『軍用レーション怪人』現る!

    作者:氷室凛

     アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)は風の噂でこんな話を耳にした。
     近頃、繁華街で通行人に出くわすたびに軍用レーションを投げつけてくる怪人が出没しているというのだ。
     軍用レーションとは『野戦糧食』などとも呼ばれる軍用の携帯型の食料だ。レトルト形式のものや缶詰など様々なタイプがある。
     怪人は各国の軍用レーションを取り揃えており、乾パン、チョコレート、ビスケット、クラッカー、ハンバーグ、ビーフカレー、チキンステーキ、液状プリン、こんぺいとう……といったものを所持している。
     そして怪人は通行人を見ると物凄い勢いでレーションを投げつけてくるため、近所の一般人達は困惑している。特に缶詰タイプのものは当たると痛いので要注意だ。
     不運にも怪人と鉢合わせてしまった一般人は当然ながら一目散に逃げ出すのだが、怪人はそれを見て軍用レーションの布教が進んでいると思い込んでいる。

    「というわけで、ハタ迷惑な怪人が繁華街で暴れているから灼滅してくれ」
     教室に集まった灼滅者を前に、ヤマトが話を切り出す。
    「今回現れたのは『軍用レーション怪人』。一般人を見かけると問答無用で軍用レーションを次から次へと大量に投げつけまくっているらしい」
     怪人が使用する技はロケットハンマーのサイキックに準拠している。また、怪人は戦闘中に時々軍用レーションを投げつけてくる。
     軍用レーションを広めることで、なんやかんやで最終的に世界制服を目論んでいる、というのは他の怪人達と同じである。
     ヤマトは一同を見回し、最後にこう言い添えた。
    「それじゃ、頼んだぜ。無茶苦茶なご当地怪人だがそれなりに手ごわい相手だ。油断せず現地に向かって欲しい」


    参加者
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    十五夜・名月(月光戦姫プレネルニカ・d16530)
    四季・彩華(自由の銀翼・d17634)
    天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)
    新堂・桃子(鋼鉄の魔法使い・d31218)

    ■リプレイ

    「軍用レーション……ご飯は大好きじゃが、これとは縁はなかったのう。美味いか不味いかは分からんが、この舌で確かめてくれるわっ!」
     怪人が出没している繁華街へ向かう道すがら、アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)は大股で歩きながら息巻いていた。今回出現が確認された怪人は軍用レーションを投げつけてくるというのだ。
    「軍用のレーションを民間人が手に入れるのは難しいらしい。まあそれはそれとして、食べ物は投げつけるものではない!」
     怪人の無粋な行動におかんむりの様子の十五夜・名月(月光戦姫プレネルニカ・d16530)は口をとがらせる。ただ裏を返せば手に入れるのが難しいレーションを大量に入手できるチャンスだ。
    「なぜご当地怪人ってのは頭のネジが一本抜けているような輩が多いのか……というか色んな国のレーションを出してたら、ご当地の意味合いから逸脱するんじゃ……いや、反応しておいてなんだが、ツッコんだら負けかもしれないな……」
     武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)は真顔で呟き首をかしげている。
    「軍用レーションを人に投げてはダメですよね。食べ物は大切にしなくては。缶詰で怪我人が出る前に、何とかしなければなりません」
     ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)は歩きながら辺りを見回している。破天荒なご当地怪人と話し合ってもきっと分かり合うことなど不可能だ。怪人を止めるには実力行使しかない。
     灼滅者達がしばらく繁華街を歩いていると、角を曲がったところで怪人の姿が目に入った。よく見ると片手にレーションらしき物を持っている。
     怪人は灼滅者達のほうに目ざとく気づくと、慌てて身構え大声でこう言った。
    「むむっ、何だ貴様ら……灼滅者か!? 私の邪魔をするつもりなら、今ここで消えてもらうぞ」
     怪人の姿を確認した新堂・桃子(鋼鉄の魔法使い・d31218)はすぐさま殺界形成を発動する。
    「軍用レーションって、結局はただの非常食なんだよね? 本当においしいの?」
     桃子は煽るような口調で言って怪人の注意を引きつける。
     周囲の通行人がESPの効果で遠ざかっていく中、さらにヴァンがサウンドシャッターを発動する。ここは日中の繁華街。場所が場所だけに念を入れておくに越したことはない。
     防音と人払いが完了し、灼滅者達は怪人と向かい合う。
     すると怪人は手にしていたレーション数個をいきなり投げつけてきた。いずれも缶詰タイプのものだった。
     天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)は飛来するレーションをかわし、怪人をびしっと指差して言った。
    「いい? レーション、つまり戦闘糧食は缶詰や……最近ではレトルトも増えてきてるのよ」
     迷彩服を着こみ、普段からレーションを常用するほどのミリタリー好きの京香は、それからレーションの重要さと利便性、種類、各国での違いなどを矢継ぎ早に説明していった。その間、怪人は攻撃する素振りを見せず、したり顔で腕組みをして何度もうなずいていた。
     さらに京香が続ける。
    「――確かに昔は保存の為に味を犠牲にしていたわ。でも今では決してマズいわけじゃないのよ。栄養価の高い非常用のチョコレートとかもあるのよ。そんなものを無暗になげつけるなんて――」
    「はいはーい、ストップストップ!」
     熱く語る京香の話に突然割り込んだのは四季・彩華(自由の銀翼・d17634)だ。
    「いや、まあ携帯食として便利だろうし軍隊の食事としては正しいんだろうけど、普段の食事はきちんと摂らないとダメだよ? でないと落ち着きがなくなって、白目剥いてハイテンションなツッコミを続ける羽目になるからね!」
     彩華は京香のほうを見ながら茶化すように言った。
    「なにをー!?」
     義弟にいいようにからかわれ、京香は顔を真っ赤にして地団太を踏む。
    「レーションは国によって美味しかったりそうじゃなかったりの差が大きいらしいけど……?」
     新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)は助走をつけて跳び、怪人の腹部にグラインドファイアを叩き込んだ。
    「ほら、燃えちゃえ」
     蹴りの勢いで怪人を後方に吹き飛ばし、七葉はストンと地面に着地する。その一撃を合図に、怪人と灼滅者の戦いの火蓋が切って落とされた。

    「とにかく、ダークネスは灼滅しなきゃね」
     桃子は怪人に近づくと腰をかがめた姿勢から抗雷撃を放つ。強烈なアッパーカットを浴びて怪人の体は宙に打ち上げられた。
     だが怪人は空中でくるくると宙返りをすると、大きな木槌を出現させ、木槌を振りかぶりながら桃子のほうへと落下してきた。
    「援護します」
     眼鏡をはずしたヴァンは素早い動きで怪人の死角に回り込み、鞭のような剣をひるがえして刀身を伸ばし怪人を切りつける。ティアーズリッパーをもろに浴びた怪人は体勢を崩して頭から地面に落下した。
    「彩華と京香のふたりと共闘するのは初めてじゃ、張り切っていくぞ!」
     アルカンシェルは意気揚々と駆け出し、螺旋のような捻りを加えた槍を突き出す。しかし怪人は紙一重で回避し、風の渦をまとった槍は怪人の頬をかすめるにとどまった。
    「そういえばアルカンシェルとの共闘って初めてだねぇ……。んー、まあ、普通に戦闘楽しめばいいか!」
     続いて彩華が前に出る。彩華は怪人に走り寄ると、地面を蹴って飛び上がりつつ抗雷撃を怪人の胸に叩き込んだ。彼は先ほどは義姉と恋人に良いところを見せようと張り切っていたものの、結局いつも通り戦いを楽しんでいるようだった。
     再び宙に打ち上げられた怪人は受身を取って着地し、灼滅者達に向けてレーションをいくつか投げつけた。
     つい手を伸ばしかけた勇也であったが、彼は殺気を感じたためとっさに横に跳んだ。次の瞬間、先ほどまで勇也が立っていた場所に木槌が振り下ろされた。
     衝撃でアスファルトの路面が砕け亀裂が走る。
    「おっと……危ないな」
     勇也は片手をかざして鏖殺領域を発動した。その手の平からどす黒い殺気が勢いよく放出され、怪人の体を覆い尽くしていく。
    「ん、砕けて」
     そして七葉がマテリアルロッドを振りかざし、黒い殺気をなぎ払いつつ怪人の頭にフォースブレイクを放った。攻撃を終えた七葉は素早く距離を取る。
     一方、怪人のほうも負けじと反撃に出た。怪人は武器を握り直すと、前方に突っ込んで体を半回転させ木槌でアルカンシェルの体を横からなぎ払った。
     アルカンシェルは派手に吹き飛ばされたが、後列にいた京香がその体を抱きかかえて受け止める。京香は片手でアルカンシェルを抱きとめたまま、もう片方の手でガトリングガンを構え、ブレイジングバーストを放つ。
     射撃音が続けざまに鳴り響く中、大量の弾丸が怪人とその周囲に着弾する。炸裂した弾丸によって怪人の体は爆炎に飲み込まれた。
    「おりゃあぁぁぁ、ファイヤー三日月キッーク!」
     白銀の戦闘服をまとった名月は自ら命名した技名を叫びつつ、グラインドファイアを放つ。
     炎の渦をまとった跳び蹴りを受けた怪人は、よたよたと数歩後退すると、仰向けに倒れて大の字になって地面に横たわった。

    「倒したのかな……?」
     地面に倒れこんだままの怪人を見つめながら、桃子が不安そうに呟く。
    「いや、気をつけたほうがいい。これは多分起き上がって攻撃してくるパターンだ」
     そう冷静に話すのは勇也である。そもそも灼滅に成功したのなら怪人の体は消滅しているはずだ。
     その会話を聞いていたのか怪人は突然むくりと起き上がった。
     驚いた灼滅者達は一瞬ビクッと体をこわばらせ硬直する。
    「やれやれ……まどろっこしい奴だな」
     勇也は呆れたように言って怪人の懐に飛び込み、両手で刀を握って戦艦斬りを浴びせた。
    「いっくよー! せーのっ!」
     続いて桃子がスターゲイザーを放つ。流星のような煌きと重力の奔流を宿した蹴りが怪人の肩に叩き込まれた。
     怪人は後方に跳んで一旦距離を取ると、軽く肩を回してから木槌を大きく振りかぶり、力いっぱい振り下ろした。凄まじい衝撃波が発生し前列の五人の灼滅者に襲いかかる。
     今の一撃で前列はダメージを負ったが、だからこそここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。名月は駆け出し、高々と飛び上がってグラインドファイアを放つ。
    「軍用レーション怪人……お前は大きな間違いをおかしている! 世界中の軍用レーションを取りそろえたが故に『ご当地愛』が『レーション愛』にすりかわってしまっているのだ! せめてどこかひとつの国に絞るべきだったな!」
     名月が怪人に対してぐうの音も出ないツッコミを入れる一方で、ヴァンは清めの風を発動する。浄化をもたらす温かな風が吹き渡り前列の仲間の傷を癒していった。
     そして七葉のウイングキャットが『リングが光る』を発動させアルカンシェルの傷を治癒した。
     仲間とサーヴァントのヒールによって前列はほぼ完全に立ち直っていた。
    「これでどうかな?」
     七葉は光のオーラを拳に収束させ、閃光百裂拳を放つ。絶え間ない拳の連撃が次々と怪人の全身に打ち込まれていく。
     さらに追撃をしようとアルカンシェルが走り出した時、怪人は片手を払って大量のレーションを投げつけてきた。見たところどうやら全て缶詰のようだ。
    「うっ……うっ……うぐぅ!」
     アルカンシェルは体のあちこちに缶詰を浴びながらも、涙目でレイザースラストを放つ。幾重にも折り重なった帯が射出され、怪人の膝を貫通した。
     間髪入れずに彩華が畳みかける。彩華はバベルブレイカーの杭をドリルのように回転させて怪人の右肩に突き刺した。
    「さあ、今だよ!」
     彩華が叫ぶ中、京香はバスターライフルを構える。
     狙いを定めて引き金を絞り、銃口から魔法光線が放たれた。怪人はバスタービームをもろに被弾してしまった。弱っていた怪人にとってそれは決定打となった。
    「くそっ……ここまでか」
     怪人は息も絶え絶えにそう言うと、膝から地面に崩れ落ち、盛大に爆発して消滅した。
     その様子を見届けた灼滅者達は安堵してほっと息を吐く。
    「……ふぅ。結局レーションは食べられませんでしたね……お疲れ様です。皆さん、お怪我の具合は如何でしょう?」
     ヴァンは眼鏡をかけ直して回りの仲間達の様子を確認する。
    「私は大丈夫よ」
     そう言って七葉は地面に落ちていたレーションをひとつ拾い上げ、砂を払った。外装を確認するとビスケットのようだ。
    「ん、食べてみる?」
    「おお、これなら食べられそうですね。ありがとうございます」
     ヴァンは柔らかな微笑を浮かべ、七葉から差し出されたレーションを受け取る。
    「私達もダークネスと戦い続ける身……レーションにお世話になる日もそう遠くはないかもしれないな」
     路地に散らばったレーションを拾い集めながら名月がしんみり呟く。
    「つっこみたいことは山ほどあるが……とりあえず頭の中から追い出すのを優先しよう、思考がどうツッコむかばかりになりそうで怖い」
     勇也は辺りの片付けをしながら何度も首を横に振っている。
     片付けが全て終わってから勇也は皆に尋ねた。
    「どうする、このあと飯でも食べにいくか?」
    「お、いいですね。ボクも動いたらお腹空いちゃいましたよ」
     腹ペコだった桃子はその場で軽く飛び跳ね目を輝かせている。
     それから、灼滅者達は談笑しながら繁華街をあとにした。

    作者:氷室凛 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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