闇を駆ける蒼の軽戦士

    作者:のらむ


     闇の中を、巨大な蒼き怪物が駆ける。
     その巨体に見合わぬ程速く、縦横無尽に。ただひたすら駆けていた。
    「ん……なんだ? あのデカイのはいった」
     ゴトリ、と。怪物を視界に捉えた男の首が落ちた。
     怪物の両腕に嵌められた蒼きカタールが、男の首を一瞬にして刎ね飛ばしていた。
    「バ、バケ……!」
     グチャ、と。鈍い音を響かせながら、その男の隣に立っていた女が血溜まりに倒れる。
     怪物が放った鋭く重い蹴りが、女の心臓を抉り取っていた。
     蒼き怪物は再び駆ける。ただひたすらに。その行く先には、小さな集落がある。
     この怪物からは、誰も逃げることが出来ない。


    「朱雀門所属のデモノイドロード、ロード・クロム。彼の手によって量産されたデモノイド『クロムナイト』が、各地で大虐殺を起こす事件は、既に皆さんもご存じのことかと思います。そんなクロムナイトの一体を、予知しました」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を始続ける。
    「幸いにも、配置されたクロムナイトが動き出すまでは時間があるので、一般人と接触する大分前に戦闘を仕掛けることが可能です。クロムナイトも皆さんを無視して人里に突っ込みはしないので、安心して戦闘に集中する頃が出来ます。まあ灼滅者とクロムナイトを戦わせることも、ロード・クロムの目論見の1つらしいですけどね。むかつきます」
     生前の美醜のベレーザが残したデモノイド施設を利用し量産されたこのロード・クロムには、戦闘経験を積めば積むほど戦闘能力が強化されてしまうらしい。
    「皆さんと戦い戦闘経験を積めば、単純な戦闘能力を得、阻止されずに虐殺が遂行されれば、より効率的に一般人を虐殺する性能を得る。なんとも下衆い計画ですね。だからこそ彼はデモノイドロードなんでしょうが」
     そしてクロムナイトに虐殺手段を学ばせず、戦闘経験も積ませないための方法は、短期決戦しかないとウィラは説明する。
    「あの下衆野郎の鼻を明かす為には、それしかありません。短い時間でクロムナイトを灼滅することが出来れば、クロムナイトは碌な戦闘経験を得ることが出来るでしょう」
     しかし短期決戦を挑むという事は、それなりに偏った戦術で戦う事となる。
     クロムナイトはただでさえ強い為、身を守るためには短期決戦を諦めるという選択肢を選ぶ必要も出て来るかもしれないだろう。
    「そして、今回皆さんが相手するクロムナイトですが……両腕に装着したデモノイド寄生体で創り上げた蒼いカタールと、強烈な蹴り技で戦闘を行います」
     そしてこのクロムナイトの最大の特徴は、その素早い身のこなしだとウィラは語る。
    「どの位速いかと聞かれれば、馬鹿みたいに速いと答えます。ポジションはキャスターで、皆さんの攻撃をそれなりに避けながら、それなりに精度の高い攻撃を放ってくることでしょう。短期決戦を望むのならば、とにかく迅速に安定した命中率を確保する必要があるでしょう」
     能力値は気魄が高く、次いで神秘。術式がやや低めとなっている。
    「さて……説明は以上です。最近はやたらと卑怯で下衆な敵が多いですが、ロード・クロムもその1人です。彼が生み出したクロムナイトを撃破し、可能ならば、戦闘経験を積ませない様頑張って下さい。お気をつけて」


    参加者
    海神・楓夏(ミーミルの泉・d00759)
    一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    樹雨・幽(守銭奴・d27969)
    ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)

    ■リプレイ


    「デモノイドを強化する能力か……まったく、デモノイドロードってのは本当に厄介で下衆な輩だね……とっとと、倒してしまおう」
    「手を加える程種類が増える種族というのも厄介だな。最善を尽くそう」
     不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)と一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)が、人気のない畑の真ん中で、クロムナイトの出現の時を待っていた。
    「クロムナイトの処理は二度目だけれど……どう転んでもロード・クロムの思惑通りって所が相変わらずムカつくわね。リリー達の多くが一般人を無視できないのをいい事に……ほんと、胸糞悪いったら」
    「戦闘経験を詰ませずに灼滅……私にとっては初めての試みですので不安も残りますが、皆さんの力を信じてます。力を合わせて早期灼滅を目指しましょうっ」
     リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)と海神・楓夏(ミーミルの泉・d00759)がそんな話をしていると、灼滅者達の耳に風ではない、大きな草木のざわめきが耳に入った。
    「ようやくお出ましか? ……教えてやんなきゃなァ。なんでも思い通りに行くってのは大間違いだって、なァ?」
    「騎士を名乗る、自分の意思のないデモノイド……なんとなく、気に入らない。負けたくないよネ!」
     そう言って殲術道具を構えた一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)とベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)達の前に、両手にカタールを嵌めた蒼き怪物、クロムナイトが姿を現した。
     激しい勢いで駆けていたクロムナイトが、灼滅者達の姿を捉え、その動きを一時的に停止させた。
    「随分と趣味の悪ぃ玩具だなこりゃあ……こんなもんに時間をかけるくれぇなら、もっと別なもの作りゃいいのによ」
    「ま、さっさと終わらせよう」
     樹雨・幽(守銭奴・d27969)と咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)は眼前に現れた怪物に軽く目をやると、スレイヤーカードを解放する。
    「………………」
     クロムナイトはカタールを構え、静かに灼滅者達に向けて駆け出した。


     ブン、と風が空を斬るような音が周囲に響く。
     クロムナイトが放った無数の斬撃が竜巻となり、灼滅者達の身を切り裂く。
    「いきなりやってくれるなぁおい……」
     智巳は全身をその竜巻によって切り裂かれた。だがそのまま動きを止めず、パイルバンカーを構え、クロムナイトに突撃する。
     クロムナイトはそのまま身を翻し、智巳の攻撃を避けた、様に見えた。
    「避けた。……と思ったか?」
     智巳が装着したパイルバンカーのブースターが轟音を立てながら駆動し、爆発的な一撃がクロムナイトの胸に叩きつけられた。
    「掠りあたりでも痛ェよなァ!」
     その攻撃の直後、エアシューズを駆使し戦場を滑走していた九朗が、不意にクロムナイトの背後から強襲する。
    「この戦いの肝は、相手に戦闘の経験を積ませない事……」
     クロムナイトは九朗の気配に気づいた様子で振り向いたが、一瞬だけ遅かった。
    「手早く終わらせてしまおう」
     次の瞬間には九朗の蹴りがクロムナイトの顔面に叩きこまれ、鈍い音を立てながら地面を転がった。
    「……やはり、聞いていた通り動きは速いな」
    「そうね。うんざりするくらい」
     暦とリリーがそれぞれ追撃を仕掛けようとサイキックを放つが、クロムナイトはそのまま意図的に地面を転がり、その攻撃を回避した。
    「ちっ、ちょろちょろと鬱陶しい野郎だ」
     幽はうんざりした様子ながらもクロムナイトの動きを見定め、片腕に纏わせた寄生体を砲台へと変化させた。
    「量産型なら量産型らしくさっさと潰されちまえって話だぜ、ったくよ」
     幽はぼやきながら、戦場を動き回るクロムナイトに狙いを定め、一気に光線を放つ。
     放たれた死の光線は正確にクロムナイトの心臓に突き刺さり、その身体を毒で蝕んだ。
    「…………」
     クロムナイトは自らが受けた傷を無視し、あるいは最初から痛みを感じていないかの様に、無機質な動きで灼滅者達に高速の蹴りを放つ。
    「殺すために生まれて、殺し方を覚えて、死ぬだけの一生か……寂しい奴だな」
     僅かな同情を現した千尋は『六ニ式殲術サーベル』を鞘から抜き、その刃に神聖な白き光を纏わせていく。
     そして地を蹴りクロムナイトに接近すると、千尋はクロムナイトの急所を狙う。
    「どこの誰を素体にして創りだされたかは知らないけど……まあ、せめて人を殺す前にあたし達が殺してやるよ」
     放たれた白き斬撃は弧を描き、クロムナイトの首筋を深く斬りつけた。
     その一撃にクロムナイトが怯んだ隙に、楓夏がその身体にカミの力を降ろす。
    「風よ、彼の者たちに安らぎを与え給え」
     楓夏の優しい囁きと共に放たれた風が灼滅者達の傷を癒し、同時に飛び出したウイングキャットの『禅』が、空に向けて魔力を放った。
     魔力によって生み出された無数の剣が、クロムナイトの足に一瞬にして突き刺さっていく。
    「ギギ…………」
     クロムナイトはその剣に足を取られ、先程よりも鈍い動きで戦場を駆ける。
    「よし、あの動きなら行ける……確実に当てさせてもらうよ!」
     ベルベットは赤い標識を重そうに抱え、そして一気にクロムナイトに振り降ろす。
     放たれた重い打撃にクロムナイトの身体はひしゃげ、全身が痺れ上がった。
    「よし、隙が出来たよ! 今の内に攻撃を!」
    「了解よ。更に敵の動きを封じて、雁字搦めにしてやるわ」
     ベルベットの呼びかけに応え、リリーがクロムナイトの背後に回り込む。
     そして『DNCデストロイヤー』と名付けられた撃杭機を、一気に駆動させる。
    「どうやらそれなりに動きは鈍ってきたみたいね……経験から学習するのはね、あなただけじゃないのよ?」
     リリーが呟いた直後、妖しく光る青白い巨大な杭がクロムナイトの背に深々と突き刺さり、その巨体を刺し貫いた。
    「ギギガガ…………」
     クロムナイトは身体に突き刺さった杭を無理やり引き抜き灼滅者達と距離を取る。
     だが、暦は後ろに退いたクロムナイトに突撃していく。
    「こっちにはあまり時間が無い。最初から最後まで全力で行かせてもらうぞ」
     暦は左手に装備したガントレットに、己の闘気から生み出した雷を纏わせる。
     クロムナイトは暦の動きを見て避けようと横に跳ぶが、暦はその動きまで見切っていた。
    「ここだ」
     放たれた電撃がクロムナイトの全身を焼け焦がし、強烈な拳はクロムナイトの頭部に突き刺さり、その兜を砕いた。
     そのままの勢いで地面に叩き伏せられたクロムナイトは、その身をゆっくりと起こす。
    「まだ起き上がるのか……流石に強化されると言われてるだけの事はあるね」
     九朗はクロムナイトの動きに警戒しつつ、次の攻撃の一手を考える。
    「グ、グガガアアアアアアアァアアァア!!!」
     突如、起き上がったクロムナイトが、先程までとは打って変わった狂った雄叫びを上げる。
    「うるっせーな……なに急にキレてんだよ、コイツ」
    「多分それだけ、私達がクロムナイトを追い詰めてるって事ですよ」
     幽と楓夏がそう言葉を交わし、殲術道具を構えなおす。
     戦いはまだ終わらない。


    「グアァアアァアアアアアアア!!」
     クロムナイトはカタールを構え、前衛に向けて突撃する。
    「よっと……そう簡単に通れると思って貰ったら困るな」
     千尋は仲間に向けられた攻撃を受け止め、その肩をカタールに深く抉られた。
    「結構血流れたな……まあ、だったら貰うだけか」
     千尋はサーベルに緋色のオーラを纏わせ、クロムナイトの身体を一閃する。
    「悪魔の血、あたしにおくれよ?」
     蒼き返り血が千尋の顔にかかり、千尋はクロムナイトから生気を奪い取った。
     クロムナイトの瞳が赤く輝き、千尋の方をギョロリトと向くが、
    「動かないで、下さい」
     楓夏は足元の影を薔薇の蔓の様な形に変え、クロムナイトに向けて放つ。
     そして薔薇の棘がクロムナイトの全身を傷つけながら絡め取り、その動きを封じた。
    「今です、ベルベットさん」
    「楓夏おねーさんの頼みとあらば、全力を出さない訳にはいかないネ!」
     ベルベットは棍型の杖に魔力を込めながらクルクルと振り回し、クロムナイトとの間合いを測る。
    「ここだよ!」
     ベルベットが一気に突き出した棍の先端が、クロムナイトの首に突き刺さり、そのまま吹き飛ばす。
     そしてその巨体が地面に叩きつけられたかと思うと、流し込まれた魔力がその全身を爆発させた。
    「順調順調! もうあのデモノイドには、すごく攻撃を避けるっていうアドバンテージは無くなってるみたいだよっ」
    「そういう事なら、ここぞとばかりにたこ殴りにするしかねえな」
     幽は全身の闘気を拳に集束させ、クロムナイトに振り上げる。
    「あんま時間かけるわけにもいかねぇみたいだしな……さっさとぶっ壊させてもらうぜ」
     そして放たれた無数の打撃が、クロムナイトの全身を打ち、全身の鎧にひびを入れた。
    「はあ……あんまり真面目なのは柄じゃねぇや。ま、後は適当に頼んだぜ」
    「頼まれた」
     暦は右腕に装着した半身以上の大きさを誇るバベルブレイカーのエンジンを駆動させ、クロムナイトの身体に狙いを定める。
    「お前も、お前の主の計画も、全部やらせはしないんだ」
     アッパーカットの様な動作で暦が放った杭は、クロムナイトの腹を強く打ち、空中に打ち上げた。
    「中々今のは上手くいったな」
    「それじゃあ、次は僕が追撃を」
     九朗は打ち上げられたクロムナイトに向けて飛びあがり、構えた光の剣に爆炎を纏わせていく。
    「作戦は上手くいった……後は、どれだけ敵に強烈なダメージを与えられるかだけだ」
     クロムナイトは跳んでくる九朗に向けて死の光線を放ったが、九朗はその光線を魔法の弾丸とぶつけて相殺さる。
    「このまま一気に燃え尽きろ」
     九朗はクロムナイトの胸に剣を突き刺すと一気に火力を高め、灯りの無い戦場が一瞬、大きな光に包まれた。
    「グガァァァァァァァァァアアア!!」
     クロムナイトは狂った叫びを上げながら地面へと落とされる。
     そのまま攻撃を放とうとしたが、全身に蓄積されたバットステータスが発動し、クロムナイトの動きがぎこちなく止まった。
     智巳はそのクロムナイトの前に立ち、全身に燃え滾るような炎のオーラを纏わせる。
    「おい、よく聞けよクロムナイト……何も戦闘経験を積んで強くなるのは、お前らだけのお株じゃねぇんだぜ?」
     智巳は炎のオーラを纏わせた重い拳を、一発一発クロムナイトに叩きこんでいく。
    「俺たち、灼滅者はッ! 1戦ごとにどいつもこいつも進化していくッ!」
     全身の鎧が砕かれながらも、クロムナイトは未だギリギリの所で立ち続けていた。
    「強くなって、出直してきやがれ。そんときゃ、強くなった俺たちが叩き潰してやるぜ」
    「グガアァァァァァァァァァッ!!」
     クロムナイトは勢いよく吼えるが、その身体のには最早限界が近づいていた。
    「終わりね。あなたの負けよ、クロムナイト。潔く散っていきなさい」
    「ガ、ガアアアアアアアアア!!」
     しかし撤退という選択肢すら無いクロムナイトは、真っ直ぐと愚直に、灼滅者達に向かう・
    「来るわ。散って!」
     リリーの呼びかけもあり、灼滅者達はクロムナイトが放った蹴りを回避、あるいはきちんと受け止める。
     そして次の瞬間には、灼滅者達が一斉に攻撃を叩きこんでいた。
     暦が放った衝撃波がクロムナイトの体勢を崩し、
     智巳が放った杭がクロムナイトの頭を抉る。
     ベルベットが棍で胸を鋭く突き、
     幽が寄生体の刃で左腕を斬り取る。
     九朗が光の刃で全身を幾重にも斬ると、
     千尋がサーベルで左腕も斬り取った。
     楓夏が放った矢が両脚と地面を縫い止めると、
     リリーが青白い蜘蛛の糸を放った。
    「動き回るだけが能の羽虫は、蜘蛛の糸からは逃れられないの……さよなら」
     放たれた蜘蛛の糸は、クロムナイトの全身を縛り付け、張り巡らされた蜘蛛の巣は、その身体を何重にも包み込んでいく。
    「ギギ…………ギギ…………」
     最早叫ぶことも出来なくなったクロムナイトの全身が巣に包み込まれ完全に見えなくなる。
     そしてクロムナイトの全身はサラサラと砂の様に崩れ落ち、跡形も無く消滅した。
    「終わりね」
     リリーが呟き、蜘蛛の糸を手繰り寄せた。

     そして戦いは終わった。
     灼滅者達は互いの傷を癒しつつ、勝利を喜んだ。
     回避に特化した敵に対策もそれなりに取れており、恐らく短期に決着を付ける事には成功しただろう。
     周囲に誰がいないかと捜索した灼滅者達もいたようだったが、何分周囲は暗く、誰かいるのかいないのかもあまりよく分からなかった。
     多くの謎は残るが、ひとまず灼滅者達は無事に戦いを終え、クロムナイトを灼滅する事に成功した。
     今はこの戦果を手に、学園へ帰還するとしよう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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