複刃旋風! 手裏剣おじさん!

    作者:黒柴好人

     某市街地近郊の比較的大きな公園。
     芝生や林を中心とした自然豊かなそこは、市民の憩いの場として親しまれている。
     が、それは昼間の話だ。
     夜ともなれば腕自慢の若者が集い、闘技大会と言う名の私闘が繰り広げられている。そんな噂があった。
    「クッソ! 一体何なんだよッ!!」
     深夜。1人の青年が公園の整備された道を駆けていた。
    「こんなの、現実じゃありえねぇ――うお!?」
     悪態をつく青年の足が一瞬前まであった地面……アスファルトに何かが深々と刺さる音、そして衝撃を背中が捉えた。
     それは『外れた』のではなく『外された』のだと、青年は悟った。
    「チィ、こんなオープンフィールドじゃヤツの思うツボだ。なら!」
     限りなく読まにくいタイミングで道から逸れると、横に広がる人工林へと飛び込む。
     数メートル進んだ先で軽やかに樹に登り、枝へ枝へと跳ねていく。
     一連の動きだけでも青年は尋常ではない運動能力を有しているといえるだろう。
    「立体的な動きなら、そうそう追ってはこれねぇだろ……」
     枝の上で振り返る青年。その足元が爆ぜた。
    「なッ!?」
     慌てて近くの樹に飛び移り、あるいは飛び降りる。
     その挙動をなぞるように木々が爆ぜ、鋭い音を残す。
     そして青年はついに大樹を背に抱え、つまりは追い詰められてしまっていた。
    「待て! 俺は逃げも隠れもしない!!」
     散々逃げ隠れした末に青年が闇の中へと叫んだ。
     返ってきたのは声ではなく、先程から逃れ続けていたモノ。
     手裏剣の応酬だった。
     闇から飛来した手裏剣は青年の体の形に沿って大樹に突き刺さっていく。
    「ふ、服が縫い付けられやがった!?」
     まるでコミックの世界だぜ。混乱した頭でそんな事を考えていると。
    「貴様らは我が手裏剣を見た後、これを玩具と言ったな」
    「い、いやあれはだな……」
     青年には2人の仲間がいた。
     つい先ごろ、ここに集まる強者と戦いたいと宣う男とその得物を見て「プスー! なんだよそれ手裏剣って、そんなオモチャで俺らと戦う気かよ!」「画面端で壁に張り付いて延々投げ続けるつもりかよプククー!」などと笑っていた隙を突かれて倒れたが。
    「これが児戯に見えようか?」
    「あれはあんたを見くびったアイツらが悪い! それによく見りゃ、イカすじゃねぇか手裏剣! ヒュウウウゥ! 手裏剣サイッコォォォウ!!」
    「フン。どの道、貴様には我が意志を刻む必要がある。安心せい」
     言うや、男は道着の帯を解く。
     ぎょっとする青年は、しかしさらにぎょっとする。
     男の道着の下の肉体は、まるで鎖帷子のように手裏剣で覆われていたのだから。
    「へ、変態……いや忍者さんよ、俺とは正々堂々と戦いを――」
    「誰が忍者か!!」
    「へもぐろぎゃー!!」
     何が気に触ったのか、青年の額に手裏剣が飛来した。
    「……全く。これでは修行にもならん。一刻も早く我が悲願、成就せねばならぬというに」
     闇の中から姿を現した男は、掛けた月を見上げて独りごちる。
    「手裏剣と一体化する、我が心願を……!」
     ……ん?
     
    「……春も終わって、初夏の空気を感じられるようになってきましたね」
     武蔵坂学園高層階の一室で、高見堂・みなぎ(中学生エクスブレイン・dn0172)は灼滅者たちを前に挨拶する。
    「開放的に……なりますね?」
     何がとは聞かない方が良さそうだ。
    「……さて。今回皆さんにはダークネス……アンブレイカブルをどうにかしてきていただきたいと思います」
     アンブレイカブルの名は紫百合・剣造(しゆり・けんぞう)。
     拳法家風の道着を着た手裏剣をこよなく愛する見た目4、50代のおっさんだ。
     多種多様な手裏剣を体のあちこちに仕込み、全身これ手裏剣といった様相らしい。
    「今、安直な名前だと思いましたね? 名は体を表すと言います。何も問題はありません」
     手裏剣おじさん、もとい剣造は昨今手裏剣が軽視されている事に対し強い怒りを覚えているようだ。
     格闘技や武術の使い手の元に現れては手裏剣を使って圧倒し、去っていくという。
    「自分の手裏剣が最強……手裏剣は古今東西あらゆる武術の頂点であると思っているようですね。皆さんは、手裏剣について……どう思いますか?」
     どうであれ、増長し暴走するアンブレイカブルは倒さなくてはならない。
     が、その戦闘能力は非常に高い。
     手裏剣甲に似た手甲を身に付け、無数の、多種多様な手裏剣を投擲してくる。
    「……一気に倒す事は難しいかもしれません。その場合は撤退させるだけでも構いません。いいですか……このような相手は『自分がまだまだ未熟』だと思わせれば勝手に引いていくものです」
     手裏剣に対し、並々ならぬプライドを持ち、全ての敵を手裏剣で倒そうとする。
     という事は、手裏剣以外の攻撃を引き出す事が出来れば……?
    「この人数でボコボコにすれば、手裏剣だけでは防ぎきれないでしょうしね」
     みなぎは薄く笑うと、タブレット型のパソコンを取り出した。
    「……手裏剣おじさんが次に出現するのはこの場所です。あまり使われる事のない郊外の市営球場ですね」
     画面に表示されている地図アプリ上をタップし、マーキングするみなぎ。
     周囲は運動公園のようになっており、人の生活圏からは少し離れているようだ。
    「……説明は以上です。皆さん、気を引き締めて戦いを挑んでくださ」
     ふと、みなぎの動きが止まり、やがて震え声で呟いた。
    「今考えると手裏剣フェチというのはなかなかレベル高いですよ」
     フェチ言うな。


    参加者
    九条・風(廃音ブルース・d00691)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    マリーゴールド・スクラロース(中学生ファイアブラッド・d04680)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)
    久我・なゆた(紅の流星・d14249)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    午傍・猛(黄の破壊者・d25499)

    ■リプレイ

    ●開口一番! 手裏剣愛!
     静かな夜の運動公園。その市営球場。
    「ここにも強者が集まると聞いたが、所詮噂に過ぎなかったか」
     野球場には不釣り合いな拳法着のような格好の男、紫百合・剣造が独りごちる。
    「ならば次に向かうまで……ぬう!?」
     外野から歩みを進めていた剣造は、ただならぬ気配に足を止めた。
    「……紫百合・剣造、だよね?」
     それはマウンドの上。目を凝らすと帽子を目深に被った少年がロジンバッグを手の上で跳ねさせながら問う。
    「何奴!」
     少年――乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)は剣造の声に答えず、マウンドからキャッチャーボックスへと視線を注ぎ続ける。
    「最強の武器は手裏剣。最愛の武器は手裏剣。そうなんだろ?」
     聖太の左手では、相変わらず布の袋が滑り止めの白粉を吐き出し続けている。
     やがてバッグは地面に落ち、手には白いロジンだけが残った。
     横を向き、手の上の粉を軽い吐息で吹き飛ばすと……。
    「よもや!」
     そこには十字手裏剣が鈍く光っていた。
    「ほう、粋な真似をする。手裏剣使いはそうでなくてはな」
    「そんな世界の常識みてェに言われてもなァ……」
     バックネット裏から現れた九条・風(廃音ブルース・d00691)が後頭部を掻きながらぼやく。
    「仲間が居たか。むっ!?」
     突如、剣造の顔を鋭い光が照らした。
    「驚かせるつもりはなかったんだ。こう暗いと明かりが欲しいんだよね。僕は忍者じゃないし」
     LEDライトを持った新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)が光の先を別の方向に向けながら言う。
     それを皮切りに続々と灼滅者たちが集まってきた。
     ピリついていた空気が一層緊張する。
     と思いきや。
    「菜々花、はい」
     マリーゴールド・スクラロース(中学生ファイアブラッド・d04680)は彼女が使役するナノナノの菜々花の額に何かを貼り付けた。
     菜々花はそれが見えないので「ナノナノ~?」と頭上に疑問符を浮かべている。
    「なんだそりゃ。折り紙の……手裏剣か?」
     近くにいた英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)が菜々花の額を覗き込みながら唸ると、マリーゴールドは「その通りです!」と嬉しそうに頷いた。
    「今日の敵は手裏剣使いだから、菜々花も手裏剣で対抗だよ」
     これで万全だと胸を張るマリーゴールドに「ナノ!」と菜々花も片手……片羽根? を挙げて応じている。
    「戦いの場にぬいぐるみのようなものを持った女子供を連れ込むとは」
    「見た目で判断してはいけないものよ」
     嘆息する剣造に忠告するアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)。
    「失礼、挨拶がまだだったわね。あなたが――手裏剣のご当地怪人?」
    「何だその頓珍漢な呼び名は!」
     アリスは何を間違えたのかよく分かっていないような表情を返した。
    「違いますってアリスさん! この人はえーと、春特有のあれというか……その、ほら、こだわりを持った人!」
     久我・なゆた(紅の流星・d14249)は微妙なフォローをする。
    「なるほど。頭の中で長い春が続いているようで何よりね」
    「そうだなァ、春は人を狂わす季節だってのはよくわかった」
    「だ、大丈夫ですよおじさん、こだわりを持つのは大事なんだって思いますから!」
    「ま、いいわ。その手裏剣最高主義、へし折りに来たから。覚悟してね」
    「ほ、ほう。そう宣言するまでの自信がある、と言う事か」
    「よう、おっさん! 話はそれくらいにしようぜ!」
     微妙に緩くなってきた空気を吹き飛ばすように午傍・猛(黄の破壊者・d25499)が叫ぶ。
     何歩か前に出て、臆面もなく指を突き付ける猛。
    「その得意の手裏剣、俺たちにも披露してくれよ。礼はたっぷりくれてやるからよ!」
    「フン。言われずともそのつもりよ」
    「ならさっさと始めようぜ……装着!」
     掛け声と共に猛がスレイヤーカードを掲げると、その体は一瞬にして黄色と黒の装甲に包まれた。
     装甲と同じ色のロケット噴射機構の付いた巨大な鎚を片手で肩に担ぐと、
    「全力で叩き潰してやるぜ!」
     猛は地を蹴り、剣造に向けて跳び込んだ。

    ●全力攻勢! 交差する刃!
     いの一番に攻撃を仕掛け、上段からの叩き付け。更に横薙ぎの一撃へと繋げていく猛。
    「ほんの挨拶代わりだったが、おっさんやるようだな!」
    「おっさんおっさんと、馴れ馴れしい男だ」
     一方の剣造、両腕を交差して己の肉体のみでそれを受け止めているように見えるが。それは否。
    「よく見て。両腕に何本もの棒手裏剣が装着されていてそれで猛の攻撃を受け流しているね。僕らはすぐ十字手裏剣を想像するけど、手裏剣はああいうと針や短刀みたいにまっすぐなタイプがあって、棒手裏剣は回転させずに直線的に相手を打つ杭のような形状で――」
     その戦いを見ながら、辰人は真剣な表情で解説する。
    「随分詳しいけど、辰人さんも手裏剣に興味が?」
    「僕の知識と実物を照らし合わせて考察しているだけだよ」
     そうなのかと聖太は少し肩を落とし、そのまま自分の手裏剣甲を見つめる。
     剣造も、アンブレイカブルという存在になる前ならばよき友になれただろうか。
     彼の主張や信念は、聖太にしてみれば他人事とは思えない。
    「だからこそ、手裏剣をただの『殺人兵器』に貶めさせる訳にはいかない!」
     意を決した聖太は猛に加勢すべく、手裏剣を投擲しながら間を詰めていく。
     相手が増えた事により、剣造は受けから避けへと柔軟に態勢を移行する。
    「意外と動けるみてぇだな。つっても、動けるのは自分だけだと思うなよおっさん!」
     猛はハンマーの推進装置に火を入れ――。
    「ふっ飛べ!!」
     聖太の手裏剣を跳躍で避けた、その隙を狙って渾身のロケットスマッシュを叩き込んだ。
    「ぬお!!」
     僅かに滑空し、だがそれでも剣造は2本の脚で地面を引き摺り、抉りながら着地した。
     態勢を崩した様子も無く、仁王立ちで猛を睨みつける。
    「良い一撃だ、小僧」
    「この程度じゃビクともしねぇってかぁ? ……おもしれぇ」
     猛の声音は、装甲の下で野獣的な笑顔になっている事を誰もが想像できるものだった。
    「小僧の実力は解った。他の輩はどうだ? 特に」
     言いながら、剣造はなゆたに視線を注いた。
    「小娘、何か格闘技をやっていそうだな」
    「やっぱりわかるものなんだね。おじさんの手裏剣の技! 久我流空手がお相手します!」
     駆けるなゆたに容赦無く打たれる複数の手裏剣。
     だがそれを腕に装備した殲術道具でいなし、弾き、勢いを殺さぬまま接敵する。
    「私の蹴り、受けてみろ!」
     跳躍し、エアシューズによる蹴りを見舞わせる。
     なゆたのスターゲイザーを腕を立てた形で防御する剣造。
    「鋭い蹴りだ。だが鋭さは手裏剣には敵わぬ!」
    「うわっと!」
     即座の反撃に、防御を固めながら距離を取るなゆた。
    「いたた……少しもらっちゃった」
    「菜々花、回復お願い!」
     すかさずマリーゴールドが菜々花と力を合わせ、なゆたを始めとした傷を負った仲間たちの回復に取り掛かる。
    「なゆたちゃんはこれ以上やらせねェよ?」
     隙を狙われないよう風は除霊結界を展開し、少しでも時間を稼ぐ。
     風のライドキャリバーである炎型のパーツが特徴的なサラマンダーも、周囲の味方に被害が広がらないように警戒と牽制を行っている。
    「ありがとうございます、風さん。菜々花も!」
    「ああいうおっさんに目ェ付けられると厄介だからなァ。その役目くらいは俺らがやってやんよ」
     癒してくれた菜々花の頭をぽふぽふ撫でる。
     比較的損害が軽微である事を確認すると、風は接近戦を挑むべく緩慢な、しかし堂々たる足運びで剣造へと近付いた。
    「でも正直なところ、こうして目の当たりにしても手裏剣のサイキックってちょっと微妙って思います」
     ふと、マリーゴールドがそんな事を呟いた。
    「「!?」」
     戦場の約2名がびくりと肩を震わせた。
    「ロマンじゃ戦いは生き残れないんです、手裏剣愛があるならもう少し使える技を開発してください!」
    「マリーゴールドさん、それは――」
    「貴様ァ! 手裏剣を愚弄するかァ!!」
     マリーゴールド、そして菜々花の指摘は悲しいかな、武蔵坂学園の殲術道具とサイキックという枠に当てはめれば間違いではないのだ。
     しかし世の中、理論や理屈のみで語るには足らないものもあるのもまた事実。
     怒りに任せた複数の爆裂手裏剣をマリーゴールドを中心に投げ付けた。
    「気持ちは痛い程理解できるよ」
     が、それらは彼女たちに届く前に爆散した。
    「だが、私怨で手裏剣を投げては駄目だ」
     聖太が自らを盾にし、同じく爆裂手裏剣を投げていたのだ。
    「知ったような口を!」
    「知っているからだ!」
    「むう!?」
     幾つもの爆裂手裏剣が剣造の周囲で爆炎を上げる。
    「武器に拘りがあるっつーのはオレも分かるな」
     炎の間を縫い、鴇臣は槍を振り回しながら剣造との間合いを縮めていく。
    「そういうのを上手く使いこなせるのはカッコイイと思うぜ。ただ、それを間違った方向に伸ばしちまうのはよくねぇけどな」
    「何を間違えたものか!」
    「頑固だよなぁ。ま、突き抜けるならとことん突き抜けないとな!」
     至近距離にもかかわらず手裏剣の投擲で鴇臣を狙い、それを槍で弾き飛ばしながら、幾つかは捌き切れず頬や胴体を掠めながらも螺穿槍で一気に貫く。
     手応えはあるが、致命傷には至らない一撃だ。
    「そちらだけで盛り上がってないで、私たちの方も見てちょうだいな」
    「勿論狙われても大丈夫なように手裏剣のサイキックの弱点である術式に特化した装備構成で、堅牢な対策をしているけどね」
     アリスと辰人の魔法使いコンビも出来る限り前に出て徐々に剣造を包囲していく。
     かたや威力重視でかたや戦闘補助と、その相性も悪くない。
    「あなたは1つにこれと決めているようだけれど、時として多くのバリエーションを持っていた方が有利になるわ」
     様々な殲術道具とサイキックを使い分けるアリスは対極的なスタイルと言える。
    「三属性カクテル。同じ飛び道具でも、そう簡単には見切れないわよ?」
    「小癪なっ!」
     それを証明するように、まるで全方位から隙無く飛来するような錯覚さえ覚えるサイキックに苛まされている。
     反撃に飛んでくる手裏剣を上手く見極めながら、辰人は語る。
    「手裏剣は古来からあった『短刀を投擲する戦法』に特化した得物だよね。音も無く遠距離から相手を仕留める事が出来て、それは大きな優位を生み出す事もあるね。3本刃、5本刃と種類があるのも流派や飛行を安定させる為もあったりして――」
     やがて。
    「そろそろ体も温まってきた頃合いだな」
     手裏剣をばら撒きながらやや後退する剣造は、上の道着を脱ぎ去った。
    「うえ。マジかよ……」
     鴇臣は思わず顔をしかめた。
     おっさんの手裏剣鎖帷子に。
    「さすがに体を手裏剣で覆うのはどうかと……」
    「手裏剣に命掛けすぎだろ……つーかそれって皮膚切れねェの? ザクザク刺さらねェの?」
     風もまた眉間に皺を寄せている。
    「あァ、あれか。鴇臣、あいつは『そういうのがむしろイイとか言っちゃう系』だな。救えねェ……」
    「そういう系かよ。ある意味使いこなしてるけど、そりゃねぇよ」
    「コケにしおって……いいだろう。我が奥義、その身に刻み込んでくれる!」
     一拍の間、息を吐き出すと共に放たれた咆哮。
     刹那、灼滅者たちを襲ったのは無数の手裏剣だった。
    「大人気ねェなァ……でもこれはシャレになんねェか」
     サラマンダーを呼び、手近な仲間を庇わせ、自らも防御を堅める風。
     だが、聖太は何を思ったのか一行の前へと飛び出し、同じように多数の手裏剣、乱れ手裏剣を放ち始めた。
    「相殺しようってのか、乃木!」
     鴇臣の言葉に辛うじて頷く聖太。
     コントロールには自信があるが、しかしパワーが足りない。徐々に追い込まれていくのは誰の目にも明らかだった。
    「負けるものか! この闘いに、手裏剣の名誉と―――俺の魂がかかっているんだ!!」
     全ての力を出し切る覚悟があった。全ては手裏剣の為に……!
    「だったら、ここでくたばる訳にはいかねぇだろ?」
     猛の声が間近から聞こえた。
    「なっ、危険だ!」
    「さっきの言葉にグッときてね。手伝わせてもらうぜ、乃木!」
     猛は補助武装の剣を抜き、更にはハンマーを構え。
    「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!」
     飛来する手裏剣を片っ端から凄まじい勢いで叩き落としていく。
    「何て力技だよ、ったく。オレも加勢するぜ!」
    「私も、借りを返さなくてはいけませんしね!」
     鴇臣が、なゆたが。仲間たちが力を、技を合わせて手裏剣に立ち向かう。
     勢力図が反転するのも時間の問題。
    「ぐぬう、小僧どもが何人こようと負けぬ。負けぬぞ!」
     だが剣造も底力を見せ、均衡は中々崩れない。
    「それにしても、何で手裏剣なんです? 忍者でもないのに……実はニンジャ?」
     本当に唐突に、そして今更ながらマリーゴールドが疑問を口にした。
    「だから忍者ではないとォ! ……あっ」
     迂闊。
     ツッコミで一瞬力を緩めてしまったのか。
     剣造は灼滅者たちの攻撃の波に飲み込まれていった。
     やったのか?
     衝撃が起こした砂煙が晴れると……。
    「これは!?」
     逃走の警戒にあたっていた辰人とアリスが膝を付き、その包囲の外に剣造がいた。
     手裏剣を持たない拳を突き出した体勢で。
    「あー! 手裏剣以外の技ー!」
    「逃げんのか! アンブレイカブルなら拳で戦えよ!」
     なゆたの大袈裟なアピールの通り、攻撃を受ける寸前で脱出し鋼鉄拳を使って包囲を突破したのだろう。
     鴇臣も叫ぶが、
    「許せん……咄嗟に手裏剣を捨てたこの身が……許せん!」
    「お前……」
    「我が極地、手裏剣との一体化への道は遠いと知った。それは僥倖」
     だが、と剣造は聖太を睨みつけた。
    「強力な手裏剣使い。貴様はいつかこの手で!」

     戦いが終わり、一行は散乱した手裏剣の片付けに追われていた。
    「あいつ手裏剣と一体化って言ってる意味わかんねーんだけど正気? マジで正気なの?」
    「あの目はマジだったぜ」
     風と猛はげんなりしながら手裏剣を拾う。
    「……結局、今回の事は、やっぱり手裏剣じゃダメかもって結論なんでしょうか」
    「追い詰められていたのは確かね」
    「最初から拳で戦われていたら、少しぞっとするね」
     マリーゴールドの言葉にアリスと辰人が応える。
    「でも手裏剣って忍者の技でもほんの一部の技ですよね……また新たな技とか覚えてきたりして?」
    「そんな事言うとまた『忍者じゃない』って怒られるぞ。まぁ、そうだなぁ……どっかでまた戦うことがあるかもしれねぇしな」
     小首を傾げるなゆたに鴇臣が苦笑する。
    「また、か」
     聖太にはまだ切り札が残っていた。使う隙を見切れなかったというのもあるが……同時に、今使うべきではないともどこかで思っていたのかもしれない。
     ともあれ、撃退に成功した灼滅者たちは学園へ帰る事にした。
     きちんとグラウンド整備をしてから。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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