カラクリ迷宮・アンダーグラウンド!

    作者:志稲愛海

    ●AM2:00頃 すすきの駅
     ――暗闇に包まれた地下の空間に、変化が起こった。
     ぐにゃりと漆黒の闇が歪み、狭いトンネル世界の輪郭がぼやけ始める。
     そして置き換えられた風景は……西洋風の城のものであった。
     いや、西洋の城にあるような、地下迷宮といった方が正しいか。
     元の地下鉄のトンネルとは様相の異なる、石畳の床。
     同じく石造りの壁には、仄かに灯る松明の炎。
     そして、揺れる炎の光が作り出す幾つもの影は、徘徊するスケルトン兵達のもの。
     ダンジョン内の仕掛けを突破し、進みゆく道のその先。
     迷宮の最奥で待っているのは――。
     
    ●武蔵坂学園 教室
    「ダンジョン攻略って聞いたら、なんかちょっとワクワクするよねー」
     飛鳥井・遥河(高校生エクスブレイン・dn0040)はそう笑みながら、集まってくれてありがとーと、集まった灼滅者達に笑んだ後。今回察知した未来予測を語り始める。
    「今回はね、木菟の推理通り、また深夜の札幌の地下鉄でダンジョン化している場所が発見されたんだ。ダンジョン化するのは、札幌市営地下鉄の南北線・すすきの駅から大通駅の間だよ。終電から始発までの深夜だから、今はまだ被害は出てないけど……放置すると、大変なことになるかもしれないから。ダンジョンの攻略を、お願いしたいんだ」
     錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が発見した、札幌の地下鉄のダンジョン化。
     すすきの駅と大通駅の間もまた、同じ様にダンジョン化していることが、阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)の推理によって発覚したという。
     
    「このダンジョンはね、西洋の城にある地下迷宮……っていう雰囲気の、石畳のダンジョンだよ。ダンジョン内には西洋風な武装をしたスケルトンたちが徘徊してて、仕掛けとかも多少あるみたい」
    「仕掛け……忍者屋敷のカラクリようなものでござるか?」
    「うんうん。でもまぁ、仕掛けといっても、直接灼滅者のみんなにダメージを負わせるようなものじゃないんだけど。ただ、ダンジョン化するのは、深夜2時から始発が動き出す5時頃までだから。時間はたくさんあるとはいえ、あまりにも極端に攻略に時間かかりすぎたら、ダンジョン攻略する前に時間切れになっちゃうかもだし。徘徊しているスケルトン系アンデッドに、奇襲されたり囲まれたりする隙を与えちゃう可能性もあるかもしれないね」
     注意深く探索すれば、直接的な障害にはならない程度の仕掛けが多少あるらしいが、油断は禁物。
     それに全く無視して進んでいると、進む道を見つけるまでに少し時間を要してしまうかもしれない。
     それなりに注意しつつも、色々試しながら進んでみて欲しい。
    「迷宮を徘徊しているスケルトンは、40体くらいいるよ。バトルオーラを纏ったスケルトンとウロボロスブレイドを持ってるスケルトンが半々ずつくらいいて、数体ずつ群れになって動き回ってるみたい。ダンジョン内を徘徊してるアンデッドたちは、大した強さじゃないんだけど……ダンジョンの最奥にいる、ボスっぽい大きめのスケルトン1体は、他のアンデッドより強いんだ。腕力があって体力も高く、バトルオーラと無敵斬艦刀を得物としていて、鋼鉄拳みたいな超硬度の拳で殴りかかってきたりもするみたい。いわゆる、脳筋っぽい感じ?」
    「ノーライフキングのダンジョンなだけにノーキン、でござるか」
     事件の詳細を聞き、ふむふむと頷きつつも、遥河の振りに応える木菟。
     そんな木菟や皆を見回しながら、遥河は付け加える。
    「ダンジョン内の仕掛けって聞くとドキドキするけど、慎重に色々試しながら進んでみてね」
     スケルトン兵達の動向に注意しつつも、知力・体力・時の運を駆使して、ボスを撃破しダンジョンを攻略して欲しい。
    「この現象が自然現象なのか、ノーライフキングの実験のようなものなのかは判らないんだけどさ……ノーライフキングのダンジョンの一部と地下鉄が繋がりかけている可能性が高い状況でね。このままだと地下鉄全てがノーライフキングのダンジョンと融合してしまう危険性があるから。深夜の地下ダンジョンの攻略を、お願いするね」
     遥河は改めてそうお願いして。
     ダンジョンへといざ向かう灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)
    東谷・円(ルーンアルクス・d02468)
    フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)
    照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)
    黎・葉琳(ヒロイックエピローグ・d33291)

    ■リプレイ

    ●達成LV「??」
     草木も眠る、深夜2時。
     此処は、終電を迎えた地下鉄トンネル内――の、はずだが。
    「地下の迷宮……なんだかわくわくするわね」
     黎・葉琳(ヒロイックエピローグ・d33291)が立つこの場は、石畳の敷かれた西洋風ダンジョンであった。
     これまでも、幾つもの迷宮が発見されている地。
     そう!
    (「ほっかいどうがぶっそうだー!」)
     北海道はでっかいどう! ならぬ、北海道が物騒だ!
     オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)は、そんなでっかいどう的なノリながらも。
     デジカメで周囲を撮影しつつ、リデルを先行させながら首を傾ける。
    「迷宮の話はいっぱい聞いてたけど、何をしようとしてるのかなー」
    「誰が何の目的で作ったダンジョンなんだろう……。奥にお宝とかあるのかな?」
     なにかわかるといいなーと呟くオリキアの隣で、影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)も淡々と地下迷宮を見回した。
     今宵ダンジョンに挑むは、武蔵坂学園の8人編成のパーティー。
    「松明で明るい、もう何も怖くない!」
     炎に照る石畳の迷宮を恐る恐る進むのは、照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)。
     べ、別にお化けが怖いわけじゃないですよ!?
     逆に物怖じせず、クールなレディーの物腰を崩さずに、興味深く迷宮内を見回す葉琳。
     そして、踏破した道を記録するべく。
    「迷宮といえば迷いながら行くのが醍醐味だけど、今回は一応時間制限もあるし」
     マッピングを楽しませてもらおうか、と、紙にペンを走らせる東谷・円(ルーンアルクス・d02468)。
     マップ作成も、ダンジョン攻略の醍醐味のひとつですから!
     スーパーGPSを併用し現在地を把握しながらも、慎重に奥へと向かう灼滅者達。
     フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)は敵の不意打ちに合わぬよう、曲がり角の先の気配を探って。敵の気配がないと分かれば、リアンも尻尾をふりふり、軽快にダンジョンを進んでゆく。
     勿論注意するのは、前後だけではありません。
    「ふっふっふ……ボク、ニンジャみたい! ニンニン!」
     壁歩きのスキルをニンニンと駆使するオリキア。頭上や壁への警戒も怠らないでござる!
     このように注意深く進んでいた為、これまで奇襲されることなく、難無く数体の敵を蹴散らしてきた灼滅者達。
     だが未来予測によると、迷宮内には40体ものスケルトンが徘徊しているという。
    (「闇の眷族共を放っておくのは我慢ならないが……時間も体力も限りがある、全ては相手できない」)
     歯がゆいな、もっと力があれば――と。伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)は敵の撃破数を記録しつつ、そう竜退治の勲章を握り締めるも。携える白と黒の刃で、宿敵の目論見を砕かんと、迷宮の奥を見据えた。

     ダンジョン内はまさに、カラクリ迷宮。
     行き止まりにぶつかっては、どんでんがえしの壁の仕掛け扉を見つけ、くぐって。
     少し広めの部屋に差し掛かった、その時。
    「この部屋、少し暗いね……」
     瑞葉は不気味な部屋の雰囲気に、思わず顔を強張らせて。
    「……あ、ちょっと待ってください」
     戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)がふと、懐中電灯の光で室内を照らしてみれば。
    「何かキラキラ光ってる?」
    「ワイヤー、ですかね」
    「止まって、リアン!」
     張り巡らされていたのは、罠であろう数本のワイヤー。
     フルールは先行するリアンを止め、室内の様子を窺ってみるも。
     どうやらこれを避けて通ることは不可能のようである。
     そこで、満を持して一歩前へと出たのは、黎嚇。
    「ふふふ、お任せ下さい先輩方。ダンジョン攻略は二度目ですので、この伐龍院にかかればこの程度の罠など造作もありません」
     そう力強く彼が掲げたのは、1m超の棒!
     予知によれば、灼滅者達にダメージを負わせるような罠はないらしいが。
     念のため、ちょいちょいと棒でワイヤーを突いてみる。
     他の皆も万一の敵の襲撃に備え、臨戦態勢を取って。
     闇の中で何かが動いたと――思った、瞬間。
    「……これは?」
     ガシャリ、長身で手足が長い死愚魔が咄嗟に受け止めたもの。それは――。
    「ガ、ガイコツ!?」
     覗きこんだ瑞葉は、思わず青ざめる。
     しかしこれは、本物の骸骨ではなく。
    「軽い……中は空洞かな」
     どこか気だるげな口調ながらも呟いた死愚魔の言う様に、軽量な鋼鉄素材の偽物。
     でも。
    「これがもし石畳の床に落ちていたら、かなり大きな音がしていたわね」
    「スケルトンが音を聞きつけ、ここに押し寄せたかもしれません。危ないところでした」
     葉琳の言葉に頷き、黎嚇はふうと息をついて。
     円がマップに罠の印を書き記す間、オリキアが壁を伝い、もう一度天井をチェックした後。
     ワイヤーを断ち、蔵乃祐は懐中電灯で周囲を照らしながらも、再び仲間達と歩き出す。

    ●カラクリトラップ
    「こんなに敵がいるんじゃ埒が明かないわね……」 
     刹那、葉琳が召喚するのは、影の槍兵達。
     円の弓から放たれた注射針が、スケルトンを的確に射抜いて。
     蔵乃祐の凍てつく程の死の魔法や、死愚魔の放つ鞭剣の斬撃が、雑魚の頭数を減らしていく。
     迷宮を進み、再び広めの部屋に出た灼滅者だったが。
     そこで待ち受けていたのは、15体のスケルトン兵であったのだ。
     できればボスまで極力戦闘は避けたかったが……回避できなければ、速攻で倒すまで。
     オリキアとリデル、フルールとリアンが、それぞれ息の合った衝撃を敵へと見舞えば。
     黎嚇の生み出した眩き光条が、仲間には癒しを、闇の眷属には裁きを与えて。
     瑞葉の赤き蝋燭の炎が花を咲かせた瞬間、スケルトン兵を吹き飛ばす。
     そして。
    「……っ!?」
     壁に跳ね返ってきたスケルトンの頭に、思わず声にならない悲鳴を。
     いえ、こ、怖くないですから!
     敵の数は少し多かったものの。警戒していた灼滅者達にとって、この部屋のスケルトン兵を蹴散らすのはそう難しくはなかった。
     敵を倒すことは、容易かった……のであるが。
    「ゲームだとダンジョン内に宝箱とか普通に設置されてるケドさ、アレ誰が置いてるんだろーね?」
     冷静に考えると怪しすぎて自分だったら絶対無視して行くと思うわ……と。
     そう呟く円の視線の先には――いかにも怪しげな、大小2つの宝箱が。
    「大きい宝箱と小さい宝箱……?」
     迷宮にはつきものの宝箱に、フルールは興味深げに視線を向けて。
     試しに黎嚇が棒で突くも、反応はない。
     でも。
    「あからさまに怪しいから、無視したほうがいいかな」
    「君子危うきに近寄らずです……」
    「触れない方がいいかもしれないわ」
     瑞葉や蔵乃祐の言葉に、葉琳も頷いて。
     お宝が入っていそうならともかく、何だか胡散臭い宝箱。死愚魔も皆の意向に沿い、リデルを再び先行させ先を急ぐオリキア。
     円は一応マップに先程の宝箱の印をつけ、その後もいくつもの曲がり角を地図に書き込んでいきながら。
    「そろそろ、迷宮の最奥かもしれない」
     ふと地図を眺め、呟く。
     そしてスケルトンの群れがいないか、慎重に確認して。再びぶつかった行き止まりで見つけた回転扉の向こう側を、そっと覗いてみる。
     その先は――何もない広い部屋。さらに、行き止まりであった。
     きっとここにもカラクリがあるのだろう。
     これまでと同じ様に、皆で仕掛けを探しはじめる灼滅者達。
     そして、慎重に探索しながらも。
     阿佐ヶ谷水晶城や蒼の王の残党の地下迷宮、白の王の白炎換界陣など……これまでのノーラインフキング関連の事件を思い返してみる蔵乃祐であったが。
    「なかなか仕掛け、見つからないね」
    「!」
     そんな聞こえてきた仲間の言葉に、今だ! と。
     満を持して、キリッと言い放つ!
    「スケルトンだけに、骨が折れる仕事とはこの事ですね」
     ええ、骨が折れますよね、スケルトンだけに!
    (「フッ。完璧に決まったな……!」)
     そうチラッチラッと、どや顔で仲間を見遣る蔵乃祐。
     だが……その時だった。

     ――カチッ。

    「……カチッ?」
     明らかに何かが押されたような音がして。ふと、壁に視線を戻してみれば。
    「ごめんなさいわざとじゃないんです!?!?」
     いつの間にかさり気なく埋めこまれていたスイッチを、ポチッと押しちゃっていました!?
     鬼が出るか蛇が出るかスケルトンが出るのか!?
     そう身構える灼滅者達……だったが。
    「あっ、扉?」
    「でも鍵がかかっていて、開きませんね」
     出現した扉を開けてみようにも鍵がかかっていて。しばらく扉の鍵を探すも、この部屋にはないようだ。
     今はまだ切羽詰まってはいないが……このままでは、時間切れになってしまう。
     そして何か手がかりがあればと、これまでマッピングしてきた地図を改めて眺めてみた円は。
    「……もしかして、あの宝箱か?」
     先程スルーした宝箱の存在を思い出して。
    「棒で突いた時は反応ありませんでしたが、やはり開けてみるべきでしょうか」
    「いかにも罠っぽいけれどね……」
     うーんと思案する、黎嚇と葉琳。
    「宝箱はふたつあったけれど……どちらかに鍵が入っているのかな?」
    「とりあえず、行ってみようー」
     ふと首を傾け呟いた死愚魔に、オリキアはリデルを再び先行させつつ頷いて。
    「も、戻るの?」
     青い顔で怯える瑞葉に、蔵乃祐はすかさず懲りずに続ける。
     本当に骨が折れますね、スケルトンだけに……と。
     そしてこれまでと同じく慎重に宝箱の部屋に戻った灼滅者達は、ふたつの宝箱と睨めっこ。
     でも、見ているだけでは埒があかないから。
    「豪華そうだから、大きい宝箱を」
    「開けてみるわね!」
     楽しげながらも、注意深くゆっくりと、大きい方の宝箱にそっと触れるフルール。これまで優雅な様子を崩さず探索していた葉琳も、興味深げに宝箱の蓋を思い切って開けてみれば。
     中には――1本の、鍵が。
     だが、次の瞬間。
    「!!」
     甲高く鳴り響く警笛。
     同時に、それを聞きつけたスケルトンの群れが現われる。
     しかし罠に備え、あらかじめ身構えていた灼滅者達の敵ではなく。
    「あ、この鍵、扉に合いました」
    「念のため、少し休んでから奥に進もう」
     無事に鍵を入手し、扉の鍵を解除した8人の灼滅者達は。
     遂に……迷宮の最奥へと、足を踏み入れる。

    ●BGMも重厚な感じで
     心霊手術を終え、鍵を開けた扉の先には――いかにも「ボスがいます!」風な広い部屋が。
     そして。
    『ついにここまで来たか勇者よ。だがここで死ぬがよいっ!』
     ……などと、いかにも言いそうな、巨大なスケルトンが1体。
     そう、ここは迷宮の最奥。
     このボススケルトンを倒せば、ダンジョンクリアである!
    「さて、わざわざ迷宮をぬけてココまで来たんだから、精々歓迎してくれよ?」
     ダンジョン攻略は、やはり楽しんでなんぼ!
     ぐっと円が番えた宿り木の弓から放たれるは、意思を貫く芽吹きの如き一矢。解き放たれし鋭利な針は毒を帯び、ボスの巨体に突き刺さって。
     鉄重石の意をもつ、継ぎ接ぎだらけのローブを靡かせながら。蔵乃祐がラストダンジョンの天に紡ぐ魔法は、相手に死を与える氷の衝撃。
     さすがに道中の敵とは違い、灼滅者達の攻撃に、呻きながらも豪腕をふるってくるボスであるが。
     脳筋なその動きや得物を少しでも封じるべく、オリキアの成した結界とリデルの霊撃が、同時に迸れば。
    「ゲームとかなら、このボス倒したらお宝とかもらえそうだけど……。まぁ期待はできないかな」
     さらにオリキアと連携をはかり動いた死愚魔が伸ばしたのは、虚の影。
     死への恐怖が具現化したかの如き漆黒の骸骨が、スケルトンを喰らわんとその牙を剥いて。
    「皆を癒すよ、リアン!」
     無敵斬艦刀を振り回してきたボスの強打も、フルールの飛ばす守りの護符やリアンの浄霊眼が、すぐさまダメージを軽減させる。
     そして炸裂するのは――会心の一撃!!
    「怖かったんだからなぁ!!」
    『! がはっ、があぁッ』
     これまで怖かったことに対する復讐という名の、八つ当たり!?
     敵もちょっぴり戸惑ってしまいそうなほどの勢いで、瑞葉の放つ拳の連打がボスへと叩き込まれて。
    「貴様ら邪悪の好きにはさせん。弱き者の盾として、邪悪を斬り裂く剣として」
     天に掲げし白き矜持の刃に破邪の煌きを宿し、黎嚇は邪悪へと、その十字架の片割れを振り下ろす。
     ――龍殺しの伐龍院の名において、裁きを下す、と。
     だがスケルトンは、猛攻を浴びながらも、今度は纏めて灼滅者達へと、断ち割るかの如き斬撃を見舞ってくる。
     しかしすかさず返されるは、螺旋の軌道を描く鋭利な衝撃。
    「小さくたって、一騎当千。甘く見ないでよね!」
     お団子髪に結わえたリボンを靡かせながら狙い澄まされた、葉琳の鋭い一撃が敵を穿てば。
    「おーい大丈夫か」
     咄嗟に身を呈し仲間を庇ったオリキアへと、癒しの一矢を番える円。
     そして仲間を癒し戦線を支えつつも、幻想の種子を開花させるかの如く、淡き白光の花弁を通す帯を戦場に広げる。
     確かにダンジョン攻略は骨が折れるし、これは迷宮のひとつにすぎないかもしれないけれど。
    「まあ、確かに尻尾切りに過ぎないかもですが、一般人の不要な被害は防げます」
     蔵乃祐は半獣化させた腕をふるい、鋭い爪で銀色の衝撃を繰り出す。
    「丸っきり骨折り損のくたびれ儲けというわけでもありませんよ。実際ね」
     そして静かな北欧の森のような、透き通ったお揃いのアクアマリンの髪を揺らしながら。
    「ボスを倒してダンジョン攻略するよー!」
     オリキアの影が花を咲かせた刹那、敵を喰らうベく伸びて。ケープを靡かせたリデルの霊障波が放たれれば。
     次にスケルトンを飲み込まんと模られる影は、死の象徴。死愚魔の影が再び虚の影法師となり、敵を覆い尽くして。
     まるでそれは緋牡丹の如し。大きく上体を揺らすスケルトンへと、瑞葉の怪談蝋燭の炎が見舞われて。
     ダンジョン攻略も、宿敵や竜を討伐すべき時の為の糧。
    「力無き者の為に捧げると誓った身だ。覚悟は出来ている、証明してみせよう」
     モノトーンのコートを翻し、黎嚇が仲間を癒す光条を解き放てば。
     さらに、蒐集した古の英雄をその身に宿して。葉琳が撃ち出した冷気のつららが、ボスの身を貫く。
     そんな灼滅者達の猛攻に揺らぎつつ、スケルトンは尚も攻撃を仕掛けてくるも。
     敵をかく乱するように戦場を駆けるリアンと、呼吸を合わせて。
    「裁きの光条よ。この者に審判を下せッ!」
     フルールが生み出した裁きの光が、戦場を包み込んだ刹那。
    『ぐあぁ……ああッ!!』
     悪しきものを見事、撃ち滅ぼす。
     そして同時に――ぐにゃりと、石畳のダンジョンの風景が歪んで。
     殺風景に戻った地下鉄のトンネルを抜ければ。
    「根城が崩れる前におさらばしますかね……あー朝日が眩しい」
     灼滅者達を迎えたのは、朝を告げる、太陽の光であった。

     すすきのカラクリ迷宮――これにて無事、攻略完了!

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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