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「突然の連絡だったが滞りはないようだな」
とあるソロモンの悪魔が老朽化した団地から引き払う準備をしていた。一人暮らしの老人の金品を狙ったり、あるいは強化一般人に仕立てたりと密やかに自力を蓄えていたダークネスだ。彼はこれまでに集めた財産や人員を整理しまとめている。
「しかし、いつの間にか我々も弱者の側に立っていたということか」
スーツ姿のソロモンの悪魔は手にした資料を眺めて呟いた。
『速やかに支部を破棄し、物資及び戦力をもって、北海道札幌市に移動するように。後の処理は、札幌到着後に行う』そこにはそう記してあった。
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「久しぶりにハルファスの動きが掴めたんだ」
有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)が灼滅者達を前に口を開いた。
「とはいっても、何か事件を起こすって訳じゃないんだ。……今まで溜め込んだ物資や戦力を連れて北へ行こうとしてるんだ。ハルファス本人はもう移動を終えていて、そこに合流しようとしてるみたい。怪しいよね?」
北、正確には北海道札幌市へと彼らは向かうらしい。今のその地はアンデッド迷宮、SKNのアリエル・シャボリーヌの淫魔闇堕ち、斬新・京一郎の犯罪カジノなどダークネスの活動が活発だ。
「……ただでさえ色々いるのにこれ以上増えると何が起こるかわからないから、ソロモンの悪魔達の車を止めて、こう」
べちっとクロエは拍手するように一度手を叩いた。叩き潰して、ということらしい。
「ボク達に都合のいいことに、ソロモンの悪魔達は交通量の少ない山道を黒塗りのマイクロバスで走っているんだ。道の途中にバリケードでも置いておけば相手は車を止めざるをえないからそこを襲撃して」
作戦中には他の一般の車も来ないので戦いに集中できるだろう。
「もちろんソロモンの悪魔達はみんなで取り囲むと応戦してくるよ。戦力的にはソロモンの悪魔と、その配下の強化一般人5人。……これだけそろってやっと並のダークネスと同じくらいの強さだけど油断はしないで」
ソロモンの悪魔はスナイパー、強化一般人の内3体はデフェンダーで残りの2体はキャスターだという。
「ソロモンの悪魔は魔法使いのサイキックと道路標識のサイキック、デフェンダーはWOKシールド、キャスターはリングスラッシャーのサイキックを使って来るよ」
そもそもソロモンの悪魔はダークネスの中でも戦闘力は低めの個体が多い。それを補うような戦いをしてくるようだ。
「でも基本的に戦いそのものを避けるタイプのダークネスだから、この機会にきっちりと灼滅して欲しいんだ。逃すと次の機会が無いかもしれない相手だからね。それじゃ頑張ってきてね、いってらっしゃい!」
参加者 | |
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上代・絢花(忍び寄るアホ毛マイスター・d01002) |
愛良・向日葵(元気200%・d01061) |
豊穣・有紗(神凪・d19038) |
炎道・極志(可燃性・d25257) |
天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053) |
三和・透歌(自己世界・d30585) |
品川・英治(ラフメイカー・d31557) |
ロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124) |
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山道。周りを囲む木々は初夏特有の緑をたたえているものの、それも夕日の赤に染まりつつある時間。その中をどちらの色にも染まらない黒いマイクロバスが走る。中にいるのはハルファス配下のソロモンの悪魔とその部下達。彼らは会話もなく静かにスケジュールを確認しながら時間を過ごしている。そんな中、車に制動がかかり止められる。
「どうした?」
「はい、どうも土砂崩れがあったようで樹木や岩が道路の上に」
「……仕方ない。予定が遅れるが必要な分だけ取り除く。全員降りろ」
ソロモンの悪魔が指揮すると次々と配下達も降りていく。その様子を横目に並べられたパイロンにソロモンの悪魔は違和感を受け取る。
「泥が少ない……?」
ソロモンの悪魔がそう言うと同時に突如雷が鳴り響き、車のタイヤを破壊する。
「しまった! これは!」
ソロモンの悪魔が叫ぶと同時に周りの木々の合間から灼滅者達が現れる。
「残念だけど、ここが終点よ」
天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)の手元で薬莢が弾き飛び再装填される。先ほどタイヤを破壊した雷は彼女の得物から放たれたものだ。
「落石注意の看板が見えなかったか? 落石で通れねぇんだぜ、そこ」
品川・英治(ラフメイカー・d31557)が交通標識を手にした様子を見て、ソロモンの悪魔はホゾを噛む。
「さっきも思ったんすけどダークネスも車で移動するもんなんすねー、知らなかったっす」
「悪魔なのに……。もう少しファンタジーなのを期待してたんだけどね」
炎道・極志(可燃性・d25257)とロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124)は口々に目の前の相手の移動手段に付いて感想を述べる。
「……お前達、ロジスティクスという言葉を知っているか?」
「路地スティック? 棒?」
豊穣・有紗(神凪・d19038)の返しに隣の夜叉丸が突っ込んだ。そうじゃない。
「兵站とかそう言った言葉で表される言葉で」
「へいたん、平たい?」
「そういう意味でもない」
愛良・向日葵(元気200%・d01061)、大学二年生である。
「……どうでもいいけど今のやり取りの間に相手の配下がバリケード片付け始めてるけどいいの?」
三和・透歌(自己世界・d30585)が淡々と呟いた。
「なんという策士でござるか、今まで表に出て来なかっただけはある……!」
上代・絢花(忍び寄るアホ毛マイスター・d01002)が拳を握る。
「ここで灼滅させてもらうでござるよ!」
「さすがに簡単に通してもらえないか。ここで返り討ちにしてくれる!」
●
灼滅者達、ダークネス達双方が即座に陣形を揃え相対する。灼滅者達は後衛を厚めにした長期戦寄りの、ダークネス達はソロモンの悪魔を中心にやや防御寄りの形だ。
「ディフェンダーから倒すよー!」
「応でござる! ……え?」
向日葵の言葉に絢花は最初からつんのめった、狙うつもりのメディックはここにはいない。思い込みとは恐ろしいものだ。
「いきなり相手は足並みが崩れている、ここで優勢を取れ!」
ソロモンの悪魔が交通標識を手に灼滅者達の前衛に向かい強化一般人達もその後を追う。灼滅者達の前衛に立つのは極志と英治に有紗の夜叉丸、透歌のウェッジ、ロベリアのビハインドだ。ソロモンの悪魔はその中でも最も脆そうなウェッジを狙う、守りではなく攻めの姿勢を見せていたが故に。
「させねえよ!」
飛び出したのは極志。敵の攻撃の中で最も威力の高いソロモンの悪魔の一撃の直撃を受ければ、腹部に強い衝撃が襲いかかる。
「……!」
一瞬息が止まる。その間にも強化一般人達の攻撃は止まらない。次々にウェッジに殺到する攻撃を他の仲間達が防いでいくが全ては止まらずにウェッジの装甲がダメージと共に鳴り響く。
「どうした? そんな守ってばかりで我々を止めるつもりだったのか? 片腹痛い!」
「誰が守ってばかりですって?」
前衛の強化一般人を雪は殴りつけながら言う。確かに敵の前衛にダメージは入るものの、大きなダメージを与えられるとは限らない。つまり安定して速やかに敵前衛を倒すには火力が安定せず少なすぎるのだ。そして相手の前衛を崩すのに手間取ればそれだけ受ける攻撃の量が増える。その追撃を防ごうと守り手達が奮戦する。
「アルルカン、防いで!」
とっさにロベリアが激をサーヴァントに飛ばす、彼女は今の自分の言葉に気付かない。焦らず直ぐに仲間の回復に当たる。
「回復くらいはしっかりやらせてもらうよ」
ロベリアは極志の受けた傷を癒していく。その足りない分と他の前衛を向日葵が纏めて癒やすが、深いところの傷まではどうしようもない。これを幾度も受ければ追い散らされるのは灼滅者達の方だ。
「……あれ、これって……」
有紗が鬼の腕を振り下ろしながら呟くその攻撃も通常の灼滅者のものより軽い。夜叉丸が唸る。
「いわゆるピンチってやつね。……ウェッジ」
透歌が指示を出しながら除霊結界を放ち敵前衛の動きを止める。その間にウェッジが全力で攻撃するがこれでようやっと並の灼滅者よりも少し上回る程度だ。そして倒しきれなければ相手は豊富な回復手段で壁としての機能を取り戻す。
「ちっ……このままじゃ……!」
相手の態勢を崩すことばかりに気を取られて、戦力を削ることを失念していた英治が焦った声を上げる。戦いの天秤はソロモンの悪魔に傾いていた。
●
「これでどうでござる……っ!」
絢花の一撃で敵の前衛が全滅する。これで灼滅者達はようやっと次の段階へと作戦を進めることができる。が。
「口ほどにもない、既に息が切れているではないか」
「うるせえ……!」
極志が口の中にたまった血を吐き出しながら返す。彼だけではない、前衛にいたサーヴァント達は全滅し、英治もダメージは深い。ソロモンの悪魔と中衛の強化一般人達は大きなダメージは出さないものの、コンスタントに灼滅者達の前衛1つずつを集中攻撃して戦力を削っていた。サーヴァントは耐久力が低く崩しやすいが故に狙われる対象となった。
「悪いことは言わない、そのまま帰れば我々とて追撃はしない」
ソロモンの悪魔はそう灼滅者達に交渉を持ちかける、その真偽はさて置くとして自分たちが優位にある故の発言だろう。
「お前達、ハルファス勢のせいで病院の仲間が動揺してるんだ……!」
「ほう、『病院』の生き残りか。ならばなおさら命を大事にするべきではないかね?」
「は……! だからこそお前らに一発でも叩き込まねえと仲間が安心しねえのさ」
「というわけであたしたちは逃げないぞー!」
英治の言葉を引き継いだ向日葵の言葉は引かない意思を示した。彼らの意思を聞きソロモンの悪魔は首を横に振る。
「やれやれ。まだ可能性のある者たちを殺したくは無かったが……仕方あるまい」
ソロモンの悪魔は再び攻撃態勢を取り直し魔法の矢を手元に呼び出す。
「来るわ!」
雪が言うと同時に極志に魔法の矢が迫る、反対に灼滅者達も弾かれるように飛び出して敵の中衛を切り崩そうと動く。
「……面倒ね」
透歌の放つ影が強化一般人に食らいつくがその程度では止まらない。魔法の矢を受けた極志に残る強化一般人達の攻撃が迫る。英治の身体も血の流し過ぎか重い、割り込むことも出来ずに全ての攻撃を極志は受けてしまう。
「くっ……」
「さて、まずは一人」
ソロモンの悪魔はニヤリと笑う。だがその目つきはすぐさまに怪訝なものとなる。
「ま、まだだ……!」
立ち上がりロベリアと向日葵の回復を受ける極志の姿があった。それでもあと何度も攻撃を受けられる身体ではない。
「まだボク達は負けてないよ!」
有紗は交通標識で中衛に叩きつけて道を開こうとする。まだ決着は付いていない。
●
「今度こそ終わりだ」
「ここまで、か……!」
再三に渡る攻撃を受けて極志がついに倒れる。残る英治も満身創痍だ。彼が倒れたらいよいよ敗北は目前だろう。
「そうはさせないよっ!」
回復の手間が薄れ、攻撃に回れるようになった向日葵が除霊結界で中衛の動きを封じようとする。
「私も倣うとしますか」
重ねて放たれた透歌の結界が強固な形となって強化一般人達を縛る。動きを封じられたままの相手に絢花と雪が一気に止めを刺そうと迫る。
「……斬っ!」
「届けっ!」
二人の必死の一撃が双方をほぼ同時に打ち倒す。その様子を見てソロモンの悪魔がほうと感嘆の声を漏らす。
「粘るな、灼滅者。私の持つ戦力が私だけになってしまうとはね」
「今まで散々好き勝手やってきたんでしょ? そろそろ終わりにしなよ」
「それはこちらの台詞だ。やんちゃもこれまでにしてもらえると助かる、長旅なのでね」
ロベリアの言葉にソロモンの悪魔がそう返す。戦場での相手は未だ無傷であり灼滅者の側も戦力の損耗が激しい。それでも灼滅者達から戦意は失われてはいない。傷だらけの英治が殲術執刀法でソロモンの悪魔を切りつける。
「へっ、一発確かに……!」
ソロモンの悪魔は反撃として彼を殴り倒し、残る灼滅者達を見る。
「これで君達を守るものはいなくなった。……さて、決着を付けよう」
ソロモンの悪魔が指を鳴らせば戦力の集中していた後衛を冷気が包み込む。ダークネスの中でも弱いとされるソロモンの悪魔だが、今この場においては誰よりも強い。そんな相手を倒すのなら灼滅者達が頼れるのは数と肉体を凌駕する魂だけだ。
「みんな、がんばろー!」
向日葵が清めの風を呼び、張り付いた氷を引き剥がす。他の灼滅者は一気に勝負をかける。絢花が流星の如き蹴りで動きを制すればロベリアが予測能力を無効化する。有紗と雪の狙いすました攻撃が敵の進路を塞げば透歌の影が食らいつく。
「ソロモンの悪魔、宿敵ではありますが……どうにも、関係性があまりなかったのでピンときませんね」
「人の振りをやめれば直ぐに悟ることができると思うがね」
「……ここで一人始末してみれば、何か見えてくるのでしょうか」
「ならば自分の中にいるものに耳を傾けるといい」
灼滅者達は追い込みつつも、追い込まれている。互いに背水の陣だ。綱渡りの戦場の中で雪が問いかける。
「目的地はどこ? 素直に吐けば見逃してあげるわ」
「それに私が答える意味があるとでも?」
「これから夏だから、ダークネスも北海道へ避暑しに行くのかな~なんちゃって」
「そこまで掴んでいるのなら聞く必要はないのではないかね?」
クックと笑いながら有紗の言葉にソロモンの悪魔は返す。言葉を交わしながらも飛び交う攻撃は熾烈を極め、また一人また一人と戦闘不能に追い込まれていく。だが同時にソロモンの悪魔もまた予想以上の抵抗に追い込まれていく。
「こ、ここまでとは……!」
倒しても立ち上がってくる灼滅者達を見てソロモンの悪魔は、ここに来て戦慄する。その隙が最後の勝機。
「………!」
絢花の捨て身の一閃。満身創痍の決着はなんとか灼滅者達がものにした。
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「痛っ……!」
治療を受けている極志が呻く。おそらくこの中で最も多くのダメージを引き受けたのが彼だろう。複数の心霊治療を受けてやっと満足に動ける体になる。彼だけでなく他の灼滅者達もまずは自分たちの治療に集中していた。
「……本当に危なかったでこざる」
「文太連れてこなくて本当によかったー……」
服装を元のメイド忍者に戻した絢花と、回復サイキックを豊富に用意した向日葵が他者の傷を癒やしながら呟いた。
「いい暇つぶしにはなったわね」
透歌は淡々と呟く。その彼女の隣で英治がふと残されたマイクロバスを見る。その視線に釣られるように雪が立ち上がり近づいていく。
「よ~し物資の回収だ~」
「いいじょーほーがあるといいねー♪ えへへー!」
向日葵と有紗も連れ立って回収に参加する。向日葵は泥棒ではないと誰かに言い訳してたりしてたが。
「さて、何かあればいいんだけどねぇ……」
ロベリアも探索に赴く、そんな女子達の背中を見て極志は呟いた。
「……品川さん」
「ん?」
「俺達は片付けしますか」
「……そうだな」
二人は傷ついた身体に鞭打って怪力無双で散らばった樹木や岩を片付け始める。かくして灼滅者達は北上するハルファス勢力の動きを止めることに何とか成功したのであった。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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