運動会2015~九方向に綱を引け!

    作者:三ノ木咲紀

     風薫る五月。
     毎年恒例運動会が、今年も開催される。
     九つの組連合が互いに得点を競い合い、優勝を争う。
     戦いを忘れた非日常に、灼滅者達は生徒として、様々な競技で汗を流すのだ。
     決戦は五月三十一日。
     優勝を目指す戦いは、既に始まっていた。


    「……という訳で、ここでは綱引きの説明をさせて貰おう思うてます!」
     くるみはぺこりと頭を下げると、黒板に九本の線を描いた。
     線は放射状に描かれ、中央にはナノナノ型のマグネット。線の先端には、1A梅から9I薔薇まで、時計回りに書かれている。
     その綱引きというには妙な絵に、葵は嫌な予感とばかりに眉をひそめた。
    「くるみさん。綱引きで組連合でその絵、ということはまさか……」
    「察しがええな、葵はん! せや、この綱引きは、四方綱引きならぬ九方綱引きや! この中央には旗が立っててな、この旗が自分の陣地に入った組連合が勝利や!」
    「じゃあ、参加人数が多い組連合が有利ですね。単純に考えて」
     腕を組む葵に、くるみは首を横に振った。
    「そうでもないで。もちろん参加人数は多いに越したことはないけどな、もっと大事なのはチームワークと作戦や! 実際の綱引きでも、体重が軽いチームが勝つんは、ようあることやさかいな」
    「灼滅者の力で九方向から引っ張って、縄が切れたりしませんか?」
    「特殊な魔術処理を施してあるさかい、大丈夫や! たぶん!」
     堂々と胸を張るくるみに、葵は苦笑いをこぼした。
    「たぶんって……。でもまあ、面白そうですね。皆さん頑張ってくださいね」
    「何言うとん? アンタは参加しいや!」
     ひらひらと手を振る葵に、くるみは指を突きつけた。
    「えぇ?」
    「当たり前や! 学園内ニートで引きこもりよってからに! たまには行事に参加しいや!」
    「はいはい、分かりました。まあ、その辺でフラフラしてますよ」
     頷く葵に頷き返して、くるみは生徒を振り返った。
    「九方綱引きは、頭脳戦や! 今まで培った絆とチームワークと駆け引きを、存分発揮したってや!」
     くるみはにかっと笑うと、親指をびしっと立てた。


    ■リプレイ


     九方綱引きのアナウンスが流れ、生徒たちは立ち上がった。
     目の前には、九方向に伸びる綱。
     集まったのは、二十八人の生徒たち。
     それぞれが楽しそうに、組連合の名前が書かれたプラカードへと向かっていった。
    「泣いても笑っても、このクラス最後の運動会だよな」
     軽く体操しながら1A椿連合の綱へ向かうシグマに、クレイはふと立ち止まった。
    「そうか……。うっかりしてたけど俺達はこれ、高校生最後の運動会になるんだね」
    「高1で転入してきて、気が付いたらもう高3かぁ……。来年、大学進学とかしたら皆とクラスも別々になっちゃうかもしれないね」
     しみじみと頷く春陽に、リアは遠い目で西久保キャンパスの方角を見た。
    「これがこのクラスでの最後の運動会だから……。勝ちたいなぁ……」
     今までの楽しい思い出がよみがえり、少し切ないような空気が流れる。
     その空気を、リアは頭を一つ振って断ち切った。
    「みんなで力を合わせればきっと勝てる……よね!」
    「もちろん! 高校生最後の運動会、全力でいくわよ!」
     春陽が突き出した拳に、クレイが拳を突きつける。
    「俺達の西久保1組の思い出に、素敵なものが増えるように頑張ろう!」
    「全力出していかないとな!」
    「力はあまりないほうだけど……。大きな声出して頑張るわ!」
     シグマとリアの拳も重なり、西久保3-1のメンバーの拳が高らかに掲げられた。
     力を合わせてやる気を見せる西久保3-1の脇を抜け、ジェルトルーデは置かれた綱をまじまじと見た。
    「なんだろう、この綱……」
     ジェルトルーデの隣で、いるかも感心したような声を上げた。
    「九本が繋がっている魔法の綱、というのも、武蔵坂学園ならではですね」
     いるかの声に、祀は頷いた。
    「しかし、この競技用の縄というのは、どこか神社の注連縄を連想させますね……。それを思うと、道具に対する親近感も湧いてくるというものです」
     神社の注連縄、という自分にもかかわりが深い物に繋がりを見た祀の隣で、鈴乃が珍しそうに綱をつついた。
    「これがつなひきなのですか!  すずの、はじめてなのです。九本一斉とか、すごい迫力なのですね」
    「運動会というのもはじめてだけど、綱引きってこういう、すごいのなんだねー」
     綱引きを誤解しそうな鈴乃とありすに、ベルベットは手を振って否定した。
    「きゅ、九方向って、めちゃくちゃだヨ!」
     言いながらも、ベルベットは綱を軽く掴む。綱は一見普通の綱のよう。綱引きならば、やることは一つだ。
    「でもうん、思いっきり引けばいいんだよネ? ならまあ、分かりやすくて助かるカナ!」
    「これまた一風変わった競技でありますが、此方にはその筋のプロフェッショナルがおります。我が方の勝利は盤石で御座いますね?」
     祀は後ろを振り返る。視線の先には、姫華が自信たっぷりに胸を張っていた。
    「妾はこう見えて、綱引き世界チャンピオン(大嘘)じゃからの。妾の指示に従えば間違いないのじゃ」
    「なら姫を、武蔵坂のチャンピオンにも、してあげるよ」
     士気も高く頷いた紅輝に同調するように、セレスティも頷いた。
    「姫様のことは、特に、信頼して、います。綱引き世界チャンピオンの、姫様の、真似をすれば、きっと、大丈夫、です」
    「姫ちゃんが、掛け声とかしてくれるよネ、たぶんきっとめいびー」
    「ひめさま、ごーごー!」
     期待とプレッシャーの視線を投げるベルベットに、明るくはしゃぐジェルトルーデ。
     皆の視線を集めた姫華は、頷くと手を高く挙げた。
    「うむ! 妾の声掛けに合わせて一斉に引くのじゃ、引くのじゃ!」
    「ここはおいらも頑張るっぽー!」
     鳩の着ぐるみ姿の空蝉之助が、手ならぬ羽根を高く掲げた。
    「うちには自称綱引き世界チャンプもいるし、安心だな。だが油断はせず勝ちにいくぜ!」
     柿貴の檄に、花琳は思わず俯いた。
    「……年上の人もいっぱい、いるね。綱にちゃんと届くかな。……大丈夫かな。花琳は力、弱いからもみくちゃにされちゃいそう」
     不安そうな花琳を勇気づけるように、春香は花琳を覗き込んだ。
    「ぼく、運動は苦手だけど……。でも、クラスのみんながいるから、頑張れるよ」
     元気づける春香に、花琳は顔を上げた。
    「みんなと一緒に頑張れるかな。転校してきたばっかりだし、ちょっと心配」
    「なに。心配いらぬよ。クラスの皆で頑張っていくのは楽しいものじゃよ。力を合わせれば乗り越えられぬものなどないんじゃ」
     明るく励ますカンナの声に、花琳は顔を上げて安心したように頷いた。
    「葉琳のぶんも、楽しまないとね!」
     そんな花琳を見たいるかは、クラスメイトを見渡した。
    「みなさんで、一緒に頑張りましょう!」
    「はい! みなさま、力を合わせていきましょう!」
     元気よく応えた鈴乃は、「全力でがんばる」のポーズを取った。
    「これでも、すずのはこぶしけい。肉体派なのです! 全力全開でひっぱりますよ!」
     全力でがんばるのポーズの隣で、ジェルトルーデでは「みせたげる」のポーズを取った。
    「ぼくたちの、チームワーク、みせたげる!」
     気合を入れた鈴乃とジェルトルーデに、武蔵境小4梅のメンバーは頷いた。
     敦真とクーガーも、9I薔薇連合の綱脇に立った。
     隣は1A梅。最も参加者が多い組連合だ。
     その中でも勝利を掴むべく、敦真は作戦を練った。
     西久保3-1と武蔵境小4梅が1A梅連合の綱の前に着くのを、莉那は不安そうに振り返った。
    「6F菊連合とか参加者いないんじゃないよな」
     総参加人数二十八人中十八人が1A梅連合、二人が隣の9I薔薇という偏ったバランスに、思わず呟くが、幸いそれは杞憂に終わった。
     6F菊連合の綱では、嘉月がイメージトレーニングに励んでいた。
    「足の角度はこうで、重心をここにおいて……一旦抜くときは、ここでこうして……こう!」
     縄を引く際の体重のかけ方、フェイントで体重を戻してから引っ張るタイミングを入念にチェックする嘉月に、莉那は声を掛けた。
     フリルもまた、一人5E蓮連合の綱の前に立っていた。
     綱引きは、みんなで引っ張る競技。例え微力でも頑張れる。でも。
    「……本当に一人じゃないですよね」
     思わず呟いたフリルの後ろから、月夜が声を掛けた。
    「一緒の組連合ですか? 綱引き、ボクも頑張るですよー♪ んと、みんなで一緒に同じ方向に綱を引けばいいのですねっ?」
     明るく微笑む月夜に、フリルはホッと胸を撫で下ろす。一人でも頑張るつもりだったが、やはり仲間がいると安心する。
    「よろしくお願いします。頑張りましょうね!」
     微笑み合ったフリルと月夜は、お互いに考えてきた作戦を話し合った。
    「綱引きってあれだよね! 皆で太い紐引っ張りっこして自分たちの方に多く引き込んだ方が勝ちってやつ! やってみたかったんだー」
     ワクワクした様子で、シェレスティナは7G蘭連合の綱の脇に立った。
    「他連合がどう動いてくるかわかんないけど、あたいたちはともかくまっすぐ引っ張るコトにしよー?」
     シェレスティナに負けず劣らず楽しそうなミカエラは、やっほやっほと声を掛けながらリズムを作っていった。
     楽しそうに笑いながら、陽桜は4D椿連合の綱の脇に立った。
    「葵おにーちゃん、一緒にがんばろー!」
     後ろからついてくる葵を振り返る陽桜は、ぺこんとお辞儀をした。
    「よろしくお願いします!」
    「こちらこそ、よろしくお願いします、陽桜さん。及ばずながら、力にならせてくださいね」
     お辞儀を返す葵に、陽桜は笑顔で応えた。

    ●競技開始!
     ナノナノ模様の旗がたなびく中、九方綱引き開始のピストルが鳴った。
    「くるっ!ぽぅ! 鳩忍者のド根性っぽー!」
     鳩の着ぐるみを着た空蝉之助は、皆の掛け声に合わせて綱を引いた。
    「クラスのみんなで頑張れば、何とかなるっぽー!」 
     みんなで引っ張って、一番引けたら勝ちというシンプルなルールに、ありすも気合が入る。
    「みんなでひっぱれば、きっとうまくいくよ!」
     あまり力に自信はないが、最後まで引っ張る気構えを持って、ありすは綱を引いた。
     力がない。運動が苦手。
     だが、春香はできる限りの力で綱を引いた。
    「うんしょ……! うんしょ……! んーーーー……っ!」
     力のない春香でも、きっと役に立てる。
     そう信じて、春香は全力で綱を引いた。
     皆が熱中する中、カンナは冷静に状況を見定めていた。
     一斉に力いっぱい綱を引く中でも、体力を温存して一定の力で引き続ける。
     やがて、最初から飛ばしていた1A梅連合が綱を引く力が少し弱まった。
     その隙を狙ったかのように、6F菊連合が動いた。
     一気に増す引く力に、カンナはひたすら持ちこたえた。
    「行きますよ、6F菊ーーーー!! ファイトォーーーーー!!」
     嘉月の大きな掛け声と共に、綱が大きく引かれた。
     体重を後ろにしっかりかけて綱を引き、フェイントを入れるタイミングも練習済み。
     積み重ねが自信となって現れた嘉月の声に、莉那は持久戦の構えを解いた。
     体はできるだけ曲げず、足を突っ張って反り返るように。
     斜め後ろにふんばって、最大限MAXパワーで目一杯引く。
    「一騎当千! 少人数でも諦めないぞ!」
     大きな掛け声と共に、莉那は綱を引きまくった。
     6F菊のやる気と本気に、5E蓮連合が合流した。
     九方向に引っ張るということは、隣り合う組連合の綱もある程度同じ方向に力が加わっているということ。
     ということは勢いよく引っ張る時は、隣に合わせてみるのも効果的。
     この読みが当たったフリルは、月夜の掛ける掛け声に合わせて声を出した。
     恥ずかしいが、力いっぱい引っ張るフリルをリードするように、月夜は声を張り上げた。
    「おー、えす! おー、えす!」
     えす、の時に一斉に引かれる綱に、ナノナノの旗が少し移動する。
     引きずられないように頑張る月夜に引かれるように、7G蘭の二人も1A梅・9I薔薇連合の対面へと移動した。
    「レッゴーななじー、いけいけらんらん、げんきにがんがん、バッチリしょうりー!」
     おー、えす! のテンポに合わせて、ミカエラは7G蘭の歌を歌う。
     楽しそうに歌いながら思い切り引くミカエラの後ろで、シェレスティナもまた歌いながら綱を引っ張った。
    「ミカエラちゃんいっくよーん! よいしょー! せーのー! うりゃー!! いけいけらんらーん♪」
     綱引きを心から楽しむ二人の歌声に乗せて、4D椿もまた合流した。
    「頑張るもん! おー、えす! おー、えす!」
     一斉ので皆で掛け合う声に、陽桜は一緒になって声を上げて引っ張る。
     拮抗したかに見えた力が崩れ、引っ張られそうになった陽桜は、バランスを崩さないように全体重かけて重石になるべく腰を落とした。
     皆の熱意に背中を押されたように、葵もまた精一杯綱を引っ張った。
     着慣れない体操服に、慣れない競技。戸惑いもあったが、引っ張り始めたら何も考えられない。
     葵はただ、綱に集中するだけだった。
     真剣に綱を引っ張りながらも、春陽はクラスメイトに想いを馳せた。
     体格が良く、どっしりとした安定感があるクレイに、何だかんだ言いながらも、いざという時は頼りになるシグマ。
     リアが一生懸命頑張っている姿には、いつも元気を貰っていた。
     このクラスで良かった。心からそう思いながら、春陽は大きな声を上げた。
    「さぁ、声出していくわよ!」
    「おう! ……ハルピーは大丈夫だと思うけど、シグにリアは声出しがんばれ!」
     春陽に呼応して、一番後ろからクレイが三人に声を掛ける。クレイの声掛けに、リアは微笑みながら応えた。
    「……だねクレイ君。声だすと力がでるからね。頑張って声だすよ」
     なるべく大きな声を出すリアに、シグマは照れたように呟いた。
    「掛け声は恥ずかしいなぁ……」
     あまり声を出さないシグマに、クレイは更に声を掛けた。
    「恥ずかしがるなよ! オーエス、オーエスで気持ちがひとつになるんだぞ!」
    「分かったよ! まぁ、この際だから、すこしはがんばる……」
     返事をしたシグマは、全力で綱を引きつつ腰を落とした。
     終了時に転んでも構わないという気構えで引かれる力に、リアは少し微笑んだ。
    『……シグマ君も頼りにしてるね。シグマ君ってここぞって時に頼りになるから……』
     シグマを思いやったリアは、春陽の声を背中で聞いた。
    「オーエス、オーエス! 息を合わせて、一気に畳み掛けてやりましょう!」
     いつも明るく元気な春陽を見ていると、リアも元気が出るのだ。
    「頑張ろうね、皆……!」
     リアの声に、四人は更に力を込めた。
     相手の引きが強まり、ナノナノの旗が相手側に引かれても、姫華はじっと耐えて見守った。
     1A梅連合を押し切りそうな勢いで引かれる綱だが、全力はそう長く続かない。
     全体の力が拮抗した瞬間、敦真が動いた。
     一番後ろでチャンスを伺っていた敦真は、二歩三歩と後ろに下がる形で綱を引いた。
     力の拮抗が崩れた瞬間、姫華は号令をかけた。
    「ほれ、頑張れ、頑張れ! 今じゃ、全力で引くのじゃ!」
     姫華の号令に、セレスティは懸命に綱を引っ張った。
    「姫様の、真似をすれば、きっと、大丈夫です……!」
     あまり声を出すのは得意ではないが、周囲の真似をしながら頑張って声を出した。
     クラスメイトのポジションを指揮した柿貴は、真ん中から後ろで綱を引いた。
     脇をしっかり締めて、後ろに体重をかけるように引っ張る。
     チームの声掛けに声掛けで応えつつ、柿貴は綱を引いた。
    「体重掛けて、しっかり引こう、ね!」
     小学生ばかりのチームだって、力を合わせれば、なんのその!
     ジェルトルーデは精一杯綱を引っ張った。
     皆が全力で引っ張る中、祀は一人違うことを思っていた。
     注連縄にも似たこの縄を単なる『引っ張り合って力尽くで手繰り寄せ得る物』とは思わない。
    『こちらへおいで』
     祀は全力で引っ張ると同時に、愛でるように心で語りかけた。
     紅輝は皆と力を合わせて、精一杯の力で綱を引いた。
    「最後まであきらめないぜ! クラスの団結を見せる時!」
     紅輝は最後の力を振り絞り、綱を思い切り引いた。
     いるかはクラスメイトと力を合わせて、精一杯の力で綱を引いた。
    「最後まであきらめずに頑張りましょう」
     クラスの団結を見せる時が来たと、いるかは力を振り絞った。
    「おーえす! おーえす!」
     掛け声を上げながら、鈴乃は全力で綱を引っ張った。
     最初から全力を出しているためか、徐々にスタミナが減ってくる。
     だんだん力が入らなくなってくる自分を叱咤するように、鈴乃は大きな声を上げた。
    「まだまだ、すずのたちのクラスの団結力はこんなものじゃないのです! もっともっと力を出せるはずなのですよ!」
     鈴乃は最後の力を振り絞って、綱を引ききった。


     綱が引かれ、ナノナノの旗は1A梅の陣地へと入った。
     審判が鳴らすピストルの音に、九方向の綱がグラウンドへと落ちた。
    「試合終了! 優勝は、1A梅!」
     審判の宣言と同時に、カンナはバランスを崩した。全体のバランスがラストスパートになった時、全力で綱を引っ張った反動が一気に来たのだ。
    「おっと、危ない!」
     ベルベットは倒れそうなカンナを支えようと腕を伸ばすが、自分もまたバランスを崩して潰されてしまう。
    「悪いのぅ」
    「いやぁ、これくらい」
     カンナは慌ててベルベットの上から立ち上がると、ベルベットの手を取って立たせた。
     審判の宣言に、西久保3-1の四人は大はしゃぎで健闘を称えあった。
    「お疲れ様!」
     春陽のハイタッチを受け止めたクレイは、カメラを構えてにっこり笑った。
    「せっかくだからみんな、記念写真とらないか?」
    「いいね! 撮ろう!」
     二つ返事でOKしたシグマに、リアは心から楽しそうに微笑んだ。
    「……今回もたくさん思い出が作れて、本当にうれしいわ」
     四人の笑顔を写した写真は、思い出の一ページとして残ることだろう。
     敗れた連合も、全力を出し切った者のみが味わえる心地よい脱力感に襲われていた。
    「久しぶりに、全力で声を上げました」
     息を切らせながら座り込んで汗を拭う嘉月の隣で、シェレスティナは両手の平を見た。
     綱を握った手は、ジンジンと心地よい痛みが走っている。
    「あー、手がちょっとマメできそう。でもこれも、めいっぱい頑張った証だよね」
    「うん! 全力で頑張った!」
     大の字で倒れ込んだミカエラが突き出した拳に、シェレスティナは自分の拳を軽く突き合せた。
    「負けちゃったー、ちょっと残念。でも、楽しかったの! 葵おにーちゃんは、楽しかったですか?」
     陽桜の笑顔に、葵は細い目を更に細めた。
    「ええ。楽しかったです。こんなにしいものなのですね」
     楽しそうな葵に、陽桜はにっこり微笑んだ。
    「良かった! でも、勝負はまだあるしこれからなの! 引き続きがんばろーね♪」
     笑顔を浮かべる陽桜に、葵は笑顔で頷いた。
    「えー、九方綱引きのMVPを発表します」
     マイクのスイッチが入り、審判の教師の声が響く。
     賑やかだった周囲が静まり、全員耳を傾けた。
    「MVPは、自分だけでなく周囲の士気も高め、的確な指示を出して1A梅連合を勝利に導いた、朝臣・姫華さんに決定しました! おめでとうございます!」
     審判の発表に、武蔵境小4梅連合は一気に盛り上がった。
     青空の下、九方綱引きは歓声で幕を下ろした。



    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月31日
    難度:簡単
    参加:27人
    結果:成功!
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