鋼糸魔人

    作者:紫村雪乃

     少年は雑踏の中に紛れ込むと、ショーウィンドウの前にゆらりと立った。凍結した時間の中に生きるマネキンの凍りついたような顔を眺める。
     五月の休日。ショッピングモールの中は人であふれかえっていた。
     女のように美麗な相貌をわずかに動かせ、少年は視線をずらせた。硝子に映る人々の顔はどれも楽しげで、生き生きとしていた。が、それももうすぐ終わる。このボクが終わらせる。
    「あの人……」
     時折、高校生らしき少女たちが足をとめた。少年の美貌に心惹かれてのことだ。
     が、少女たちは何も見てはいなかった。少年の黒瞳にやどる冷たい殺意も、その手から音もなく手繰りだされている目視できぬほどの極細の糸も。
     それは鋼でできていた。刃ですら断ち切れぬ超硬度の鋼鉄製である。
     糸は、まるで意志あるもののように蠢いた。するすると這いよると、少女たちも気づかぬうちにその全身にまとわりつく。
    「ふふふ」
     薄く嗤うと、少年はくいと指を動かした。
     わずか一指。それだけの動きで、鋼の糸は必殺の効力を発揮した。すぱりと少女たちの肉体は寸断されてしまったのである。
     解体、というにふさわしい、それはあまりにも呆気ない殺戮。ぼとりぼとりと切断された頭や腕が地に落ち、わずかに遅れて鮮血が床に流れた。
     甲高い悲鳴があがったのは、それからさらに数秒後のことであった。
    「武蔵坂の灼滅者は強いって噂だけど、みんな殺し終えるまでに、灼滅者たち、来るかな?」
     ひどく楽しそうに少年はつぶやいた。

    「……千布里・采(夜藍空・d00110)さんが斬新京一郎の足取りを掴んだことはご存知だと思います」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が口を開いた。そして、京一郎が手引きしたと思われる事件が札幌市内で相次いでいるという報告がある、と続けた。
    「六六六人衆が行っていた闇堕ちゲームを利用し、斬新京一郎が何かを企んでいるらしいのです。今回動くのは、序列五四三位の甲斐瑛太。すでに札幌市地下鉄の沿線にあるショッピングモールで無差別殺人を行い、灼滅者が来るのを待っています」
     言葉を切り、槙奈は灼滅者たちを不安そうに見回した。
    「甲斐瑛太の武器は鋼糸。斬るだけでなく、縛ることで相手の動きを封じることもできます。すでに彼は結界をしいて灼滅者が来るのを待ち受けているはず。本来は灼滅者が十人かかっても斃せるかどうかわからない強敵です。ですが」
     槙奈は怪訝そうに眉をひそめると、
    「どういう理由でか六六六人衆の力が弱められているようです。何故かはわかりません。しかし甲斐瑛太を灼滅するに有利であることは確かです」
     槙奈は再び灼滅者たちを見回した。今度は信頼の光を瞳にうかべて。
    「……お願いします。甲斐瑛太を灼滅し、無残に殺害された人々の仇をとってください。そして、皆さん全員生きて戻ってきて下さい」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    東方・亮太郎(我道突進・d03229)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)
    百合ヶ丘・リィザ(水面の月に手を伸ばし・d27789)
    シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)
    幡谷・功徳(人殺し・d31096)
    荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)

    ■リプレイ


    「ここか」
     十六歳ほどの少年が足をとめ、見上げた。
     荒削りだが、整っていなくもない風貌。黒曜石のごとき瞳にあるのは強い意志の光である。
     東方・亮太郎(我道突進・d03229)。灼滅者であった。
     その亮太郎の傍らには七人の男女。同じく灼滅者である。名はそれぞれに、
     神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)、
     明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)、
     百合ヶ丘・リィザ(水面の月に手を伸ばし・d27789)、
     荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)、
     千布里・采(夜藍空・d00110)、
     シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)、
     幡谷・功徳(人殺し・d31096)、
     といった。
     そして、彼ら八人の前には巨大な建物があった。件のショッピングモールである。
     一見しただけでは常人にはわからないだろう。ショッピングモールの異変が。
     しかし、灼滅者たちにはわかる。ショッピングモールは凍りついていた。悽愴の殺気によって。
     いる。
     やはり確かにいるのだ。六六六人衆五四三位の殺人鬼、甲斐瑛太が。
    「ふふ、六六六人衆は初めてですわね。さあ、一般人などより殺しがいのある者がこちらにいますよ……!」
     不敵に笑いながら、彫りの深い顔立ちの少女がストロベリーブラウンの髪をゆらしながに足を踏み出した。リィザである。
     センサーがリィザを感知。自動ドアが開いた。
     瞬間、リィザは息をひいた。
     眼前。モール内のフロアは真紅に染められていた。どろりと広がる鮮血の海だ。
     所々転がっている壊れたマネキン人形のようなものは解体された人間の五体であった。綺麗に断ち割られた切断面から骨や筋肉組織が覗いている。頭がおかしくなりそうなほどの異常な光景であった。
     むっと立ち込める血臭の中、眼鏡をかけた理知的な風貌の若者が足を踏み出した。一羽である。
    「中央広場は……痛ッ」
     苦痛に一羽は顔をしかめた。足首がすぱりと切れている。
    「これは――」
     細身で、透けるように肌の白い少女――柚羽が、夜と同色の瞳を凝らした。
     床から十センチメートルほどの高さ。極細の赤い筋があった。血のついた糸だ。
     すると、飄然とした態度の若者が、はじかれたように視線を周囲に走らせた。どこか希望の輝きを秘めた、そう、深い夜が開ける鬨の空の色の瞳が捉えたものは――モールに張り巡らされた無数の糸。
    「くっ」
     采は唇を噛み締めた。彼は鋼糸を探査するため、広場入口で影を先行させようと考えていたのだ。が、鋼糸は入口にも張られていた。警戒しているのか、彼の霊犬もしきりに辺りの匂いを嗅いでいる。
    「……やってくれますね」
     一羽の眼がぎらりと光った。鯉口を切った場合、刀の刃はこのような光を発するのではないだろうか。
     その様子を見つめ、功徳はぼさぼさの髪に指を突っ込んだ。すべてを見通すような鋭い眼に光をゆらめかせたまま、顔をわずかに歪める。気分が悪かった。
     戦闘に対する不安。彼の吐き気の原因はそれであった。
     今回の作戦。これで本当に良かったのだろうかと功徳は思っていた。もっと話し合っておくべきではなかったかと。
    「……これで奇襲は不可能になったかもな。ったく。メディックを呼びたいね……って俺か」
     功徳は苦く吐き捨てた。


     亮太郎と功徳はカラースプレーを取り出した。周囲に吹き付ける。すると縦横に交差する細い線が現れた。甲斐によって張り巡らされた鋼糸だ。
     と、目の醒めるな鮮やかな蒼の髪をもつ、涼しい容貌の少女が、スレイヤーカードを取り出した。
     次元封印解除。転移座標固定。素粒子変換された殲術武器が顕現する。
     少女――シルヴァーナは日本刀をしゃらりと抜き払った。冴え冴えとした刃が光をはねる。
    「鋼糸が斬れるか試してみるでござる」
     シルヴァーナが唐竹に刃を振り下ろした。
     シャン、と。鼓膜を撃つような音をたてて刃ははじかれた。
    「……さすがに簡単には断てぬでござるな」
    「なら」
     今度は柚羽がクルセイドソードで斬りつけた。
     破邪の一閃。しかし、依然として鋼糸はそのままである。鋼糸が切断されたのは、実に五回柚羽が斬りつけた後のことであった。

     糸を避けつつ、亮太郎と柚羽が歩き始めた。そこかしこにばらばらされた死体が転がっている。中には子供や老人の死体もあった。
    「くっ」
     周囲に視線をむけていた煌く銀髪、そして妖しく光る紅瞳をもつ十五歳ほどの少女が痛ましげに瞼を伏せた。耀である。
     嗚呼、と耀は嘆声を零した。
    「今回も、救えない…なんて、無力なんだろう」
    「生き残っている一般人はいないのだろうか」
     亮太郎は辺りを見回した。ぎんっ、と一羽の周囲で音が鳴り、疾風が渦巻いた。彼の発した凄絶の殺気の余波である。
    「殺気を放ちました。これで誰も近寄っては来ないはずですが……」
    「こんな所、殺界形成が無くとも誰も近寄らんでござろうな」
     冷徹な声音でシルヴァーナはぽつりと呟いた。
     辺りに人の声はない。まるでゴーストタウンのように。ただ賑やかな音楽はいまだに鳴り響いていた。それがかえって不気味であった。
    「皆様」
     リィザが足をとめた。
    「わかっていますわね、私たちの使命を。目的は甲斐瑛太の灼滅。一般人の救出ではありません。それをお忘れなきように」
     静かにリィザはいった。わかっている、と亮太郎は軋るような声でこたえた。
     冷たいようだが、リィザのいっていることは間違いではない。一つの命を救うために六六六人衆を逃すようなことがあってはならないからだ。逃げ延びた甲斐が次に殺すのは百人か千人か。それだけは許してはならない。
    「ええ」
     柚羽もまた頷いた。そして一般人を見殺しにすることを覚悟した。
     相手は五百番台の六六六人衆。弱みをつくるわけにはいかなかった。
    「……ここで、確実に仕留めてみせます!」
     耀はいった。それは宣言だ。犠牲になった者達への。
     それが手向けになると信じる耀であった。


     そこは開けた空間であった。同時に綺麗な空間でもあった。驚く程ここには死体はなかった。
     あるのは、ただ、糸。光線の乱舞だ。そして、その乱舞の中央にいるのは――
    「……甲斐瑛太やな?」
     采が問うと、その美麗な若者はニィと嗤った。すると一羽が吐き捨てた。
    「まるで誘蛾灯に巣を張った蜘蛛。益虫の蜘蛛をダークネスの比喩に使うのは我ながらどうかと思いますが」
    「なら、君達は蜘蛛の巣にかかった哀れで脆弱な蛾というところかな。ふふふ、ともかく待ちくたびれちゃったよ」
    「別に私達を呼び出したいのなら、手紙電話何でも良いのですよ?」
     柚羽が冷たく一瞥した。
    「まぁ、貴方達は其処等の人殺した方が手っ取り早いですものね」
    「手っ取り早くはないよ」
     瑛太はため息を零した。
    「殺したのは三百人ほどかな。さすがに疲れちゃったよ。でも、ゲームのオープニングとしちゃあ、なかなかだろ?」
    「……貴方は」
     耀は怒りの滲んだ声を押し出した。そしてぎらりと瑛太を睨みつけると、
    「ここで止める……。これ以上、悲しみを振り撒かせはしません!」
    「できるかな、蛾のような非力な君達に?」
     瑛太が嘲笑った。いや、むしろ憫笑をうかべた。たった八人の灼滅者ごときに何ができようか。

    「……できるでござるよ」
     小さな囁きは天井近くで発せられた。シルヴァーナだ。蓑虫のように彼女は糸で天上からぶら下がっているのだった。
    「……さすがは」
     シルヴァーナは呻いた。
     上から見た風景。甲斐は実に巧みに糸を張り巡らせている。あれでは灼滅者たちは迂闊に動けぬであろう。が――
     シルヴァーナは結界の死角を見出していた。上だ。そこには隙が多かったのである。


     耀の目から赤光が迸りでた。
     刹那だ。その身からどす黒い霧の如きものが放散された。
     殺気。超高密度のそれは物理的な存在とかして瑛太を襲った。
    「へえ。やるねえ」
     殺気に蝕まれながら、しかし瑛太は嗤った。瞬間、ぞくりと耀は身を震わせた。
     足元を毒蛇が這う感覚。そうと耀が思った瞬間、何かが彼女の全身に巻き付いた。鋼糸だ。
    「くくく。僕がただお前たちのような虫けらとおしゃべりを楽しんでいただけだと思ったのかい? ここは、もう僕のテリトリーなんだよ」
     瑛太は指をくいと動かした。すると耀は苦痛に身を悶えさせた。鋼糸が刃と化して彼女の身に食い込んでいる。
    「まずはどこを落としてほしい。その細く白い手かい? それとも脚。いや、面倒だから、いっそ首を落としちゃおうか」
     瑛太は舌なめずりした。その言葉を聞きつつ、しかし灼滅者達は動けない。瑛太の鋼糸の威力はわかっている。下手に動けば耀は一瞬でばらばらにされてしまうだろう。
     瑛太の笑みが深くなった。そして指がくい、と動き――
     影が空に舞った。きらり、とはねる銀光。直後、ざくりと鋏が床を穿った。
     シルヴァーナ。天井より舞い降りた彼女の鋏には体重と落下速度が加えられている。その強大な破壊力に耐え切れず、床は爆発したように砕け散った。
    「あっ」
    「うっ」
    「くっ」
     呻く声は三つあがった。ひとつは耀のものだ。鋼糸の強烈な緊縛により、彼女の全身からは鮮血がしぶいている。
     そして、もうひとつ。これき瑛太のものであった。確かに彼は耀の全身を分断したと思った。が、事実はそうではない。シルヴァーナの鋏の一撃により――鋼糸を切断することはできなかったが――彼の送り出した力は微妙に歪められ、鋼糸は本来の力を発揮することができなかったのである。呻きは、その欠化に対するものであった。
     さらに三つめ。これはシルヴァーナのものである。
     彼女の身は袈裟に切り裂かれていた。襲撃に気づいて放った瑛太の鋼糸の一閃によるものである。
     ばたりとシルヴァーナは倒れた。それを見つつ、しかし再び瑛太は呻いた。
     いかに灼滅者であろうと、本来の瑛太ならば今の一閃でシルヴァーナを両断していたはずである。それが六六六人衆五四三位の実力であった。ところが――
     一瞬の動揺。それが彼の魔技を解いた。ゆるんだ鋼糸を解き、自由となった耀が転がり逃れる。
    「荒谷ィ!」
     功徳が手をのばした。鉄砲を模した指で耀の胸をポイント。功徳の腕に装着されていた縛霊手の霊気回路が起動し、霊力を弾丸の形にして撃ちだした。
    「うっ」
     胸を撃たれた耀が目を開いた。が、まだ動けない。傷はそれほど深かったのである。
    「全く……殺人鬼がメディックじゃ恰好がつかないよな、ナノナノさん」
     功徳がため息を零した。小首を傾げたナノナノはといえばシルヴァーナを癒している。
     ぎらり、と柚羽の目が光った。
    「何を吹き込まれたか知りませんけど、もっと面倒な事になる前にぶっ潰させて下さい」
     柚羽の足元から漆黒の獣のごときものが躍り上がった。サイキックにより武器化した影だ。
    「馬鹿め」
     瑛太の鋼糸が渦を巻いた。螺旋状の光に影が粉砕される。驚くべきことに瑛太の鋼糸は影すら斬ることが可能なのだった。
    「なら、これはどうだァ!」
     鋼糸をくぐり抜け、亮太郎が迫った。その機動線をなぞるように炎がはしる。亮太郎の高速機動に耐え切れず床が発火しているのであった。


     炎の尾をひきながら亮太郎が跳んだ。蹴りを瑛太にぶち込む。
    「ふふん」
     余裕の態度で瑛太はわずかに身じろぎした。両手で操る鋼糸での反撃は不可能だが、灼滅者ごときの動きなど――
    「何っ」
     瑛太は呻いた。亮太郎の蹴りが彼の顔面をえぐったのだ。
     反射的に瑛太は身をひいた。が、亮太郎の一撃はあまりに鋭く重く、完全に破壊力を削ぐことはできない。血を吐きながら瑛太は身を半回転させた。
    「やりますわね」
     リィザもまた床を蹴った。必殺の意志を秘めて。
     瑛太の力が弱められているという情報はやはり確かであった。今なら六六六人衆五四三位を斃すことができるかも知れない。
     鋼糸の間をステップ、リィザは瑛太に迫った。
    「もっと、もっと! 遊んで下さいな……!」
     リィザの顔には凄絶な笑み。強敵と相対する時、いつも彼女はこうなる。きっと虎もそうだろう。
     リィザは拳を瑛太に叩きつけた。瞬間、手の甲に貼り付けた盾がエネルギー障壁を展開。月と太陽、つまりは全てを司る対極の紋様が描かれたものだ。
     ぴしぃと硬質の音が響き、紫電が散った。リィザの拳はとまっている。瑛太が眼前で張った鋼糸に防がれて。
     瑛太の口が嘲笑の形にゆがんだ。
    「無駄なんだよぉ、カスが――」
     瑛太の顔色が変わった。はじかれたように跳び退る。が、疾るシールドが瑛太の脇腹に突き刺さった。
    「ぐふっ」
     強烈な衝撃に瑛太の身ははね飛ばされた。数メートル床をすべり、停止。口から溢れた血反吐を拭い、瑛太は攻撃の主を睨みつけた。
    「貴様……」
    「どうだ。カスに一発きめられた気分は?」
     眼鏡をはずした一羽が冷笑した。そして采も嘲笑を送る。
    「なんで、そないに弱いん?」
     刹那だ。瑛太の目がカッと見開かれた。憤怒の赤光を放つ。
    「カスどもが。図に乗るなぁ!」
     瑛太の両腕が視認不可能な速度で動いた。当然、彼の操る二条の鋼糸も。
     無数の光が乱れ散った。木枯らしに似た音が響き渡る。死の旋風の咆哮だ。
     一斉に灼滅者たちは跳び退った。が、躱しきれない。庇ったサーヴァント達が切り刻まれる。
    「やはり小僧やな。我を失いよった」
     床に舞い降りた采がニヤリとした。その眼は結界が消失していることを見とめている。
     鋼糸の旋風。それは死の圏内をつくると同時に、周囲の結界となっていた鋼糸も切り裂いていたのだ。そして――
     床に倒れていた耀がぴくりと動いた。瑛太は気づいていない。
    「……このまま倒れてなんかいられない。彼らの犠牲、無駄にしてはいけないから!」
     霊力による分子の再合成。耀の手は交通標識――三宝の御幣を握しめた。一気に横殴りに振る。
    「ぐっ」
     床を擦るような耀の一撃を足首にうけて、瑛太はよろけた。鋼糸の乱舞が乱れる。
     瞬間、床から跳ね上がった影がある。シルヴァーナだ。
     それは獲物を狙う竜の顎と見えたかもしれない。鋏が唸る。
     ギンッ。
     殺人鬼の視線が絡み合う。即ちシルヴァーナと瑛太の視線が。
     次の瞬間、鋏が瑛太の首を刎ねた。両断を防いだのは瑛太なればこそである。が、頚動脈の切断は免れなかった。
     鮮血がしぶく。真紅の奔騰。
     急速に霞む意識の中、瑛太は見た。影の中から躍り上がる漆黒の獣を。さらに左右から襲い来る亮太郎と柚羽の姿を。
    「これ以上、手ぇ汚させへんで」
     采の声。それがこの世で瑛太の最後に聞いたものであった。

     戦いは終わった。が、灼滅者たちの瞳に凱歌の光はない。
     あまりにも多くの犠牲。その目的は灼滅者を呼び出すという不毛なものだ。
     さらに灼滅者たちは感じていた。あらためてダークネスの恐ろしさを。もし甲斐瑛太の力が弱められていなければ、今頃はどうなっていたか――。
     結界の残滓を見つめ、一羽は犠牲者の冥福を祈った。

    作者:紫村雪乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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