5月31日。その日は学園の恒例行事が開催される日だ。
まもなく武蔵坂学園の運動会。運動会では9つの組連合にわかれ、各種競技によって得点を競い合い優勝を目指す。
ある日の放課後。様々な種目がある中で、『サークルドッジボール』という競技の参加を希望するもの、あるいはどういう競技なのかと興味を持ち説明を聞きに来たものが教室に集まった。
「はーい、参加を希望する皆さんはよく聞いてくださーい」
運動会の種目、『サークルドッジボール』に関する説明を任された暮森・結人は、教室に集まった生徒たちに呼びかける。
「『サークルドッジボール』とか銘打ってるけども、『中当て』を横文字にしただけなんよ。だからルールは到ってシンプルっす。ていうか、みんな『中当て』知ってる? 小学生の時とかやらなかった?」
無論サイキックやESPの使用は禁止であり、サーヴァントの参加も不可であることを前置き、結人は競技のルールについて説明した。
競技参加者は校庭に描いた円の中に入り競技を行う。円の中の参加者は複数のドッジボールマシンに八方位から狙われるので、次々と打ち出されるボールを全力で避けよう。ボールが当たった参加者はアウトになるので、速やかに円の中から退場するように。ボールをキャッチできた場合はセーフになるので、退場する必要はない。(ボールは相手にぶつけるなどせず手放すこと!)円の外まで逃げた場合は棄権したと見なされる。また、仮に学園の備品であるボールやマシンを破損した場合も、ペナルティーとしてアウトとなる。
円は四重に描かれ、内側の円ほど狭くなる。人数が減ったり、ボールの補充をするごとに内側の円のラインへと移行し、逃げられる範囲が徐々に狭まっていくというルールだ。
マシンは上下左右180度打ち出す方向を調整できるので、うっかり狙われないよう注意しよう。しかし、ボールは無限に打ち続けられる訳ではないので、ボールを補充し再開するまでの間は円内で2、3分ほどの小休止となる。
範囲が狭まるほど稼働するマシンも限られてくるが、残り続けるほどボールを避けるのが困難になっていくだろう。
最後の1人として残った者が栄えあるMVPとなる。同じ連合同士の者が残ったとしても、最終的には1人のMVPを決めることになる。
「使用するボールは軟式の柔らかいゴムボールだけど、剛速球が来たらまあまあ痛いよね。ちなみに、『顔面ならセーフ』とかいうルールはないからね。『当たったらごめんね☆』ってことでよろしく」
ボールの最高速度は100キロまで設定されているという。
「ボールが命中してアウトになった人は、円の外で応援していてもいいし、ボール拾いを手伝ってくれてもいいよ。あ、ついでにサーヴァントにも手伝ってもらえると助かるかもしれんよ」
速球が乱れ飛ぶ戦場を制するのは果たして誰なのか。MVPの栄冠は一体誰のものに!?
「間もなく、『サークルドッジボール』が開始されます。選手の皆さんは、校庭に集合してください」
選手の集合を呼びかけるアナウンスが流れ、校庭の中央に描かれた四重の大きな円の周りには次々とボールを打ち出すマシンが運び込まれる。円の外周を8台のマシンが囲む様は、少なからず参加者たちにプレッシャーを与えた。
「はーい、点呼取りまーす。1A梅連合の――」
参加者全員の点呼を終えると、総勢60人以上の参加者が円の中へと集う。円の広さにはまだまだ動き回れる余裕があるが、段階ごとに内側の円へと移動しフィールドが狭まっていくことになる。
同じ連合同士で結束を固め合う者や、ライバルとの対決を誓い合う者、全力でMVPの獲得に挑む姿勢を見せる者など、小学生から大学生まで様々な参加者が火花を散らすことになるだろう。
「はいはーい、先生しつもーん!」
中島九十三式・銀都は手を掲げ、審判を務める教師の1人に皆にも聞こえるような大きな声で質問する。
「ボールは体に当たっても、地面につく前にキャッチすればセーフなのか?」
「そうですね、ノーバウンドのボールならセーフです」
銀都は教師の返答を聞き、競技の攻略のヒントを得たようであった。
銀都は頭の鉢巻を巻き直し、
「よし、絶対に見切ってみせるぜ。みんなしまっていくぞっ」
千川キャンパスの2年9組のクラスメイトたちと共に気合いを入れる。
「避けて避けて避けまくって、ぜってー勝ってやる! オレらの団結力見せてやろーぜ!」
意気込みを見せる宮真・黒斗に対し、井乃中・葵は自分が残る自信はなさそうに言う。
「最後まで、残れると、いいね」
「わん、わん!」
志水・小鳥の霊犬の黒耀は、球拾いを手伝うために円の外側に待機している。黒耀は「がんばって!」と言うように小鳥たちの方に吠えた。
小鳥はしっぽを振る小さな相棒の頭をなでながら、
「応援よろしくな、相棒」
アルマ・モーリエはその光景を微笑ましく思いながらも気を引き締める。
「日頃鍛えている成果を見せる時ですね」
「どんな球が来ても避けりゃあいいんだろ? 避ければな……」
樹雨・幽はそう言って不穏な笑みを浮かべた。
藤井・花火は円の外にいるウイングキャットのいおんに話しかける。
「あの霊犬の子もお手伝いするんだね。取り合いとかしちゃダメだよ? 球拾いのお手伝いお願いね」
花守・ましろは連れ立って競技に参加した八重垣・倭に、ふと思いついたことを話す。
「折角だし、ちょっと賭けでもしてみる? 長く残ってた方が勝ち、で、負けた方に何でも1つお願いできるの」
「長く残っていた方がお願い一個……だな、受けて立つぞ」
倭はましろからの勝負の申し出を快く引き受ける。
「ま、お互い怪我には気をつけよう、な」
ぽむぽむと頭に軽く触れる倭を見上げながら、ましろは「えへへ」と微笑む。
「倭くんに何をお願いしようかな」
審判の教師の1人がメガホンを手に取り、競技の開始直前を告げる。
「それでは只今より、『サークルドッジボール』を開始します」
それぞれが緊張や期待で胸が高鳴るのを感じながら、いよいよ競技の火蓋が切って落とされようとしていた。
開始の合図となるホイッスルの音が響き渡る。すると、8台のマシンから円の中央に向かって、一斉にボールが打ち出される。ほぼ全員が中央よりに固まっていたが、皆がボールを避けて散り散りになる。
マシンを操作する教師たちは籠に大量に詰め込まれたボールを次々と発射口に運んでいき、無差別に円の中の参加者たちを狙う。
「よっしゃぁ! こんなボール楽勝だぜっ」
万事・錠は1番にボールをキャッチして防いでみせ、円の外へとボールを放り投げる。
部長の錠を含めた『武蔵坂軽音部』の4人は、互いの死角をなくす作戦で背中を預けあう布陣で臨む。
「3時方向のやつ、気ぃつけろよー千波耶」
然程深刻そうな様子でもない一・葉の注意喚起の直後、城守・千波耶のすぐ横をびゅんとボールが通過していく。
千波耶は思わず「ひい!」と声をあげ、葉たちの方へと後ずさる。
「こわ! キャッチするなんて無理!」
北条・葉月は戦々恐々とする千波耶に向けて言う。
「ガードするのは俺たちに任せていいぜ。キッチリ受け止めてやるぜ!」
ボールが飛ばされる度にそれを避ける女子たちの黄色い声があがる。積極的にボールを受け止めに行くのはもっぱら体格のいい男子たちである。しかし、赤松・あずさはそんな男子たちにも負けないタフさを見せる。
「どんなボールでも受け止めてやろうじゃないの!」
あずさは正面から迫る豪速球を次々と受け止める。
友人同士3人でのサバイバル勝負に臨む龍宮・巫女も、格闘技で培われた身体能力を生かして正面からのボールをしっかり受け止める。
「こういうのもたまには楽しいわね」
生き生きとした表情を浮かべて立ち回る巫女に反して、
「わぁっ!? ひゃあっ!?」
水無月・カティアは危なっかしい立ち回りながらもなんとかボールを避け続ける。
カティアの悲鳴に近い声を聞きながらも、神御名・詩音は自身の回避行動に余念がない。
(「カティアさんも頑張ってるみたいですね……私も負けていられません!」)
田磯辺・倉子はボールの動きに集中していたが、揺れ動く別の2つのボールに見入ってしまう。それはボールをかわす度に揺れる詩音の豊満なバストで、倉子はハッとして自分の胸を押さえるように両腕を組む。自身の揺れる胸を過剰に意識している倉子は、円の外側で球拾い係をしていた暮森・結人と偶然目が合うと赤面して、
「どこ見てるんですかー!?」
反射的に胸をかばう倉子の様子を見て、結人は訳がわからず聞き返す。
「な……何が!?」
胸のことを気にしていた倉子は、結果的に背後が隙だらけになってしまう。そして、まっすぐ飛んで来たボールが倉子の尻の部分に命中する。
「ひゃん!」
命中したボールが勢いよく跳ね返ると共に、胸の方も大きく弾む。
「田磯辺、アウトー!」
メガホンを持った審判の声が響き渡る。
「田磯辺さん、スタイルいいなぁ……。羨まし――」
倉子と結人のやり取りを見ていた朔頼・小夜。つい集中力が散漫になってしまい、飛んでくるボールへの反応が遅れてしまう。
「……わ、ぁ!」
小夜の肩に命中したボールは地面を転がり、審判からアウトの判定が下される。
「朔頼、アウト!」
小夜は円の外に出ると、同じくアウトになった倉子に声をかける。
「……いたた……余所見はだめ、だね。田磯辺さん……大丈夫?」
「うう、痛かったわ。それ以上に恥ずかしかったわ」
「よっ……と!」
型破・命は真正面から飛んできたボールをうまく受け止め、愉快そうにボールを投げ返す。
「はは! なかなか楽しい遊びじゃねぇかぃ!」
チリンチリンと鳴る命の髪飾りの鈴の音を聞いてか、足元から誰かの声がする。
「ん~……うるさい~」
足元から聞こえる声に疑問を抱きながらも、命はその声に答える。
「ん? すまねぇ、勘弁な――」
その声の主は、円の中央に堂々と横になって寝る九々路・理堕だった。
「スーー……」
胸の辺りを上下させて寝息を立てる理堕を見て、命は目が点になる。
1番内側の円沿いに立つ四刻・悠花は、寝ている理堕に気づいて驚く命と顔を見合わせ、
「私も気になってはいるのですが……誰かに踏まれないか心配ですね」
周囲の心配をよそに寝続ける理堕。そこへ大きく放物線を描いたボールが理堕に向かって落ちてくる。
「ちょ……危ないぞ、理堕」
クレンド・シュヴァリエは『Dark-Box』の一員である理堕に一応の注意を促すが、相手には避けようとする意志が見られない。落ちてきたボールはぽすーんと理堕の腹の上に落ち跳ね返る。
「うっ……zzzZ」
「九々路、アウトー! 起きなさーい」
審判に呼びかけられても起きない理堕の元へ、ウイングキャットの枕が飛んでくる。「ご迷惑をお掛けします」といった感じに悠花と命に会釈をし、服を引っ張って理堕をずるずると引きずっていく。
(「怖い、です……! 当たったら痛そうです……」)
フリル・インレアンは次々と飛んでくるボールにびくびくしながら、広い円の中をあちこち逃げ回る。どうにかマシンの射線に入らずに逃げてこれたが、ついに狙いがフリルへと向けられボールが向かってくる。
ボールの勢いにすくみ上がったフリルは、頭をガードするように抱えてその場に縮こまる。
「あっ……とと!」
雪乃城・菖蒲はその射線上に進み出ると、飛んできたボールをどうにか受け止めた。そこで1ステージ目終了の合図のホイッスルが鳴り響く。
「今からボールの補充とマシンの移動を行いまーす」
現在4人がアウトとなり、残る参加者は59人となった。
転がっているボールを拾い集め、複数のマシンがもう1つ内側の円に沿って移動させられる。その間、参加者たちは円の中で小休止となる。
「あら~。なんとかなりましたね~」
2ステージ目に進むことが確定したことにほっとし、菖蒲はボールを教師に手渡しにいく。
菖蒲にお礼を言おうとそばでそわそわした挙動を見せるフリルに気づき、菖蒲は声をかける。
「点呼でお名前を呼ばれていましたよね? 私も同じ5E蓮連合ですよ」
「あ、あの……ありがとうございます」
人見知りなフリルはおどおどしつつ菖蒲を見上げる。菖蒲はフリルに微笑みかけ、
「助け合い……っと言うのも、おかしいですが。私は楽しむために参加しましたので、皆さんで行けるとこまで行きましょうか♪」
「……はい、が、頑張ります!」
武月・叶流は場外から手を振る小夜と倉子に手を振り返しながら、
「朔頼さんと田磯辺さんは残念だったね」
叶流はついつい自分と倉子の胸を比べてしまう。
(「……わたしは小さくてよかったと思うべきなのかな。すごい複雑だけど」)
「この狭さで大分人数が減るかもだな」
ファルケ・リフライヤは円の中の参加者たちの密度を眺める。それでもファルケは余裕の表情を見せ、
「今こそみんなを鼓舞する歌を披露して、団結するときだな。ドッジボールという名のミュージカルってやつだ」
『空部』のメンバーと共に参加した森田・供助は、
「おー、全員残ったな。こうなりゃ出来る限り最後まで行けるよう頑張るか。誰が勝っても恨みっこなしなー」
再開されるのを待ち遠しく思いながら、堀瀬・朱那は心底楽しそうな表情で答える。
「お、やる気だね? 華麗に避けまくって目指せ空部対決☆ やな! 最初に当たったヒト、ジュースおごりな!」
他の2人も乗り気な返事をする。
「供助が1番体大きいから、危ないんじゃない?」
アシュ・ウィズダムボールにそう言われた供助は、
「お前ら後輩には負けねーよ」
にやっと笑いながら対抗心を燃やす。
「身軽さなら負けないよ~!」
と、朱那も笑顔で張り合う。
「それでは、再開します!」
すべてのボールがそれぞれの籠に収められ、教師の1人がホイッスルを構える。マシンは6台のみ稼働しているが、以前よりも円の範囲が狭まり次はより多くの人数が削られることになりそうだ。
ホイッスルを吹く音が鳴り響いた直後、次々と打ち出されるボールが容赦なく参加者たちを狙う。
(「やはりマシンの動きが変わっていますね……」)
円の中央付近の位置取りを維持しつつ、悠花は6台のマシンの動きを予測しようとしていた。同じく中央付近にいる二神・雪紗は、マシンを操作する教師たちに注目する。
(「マシンの操作をするのは人……不規則な動きでボクたちを翻弄するという演算……」)
雪紗は後方からの射出音にも機敏に反応し、無駄のない動きでステップを踏むように立ち回る。雪紗はマシンの動きに翻弄されることはなかったが、次第に校庭中に響き渡るファルケの歌声に悩まされることとなった。『音痴のスペシャリスト』という裏の称号を持つ彼に。
競技中にも関わらず1人気持ちよさそうに声を張り上げるファルケ。そんなファルケとは真逆で、周囲の参加者や教師たちは渋い表情をして競技を続ける。中には露骨に両耳を塞ぎながらこの苦行に耐えている者もいる。
ボールに対する集中力が萎えそうになる紅羽・流希は、自分自身に言い聞かせる。
「これは……どれだけ冷静に動くことができるか試されている、……そういう訓練だと思えば……」
ファルケのひとり舞台となる中で、ボールをキャッチした凜子はファルケを睨むように見つめる。凜子の手にしたゴムボールがギチギチッと変形する様を見た咬山・千尋は、
「凜子! 気持ちはわかるけど、味方に当てたら退場になるかもしれないし……!」
それを充分承知している凜子は、
「ドラァッ!」
やつ当たりとばかりに勢い良くボールを円の外へと投げ飛ばす。その豪速球は、ウィングキャットをもふもふしたいとバッドボーイに近づく結人の頭上をかすめていった。
ファルケの歌声により結束したのは、教師たちの方であった。3台のマシンがファルケの方に狙いを定め、一斉にボールが発射される。
「ファイト~ファイトぉぅぅ~♪ 4D椿~♪」
ファルケはすがすがしい表情のままひらりとボールをかわし、3つのボールは流れ球となって月村・アヅマに向かう。
「やば……いやホント無理無理無理!」
アヅマは慌てながらもボールをかわす。更に偶然射線上にいた幽のところまでボールは飛んでいき、ついには3つすべてが命中した。
「ぶふっっ!?」
「樹雨くん、アウトー!」
「あっぶね、早々に退場するとこだった……」
そう思ったのも束の間、アヅマの背中に桜井・夕月はぴったり張りつき、
「速い! 無理です! 助けて、アヅマくん!」
「は!?」
「大丈夫、君なら代わりにボール取ってくれるって信じてる!」
「無茶言うな!」と思いつつも、アヅマは夕月を守るように構える。
「ったく、しょうがないな……とりあえず頑張ってみるから、ちゃんと後ろに隠れとけよ。ダメだったら、後は自力で頑張れ」
歌いながらも器用に避け続けるファルケまでボールは届かず、とばっちりを食らう者が続々と出る。
「……あぶない!」
クレンドは自らが犠牲となり、蒼珈・瑠璃と黒木・白哉を体を張って複数のボールから守る。2人に覆いかぶさるようにしてボールを背中に受けたクレンドは、
「大丈夫……俺が守って見せるから」
「キマった!」と心の中でほくそ笑む。その犠牲となったクレンドに対し、瑠璃は言った。
「クレンドさん、そんなにボールに当たりたかったのですね。さすがはドMです」
「ありがとうございます。だけどそこ邪魔……うわぁ!?」
クレンドの影からひょっこり顔を出した白哉は、顔面にボールを受けてくずおれてしまう。
「はい、黒木くん、シュヴァリエくん、アウトでーす」
審判と瑠璃に促され、クレンドは白哉を抱えてすごすごと退場していく。そして、仲間のために犠牲となった者がもう1人。
すでに息切れ状態の杠・嵐は、ふらふらと野乃・御伽の前に進み出て自らの体を楯にしてボールを防いだ。
「あたしの屍を……越えて行くんだ……!」
「だから危ねえって言ったのによー……」
体育会系とは縁遠い嵐とは真逆で、かばわれた御伽本人は息ひとつ切らしていない。
「嵐殿ー。アウトの方はこちらですよー」
しばらく仁王立ちになったまま動かない嵐に、烏丸・鈴音は円の外から呼びかけた。
「ラフィット、アウトー!」
ギィ・ラフィットは連続でボールをキャッチしようとしたが、取りこぼしてアウトとなった。その直後に第2ステージ終了のホイッスルが吹き鳴らされる。
「あーおしかったな、ギィ」
雪風・椿は残念そうにギィに声をかける。
『天剣絶刀』の部長と部員でもあり、同じ連合でもある椿と共に協力し合う形で残ってこれたが、後は椿に託すのみとなった。
「椿さん、後は頼んだっす。がんばって最後まで残ってくださいっすよ」
ギィの激励に、椿は笑顔で答える。
「ギィ! じゃない部長! ありがとなゼッテー勝ち残ってみせる!」
第3ステージへと進む人数は13人。第2ステージでは一気にMVP候補が絞られる形となった。
東当・悟は大幅に減った参加者を眺めて、
「ついにここまで来たって感じやな」
「ここに残ってる人たちはそれだけ手強いってことですね。それでも負ける気はしませんけど……」
そう言う若宮・想希の背中を、悟は「当たり前やろ!」と言って叩く。
「俺ら2人でMVP争いまで行くんやからな」
2人はお互いに笑顔で決戦に臨むことを誓い合う。
13人の内の1人として残った空月・陽太は、円の外の祀乃咲・緋月に向かってニヤッと笑い、
「緋月さん、れっどあいずでの食事を一回奢りにしてもらうよっ!」
「ええ、とびっきり美味しい物を作って差し上げます。頑張ってくださいね!」
緋月は陽太に向けて声援を送る。
「倭くーん、がんばれー!」
「あはは♪ 夏目せんぱーい、MVP取っちゃえー♪」
「負けんなよー、銀都ー!」
「がんばってえ、葉くん!」
「いけぇぇぇ御伽ー!」
それぞれの声援に答えるため、各々は気を引き締める。
(「先輩たちが多いけど、絶対負けるもんか……!」)
小学生の中で残ったのは狼森・紅輝1人のみ。体格差のある先輩たちの中でも物怖じせずに勝ちにいく決心を固めていた。
「それでは、第3ステージを開始します! よーい……」
最終ステージでMVPを奪い合うためにライバル同士で協力し、勝ち残ってきたクーガー・ヴォイテクと卦山・達郎。向かい合って身構える2人は、お互いを見て不敵な笑みを浮かべる。
ホイッスルの合図が鳴らされ、より狭まった円の中央へと一斉にボールが飛んでいく。稼働しているマシンは変わらず6台のままで、2つのマシンが1人を集中的に狙うようなこともあり、翻弄される参加者は徐々にアウトへと追い込まれる。
「二神さん、アウトー!」
「……演算が不完全だったか」
小回りの良さを生かして健闘していた雪紗もアウトに追い込まれる。
「中島九十三式くん、アウト!」
「くっそー! 俺としたことがっ」
レシーヴしたボールを受け止めようとしていた銀都は、その隙にボールを当てられてしまった。
教師たちも競技を続ける中で徐々にマシンの操作に慣れてきたのか、動く参加者相手にも的確にボールを飛ばしていく。人数は更に減り続けていく。
「一、アウトー!」
「あー……やっちまった……」
葉は軽音部のメンバーに健闘を称えられながら円の外に向かう。
「あと4人! ぜってぇ負けねえからなあ!」
達郎は興奮気味にクーガーに向けて言い放つ。お互いにボールを避け合いながら、クーガーも負けじと挑発する。
「そう簡単にいくかな?」
張り合う2人を含め、悟と想希も残りの4人となる。1位争いに全力で臨む4人が最終ステージで相対することとなり、4人はより真剣な表情を見せる。
最終ステージでは4台のマシンに狙われ、円の外から見ている側もハラハラする展開が続く。ほとんど切れ目なく発射されるボールをかわしてはキャッチするを繰り返し、誰がアウトになるのか読めない。
「あ……!」
「しまっ――……!」
クーガー、卦山、想希の3人は、ほぼ同時にボールの打撃を受ける。その瞬間ホイッスルが鳴らされ、悟1人がボールをキャッチしていた。競技に夢中になっていた悟は、一瞬ホイッスルがなった理由がわからず、ボールを持ったままぽかんと突っ立つ。
「やりましたね、悟……!」
想希の笑顔を見て、悟はようやく状況を理解する。
「よ……」
悟は万歳をするようにボールを頭上高く放り投げ、興奮した様子で目の前の想希に抱き付いた。
「うわ……!」
「よっしゃああああああMVPやでええええええ!」
MVP勝者を祝福する拍手の音が競技会場にあふれ、勝ち残った者同士はお互いの健闘を称え合った。
作者:夏雨 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月31日
難度:簡単
参加:63人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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