神戸近郊にあるオフィスビルの社長室で、ある女社長が忌々しげに雑誌を眺めている。
「大型店との共存とか言われても、こっちにとっては客を取られてるだけなのよね~」
雑誌で特集されているのは、近隣にショッピングセンターの出来た駅前商店街が、とある経済アドバイザーのおかげで立ち直るという記事。
「ウチの社員の努力を無駄にしようだなんてとんだ大悪党ね。レイコちゃんはどう思う?」
「……どの口が言うのかはともかく、この男にはじきに『罰』がくだることと思います」
レイコと呼ばれた秘書っぽい女性は、女社長が放り投げた雑誌を拾い上げアドバイザーの顔写真にバツをつける。
「察しの良いレイコちゃん大好き♪ 今晩食事でもどう? もちろんその後もOKよ♪」
「……お気持ちだけ受けっとておきます」
「んもぉ~。クーデレなんだから~。じゃ、後はお願いね♪」
「かしこまりました」
秘書は一礼すると社長室を出て部下に指示を出す。アドバイザーの男を始末するように、と……。
軍艦島の戦い後、各地に下部組織を作り勢力拡大を目論むHKT六六六。兵庫県芦屋市を本拠地とし、ゴッドセブンNo3の本織・識音が率いるASY六六六もその1つだ。
ASY六六六は識音の古巣である朱雀門学園のヴァンパイアを呼び寄せ、地元経済を握る人物の秘書などへ派遣。その人物の悪事を手伝うことにより財界を支配下に置いている。
今回神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が予知した事件も、金の絡んでいる汚い話だった。
「駅前にショッピングセンターが出来て寂れる近くの商店街と、そこに現れる救世主……。と、ここまでなら良くある話だ」
良くある話でない点は、ショッピングセンターの経営者にASY六六六のヴァンパイアが関わっているということだ。ヴァンパイアは商店街を援助する経済アドバイザーの男性を、部下の強化一般人にオヤジ狩りのふりをして殺害するよう指示を出している。
「レイコという女ヴァンパイアは出てこないから、この強化一般人を倒すのが目的だな」
接触方法についてだが、男性は商店街を視察後、帰ろうと駅へ向かう道で襲われるため、そこに割り込んで男性を逃がす流れとなる。バベルの鎖の都合上、襲撃場所での待ち伏せはできないため、商店街を出た辺りから男性を尾行する必要もある。
「一般人相手の尾行だから大して難しくない。重要なのは、どう声をかけるかや敵に横から抜けられない陣形、人払い系のESP辺りになるだろうな」
相手の戦力は強化一般人が4名。ポジションはクラッシャー2のメディック2で、使えるサイキックはダンピールの3種に加え、所持する銃から攻撃役が火炎弾、回復役が回復弾を撃つことが出来る。
なお、強化一般人達は既に救えない状態で、説得なども無駄なため注意してほしい。
「情報は以上だ。ダークネス共にどちらが罰を受ける側か思い知らせてやってくれ」
なお、ASY六六六がこんなことをするのは、どうやらミスター宍戸のような才能を持つ一般人を探し求めてのことらしい。
「下衆な経営者連中を探せばいつか当たるかも……ってことらしいが、迷惑な話だ」
悪徳経営者へも一矢報いる依頼だと締めくくり、ヤマトは依頼を託すのだった。
参加者 | |
---|---|
天祢・皐(大学生ダンピール・d00808) |
城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563) |
高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272) |
雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444) |
影夜・鏡平(嘘吐飢・d12865) |
天城・翡桜(碧色奇術・d15645) |
十・七(コールドハート・d22973) |
空本・朔和(おひさまスタンピード・d25344) |
●あんぱんと牛乳があれば完璧?
舞台となる商店街に到着した灼滅者達は、アドバイザーの男性が来るまでの時間で準備を済ませると、駅方面の出入口付近で待機する。
「何だか探偵ごっこしてるみたいだね!」」
「まぁ、尾行対象が襲われる部分は探偵ドラマみたいよね」
地図を片手に身を潜ませポーズをとる空本・朔和(おひさまスタンピード・d25344)に、十・七(コールドハート・d22973)が超能力バトルが控えていなければねと苦笑する。
「ドラマですか……。アドバイザーが刺されてミステリードラマに……は避けたいですね」
正義の味方ものでいきましょう、と天祢・皐(大学生ダンピール・d00808)が纏めると、高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)が言葉を続ける。
「『罰』を受けるべきが誰かは一目瞭然。勧善懲悪というわけですね」
「ええ。一般人を見出すために別の一般人を殺すなんて、許されないことです」
ゴッドセブンの勢力拡大作戦からこちら、HKT系地方組織の動きが多く訳が分からなくなりかけていた天城・翡桜(碧色奇術・d15645)だったが、人が殺められると知って黙っていることはできない。
「全くだわ。阿久津って社長やヴァンパイアに手が届かないのは悔しいけど、卑劣な真似は阻止しなくちゃね」
と、力こぶを作る城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)の腕に巻かれているのは、商店街パトロールと書かれた腕章。制服姿の警備員は見当たらなかったが、駅周辺の地図を買う時に見かけた人達を真似し即席で用意したもので、他にも数人がこれを付けている。
「スマイルイーターで進展があったと思ったら、またこそこそと……。早々に手を打ちたいものですね」
エクスブレインにより最低限の動きを知ることはできているが、他のゴッドセブン当人に辿り着く目処は立っていないのが現状だ。雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)と同じように彼らを危惧する者は、学園にも少なくないだろう。
「僕はヴァンパイアへの嫌がらせが出来るんだったら悪くない。ヴァンパイアは嫌いだ」
一方で影夜・鏡平(嘘吐飢・d12865)はバッサリ切り捨てる。学園に来た訳やそれまでの過去と同じく、灼滅者の戦う理由も様々だ。
そんな話をしている内に、道の向こうからエクスブレインから聞いた容姿の男性が歩いてくる。男性が商店街を出たところで、ある者は身を隠し、ある者は闇を纏い、ある者は猫に変身し、灼滅者達は尾行を開始した。
●王道のちょっと待ったコール
尾行を初めて数分後、男性が駅までの近道にと細い路地へ入った時のことだった。
「おう、待ちなそこのオッサン」
横道からいかにもな格好をした若い男が4人現れる。
「な、何だ君達は!」
「何って見りゃ分かんだろ? ただの『オヤジ狩り』さ……!」
「そこまでです!」
そう言って男達が懐に手を入れたその時、皐の投げた帯と言葉が割り込んだ。
「くっ、何だこいつら……!」
「見りゃ分かんでしょ? 商店街のパトロールよ!」
腕章を見せつけながら千波耶が気弾を放つ間にも、仲間達がアドバイザーと強化一般人を分けるように陣形を整えていく。
「パ、パトロール……?」
「そうです。いつもお世話になっている商店街のパトロールです」
超能力バトルがアドバイザーの視界に入らないよう自分の体を壁にして、翡桜はこっそり結界を解き放ち、ビハインドの唯織に敵を抑えさせる。
「オヤジ狩りが誰かを襲おうとするのをたまたま見かけて追いかけてきた。早く逃げろ」
「邪魔すんじゃねぇ!」
一声かけて砲身を構える鏡平と、銃口を向け合う強化一般人が互いに引き金を引く。が、鏡平への攻撃は割り込んだライドキャリバーのぶらっくすわんを火に包んだ。
「おいちゃん、だいじょぶ? 怪我ない?」
「こ、子供……? 君、ここは危ない! おじさんと一緒に逃げるんだ!」
同じく強化一般人へと結界を放つ朔和が声をかけると、アドバイザーは朔和ごとその場を離れようとする。
「この子は私が避難させるわ。任せてあなたは先に逃げて」
「あなたは私が……。さぁ、急ぎましょう」
帯を操りながら七が割り込むと、すかさず菖蒲がアドバイザーの手を掴み引き離す。
「そ、そうですか……。では、よろしくお願いします」
七のラブフェロモン効果か、アドバイザーは素直に意見を受け入れ菖蒲と一緒に戦場から離れようとするも、敵もそれを放置はしない。
「ターゲットが逃げるぞ! 追えっ!」
「誰一人として追わせませんよ!」
離脱を試みようとした強化一般人を紫姫の結界が縛り上げ、ぶらっくすわんが牽制射撃をしながら退路を塞ぐ位置へ回り込む。
「囲まれたか……」
「こいつらからヤるしかねぇな……!」
突破を諦め陣形を整える強化一般人達。後はこの敵を倒すだけだ。
●絶望を迫らせる戦い
1人戦場を離れているとはいえ、それでも数で勝る灼滅者達。相手が強化一般人のみだということもあり、戦いを優位に進めていく。
「お前たちに恨みはない。けどもう戻れないんだろう? なら仕方がないなぁ……」
「元に戻れないなら、これ以上闇に沈む前に終わらせてあげる」
「ぐあぁぁぁっ!」
宿敵への嫌悪を乗せた鏡平の逆十字と、慈悲を乗せた千波耶の雷が、強化一般人の1人を塵に還す。
「くそっ。同じ奴ばかり狙いやがって!」
「狙うならヒーラー、狙うなら弱った相手……。ただの定石に文句を言われたくないわ」
痺れて動けぬままに悪態をつくもう片方の敵後衛に、七は槍を振るい氷弾を撃つ。
「というわけで次はあなたです!」
「援護するよ!」
紫姫の指輪が輝き、朔和の操る帯が悪態をついた強化一般人を削っていき、
「では、お友達と同じところに送って……っと、これは悪役のセリフでした」
「くそぉぉぉっ!」
皐の撃ち出した光刃が貫きトドメを刺す。
「援護役が……」
「いいから攻撃しろっ! 壁役のサーヴァントから狙うぞ!」
そういうと2人の強化一般人は唯織を睨みつけ、その体に二重の逆十字を刻み付ける。
「……被い防ぎ護る鎧となれ」
ふらつく唯織の体を、帯が優しく包み込んで癒していく。アドバイザーを無事に表通りへ避難させた菖蒲が戻って来たのだ。
「お待たせいたしました。こちらも順調なようですね」
「回復ありがとうございます。すこぶる順調ですよ」
サーヴァントへの援護に笑顔で礼を述べると、翡桜はその笑顔のまま敵へ向き直る。
「さて……唯織さんに攻撃しようと言ったのは、あなたでしたね?」
そのまま指示を出していた強化一般人を蹴り飛ばすと、サーヴァント達がそれに続く。
「くそっ! こんなヤツらが来るなんて聞いてねぇぞ……!」
もう片方の強化一般人が、絶望を振り払うかのように首を振り銃を構え直す。灼滅者達の勝利まで、もう一息だ。
●これにだけは負けたくない
残った2人の強化一般人が追い詰められるまで、それほど時間はかからなかった。いや、2人になった時点で追い詰められていたというべきかもしれない。
「ちくしょう……。せっかく力が手に入ったってのに……!」
「それは本当に望んだものなのか……。いえ、今となっては意味のない問いですね……」
「そうね。私達に貴方達は助けられない」
涙目で撃たれた弾丸を引き受けた菖蒲がビームを放ち、続く千波耶が魔力を打ち付ける。
「自分の都合を理不尽に押し付けるだけの力なんて、絶対認めません!」
そして紫姫の霊力が強化一般人を絡め取ると、そのまま握り潰し灼滅する。
「あ……あ……。お、お前ら! こんなことをして……」
「うるさい。さっさとやられろ」
鏡平の『これ以上話すことは無い』という拒絶の一撃が強化一般人を撃ち抜き、連続するぶらっくすわんの攻撃が敵を更に追い込んで行く。
「くそっ……。こんな『おまる』みたいなのに負けられるか! コイツだけはぶっ壊す!」
至近に迫ったぶらっくすわんを、強化一般人は拳に紅いオーラを宿し殴り付ける。
「おまるじゃないよ、すわんだよ! すわんカッコいいんだよ!」
涙目になりながら愛車を回復する朔和を庇い、仲間達が前に出る。
「こんな小さな子を泣かせるなんて……」
「恥ずかしい大人ですね……」
翡桜の蝋燭から火の花が舞い、その間で唯織と犬を模した皐の影業が躍る。
「人の嫌がることは言わない……。生き残るためには最低限のコミュ力が必要よ」
最後に七が振り被った標識を脳天に叩き付けると、強化一般人は倒れ伏し消えていく。
「俺達をヤったからっていい気になるな……。バックについてる玖寺様や本織様が動けば、お前達……、なん、て……」
「知った上での行動です。むしろ動いてボロを出してくれると助かるのですけどね……」
皐は強化一般人が消えた地面にそう呟くと、伸ばしていた影を戻すのだった……。
こうして今日の任務は達成された。しかし、HKT系の地方組織が関与している事件は、今この時も予知されているかもしれない。
灼滅者達は急ぎその場を後にすると、次なる任務のため学園へと戻るのだった……。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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