石饅頭怪人が、やっと灼滅者達に気付いた。
いざ、勝負!
●
「ふぅーはっはっはっはっはっは! いけ、プチ十万石饅頭怪人達よ! われらの野望を阻むものを、消し去るがいい!」
十万石饅頭怪人の叫びと共に、ウゾウゾと彷徨うだけだったプチ十万石怪人達が一斉に灼滅者を振り向いた。
その数、数十人!
「ヨッシャ! いこうぜ、きしめん!」
きしめんを撫でて、小次郎は五星結界符を撃ち放つ!
小次郎の周囲に五枚の符が散らばり、仲間達と共に結果以内に包み込む。
「怪人さんのあたま、とってもおっきいのですよ~……ちょっとくらい食べてもいいです?」
怪人達が襲ってきているというのに、後衛の雲仙はまだ名残惜しそうに怪人を見つめている。
このままでは、戦うよりも食べだしそうだ。
「ふぅーはっはっはっはっはっは! そんなに饅頭が食いたきゃ仲間にしてやるっ!」
十万石饅頭怪人が雲仙の言葉に喜んで、怪人饅頭攻撃発動!
手の平サイズの巨大饅頭が、雲仙目掛けて飛んでくる。
「あれ~?」
「避けて!」
美味しそうな饅頭に釘付けで、避けようとしないどころか口をあけそうな雲仙を、華鏡が腕を引いて護る。
雲仙にぶち当たりそうだった手の平大饅頭は、商店街の壁に当たり、バウンドしてそのまま逃げ遅れた一般人にぶつかった。
その瞬間、一般人がプチ十万石饅頭怪人に!
「人が、饅頭怪人になるなんて! ……こわッ」
蓮見がその光景に目を見開き、エルナトに注意を促す。
そして敵は十万石饅頭怪人だけではない。
プチ十万石饅頭怪人たちも情け容赦なく襲ってくる!
「饅頭は大人しくお茶と一緒に頂かれてもらおう」
バベルの鎖を瞳に集中させ、華鏡は一番殺傷力の低いセイクリッドクロスを放つ。
輝く十字架から無数の光がこぼれ、操られるプチ十万石饅頭怪人達を次々と貫いた。
「ん、む……? 買わずとも名物をプレゼントしてくれるとは、なかなかすごい夢ですね」
迫りくるプチ怪人達をプレゼントと思っているのか。
雲仙とは別の意味で、ユニバスも現状把握が危うい。
だがプレゼントのされ方に不満があるようだ。
前衛の蓮見をぐいっと引っ張り、その前に進み出る。
「接客とはもっと丁寧にしていただかないと」
意味不明なことを呟き、眠たげな瞳のまま、リングスラッシャーをプチ十万石饅頭怪人達に投げつけた。
「えぇっ?!」
蓮見が止める間もなかった。
リングスラッシャーはジグザグに動いて、前列にいたプチ十万石饅頭怪人達をことごとくなぎ払う!
ユニバス自身は手加減したつもりなのだろうが、相手は元一般人。
怪人の手下に無理やりされたその身体は脆く、一瞬にして倒れ付した。
「人を無理矢理自己の意のままにし、仲間とするなんて。まず、自分を理解してもらい信頼を得て初めて仲間を得れるのです。それに! 被るなら饅頭ではなくバケツなのです!」
善良な一般市民が倒れ伏すのをみて、シトゥルスの怒りは頂点に達した。
倒したのが仲間だと言うことは、この際関係が無かった。
「いいですか? バケツというものは究極の被り物なのです。神様は言いました、島国に行くと。それは間違いなくこの地に違いないのです。この神聖なる地で被るのはバケツ。それ以外あってはならないのです!」
「うるせえええええええええええええええええっ!!!!」
力説するシトゥルスに怪人がブチ切れた。
いや、これは怪人でなくともブチ切れるだろう。
両の手からマシンガンのように無数の十万石饅頭が放たれる!
「うああああああっ!」
「きゃああっ」
到底避けきれるものではなく、灼滅者はもちろんの事、前衛で頑張るサーヴァント達でさえも攻撃の餌食に!
「これって誤魔化しだけど、無いよりましだよね」
ブリギッテが一番ダメージを受けた前衛の佐渡島に鎮静剤を打つ。
怪我が治りはしないものの、痛みを感じなくなった佐渡島はすぐさま立ち上がる。
「第54代佐渡守護者正統後継、佐渡島朱鷺、参る!」
プチ十万石怪人達を傷つけぬように相手していた佐渡島は、十万石饅頭怪人の爆撃に当てられながらも敵陣に突っ込む。
痛みはしばらく感じない。
一般人の被害者が多すぎて、怪人を倒さない限りどうにもならないと判断したのだ。
艶やかな着物の袖が風を切り、空を舞う!
「東武ホワイトタイガーダイナミックアターーーーーーーーーーク!」
ガイアチャージを貯めに溜め込んだ佐渡島が、十万石饅頭怪人をがっちりホールド、そのまま地面に叩きつけた!
「あんぎゃあああああああああああああああああっ!!!」
のた打ち回る怪人の周囲に、プチ怪人達が盾のごとく群がりだす!
●
「あァ、プチ達をあまり傷つけたくはねェんだ」
手加減してプチ怪人達を戦闘不能状態に陥らせながら、小次郎は仲間達が怪人本体へいく道を作る。
だがその間も十万石饅頭怪人のマシンガン饅頭は止まらない。
「守りの支援なのですよ~」
雲仙が微笑むと、斬り込み隊長と化した佐渡島の周囲に光の輪がいくつも出現し、その傷を癒してゆく。
「ヒーローの邪魔はしちゃだめなのよ? わかったらさっさと退きなさいよねっ」
小次郎が開いてくれた怪人への路に湧き出てくるプチ怪人達を、蓮見は手加減しながらぶっ飛ばす。
「ちょっとトラウマ覗かしてもらいたいけど、遠いんだよ! ねぇ、焼き印がずれて七万石になってるよ!」
「なんと?! 俺様のマークは完璧のはずうううううう?!」
近づくにも距離があって近づけないブリギッテは、怪人のプライドを刺激する。
十万石饅頭怪人のプライドは激しく刺激され、絶え間なく放たれ続けていたマシンガンのような饅頭が止まった。
それどころか、効果がよくわからない5cmぐらいの中くらいの饅頭がぽとっと手の平から零れ落ちる。
「ご当地ビーム、だぜ!」
小次郎がビームを放つ。
自慢の饅頭を貫かれた怪人は、怒りにじたじた暴れだす。
「我が影に飲まれるがいい」
錯乱する十万石饅頭怪人のその隙を、華鏡は見逃さなかった。
華鏡から触手型の影が伸び、怪人を絡めとる。
「さあ、バケツを被るのです」
とことんバケツにこだわるシトゥルスが、どこかから持ってきたバケツで動けない怪人をぶん殴る。
「こんなに五月蝿くては気持ちよく目覚められません。目には目をと言いますし、こちらも少し激しく苦情を申し立てさせていただきましょうか」
やっぱり寝ぼけ続けているユニバスは、動けない怪人に情け容赦なく漆黒の弾丸を埋め込んだ。
「止めじゃ、ふぬうっ!」
息も絶え絶えの怪人を、鼻息も荒く佐渡島の巨大な拳がぶっ飛ばした。
「グローバルジャスティスさまぁあああああああっ!!!」
断末魔の叫びを上げて、十万石饅頭怪人はお星様になった。
●
「皆お疲れサン。イヤァ、なかなかウマそ……手強いヤツだったな、視覚的に。腹減ったわ……」
小次郎のお腹がくぅぅっと鳴った。
犬の泣き声にも似たそれに、きしめんが呼応してくぅんと鳴いたり。
そしてよく頑張ったなと撫でる小次郎の手を、嬉しそうにぺろりと舐めた。
「確かにいい香りだったものねぇ」
小次郎に蓮見も頷く。
「コスプレなら、怪人よりやっぱりナース服よね」
全身白タイツよりも、ブリギッテのような美少女にはナース服がよく似合う。
「皆さん無事で、良かったですよ~。でも怪我をしていたら、遠慮なくいってくださいね~?」
雲仙はほわほわっとした口調のまま、怪人にされていた一般人に癒しの風を贈る。
みんながきちんと手加減をしていたおかげで、一般人には致命的な怪我を負ったものはいないようだ。
些細な怪我も、雲仙の癒しの風が即座に癒していくだろう。
「バケツをかぶせてあげられなかったのが残念です」
シトゥルスは自身の被るバケツに手を当て、心底残念そう。
だが十万石饅頭怪人も、被害にあった人々も、饅頭頭とバケツ頭のどちらがましかといえば、答えに窮するかもしれない。
「ガイアパワーを吸収しておくべきかな。帰りにまた動物公園にでも行ってきましょうか」
よほど動物達の癒しと勇気が気に入ったのだろう。
佐渡島はたくし上げた着物の袖を下ろし、動物達に思いを馳せる。
「さて、事件は片付いたことだし、ここでひとつ私からの提案なのだが、皆で十万石饅頭とやらを試食してみないか」
華鏡の言葉に、全員頷く。
大人気だと言う十万石饅頭。
お土産は難しいかもしれないが、ちょこっと試食するくらいならあるに違いない。
「きっと、おいしいです……」
夢と現をまださまよっているユニバスは、口をむにむにっと動かした。
十万石饅頭を食べているつもりなのかもしれない。
試食したいと言う灼滅者達の話を聞いて、十万石饅頭の店員さんがお店に招きいれて、お茶まで出してくれたのはそのすぐ直後の事。
白い皮に包まれた、しっとりとするこし餡に灼滅者達は戦いの疲れと空腹を癒したのだった。
作者:霜月零 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 8
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