「もしかして、もう終わりなんですか?」
ぐっと胸倉を掴み、十分立派な体格の男を片手で宙に持ち上げながら。
一見、優男にみえる黒髪の男はわざとらしく小首を傾げ、柔らかに聞こえる声色で問う。
そんな彼の周囲には――地に這う沢山の男達が、無様に呻き転がっている。
「ああ、そういえば。貴方、私に先程なんて言ってましたっけ?」
「あ……あぁぁ、ゆ、ゆるし……ぐふぅっ!!」
刹那、強烈な拳が大男の腹に容赦なく突き上げられて。
「なんて、言ってましたっけ? もう一度、聞かせてくれませんか?」
堪らずうずくまったその大男の顎を、つま先でぐいっと持ち上げながら。
「確か、『ここはおまえみたいなひょろいヤツの来るところじゃねぇ、ブッ飛ばされたくなかったら失せろ』――このような内容だった気がしますが」
にこりと微笑む、彼。
そんな彼の怖いくらいの笑顔に、大男はガタガタと震えながら、か細い声を振り絞るも。
「はう……す、すまない……許し……て」
「はい? 何ですか、聞こえませんねぇ」
「ううぅ……このチームのリーダーの座、やるから……」
「何です?」
「だから、もう、勘弁して……、ッ!! が、あぁぁっ!!」
ぐしゃあっと鈍い音がした瞬間、みるみる広がるどす黒い血の海。
そんな自らが流す血溜まりの中、ビクンッと数度痙攣した後、全く動かなくなる大男。
そんな大男の様を一瞥して。
「非常につまらないですね」
優男――いや、体型を隠すような服を着た無駄のない筋肉質な身体つきをした彼は、一気に大男に興味がなくなったようにそう吐き捨て、血生臭い埠頭の倉庫を出るべく歩き出しながらも。
「最強の暴力チームだというので期待していましたのに……暇つぶしにもならないとは」
返り血のついた靴の底をキュッキュッとアスファルトに擦りつけ、呟く。
「もっとこう……叩き潰したくて叩き潰したくて仕方が無い衝動に駆られるような強者はいないのだろうか。血が沸き立つような、ぞくぞくするような、私を満足させ興奮させてくれるような……面白い相手がっ!」
それから、ふうっと髪をかきあげ、胸元に入れていた眼鏡をおもむろにかけて。
ポケットから取り出した本の活字を追い始めながら。
「ま、このまま強いと言われているヤツを片っ端から殺していけば、いずれそういう相手と出会えますよね」
彼は小首を傾げつつ、そう呟くのだった。
●
「よく来た、闇に抗う力を持つ我が戦友(とも)、灼滅者達! 俺の全能計算域(エクスマトリックス)が導き出した生存経路を、どうやら託す時が来たようだな!」
今日も何だか絶好調な神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、集いし戦友こと灼滅者達を見回して。
サイキックアブソーバーの呼び声こと解析結果による未来予測を語り始める。
「今回察知できた闇たる輩は、アンブレイカブルだ。その名は、美坂・ヒビキ。やつは大学生で、普段は眼鏡をかけ夏でも長袖のパーカーを着た見た目地味そうな男で、物腰も一見すると柔らかくみえるが。だがやつも例外なく、強さを求める自重しないダークネスだ」
ダークネスは、バベルの鎖の力による予知があるが、エクスブレインが予測した未来に従えば、その予知をかいくぐり、その闇に迫る事が出来るだろう。
敵は大変強力で危険ではあるが、ダークネスを灼滅する事こそ、灼滅者の宿命だ。
「このアンブレイカブルは暇つぶしに、暴走族や不良グループを取りあえず叩き潰しまくっている。片っ端から殺していけば、そのうちより強い者が現われるだろうと、そういう理由でな」
そしてヒビキは今度は、あるカラーギャングを叩き潰そうとしているらしい。
「まずはこのカラーギャングたちをアンブレイカブルと接触させないようにした後、やってきたやつを皆で迎え撃ち、被害が出ないようにして欲しい」
今回狙われるカラーギャングは『アルティマソウル』、チームカラーはグリーン。
このチーム自体、最近その界隈で力をつけているというが。特にチームリーダーである山木という男が、喧嘩が滅法強いと評判らしい。とはいえ所詮一般人、あっさりとアンブレイカブルに叩き潰され、下手をすれば殺されてしまうかもしれない。
「このアルティマソウルなる集団は、週一回、地図の印をつけた場所にある廃墟をアジトとして集まっているという。そこに、ヒビキが現われるというわけだ」
ヒビキはバイトが終わった23時頃に、このカラーギャングのアジトに現われる。
まずはたむろっているギャングたちをどうにか先に追い払い、それから、やって来るヒビキと戦って欲しい。
「まずカラーギャングたちは、全員ごく普通の一般人。いつもそこに集まる人数は、大体幹部クラスの20人程度だという。力尽くでもちょっと色々状況工作をするでもいい、とにかく彼らをアジトから追い払ってくれ。そしてヒビキは、アンブレイカブルのサイキックを使いバトルオーラを纏っている。ヒビキはかなりの強敵で、倒すのは現時点では皆で纏めてかかったとしても正直難しいかもしれないが……アンブレイカブルを満足させさえすれば、被害を出さずに済む。厳しい闘いになるが、よろしく頼む」
敵はヒビキ1人だがその力はかなり強力で、つまらないと判断した相手には容赦ないという。
心して、事にあたって欲しい。
「お前達ならばきっと被害を防ぐ事が出来ると……そう俺は信じている」
ヤマトは印をつけた地図を灼滅者達へと手渡しながら。
皆を信じて、送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
高町・勘志郎(黒薔薇の覇者・d00499) |
円・陽華(景陽の鐘・d00850) |
曲直部・尤(まったりゲーマー・d01328) |
晦日乃・朔夜(死点撃ち・d01821) |
風水・黒虎(黒金の焔虎・d01977) |
黒鐘・蓮司(兇冥・d02213) |
メアリ・ミナモト(夜天飛翔・d06603) |
名桐・ななみ(紅蓮蒼刻の徒・d08222) |
●グリーンギャング
時間は――21時を回った頃であった。
廃墟であるはずの建物から漏れてくるのは、煌々と輝く明かりと喧しい笑い声。
(「めちゃ強いアンブレイカブル……かぁ」)
廃墟の入口付近から、ライフルのスコープ越しに建物内を覗き見ながら。
(「うん。面白そう! 一体どのくらい強いのかなぁ」)
思わずわくわくしちゃうよね、と。
得物を携帯ゲーム機に持ち替えるのは、曲直部・尤(まったりゲーマー・d01328)。
「まずはカラーギャングを何とかしねーとな」
風水・黒虎(黒金の焔虎・d01977)も、暢気にたむろっている輩達へ改めて視線を向けて。
「何だかんだで 学園に来て初依頼なんだよね~頑張っていこうねみんな♪」
ライドキャリバーのフローレンを伴い、皆に笑むメアリ・ミナモト(夜天飛翔・d06603)。
アンブレイカブルであるヒビキが来る前に。
まずはこのアジトから、ギャング達を追い払う必要がある。
そしてその為の作戦とは――ズバリ! 関係者を装って、警察が来たって偽情報を流しちゃいマス♪
高町・勘志郎(黒薔薇の覇者・d00499)は、綺麗に爪の手入れがされている手を喉元に当てて。
「えーあーおー、人前で堂々と『オトコ』をやるのは久しぶりねぇ……」
もうちょっと声低いほうがいいかしら? と、こっそり男言葉の練習を。
その隣で、アクセサリーをジャラリ鳴らしながら。
「……まぁ、あんまり趣味じゃねーんすけどね」
そう気怠げに零すは、黒鐘・蓮司(兇冥・d02213)。
それからグリーンの小物やパーカーを身に纏った勘志郎と蓮司は、仲間に見送られながら。プラチナチケットのESPを駆使しつつ、『アルティマソウル』のアジトへと足を踏み入れる。
そして、すうっと息を吸い込んだ後。
「おい、サツがここに向かってるらしいぞ! 皆ズラかれ!」
練習の成果もバッチリ、勘志郎の男らしい声が突如響き渡って。
「ちょっ、マジ!?」
「サツがこの辺うろついてるみたいっす。因縁付けられる前にバックれませんか?」
途端に慌てだすギャング達に、蓮司もここからの撤退を促す。
そしてプラチナチケットの効果もあり、緑のものを纏う二人の言葉を素直に信じるギャング達。
「サツとかやべーじゃん!!」
「てか、山木サンに連絡しなきゃだろ!?」
山木とは、このチームのリーダーの男であるが。
「山木サンには自分らが連絡しとくっす」
「だからさっさとお前等はズラかれ!」
すかさずそう言った蓮司と勘志郎に、頼んだぞ、と。
尻尾を巻いて逃げていくギャング達。
所詮少年のチンピラ、警察と言われれば、慌てて退散するしかないのだ。
そして、あっさりとギャング全員がアジトを去った事を確認して。
身を潜めていた灼滅者達も、廃墟内へと入ってくる。
だが――その時だった。
「何だ、お前等!?」
背後に響く声に振り返れば、そこには新たに現われたカラーギャングの姿が。
10人程は先程上手く追い返したが、考えれば、ギャング達が皆集まるには少し早い時間。それにカラーギャング達が全員、同じ時間に行儀良く集まるわけはないのだ。
だが、うろたえるギャング達とは逆に。
「バレちゃった? はぁ……尤ちゃんおねがーい」
勘志郎の言葉に続いて吹くのは、尤の生み出した爽やかな魂鎮めの風。
そして眠りに誘われ、ぱたりと地に崩れたギャング達の手足をロープで縛り、抱えて。
晦日乃・朔夜(死点撃ち・d01821)と、ガイアチャージを兼ねた名桐・ななみ(紅蓮蒼刻の徒・d08222)が下見した際に見つけた、近くの工事現場へと彼らの身を運ぶ灼滅者。
それから円・陽華(景陽の鐘・d00850)の吸血捕食で、ギャング達の記憶を曖昧にしつつも。
「アタシ達仲間よ、見張り役」
「……ん、そうだっけ?」
「ええ、それなのに貴方、熱中症で倒れたんじゃない。熱中症にはロープが効くのよ。知らないの?」
微睡む彼らに陽華はそう聞かせ、尤の風で再び眠らせた後、しっかりとロープで拘束しておく。
吸血捕食は捕食対象を操ったりはできないが。前後十分間の記憶を曖昧にすることができ、魂鎮めの風の眠り効果と合わせれば十分効果的であるだろう。
それからこういったやり取りが、22時頃にリーダーの山木がやって来るまで、数度に渡り行なわれて。
「重いかも知れないけどフローレン頑張って運ぼうね!」
今の時代でギャングさんか~いる所には居るんだね~と、メアリは眠った山木を見遣りつつフローレンに乗せる。
「不っ味い血。不健康ここに極まれり、ね」
吸血捕食で彼の記憶を曖昧にした陽華は、そう思わず顔を顰めるも。
縛り上げはしているものの、ギャング達を傷つけることなく、工事現場へと運び出すのだった。
もし彼等が早めに目覚め、自力でロープから抜け出したとしても。
その頃には……きっともう、全て終わっているだろうから。
●開戦
時計の針は既に23時を廻っている。
もう新手のギャングが現われる気配はなく、尤の指がゲーム機のボタンを叩く音だけが微かに聞こえる。
――その時だった。
「……!」
全員が一斉に顔を上げ、表情を変える。
「貴方達が、『アルティマソウル』の皆さんですか?」
刹那耳に響くのは、一見物腰柔らかな声。
だが、灼滅者達は本能的に感じ取っていた。
その声色の根底に孕む、狂気を。
「えっと、どなたが山木さんなんでしょうか?」
現われた男――ヒビキは、そうぐるり灼滅者達を見回すも。
「残念だけど、ボクたちはカラーギャングじゃないよ」
「山木ちゃんは別の場所でおねんねしてるわよぉ、ヒビキちゃん♪」
「……どうして私のことを?」
尤と勘志郎の言葉に首を傾けている彼へと、陽華は真っ直ぐに視線を投げる。
「アンタ強いんだって? でもアタシ達だって強いのよ?」
その言葉に、ヒビキはもう一度皆を見回してから。
眼鏡をスッと外し数度頷きながら、くすりと笑んで続けた。
「成程、貴方達がかわりに私を楽しませてくれると。そういうことですか?」
「!」
刹那感じるのは、ぞくりと鳥肌が立つ程の殺気。
相手は強敵。だけど、逃げるわけにはいかない――そう朔夜はヒビキを見遣った後。
周囲の仲間達を見回して、思う。
今は、自分ひとりで戦ってるわけじゃないから、と。
そして。
「戦いを楽しむとか、良く分からないけど」
ぎゅっと握り締めたガンナイフを構えると。
「それが望みというのなら、全力で殺させてもらうの」
ヒビキの眉間へと、照準を合わせる。
「……ある意味やりやすいっすよ。アンタみたいなのは特にね」
目深にパーカーのフードをかぶった蓮司も、スレイヤーカードをスッと手にして。
「仕事、始めましょーか」
逆手に持った解体ナイフの鋭い閃きをヒビキへと向けて。
「来てよね、夜天に羽ばたく熾天の翼」
「これ以上の悪事はボクが許さないんだよ!」
フローレンと共に戦闘態勢に入るメアリに、ビシイッと言い放つななみ。
黒虎も巨大な鉄塊の如き刀を携えながら。
「さて、どれ位の強さか、見せて貰おうじゃねーか!」
ヒビキへと、こう言葉を投げるのだった。
「一見ヒョロそーだが、お手並み拝見!」
ヒビキはそんな言葉に、ピクリと反応を示した後。
黒虎の姿を映した漆黒の瞳をふっと細める。
そして。
「……ヒョロそう? 私が、ですか?」
「!!」
刹那、雷を宿したヒビキの拳が真下から黒虎の顎を捉え、高々と天へ突き上げる。
その強烈な一撃をくらい、黒虎は上体を一瞬大きく仰け反らせるも。
「俺の一刀入魂、受けてみな!」
ぐっと踏みとどまり、逆に相手を粉砕する程の重い衝撃を繰り出して。
ぶんっと大きく振り回された緋色のオーラ纏う陽華の龍砕斧が、同時に唸りを上げた。
「!」
そんな思わぬ反撃に、ヒビキは少し驚いた様に瞳を見開くも。
「そんじゃ……行かせてもらいます」
潰すに越した事はねーっすよ、と。
死角から放たれた蓮司の解体ナイフの斬撃が、容赦なく急所を絶ちにかかれば。
素早く懐に入ったななみが繰り出すオーラ纏いし連打と、勘志郎の高速の動きから放たれた引き裂く様な鋭利な一撃が、隠された筋肉質の肉体へと叩き込まれた。
さらに灼滅者達は攻撃の手を緩めず、朔夜のガンナイフから鋭き黒死斬が敵の死角から放たれ、尤の巻き起こす神風が刃となりダークネスへと襲い掛かる。
そしてフローレンがヒビキ目掛け、突撃すると同時に。
「壊すだけが力じゃないんだよ~」
先制の一打を受けた黒虎へと、癒しと超感覚を呼び起こす力を秘めた一矢を射るメアリ。
強力なダークネス相手に、全力で一気に攻撃を仕掛ける灼滅者達。
……だが。
「ほう、今回は少しくらいは楽しませて貰えそうでしょうか」
効いている気配もなく、柔らかな笑みのまま平然と立っているヒビキ。
相手にとって先程の攻撃は、ほんの微々たるダメージであるのだ。
だが、それでも怯まずに。
灼滅者達は果敢に地を蹴り、灼滅の光を宿した瞳を敵へと向ける。
●約束
「邪魔です、消えてください」
ヒビキはメアリの指示通り何度も突撃してくるフローレンへと視線を向けた後。
硬い拳の一撃で鋼質なライドキャリバーのボディーを貫き、最前線に立つサーヴァントをまず打ち消してから。
灼滅者達へと、腰が浮く程の拳を鳩尾に突き上げ、的確に顎を打ち抜き、鋭い拳撃を何発も捩じ込んでくる。
だが、一撃だけで意識が飛びそうになる強打にも歯を食いしばって。真っ向から挑む前衛の皆を支えるのは、状態異常付与を狙って巧みに仕掛けたり、回復主体に動いたりと、背中を守ってくれる仲間の存在。
そして再び、ななみの連打がヒビキの強靭な身体目掛け、唸りを上げるも。
「!」
「甘いですね、お嬢さん」
咄嗟にその拳を受け止め腕を掴んだヒビキは、仕掛けられた攻撃の勢いをそのままに、ななみを投げ飛ばして。
宙に浮いた彼女の身体を、容赦なく地へと叩きつけた。
「……ぐっ!」
その衝撃の大きさに、思わず表情を歪めるななみであったが。
「足元がお留守だぜ!」
冴えた闘争本能や勘を駆使し、すかさず伸ばされた黒虎の影がヒビキへと絡みついた刹那。
「アンタの相手はアタシよ!」
「ヒービキちゃん! アタシとも遊んでねぇ~?」
陽華の紅き衝撃が敵の体力を奪わんと揮われ、仲間が倒れぬよう気を張る勘志郎の縛霊手がヒビキを殴りつけると同時に、霊力の網が身体能力の高い相手を縛りつけて。
「刻んでやりましょーか」
逆手に持たれた蓮司の解体ナイフが赤き逆さ十字の斬撃を刻まんと閃けば。
(「守るために戦うのは、まだ慣れないけど。自分にできることを、精一杯やるの」)
トラウマを植えつけるべく朔夜の一撃が叩き込まれる。
その隙に、尤の浄化をもたらす優しき風が仲間達を包んで。
「この矢に込める力は癒し穢れ祓うんだよ! さぁ……今届けるよ!!」
続けざまに、流星の如く撃ち出されるメアリの癒しの矢。
だがヒビキも蓄積した状態異常を集めたオーラで回復し、余裕の笑みを絶やさない。
そして再び襲う重い一撃に耐え、仲間達と支え合い持ち堪えんと踏ん張る灼滅者。
「絶対負けねぇ!」
「はいはい回復ねっ。ななみちゃんがんばって~♪」
「やられっ放しは趣味じゃねーんスよ……!」
深手を負えば無理せず下がり、かわりに前へ出た者が盾となり攻撃を仕掛けていく作戦。
だがヒビキは魂を燃え上がらせ力漲らせた黒虎に、その効果ごと撃ち抜く鍛えぬかれた硬い拳をめり込ませながらも。
「ぐ……!」
「さぁ、お仲間を回復してあげてください」
「え?」
驚く灼滅者達に、にこりと笑んでそう言った後、スッと狂気に染まる瞳を細め続ける。
「だって、その分また、存分に貴方達を殴れますからね」
まぁそれもいつまで持つかですが、と。
癒せぬダメージが蓄積し始めた皆を見回し、肩を竦めてみせた。
そんなヒビキに。
「潰す」
冷たい言の葉と同時に牙を剥くのは、急所を的確に狙った蓮司のナイフの斬撃。
そしてそれを素早く回避したヒビキに生じた、一瞬の隙をついて。
「油断してたら、ボクたちが倒しちゃうよ!」
「隙あり、なの。足を止めさせて貰うの」
「まったく……戦闘大好きさんは血の気が多すぎだね~少しはこれで頭冷してよねっ!」
「!」
尤の魔法の矢がミサイルの如く撃ち出され、朔夜の黒死斬が鋭利な閃きを放った刹那、メアリの体温を奪う死の魔法がヒビキへと襲い掛かったのだった。
「くっ」
その猛攻に、微かに表情を変えたヒビキ。
そこへすかさず陽華が見舞うは、2メートル程もある槍斧から放たれる紅蓮斬。
「アタシ達はまだまだ強くなれる! ここで倒しちゃったら損するのはアンタよ?」
そして陽華は言い放つ。
勝てるとは思わないけど、簡単に負けてもやらない――と。
ヒビキはその衝撃を受けながらも、フッと笑んで。
「では……証明してみせてください?」
陽華目掛け、固めた立派な凶器である拳を大きく振り上げる。
だが――次の瞬間。
「させるかよ! ……ぐっ!」
「!」
女子が傷つくのは黙っていられないと。二人の間に割って入ったのは、黒虎。
そして豪腕から繰り出された重い一撃をモロに貰い、一度は膝をつくも。
「燃える男の紅い血潮の一撃よ!」
魂を奮い立たせ立ち上がった刹那、炎の如く輝く無敵斬艦刀の強烈な斬撃を放って。
「ななみキック!!」
微かにバランスを崩したヒビキへと見舞われるのは、吸収したご当地パワーを集結させたななみのジャンプキック。
そして。
「これ以上どの子にも、痛い思いさせたりなんかしないわ」
色々ある方がヒビキちゃんも楽しいでしょ? と。
死角に回り込んだ勘志郎の斬撃がヒビキのパーカーをズタズタに引き裂いて。
「……!」
顕になった割れた腹筋に、一筋の鮮血を走らせたのだった。
それからヒビキはふっと灼滅者達を見回した後。
「まさか、貴方達がここまで頑張るとはね」
おもむろに構えを解き、満足気に笑むと。
「自分達はもっと強くなれると、そう言いましたよね? いいでしょう……約束ですよ?」
ふふっと指きりの手つきをしながらも、地に落ちていた眼鏡を拾ってから。
楽しみにしていますよ――と。
廃墟から、去っていくのだった。
「ふん……また戦うのが楽しみ、ね。本当に」
「こ……これ以上何かするなら……ボクが相手だからな!」
その背中に、陽華とななみは精一杯声を投げた後。
ぺたりと、その場に座り込む。
誰も大怪我をしなかったのは、ヒビキが次の機会を楽しみたいからだという事もあるが。何より、全力で互いに支え合った、皆の力。
そして、手強かったァ……と勘志郎は胸を撫で下ろしながら。
「ダークネスは強いとわかってても負けるのは悔しいわ。もっと強くならないと」
お洒落なグリーンのネイルを塗った手で作った拳を、ぐっと握り締めるのだった。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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