恐怖!? 巨大ハムスター

     ハムスターと言えば、ペットとして飼われる生き物の定番だが、一度に10匹前後の子を生むので、つがいで飼うと最初は2匹だったのが文字通りネズミ算的に増えていき、計画的に飼わないと増えすぎて飼いきれないという事態も起こりうる。
     増えすぎたハムスターは、貰い手がいれば良いのだが、もし貰い手がいなかったり、引き取って貰ってもまだハムスターが多かった場合に執る手段は、自然と限られてくる──。
    「それで捨てられたハムスターは、ほとんどがまともにエサを取れずに餓死するか、他の生き物に食われたりするんだが、奇跡的に下水道の中でたくましく生き延びたハムスターがいて、体も人間大に巨大化してるって言うんだよ」
    「おいおい、ンなもんただの噂だろ?」
    「いや、聞いた所じゃこの近くの川に流れる下水道の出口にヒマワリの種かピーナッツを置いておくと、その巨大ハムスターが現れるって言うぜ」
    「おいおい、そんな巨大なハムスターがいたら、ヒマワリの種だのピーナッツだので満足できるわけないだろ?」
    「かもな、下手したら人間までバリバリ食べちまうかも」
    「やめろよ、一瞬想像しちまったじゃねーか! こえーよ!!」

    「──という感じで噂になっていた巨大ハムスターの『都市伝説』が、どうやら最近実体化しちゃったらしいの」
     教室に集まった灼滅者達に、そう須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が言う。
     人々の噂話や未知を恐れる心がサイキックエナジーと融合する事で、『都市伝説』は霊的存在として実体化し、出現する原因となったエピソードに沿って活動するようになる。やむにやまれぬ事情でハムスターを捨てざるを得なかった人々の罪悪感や、生きていて欲しいという思いが噂を作り、実体化したようだが、人々に危害を加える前に灼滅者達の手で排除しなくてはなるまい。
    「巨大ハムスターは、こちらの川に流れる下水道の出口に夜、ヒマワリの種かピーナッツを置いておくと引き寄せられるように現れるみたい。人間大のハムスターなんて、もふもふしたら気持ちいいだろうな~」
     地図上の川を指さしながら、まりんは顔を緩めるが、すぐに「あうっ、すみません」とばつが悪そうに撤回する。
    「巨大ハムスターは1匹だけで、攻撃方法も鋭い前歯で攻撃してくるだけだから、今後ダークネスとの戦いに向けて実戦経験を積む相手にはうってつけだけど、汚い下水道で生きてきたからなのかな、傷つけられると傷口から毒に冒される危険があるからその辺は気をつけてね」
     まりんの説明に灼滅者達はうっと顔を表情を曇らせる。
    「それから、川の水深は今夜だと足首が隠れる程度だから、みんなが戦うには問題ないけど、滑ったりしないよう足下には気をつけてね」
     残暑の季節とは言え夜はかなり涼しい時期だし、そうでなくても滑って転んでずぶ濡れになったらたまったものではない。
    「油断しなければ大丈夫だと思うけど、準備と注意はしっかりやっておこうね。それじゃみんな、任せたからね!」
     最後は笑顔で、まりんはそう説明を締めくくった。


    参加者
    イオノ・アナスタシア(七星皇女・d00380)
    雨音・ユイ(うたつむぎ・d01378)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    不知火・咲那(小学生神薙使い・d02995)
    大場・縁(高校生神薙使い・d03350)
    井国・地アミ(ご当地ダンピ・d04341)
    白兎・誘(不気味の国の・d04897)
    鈴永・星夜(小学生神薙使い・d05127)

    ■リプレイ

    ●初秋の夜
    「ひゃっ、冷たい!」
     川に足を入れるや、鈴永・星夜(小学生神薙使い・d05127)は声を上げる。
    「何悲鳴を上げているのですか。長靴を履いて来ているというのに」
     イオノ・アナスタシア(七星皇女・d00380)が言いながら、滑り止めのソールが付いた履き物で川に入る。
    「だって~」
     星夜が口を尖らせていると、彼の霊犬の雪丸も続いて川に入ってくる。
    「まだ昼間は暑いですけど、もう9月も後半ですし、秋が近づいてきているという事ですね」
     不知火・咲那(小学生神薙使い・d02995)が生来の優しさでフォローしつつ、レインブーツで川に入る。
    「それにしても、生きていて欲しいって想う心が魔物を産み出すなんて皮肉ですね」
     雨靴に汚れても構わない作業着姿で井国・地アミ(ご当地ダンピ・d04341)が溜め息を吐く。
    「こんな都市伝説が出来る程、動物が捨てられるってありふれた事なのかな……嫌だな」
     マリンシューズを履いた織部・京(紡ぐ者・d02233)が悲しげに言うが、
    「でも、仕方ない。けいちゃん、行こう」
     この場にいない誰かに呼びかけるように独りごちながら、京は川に入ってくる。
    「ふわふわハムスターさん、もふっとさわったらとっても気持ち良さそうなのですが、被害が出る前に、私たちで何とかしなければですね」
     巨大なハムスターに触った感触を想像しているのか、雨音・ユイ(うたつむぎ・d01378)はほわ~っとした表情だったが、すぐに表情を引き締めて、拳をギュッと握り締める。
    「私も可愛らしいハムスターさんを倒さないといけないのはとっても心苦しいですけど……」
     大場・縁(高校生神薙使い・d03350)も巨大ハムスターと戦うのは悲痛そうだったが、
    「でも、倒さないと多くの人に被害が出てしまうのなら……私、戦います」
     それでも気丈に言ってみせる。
    「私も、かわいいものは好きですよお」
     対称的に、軽薄な笑顔でヘラヘラと言うのは白兎・誘(不気味の国の・d04897)。
    「ただまあ、下水に住み着く薄汚いネズミは対象外ですがね! ハハハ──」
     続く誘の言葉に、他の灼滅者達から無言のうちに、『空気を読め!』と言わんばかりの鋭い視線が集中したのは言うまでもなかった。

    ●もふもふ、もこもこ
    「ここですね」
     目の前に大きく開いた下水道の出口を見て、縁が呟く。既に灼滅者達は封印の解除を済ませ、戦闘用の隊列を整えており、
    「それじゃ皆さん、用意はできているようですし、巨大ハムスターさんを呼びましょうか」
     言いながらユイは持参したピーナッツを下水道の出口の前に置く。他の者達もユイの言葉に応じて、持ってきたエサを出す。
     咲那と縁はひまわりの種、地アミはピーナッツ。イオノはアーモンドを置くと、ちゃっかり残しておいた自分の分を「戦いの前の腹ごしらえです」と食べている。
    「では私のも味を見ておこう」
     誘もピーナッツを出すと、それを全部口の中に入れてボリボリと咀嚼し、ゴックンと飲み込んで、
    「ンまぁ―――いッ!!」
     心底おいしそうに叫ぶ誘。
    「「全部食べるな!!」」
     当然ながら、周りから一斉にツッコミが入る。
     そうしているうちに、下水道の出口からバチャッ、バチャッと足音らしき音が聞こえてきて、灼滅者達が注視すると、暗闇の中に2つの光点が現れ、それは次第に大きくなっていく。
     それが目だと分かった時には、人間の大人くらいの大きさをした巨大なハムスターの影が、街灯とユイ、京、縁、地アミが持ってきた明かりに照らされていた。
    「お~っ、もこもこですね~!」
     無邪気な声を上げるイオノだが、
    「もふれますか! もふれませんね! ならば倒します!」
     小学1年生ながらこの切り替えは、流石灼滅者と言ったところか。
    (「あぁ……間近で見ると一層モフモフで触ったら気持ち良さそう……人に危害を加えなかったら触れたのにな……残念です……」)
     縁も心底残念そうに巨大ハムスターを見ている。
    「都市伝説じゃなかったら仲良しになりたかったです」
     咲那も小学生らしい素直な感想を口にする。
    「うっ──」
     一方、地アミは不快感を悟られないよう、こっそり口を押さえている。実は地アミ、ネズミの類が苦手なのだった。
    (「害獣も鼠でペットも鼠で……ラットなんて実験動物なのに愛玩できるのが良くわかりません。なので、心置きなく退治させて頂きますけど悪く思わないで下さいね」)
     そう心の中で詫びながら、地アミは武器を構える。
     灼滅者達が様々な反応を見せている前で、巨大ハムスターは置いてあったエサを、体に比例して大きな手(前足?)で拾い集めると、一遍に口の中に入れ、頬袋を膨らませながらボリボリと咀嚼してあっという間に食べてしまう。それでも満腹には程遠いらしく、灼滅者達を見回すと、いかにもネズミの仲間と言った素早い動作で飛びかかってくる。
    「ひぃっ!」
     巨大ハムスターは星夜の頭を囓ろうとするように口を開けてやって来るが、とっさにディフェンダーの縁が間に割り込み、鋭い前歯による攻撃を右肩に受ける。すると、そこから病原菌が入ったのか、傷口からみるみるどす黒く変色していく。
    「大丈夫です!」
     周りに先んじて縁は鋭く叫ぶと、そのシャウトで一気に毒を吹き飛ばす。
    「あっはっは! 噛まれる前に噛んじゃえばいいんじゃね?」
     先程までとは打って変わった乱暴な口調でクラッシャーの京は叫ぶと、ディフェンダーのユイが歌うディーヴァズメロディを背に黒死斬で斬りかかる。残念ながら歌声は巨大ハムスターを催眠状態にはできなかったが、京の影が変化した剣は巨大ハムスターの後ろ足に繋がる腱を斬り、若干ながら動きを鈍らせる。
     ここから一気に畳み掛けようと、クラッシャーの地アミが森羅万象断で斬りかかるが、大振りなせいかかわされる。しかしその隙を突いて側面からジャマーの誘がフリージングデスを仕掛け、巨大ハムスターの毛皮がパリパリと凍り付く。
     更にキャスターの星夜が手の形をした影による影縛りで後ろ足を掴んだ所へ、雪丸が斬魔刀を口に咥えて突進するが、水で足を滑らせて手前で転倒してしまう。
    「しまった、雪丸の装備を忘れてた!」
     頭を抱えて叫ぶ星夜。
     一方メディックもイオノが京に向けて防護符を飛ばして毒対策をして、咲那がディーヴァズメロディで歌うと、巨大ハムスターのまぶたが眠たげに下がってくる。
    「痛くない、苦しませない方法がなくて、ごめんなさい」
     巨大ハムスターに向けて、咲那はそう詫びるのだった。

    ●害獣駆除
     それでも、と言うか当然と言うべきか、巨大ハムスターは抵抗を止めず、嫌がらせをするようにタップダンスで水を跳ね飛ばしていた誘の頭を囓ろうと、足の腱を切られた上に影の手に捕まれて若干動き辛くても向かってくるが、
    「おっと、痛い思いは御免ですよ!」
     おどけた口調で言いながら、誘はヒョイと巨大ハムスターの前歯をかわす。攻撃の勢いを止められずつんのめる巨大ハムスターに、
    「伝染病の経路にもなるっていう動物じゃないですか! もう! ゆでじまめキックです!」
     地アミは露骨に嫌がって、自身の出身地・名古屋の茹で落花生を名前に冠したご当地キックを叩き込む。当然その足はすぐに足元の水でバシャバシャと洗う。
    「この勢いで行こう、けいちゃん! みんな!」
     また京はこの場にいない誰かと、仲間達に呼びかけると、影を沢山の鞭の形に変え、巨大ハムスターの手足にきつく絡ませ、間髪入れず縁とユイが導眠符と鬼神変で攻撃を加える。
    「タネも仕掛けもありませんよお」
     そう言って誘が慇懃に一礼すると、足元の影が突然広がり、巨大ハムスターを包み込む。少し経って影は元に戻るが、巨大ハムスターはあらぬ方向を向き、そこに何かがいるように鳴き喚いている。
    「何だか分からないけど……今だ雪丸!」
     そう星夜は言うと、自身も雪丸の攻撃をサポートするため、影縛りの手を増やして更に巨大ハムスターの足を抑え、そこへ斬魔刀が敵を切り裂く。
    「あとすこしですよー、張り切って行きましょー」
     そう後ろから声を掛けながら、イオノは地アミに向けて防護符を飛ばし、咲那もディーヴァズメロディを歌い続ける。
     既に集中攻撃で傷だらけな上に、何かから攻撃を受けたように突然血を吐き出す巨大ハムスターだったが、それでも戦意が落ちる様子はなく、獲物を求めて今度は京に襲いかかり、迫力に加えて僅かに油断があったのか、京の左の太股から一筋血が流れる。
    「痛っ──でも後ろの皆が大丈夫ならわたしは平気! 回復お願いします! 行くよっけいちゃん!」
     毒で足が変色していくのも構わず、京はデッドブラスターで反撃して逆に巨大ハムスターを毒に侵す。直後、ユイが清めの風で京の毒を癒やし、ユイが神薙刃で追い打ちを掛けると、血塗れになりながらも巨大ハムスターはまだ立っていたが、既に限界が近い事は明白だった。
    「しぶといですね、もう!」
     ぼやきながら地アミが無敵斬艦刀を振り上げて間合いを詰めると、紅蓮斬を一閃する。一瞬遅れて巨大ハムスターの頭から股間まで赤い線が引かれ、勢いよく血を吹き出しながら水しぶきを上げて倒れると、次第に姿が薄くなっていき、間もなく完全に消滅した──。

    ●灼滅者の宿命
    「手強い敵でしたね」
     無敵斬艦刀の刃を川の水で洗いながら、地アミが言うと、ユイが「そうですね、色々な意味で」と答える。
    「かなりのきょーてきでしたが敗因はただ一つ、もこもこなくせにもふれないことです!」
     続いてイオノも、そう力強く言った。
    「ハムスターさんは、人の申し訳ないって想いや、生きていて欲しい想う、決して悪い願いから生まれた訳ではないのに、可哀想でしたね」
     悲しげに言う縁だが、
    「可哀想? 何が? 罪悪感なんて感じてたらこんなんやってけねーよ!」
     殊更にぶっきらぼうに京が言い放ち、「そんな、酷いよ!」と星夜を始め、小学生4人が泣きそうになる。そこへ当の縁が間に入り、
    「織部さんが言った事は少し厳しいけど、例え可哀想でも、罪の無い人達が傷つかないように倒さなきゃいけない。それが私たち灼滅者の務めなんですよ」
     自分自身にも言い聞かせるように、縁はそうフォローする。
    「でも、都市伝説でもこうして出会えたのは本当です」
     そう咲那は言うと、巨大ハムスターが安らかに眠れるように祈り、星夜も一緒に祈りを捧げた。

     それから灼滅者達は川から上がると、殲術道具をスレイヤーカードに再び封印して元の服に戻り、体の濡れた部分をタオルで拭く。
    「あ、予備タオル使います?  百円のだから汚れても平気ですよ」
     普段の口調に戻った京が、何枚も持っているタオルを勧めてくる。
    「拭いただけじゃ不安なら、私がクリーニングで綺麗にしてあげますよ~」
     体を拭いて濡れたタオルを受け取りながら、縁も言ってくる。
    「それにしても巨大ハムスターを倒したら死体が消えてしまうなんてねぇ……味を見たかったのですが……」
     そんな彼女に誘がタオルを渡しながら、残念そうに独りごちると、
    「「するな!!」」
     周りから一斉にツッコミが入った。

    作者:たかいわ勇樹 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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