其は、強さを求めるが故に

    作者:長野聖夜

     そこは、既に放棄された、人気のない朽ち果てた神社。
     とある山の山奥に建てられたこの神社は、かつては、近隣……下の田舎の村に住む人々の、信仰の対象となっている場所だった。
    (……ホロボス……ツヨクナル……ダレヨリモ……ダレヨリモ……)
     製造された際に刻み込まれた本能的な自らの欲求を満たす為、かの騎士は、ゆっくりと村へと続く階段を下りていく。
     ……程なくしてその村に住む人々は、一人残らず物言わぬ死体の山となって積み重なり……その山の上で、一体の魔物が、勝鬨の雄たけびを上げた。
     
    「……戦って強くなることでしか自分の意味を見出すことが出来ない……哀しいよな、本当」
     窓際で空を眺めている内にふと、思い浮かんだ光景を他人事の様に眺めながら、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が、物憂げに溜息をつく。
     其れが気になったのか、何人かの灼滅者達が自分の方へと近づいて来るのに気が付いて、優希斗は淡く微笑んだ。
    「ああ、皆、よく来てくれたね。……実は、朱雀門のロード・クロムに動きがあったんだ。どうやら、美醜のベレーザから引き継いだデモノイド施設を利用して量産したクロムナイトを既に破棄された神社に配置して、そこから麓にある村に向かわせて、人々を虐殺させようとしているらしい。
     このまま多くの人達がむざむざと死ぬ様を見過ごすことなんて出来ない。……何とかしてきて貰えるかな?」
     優希斗の願いに、灼滅者達は首を縦に振った。
    「この廃棄された神社には、人気がない。念の為の人払いくらいはしておいた方がいいと思うけれど、それ以外は大丈夫だ。皆が戦えるくらいの広さがあるからクロムナイトと戦うこと自体にはそれ程の苦労は無いと思う」
     優希斗は戦場を説明した後、但し……と、軽く肩を竦めた。
    「ロード・クロムは、一般人をクロムナイトに虐殺させる効率のいい方法を学ばせようとしているんだが、同時に皆との戦い方も学ばせようとしているんだ。つまり……長ければ、長い程、次に量産されるクロムナイトは強くなる」
     多分……と、小さく息をつく、優希斗。
    「このクロムナイトは、『如何に効率よく皆の動きを読み、次に繋げるか』を学び、特化させるために作られている様だから、6分以上君達の攻撃に耐え抜いたら、次に量産されるクロムナイト達の力を強化する為の、切っ掛けを作ってしまうかも知れない」
     ……限られた時間の中で、如何に効率よく敵を灼滅するか。
     速攻を求められた灼滅者達は、それぞれの表情で頷き返した。
     其れに頷き返すと、優希斗は小さく目を瞑り、そしてそっと開く。
    「このクロムナイトは、シャウト、シールドバッシュ、ブレイドサイクロン、蛇咬斬、DCPキャノン、森羅万象断を使用してくる。ポジションはディフェンダーだ。……気を付けてくれ」
     優希斗の言葉に、灼滅者達は首を縦に振った。
    「……クロムナイトは強敵だ。如何に防御に重きを置いているとはいえ、皆が5分以内の撃破に拘り過ぎたら、負けてしまうかもしれない。……状況によっては、5分以内の撃破を諦めることも必要だと思う。敗北すれば、多くの人達が犠牲になってしまうからね。……どうか、気を付けて」
     優希斗の見送りに灼滅者達は首を縦に振り、教室を後にした。


    参加者
    置始・瑞樹(殞籠・d00403)
    ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227)
    緑風・玲那(緋閃葬翼・d17507)
    山本・仁道(大学生デモノイドヒューマン・d18245)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)
    炎道・極志(可燃性・d25257)
    白石・明日香(猛る閃刃・d31470)

    ■リプレイ

    ●神社に潜む、甲冑の騎士
     そこは、かつて、人々の信仰の対象となっていた神社。既に朽ち果てたその神社に、何時の間にか姿を現した、甲冑姿の1体の騎士。
     ――ロード・クロムによってこの世界に産み落とされたクロムナイト。
     騎士は、何の感情も感じさせぬ悠然とした足取りで、下にある村へと続いている階段へと向かって行く。
     ――僅かに、月明かりに照らし出されているその風景に、澄んだ声が響いた。
    「深淵の先を逝く者達を祓う聖光の加護を!」
     瞬く間に周囲を覆うは、緑風・玲那(緋閃葬翼・d17507) の生み出した闇。
     その闇に当てられる様に、クロムナイトは地獄の底から響く様な、呻きをあげた。
    「長い5分になりそうだな……」
     地を震わせる声をあげる騎士の様子を油断なく伺いながら、白石・明日香(猛る閃刃・d31470) が、日本刀を抜いて小さく呟く。
    「……ふふっ。何も考えずにひたすらどつき殴り合う、手合せはやっぱりこうでなくては!」
     玲那の殺界形成と、それに応ずるクロムナイトの雄叫びに両拳を強く握り締め、口元に強気の笑みを浮かべて、嬉しそうに気合を入れるのは、ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227) 。
    「クロムナイト……逃がせば危険な事になる。此処で逃がすわけには行かない!」
     炎道・極志(可燃性・d25257) の気迫に応じる様に、灼滅者達との戦いを学ぶことを選んだクロムナイトが剣と盾を構えて突進する。
     ――それが、戦いの開始の合図になった。

    ●幼き『騎士』
    「速攻となれば……!」
     誰よりも早く先手を切って動いたのは、玲那。
     空中へと飛び出し星の輝きを纏った蹴りを放ち、クロムナイトを鋭く蹴り飛ばす。
     反撃を受けるよりも先に、蹴った勢いを生かして空中に飛び出し一回転して、後方へと離脱。
    「変身っ!」
     叫び、玲那の後退を援護する様にDCPキャノンを撃ち出したのは、山本・仁道(大学生デモノイドヒューマン・d18245) 。
     撃ち出されたその光線はクロムナイトが左手に持つ盾によって遮られたが、その隙をついて、明日香が構えていた刀を走らせると、クロムナイトが剣で其れに応ずる。
     刃と刃がぶつかり合い、束の間火花を散らすが、程なくして力任せに明日香を押し切ろうとしたクロムナイトに、鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655) が変貌させた右腕から、全てを溶かす酸を放出した。
     明日香との斬り合いにより、僅かに反応の遅れたクロムナイトの溶けかけている装甲を狙って、不規則な動きで翻弄する様に走り回りながら、クロムナイトの死角から装甲を続けて斬り裂く、極志。
    「長く時間は掛けられん! 速攻で終わらせてもらう!」
    「頑張りますよぉぉ!」
     極志に続いて、ミルミが妖の斧を振り回す。
     ミルミの一撃が容赦なくクロムナイトを叩き割り、鈍い音が辺りに響いた。
     痛みからか後退するクロムナイトを、ミルミと入れ替わりに風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897) が、竜骨斬りで追撃する。
     立て続けに行われた連続攻撃に傷だらけになりながらもまだまだ余裕を見せるクロムナイト。
     反撃とばかりに、己が手に持つ刃を一振りすると、剣が無数の細かい刃となって、灼滅者達に襲い掛かった。
    「! まずいですね」
     相手に張り付き、周囲の仲間達の様子を気に掛けながら、被害を最小限に押しとどめていたが、それでも、まだ力の弱い、明日香と仁道の負傷が大きいのに気がつく、置始・瑞樹(殞籠・d00403)。
     特に至近距離から攻撃を仕掛けていた明日香の負傷が激しく、よろよろと後退している彼女に向けて、クロムナイトが大上段に剣を振り上げ、そして振り下ろそうとする。
    「やらせません!」
     オオミズアオの障壁を生み出した、WOKシールドを叩き付けながら、瑞樹が鋭く叫ぶ。
     腕への強打による衝撃がクロムナイトの手元を狂わせ、明日香に振り下ろされる筈だった刃が、瑞樹の肩から胸に掛けてを深々と切り裂いた。
     同時に、オオミズアオの結界の半分以上がまるで硝子が割れるかのような甲高い音を立てて砕け散るが、構わず瑞樹は縛霊手でその刃を掴み、霊力を放射する。
     放射された霊力が剣を這い上がってクロムナイトの全身を締め上げようとするが、クロムナイトは意に介さず、体を震わせることで、その網を強引に断ち切った。
    「其れなりに効いている様ですが、武器を易々と捕獲させてはくれないと言う事ですね」
     冷静に状況を確認しながら一つ頷き、優歌が周囲の魔力を集めて爆発させる。
     魔力の爆発がほんの少しだけクロムナイトを揺るがせている間に、玲那が素早く周囲に展開した殺気を集めて霧状のカーテンへと作り変え、仲間達を癒した。
    「回復は任せて、皆さんは攻撃に専念を!」
     減衰が起きているとはいえ、傷を癒されたことに感謝しながら極志と、ミルミが同時に動く。
    「よくもやってくれたな!」
    「まだまだです! 我慢比べですよ!」
     極志の螺穿槍が連続した攻撃で最も弱体化している装甲を易々と貫き、動きが鈍ったクロムナイトの脚部をミルミのスライディングが強かに打ち据え、思わず蹈鞴を踏むクロムナイト。
    「守りが固い……! だが!」
     2人の攻撃に守りの態勢を崩したクロムナイトに向けて、仁道が深く腰を落として、鳩尾目掛けて正拳突き。
     鋼の様に硬い拳から放たれた一撃が、鳩尾から、中枢に掛けて激しい振動となって全身に伝わったか、先の一撃の際に整えていた攻撃態勢をも崩す、クロムナイト。
    「隙ありだ!」
    「さて……此処がチャンスですかね」
     明日香が急所を狙って斬りかかり、その攻撃を辛うじて盾で止めながらも後退するクロムナイトに、音々が周囲に溜め込まれている魔力を集めて一気に放つ。
     全てを飲み込まんばかりの耳を劈くような音が響き、クロムナイトがふらつきながらも、立ち上がる。
     再度防御を固め、雄たけびを上げるクロムナイトの様子を観察していた優歌は、思わず溜息を一つついた。
     ――もしかしたら、このクロムナイトは……。
    「まだ、『幼い』のかも知れませんね」
     動きに精彩を欠くクロムナイトの姿は、ほんの少しだけ哀れだった。
     『幼い』とは、弱く、脆く、傷つきやすい存在であるということ。
     だがそれは、裏を返せば、物事を『学ぶ』ことに最適化された存在であることを意味していた。
    「だから……5分以内に倒す必要があるのですね」
     呟きながら、優歌が接近して、龍骨斬り。
     そこには何の感情も込められていない。 
     今はただ、目の前の敵を何とかするだけ。
     一時の憐憫で手を抜けば、いつか必ず報いを受ける。
     ……しかもそれに相対するのは、自分達ではない、他の誰かなのかも知れないのだ。
     優歌の内心の呟きに答える様に……再び戦闘態勢を整えるクロムナイトの姿に、灼滅者達は、既に何十分も戦い続けているのではないか、と思える程の疲労を感じたが、時は、未だ2分を刻んだのみだった。
    ●吼える『騎士』
     悲痛さを感じさせる叫びを上げながら、己が傷を癒すクロムナイトの姿は、仁道をほんの少しだけ怯ませる。
     ――戦う事、強くなる事。
     其れだけが、このクロムナイトの存在理由。
     理性も何もなく、ただ、与えられた命令に従い、目の前の物を破壊し続け、飽くなき強さを極めんとすることを欲する者達。
     ――そして……。
     そんなクロムナイトと同じ『デモノイド』を、抱えている自分。
     それは、どんなに否定しても、決して、拭うことの出来ない『闇』。
    「……つくづく救いがないな、俺も、お前も」
     呟きながら閃光百裂拳を放つ仁道。
     咆哮により自らの傷を癒したクロムナイトへ無数の拳の乱打を決めたが、一撃一撃の手応えが先程よりも軽い。
    「ほらほら、もう終わりですか!? まだまだいきますよ!」
     玲那の夜霧隠れに再び傷を癒されながら、ミルミが強気な笑みを浮かべてフォースブレイク。
     仁道の手数に押し切られて遂によろめいたクロムナイトの中心で起きた大爆発が、その体を内側から破壊し、クロムナイトは兜の隙間から僅かに見える瞳で忌々しげにミルミを睨み付ける。
    「隙あり!」
     ミルミの攻撃に合わせて明日香がギルティクロスで追撃を掛けるが、クロムナイトはその攻撃を手に持つ盾で受け流した。
    「どうした! 回復なんてちまっこい事やってないで、さっさと掛かって来い!」
     瞬間、生み出された隙をついて極志が肉薄し、チェーンソー剣を突き立て、薙ぎ払う様に一閃させる。
     耳障りな鋸音と共に自らの胴を無慈悲に切り裂かれ、クロムナイトは思わずよろめく様に、後ろに下がった。
     空けられた空間を埋める様にすかさず瑞樹が前進し、内側に潜り込んで膝蹴りを叩きこむ。
     鋭く放たれた膝が、極志によって傷つけられた装甲を強打し、苦痛の呻きを上げるクロムナイト。
    「ムラサキカガミ!」
     音々の叫びと同時に、彼の右腕の背後に、七不思議たるムラサキカガミが姿を現し、紫煙をクロムナイトに這わせる様にしながら、身の毛もよだつほどの怨念の籠められた怪談を語る。
     クロムナイトは紫煙と共に、その奇譚に籠められた恐怖を振り払う様に我武者羅に暴れ回り、辛うじて紫煙を打ち払う。
     紫煙を振り払って現れたクロムナイトの瞳が、異様な輝きを帯びていた。
    「! いけません!」
     瑞樹が気が付き、咄嗟に音々を突き飛ばしながら、WOKシールドを叩き付ける。
     それと、ほぼ同時だった。
     クロムナイトの盾による強打が、瑞樹の全身を強打したのは。
    「ぐぅ!」
    「瑞樹さん!」
     咄嗟に玲那が癒しの矢を撃ち、致命傷は避けるが、骨を砕かれた瑞樹はそのまま地面に倒れ伏す。恐らく、この戦いが終わるまでは目を覚ますことはないだろう。
    「! よくも瑞樹さんを!」
     怒りに燃えて雄たけびを上げながら極志が斬りかかる。それに追随して、明日香と仁道がそれぞれの得物を持ってクロムナイトを切り刻んだ。
    「1人倒されましたか……」
     冷静に呟きながら、優歌が再びフォースブレイク。
     速攻の為に与えられた時間は3分30秒を回っている。
     急がなければ、最悪、戦線が維持できない状況になることは疑いようがない。
    「取り敢えず作戦通りですか……気にせず行きますよ!」
     仲間が倒れたのも構わず、音々が寄生体で覆ったマテリアルロッドで殴り掛かる。
     瑞樹の影に隠れて、音々の攻撃が来ることを予測できなかったクロムナイトは、真正面から叩きつけられた一撃に、思わず体を揺るがせた。
    「随分温い攻撃ですね! 最強を目指すならもっと死ぬ気で掛かって来いです!」
     仲間を庇う様にして倒れた瑞樹に止めを刺されぬよう、挑発しながら、空中から蹴りを放つミルミ。
     ディフェンダーでなければ当たり所が悪ければ治癒を受けている瑞樹でさえも一撃で落ちる程の力を持った存在だ。
     これ以上手数を減らされぬ様、仁道や明日香を攻撃させるわけにはいかない。
     ミルミのその想いが届いたのかどうかは分からないが。
     それでも、彼女の一撃はクロムナイトを怯ませるに値した。
    「あと一息です……!」
     音々が呟き、再び攻撃を仕掛けようとしたその時。
     クロムナイトがまた、叫びを上げようとする。そして、自らの傷を癒そうと……。
    「させません!」
     後1分のこの状況。回復されてしまえば、短期決戦が遠のくと判断した玲那が回復を中断し、天星弓から、彗星の如き早さの矢を放つ。
     それは、クロムナイトに掠り傷を負わせることすら叶わなかったが……僅かにその叫びのタイミングを狂わせるには、十分な一撃だった。
    「今だ……!」
     息をもつかせぬ速さで明日香が接近しティアーズリッパー。
     叫びを中断させられ、唖然として動きを止めていたクロムナイトの急所を彼女の刃が容赦なく抉る。
     刃が深々と突き刺さり、苦しむ騎士の姿を見て。
     優歌が龍骨斬りで装甲毎、その身を切り裂き。
     極志が螺穿槍でがら空きになった急所を貫き。
     音々の七不思議たるムラサキカガミの紫煙が内側からクロムナイトを崩壊させ。
     仁道が閃光百裂拳で身も心も砕かれ、膝立ちになっているクロムナイトを打ち上げる。
     ――そして……。
    「止めですよ!」
     ミルミが打ち上げられたクロムナイトに接近し、閃光百裂拳を放つと、全身を強打されたクロムナイトはガシャリ、と乾いた音を立てて地面に落下し……光となって、消えていった。

    ●終わりのない、終わり
    「作戦成功。……ボク達のデータを持ち帰られたくはありませんからね」
    「……もしこいつを逃がしていたら、どんなことになっていたんすかね……」
     光の粒子となって消えていったクロムナイトを見送りながら、音々が溜息をついているのに頷きながら、極志が思わず生唾を飲み込んだ。
    「……気に入りませんね」
     そんな音々と極志に相槌を打ちながら、ミルミが此処にはいない誰かに向けて、吐き捨てる様に呟いている。
    「お前らの思惑に乗ってやるわけには行かねぇんだよ……!」 
     そのミルミたちの傍で軽く握り拳を作って毒づく明日香に頷きかけながら……仁道は密かに溜息をつく。
     ――クロムナイトは強敵だった。其れは確かだ。
     けれども、戦う為……それも後に新たに量産されてくるであろう騎士たちの為だけに、製造され、使い捨てられるクロムナイトもいる。
     そして、其れを作るのもまた、ロード・クロムの策謀なのだ。
    「ロード・クロム、覚えたぞ。……首を洗って待っていろ」
     やり場のない、どうしようもない怒りを言葉に変えて、淡々と呟く仁道。
     一方、玲那と優歌は、戦いの途中で倒れた瑞樹を介抱していた。
    「……皆、無事ですか……?」
     自分が一番傷付いているにも関わらず、意識を取り戻すや否や、玲那と優歌を見上げながら仲間達を気遣う様子を見せる瑞樹に、玲那が頷き返した。
    「はい。瑞樹さんが守ってくれましたから。……すみません、回復が間に合わずに……」
     悔しげに俯く玲那を労わる様に、優歌がはっきりと首を横に振って、玲那の背を優しく叩いた。
    「あなたがいなければ、瑞樹さんは致命傷を負っていたでしょう。あなたは、あなたの役割を果たしたのです」
    「その通りですよ。ありがとうございます、玲那」
     痛む体に顔を顰めながらも、首を縦に振り、礼を述べる瑞樹に小さく頷き、玲那は静かに、空を見上げる。
     ――何時の間にか、雲に覆われていた月の姿が、まるで、これからの戦いの苛烈さを、暗示しているかの様に思えた。
     

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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