泥沼ギャンブル

    作者:天木一

     札幌すすきのにある人気の無い薄暗い雑居ビルを地下へと進むと、一室から明かりが漏れていた。
     中には開けた空間があり、十数人の子供から大人までがトランプやスロットにルーレットといったギャンブルに興じている。そこは秘密の地下カジノだった。
    「2枚チェンジ」
     テーブルの客がカードを捨てて、ディーラーから新たなカードを受け取る。そしてにんまりと笑いそうになる顔を手で撫でるように隠す。
    「レイズだ!」
     男は勢い良く手元にあったチップを全て前に出す。
    「コール」
     向かいにいた女も同じ額のチップを賭ける。それを見て男は満面の笑みを浮かべてカードをオープンした。
    「どうだ! キングのフォアカードだぞ!」
     だが相手は慌てることなくカードを広げた。
    「ごめんなさいね、ロイヤルストレートフラッシュよ」
    「ば、バカな!? おかしいだろ! キングが何でもう一枚あるんだよ! イカサマだ!」
     男は喘ぎ、場に2枚出ている同じカードを目にして顔を真っ赤にして怒鳴り出した。
    「最初に説明したはずよ、ここの斬新ポーカーはカードの枚数がランダムだってね」
     女が手を振ると、ディーラーが残ったカードをオープンする、するとキングにエースといったカードが8枚以上入っていた。
    「こんなの間違いだ! もう一回勝負しろ!」
    「勝負しろといっても、もう賭けるものがないでしょう?」
    「な、何をする! おい!」
     騒ぐ男を顔色の悪い黒服の男達が両脇から抱えて別室へと連行する。
    「静かにしてもらえるかしら?」
     後から入って来た女がリモコンを手にすると、置かれていたテレビからどこかの電車内で男が女子学生に痴漢をしている姿が映った。
    「う、あ……」
     それを見て騒いでいた男の声が詰まる。
    「これを公開されたら困るでしょうね。警察沙汰、会社もクビかしら?」
    「や、やめてくれ!」
     女が笑うと、顔を青くした男が悲鳴のように叫ぶ。
    「でも安心して、これ以上の映像を用意してくれたら、これはお返しして、さらにチップも新たに用意してあげるわ。どう、悪い話じゃないでしょう?」
    「こ、これ以上のものを……」
    「ええ、チップも今回以上にお渡しするわ。そうすれば一発で稼げる額も大きくなるでしょうね」
     耳元で囁く女の声に、男はごくりと唾を飲み込む。
    「わ、わかった。新しいものを用意してくる」
    「うふふ、またのご来店をお待ちしておりますわ」
     ふらりと幽鬼の如く立ち上がった男を見送り、女は悪魔のように微笑した。
     
    「みんなも聞いてると思うけど、斬新京一郎が札幌のすすきので地下カジノを運営してるみたいでね」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)は集まった灼滅者に、鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)が発見した新たな事件の説明を始める。
    「斬新地下カジノでは、客に犯罪をさせて、その犯罪の映像をチップに換えて遊ばせてるらしいんだよ」
     カジノで負けた客は新たなチップを得る為にどんどんと犯罪をエスカレートさせていく。
    「そうやって犯罪を犯させる事によって、一般人を闇堕ちさせたり、凶悪な犯罪者に育てて部下にしようと考えてるのかもしれないね」
     そうなれば敵の勢力がどんどんと戦力を増す事になるだろう。
    「みんなにはこの地下カジノへ客として乗り込み、支配人の六六六人衆と、配下のアンデッドの灼滅をお願いしたいんだ」
     一般人を巻き込む敵の作戦を放置できないと、灼滅者達は頷く。
    「敵は支配人の六六六人衆、六二九番の小金井鏡花。そしてその配下のアンデッド6体だよ」
     六六六人衆だけでも強敵だが、その配下のアンデッドも居る。まともに戦えば厳しいものになるだろう。
    「地下カジノに入るには自分が犯罪を犯した証拠になるビデオが必要なんだ。それを用意しておかないと店に入れないよ」
     最初の犯罪は信号無視などどれほど軽微なものでも構わない。チップも少ないが入店する事は可能だ。
    「後はカジノで遊びつつ、支配人の六六六人衆をおびき出して倒してもらうことになるよ」
     上手く配下と分断できれば有利に戦えるだろう。騒ぎが起きれば一般人は逃げ出す。できればもう二度とこのような遊びをしないように説得したいところだ。
    「何度も諦めずに斬新な商売を始める斬新京一郎は本当に迷惑な相手だね。だけどこちらも諦めずに何度でも阻止しないとね。それに今回は配下にアンデッドがついてるんだよ。札幌では地下鉄でノーライフキングの事件なんかもあったし、裏で何がが動いているのかもしれない。敵の企みを阻止していけばそういった情報も手に入るかもしれないからね。大変だろうけどみんなには頑張って欲しい。お願いするよ」
     誠一郎の言葉を受け、灼滅者達は札幌へ向かう準備を始めた。


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)
    ヴィア・ラクテア(ジムノペディ・d23547)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)
    神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)
    九津見・早雪(闇夜のサイバーウィザード・d34433)

    ■リプレイ

    ●地下カジノ
     薄暗いビルの地下へと下りると、顔色の悪い黒服の男が1人ドアの前で立っていた。
     そこでそっとビデオを渡す。すると黒服が中と連絡を取ってビデオを持っていくと、それぞれの映像に見合うコインが渡された。
    「ごくろうさんやで」
     偉そうに黒服の男の肩を叩き、黒のスーツにサングラス、髪はオールバックといかつい姿で神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)はカジノに入る。
     中へ入れば、眩いばかりの照明が反射し、カードにスロット、ルーレット等、ギャンブルのゲームが並んでいる。外とはまるで別世界の地下カジノがそこにあった。
    「ここが地下カジノか」
     ギャンブルに興じる人々を九津見・早雪(闇夜のサイバーウィザード・d34433)は嫌悪の混じった目で一瞬見やる。だがすぐさま表情を消してカジノの内部を見て回る。
    「斬新は早く潰れちゃえばいいのに、こんなカジノで犯罪を助長するのは許せないね!」
     周囲を見渡し、ギャンブルに狂う人々に嫌悪の視線を向け、黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)は口の中で毒を吐く。
    「ほう、これはルーレットかのぅ、ちと変わっておるようじゃが」
     シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)が目の前にするのはルーレットのゲーム。だが通常とは違い赤と黒の数が同じではなく、数字も同じ数字が多く並んでいた。
    「ここのルーレットは見ての通り当たり易いよ、一度やってみるといい」
     客の中年男性が笑顔で増えたチップを次のゲームに賭ける。
    「面白そうじゃの」
     シルフィーゼは笑みを浮かべてチップを1枚置いた。
    「儂は友人に誘われてこの場所を知ったのじゃがおぬしはどこで知ったのかの?」
    「ああ、他のギャンブルしてる時にここの事を教えてもらったんだよ」
     そうして5人の灼滅者がゲームをプレイしていると、新たな客がまたカジノへと入ってくる。それはチーム分けした残り3名の灼滅者達だった。
    「カードを」
     場馴れした物腰で勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)はカートゲームのテーブルに着く。
    「あら、初めての方ね」
     先にカードを手にしていた女が笑みを浮かべた。胸元の開いた真っ赤なドレスから覗く胸は豊満で、手足は女性らしい肉感のある曲線を描いている。男ならば思わず目で追ってしまうような美人だった。
    「ここのカードゲームは使用されているカード枚数がランダムという斬新なポーカーよ」
     女が慣れたようにさらりとゲームの説明をする。
    「へぇ、それは変わってるね。面白そう」
     隣で彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)がみをきのカードを覗き込む。そこにはスペードのエースが2枚は入っていた。
     女は3枚のカードを、みをきは1枚のカードをチェンジする。そしてコールのチップを払った。
    「ランダムだと確率を計算できないですね」
    「それがこのポーカーの醍醐味よ、そしてそのお陰でこうやって大きな手が入りやすくなるの」
     無表情のままゲームを見ていたヴィア・ラクテア(ジムノペディ・d23547)の言葉に、女が妖艶に微笑みカードをオープンする。するとそこにはフォアカードが出来上がっていた。
     その時、隣のテーブルで騒ぎが起きた。
    「おっと……」
     しまったという表情を作り、可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)が袖からカードを落とす。
    「このガキ! イカサマしてるじゃあねぇか!」
     同じテーブルに座る男の客がそれを指差した。
    「おやおや……こういう罪が集う場所でございましょう?」
     恣欠は飄々とした態度で笑ってみせる。
    「なんだとコラァ!」
     立ち上がった男に無表情のディーラーが待ったをかける。
    「お客様、当店ではイカサマが判明した場合はプレイ中のゲームは負け、そしてチップは倍額払いとなっております」
    「これでいいんでしょう?」
     恣欠が悪びれなくチップを投げ捨てるように渡す。
    「それがイカサマしたヤツの態度か!」
     男が椅子を蹴るようにして立ち上がるが、ちょうどその体が後ろに立っていた柚貴にぶつかった。
    「ああ? 何ぶつかっとるんや!?」
     ドスの効いた声で柚貴がサングラスの奥から睨みつける。
    「す、すまん……」
     その勢いに押された男は怒りを萎ませて座りなおした。 
    「それではゲームを続行しますか?」
     ディーラーの言葉に対面に座った男は舌打ちしながらチップを受け取った。

    ●乱闘
    「折角の勝負だし、ワタシ達と貴方、四人でじっくり戦ってみたい。ここ騒がしいし別の静かなとこがいいな。そういう部屋、あるよね?」
     騒ぎに肩を竦めたさくらえが、女に向かって提案する。
    「へぇ……」
     面白そうに女が目を細めた。
    「如何です? 我々だけで続きの一戦というのは」
     女の目を見てみをきが挑戦的に口元に笑みを浮かべる。
    「それに背後に人がいるとイカサマが気になって仕方ない」
     周囲の観客を気にするように見渡したヴィアも頷く。
    「どうせなら静かな場所で集中してゲームをしたくないですか?」
    「いいわよ、そういう事なら向こうの個室でやりましょう」
     女は頷きパチッと指を鳴らす。すると1人の黒服が近づき個室へと先導し始めた。
     個室のドアが閉まるのを確認すると灼滅者達が動き出す。
    「さて、そろそろ始めよか」
     柚貴がカードを取り出すと力を解放し、個室へこれからの騒ぎが伝わらぬよう音を封じる結界を張る。
    「このままでは負けてしまいそうですね……ならこういう手はどうです?」
     恣欠が腕を振るうと、ベルトが飛び出しディーラーの黒服を貫いた。
    「な、何をする!?」
    「実はの、ぬしらを灼滅しにきたのじゃ」
     シルフィーゼがテーブルを蹴り上げると慌てて黒服が受け止める。そこへ踏み込みながら刀を抜き打つ。テーブルが真っ二つに割れ、切っ先が黒服の胸を斬り裂いた。
    「ひぃぃっ」
     突然の乱闘にゲームをしていた客が頭を抱えてしゃがみ込む。
    「邪魔だから、さっさとここから出て行って!」
     魔力でできた羽を展開した柘榴は一般人にそう怒鳴りつつ、魔力を込めたロッドを傷ついた黒服に叩き込んだ。くの字に吹き飛んだ黒服は動かなくなる。
    「敵襲! 敵襲! 支配人に連絡を……!」
     個室に向かって駆け出した黒服の足が止まる。下を見れば早雪の影が伸びて荊のように黒服の足に絡み付き、腰の辺りまで上りながら体を締め付けていた。
    「行かせるわけないやろ……!」
     柚貴の突き出した槍が背後から黒服の胸を貫く。
    「ゲグッ」
     胸に穴を開けながらも、黒服は動こうともがく。そのどす黒い肌には元々血など通っては居ない。それは動く死体だった。
    「しぶといな、まあそれならそれでやりようはあるで」
     柚貴は槍を抜くと振り回し、両脚を切断して転ばせると、頭に石突を振り下ろして叩き割った。ビクリと痙攣して黒服は動きを止めた。
    「な、何が起きてるんだ!?」
    「……一度、頭を冷やして考えるといい。激情と夢想に任せた非合理な勝負に託せる程、その身は安い物だったか、と」
     慌てふためく客へ、冷たい表情で早雪が冷や水をかけるように語り掛ける。
    「まだ、戻れる。ここは、淵だ。この先が――闇だ」
     その言葉にごくりと唾を飲み込んだ男は出口へと駆け出した。それが呼び水となったのか、他の客達も続くように逃げ出す。
    「動くな!」
     黒服は客達を押し止めようとする。
    「通行の邪魔じゃ、道を開けよ!」
     シルフィーゼが真紅のオーラを纏わせた刃を振るい、邪魔する黒服を斬り伏せる。
    「これに懲りたらもう二度とカジノなんかに足を運ばないことだね!」
     柘榴が一般人を逃がしながら、ベルトを飛ばして近づこうとする黒服の脚を貫いた。動きの止まったところへ柚貴の槍が頭を貫き、柘榴の帯が胴体に何本も突き刺しにする。
    「敵が……!」
     最後に1人が個室のドアに伸ばした手がぼとりと地面に落ちる。シルフィーゼは返す刃で黒服の胴を両断した。
    「これで終わりだな、では連絡するぞ」
     周囲を見渡し仲間達が頷くのを確認すると、早雪が手にした携帯から1コールだけの連絡を送った。

    ●ポーカー
    「こっちはスリーカードだよ!」
     さくらえは強気な態度でキングのカードをオープンする。
    「あら、残念ね、私はダイヤのフラッシュよ。ふふ、ごめんなさいね」
    「くっ……」
     悔しそうにさくらえは手元に残っていた全てのチップを投げ出し、荒々しく立ち上がって仲間に視線を向ける。悔しそうな表情は消え、自分の役目を果たしたと視線で仲間に告げていた。
    「次は俺が相手だ」
     みをきが代わりに席に着くと、ディーラーが手早くカードを配る。みをきは大きな役を目指して大胆にカードをチェンジする。
    「あら、強気ね。ならこちらは様子見でいこうかしら」
     みをきのカード交換を見て、女は1枚だけカードを交換し、肩を竦めるとドロップする。
     オープンされた手はみをきがフラッシュ、女がツーペアだった。
    「危ない危ない、なかなかやるわね。でもツキはこっちにあるみたいよ」
     女は深く笑みを浮かべて次のカードを手にする。そうやって一進一退のゲームを繰り返して互いの手を読み合う。
    「貴方思ったよりもやるわね、楽しいわ」
    「カードよりも俺は貴女に興味が」
     意味深な言葉を呟き相手の反応を確かめながら、みをきはカードを3枚チェンジする。
    「それは嬉しいわね。でも私はゲームが強い人が好きなの。私を振り向かせたかったらゲームに勝ってみることね」
     カードを見てウインクする女は2枚カードをチェンジする。みをきは表情を変えぬままチップを賭ける。
    「スペードのストレートフラッシュだ」
     みをきのカードを見ても女の笑みか変わらない。
    「惜しかったわね、ダイヤのロイヤルストレートフラッシュよ」
     オープンされたカードはみをきの上を行く役だった。残ったチップを持っていかれる。
    「真打登場です」
     最後のヴィアが席に着く。
    「今までで貴女の癖は見切りました」
    「それではお手並み拝見といきましょうか」
     ヴィアと女の真剣勝負が始まる。ヴィアは小さな手役で勝負をし、大きな手役では勝負を避けていく。少しずつコインを減らすが大きな勝ち負けは無い。
    「口は勇ましいけど、ゲームの方は大した事ないわね?」
     女はそろそろ仕舞いにしようかと、獲物を狙うように目を細めた。その時携帯が1コールだけ鳴り響く。失礼とみをきが携帯を確認する。
    「もう終わりだな」
    「負けたまま帰れる訳ないでしょう」
     さくらえの諦めたような言葉に、ヴィアはトントンとテーブルを指で叩き、苛立つようにカードを手にする。
    「レイズ」
     ヴィアが残ったチップを全て賭ける。
    「ふふ、凄い自信ね。でも、わたしも自信あるのよ?」
     オープンされたヴィアの役はストレート、女の役はフラッシュだった。
    「もうチップはないみたいね。残念だけど、これでおしまい。また遊びたかったら新しいビデオを用意してきて頂戴」
     女が扉を開ける。そこには人が減りテーブルは倒れ、荒れ果てた惨状が広がっていた。

    ●罠
    「な、何なのこれは!?」
     驚いた女が周囲を見渡す。そこには消え逝く黒服と、灼滅者の姿があった。
    「さぁ、いきましょうか。…………にいさん」
     女の背後からみをきが銀青色の篭手で殴りつけるように女の背中を押し出すと、続くビハインドが背中を斬りつける。
    「まさ、か。罠に嵌ったというの、この私が!?」
     大部屋の方へと押し出された女が振り向くと、先の部屋でディーラーをしていた黒服がさくらえとヴィアによって倒されていた。眩暈がするような怒りに血が出るほど唇を噛み締める。
    「ギャンブルに負けても、戦いには負けません」
     髪の色を銀から漆黒に染めたヴィアは、手にしたジランドールの青い火を揺らす。するとその炎に映る怪物の幻が女の足に纏わりついた。
    「これはイカサマ無しですよ?」
     大きく踏み込んだ恣欠は魔鐵杖をスイングする。防ごうとした壁のように撒いたトランプを弾き、腹部に叩き込む。
    「がぁッ」
     口から血を吐きながら女は吹き飛んで壁にぶつかる。女はキッと睨みつけてトランプを投げる。それはまるでナイフのように鋭利に飛来する。
    「こんな場所は『いらない』んだよ。だからここもキミも壊してあげる」
     さくらえがトランプを盾で受け止める。
    「徹底的にね」
     そして足元から伸びる影が大蛇のように口を広げて呑み込んだ。
    「こんなもので!」
     女は無数のトランプを周囲に放って影を切り裂く。そしてトランプが襲い掛かった。
    「――予測、防衛」
     早雪が光輪を放つ。小さく分裂した光は宙に浮遊しトランプに衝突する。幾つものトランプが軌道を逸らして外れ壁に突き刺さる。
    「斬新は早く潰れちゃえばいいのに、こんなカジノで犯罪を助長するのは許せないね!」
     柘榴は宙に五芒星を描き魔力の光線を放つ。光は浮いたトランプを消し去り女の肩を貫いた。
    「最近みかけにゅがセイメイ殿は息災かの?」
     シルフィーゼがカマをかけた問いかけをしながら、ローラーダッシュで間合いを詰めて脇腹目掛けて蹴りを放つ。
    「知らないわよ! そんな事!」
     女は言い捨てシルフィーゼの足にトランプを投げて突き刺し、軌道を狂わせる。
    「その心臓を穿つッ! ブチ抜けぇッ!」
     渾身の力を込めて駆け寄った柚貴が槍を突く。勢いのついた穂先は女の胸を貫き壁に突き刺さった。
    「こんなところでぇ!」
     標本のように壁に縫い付けられた女は、怒りに声を震わせながらトランプを投げ、柚貴の腕を深く傷つける。そして槍を引き抜いた。
     ビハインドが衝撃波を放つと、女はトランプを振るって切り裂く。注意がそちらに向いた隙にみをきは飛び込んで足を蹴り払った。
     咄嗟に受身を取った女に、腕を鬼の如く膨張させたさくらえは掬い上げるように拳を叩き込む。
    「ごほっ」
     咳き込みながらも女はトランプをばら撒き壁を築く、柘榴はその守りをロッドで叩き割った。そこへ恣欠は魔導書を開き光線を放つと、光は女を飲み込んで投げようとしていたトランプごと指を消し飛ばした。
    「あぐっ、この!」
     紙吹雪のようにトランプを投げ剃刀のように触れたものを切り裂いていく。その前に早雪が帯を編み込んで壁を作ると、僅かな隙間が出来た。
     飛び込んだ柚貴が槍で鋭い一撃を放つ。だが倒れ込むように女は避ける。しかしそこにはヴィアが待ち構えていた。縛霊撃で殴り霊糸が纏わりついて女の自由を奪う。
    「これで終わりじゃ」
    「こんなぁ!」
     シルフィーゼの刀が一閃し、驚愕した女の首を斬り落とした。

     灼滅者達は部屋を調べ渡したビデオを回収する。
    「……こんな店に人が集まんのも世も末……っちゅう感じか……」
     自分達以外の集められたビデオの山を見て柚貴が溜息を吐く。
    「それにしても、北海道で最近いろいろ事件が起きてるよね。大きなできごとの前触れなのかなあ」
     柘榴は終わらぬ事件の連鎖に不安を感じる。だが今は一つずつ事件を解決するしかないと、灼滅者は荒れ果て誰も居なくなったカジノを後にした。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ