クワイを食わせて世界征服!

     ここは、埼玉にある高校の体育館。
     放課後、卓球部員達がラリーを続けていた。
     しかし不意に変な音。それもそのはず、今打ち返したのはボールではなく、
    「サトイモ?」
    「違う! クワイじゃ!」
     現れたのは、丸々とした小柄な男性老人。その額から、奇妙な角が生えている。
     よく見れば、打ち返したボール……クワイにも、同様の角がある。
    「クワイ? ああ、おせちとかの。知ってる知ってる」
    「さすが越谷の若者、合格じゃ! ほれ食え!」
    「むぐっ!?」
     老人から口にクワイをねじ込まれた部員の額から、角がにょきっ。
    「クワイ団に有望な新人がまた1人……ライバル広島には負けないぞい!」
     その様子を陰から見つめる者が1人いた。
    「怪人を止めるのがヒーローの役目……けど、無謀な戦いを挑むのは勇気とは言えないさね!」
     ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)は、溢れる越谷愛を抑え、学園へと向かうのだった!

    「という訳で、皆にはこの怪人の灼滅を頼みたいのだ。クワイについては、ゼアラム先輩が説明してくれる」
     初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が、傍らのゼアラムを促す。
    「任せるさね。クワイとは!」
     東は埼玉、西は広島で主に生産されている野菜である。ビジュアル的には、角のような芽の生えたサトイモ。
     角に見えるのは塊茎と呼ばれるもの。そしてクワイ怪人が広島をライバル視しているのは、埼玉と生産量1位を競っているかららしい。
    「煮てよし、焼いてよし、さらには揚げてよしと、色々調理できるさね」
    「おいしそう……ご、ごほん!」
     誤魔化す杏。
     クワイによる日本、そして世界制覇のため、クワイ怪人は前途有望な若者をスカウトしている。配下とした生徒を、クワイ団と名付けて。
     クワイとの丸さつながりか、球技の部活に勤しむ生徒ばかりを狙う。身体能力の高さに目を付けているとすれば、あながち的外れともいえないが。
    「というわけで、皆は越谷市内の学校に赴き、球技をして欲しい。クワイ怪人がやってくるはずだ」
     クワイ怪人が出現するのは、早朝か放課後。ちょうど部活動の練習時間である。
     怪人はご当地ヒーローのサイキックはもちろん、その特徴的な角を生かし、バベルブレイカーのサイキックをも操る。小柄な老人とはいえ、あなどれない。
     クワイ団……配下として、強化一般人の少年を3人連れている。ただし彼らは、KOすれば正気に戻す事ができるはずだ。
    「食べ物を世界征服の道具にするとは許せんな。頑張ってこらしめてやってくれ!」
     頼むぞ、と杏は皆を送り出した。


    参加者
    天津・麻羅(神・d00345)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    マリーゴールド・スクラロース(中学生ファイアブラッド・d04680)
    遠野・潮(悪喰・d10447)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    蓮条・優希(星の入東風・d17218)
    ペーニャ・パールヴァティー(へっぽこサロード奏者・d22587)

    ■リプレイ

    ●即席! 球技大会!
     放課後、越谷の学校に、一行はこっそり入り込む。
     天津・麻羅(神・d00345)や遠野・潮(悪喰・d10447)のプラチナチケットのお陰もあり、指定の制服姿の赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)も自然に溶け込んでいる。
    「菜々花、今日はくわいだって」
    「ナノ~?」
     マリーゴールド・スクラロース(中学生ファイアブラッド・d04680)が言うと、ナノナノの菜々花が「それなあに~?」という感じで体を傾ける。
    「私も食べたことないけど、あんまり美味しそうじゃないかも?」
     ならいいや~とばかり、興味なさげにくるくる回る菜々花。
     人払いが済むと、布都乃が邪魔になりそうなものをグラウンドの端に寄せていく。
    「よーし、練習試合に向けて、声上げていくぞ!」
    「それでは、クワイボール! いや、プレイボール!」
     蓮条・優希(星の入東風・d17218)が醸し出した部活っぽい雰囲気を、ペーニャ・パールヴァティー(へっぽこサロード奏者・d22587)が、一瞬で凍り付かせた。
    「痛たっ! ちょっ、何するんですか!」
     猫パンチで突っ込んだのは、ウイングキャット・バーナーズ卿。その様子は、主従が逆転しているよう。
    「ま、まあ張り切っていこうかー!」
     バットを振り上げる崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)は、赤い野球帽に野球のユニフォーム姿だ。ザ・赤○ル。
    「いいねその恰好、やきうっぽい」
     ナノナノの軍師殿と投げ込みを始める、ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)。
     ぱしん、かきん、と野球練習に勤しむ一同。その様子を、麻羅は体育座りで眺める。
    「この体格で野球は厳しいのう……ん?」
     楽し気な声に振り向くと、マリーゴールドが菜々花とテニスのラリーをしていた。
    「菜々花、いくよ~」
    「ナノ~」
    「その手もあったのう」
     そんな青春謳歌っぽい風景。
     潮のクリーンヒットが、あらぬ方向へと飛んでいく。
    「悪い、ちょっと飛び過ぎた」
    「よし、任せろ潮……おっ?」
     キャッチしたボールを見て、ちょっと驚く優希。
     ボールだと思ったらクワイだった。
    「いつの間に……」
    「これぞクワイのイリュージョン、つまりクワイリュージョン!」
     グラウンドに響く謎の声!

    ●クワイ、コワイ!
     声の正体は、もちろんクワイ怪人。
     従えた3人の少年と共に、びしっ、とポーズ!
    「球技を制するものはクワイを制す! そこの若人達よ、わしとともに天下を取ろうぞ!」
    「近所のおっちゃんから100年に1人の逸材と言われてた気がする私をスカウトに来るとは、見る目があるじゃあないですか。任せて下さい、ホームラン量産しますよ」
    「いや野球せんし。クワイ団だし」
     自信満々のジュラルに、クワイ怪人が首を振った。
    「まあ、おぬしらが加われば野球も出来るがのう。越谷クワイイーターズ……とかのう!」
     びしゅっ、とクワイ怪人がクワイを投げる。強肩だ。
     しかしそれを、潮がキャッチ。立派な芽の出たクワイをしげしげと見つめて、
    「俺はクワイを味わった事ねぇんだが、アンタ一押しの調理法はどんな奴だ?」
    「そうじゃな、この年になると揚げ物はキツイでな。炊き込みご飯など美味いぞ?」
    「ほう……成程。他には?」
     次々飛び出すメニューに、ふむふむ、と頷く潮。
    「これは勉強になる……試してみてぇな」
     作り方を聞いているだけで、優希の食欲も刺激される。
    (……腹減ってきたな。夕飯は煮物にしよう)
    「っつーか、素直に料理で攻めりゃいいだろ。球技となんか組み合わせてねえで、正攻法でいけばもっと理解者も増え……ねえか」
     布都乃のツッコミの勢いがしぼむ。どっちにしろ、強引なやり方なら同じ事。
    「さあ立ち上がれ若人達、クワイを世界の主食にするために!」
    「ビークワイエット!」
     クワッ! と目を見開いたペーニャに、怪人も思わず、びくっ。
    「とりあえず落ち着け、という意味らしいですね……あいたっ!?」
     バーナーズ卿のお仕置き再び。
    「え? お前こそ黙れですって? ああ、クワイ(飼い)猫に手をクワイ(噛)まれるとはこの事! クワイ(可哀)そうな私……しくしく……いたっいたっあいたっ!?」
     スリーコンボ!
    「えーと、いいじゃろうか?」
    「どうぞどうぞ」
     こほん、と咳払いして場の空気をリセット。
    「さあ、クワイを食べてクワイ団に入るのじゃ!」
    「そうはいかない! クワイ生産量全国8割を誇る広島のご当地ヒーローニシキゴイキッド! クワイを悪用する怪人を倒す為、此処に参上!」
     軍服に甲冑姿に変じた來鯉が、名乗りを上げる。
    「クワイは揚げてもサラダにしても美味しい! そんなものを世界征服に使うあんたは、絶対にぶっ倒す! ゼアラムにーちゃんの分もな!」
    「そしてわしの名は天津麻羅、高天原の神(自称)! この地の民を誑かす邪神めが、このわしが成敗してやるのじゃっ!」
    「じゃ、邪神とな? 一応怪人なのじゃが……」
    「問答無用!」
     神の前では怪人も形無しであった。自称だが。

    ●灼滅者の3ターン(じゃ出来ない)クッキング
    「クワイ団よ! その力を示すのじゃ!」
    「「「クワー!」」」
     その奇声は掛け声か。
     卓球部員がラケットでマリーゴールドを襲えば、サッカー部員のシュートが優希目がけて放たれ、ゴルフ部員のゴルフクラブが麻羅を狙う。
     若さ溢れるクワイ団を迎え撃つのは、ジュラルと來鯉のビーム。
     軍師殿のたつまきが敵を飲み込み、霊犬のミッキーの刀がラケットを跳ね除ける。
     もちろん、クワイ怪人への挑発も忘れないジュラル達。
    「よく見ると生産量1位と2位の間にとてつもない差がありますよね? これでライバルとか言っちゃうのはちょっとおこがましいんじゃないですかねぇ」
    「そんな現状でライバルってよく思えるね?」
    「それはでっちあげじゃ! 本当は10年連続埼玉が生産量1位! ソースはわし!」
    「でっちあげはどっちなの?」
     菜々花のしゃぼん玉が弾けた直後、マリーゴールドの弾丸が卓球部員をKOする。
    「はッ、クワイ団も大した事ねぇな!」
     挑発めいた声を上げつつ、布都乃は魔霧で仲間をフォロー。そしてウイングキャットのサヤが、キャットな魔法でクワイ団を翻弄する。
     浮足立つ3人に、潮のダイダロスベルトが巻き付いた。
    「これでまず1人目だな」
     きゅう、とサッカー部員が昏倒。それに続けとばかり、ペーニャの奏でるビートが、ゴルフ部員の体を震わせる。
    「大事な道具を乱暴に使っちゃダメだろ」
     優希が、槍でゴルフクラブを打ち払った。すかさず麻羅が間合いに飛び込む。
    「クワイじゃとの? ならわしはコレじゃ!!」
     ぐわしっ! 派手な効果音とともに手でポーズ。
    「ダジャレ!? 若い身空でよく知っとるのう、それ」
    「神じゃからな!」
     怪人に言い返し、ロッドのスイングでゴルフ部員を撃破する麻羅。
    「おのれ、まだ芽が出る前のクワイ団員を~!」
     出てないのかよ。
    「この角は飾りではないぞい!」
     クワイ怪人、茎をドリルに見立て、來鯉を貫く!
     激しい攻防が続く中、布都乃が元クワイ団を安全な場所へと連れ出す。
    「これ以上戦いに巻き込むのもしのびねぇしな……っと!」
     行く手を遮る怪人。しかし、サヤの猫パンチが活路を開く。絶妙のコンビネーションだ。
     だが、コンビネーションなら、他の仲間も負けてはいない。
    「あ、生で食うのは抵抗あるんで、お土産用のクワイをください」
    「クワイ団に入ってくれたらのう!」
     ジュラルがオーラキャノンを放つ後方で、軍師殿や菜々花が來鯉を手当てする。
    「せっかく調理法を教えて貰った礼が、こんな手荒で済まないが」
     潮が縛霊撃を繰り出し、怪人の自由を奪う。
    「せめてクワイアピールの1つもしてくれよ?」
    「く、クワイ、うまい!」
     もがく怪人をボールに見立て、マリーゴールドが交通標識で打撃する。
    「タマネギもジャガイモも芽が出たら美味しくなくなるのに、そんな芽を伸ばして良いことあるんですか?」
    「ナノナノ?」
     怪人は、放物線を描いて飛ばされながら、
    「このそそり立つ芽こそクワイの証!」
    「軍団とか作ってる暇があったら、宅地造成で減ってる生産量を改善する方法を考えたり、特産として世の中に知ってもらう努力をすべきだろ!」
     怪人の落下地点で、シールドを構えた來鯉が待つ。
    「ライバルを名乗るなら、切磋琢磨し合えるような事をしろよ!」
    「うぬぬ……それが出来たら苦労せんのじゃ!」
     またも弾き飛ばされたクワイ怪人は、その勢いを生かし、高く跳び上がった。
    「クワイクエイクじゃーっ!」
     ずぅん! 角が地面に突き刺さる。その震動が、灼滅者達の体を激しく揺さぶる。
    「やりますね……でも、駄洒落は寒くても、攻撃は熱いですよ」
    「ご自慢の角をへしおってやるぜ!」
     ペーニャに蹴り飛ばされた怪人が、火に包まれる。
     必殺シュートめいた姿と化した怪人に追いすがると、ゼロ距離から布都乃が真紅の一刀。
     角を折られ、怪人はきりきり舞い。そこに、麻羅が拳を連打、連打!
    「地元の美味いもんなら、俺だって皆に知って貰いたいと思う。たださ、來鯉の言う通り、もっと誇れるやり方があるだろう」
     妖槍・碧風を腕に取り込む優希。
    「野分をやる、吹っ飛べっ!」
     融合した大刀の一撃に、クワイ怪人はひとたまりもなかった。
    「クワイは煮てよし焼いてよし……爆発してもよし、じゃ!」
     派手な爆炎を噴いて、クワイ怪人が散る。
     美味しそうな匂いがした。

    ●クワイ団、解散!
    「ぷはー」
     首尾よく勝てたよ、トマトジュースが美味い。
    「ヒーローってのは怪人を倒したらクールに去っていくものだ……」
     ジュラルは言う。そのココロは、
    「うん、まあだからアレだよ。後始末は任せた。サラバダー」
     しゅっ、と手を挙げると、颯爽とグラウンドを駆けていくジュラル。
    「こらあ!」
    「HAHAHA!」
     始まる追いかけっこを眺めながら、ペーニャはつぶやく。
    「クワイ怪人、強敵でした……煮ても揚げてもよしとは、天は煮物(二物)を与えたのですね……って、痛たた!」
     ペーニャを襲うお仕置き。皆を襲う既視感。
    「なんにしても、怪人さんも学校を巻き込むのはやめて欲しいね」
    「ナノナノ」
     マリーゴールドが、気絶中の元クワイ団員を運ぶ。向かうは保健室。
    「おっとスクラロース、1人で無理すんなよ?」
     よいしょっ、と布都乃も担ぎ上げる。
     この生徒達も意識を取り戻せば、元通り部活に取り組めるだろう。それぞれの分野で立派な芽を出して欲しいものである。
    「さて、こっちはさっさと校庭綺麗にしちまおうぜ」
     後片付けは大事。用具が仕舞われている倉庫に走る潮。
    「出来るだけ悪影響は少なくしないとな」
    「誰か怪我なんてしたら大変だしね」
     優希や來鯉も、それに続く。
    「わしも手伝いたいところじゃが、この小さい体では一苦労じゃからのう」
     その代わりにと、麻羅が声を張る。
    「皆、頑張るのじゃ! わしが応援しておれば千人力じゃ!」
     声援を受けつつ、整地する一同。
     明日からも生徒達が青春の汗を流せるよう、願いながら。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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