マグロドリーム

    作者:空白革命


     マグロが空飛んでた。
     いやちがうの。頭おかしくなったんじゃないの。ほんとに飛んでるの。
     白い雲と青い空、銀のマグロ。
     そんな光景を、おっさんはなんじゃこりゃあという顔で眺めていた。
     丁度今さっき長年勤めた会社をリストラされてお家ですんすん泣きながら寝てたところだったので、なんじゃこりゃ度合いがハンパなかったし、それこそ頭おかしくなったのかなと思ったが、でもだいじょうぶ。
    「あ、そうか。これ夢か!」
     なーんだじゃあいいやとばかりに野原にごろんと寝転んでみた……途端。
     マグロが地面に猛スピードで突っ込んできた。
    「マグロォォォォォウ!」
    「ギャアアアアアアア!」
     地面が吹っ飛び、おっさんも吹っ飛び、土砂が噴水みたく天に舞い、あとマグロがお空をぐるぐる回っていた。
    「こっここ、ここっここのマグロ、襲ってくるのか!?」
    「マグロウ!」
     そして天空を覆う超巨大マグロが現われ、おっさんをじっとりと見下ろした。
     ここはおっさんの夢。精神世界ソウルボート。
     そしてこのマグロは、人々にマグロの夢を見せてひたすらぽんぽこ吹き飛ばして遊ぶシャドウ……その名も、マグロドリーム!
     

     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)がカッと振り返った。
    「みんな変態だよ!」
    「「……」」
     一度体勢を戻し、もう一回カッと振り返った。
    「みんな大変だよ!」
     なにが大変かって、マグロドリームなるシャドウがおっさんをぽんぽこ飛ばして遊んでいるんだそうだ。
     このままじゃおっさんぐるぐる酔っ払って寝たまま昨晩のご飯をバックトゥーザモンジャしちゃうかもしれない。
     もうおっさん、充分ひでー目にあってるんだからこれ以上いじめないであげて。
    「おっさんのソウルボートに入って、助けてあげて!」
     
     シャドウとは精神世界ソウルボートを活動拠点とする、夢をあやつるダークネスである。
     その中でもこの『マグロドリーム』はマグロ眷属を引き連れて夢に入り、人をぽんぽこ吹っ飛ばして遊ぶことに定評があるのだ。
    「マグロ眷属は文字通りマグロからできたモンスターだよ。高速で空を飛んで体当たりしてくる以外はひたすらマグロだよ」
    「ひたすらマグロってなんだよ」
    「あとシャドウのマグロドリームは飛行船くらい巨大なマグロとして現われる……ように見えてるんだけど、実はこの空間に実態は無くて、見えてる巨大マグロは『コレ、マグロの、ユメ。ワタシ、シッテル』っていう意思表示のために写してる虚像なんだよ。実際は飛べないしね」
     なので、おっさんを助けるには周囲を飛び交っているマグロ眷属をすべて倒せばOKということらしい。
    「とってもマグマグしたミッションだけど……ミンナ、デキル、ワタシ、シッテル」
    「口調うつってる口調」


    参加者
    日向・和志(ファイデス・d01496)
    明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)
    ラックス・ノウン(どうみてもスレイヤー・d11624)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    カルム・オリオル(ヒッツェシュライアー・d32368)
    加藤・朔太郎(快心快晴・d33457)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)

    ■リプレイ

    ●これが対シャドウ戦なんだなってギリギリわかるパート
     靡くリボンとポニーテール。
     シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)は眼鏡を外し、銀色に輝く空を見た。
    「虚像、虚像、本当に表に出るのが嫌いな連中のようね」
     戦いを思わせる風が一度だけ強く吹き、シャルロッテは瞑目する。
     彼女が戦った、もしくは戦うべきいくつものシャドウが脳裏をよぎる。
     目を開けても、銀色の空はまだそこにあった。
    「いつか、引きずり下ろす」
    「すごくシリアスな空気出してるとこ悪いんだが……」
    「この光景やもん、無理あるわそら……」
     シャルロッテの後ろから物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)とカルム・オリオル(ヒッツェシュライアー・d32368)がスライドアウトした。
     なんでって。
     お空いっぱいにマグロさんがびゅんびゅん飛び交っているからだ。
     その更に向こうには、青空ってなんだっけってくらいのデカさで巨大マグロがどんより浮かんでいるという、夢にしたってやりすぎな光景である。
    「いや、えらいソウルボードもあったもんやな。色々渡り歩いたけどここまでのはなあ」
    「まさに悪夢だな、うん」
     こくこくと頷く二人。
     その後ろで加藤・朔太郎(快心快晴・d33457)がぴょんぴょん飛んでいた。
    「どうなってんのアレ! すっげえ! 超はえー! そして思ったよりマグロって怖え!」
     周囲をやたら飛び交うマグロがどんなもんか分からない人は、一度水族館に行くことをお勧めする。休憩室の周りをひたすらマグロが周回するっていう水族館があるから。全然休憩できないから。ちけえし。
     そこへ、おっさんが手を振りながら駆け寄ってきた。
    「君たちー。誰だか知らないけど危ないよ。マグロが飛んでるからー」
    「状況のわりに案外冷静やなおっさん」
     マグロと聞いて食べることしか考えてなかったラックス・ノウン(どうみてもスレイヤー・d11624)が、おっさんの姿を見てようやっと目的を思い出した。
     ていうか一番危ないのあんただよと思ったその矢先、おっさんが視界から消えた。
     消えた!? 忍びの者か!? と思ったが違う。横から超スピードでかっとんできたマグロに撥ねられたのだ。
     うひゃーとか言いながら宙をまうおっさん。ラックスは急いで箒に飛び乗ると空中のおっさんをキャッチした。
     お姫様抱っこ。
     いやさ。
     おじ様抱っこである。
    「キャッチするなら女の子がよかった」
    「おじさんもキャッチされるなら巨乳のギャルがよかった」
    「ワガママ言うなやオレかて――グハッ!?」
     正面からマグロタックルが炸裂。おっさんと取りこぼして落下するラックス。
     落下地点を計算したカルムがダッシュ。
    「おっさぁぁぁぁんんんんぬうううおおおおおおおおりゃ!」
     渾身のバンザイスライディングによっておっさんをキャッチ。
     おっさんは身体を丸めて『きゃっ☆』とか言いながらカルムの腕に収まった。ふうとため息をつくカルム。
     一方マグロは、俺のタックルからは逃げられないぜとばかりに地面すれすれを疾走しはじめた。
     その横を同じスピードで走る明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)。
     すげースピードのはずだが、なんだかだるそうにあくびなんぞしている。マグロを一瞥すると、肩をすくめて鼻で笑って見せた。
    「マグッ!?」
     目を険しくするマグロ。まずはお前からだとばかりにヒレを繰り出し、止水はそれを手でもって払う。それを高速でひたっすら繰り返してしつつおっさんの横を通過していった。
     一人と一匹を目で追うカルムとおっさん。
     別のマグロがスペシャルマグロカミカゼアタックを仕掛けようと構える……が、そこへ立花・環(グリーンティアーズ・d34526)が立ちはだかった。
    「おっさ、おじさんには手を出させません。くらいなさい、玉露ビーム!」
    「マグロオオオオウ!」
     玉露の香りと田園風景を背景に背負いながらビームを放つ環。
     マグロはビームなどには負けない! という顔できりっとしていたが、三十秒とたたずに目をバッテンにして墜落した。
     玉露には勝てなかったよと顔に書いてあった。
     額の汗をぬぐう環。
    「大丈夫かおじさん。回転饅頭やるから泣くなよ」
    「ば、ばかっ! 泣いてなんてないわよ! こっち見ないで!」
    「きもちわる!」
     おっさんの顔に饅頭叩き付ける環。
     そんな彼らの目の前に、日向・和志(ファイデス・d01496)がクールに立ち止まった。
    「君は……このマグロたちと戦いに来たのかい?」
    「いや、違うな」
     無駄にかけたサングラスをチャッと外し、和志は見栄をきった。
    「食いに来たんだ」
     流れる沈黙。
     飛び交うマグロ。
     しがみついて乗り回すミー(ウィングキャット)と霊犬加是。
     飛んできたマグロに振り子打法でスイングかます朔太郎。
     まだシリアスの風になびいているシャルロッテ。
     マグロにかっ飛ばされる暦生。
     だむですとろカワイイポーズで2カメさんを見る環。
     ってな中で、おっさんは。
    「えっどういうこと?」
    「聞き直すな」
     和志は再びサングラスをかけ、銀色の空を見上げた。

    ●空飛ぶマグロがどんな感情を顕現してるのかって言われましても
     てれってってってって(例のBGM)。
     てれってってってって(回り始めるレコードのイメージ)。
     てれっれってってってって、ってって(きをつけの姿勢で回転する全裸のおっさんのイメージ)。
    「いいかてめぇら、これはただの戦いではない。灼滅3ターンクッキングだ!」
     和志はそう言いながら、ひたっすらおっさんのまわりを高速周回し続けていた。
     他の皆も大体同じだと思うとやたらシュールなので普通こういうことしないけど、めまぐるしく動き回ることが前提のサイキックバトルでおっさんを常に囲み続けるっていうから……こうするしか……こうするしかなかったんや……! 娘が人質にとられてるんや……! ……嘘やで!
     シャルロッテは無言で交通標識を引っ張り出すと、四方八方から突っ込んでくるマグロめがけて振りかざした。
    「マギュ!?」
     マグロたちは不自然にカーブすると、シャルロッテへと集中した。
     無数のマグロタックルが彼女を襲い何段階にも空中へと撥ね飛ばされる。
     空中に飛ばしちまえばこっちのもんだぜとばかりに集中攻撃をしかけるマグロだが、シャルロッテはサラシを解いて展開。マグロのタックルをガードした。
     マグロのパワーとシャルロッテのガードが拮抗し、空中でばちばちと火花がちる。
     そこへカルムが別のマグロをサーフボードみたく乗りこなして接近。拮抗しているマグロの横っ腹に拳を叩き込んだ。その直後に腕に接続した杭打機が作動。マグロの腹を杭が貫通した。
    「一匹、さらに、二匹や!」
     杭を引き抜くと同時に離脱。さっきまで乗っていたマグロが襲いかかってくるが、カルムはそれを両手でがしっとキャッチした。
     キャッチした姿勢のままかっさらわれる。
    「って、あかん。とめてとめて!」
    「マジでか! ちょ、うおおおおお!」
     両手をばたばた振る朔太郎。そこへ突っ込んでいくカルムとマグロ。
     朔太郎は覚悟を決めて彼らをキャッチ。
     ふんぬと両手で掴み取ると、勢いよく振り上げ、偽バックドロップ。ミーちゃんが地面にめりこんだマグロへと飛びつき、がっつがっつと食らい始めた。
    「ミー! まだ食うな早い早い! 料理すっから、さばくから!」
    「調理なら俺たちに任せろ」
     止水と和志が刀と鋼糸をそれぞれ構えて飛びかかる。
     二人が風のようにマグロを通過したその後には、なんか知らんけどお頭と骨しか残らなかった。
     和志と止水は大皿を突きだし、その上にブロック状に切られたマグロの身がどすどすと積み重なる。
    「コンロもまな板もないが、安心しろ。俺たちにはキリングツールとサイキックがある!」
     カッと振り向く和志。
     ちゃんと言わなかったのが悪いんだけど、ソウルボードは基本的に通常物を持ち込めないので今彼らが用意した皿やらなんやらは最初からここにあったんだなと思って置いて頂きたい。あと普通のマグロをレーヴァテインしたら消し炭になるけどそこは……ほら、ね。ほら。
     じゃあ早速マグロ料理だよとばかりに切り身を加是に与えていると、止水が小さく手を翳した。
    「いやまて。おっさんの特技はなんだ? この状況だ、もしかしたら……」
    「そうかっ」
     はっとしておっさんに注目する一同。
     するとおっさんは頬を赤らめ、両手の指をつきあわせながら上目遣いで言った。
    「おっさんの特技はぁ、アイドルダンスだよ☆」
    「まぎわらしいっ」
    「そしてきもちわるっ」
     左右からあたまをはたくラックスと環。
    「いいじゃないか! おっさんがアイドル好きで何がおかしいんだよ!」
    「悪くないが黙れ」
     飛んできたマグロを裏拳で迎撃する暦生。
     なぜかその場に都合良くあった座布団に座ると、おっさんを自分の正面に座らせた。
    「おっさん、ろくでもない悪夢は見るし嫌なこともあったろうが、こうやってマグロから守ってくれる人たちがいるんだぜ。世の中、捨てたもんじゃないだろ」
     前髪をがっとかきあげ、イケメン粒子(アニメとかで背景にでるキラキラしたやつ)を放出しながらおっさんを見つめた。
    「嫌なことは忘れようぜ。目が覚めたら、またいいことあるさ」
     頬を赤らめて目をそらすおっさん。
    「ば、ばか! そんなので騙されてあげないんだからね! でも……ありがと」
    「やかましい!」
    「そしてきもちわる!」
     両サイドから頭パーンするラックスと環。
     とはいえ、マグロもいい感じに片付いておっさんも落ち着いた現在。することは一つである。
    「そろそろ、私の出番のようですね」
     環は腕まくりをしてマグロの切り身を手に取った。
     その場でくるんと回転すると、メイド服にチェンジした。最初っからそうだったのかもだが……しらんなあ、そんな事実は。
    「まずはシンプルにお刺身ですよ! 添え物にはこれ、ゆず胡椒!」
     環は両手を軽く胸んとこであわせると、身体を全体的に斜に構えた。
    「それでは皆さんご一緒に☆」
     両手の指でハートをつくり、右胸左胸とリズミカルに移動。
    「おいしくなーれ、おいしくなーれ☆」
     そしてハイライトのかかった顔アップ。
     ぱちんとウィンク――したおっさんが、あわせた両手で投げきっすした。
    「「きゅーん☆」」
     なんか知らんけどマグロが爆発した。
     誰かのサイキック(誰だろうわからない)によって消し炭になったマグロを手に取るラックス。
    「これ……」
     振り返ると、和志がそっぽをむいた。
     まるこげのマグロ(ヒントは約千文字前に)を、ラックスはそっと口に含んだ。
    「ど、どう?」
    「マグロオイシイデスマグロオイシイデスマグロオイシイデス」
     無心に焦げたマグロを頬張り続けるラックス。
    「だめなやつだこれ!」
    「やめろ、不健康になるぞ!」
    「安心せえ、マグロなら他にも沢山――!」
     振り返る男たち。
     そこには、マグロを全滅させてマグロマウンテンの頂上に立つシャルロッテの姿があった。
     シャルロッテは空を見上げ、空からは巨大マグロ……いや、シャドウ・マグロドリームが見下ろしている。
     アニメでいうと、エンディングテーマのイントロがかかってるようなシーンである。
    「いつか、必ず」
    「その時を楽しみにしているマグ。いざ、さらば!」
    「あっちょっ」
     暦生や朔太郎がまったをかけようと手を出した、その時――。

    「「はっ、夢か!」」
     おっさんちで目が覚めた。
     っていうかソウルボードからぽいされた。
     むっくりと上半身を起こすおっさん。
     そして朔太郎たちと目が合い、両手で両乳首をおさえた。
    「キャー! エッチ!」
    「やかましい!」
    「そしてきもちわる!」
     かくしてマグロは食えぬまま、なんとかかんとか持ち帰れたのは環がうっかりライフルに変えちゃったマグロランチャーのみであったそうな。
     めでたしめでたし!

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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