罪は金より重い

    作者:飛翔優

    ●犯罪者達の集う場所
     男は、苦虫を噛み潰したような顔をしながらビデオを見ていた。
     内容は、自分が民家の壁にチョークで落書きをする様子。
     自ら撮影した、犯罪の記録。
    「……さて、ご自身の犯罪の記録を目の当たりにして、どのような気分ですかな?」
     男は声に反応し、視線を右へと向けていく。
     ひときわ豪奢なソファに、身奇麗な男が腰掛けていた。
     視線を向けたのを反応と捉えたのだろう。身奇麗な男が、さらなる言葉を発していく。
    「さて、当カジノでは貴方の犯したこの罪に対し、チップを貸し出しました。しかし、貴方はチップを溶かしてしまった様子。さてさて、当店としてはチップを返還していただけない以上、警察組織に通報させていただく義務もあるのですが……」
    「待ってくれ! ……金なら払う。だから、警察への連絡だけは……」
     慌てた様子で、男は身奇麗な男に懇願した。
     身奇麗な男はにこやかな笑みを崩さぬまま、首を横にふっていく。
    「残念ながら、当店はお客様からの金銭を受け付けてはおりません。ですが……」
     言葉を止め、一枚の紙を取り出した。
    「こちらに書いてある契約書の通り、当店では犯罪の記録とチップを交換させて頂いております。ですから……後は、わかりますね」
    「……」
    「貴方が大きな罪を犯せば、それだけ貸し出すことのできるチップも多くなります。そうすれば、勝つ可能性も上がります。ですから……」
     瞳を伏せると共に、身奇麗な男は立ち上がった。
     俯く男へと歩み寄り、耳元にささやきかけていく。
    「貴方に与えられた選択肢は二つ。警察組織への通報を受け入れ今の地位、名誉を失うか。さらなる罪を犯し、それによる対価でこのたびの罪を買い戻し、さらなる夢を追い求めるか……当店は、お客様がお客様であるかぎり、その夢を応援するものです……」

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、真剣な表情のまま切り出した。
     鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)が、札幌で六六六人衆・斬新京一郎の新たな動きを見つけ出したと。
    「どうも彼は、札幌のすすきので地下カジノを運営しているようですね」
     斬新の地下カジノは斬新だけに、普通のカジノではない。客に犯罪をさせて、その犯罪をチップにカジノを遊ばせている様子。
     しかも、小学生から参加可能というシステムだ。
    「カジノで遊ぶために罪を犯させていくことで一般人を闇堕ちさせたり、犯罪者として優秀な一般人の配下を手に入れようとしているのかもしれません」
     このカジノを潰すため、客としてカジノに入り込み、支配人を務めている六六六人衆と配下のアンデッドの灼滅をお願いしたい。
     このたびは、そんな形の依頼となる。
    「場所はすすきののここ。かつては地下バーが営まれていた場所のようですね」
     広さは客が二十五人ほども入ればいっぱいいっぱい。ゲームはルーレットにクローズドポーカー、ブラックジャックとなっている。
    「まずはこの地下カジノに向かってください。そうすれば、大きなチェックもなく入れるはずです。そして……」
     葉月はどことなく申し訳無さそうな表情を浮かべながら、続けていく。
    「ほんの小さなこと……そう、小さなことでいいんです。それこそ、公共物を小さく傷つけたり自転車で短距離だけ逆走したり……そんな光景をビデオなどに収め、犯罪の証拠として提出し、チップを獲得してください。そうして遊んでいるうちに、支配人である六六六人衆・六三一のビリオンと接触できる機会が訪れるはずです」
     もっとも簡単なのは、チップを失うこと。チップを失ったなら、ビリオンは黒服と一緒に失った者を別室へ連れて行こうとするためだ。
     いずれの状況にせよ逃さぬよう取り囲む事ができたならこっちのもの。後は戦いを挑み、倒せば良い。
    「周囲にはカジノで遊んでいる一般の方々もいるでしょうが、異変を感じたならすぐに逃げ出すかと思いますので、大きな配慮は必要ないと思われます。ただ、可能ならば……もう、こういうカジノでは遊ばないと説得してください」
     そうして戦う事になる相手はビリオンの他、特殊メイクを施し黒服に分しているアンデッドが八体。この黒服アンデッドたちも異変を感じたならばまずはミリオンの元に集うため、一般人への危害を懸念する必要はない。
     ビリオンの姿は顔立ちの整っている身奇麗な男。力量は一人でも灼滅者八人を相手取れる程度に高い。
     戦闘の際は後方からの狙い撃ちを得意とし、避けることを許さぬダイス投げ。コインの雨を降らせ複数人を何度も傷つける。カードを投擲し防具ごと切り裂く……と言ったものを使い分けてくる。また、全て殺傷力が高いという特徴も持つ。
     一方、黒服アンデッドたち八体は力量的には有象無象。ただし、少々タフな上に身を固め身を癒やす、殴りかかり加護を砕く、抱え上げて拘束する……と言った技を使いながらビリオンへの攻撃を防いでくる。
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図などを手渡した後、瞳を軽く伏せたまま続けていく。
    「必要とはいえ、小さくても良いとはいえ、罪を願うのは正直、心苦しいです。ですが、本社を潰されてなお、斬新な商売を始めていく斬新京一郎はそれ以上に厄介。叩き潰すためにも、どうか……」
     頭を下げた後、それから……と声音を切り替えた。
    「……場所がすすきの、というのも気になります。SNK六六六のアリエル・シャボリーヌの拠点でもありますし……あるいは、この地下カジノを通じて接触を考えているのかもしれません。ですが……」
     もっとも、と、締めくくりへと移行した。
    「まず、考えなくてはならないのは、カジノを解散させること。どうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)
    ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    ユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)

    ■リプレイ

    ●欲に溢れる地下カジノ
     目の覚めるような冷たい空気に満たされている、北海道すすきのの街。かつて地下バーが営まれていたフロアへと繋がる階段を三名の取り巻きと共に降りた両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)は、玄関口の前で撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)と遭遇した。
    「おや、これはこれは撫桐の坊っちゃん。こんな所にお小遣い稼ぎかな?」
    「厭な奴と会っちまいやしたぜ」
     敵意を隠そうともせず、娑婆蔵は自身の取り巻きに視線を向けていく。
     式夜は肩をすくめ、ドアノブへと手をかけた。
     ひねると共に、娑婆蔵を一瞥。にやにや笑いを浮かべながら、取り巻きとともに室内へと踏み込んだ。
     玉の転がる音やカードをシャッフルする軽快な音色が、悲喜こもごもな言の葉が聞こえて来る。
     清涼だった外の空気をかき消すようなお香の匂いも香ってくる。
     臆することなく淡い光に満ちるカジノホールに歩を進めたなら、一人の黒服が近づいてきた。
    「いやぁ、普段は録画なんかしてないから急造物で失礼」
     チップ交換を促され、式夜たちはビデオを提出した。
     続けて、娑婆蔵たちもビデオを提出した。
     路地裏で行われた女性への脅迫。女の子へのカツアゲ。少女からぬいぐるみを取り上げはさみで切り刻む。61点のテストに1の線を加えて64点にする。ゴミのポイ捨て。壁に大きく烏丸参上と落書きしている様子。自販機を蹴っている様。商店街に停めてある自転車のサドルをブロッコリーにすり替える鬼のような所業……。
     一部小首を傾げられることもあったけれど、内容を精査すれば脅迫や恐喝から文書偽造など、罪に問えないこともない。
     ほぼやらせだということもばれることはなく、両者はチップを獲得。ゲームの選定を開始した。
     暫くの間、数人の一般客に混じる形で、コインを減らさぬ形で思い思いのゲームを楽しんだ。
     さなかにはホールの状況を確認。
     ルーレット台がひとつ、ポーカーテーブルがひとつ、ブラックジャックテーブルが二つ。
     ディーラーは全て黒服が行っていた。
     その他、最奥にある扉の前には二人の黒服が門番のように佇んでいた。
     前情報ならば、残る黒服は後二人。居場所は、恐らく扉の向こう……。
     ……今できるかぎりの調査が終わった後、両者はルーレット台の前で遭遇した。
    「今日はよう出会いますねぇ」
    「はっ、ストーカーかよ気持ち悪い」
     娑婆蔵の嫌味に、式夜もまた嫌味で返す。
     静かな火花を散らす中、娑婆蔵がルーレットを指さした。
    「いい加減決着をつけないとあきまへんなぁ……」
     勝負を申し込む、と。
    「外せば終わりの一発勝負! いい加減白黒もとい赤黒きっちり付けてやりまさァ!」
    「そいつは良い、此方の組は黒に全賭けしようか」
     式夜が先手を取りながら、取り巻き達へ視線を向けた。
     受け止め、華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が笑みを返していく。
    「そうですね、ここは豪快に行ってしまいましょう」
    「本当は臆病なのに、無謀だねー」
     ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)はくすくすと笑いながら、娑婆蔵の取り巻き達に挑発的な視線を向けていく。
     視線を受け、烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)は短く言い放った。
    「よく吼えるな」
    「オーオーオー、何見とるんじゃワレー!」
     ユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)もまた、ミケたちを威嚇し始めた。
     さなかには、米田・空子(ご当地メイド・d02362)が娑婆蔵に耳打ちする。
    「若、どうかお気を付けて。あの両角式夜は、悪魔のように頭が切れる男です」
     わかっている、との言葉とともに再び視線を交わし、ルーレット台へと向かっていく両者。
     式夜の後を一歩遅れる形で追いかけながら、ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)は呟いた。
    「……バカばっかり」
     言葉が周囲の喧騒にまぎれて消える頃、互いのチップも出揃った。
     式夜たちが黒で、娑婆蔵が赤。色のない0のマスを除いて考えれば、必ず決着する戦い。
     転がった白玉は外周を滑り、徐々に数字へと向かっていく。
     一度だけ敷居にぶつかりはねた後、入り込んだ色は……。

    ●分断作戦
     玉は赤へと吸い込まれ、式夜たちは全てを失った。
     ディーラーを務めている黒服が合図をするとともに、最奥の扉が開く。
     二人の黒服を連れた小綺麗な男が式夜たちの下へとやって来た。
    「こんにちは、私は当カジノの支配人、ビリオンと申します。どうやらお客様方、チップを失ってしまったご様子。申し訳ございませんが当カジノにもルールがございますので、ご同行願えればと思います。……宮城、鳥取、あなた達も来なさい」
     チップの有無を確認した後、ビリオンは門番を務めていた二人の黒服を呼び寄せた。
     小奇麗な男が先頭に位置し、二人の黒服が左右を固める。もう二人が背中を見張るという形で、式夜たちは最奥の扉へと導かれる。
     扉の先に通路はなく、直接部屋につながっていた。
     豪奢なソファーや調度品の目立つ様子から、うわさに聞く別室。かつては、バーのバックヤードとして存在していた場所なのだろう。
     立ち止まろうとした灼滅者たちは、背後の黒服たちに押され中に入ることを余儀なくされた。。
     扉が閉められていく中、紅緋は軽く周囲を確認。己等の左右に二人。残る二人は部屋には入らず、扉の向こう側で門番を勤め始めているはず……と、思考を開始。
     本来なら、ホールで焚かれていたのは思考を乱すアロマかドラッグ。しかし、本質は黒服たちの匂いを……アンデッドの腐臭を覆い隠すためのもの。
     話に聞いているアンデッド八体のうち、二体はこの別室に、二体は別室への扉を護る門番に。残る四体はおそらく、ホールでディーラーを継続しているのだろう。
     確実に、娑婆蔵たちの行動をアンデッドたちに邪魔されてしまうかもしれない状態。
     ならば……。
    「六六六人衆の序列六三一位、ビリオン」
     奇襲を仕掛けられるタイミングが最善と、紅緋は灼滅者たちにソファに腰掛けるよう促しながらビデオを取り出していたビリオンに敵意を向けていく。
    「……おや?」
     視線を浴びた上で、武装。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
    「……ほう」
     ビリオンが瞳を細めていく中、残る三人も次々と武装。
     切っ先を、ビリオンの側に向かった二体へと向けていく。
     ミルドレッドは蛇腹剣を振り回し、アンデッドたちを切り裂きながら静かな想いを巡らせていく。
     カジノは犯罪を助長するというけれど、リアルに犯罪をやらせるなんて言語道断。こんな所、潰さないと……と。
    「……もう一段」
     刃の奔流として駆けまわる中、鞭のような刃に交えて大鎌を軽くないだ。
     虚空に生み出されし無数の刃が、アンデッドたちを更に傷つけていく。
     一人安全圏内に佇むビリオンは、指を弾いた。
    「どうやら招かれざるお客様だったご様子。ホール内にいる方々もこちらへ集合して下さい」
     言い切るとともに、深呼吸。
     門番を務めていただろうアンデッドたちが扉を開いてきた中、天井に向かって指を弾く。
     無数のコインが、雨あられのごとく前衛陣へと降り注いだ。
     耐えながら、式夜は扉の方角を伺った。
     扉の側に佇みながら、灼滅者たちに仕掛ける機会を伺っている二体のアンデッド。
     扉の向こう側では、門番を務めていたアンデッドが中へ入るのを追いかけようとした仲間がホールのアンデッドたちとかちあい、戦闘が始まっていた。
     意図と違い、こちら側が分断されていた。
    「……合流まで、耐えるぞ」
     時間を稼ぐため、盾領域を広げていく、
     ナノナノのお藤はハートを飛ばし、ミケの体を治療した。
     ミケは右へ、左へと走り回り、ソファに足をかけて跳躍。
     右側のアンデッドの背後へ回りこむとともに、切り上げた!
    「やられたら、やり返す」
     膝から崩れ落ちていくさまを横目に、隣のアンデッドへと視線を移す。
    「次はあなた……ふふ、大丈夫。すぐに殺してあげるから!」
     手に残る感触に深い、深い笑みを浮かべながら、再び広いとは言えない室内を回りだす。
     今はただ、数を減らすしかない。
     ビリオンからの反撃を受けても、最低限の治療で攻めるしかない。
     癒やしきれぬ傷を積み重ねながら、二体目、三体目と打ち倒し――。
    「おまたせいたしやした」
     四体目は、一本のドスに貫かれる形で眠りについた。
     担い手たる娑婆蔵はドスを引き抜くと共に、静かな息を吐いていく。
     残るはビリオン、ただ一人。
     未だ消耗せずに微笑んでいるビリオンとは裏腹に、式夜たち黒組の消耗は……。

     激しいと、空子は娑婆蔵の横をすり抜ける形で駆け出した。
    「メイドバリアっ!」
     ビリオンの投げてきたダイスをメイドのオーラを込めた障壁で受け止め、貫くような衝撃が頬をかすめていく感触を獲得する。
     指で触れれば、薄い傷が生まれていた。
    「大丈夫、皆さんを守ります。誰一人として、倒れさせたりなんかしません!」
     宣言しながら、通さぬとばかりに仁王立ち。
     ビリオンは肩をすくめていく。
    「やれやれ、騒ぎの原因はあなた方でしたか……客に逃げられ、アンデッドたちも失う……いやはや、なんという災難!」
     芝居がかった調子で顔を覆った後、懐に手を入れた。
     すかさず織絵が踏み込んで、バベルブレイカーを横に構えていく。
    「悪いことをしたら殺人鬼が来る。後世に語り継ぎたい常識だな」
     腰を落とし、空子の横を抜ける形で駆けて行く。
    「まずは足だ」
     ビリオンのふくらはぎめがけて突き出すも、軽いステップで交わされた。
     すかさずバベルブレイカーを手元に戻しつつ、足に炎を宿していく。
    「逃がさん!」
    「おっと」
     右手で受け止め、衝撃を最小限度に抑えこまれながらも、焼くことには成功。
     炎に抱かれながらも、ビリオンはコインを天井に向けて投げていく。
     降り注いでいくコインは、軽減してなお浅くはないダメージを前衛陣へと残していく。
     癒やしきれぬダメージが、着実に積み重なる。結果、程なくして空子のナノナノ・白玉ちゃんが束の間の消滅の時を迎えていた。
     ユメもまた全身が訴えてくる痛みをこらえながら、別室中を駆けて行く。
     足に炎を宿した上で飛び上がり、宙返り。
    「アンデッドはね、必ず焼かなきゃなんないの」
     着地とともに、脇腹めがけて後ろ回し蹴りを放っていく。
     誤ることなくぶち当て、よろめいていくビリオンを、強い視線で射抜いた。
    「そしてアンデッドを使う人も、ね!」
    「……やれやれ」
     すぐさま体勢を整えなおしたビリオンは、手元でカードを広げていく。
    「させません!」
     その腕を、紅緋の影が縛り上げた。
    「……」
     力を込めるも振り払われ、カードはユメに向かって放たれる。
     すかさず空子が割り込みその身に受けていく。
     己を含み、痛みを抱えながら戦う仲間たちを支えるため、式夜は歌った。
    「……ったく、随分と仕事熱心なようで」
     ビリオンへの嫌味を交えながら、仲間たちを出来る限り癒していく……。

    ●ギャンブル
     降り注ぐコイン、貫くダイス、切り裂くカード。
     全て、深い傷を残す技。
     合流までにそれらを受け続けていた式夜たち、合流後は仲間を護るように立ちまわってきた空子……計五人の状態は、悪い。
     いつ倒れてしまってもおかしくない状況の中、ミケの額にダイスの角が突き刺さった。
    「っ!」
     のけぞりそうになる体を引き戻し、ミケは口元を持ち上げていく。
    「あはっ、今の痛かったぁ」
     喜びに似た声を上げながら、剣片手に切り込んだ。
     スーツをボロボロにしたビリオンを斜めに切り裂く中、ミルドレッドが大鎌を掲げながら飛び込んだ。
    「まだまだ、これからだよ」
     振り下ろし、ミケのものと合わせバツ印を刻んでいく。
     ビリオンは姿勢を落とし、娑婆蔵から逃れた後、静かな息を吐き出した。
    「ふぅ……」
     ズボンを軽く叩いた後、口を開く。
    「さて、あなた方を殺したい気持ちは私にもありますが……いかんせん、このまま戦っていても益はありません。どうです? 私はこの地下カジノを失った、あなた方は私を逃した……それで、手打ちにするというのは?」
    「まさか!」
     提案は受けられぬと、紅緋が影の縄を放つ。
     ビリオンの胴体を縛り付ける中、織絵が横に踏み込み、ふくらはぎに杭を突き刺した。
    「私たちがここに来た時点で、お前のチップは果ててたんだよ」
    「……」
     ふくらはぎの傷など物ともせず、ビリオンは織絵を影を振りほどきバックステップ。
     ダイスを取り出し、ミルドレッドに向けて投擲。
     途中で急加速するそのダイスを、間に割り込んだ空子が右肩で受け止めた!
    「っ……」
     空子は右肩を抑えながら膝をつき、激しい呼吸を紡ぎだす。
    「まだ……まだです……!」
     呼吸を整えぬままに立ち上がり、なおも仲間を守る構えを取った。
     恐らく、空子は後一撃受けたら倒れてしまう。
     しかし、提案があった以上、ビリオンにとっても辛い状態のはず。もし、余裕が有るのならば、灼滅者たちを殲滅してしまえば良い話なのだから。
     灼滅者たちは攻撃を続けていく。
     ビリオンに、深い傷を刻んでいく
     反撃を前に、空子が、ミルドレッドが、ミケが、紅緋が倒れた。
     逃げることは許さぬと唯一の出入り口を塞ぎ、灼滅者たちは攻撃を続けていく。
     ビリオンがカードを手にした時、娑婆蔵がドスを片手に踏み込んだ。
    「撫で斬りにしてやりまさァ!」
     二人が体勢を崩した上での斬撃は、誤ることなくビリオンの肩へと食いこんでいく。
     更にはユメが背後へと踏み込んだ。
    「行ったでしょ、必ず焼かなきゃいけないって!」
     炎のハイキックを頭にかましたなら、娑婆蔵のドスがさらに食い込み――。
    「……まさか」
     ――限界に経ったのか、ビリオンが倒れ始めていく。
    「ここまでとは……いやはや、戦いというものはまさにギャンブル。いかに優位な状況から始まったとしても、最後にどうなるかはわからない……」
     コインのような音を鳴らしながら消えていくさまを眺め、娑婆蔵は静かな息。
     治療などの事後処理へと移行した。
     被害はあるけれど、カジノを潰しビリオンを灼滅することができた。
     成功を、その胸に抱きながら……。

    作者:飛翔優 重傷:ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803) ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019) 華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) 米田・空子(ご当地メイド・d02362) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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