さくらんぼ揺れる美味しい庭へ

    作者:春風わかな

     窓から吹き込む5月の爽やかな風が頬を撫でる。
    「來未ちゃーん!」
     久椚・來未(高校生エクスブレイン・dn0054)の姿を見つけ大きな声で名前を呼ぶのは聞き慣れた声。
     來未は声の主――星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)の姿を確認するとひらひらと小さく手を振った。
    「あのね、ユメね、いいところ見つけちゃったの!」
    「……?」
     緩慢な動作で來未は首を傾げると、目の前で一生懸命背伸びをしながら訴える小さな少女をじっと見つめる。
    「何の、話?」
    「いっしょにサクランボを食べに行こう!」

     夢羽が行こうと誘うサクランボ園では温室で大切に育てられたサクランボがちょうど食べ頃を迎えているという。
     真っ赤に熟したサクランボが60分間、好きなだけ食べることが出来る。
     目線の高さでたわわに実るサクランボをそっと摘まんで一口齧れば、口いっぱいに広がる甘い味にきっと誰もが蕩けるような笑顔を浮かべるだろう。
     もちろん、誰でも手の届く場所のおいしそうなサクランボは争奪戦必死。
     だが、温室内に置かれた脚立は自由に使ってよいとのことなので、高い場所になっているサクランボも気軽に採ることが出来る。
     ちなみに、同じ農園内の同じ品種でも、木によって味が微妙に違うらしいとのことなのであちこち食べまわって、自分の好みの味の木を探すのも楽しいかもしれない。
    「あとね、採れたてのサクランボを使ってジャムも作れるんだって!」
     温室の隣ではジャム作りの体験も可能だ。
     サクランボジャムの作り方は至って簡単。
     種と軸を取ったサクランボに砂糖とレモン汁を入れて鍋で煮詰めるだけ。
     20分ほど加熱すると、色鮮やかな赤くて美味しそうなジャムの出来上がり。
    「それでね、このジャムを使ったデザートも食べられるみたいなの!」
     お手製ジャムを添えたパンケーキやアイスクリームの他、サクランボのゼリーやタルト、ソフトクリーム等も人気だという。
    「楽しそう、ね」
     夢羽の話を聞いた來未がポツリと呟きを漏らすのを夢羽は聞き逃さない。
     えへん、と得意気に胸を張ると何度も自信たっぷりに頷く。
    「ユメね、來未ちゃんぜったい好きだと思ったの!」
     きっと、みんなも好きだよね~とニコニコと笑顔を浮かべた夢羽は他の仲間たちを誘ってくると駆けて行った。

    「……と、いうわけなの」
     夢羽は教室に集まった仲間たちに向かって、一緒にサクランボ狩りへ行こうと改めて誘いかける。
    「來未ちゃん、おたんじょうびだから。みんなといっしょにお出かけしたらぜったいうれしいと思うんだ~」

     宝石のようにキラキラと赤く輝くサクランボを満喫する美味しい午後。
     こんな誕生日も、いいかもしれない――。


    ■リプレイ

    ●扉、開ければ
     ゆっくりと扉が開き、静かに一歩を踏み出せば。
     5月の優しい風にのってふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
    「ね、紗雪ちゃん。そっちの木は甘いかな? あ、あっちの方がもっと甘そう!?」
     キラキラと輝くサクランボを前に空木は右へ左へ大はしゃぎ。
     そんな空木を必死に目で追う紗雪の世界は気づけばぐるぐる世界が回っていて。
    「た、たいへんだー!」
     慌てて駆け寄る空木に「大丈夫」と紗雪はくすりと笑みを零した。
    「ちょっと、目が回っちゃったみたいです」
     楽しそうな空木は見ているだけで嬉しいから。
     ――さぁ、いちばん美味しいサクランボを探しに行こう。

     そろり、そろり。
     歩くときは、頭上に視線を向けて、慎重に。
     虫を怖がり、なかなかサクランボを集められないシグマの姿にクレイは笑い声をあげる。
    「シグちゃん、このサクランボおいしそうだよ」
     ほら、と義兄に促されて口を開けるシグマの口にクレイがサクランボを放り込めば、甘い味にシグマの顔にも笑みが浮かんだ。
    「なんつーか、ホントこういうの久しぶりだな」
     甘く楽しい時間に二人の心はほんわりと和む。

    「おっ、アレはなんですか!」
     璃理は見慣れぬ品種に興味深々。次々手を伸ばし片っ端からサクランボを頬張った。
     もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
    「……あ、思いっきり種呑んじゃいました」
    「種は食べずにぺっ、しないとお腹の中でさくらんぼ育ちますよ」
     てへっと可愛く舌を出す璃理を優しく宇介がたしなめる。
     そんな様子をインスタントカメラに収めていた詠子がふと思い出したように顔をあげた。
    「そういえば、お二人はサクランボのへたを口の中で結べますか?」
     苦戦する璃理の隣で1個結んで見せた宇介だが、その結果が意味することは……?
     ――パシャッ。
     顔を赤らめ慌てる宇介を見て、詠子はふふっと楽しそうにシャッターを切る。

     サクランボを頬張るさちこは突然閃いた。
     エルが見守る横でさちこは口をもごもご大苦戦。
    「あー、できなーい」
     んべ、っと舌に茎を乗せてさちこ、お手上げ。そんな彼女の姿も愛らしい。
    「これはね、こう……」
     エルは口元を手で隠し、器用に茎を結ぶと掌にころんと乗せてみせる。
    「エルおにーちゃん、すごい!」
     感嘆の声をあげるさちこにエルは。
    「さちこさんが、大人になったら……」
     言いかけ、途中で言葉を飲み込んだ。
     ……だって、カミさまに怒られてしまいますから、ね。

    「あれ、もっと上の方にもあるけど採れそうにないなぁ……」
     脚立に登った夏奈は懸命に手を伸ばした。
     しかし、天井近くに実ったサクランボたちには届きそうもない。
    「よし、脚立でも届かない場所なら……」
     鐐の台詞とともに、夏奈の身体がふわりと持ち上がる。
     夏奈を肩車した鐐が脚立に登れば、先程まで届かなかった場所にも余裕で手が届いた。
    「自分で採るのもいいもんだぞ、ってな!」
    「おー、これなら採り放題だねー♪」
     カゴの中に次々と放り込まれる赤い宝石のようなサクランボが日差しを浴びてキラキラと輝く。

    「あ、勇騎。見て、四つ子のサクランボ」
     ほら、と差し出す里桜が願うのは勇騎の幸せ。
    「四葉のクローバーとはちょっと違うけど……良かったら、貰ってくれないか?」
    「嬉しいけど……一緒に食おうぜ?」
     里桜が摘まんだサクランボをじっと見つめ、勇騎はふっと表情を和らげ口を開いた。
    「幸せを願うなら、一緒じゃないと、意味がねぇしな」
     里桜と勇騎、二人で半仲良く分こ。
     甘い幸せな時間は今、二人だけのもの。

    「お、これイイ艶してやがる」
     とっておきのサクランボを差し出す錠の瞳も負けないくらいキラキラで。
     自分だけが知っていることに嬉しくて結理の顔に笑みが浮かぶ。
    「ユウリ、今日の想い出に記念撮影しようぜ!」
    「ん? 写真、いいけど……」
     両側から2人で食べ合うポーズはちょっと恥ずかしくて。
     頬を染める結理が映った写真は錠の宝物。
    「……ジョー、今日はありがと」
     そっと囁く結理に錠はこの日一番の笑顔を返した。

    「うわぁ……!」
     錬の肩に乗った陽菜が太陽の光を浴びて輝く赤い実を見つめ嬉しそうに声をあげる。
    「錬くん、高いとこには美味しそうな実がいっぱいあるよ」
    「本当? 陽菜さん、いっぱい採って」
     うん、と頷き、陽菜は収穫したサクランボを籠の中へ。
     甘くて美味しいサクランボは二人で仲良く半分こ。
    「陽菜さん、あーん」
     お返し、と手を伸ばす錬に陽菜は頬を染めて小さく口を開ける。
     一緒に食べれば美味しさも、想い出も2倍だから。
     特別な甘い時間に二人はそっと身を委ねた。

    ●サクランボ、煌めく
    「木になっているものを好きに採って……なんだか不思議な感じですね」
     弾む心を抑えながら、葎はウキウキと楽しそうにサクランボへ手を伸ばす。
     上の方の熟した実を採るのは背の高い結城と信彦の役目。
    「三つ子やら四つ子やらのレアもんはやっぱりゲットしたいよなぁ」
     信彦は甘い香りが漂う実を見つけるたびに、小3トリオへ差し出した。
    「あ、アリス。これなんかもおいしそうですわよ?」
     あーん、とサクランボを頬張るアリスを見つめ、ハチミツはふふ、と微笑みを浮かべる。
    「アリスちゃん、こっちも美味しそうなのです」
     詞水が差し出したサクランボをパクリと齧るとこれもまた甘くて。
     アリスは幸せが溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
    「普段食べないけどこれは案外癖になるわね」
    「ふふ、幾らでも食べれそう、ですね」
     満足そうな月子に葎が幸せそうな笑みを浮かべて頷く傍らで、アリスは美味しそうなサクランボを一生懸命に探す。
    「貰ってばかりじゃ、ごめんなさいなので……」
     アリスは懸命に背伸びをしながら自信の一粒をあーん、と結城に差し出した。
    「ありがとうございますね。やはり旬ですから、美味しいですね」
     にこやかに礼を述べる結城にアリスは嬉しそうな表情を見せる。
     そんな楽しげな仲間たちの様子を一歩離れたところで写真に収める優希の元へと詞水がタタッと駆け寄った。
    「優希先輩、あーん」
     背伸びをしながら差し出されたサクランボを食べる優希の姿を見て、パシャリと月子がシャッターを切る。
    「優希は写真に専念? サクランボ狩りは?」
    「……あぁ、忘れていたかもしれない」
     苦く笑ってごまかす優希に月子はパチリとウィンクを一つ。
    「大丈夫、まだ時間はあるわよ!」

    「あ、月子さんだ♪」
     にこにこと手を振るさやかに「どうぞ」と隆也が差し出したサクランボは高い位置に実っていたもの。
    「これ、甘いよ……」
    「ほんとだ! すっごく甘いね♪」
    「隆也くんは背が高いから、高いところ届くのいいなぁ!」
     私も、とごそごそと脚立を取り出す灯倭を見て、吉篠は慌てて声をかけた。
    「それ乗る時は気をつけろよ。足滑らせないようにな?」
    「わかってるよ、しのちゃん!」
    「あ、灯倭、危ない、……」
     ぐらつく脚立が心配で隆也も見ていられず慌てて手を出すが、そんな二人の心配をよそに、灯倭は楽しそうに味見をしながら美味しいサクランボを探す。
    「ね、さやかちゃん、これ美味しいよ!」
     はい、と灯倭が差し出すサクランボは双子さん。
     片割れをパクリと食べたさやかの頬がふにゃんと緩んだ。
    「えへへ、とっても美味しいね♪」
     幸せそうにサクランボを頬張る灯倭たちの傍ら、吉篠はハート型のサクランボに手を伸ばす。
    「お、ちょっと可愛いの見っけ」
    「わぁ、それ可愛いー! 写真撮っていい?」
     写真を撮って、また食べて。
     【Une Rencontre】の仲間たちの笑い声が温室に響いた。 

     春翔に採って貰ったサクランボを抱えてご機嫌な奏恵とは対照的に、律花はむっと口を尖らせる。
    「春翔ばっかり奏恵に頼られるのズルいわ」
    「そう争わなくても……サクランボは逃げないからな?」
     脚立に登って懸命に手を伸ばす律花に苦笑を浮かべ、春翔はそっと脚立に手を添える。
    「見てください、頑張ったのでたくさん採れました!」
     嬉しそうに大漁のサクランボを見せる翡翠に奏恵たちも笑顔で籠を掲げた。
    「私もたくさん採れたー。ね、來未ちゃんたちにもあげてこよっか」
     奏恵の提案に翡翠はにっこりと頷いて。
    「あ、この双子さん達はお二人で分けてくださいね」
     どうぞ、と翡翠が律花に差し出したのは可愛いらしい双子さんのサクランボ。
    「これは……」
     驚いて律花を見下ろす春翔の口元に律花はズイっとサクランボを差し出すが。
    「翡翠ちゃんからのご指名よ?」
     春翔と目が合うと律花はパッと視線を逸らす。
     苦笑交じりに春翔が口に含んだサクランボは今までのどれよりも甘い気がした。

     新緑が広がる世界に幾つも浮かぶ赤い宝石たち。
     いつにもまして真剣な眼差しで極上の一粒を探す紗月の口に恵理が艶やかな実をそっと含ませる。
    「如何ですか、紗月。木々の囁きに耳を傾け、選んだ一粒は」
    「美味しいです! さすがは恵理先輩……ボクも……」
     えぃっと気合を入れて飛びあがりサクランボを掴もうとする紗月に恵理はふふっと笑みを漏らした。

    「あ、來未ちゃん、見ーつけた!」
     奏恵の声にサクランボを頬張る手を止め、來未はちょこんと頭を下げる。
    「來未さん、お誕生日おめでとうございます」
    「ありがとう」
     翡翠にぺこりと頭を下げる來未の傍らで、奏恵は夢羽に収穫したサクランボを見せた。
    「ね、夢羽ちゃん、見てみて! 高いトコの取って貰ったから一緒に食べよ!」
    「わーい! 高いトコのは甘いかな?」
     せーの、と二人一緒にサクランボをパクリ。
     夢羽と奏恵は顔を見合わせ同時に口を開いた。
    「「あまーい!」」
     抱えたサクランボをそっと口に含む來未に、柔らかな笑みを浮かべ恵理が告げる。
    「來未、後でジャムをお届けしますね」
     極上のサクランボで作った最高のジャムは、きっと甘く幸せな味。
    「ジャムに合う、お奨めの紅茶も、教えて」
     小さな声で呟く來未の傍らで、あ! と紗月が声をあげた。
    「忘れるところでした!」
     じゃん、と紗月が取り出したのはカメラ。
    「今日の日を皆さんと撮りたくって。星咲さんも、是非っ」
    「はーい!、おじゃましまーす!」
     來未を囲み、紗月と、恵理と手前に夢羽。
     カシャリ、とシャッターの音が幸せな時間を切り取った。

    ●それは、甘くて特別な
    「めっちゃうめージャム、作ってやろうぜ」
     張り切る嵐は軸と種を取ったサクランボたちを鍋の中へ。
    「……ん?」
     器用に種を取っていた嵐が手を休めて首を傾げる。
    「何かサクランボ、数がさっきよりも減ってねーか?」
    「え? 量が減ってる? そうかー?」
    「き、気のせいだよ嵐ちゃん」
     にこにこ視線を逸らす赤音の口も、慌ててぱたぱたと手を振るましろのほっぺも、もぐもぐ、もごもご。犯人がここにいることを示していた。
    「花守、……このほっぺ何だ?」
     つん、と笑いながら嵐はましろの頬を突く。
    「……まぁ、あたしもさっきつまみ食いしたけどさ」
    「えー、嵐ちゃんも食べてたのに」
    「まぁまぁ、それだけ美味しいってことだよな」
     ぷぅっと頬を膨らませるましろも赤音に宥められてすぐにご機嫌。
     美味しさをぎゅーっと煮詰めて作った特製ジャムが出来上がるまで、もう少し。

    「さくらんぼ、小さいから難しいな……」
     真剣な表情でサクランボの種を取り出すミケの手元で赤い実はぐちゃぐちゃ。
     えいっと力を込めて夕弦がぎゅっとサクランボを押せば。
     ひゅるっとどこかへ種は飛んで行った。
    「種を取るの、むずかしいです……」
    「……うーん、やっぱり苦戦するよね」
     何かコツはないかと考えるめぐるに、楓夏はこっそり摘まんだ赤い実を差し出して。
    「甘くて美味しいお裾分けですよ♪」
     いいな、美味しそうと駆け寄るミケと夕弦にも楓夏は「どうぞ♪」とサクランボを差し出した。
     軸と種をとれば、あとはぐつぐつ煮込むだけ。
    「わぁ、いい匂い……」
     蕩けるような甘い匂いに夕弦はうっとりと目を細める。
     わくわくと出来上がりを待つミケの背中をめぐるはポンと叩いた。
    「お披露目よろしくね、琴祇」
    「いいのか? 開けるぞ!」
    「ええ、じゃーんとお願いしますね♪」
     じゃーん!
     ぱかっとミケが蓋を開けた鍋の中でキラキラ輝く赤いジャム。
     見つめる少女たちの瞳も負けじとキラキラ輝いていたのだった。

    「あー、摘み食いはめ、なの!」
     こっそりサクランボに手を伸ばす健に陽桜はむぅっと頬を膨らませる。
    「羽柴ちゃん、味見は大事!」
    「そうよ、味見は美味しいものを作るのには必要なことよ。……はい、陽桜ネ」
     曜灯は種を抜いたサクランボをポンと陽桜の口に放り込んだ。
     もぐもぐ、ごっくん。
     甘いさくらんぼにふにゃっと表情を崩す陽桜の隣で曜灯はてきぱきとジャムを作る。
     ジャムが出来たら、さくらんぼのフレーバーティーを用意して。
    「久椚姉ちゃん、こっちこっち」
     健に手を引かれ來未がひょっこりと顔を出した。
    「來未おねーちゃん、おめでとーございます、なの♪」
    「ありがとう」
     会釈をする來未の前に陽桜は嬉しそうに祝いの品を並べる。
     甘酸っぱいさくらんぼの紅茶に出来立てのジャム。
     砂糖をまぶしたレモンはアイスティに添えて。
    「みんな、準備いいか……かんぱーい!」
     ――誕生日、おめでとう!
     キラリと煌めく甘い幸せとともにカチャンとグラスが鳴った。

    ●美味しい時間へご招待
    「こんだけ並んでると壮観だな」
     テーブルいっぱいにこれでもかと並ぶデザートに千尋は満足気に頷いた。
     そんな千尋の正面でスプーンを握り締めた千佳は真剣な眼差しでパフェを見つめる。
     どこから食べるか……悩む千佳に緊張が走った。
    「アイスがとけます! ちひろさん! そっち側を攻めてください!」
     何っ!? と千尋がアイスをパンケーキの上にお引越し。
     ジャムとアイスの絶妙なハーモニーに千尋は幸せそうな笑みを浮かべる、が。
    「おい、パフェ全然減ってねぇぞ」
    「わたしは、今、左舷のアイスを……あぁっ、たれる!!」
     店内に悲痛な千佳の声が響き渡った。

     チェリーアイスとパンケーキ。
     悟と想希、二人で仲良く半分こすれば美味しさも二倍。
    「想希、あーん」
     とろりと滑らかなアイスの舌触りに想希は幸せそうに目を細める。
     お返し、と今度は想希がパンケーキを差し出して。
    「悟、あーん?」
     ふわふわパンケーキに悟はパクリと齧り付いた。
    「なぁ、想希」
     悟はコツンと想希と額を合わせ、嬉しそうに口を開く。
    「今日の想希もきらきらや」
    「悟も――ね」
     ふふ、と笑みを零し想希は悟の手に指を絡めた。
     宝石のように輝く今日という日を、貴方と一緒に過ごせる幸せを胸に。

    「任せて! ボクが腕によりをかけてケーキを作るよ!」
     料理上手な闇子のお手製ケーキやタルトがテーブルを彩る。
    「ささ、ふーっと吹き消すといいべ♪」
     巨大なケーキに並ぶ蝋燭は16本。紅華に促され、來未はふっと蝋燭に息を吹きかけた。
    「誕生日おめでとーな!」
     ぱちぱちと笑顔で拍手を送る紅華の傍らで、夢羽も嬉しそうに手を叩く。
     闇子が手際よく切り分けたケーキを一口頬張り、來未はぽつりと呟いた。
    「美味しい」
    「ねー、ユメいっぱい食べれちゃう!」
     來未と夢羽に褒められ、闇子も嬉しそう。
    「それと、これもプレゼントだべ」
     紅華が差し出した包みの中から出てきたのは、温かそうなサクランボ色の手袋。
    「お。久椚、これやるよ」
     千尋から貰ったさくらんぼ飴を珍しそうに見つめる來未に、千佳は手作りバースデーカードを差し出して。
    「久椚さん、おいしいを満喫できましたか?」
     プレゼントを抱えてこくりと頷く來未を見つめ、千佳はよかったですと微笑んだ。

     甘くて楽しい幸せな誕生日。
     素敵な想い出をくれた、今日という日を一緒に過ごした全ての人に。
     ――どうもありがとう。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月4日
    難度:簡単
    参加:51人
    結果:成功!
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