夜が明けない村

    作者:鏑木凛

     撒かれた火種は着実に命を奪う。
     巨大な刀に変貌した利き腕を軽々と回し、噛み付くような視線を老人へ向ける。
     月夜に浮かぶ青い腕が、狙った獲物を貫く。か細い身から搾り出た悲鳴は、響くことなく掻き消えた。
     生を放棄した肢体に一切の興味も抱かず、青き戦士は老人の家を後にする。疎らに建つ木造の家には、灯りも賑やかさも無い。時折、犬の遠吠えが聞こえるだけの静かな夜だ。
     静寂の中を戦士は行く。片手に大鎌を握りしめ、次の命を奪うため。
     村は一夜で潰える。陽に照らされて透き通る青葉も、拝めずに。
     
     朱雀門のロード・クロムに動きがあった。
     狩谷・睦(中学生エクスブレイン・dn0106)が開口一番に告げた報せは、集った灼滅者の間に緊張を走らせる。
    「配置したクロムナイトを村に向かわせて、一般人を虐殺しようとしているんだ」
     放っておけば、狙われた村は壊滅する。たった一晩で。
     幸いにも、クロムナイトが配置されているのは、村から少し離れた場所。寄り道などせず向かえば、クロムナイトが村に到着する前に戦いを仕掛けることができる。
     どうやらロード・クロムは、と前置きをして、睦は話を続けた。
    「……デモノイド施設を利用して、クロムナイトを量産するつもりらしくて」
     その最終段階として、クロムナイトを配置し、灼滅者と戦わせる計画らしい。
     デモノイド施設。その単語を灼滅者たちが呟くと、睦は静かに頷く。
    「軍艦島で灼滅した美醜のベレーザから、施設を引き継いだみたいだね」
     軍艦島での戦いは記憶に新しい。集った灼滅者たちがどよめく。
    「村が襲われる前に倒せばいいんだけど、ひとつ問題があるんだ」
     首を傾げた灼滅者たちに、睦はゆっくりと説明を繋げる。
    「……クロムナイトは、戦闘経験を積むために派遣されているんだよ」
     戦いの経験を積めば積むほど、量産型クロムナイトが強化されてしまう。
     しかし短期決戦を挑んだ結果、灼滅者が敗北してしまえば、多くの一般人が犠牲になる。
    「最善策は、戦闘経験を積ませないよう、短時間で灼滅することだよ」
     目標はシンプルだ。だからこそ難しい。
    「クロムナイトとの接触は、山の中でしてもらうよ」
     村は山中にあり、クロムナイトが村へ向かう夜――川を挟んで接触する。
     灼滅者には、村側の岸で待機してもらう。村を背にする形だが、川岸から村まで距離があるため、一般人に悟られることは無い。
     クロムナイトは対岸に姿を現し、川を渡って来る。クロムナイトが姿を現した後は、川を渡って戦おうと、川で戦おうと自由だ。
    「川といっても幅は3mぐらいでね。浅くて緩やかな流れの川なんだ」
     灼滅者もクロムナイトも、足を取られることはない。
     川辺は開けていて多少の木々があるものの、戦うのに支障もない。月明かりもあるが、不安なら灯りを持ち寄れば万全だろう。
    「敵は一体だけ。一体だけとはいえ、強い相手に変わりないよ」
     クロムナイトのポジションはジャマーだ。
     戦いでは、DMWセイバーとDCPキャノンで容赦なく攻めたててくる。
     クロムナイトが振るう武器は咎人の大鎌。ブラックウェイブにデスサイズ、そして虚空ギロチン。いずれも、よく知っているサイキックだろう。
    「……キミたちもよく知ってる。だからこそ対策は立てやすいと思うんだ」
     単純に、戦いに関してだけならば。
    「クロムナイトに戦いの経験を積ませずに倒す。それが最善策だって話したね」
     灼滅者たちが頷くのを確認してから、状況によっては、と睦が続ける。
    「……素早く倒すことを、諦める必要が出てくるかもしれないんだよ」
     短時間撃破に拘りすぎて敗北してしまう可能性も出てくる。
     睦は躊躇わずに言った――その可能性があるだけの敵だと。
    「戦いにキミたちが破れたらどうなるかは、解るはず」
     たとえ戦闘経験を敵に多く積ませてしまったとしても、村人の命は死守しなければならない。そこだけは譲らないで欲しい。
     そう睦は告げて、最後に柔らかく微笑んだ。
    「いってらっしゃい。全員揃って帰ってくるのを待ってるからね」
     祈りにも似た声で、彼女は灼滅者たちを見送った。


    参加者
    御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    天使・翼(ロワゾブルー・d20929)
    レナード・ノア(夜行・d21577)
    雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)
    日野原・スミ花(墨染桜・d33245)
    藤花・アリス(ふたりぼっち・d33962)

    ■リプレイ


     山中で木々が織りなしていた天蓋も、川岸では密度が低く、夜空に向かってぽっかりと口を開けていた。冴えた月明かりが、眼下に横たわる地も水面も、ぼんやりと浮かび上がらせている。
     静かな夜だ。ざわめく葉と風が、せせらぎに乗って流れていくだけの。
     乾いた春の川岸を、ひとつの影がゆく。ただの人であれば掬われてしまう浅めの川も意に介さず、彼は川を渡った。跳ねた雫が湿気となり、蒼き戦士の冷たい肌に纏わりつく。
     その肌が、川の向こうに気配を感じ取る。潜んでいた者も多かったが、足並みが揃わず奇襲には至らなかった。だから息を潜めていた灼滅者たちは、堂々と姿を現す。
     しかし蒼き戦士――クロムナイトは、慌てる素振りもなく川から上がった。足元からぼうっと灯りが湧く。灼滅者たちが転がしておいたランタンだ。視界がより明瞭になり、人を成す輪郭がくっきり浮かぶ。
    「よぉ兄弟。こんな夜に散歩か?」
     草の影から姿を現した天使・翼(ロワゾブルー・d20929)の呼びかけに、クロムナイトが僅かに振り向く。その額へ向け翳した指輪から、一直線に魔法の弾を撃ちだす。弾は逸らしたクロムナイトの真横を抜けていった。
     一瞬の隙を狙い、前衛に立った御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)が、螺旋の捻りを乗せた一撃を仕掛ける。
    「量産機で経験積んで、強いの作ろうとか姑息だよな……」
     天嶺の影から飛び込むのは、雨堂・亜理沙(白影紅色奇譚・d28216)だ。死角から与えるのは斬撃。腱を絶つ音に、しかしクロムナイトが苦しむ素振りは無い。
     一瞥した亜理沙は、情も温もりも知らない蒼を突き飛ばすように離れた。何も知らないからこそ、強化されては恐ろしい。防ぐ方法があるのなら、最善を尽くすだけだと地を踏みしめる。
     踏みしめたのは、クロムナイトもだった。巨大な鎌から波動が放たれ、前衛陣を薙ぐ。
     三日月を思わせる大鎌が、深い闇色の空に浮かんで見えた。仰ぎ見た秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)は、幼い四肢から紡ぎあげた影で鋭刃を模り、クロムナイトへ斬りかかる。ナノナノのサムも、後方からシャボン玉を飛ばした。
     漂う泡が弾けた音に、風を切る音が重なる。
     死角に回り込んでいたレナード・ノア(夜行・d21577)のものだ。敵が察するよりも速く、身を守るものごと切り裂く。
    「第一目標、五ターンキル!」
     宣言と共にミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が跳ねた。靴に宿すは流星の煌めき。重力に任せて落とした踵は、鎌で流すように避けられてしまう。
     ――速い!
     着地しながら敵を睨みつけて、ミカエラは相手の強さを肌で感じ取る。
     だが瞬く流星の煌めきは、そこで絶えなかった。
     衝撃がクロムナイトの肩を圧す。日野原・スミ花(墨染桜・d33245)の飛び蹴りだ。そして食い込んだ足を軸に、身を翻して間合いをとる。
     ――クロムナイトの成り立ち……興味深い。
     観察するような眼差しを向けるスミ花の懐では、ぶら下げたタイマーが既にカウントダウンを開始していた。
     言葉を発しない敵を前に、藤花・アリス(ふたりぼっち・d33962)の細腕が震えた。けれど為すべきことは決まっている。前衛へ施した黄色いサインで、耐性を作り上げていく。彼女の意志に沿って、ウイングキャットのりぼんが一鳴きした。肉球パンチでクロムナイトへ飛びかかる。
     軽やかなりぼんの一撃を払いのけて、クロムナイトは天嶺に断罪の刃を振り下ろした。
     鎌から伝った怨念が傷口に滲む。痛みを噛みしめて、天嶺は注射針を隆々とした蒼い腕へ突き刺す。毒薬を注ぎ込んだにも関わらず、敵に狼狽える様子は無い。
     ――経験は積ませたくないですね。これは。
     思わず天嶺の頬が引きつった。
     清美から噴出した炎が武器に宿る。眼前のクロムナイトを見据えた。許せない。彼女が覚えた感情は、それだ。なんとしても終わらせねばと叩きつけた武器から、火の粉が舞った。その間に、サムがふわふわハートを飛ばす。
     攻める手は一秒たりとも止まれない。
     仕掛けたレナードのフォースブレイクが、避けられ闇に消えた。
     軽快に回避したクロムナイトを見て、ひえー、と素っ頓狂な声を発したのはミカエラだ。
    「面倒だから、手早くお帰りいただきたいねっ!」
     展開したシールドで前衛の守りを固め、耐性を高めたミカエラの脇を、白がすり抜ける。燃えるような瞳に亜理沙が映したのは、クロムナイト。
    「斬り込む……!」
     死角に回り込んで切り裂けいた亜理沙に続いて、狙い定めていたスミ花の槍が妖気を連ねる。
    「きみたちの経験情報は、どこに蓄積されているのだろうね」
     氷柱と化した妖気が蒼へと突き刺さった。青き戦士は低く唸るばかりで。
     ――ああ、教えてはくれないか。
     紡がれぬ言葉に、零れるのは密かな笑み。
     リングを光らせたりぼんと顔を見合わせて、アリスが温かな光を天嶺へ招く。
     癒しが施されている間に、翼の鋼糸がクロムナイトの腕へ巻き付いた。
     クロムナイトが灼滅者たちをまじまじと見つめる。彼の様子に恐れや動揺は無く、召喚した無数の刃を一斉に襲い掛からせた。


     炎が躍る。天嶺の腕から武器へ伝った炎が、クロムナイトを焦がす。
     ――被害を出すのも嫌なので……一気に灼滅したいですね。
     村へは通さない。それは灼滅者たちが共有している、曲がらないもの。
     天嶺に続いて、清美も炎を宿した。サムが回復に飛び回る気配を背に感じながら、クロムナイトへと殴りかかる。しかし当たらずに宙を抉り、仕返しとばかりにクロムナイトの利き腕が刀へと変貌を遂げた。慈悲の欠片も無い一太刀が、清美を地へ沈ませる。
     すかさずレナードが、気を集束させた拳で連打を繰り出した。しかし拳は掌で受けられ、骨の軋みが滲む。その一瞬、窺えるはずのないクロムナイトの視線がぶつかった。拳を振りほどいた後に距離を置き、睨み付ける。
     ――キュアとブレイクの手段がなさげなのは、助かるな。
     しかし冷静に巡らせた思考が物語る。
     手段を持たないのに、強敵であるとエクスブレインに念を押された存在だ。素体の強さは計り知れない。
     片足ずつ跳ねて挙動を確認したミカエラが、攻撃手の背を押すべく再びシールドを張る。燃える闘志の裏で、彼女は常に全神経を集中させていた。自らの役割を明確に意識して。
     クロムナイトへ殴りかかった亜理沙が、頑丈な身へ魔力を流し込む。
    「……すぐ楽にしてあげるよ」
     亜理沙の呟きと共に、青の体内で魔力が破裂する。確かに良い作戦だ、と声に出さず呟く。
     ――こちらとしては戦わざるを得ないのだから。けど乗る気はない。
     ロードクロムの思惑を想起し、赤い眼差しが敵を射抜く。
     視線に気づいてか低く唸ったクロムナイトに、照準を合わせるのはスミ花だった。狙い違わず確実に、流星の尾を引く光を得た蹴りを与える。
     黄色に切り替えた交通標識を地に突き立てて、アリスが仲間を援護していく。余裕があれば攻撃に回らせたかったりぼんを、ちらりと見遣る。守りに入らず、猛攻を只管続けるクロムナイトだ。威力が凄まじいがゆえに、余裕は微塵も無かった。
     翼が、指輪から魔法弾を射出する。
     ――何もできずに倒れちまってくれ。
     経験を積ませたくない一心で向けた弾は、願い叶わずクロムナイトの胴体を掠めた。
     舐めるように、クロムナイトが灼滅者たちを窺う。そして生成されたのは、巨大な砲台。砲口から飛び出した死の光線がアリスを直撃した。
     咄嗟に、意識を惹きつけるように天嶺が殺人注射器で刺突する。クロムナイトへ毒薬を注ぐ間に、ナノナノのサムが倒れた清美を庇いながら回復の術を飛ばした。
     踏み込んだレナードが、打ちつけた武器から魔力を流し込む。
     まだタイムリミットではない――基準を脳にインプットしていたミカエラは、攻撃手へ招くソーサルガーダーを緩めない。限界まで粘る。その意志の強さは、確りと彼女の糧になった。
     スナイパーは狙いを外さない。高速で死角へと飛び込んだ亜理沙が、青の守りを斬り刻んでいく。
     着実に敵の体力を削れていた。しかし蓄積されていくのは痛みだけではない。
     スミ花の槍が氷柱を生み、青白い胴体を貫通した。
     ――学習、学習か。
     クロムナイトを蝕む氷の魔力を確認し、スミ花は杖を握り直す。
     村の人たちを傷つけさせない。アリスは、祈るように結った温かな光で自身を癒す。
     ――ロード・クロムさんの、思惑に……乗ることになったとしても、です。
     傷つくことで生まれる深い悲しみを、少女は知っていたから。
     月の光を受けた鋼糸が、翼の指から器用に放たれる。
    「なぁ、お前さんにゃ自我はあんのか」
     応えは返らない。
     細い銀の輝きに締め付けられても、確かな足取りを損なわずにクロムナイトは再び砲台を模った。迷いの無い死の光線が、メディックとして立ち続けたアリスに襲い掛かる。背を強か打って倒れた少女へと、近くにいたスミ花が声をかけた。
    「アリス……!」
     平静さを失わないまま、呼びかけた彼女へアリスからの反応は無い。
     灼滅者たちはクロムナイトをねめつけた。
     濁った月光に照らされた蒼い腕。理性も感情も知らない存在は、ナノナノのサムを次なる標的に定めている。
     突然、戦場に撒かれた緊張感を甲高い音が引き裂く。
     無情にもそれは、五分という短い時間の経過を報せるアラームだった。


     五分経過のアラームが鳴ってから、そう時間は経っていない。
     巨大な蒼い腕に引き裂かれ、天嶺が痛みを堪えながらオーラを癒しの力へと転換させる。
     既にナノナノのサムも倒れた。回復に回る機会は、確実に増えている。
     此処に在らずのロード・クロムは、果たして今の状況を確認しているのだろうか。可能性に賭けて天嶺が告げたのは、ロード・クロムへの一言。
    「自身で戦わない奴に、成長は無いんだよ」
     出て来いと言わんばかりの気迫を背負った紫色の闘気が、彼の心情を如実に描く。
     レナードの連撃は、クロムナイトの身を止め処なく叩きつける。理性など無いに等しいはずのクロムナイトだが、レナードには彼の表情が揺れたように見えた。
     ――ここまでの攻撃、ちゃんと効いてるみてぇだな。
     積み重ねてきた、心身に異常を起こす術も、威力を損なわせる術も。
     何ひとつ、無駄にはなっていない。
    「オレらの相手はさぞ楽しいだろ? なぁ」
     言葉の代わりに、クロムナイトから呻き声が漏れた。
     ――五分すぎたら全力攻撃、の予定だったけど……。
     戦況を察しながら、ミカエラは再度シールドを広げ、仲間たちの守りを強固にする。
     ――支えないとね! なんとしても!
     押しているのは間違いなかった。ここが正念場だ。
     ミカエラの傍らを過ぎたのは、さやかな月影にも動じない鮮明な白。振りかざした殺人注射器の先端が、夜に突き刺さる。
     ――癪だけど、ここは腰を据えたほうがよさそうだ……。
     状況を理解しながら、亜理沙の注射器がクロムナイトを毒で更に追い詰めていく。
     勢いを止めるわけにはいかないと、スミ花も灼滅の文字を脳裏に刻みつけながら、杖で殴りかかった。触れた箇所から流し込んだ魔力を、クロムナイトの内側で爆破させる。
    「学習経験を糧にするのは、スミ花たちも同じだよ」
     桜色の瞳に、蒼い戦士の姿が映った。
     みゃあ、と高く鳴き声が響く。尻尾の輪を光らせたりぼんが、アリスの分も懸命に戦場を駆け、仲間を癒していく。
     低い体勢から一気に懐へ入り、翼が武器に宿した炎ごと、クロムナイトを殴打する。
     ――なんて名前だったのかね。お前さん。
     名も無き戦士には、堅い色の名しか付かなかった。
     立ち込めた闇に浮かぶ灯りは、未だ潰えない。足元から湧き上がる光と、月夜の明るさ。景色を照らす光は、灼滅者たちにとっても心強かった。
     空気が震える。クロムナイトの咆哮だ。戦いになってから露わにしなかった様子は、彼の握る鎌に沿う。
     死を宿した断罪の刃が、真っ直ぐにレナードへ振り下ろされた。鈍い音と衝撃が飛び散る。しかしレナードの意識は途切れていなかった。それどころか、痛みを微塵も感じていない。ふふん、と明るい笑い声が耳朶を打つ――ミカエラが、彼を庇うように立っていた。
    「攻撃の手はっ……減らさせ、な……」
     言い終わる前に、誇ったような笑顔のままミカエラは膝から崩れ、意識を失う。彼女のもとへりぼんが寄り添い、様子を窺う。
     灼滅者たちの意識が重なる。重なるのは、意識だけではない。繋げた信頼が、彼らを奮い立たせた。
     皆で頷き、速さで勝った天嶺が真っ先に地を蹴る。殺人注射器をクロムナイトの脇腹へ深々と刺しこんだ。銀の髪に夜空の灯りが零れ、その煌めきにクロムナイトの視線がつられた。
     一瞬の隙を突いて、レナードがクロムナイトへ魔力を流し込み、内側から痛みに染めていく。
     散々見せつけられたクロムナイトの姿に、翼は頭を搔いた。
    「こんな風にはならねぇようにしたいもんだぜ……ほんとによ」
     他人事のように思えない。砲身と化した利き腕で、照準を定めた。
    「わりぃな。オレのタスクなんだわ、これがさ」
     吊り上げた口角が気だるげに紡ぐ。翼の想いは淡々と死の光線に乗り、クロムナイトへ降り注ぐ。
     川のせせらぎを打ち消す程に、ローラーダッシュの駆動音が夜に叫んだ。亜理沙の足が纏ったのは、ゆるぎない炎。
    「どの道、どんな強敵でも、向かって来るなら潰します」
     立ち昇る炎のような力強さで一蹴すると、足の裏からクロムナイトの脆さが伝わってきた。与えてきた痛みの証拠だ。
     スミ花の繊細な指先が、槍に螺旋の捻りを齎し、蒼の戦士を穿つ。
     蒼を守っていたはずの金属音が、虚しさを落とした。命尽きゆくクロムナイトへ、スミ花は淡々と告げる。
    「次も上手くいくなどと思わないことだ」
     それは、遥か彼方にいるであろうロード・クロムに対する宣戦布告でもあった。


     倒れていた清美たちが意識を取り戻す。幸い誰も深手は負っていなかった。死線を越えた若者たちから、安堵の息が零れていく。
    「そろそろ帰ろうか」
     天嶺の促しに応じて飛びあがったミカエラが、座り込んだままの清美とアリスに手を差し伸べる。支えを受け入れた清美は、ありがとうございます、と表情に照れを帯びた。
    「あ……ありがとうございます、です」
     たどたどしく礼を述べて立ち上がったアリスには、りぼんが嬉しそうに鳴きながら頬を摺り寄せる。微笑ましい光景に、笑い声が溢れた。
     ふと見上げた遠くの空が白む。
     夜が明ける。潰える未来を迎えることなく、村にも訪れようとしていた。
     若き灼滅者たちが繋いだ朝は、すぐそこに。

    作者:鏑木凛 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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