「う、ぁああ、ああ、た、たすけ、助け……て」
「あ、あ、ああ……ひ、ぁ」
真夜中の田舎の村に、悲壮な叫びが響く。
その中心には、槍をふるう青い騎士の姿があった。
命乞いをする声も、ただ絶望を叫ぶ声も、子供のすすり泣く声も、容赦無く斬り捨てて行く。
また一つ、人間の身体が抉られた。
返り血が騎士の体にこびりつく。
だが、止まらない。
ただ生きている人間を殺すのみ。
これはだから虐殺で、物言わぬ死体がまた一つ、無造作に転がった。
●依頼
「朱雀門のロード・クロムに動きがあったようなんだよ」
教室に集まった皆を見て、千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
ロード・クロムは、人里から少し離れた場所に配下のクロムナイトを配置し、人里に向かわせて一般人を虐殺させる事件を起こそうとしていると言うのだ。
これを見逃せば、多くの一般人が犠牲になってしまうだろう。
「幸い、と言うのかな。配置されたクロムナイトが動き出すまでにはまだ時間があるんだよ。だから、人里に到着する前に戦闘を仕掛けることが出来るんだ」
太郎は更に続けた。
「どうやらね、ロード・クロムは、軍艦島で灼滅された美醜のベレーザから引き継いだデモノイド施設を利用して、クロムナイトを量産しようとしているようなんだ」
その最終段階として、クロムナイトを灼滅者と戦わせようとしているらしい。クロムナイトが戦闘の経験を積めば積むほど、量産型クロムナイトの戦闘力が強化されてしまうだろう。
「この目論見を阻止するためには、できるだけ戦闘経験を積ませずにクロムナイトを倒す必要がある。つまり、戦闘開始後短時間でクロムナイトを灼滅してしまえば良いんだ」
そして、今回のクロムナイトについて詳細が説明された。
「今回みんなに灼滅してもらいたいクロムナイトは、田舎の村近くにある山中に配置されているんだ。槍を装備しているようだね。山の中で戦いを仕掛ければ、一般人に配慮は必要ないよ」
敵はデモノイドヒューマン相当のサイキックを使い、届く範囲に複数の標的がいれば列攻撃も仕掛けてくる。
「それから、クロムナイトはジャマーの位置取りで戦うようだから、不利な持続効果にも注意してね」
また、戦闘を仕掛ける時間は夕暮れ時がよいと言う事だ。
「危険な任務だけど、みんなどうか無事帰ってきてね」
太郎は最後にぎゅっとくまのぬいぐるみを握り締めた。
「でもね、クロムナイトは強敵だよ。短時間の撃破にこだわりすぎると、負けてしまう可能性だってあるんだ。状況によっては、短時間の撃破は諦める事も必要だと思う。みんなが負けてしまったら、沢山の村人が犠牲になってしまうんだから」
その言葉を最後に、説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
朝山・千巻(懺悔リコリス・d00396) |
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) |
本田・優太朗(歩む者・d11395) |
月居・巴(ムーンチャイルド・d17082) |
型破・命(金剛不壊の華・d28675) |
土也・王求(天動説・d30636) |
アサギ・ビロード(ホロウキャンバス・d32066) |
クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295) |
●夕暮れ時
沈む夕日を浴びて一瞬木の葉が金色に光った。そろそろ夕暮れ時、山道は既に暗くなり始めている。
人の気配のないはずの山の中、青い巨体が身を起こした。
「ォォ、オオオ、ヴ、オオォッ」
人の言葉とは思えない咆哮を一つ。手にした槍を確かめるように横に凪ぐと、周囲の木々が派手な音を立ててなぎ倒された。
あれこそ、青い騎士。ロード・クロムの手による作品、量産型クロムナイトだ。
すぐに分かると華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は思った。
「今後は『作品』から『製品』になるのでしょうが、黙って見逃す気はありません」
近くにいる仲間達に視線を送る。
それぞれの思いを胸に抱き、今まさに戦いを始めようとしている仲間達だ。
デモノイドがデモノイドを手駒のように増やして使役するとは、と本田・優太朗(歩む者・d11395)は思う。デモノイドをそんな風に使役して、使役されるデモノイドの事は……。
(「倒さないと……ここで。これ以上、厄介な事になる前に」)
そう、強く思う。
「デモノイドはベレーザから御下がりもらって、今度は武蔵坂から戦闘経験もらおうって?」
朝山・千巻(懺悔リコリス・d00396)は、クロムナイトをじっと見据えた。
美味しいとこ取りのような根性にも腹が立つけれど、何より人を踏み台にしようとしている事が気に食わないのだ。
これを取りこぼせば村人が被害にあい、時間をかければ経験を与えてしまう。
短期決戦を念頭に置いた編成のため、仲間の身も心配だ。
千巻はぐっと武器を握り締めた。
「御山の大将が何考えてんだか知らねぇが、一般人に手を出すってんならほっとけねぇ」
型破・命(金剛不壊の華・d28675)が特製のハンズフリーライトを調節する。
周辺は木が生い茂っており、やや薄暗く感じる。だが、持ち寄った光源があれば戦いに支障が出ることは無いだろう。
「ダークネスの考えていることはいつだって理解不能で悪趣味だけれど」
月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)が、小さく首を傾げた。
「今回はなおさら見過ごすわけにはいかないね」
クロムナイトが槍を構え、麓の方角へ身体を向けたのが見える。
敵が動き出したのだ。
「僕ら武蔵坂を見縊ってもらっては困るから、徹底的に叩き潰してあげるとしよう」
巴が言うと、命が頷き返した。
「全力で当たらせてもらうぜ」
灼滅者達が一斉に地面を蹴る。
「5分で終わらせますよ」
紅緋が片腕を大きく異形化させた。
「セレンの風よ! 纏え!」
解除の言葉を叫び、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)は赤いコートと赤い盾を身に纏う。時間を気にしなければならないのは厄介だけれど、他の仲間達のためにもここでクロムナイトに経験を積ませるわけには行かない。
そして、と。
クレンドは敵を見据えた。
(「……俺の目的のためにも」)
心の中で思う。
「短期決戦。――状況開始」
アサギ・ビロード(ホロウキャンバス・d32066)が腕時計のタイマーを確認する。5分が区切り。それが、全員の認識だ。
(「……惨劇を起こさない為にも、ここで絶対に倒します。ロード・クロムにも、いつか報いを与えてやりましょう」)
思いながら、アサギが妖の槍を振り上げる。
「ヴ、ァ、ッ――」
木の間から飛び出した灼滅者を見て、クロムナイトが吼えた。
「この先に暮らす人々の生活のため、妾のような存在を生み出さないため」
土也・王求(天動説・d30636)は思う。
生まれ故郷を滅ぼされ、二つ目の故郷である病院をも滅ぼされ。
そのため絶対に阻止してみせると。
「明るい未来を人々に送ってもらうため、ここで倒させてもらうぞ、クロムナイト!!」
夕暮れ時の山の中で、戦いは始まった。
●開始一分
「アンタが踏み台と思ってんのはトラバサミだってこと、思い知らせてやる」
一気に敵の懐に飛び込んだ千巻は、バベルブレイカーの杭をクロムナイトの『死の中心点』に突き立てた。
「足噛みちぎられて泣いちゃえ、がおっ」
そのまま押し込み、力任せに肉を貫く。
「――ッ、ァ、アアアッ」
敵は一瞬身を強張らせた。しかし、すぐに腕を回し、千巻に向かってけん制するように拳を突き出してきた。それはサイキックによる攻撃ではなかったが、反射的に身を反らし地面を蹴って距離を取る。
出来た間に紅緋と命が飛び込んできた。
「ひたすら殴る、行くぜ」
片腕を巨大に異形化させた命が、大きく腕を振り下ろす。
「その装甲、砕きますよ」
同じく紅緋も鬼神変を叩き付けた。
初撃から、何の加減もせずに攻撃をぶつけ続ける。
勢いに押されるように、敵の身体が仰け反った。
だが、まだ攻撃の手は止まらない。
「無駄な大量殺戮は美しくない、が信条なものでね」
先ほどの二人とは違う方向から巴が飛び出してきた。
「僕の心情のために、きみには消えて貰うよ」
凪ぐように、横殴りに殴りつける。
異形巨大化させた腕から繰り出される猛撃が、クロムナイトの身体をぶち抜いた。
「ォ、オ、ァ、アアアアアアアッ」
今度こそ、敵が吹き飛ぶ。
「ッ、ァ」
クロムナイトは手にしていた槍を無造作に地面に突き刺し、強引に身体を止めた。
そのまま滑るように低い姿勢で身体を回転させると、猛然と前衛の仲間に向かって突進してくる。
槍を大仰に振り回し、仲間を次々となぎ倒しに来た。
「プリューヌ……!」
クレンドの傍に控えていたビハインドのプリューヌが仲間の前に躍り出る。
激しく回転する槍の攻撃から、一撃、仲間を庇った。
「大丈夫かな?」
吹き飛ばされ、それでも必死に身を立て直す。そうしてから、千巻が近くの仲間を見やった。
「平気です」
腕を盾にした紅緋が身を起こした。攻撃を受けた箇所が重い。やはり、かなり重い攻撃を仕掛けてくるようだ。
命も立ち上がった。
飾り紐の鈴が小さく鳴る。
「妾は無事じゃ。守ってもらったからのぅ」
倒れそうになっているプリューヌに手を貸し、王求が空いた手を上げた。
確かに強い攻撃だが、仲間はまだ誰も倒れていない。
「まだまだこれからじゃ!」
言って、王求が槍を振るった。
「此先、通行止。此処、貴方、墓場」
アサギも同時に、妖の槍の妖気を氷のつららに変える。
二人の激しい妖冷弾が、敵を貫いた。
再び、クロムナイトの体が傾ぐ。
出来た一瞬の隙に優太朗が剣に刻まれた『祝福の言葉』を風に変換した。
「回復します」
傷を負った仲間に向けて、回復の力を解放させる。
ただし回復の手は優太朗1人だ。
傷はある程度回復したが、完全に癒すまでには至らない。
それでも仲間達は再び走り始めた。
「忌まわしき細胞と鎧に束縛された同胞よ」
クレンドが盾を構えて前に出た。
「魂の解放のために貴様を滅する! 恨むなら存分に恨め」
それが自分のエゴだとしても、クレンドは盾を振り下ろす。
そして、力を込めて敵を殴りつけた。
クロムナイトがクレンドに顔を向ける。
また少し日が傾いた。辺りはいっそう薄暗くなり、さらに戦いは続いた。
●狙うは短期決戦
灼滅者達は、休む事無く攻撃を繰り出す。
「こ、の……! しぶといねぇ」
千巻がマテリアルロッドでクロムナイトを殴りつけた。
更に、後ろから紅緋が回り込んでくる。
「でもほら、隙が出来ましたね」
オーラを拳に集束させ、幾度も固い装甲に拳を繰り出した。
「こちらからは氷漬けじゃ!!」
解体ナイフに持ち替えた王求も、それに続く。
敵には既に氷がまとわりついている。一撃斬りつけ、傷をこじ開けるように手元でナイフを躍らせた。
「! ッ、ア、ア、ァアアアアア」
たまらずクロムナイトは苦痛の声を漏らす。
纏わりついた氷も襲い掛かり、確実に体力を削っているようだ。
「それじゃあ己れは、こっちからだ」
畳み掛けるように、命が閃光百裂拳を繰り出した。
流石、と言おうか。クロムナイトの身体は固い。一度殴ったくらいでは、完全に破壊しつくことはできないはずだ。それが殴りつけた拳から伝わってくる。
それでも、攻撃の手を止める事は無い。
千巻、紅緋、王求、命。
4人のクラッシャーは、ただ攻撃のみに主眼を置いて、クロムナイトを攻め立てた。
「アアアアア、ッ」
耳に突き刺さるような大音量の咆哮。
攻撃を受けてよろめいたクロムナイトが、唐突に体勢を立て直した。
青い騎士はその場で大きく身を沈め、勢い良く地面を蹴る。その身体は真上へ向かい跳び上がった。
青き肉体で槍を包み込み、巨大な砲台に変えるのが見える。
空中で狙いを定めたようだ。
「違うな。俺はここだ!」
その時、クロムナイトを追うようにクレンドも空中へと跳んだ。
仲間を庇うように。怒りの矛先を自分に向けさせるように。大きく盾を振りかぶり、敵を殴りつける。
「ギ――」
クロムナイトの姿勢が、空中で崩れた。
敵は攻撃を打ち出さぬまま地面に着地する。遅れてクレンドが足を地に下ろした。
「!」
瞬間、クレンドに向かって巨大な砲台から死の光線が放たれた。
「何度でも、受け止めてやるから来い!」
そう言い、敵の攻撃を一身に受ける。
身を侵す毒は不愉快で、何より体力がごっそりそぎ落とされた。
「なるほど、強い攻撃と言うわけですね」
すぐに優太朗が駆け寄り、クレンドの身体を支える。これだけの傷を負っているのなら、大きく回復させたほうが良いだろう。そのように判断し、優太朗はクレンドにジャッジメントレイを撃ち出した。
先ほどの回復よりも、更に強い癒しの力で傷を癒して行く。
「其間、私、食止」
回復の間は、自分が敵の動きを食い止めると、アサギが踏み込んだ。
己の利き腕を巨大な刀に変え、届く限り斬撃を繰り出す。
「絶対、止。此処、止」
絶対に止めてみせる。此処で止めると、アサギの腕が幾度も幾度もクロムナイトの身体を斬り裂いた。
「ア、アァアッ」
「痛いかい? でもね、此処で止めなければ、きみは村人を――。だから、ね?」
苦しみもがく敵に、巴がオーラを纏わせた拳を向けた。
そして、幾度も拳を繰り出し、敵を殴りつける。
狙うは短期決戦。
火力を集中させ、叩き伏せる。
「ほら、足元がふらついてきたんじゃないか?」
巴の言葉通り、クロムナイトが再びよろめき、ふらふらと頼りない足取りで二歩下がった。
●最後の集中攻撃
「一気に追い込みましょう!」
その瞬間を逃さなかった。
紅緋は、言うなり激しい風の刃を生み出した。
「この傷は簡単には癒えませんよ」
刃は幾重にも重なってクロムナイトに襲い掛かる。
「もう一押しだよね」
千巻も頷き、蹂躙のバベルインパクトを繰り出した。『死の中心点』を貫かれたクロムナイトは、ついに片膝を地面につける。もう一度起き上がろうと腕に力をこめているようだが、上手くいかないようだった。
「ここだぜ。みんな、続けぇ!!」
「了解じゃ」
命と王求も、攻撃を重ねる。2人は動けなくなった敵に、力の限りの攻撃をたたきつける。
前衛の仲間は癒えない傷を抱え、それでもただ攻撃を繰り返してきた。
それは目の前の敵も同様だ。クロムナイトの纏う鎧はボロボロで、体のあちらこちらに深い傷が見える。
「此処、決着」
此処で決着をつける。その思いを胸に、アサギが妖冷弾のつららで撃ち付ける。続けて、クレンドとプリューヌも最後の力を振り絞って攻撃を集中させた。
「僕も攻撃に加わりますっ」
敵の様子から、あと少しで押し切れると思う。
優太朗も己の利き腕を巨大な刀に変え、クロムナイトに向かっていった。
目標の時間も迫っている。
誰も回復は口にしない。
傷を負って、痛みを無視して、ただ攻撃を畳み掛ける。
優太朗が斬撃を放つと、沈みかけたクロムナイトが大きく吼えた。
「ォ、ヴォ、オ、オアアアアアアアアアアアア」
僅かばかり、敵の傷が回復する。
ようやく青い槍の騎士が立ち上がった。
そこへ、巴の槍が静かに振り下ろされる。
槍からはいくつもの冷気のつららが生み出され、抉るようにクロムナイトに降り注いだ。
立ち上がったばかりの青い躯体が再び沈む。
「……」
次に続く言葉は無く、クロムナイトから命のともし火が消えていった。
「――おやすみ」
巴の言葉は、静かに敵の終わりを告げる。
ちょうどその時、アサギのタイマーが鳴った。
仲間達は互いを見やり、無事を確認する。負った傷も、少し休めば元に戻りそうだった。
「すまない……いつかそっちに行くからな」
クレンドは胸の前で十字を切り、クロムナイトの冥福を祈る。
山の中に、もう敵の姿は無い。
灼滅者達は戦いの終わりを実感し、その場を後にした。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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