りんねの誕生日~急募! 新曲のネタ!

    作者:黒柴好人

    「う~ん」
     日差しが暖かさから暑さへと代わってきた頃。武蔵坂学園の空き教室で観澄・りんね(高校生サウンドソルジャー・dn0007)は唸っていた。
     数多くの本に囲まれ、唸っていた。
     すわ、勉強か!?
    「なかなか思いつかないなぁ、オリジナル曲の歌詞」
     よかった勉強じゃなかった。
    「……お悩みのようですね」
    「うひゃあっ!?」
     高見堂・みなぎ(中学生エクスブレイン・dn0172)がりんねが座る机の下から現れた!
    「びっくりした……あなたはエクスブレインのみなぎさん!」
    「……そういう貴女はサウンドソルジャーのりんねさん」
     ひょんな事をきっかけに、2人は知り合いになっていたのだった。
     ひょんな事はひょんな事なので、あまり気にしてはならない。
    「……相談があるなら聞きますよ?」
    「じゃあ、どうして机の下から出てきたの?」
    「りんねさん、野球の投手はオーバースローやアンダースロー、はたまたサイドスローなど……投球フォームひとつ取っても様々な方法があります」
    「うん」
    「……つまり、身の乗り出し方も同じというわけです」
    「うん?」
     大丈夫、理解できないのはりんねだけではない。
     その話題は置いておくとして。
    「相談、聞いてくれるの?」
    「……はい。わたしはエクスブレインですから、そういうのは得意なのです」
    「そういうものなのかな? まあいいや。ええとね」
     りんねはかいつまんで、新曲作りが行き詰まっている事を語った。
    「……りんねさんでもそのような事があるのですね。それで本を…………え」
     みなぎは積まれた本――りんねが歌詞を考えるために借りてきたもの――のひとつを取り出し、震えた。
    「……全編英語の、本が……ありますが……」
    「あ、それ? 間違えて借り――いやぁ、参考になったよっ!」
    「……おかしいですね、サイキックアブソーバーからの警告は何も……。明日は大雪か槍でも降りますか?」
    「そんなに大惨事!? 冗談、冗談だってー!」
    「……ああ、よかった。明日も世界は平穏を保ち続ける事ができますね」
    「もしかして私が英語の本をまるまる一冊理解できれば、この世界を支配することも?」
    「それは無理です」
    「あれ?」
    「……とにかく、困っているならば色々な方にアドバイスを頂いてはどうでしょう」
    「そっか、そういう方法もあるよね」
    「ではそれがりんねさんへの誕生日プレゼントということで」
    「誕生日? あ、そっか。もうそんな時期だっけ!」
    「……そうです。息抜きを兼ねてどうでしょうか」
     そういえばこれまでの誕生日は花火を楽しんだりしたが基本的に音楽が中心で、友人たちとの会話によるコミュニケーションは少なかったかもしれない。
     音楽言語で語り合うだけでなく、お喋りも楽しみたいのも確かだった。
    「ありがとう、みなぎさん! あとでお礼するからねっ!」
    「……おっと、お礼なら既に……」
    「へ?」
    「いえ……何でもないです」
     集まって話して食べたり遊んだりする事になりました。


    ■リプレイ

    ●誕生日の午後
     都内にあるちょっとお洒落な飲食店。
     その一角で乾杯の声があがり、グラスをぶつける音が幾度か響き渡る。
    「Nos meilleurs……あ、お誕生日おめでとうございます♪」
     りんねの隣に座っていたリュシールが笑顔で花束を差し出した。
    「ありがとう、リュシールちゃん! なんだかこうして花束を受け取るのってあんまりないから嬉しいような恥ずかしいようなだね。ところで最初なんて言ったの?」
    「えっと、あれはフランス語でお誕生日をお祝いする言葉が出かかっちゃいまして」
     リュシールは少し気恥ずかしそうにしながら、母国語で祝福の言葉を唱えた。
    「おお、すごくフランスっぽい!」
    「それはそうよ、フランス語なのだから」
     本気なのか冗談なのか、いや十中八九本気のりんねに思わずアリスがツッコむ。
    「そうだった! それに私、他にフランス語ってよく知らないや。ボンジュール、とか?」
    「りんねがフランス語ペラペラだって言われたらコッチが困るしなー。あ、コーラフロート追加でひとつ!」
     早くも飲み物を空にした周が言いながら笑った。
    「じゃあオレもポテトにドリアにアイスに、それから……」
     追加注文した周に負けじと一もメニューとにらめっこしながら目についたものを次々と読み上げていく。
    「ちょっとー、いきなりどれだけ注文する気よ」
    「良いんだよ、オレ成長期だし! それにちゃんとりんねの相談にも乗るし♪」
     半眼で一を見るリュシールはそういう事ならと身を引く。
    「俺も贈り物を用意してきたんだ。はい」
    「朔耶さん、ありがとっ! 開けてみてもいい?」
     どうぞ、と手を差し出されりんねは綺麗にラッピングされた小箱を開封する。
    「わぁ……!」
     中には、エレキギターやベースのアンプを模った小物入れが収まっていた。
     表面に施された模様もアンプで彩られており、小粋な一品だ。
    「すっごくかわいい! ピックを入れておいたりもできそうだねっ」
     しばらくあらゆる角度から小物入れを眺め、汚してはいけないと一旦仕舞う事にした。
    「私からも。お誕生日おめでとうございます♪」
     翡翠が用意したものはチーズケーキとヨーグルトケーキ。
     どちらも見ただけでよだれが垂れてきそうになる程の完成度だ。
    「翡翠さん、今年もありがとうだよ! 楽しみにしてた! このケーキがあると誕生日がきたって感じがするよねっ」
    「それは良かったです。ただ、お店で開けるのはちょっと難しいと思うので、お持ち帰りできるようにしておきました」
    「わざわざごめんね。後で一緒に食べられるといいね!」
    「はい。好きなものを食べてると良いこと思いつくかもしれません♪」
    「だねっ!」
     タイミングを見計らい、リュシールが口を開く。
    「早速ですけど、新曲作りでお悩みだそうで」
     りんねは少し困ったようにこくりと頷いた。
    「たまにあるんだよね。私ってどんな音楽やりたいのかなって」
     りんねが無類の音楽好きである事は彼女を知る者であればご存知ではあるが、誰しも好きすぎて悩む事もあるものだ。
    「歌詞で悩んでるみてぇだけど、メロディ自体はできてるのか?」
     周の問いに、りんねは「それなんだよね」と悩ましい様子を見せる。
    「大体のイメージはあるんだけど、歌詞をつくってから曲をつくった方がいいかなって」
    「ならいっそ全部ブチ壊して普段作らない曲調にしてみるとか? ブラックメタルとかたまーにやる分には面白いと思うし」
    「ブラックメタル……あー、何だか悪魔的な感じのアレかな?」
    「そうそう! 絶対りんねはやらなさそうな音楽だけど、だからこそってな」
     ブラックメタルとは、ダークでデスメタルな雰囲気のちょっとアングラな音楽である。
     とりあえず人を選ぶのは間違いないジャンルだろう。
    「面白そうだけど、私にはキビしいかなぁ。でも、広いジャンルで見るのはいいかも!」
    「その問題を解決するためにも聞いておきだいんだけど」
     と、見桜が口を付けていたコーヒーカップをソーサーに置きながらりんねに顔を向ける。
    「見桜さん、クリスマスの時はアツかったね!」
    「りんねさんもね」
    「あ、話の途中でごめんね。それで聞きたいことって?」
    「うん、りんねさんってどんなバンドが好きなの?」
     大体、アマチュアで作詞や作曲する者であれば自分が好きなバンドやアーティストの真似を、あるいはその前段階としてコピーバンドから始めるものだろう。
     その影響はなかなか消え去る事はなく、何曲とオリジナル曲をつくってもその土台や基礎になる部分には必ずと言っていい程その色が残る。
     つまり、好きなバンドを聞く事は当人の傾向を把握するだけでなく、曲作りの原点回帰を促す事に近いとも言えるかもしれない。
    「そうだなぁ。色んなバンドを聴いてるんだけど、最近だとこのあたりが好きかな!」
     と、りんねは携帯音楽プレイヤーを取り出し、曲の一覧を見桜たちに見せた。
     今の音楽チャートの上位に入る超メジャーなものから聞いた事がないようなドマイナーなものまで、確かに『色んなバンド』が好みのようだ。
     だからといって、それらに全く共通点がないわけではなさそうだ。
    「ポップなもの、アップテンポな曲が多い印象かな?」
     見桜の指摘に、りんねは嬉しそうに頷く。
    「やっぱりテンションが上がる曲がいいなっ! もちろんバラードみたいなのも好きだし、ハードでかっこいいロックも好きなんだけどね」
    「曲調は暫定的にその路線でいいとして、問題は歌詞だね」
     考える見桜たちに、何か参考になればとアリスがカードを差し出した。
     見てみると、何かの歌詞が書いてあるようだ。
    「私からのプレゼントになるのかしらね」
     そこには。
    『夢を追い 夢に破れ 夢をつかみ さらなる夢に追い立てられる』
    『人は永遠に 夢の旅人 夢を見ないのは 死体だけ』
    『生きているなら 望みましょう 未来へ向けて 願いましょう』
    『自分が自分であるように 誰から省みられることが ないとしても』
     そうしたためられていた。
    「何だかロックな感じだねー、アリスさん」
    「哲学科だと夢とか願いとか、そういうものとも向き合うことが多くてね」
     言葉遊びのよなものだとアリスは言う。
     翡翠が「夢や願いですか」と思案顔ながらも手を挙げる。
    「やっぱり自分のしてみたいことや叶えたいことはどうですか?」
    「ふむふむ、なるほどねー。してみたいことかー」
    「はい。そうすると思いが出て反映させやすいでしょうし、楽しいりんねさんらしい歌になると思いますよ」
     翡翠に言われ、自分の願望を頭に浮かべようとするりんね。
     だが候補が多すぎるのか、かなり悩んでいるようだ。
    「うーん、最終的にはやっぱりドームツアーを……」
    「将来の夢かよ!?」
     勢いよく周がツッコんだ。
    「でも、素敵な願いだと思いますよ♪」
    「えへへ、照れちゃうなー」
     翡翠に持ち上げられ、頬を緩めるりんねだった。
    「うーん、それなら願いってわけじゃないですけど」
     悠花がマイクを握ったような形にした手をりんねに差し向けた。
    「りんねさんの大きなバストって維持する秘訣が何かあったりしますか?」
    「ええっ!? 何も考えたことないんだけどなぁ」
     腕を組み、目を閉じて考えるりんね。
    「いっぱい食べていっぱい遊んでいっぱいギター弾いていっぱい歌えばいいんじゃないかなっ!」
    「なるほど。その奔放さでストレスを溜めないのがいい、と……」
     悠花は興味深そうにメモする。
     のびのびと生活するのがいいのかもしれないネ。
     勉強を忘れている節があるが。
    「ちなみに、みなぎさんは何かしたいことはありますか?」
     翡翠が話しかけると裏方のようにひっそりと参加していたみなぎは、穏やかに笑い……。
    「……わたしの野望は、中々にエキサイティングですよ……?」
    「そ、そうなんですか」
     よい子が聞いてはイケナイ内容に違いなかった。
    「あ、そういえばりんねさん。読んでいたという全編英語の本はどうしました?」
    「あの本は、うん、ええと、そう! 心の目で読んだよ!」
    「まさにフィーリングということですね! さすがりんねさん、フィーリングで内容がわじゃっちゃうなんて……!」
     目をキラキラ輝かせる悠花。
     もはやりんねの退路は完全封鎖だ。
    「どうしても英語歌詞にしたいなら『文字の妖精さん』頼ればいいんじゃね?」
     周が提案したのは灼滅者お馴染みのESPを使う方法。
     書物の内容を教えてくれる妖精さんを呼び出す便利なESPだ。
    「あれって数日で教えてもらった内容を忘れるんじゃなかった?」
     見桜の問いに周がそうだなと肯定する。
    「その前に和訳なりなんなりをメモっておけば問題ないだろ? むしろ、妖精さんを呼んですぐに歌詞を完成させれば後がラクかもな!」
    「ナイスアイディアだよ、周さん! あ、でも発音とかどうしよう」
    「あー……。英語の発音については自分で覚えるしかねぇなー……」
    「ギブアップだよ、周さん!」
    「諦め早いな!?」
     りんねなら音に乗せればどうにかなりそうな気がするが、適当にはしたくないらしい。
    「なら、フィーリングのまま勢いで歌詞を作っちゃうという手も!」
    「フィーリング……。この子のイメージ曲なんて作ったら、さぞかし変わったのが出来るんでしょうね。行動が突発の塊で」
     悠花の言葉を聞き、リュシールは思うがままに注文した料理を口に頬張る一に視線を向けながら呟く。
     それでも話は聞こえていたらしく、咀嚼を終えて一気に飲み込んだ一が「なに? オレのイメージ曲?」と自慢げに腕を組んだ。そして。
    「そりゃズバーンでガガガーって感じのチョーかっこいい感じだろ」
     何かを斬ったり投げたり放出したり光ったり爆発したりといったような身振り手振りを交えながら葛木・一のテーマソングのイメージを語った。
     フィーリングここに極まれり! といった内容で、何か伝わるようで……やっぱりよく分からなかった。
    「なるほどねー。うんうん、一くんらしい曲になりそうだよね!」
    「だろ? あとはギュワーンってのも入るともっとかっこよくなるかもな」
    「あっ、それいいね!」
    「どうしてそれで伝わるんだ……?」
     擬音や勢いだけで会話をしている2人を見て、朔耶は頭を抱えた。
     これではりんねの思考レベルが小学生並にも思えてしまうが……彼女の定期試験の成績をよく知っている朔耶や悠花は危うく納得しかけてしまった。
     ここは思考がピュアなのだという事にしておこう。
     成績の事を考えていて、朔耶はふと思い付く。
    「りんねって音楽が関わると一気に成績が上がるしさ……歴史とか英単語の語呂合わせ的な感じの歌詞を作ったらどう?」
    「あ、実は前にリュシールちゃんに同じようなアイディアをもらったことがあって」
     そう言いながら、りんねは恥ずかしそうに笑う。
    「そうでしたね。あれから試してみたのですか?」
    「う、うん」
     りんねにしては歯切れが悪そうに頷いた。
    「いいメロディとか歌詞ができるとね、どうしても声に出したくなっちゃっうんだよね。ガマンできてもついどこかでリズムとっちゃって」
    「そういえば前にテスト中注意されていた事がありましたよね、りんねさん」
    「ああ、なるほどね。あれは作った歌を頭の中で流していて……」
     実はそんな事があったのだった。
    「いやあ、お恥ずかしい。あ、でもリュシールちゃんのアイディアのおかげでその時はちょっとだけ点数がよかったんだよ!」
    「それならリズムをとってしまうのをガマンすれば完璧ですね!」
    「歌詞にする内容のヤマカンが当たれば、だけどね」
    「っ!」
     的確な指摘だったのか、朔耶の言葉にりんねは思い切り顔を逸らした。
    「仕方ない。割と冗談な提案だったんだけど、ここまで言ったら本気で取り組まないと」
     まさかもう実践していたとは朔耶も思わなかったが、乗りかかった船だ。
     ……操舵手がかなり不安だが。
    「テストに関する歌詞の方は後で協力するからさ」
    「ありがとう、ありがとう! 朔耶さん!」
     苦笑する朔耶の手を、今にも泣きそうな笑顔のりんねが握り締めた。

    ●それからの宴
     注文した料理や飲み物も大体平らげて。
    「本格的な議論に入る前にお茶を楽しむ時間にしない?」
     とのアリスの提案により、お喋りと食事はちょっぴりブレイクタイム。
     各々好きなお茶やドリンクを注文し、まったりとした時間が流れていく。
     スコーンを傍らに置き、淹れたてのダージリンを味わうアリスがりんねに話しかける。
    「りんねさんはオレンジジュースを飲んでいるのかしら?」
    「うんっ。最近はフルーツが入ったドリンクにハマってるかも。きっと喉にも優しいだろうし栄養もあるから歌を歌うにはもってこいかなって!」
    「そう。紅茶にも果物を使ったものが多いから試してみるといいかもしれないわ」
    「今度おすすめがあったら教えてね、アリスさん!」
     歌といえば、と悠花が記憶を辿りながら尋ねる。
    「りんねさんって演奏が多くて歌、って歌いませんよね?」
    「えっ、そんなことないよ? 同じくらい歌って……」
     過去、大きな催しを思い出してみる。
    「本当だ!」
     思い出したらしい。
     確かにステージ上で音楽を、というイベントでは大体ギターの演奏ばかりしていた。
     もちろん演奏しながら歌ったりもしていたのだが、殆ど目立ってはいない。
     実は結構な核心に触れたのではないだろうか。
    「大丈夫、普段はちゃんと歌も歌ってるから! 別にヘタじゃない、と思うし!」
    「そうですかー。何か秘密があると思ったんですけどねー」
     ここは諸般の事情、という便利な言葉を使うとしよう。
     それはそれとして、と悠花は胸を張って宣言する。
    「わたしは逆に歌ばかりでしたけど、りんねさんとセッションするためにギター練習しましたからね!」
    「おおっ、本当に!?」
    「今まで知らなかった分野に手を出して、ちょっと世界が広がった気がします」
    「うんうん、すっごくいいことだと思う! セッション、楽しみにしてるねっ!」
    「俺もピアノが弾けるから、よければセッションに混ぜて貰えると嬉しいかな」
    「大歓迎だよ、朔耶さん! また楽しい思い出が増えそうだね!」
     と、リュシールが何かを思い付いたようだ。
    「そういった日常の場面や、さっき言ったような一みたいな人物を観察してイメージに音や言葉を当てはめていく、というのはどうでしょう。何かインスピレーションあるかも」
    「アタシもいい案だと思うぜ」
     その考えに周も同意する。
    「音楽ってのはある意味人生の縮図、って考えもあるな。伝えたい事、溢れ出す何かを叩きつけたいとか以外にも日常の風景歌にしたりとかあるし」
    「音楽は人生の縮図……いい言葉ですね」
    「ああ。アタシたちの日常っていや、こういう普通の生活だけじゃなくてダークネスとの戦いもあるわけだし、ネタにするには持ってこいかもな」
    「そっか、そういうことでいいんだ……」
     りんねはほへー、と感心したような顔をしている。
    「りんねは難しく考えすぎてたんだろうなぁ。こう……バーバーンって感じでインフォメーション? そんな感じのが良いんじゃね?」
     相変わらずの謎表現を使う一だが、りんねにはしっかり伝わっているようだ。
     そんな様子を見てか、見桜は俯きがちに呟く。
    「詞を考えるのって大変だよね。出来た詞を見ると恥ずかしくなるし、ラブソングでもないのに『これ、だれに向けて書いたの』って言われたり……」
     「まあ、その曲はイメージしてる人がいたんだけどね」と小さく続ける。
    「うん、大変。大変だし、みんながみんな詞に共感してくれるわけでもないよね。でも、それってそんなに悪いことじゃないかなって思うな」
     りんねは見桜に向けて笑いかけた。
    「悩んだおかげでこうしてみんなと話ができたし、たくさん時間をかけてつくった曲を聞いて笑ってくれる人がいれば私も笑顔になれるし!」
    「――私、気が小さいからいつか前向きで晴れやかな詞を書きたいなって思ってるんだよね」
    「大丈夫、見桜さんなら絶対書けるよっ!」
    「歌が好きなんだろ? だったらどうして好きなのかその気持ちを詰めてみるとか、良い所とか好きな物を自分らしく表現すると自然と前向きな詞ができるんじゃね」
     いつの間にか追加注文していたものを頬張りながら、一はイタズラっぽく笑った。
    「ああっ! なんだか一くんにすっごくイイコト言われた!?」
    「もう、この子は肝心なところできちんとしたこと言えるんだから……」
     そんなこんなで。
     色々な話を聞き、りんねは何かを掴んだようだった。
    「ね、皆さん。一緒に歌いません?お誕生日の歌」
     リュシールの提案に、一同は口々に賛成の声をあげた。
     そして、誕生日といえば鉄板定番のあのバースデーソングの合唱がはじまった。
    「――みんな、本当にありがとね。じゃあ私からも歌でお返ししようかな。今つくったものをねっ!」
     今日のパーティーの純粋な感謝の気持ち、そしてこれからも仲良くしてほしいという内容が飾り気なく、過度に誇張せず、素直で楽しげなリズムに乗せて贈る。
     全て、今日があったからこそ完成した歌だった。
    「私、もう音楽のことで悩まないよ! ううん、ちょっと悩むかも」
    「その心は?」
     首を傾げる翡翠に、りんねはピースサインを返した。
    「またみんなとこうして話したいからっ! あ、もちろん逆に相談にも乗るからね!」
     ネタ会議兼誕生日パーティーは、時間が許す限り盛り上がり続けたのだった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月10日
    難度:簡単
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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