夏休みは、もう終わり。

    作者:階アトリ

     避暑地として有名な、長野のとある場所。
     そこには別荘として貸し出されたり分譲されたりしているコテージが多く建っており、夏休みの間は首都圏からの人々で大層賑わっていたものだった。
     しかし、今はもう9月。
     ほとんどのコテージは無人だった。
     新学期も始まるため、特に未成年の姿など、普通はあるはずもないのだけれど……。
     少し外れたところに建っている1軒のコテージに、1人の少年が滞在していた。
    (「ここなら大丈夫。ここなら。もし、獣になってしまっても誰かを傷つけることはない、きっと」)
     ベッドの上にうずくまっていた少年は、閉じたカーテンの隙間から差し込む朝日に顔を上げる。
     不安な夜を過ごして迎えた朝は、これで何度目だろう。
    「蓮夜(れんや)……母さんよ。昨日の夜は大丈夫だった? 朝ごはん、食べられる?」
    「うん、おはよう、母さん」
     戸口から聞こえた母親の心配げな声に、少年は努めて明るく答え、ベッドから降りた。
     部屋から出る前に、そっとカーテンを開ける。外には湖畔と、その周囲に広がる森。
     心臓が高鳴る。
     獣になって駆け回りたい。噴き出す力を思い切りぶつけて、あの森を燃え上がらせたらどんなに気持ちが良いだろう。
     闇夜に、巨大な紅蓮が花開けばどんなに美しいだろう。
    (「いけない!」)
     少年は胸を押さえ、慌ててカーテンを閉めた。
     何度も深呼吸をして、息を整えて、自分の身の内から理性を食いつぶそうとしてくる獣の衝動を、少年は必死に堪えている――。
     「みんな、来てくれてありがとう!」
    「えーと、……須藤。事件か?」
    「うん、そうなの。事件だよ!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が、斑鳩・慧斗(中学生ファイアブラッド・dn0011)にこくんと頷く。
    「あのね、今ちょうど『一般人が闇墜ちしてダークネスになる』事件が発生しようとしてるんだよ!
     種族はイフリート。
     普通だったら、一般人が闇墜ちしちゃうとすぐさまダークネスとしての意識に人間の意識をかき消されちゃうんだけど、彼は元の人間としての意識を残しててね。
     イフリートの力を持ちながらも、ダークネスになりきってない状況なの。
     もしも、完全にダークネスに墜ちて、イフリートになってしまいそうならその前に灼滅するしかないんだけど……」
     もしかすると……」
    「素質があるかもしれねえんだな」
    「そう! ひょっとすると、皆みたいに灼滅者になれるかもしれないんだ!」
     ダークネスに完全に墜ちてしまったら、もう人間には戻れない。
     けれど、望みがあるのなら。
     眼鏡の奥、まりんの瞳が光る。
    「闇墜ちから救い出してあげて欲しいの」
    「もちろんだ、任せろ! なっ、みんな!」
     八重歯を覗かせてまりんに笑いかけた慧斗が、同意を求め灼滅者たちを振り向く。
     頷きあう灼滅者たち。
    「ありがと。じゃあ、細かいところの説明をするね」
     まりんは胸に抱いていた本を開き、そこに挟んでいた1枚の紙を取り出した。
    「これが現場周辺の地図だよ。
     闇墜ちしちゃってるのは御津島・蓮夜(みつしま・れんや)っていう中学生の男子だよ。
     様子がおかしくなってるのに気がついた彼の家族が、レンタル別荘を借りてそこに匿っているらしいの。
     お母さんが、毎日食事なんかのお世話をしに通ってきてるんだけど、日が暮れる前に家に帰っちゃうから、夕方に行ってインターホンを押せば接触できるよ」
    「別荘で1人、か。ゼータクだけど……寂しいだろうだな」
    「うん。夏休みが終わって別荘地は人が少なくなってるし、1つだけぽつんと離れて少し辺鄙なところに建ってるそのレンタル別荘なら、夜になるとちょっとしたきっかけで暴れ出しちゃう蓮夜さんを匿うのに丁度いいって、ご両親が考えたみたい」
    「夜?」
    「うん。個人差だと思うんだけど、蓮夜さんは特に夜に、イフリートの――獣の衝動を強く感じるみたいなの。
     自宅だと住宅街を火事にしちゃうのが怖くて、蓮夜さん自身が、別荘に1人で滞在するのを望んだみたいだよ」
    「わけわかんねーで、不安だろうな……」
    「うん。そうだろうね。だからね、まずは説得っていうか、説明してあげて欲しいんだ。
     蓮夜さんがダークネスに変化しようとしているってことと、でも、望みはあるんだっていうことを。
     不安な彼が、人間として多分今一番欲しがってる言葉がそれだと思うの……。
     どんな風にお話すれば信用してもらえるか、私には判断できないから、そこはみんなに任せるね。
     ただ、蓮夜さんの理性はギリギリのところにあるから。
     説明してわかってもらえても、夕暮れ頃からは獣の衝動に駆られて暴れ出しちゃう……『闇墜ち』状態になっちゃうの。
     あ、でもね、説得する意味はあるんだよ! きちんと言葉が心に届いてたら、闇落ちした蓮夜さんの戦闘力は大幅にダウンしてるはず!!
     別荘の玄関口から飛び出してきたところで、そのまま戦闘になると思う。
     前庭が広く取ってあるから、延焼とか気にせず戦って問題ないよ」
    「わかった! 闇墜ち状態になったら、遠慮なくぶっとばして正気に戻せばいいんだな!」
    「そう! 蓮夜さんはバニシングフレアとレーヴァテインに似た技を使ってくるから、気をつけてね!!」
     がっし、と拳を合わせあう慧斗とまりん。最終的には拳で解決。青春だもの、たまにはそんなこともあっていい。
     もしも、蓮夜に灼滅者の素質がなく、完全にダークネス化してしまうようならその場で灼滅するしかないのだけれど――。
    「蓮夜くんを正気に戻せたら、折角だし、夕暮れ時の森や湖畔をお散歩したらいいんじゃないかな。
     せっかく素敵な別荘地なんだもん、ちょっとくらい景色を楽しんでから帰らなきゃ勿体無いよ!」
     まりんは敢えて、明るい未来だけを語る。もしもの時のことは、灼滅者たちのほうもよく心得ているのを、知っているのだ。
     夕暮れ時の散歩。
     きっと夕焼け空は澄んでいるだろう。もう、秋なのだから。
    「よし! いっちょ、これから仲間になるかもしんねえ奴の、長い夏休みを終わらせてやろうぜ!」
    「がんばってねー!」
     教室を出てゆく灼滅者たちを、まりんが手を振って送り出した。


    参加者
    薫凪・燐音(涼影・d00343)
    蔵原・皐月(縛鎖の炎・d00496)
    ヒナタ・グレンツェン(フェニーチェ・d01397)
    月城・結祈(燦々スプレンドーレ・d02440)
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    鍋島・妙子(中学生ストリートファイター・d03753)
    沖田・菘(壬生狼を継ぐ者・d06627)
    天外・飛鳥(囚われの蒼い鳥・d08035)

    ■リプレイ

    ●静かな森の中
     シーズンオフで人気の少ない別荘地は、秋の夕日の色と相俟ってとても寂しい雰囲気だった。
    「一人で耐え続ける毎日、寂しかったでしょうね……」
     沖田・菘(壬生狼を継ぐ者・d06627)が呟く。
    「……絶対、助ける。待っててね」
     月城・結祈(燦々スプレンドーレ・d02440)は、祈るような思いでそう口にした。
    「どうにかせねばなるまいよ。ダークネスなぞ、もう増えるのはごめんだ」
     蔵原・皐月(縛鎖の炎・d00496)が呟いて、く、と唇を噤む。
     見据える先は、コテージの立ち並ぶ場所から少し離れている一軒。
    「こんな俺でも伝えられることあるのかな……」
     天外・飛鳥(囚われの蒼い鳥・d08035)は、ぽつりと建つコテージの扉を前に呟きを落とす。その背を、バンと叩いたのは斑鳩・慧斗(中学生ファイアブラッド・dn0011)。
    「ねえわけねーって! 自分とは違ってても、似た道を先に通った奴の話って、聞きたいもんだろ?」
     慧斗はそう言って、ずんずん歩いて行った。
    「まずは挨拶と、状況説明じゃな」
     神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)が、扉を目前にして皆に確認を取る。
     一緒にやってきている、多数のサポート者たちも頷いた。
     倒すしかなければ、そうするしかない。けれど、助けられるものなら――。
     自分たち灼滅者も、彼のようになる可能性をいつでも秘めている。他人事とは思えない。同じように悩んだことがあるから。自分のような辛い思いをする人を増やしたくない。それぞれ、生まれや生い立ち、考え方に違いがあっても、闇に墜ちようとしている者を助けたいという思いは同じだった。
    「説明説明、えーっと……ダークネスと灼滅者ってどんな感じでしたっけ?」
     鍋島・妙子(中学生ストリートファイター・d03753)が、とろんと眠たそうな目で首を傾げる。白いベレー帽を乗せた水色のストレートヘアがさらりと揺れた。
    「確かに、いきなり正確にわかってもらうのはちょっと難しいかも。……でも、意外と何とか出来るモノなんだよ?って教えてあげたいな」
    「うん。蓮夜の不安な気持ち……解るから。僕の、皆の気持ちが彼に伝わる様に。 頑張ろうね!」
     薫凪・燐音(涼影・d00343)に、ヒナタ・グレンツェン(フェニーチェ・d01397)が頷いて。
     灼滅者たちは、扉の前に立った。
     エクスブレインの言っていた通り、コテージの前庭は広く取られていて、戦闘に支障はなさそうだ。
     それでも一応、戦闘になっても目立たないよう、巻き込んだりしないよう、一般人の人払いをしにいく者たちが現場から離れてゆく。
     熊のかぶりものをかぶって茂みに隠れている者も。
     メインの説得役たちは、満を持して呼び鈴を押した。
    「……誰?」
     しばらくして、インターホン越しに声がする。
    「此処まで良く頑張ったね。キミのその力について、知りたくない?」
     ヒナタの語りかけに、少年が明らかに息を呑んだ気配がした。
     しばらくして、コテージの扉が薄く開く。蓮夜が顔を出した。
    「おかしいんだ……夜になると暴れたくなって……暴れると炎が……。君たちは誰? 何か知ってるのか!?」
     年が近いとはいえ、いきなり訪ねてきた初対面の者たちの前にすぐに出てきたのは、よほど不安で、情報が欲しくてたまらないからだろう。
     その蓮夜の目の前。
     ファイアブラッドの力を持つ者たちが作り出した炎が、夕焼け空の下に美しく花開いた。
    「ね、僕達もキミと同じなんだ」
     ヒナタが、腕の中に揺らめく炎を抱きしめるようにしながら、同じイフリートの力に苦しんでいる同士のために、精一杯言葉を紡ぐ。
    「そう。わたしたちは連夜くんと同じ炎の獣、イフリートの力を持つ人間なの。 連夜くんはひとりぼっちじゃないよ、みーんなそう……衝動を乗り越えて今ここに立ってる」
     結祈が、炎を吹き出す両腕を広げ、共に立つ仲間たちを蓮夜に向かって示す。
    「イフリート……?」
    「そうだ。お前の中には邪悪な力を持ったお前がいる。今、お前は邪悪な自分と戦っているんだ」
     灰色の瞳に炎を映して、皐月が頷いた。
    「イフリートって、よくゲームなんかに出てくる……?」
     信じられないといったような声音で呟きながらも、蓮夜はどこか腑に落ちたような顔をしている。異常な事態を実際に体験し続けてきたのだ。自分が作り出すのと似た炎を見せられ、それが「ありうる」ことだと説明されれば、理解も早い。
    「周囲への影響、破壊衝動の恐怖。辛かったじゃろうな……しかし、安心するがよい。そなたの内なる獣は御すことができる。ここにおる者は皆、同じような境遇を乗り越えてきたのじゃから」
     美沙の言葉に、蓮夜の瞳に光が宿る。
    「本当に!?」
    「普通なら自分の中の邪悪には対抗できない。すぐに怪物になってしまう。だがお前は戦えている。自分の中の邪悪な力を制御できる素質がある」
     皐月が大きく頷いた。蓮夜はほっと表情を緩めて、しかしすぐに沈んだ。
    「素質なんて、あるとは思えないよ……だって、すごく怖い」
     イフリートの力に翻弄されている最中なのだ。素質があると言われても、すぐに信じられないのも無理はないだろう。
    「私は鍋島妙子と申します。能力の方はちょっとあなたとは違いますが同じ様な境遇です」
     妙子が前に進み出て、軽く自己紹介をしてから説得を続けた。
    「その力はとても強い物ですが大切なものを傷付けたくないと考える貴方ならば制御できるはずですよ」
     安心させるように、柔らかく、妙子は語りかける。
    「うん、だいじょうぶ、此処まで頑張ったキミならきっと、制御できる!」
    「制御って……どうやって!? それが出来たら苦労しないよ……!」
     ヒナタに、蓮夜は激しく頭を振って叫んだ。
    (「説得か……俺だって迷ってるのに……諭すなんておこがましいにも程がある……けど……」)
     飛鳥は唇を噛み締めて、蓮夜の混乱を見守っていた。まだ一般人とはいえダークネスになろうとしているせいだろう、テレパスを使っても蓮夜の表層思考はよくわからない。言葉と言葉をぶつけ合うしかないようだ。飛鳥は意を決し、そっと語りかけ始めた。
    「君には守りたいものある?」
     飛鳥に、蓮夜ははっと顔を向ける。
    「守りたい、もの……」
    「俺の守りたかったものは全て奪われてしまった。残ったのはこの復讐心だけ……。でも君にはまだ希望がある。 諦めて欲しくない。俺みたいにはならないで……」
     搾り出すような飛鳥の言葉に、感じるものがあったのだろう。
    「わかった……諦めない。でも、どうすればいいのか……」
     蓮夜は空を見上げた。刻々と夕焼けの色は濃くなる。夜が近づいている。獣の夜が。
    「どうしたら、誰も傷つけずにすむのか……」
    「その優しさがあるなら大丈夫――」
    「……ええ。大丈夫です。周囲を気遣って一人を選ぶ事が出来た、貴方なら大丈夫」
     燐音が力強く、菘が優しく、不安げな蓮夜に告げる。
    「正直に言ってしまえば貴方は危険な状態です。――だけど、安心して下さい」
     菘は、明るい笑顔で蓮夜を勇気付けるように更に付け加えた。
    「私達が貴方を助けます、その為に来ましたから!」
     蓮夜が、大きく目を見開く。
    「助けて……くれるの? 本当に?」
    「たとえ貴方が闇落ちしても絶対に連れ戻して見せます、学園でこれから貴方が出会う仲間もそう言うはずです」
     妙子が頷いた。
    「学園? 仲間? 君たち以外にも、たくさん、僕みたいな人がいるってこと……?」
     蓮夜が、ゆっくりと扉から出て、前庭に降りてくる。
     周囲を見回せば。メインの9人に加えて、多くの人影。
    「そう! そしてね、その力、護る為に使う事が出来るんだよ?」
    「…………僕もそうなりたい。傷つけるより、護りたい」
     燐音に、ふらふらと歩み寄ろうとして、しかし蓮夜は足を止めた。
    「でも、護るより……壊すほうが楽しくないかなあ……?」
     ゆらり。首を傾げれば、瞳には理性を失った光。
    「違う! 誰も、何も傷つけたくない。護りたいのに、だめだ、でも、燃やしたい……思いっきり!」
     おぉおおおおお!
     蓮夜の喉からほとばしったのは、獣の叫び。
    「……こっから先は力勝負だな」
     慧斗が身構える。
    「俺もまた、俺の中の邪悪な炎と戦い、打ち勝った。お前も、勝てる。自分を信じるんだ。――さあ、来い。その衝動は俺たちが受け止めてやる」
     皐月がスレイヤーカードを手に取った。
    「響かせて」
     飛鳥が、カードに封じていた力を解放する。
    「わたし達自身があなたの希望に、標になりたい!」
     結祈が日本刀と無敵斬艦刀を2刀で構えた。
     灼滅者たちが、次々と身にまとうは闇を灼滅するための道具。
     今は、蓮夜という殻を食い破って外に出てこようとしている闇を、滅するための。
    「よいか、心を強く持つのじゃ。そなたには守りたいものがある。強く願う想いがある。その光を抱きたいのならば、掴み取るようもがくがよい! 歯を食いしばれ、顔を上げよ、手を伸ばせ!」
     後衛、メディックの配置から語りかけた美沙への返事は、地が震えるかと思われるほどの咆哮。
    「そなたが望むのであれば、我らは必ず力となろう。さぁ、闇に屈さず、恐れず、両の足で立ち上がるのじゃ!」
     怯まず、美沙は天星弓を構えた。
            
    ●炎の戦い
     火をまとった腕を、蓮夜が振りかざす。激しい炎の奔流が、クラッシャーたちを襲った。
    「キミの想い、全部受け止めてみせるよ! だから、蓮夜、思いっきりぶつかっておいで!」
     ヒナタは襲い来る炎の中を駆け、縛霊手に己が炎を纏わせて叩き込む。
     美沙の吹かせる清めの風がすかさず前列を包み込んで癒した。
     説得が功を奏しているのか、ダークネス・イフリートそのものの攻撃力よりはかなり弱いと感じられる。それでもメディックが美沙1人ではまかなえない分は、サポート者たちが次々と回復を投げてくれた。
     薄闇を割き、灼滅者たちを癒す光条。天使のような歌声。温かな炎。清らかな優しい風。
    「援護ありがと!」
    「お任せください!」
     燐音が手を振れば、サポート者たちの中から力強い返事。
     薄暗い中を明かりで照らしてくれている者もいる。
    「さあ、実技の時間(ヒーロータイム)さ」
     ディフェンダーとして動いてくれる者たちも。
    (「戦い方だって、闇雲に突っ込むだけじゃない。 一人じゃないって判ったら、誰かの為に動けるし……思い通りにいかない事も出てくるかもだけど、それだから人生面白い訳だしっ!」)
     燐音は援護の手と、役割分担とを心強く思いながら、自分は自分のするべきことに専念しようと護符揃えから1枚、心を惑わせる札を投げた。
    「恐れないでその力、諦めないで自分を信じて! 連夜くんの不安な気持ちとかしてあげる、この炎で!」
     結祈が、自分も蓮夜と同じだと訴えるように炎をほとばしらせる。
     戦いが長く続く予感は、最初からなかった。
     自分が何者であるかを知り、同じ炎を身の内に持ちながらも人の心と姿を失わないでいる灼滅者たちと出会い、その上、力を良い方向に使うこともできるという希望までもたらされた。
     蓮夜を苛んできた闇の力は、それらによって抑えられている。
     それでも燃え上がる、イフリートの炎、炎、炎。
     飛鳥の解体ナイフが、蓮夜の纏う炎をジグザグに割く。
    「見切られてるよ、他のサイキックを使って!」
    「今です!」
    「わかった、サンキュー!」
     隣と背後からのアドバイスに従って、慧斗が斬り込んでいった。
    「お前の炎は受け止めた! 次はお前が、俺の炎を受け止めろ!」
     皐月が、己が炎を叩き込む。
    「貴方が、獣に負ける道理なんてありません。私たちが獣を倒してあげます!」
     菘が日本刀を構えながら、中衛から思い切って蓮夜の死角へと飛び込んでいった。
     続いて妙子が、鼻歌交じりに連夜の懐へと飛び込んで。
    「いい加減に目を覚まし無さいっ!」
     ふらついている少年の胸元に、バトルオーラを纏った拳で容赦なく手加減攻撃。
     戦いは終わった。
            
    ●湖畔にて
    「さぁ、一人の日々は今日で最後ですよ!」
     菘の声で、蓮夜は目を覚ました。
    「おかえりなさい。そしてようこそ。超能力の嘘みたいな本当の世界へ。わたし達は灼滅者」
     ゆっくりと上半身を起こした蓮夜に、結祈が手を差し伸べる。
    「しゃくめつしゃ……?」
    「武蔵坂学園に属す、闇をもって闇を誅する者じゃ。もしそなたがよいのであれば、我らと共に歩まぬか?  世界を支配する闇、それを討ち祓いたいと願うのであれば」
     首を傾げた蓮夜に、美沙が頷いた。
    「討ち払う……」
    「ええ! わたし達と一緒に、世界救ってみませんか?」
     結祈は蓮夜を立ち上がらせてやりながら、にっこり笑った。
    「私達の学園はそういう人達が集まる所なんです。ね、楽しそうでしょう? 何たってここに居るか弱い乙女達に出来ているんですから貴方にも出来ると思いませんか?」
    「か弱い……? なんかぶっとばされたような記憶があるようなないような……」
     妙子には、不思議そうに首を傾げた蓮夜だったが、足元で「ナノッ」と鳴いたナノナノに、表情がほころぶ。
    「この可愛いのも、君たちの『力』なんだ……え? そのバイクとわんこも? へえ、サーヴァントって言うんだ……」
     学園に、かなり心惹かれるものができたらしい。
    「炎は周囲を焼き尽くすだけのものじゃない。お前の炎も周りを暖め、照らす炎になれる」
    「なれると、いいな」
     皐月に、蓮夜は頷いた。
    「ね、蓮夜も気晴らしにどう? 風が気持ちいよー?」
     ヒナタが、湖畔の方向へと駆け出して行った。
    「ふぅ。まだ残暑厳しい季節じゃが、確かに避暑地だけあって風が心地よいな」
     美沙は優雅に歩いて、湖へと続く森の小路へ。
    「色んな秋が待ってるから、楽しまなきゃ損だよ?  所で、蓮夜君は何の秋派?」
     燐音が蓮夜の背を押すようにしてヒナタたちを追いかけると。
     ぐう。蓮夜の腹が鳴った。
    「食欲かな」
     苦笑した蓮夜に、お茶とお菓子を用意していた者がマドレーヌを渡した。
     湖が夕日を映して染まった、まるで有名画家の一枚絵のような光景の中に、飛鳥のヴァイオリンの音色が切なく響く。
     傷つけたくない、傷つけるためじゃない、護りたい、護るために。そんな思いの篭った歌声を、ヴァイオリンに合わせて誰かが歌っている。
     静かな、優しい時間。
     やがて空から残照が消えてゆき、紺色の夜空に一番星を見つけて、上がる歓声。
    「よかった。こんなに静かな、楽しい夜を、また迎えられるなんて夢みたいだ。本当にありがとう」
     皆と一緒に星を見上げた、蓮夜の目には涙が光っている。
    「今夜は、家に帰るよ。久しぶりに、家族皆で晩御飯を食べたい」
     蓮夜の笑顔に、もう灼熱の獣の狂気は宿っていなかった。

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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