蝋燭を吹け、そして打て

    作者:西灰三


    「これはこれは、ご贔屓に」
     満面の笑顔を浮かべて記録媒体の中の映像をこのカジノの見ていた。
    「ここまでのお得意のお客様はそうそうおられません」
    「趣味と実益を兼ねてるんだ、都合がいいだろう?」
    「ええ、そうですね。今回は構図にも気を配っていて……」
     世間話のように黒服と一見普通のスーツの男は話を弾ませている。彼らの背後では再生しっぱなしの動画が流れている。画面からは乱れた赤と白、スピーカーからは割れた悲鳴。総じては死。
    「さて、もうそろそろワンゲームにしますか」
    「そうだな、今日はブラックジャックで」
    「かしこまりました。……次はバーストでもなさるんですか?」
    「それも面白いかもな」
     支配人が問う。客は答える。おそらくここは斬新地下カジノの中でも最も暗く、下衆の渦巻く場所。
     

    「時が、来たようだな」
     神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が現れた灼滅者達が全員揃ったのを見て呟いた。
    「鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)の報告は聞いているか? 斬新・京一郎の経営する地下カジノの話だ」
     この地下カジノでは金ではなく犯罪をチップとして扱いゲームを開いている。
    「その中でも今から行ってもらうのは、もうどうしようもない手遅れの連中のたまり場だ。闇堕ちや強化一般人とかそういう話じゃない」
     つまりは人が人のまま落ちきった者達がたむろう場所だ。
    「何にせよこの地下カジノがダークネスの取り仕切る場所ならば叩き潰す必要がある。ここに潜む支配人の六六六人衆と配下のアンデッドを灼滅してくれ」
     そのためには灼滅者達も犯罪を収めたビデオなどを用意する必要がある。
    「別にここにいる客共に合わせて作る必要はない、カジノの側も顧客をを多く得るためにはハードルは低いほうがいいからな。……最初はここに客達も大したものじゃ無かったようだ……レートを上げて行ったのは本人達だ」
     ヤマトは冷たく言い放った。
    「カジノに入り込めれば、ゲームでチップをなくすなり逆に勝ちすぎたりすれば支配人である六六六人衆が黒服アンデッドを連れて出てくる。そこを叩けばいい。まあ周りの一般人は戦闘になったら適当に逃げるから気にしなくていい。戦いに集中してくれ」
     一般人の保護を考える必要が無いとヤマトは言う。逃げる背にはこんなカジノに来るなとも言えるだろうが、聞く耳を持ち合わせているかどうかは定かではない。
    「支配人である六六六人衆は強敵だ。殺人鬼とガンナイフのサイキックを使うキャスターだ。黒服アンデッドは2体、拳や蹴りで攻撃してくるデフェンダーだ」
     ヤマトは灼滅者達に言う。
    「斬新・京一郎率いる斬新コーポレーションは未だ札幌にて健在だ。おそらくこれも、同じ地域で行われている殺人ゲームも親しい意味があるのだろう。放置しておくわけにはいかない。……頼んだ」


    参加者
    月見里・月夜(牛タン月夜炭火焼弁当・d00271)
    橘・蒼朱(アンバランス・d02079)
    ルーパス・ヒラリエス(塔の者・d02159)
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    東谷・円(ルーンアルクス・d02468)
    戦城・橘花(骸・d24111)
    帯刀・伊織(延命冠者・d32708)
    リースリング・ヴァイングート(樽守の翠猫・d33079)

    ■リプレイ


     一目見れば落ち着いた空間とも言えるだろう。カジノと言う賭場にあるはずの熱狂というものはこの薄暗い室内には存在しない。
     熱が目立たぬだけだ、チップを積む紳士も、ボールの行方に目を向ける淑女も、カードを切るディーラーも。……全てが狂っている、狂っているのがここでは正常なのだ。
    (「……あまり、長居したくないなー……」)
     リースリング・ヴァイングート(樽守の翠猫・d33079)の視線は宙を彷徨う。辛うじて中で振る舞われる葡萄酒に視線を揃えて心を落ち着ける、どこにあろうともそれは自分のルーツであるから。
     ふうっと帯刀・伊織(延命冠者・d32708)は息を吐いた。賭場の空気に気圧された、というわけではない。視界に入る普通の人間達がここで遊びに興じているのを見て取ったからだ。彼らには自らの行動に何の疑問も挟んでいないように見えたから。
    「しばらくお待ち下さい、映像を確認させて頂きます」
     やってきたスタッフに二人は自らの罪の証拠を渡す。リースリングはサーヴェラジュ用の長めの刃物を手にしている映像を、伊織は万引きの映像をそれぞれ差し出す。おそらく帰って来るチップはここにいる客のものより遥かに少なくなるだろう。
    (「……人殺しの価値ってのはどんなモンなのかね……」)
     東谷・円(ルーンアルクス・d02468)が受け取ったチップの重さを確認しながら心の中で呟いた。他者の私物を汚し捨てる行為で得たチップを全て積んでもテーブルの上にある塔の高さには届かないだろう。
    (「……まぁ、知ったところでどうでもいいが」)
     円は興味を失ったように視線を外しブラックジャックのテーブルへと向かう。席には先客の橘・蒼朱(アンバランス・d02079)と戦城・橘花(骸・d24111)が先に座っていた。二人共不慣れな様子で周りを見回している。もっともそれは蒼朱だけであり、橘花は演じているだけだが。彼女はスーツに赤いネクタイと少々派手目な新入社員という出で立ちだ。手にしているチップも似たようなものであり、周りの客からは意に介されすらしていないだろう。
    「よろしいですか?」
     ディーラーが問えば3人はチップをベットする。橘花は一枚、蒼朱は使いきるつもりで三分の1程、円は様子見を含めて数枚。配られたカードは橘花は18、蒼朱は14、円は11。
    「す、スタンド」
    「えっと、ヒット」
     そして円はテーブルを指先で叩きヒットを示す。結果はディーラーが17で蒼朱はバーストし円は18で勝ちを収める。隣の2人が初心者らしい振る舞いをしている中、円は落ち着いてかつ悟られぬ様に今配られたカードに目をやっていた。いわゆるカードカウンティングという多くのカジノではイカサマとされる行為である。
     さて次のゲームをというところで店内に僅かな驚きの声が広がる。ルーパス・ヒラリエス(塔の者・d02159)の受け取ったチップが常連客のものとそれほど違いがなかった故に。彼は手慣れた様子でピアノマンにリクエストするとポーカーテーブルに着く。先に席についていた伊織も彼に渡されたチップの量を見て目を見張る。そんな注目を意に介さずに正装姿の彼は慣れた様子でチップを張っていく。
     月見里・月夜(牛タン月夜炭火焼弁当・d00271)や黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)も彼に向けられた注目の陰でルーレットに参加していたリースリングに合流する。これにてベットの時間は終わり、次はオープンの時間だ。


    「あたしは宵越しの銭は持たない主義でねー……。嵐のように、花火のように!」
     リースリングはいささか演技めいた口調で大きく声を張る。周りの客からは冷ややかな笑みを向けられるが、他の灼滅者達には合図として機能する。それぞれのテーブルでチップがうず高く積まれていく。
    「勝つも負けるも泡沫の泡銭、さあさ度胸試しに一勝負ッ!」
     その中心である彼女は誰よりも早くチップを賭ける。彼女がチップを置くのは赤のマス、反対の黒に置くのは月夜に蓮司。彼らの動きをよそにルーレットの上のボールは幾度も巡り降りる場所を選んでいる。その様子を遠巻きに他の灼滅者達も窺う。
     ブラックジャックのテーブルでは蒼朱が既に手持ちを無くし、橘花の手持ちが少なくなり、円が勝率を上げていた。ディーラーはそんな彼を警戒し改めてカードを切りなおそうとしている。
     ポーカーのテーブルではルーパスのチップが増え、反対に伊織のチップが減ってきている。彼は疑うような素振りを見せている。
     渦中のルーレットのボールは果たして落ちる、ポケットの示す色は赤。即座に黒に賭けた月夜と蓮司が動く。
    「ザケてんじゃねーぞ! どうなってンだコイツァ! 全然勝てねーじゃねーか! タコ!」
     ガンとルーレット台を月夜が強く蹴る。同じ様に蓮司も慌てて出てきたスタッフに絡み始める。
    「……おい。いくら何でも都合よすぎじゃねぇか? 仕組んでねえだろうなテメェ、あぁ!?」
    「い、いえそんな事はございません!」
     彼らの動きに反応して各所で同じ様に騒ぎを灼滅者達は起こし始める。
    「……なあ悪いんだが、今の勝負、どうにも納得できないんだ。あんたらイカサマしてなかったか?
    「まさか。そんなことはしないわよ、ねえ?」
    「……妙にお互い視線や身振りでやり取りしていたように見えたんだが。いや、カードかもしれない。カードの裏面に何か印があったのかもしれない。ちょっと1枚1枚見せてはくれないか?」
     伊織はルーパスとディーラーに向けていた疑念を口にする。……演技ではあるのだが。ルーパスは朗らかにその茶番に付き合いディーラーは泡を食う。ポーカーのテーブルだけではなくブラックジャックでも同じような事を起こしていた。
    「……あの。そちらもイカサマじゃないんですか」
     橘花が円の様子を見ながらディーラーに窺う。ディーラーはその疑念について答えないが行動が示していた。カードを集めて切り直すのはカウンティングへの対策である。
    「こっちを疑ってるのか? ふざけんなよ」
     円は立ち上がり怒りを露わにする。蒼朱が見上げれば真に迫った様にも見える。
    「こんなマトモじゃないところのヤツらの言う事なんか信用できるか、お前らこそこっちがイカサマしたって証拠でもあんのかよ?」
     店内に響き渡る怒声と喧騒、それを期に客が互いに囁き合いスタッフが慌ててプライベートルームに行き来する。そして件の人物が現れる。
    「皆様、お静かに願います」
     その声の主こそが今回のターゲットである六六六人衆である支配人だった。


     支配人は2体の黒服のアンデッドを連れていた、間違いない。灼滅者達は彼の姿を認めるとすっくと立ち上がる。
    「お客様、他のお客様方のご迷惑になりますので……」
    「……斬新にしちゃ今一歩足りねェンじゃねぇの? ただのお遊戯カジノじゃねェか」
     月夜が一つ零せば二つ目は橘花が零す。
    「一瞬でも貴様らに敬語を使った自分に腹が立つ」
    「……なるほど。皆様は『招かれざる客』というわけですね」
     支配人は得心が行ったとばかりに懐から銃を取り出す。周りの客はまるで見世物が起きるという様に興味津津に灼滅者と支配人達を見ていた。まるで自分達に被害が及ぶとは考えてもいないようだ。
    (「……人のまま腐りきった、ですか」)
     蓮司はふと思う。彼らはこの後ここが戦場になるなどとは考えてもいない様子だ。それに巻き込まれるとは更に考えも及びつかないだろう。
    (「……まぁ、別に義理もありません。最低限の仕事だけはしときましょーか」)
     彼は意識から彼らを排除した。
    「それではお出口はあちらです。それともまだ御用がございますか?」
    「背を向けたら撃つつもりだろう?」
    「何しろ性分ですので」
     伊織の言葉に支配人は悪びれず答える。
    「これだから六六六人衆は……」
     円は武器を手に呼び出し構える。すでに相手は剥き出しの殺気を放ち始めている。
    「ところで……命っていくらのチップで買えるのかしら、ねえ?」
    「それはお客様自身に伺ってみればよろしいでしょう」
     にこやかにルーパスの問いに支配人は答える、二人の会話を聞き流しながらリースリングは期を窺う。彼女の視界の中でスロットが止まる、当たりの形にリールが揃い派手な音楽とともにチップが吐出される。同時に全てが動き出し立ちどころにカジノは戦場となる。
    「行こうか、相棒!」
     蒼朱がノウンを呼び出した。かくして戦いの火蓋は切って落とされる。


     黒い耳と尻尾を出した橘花が支配人に駆け寄ろうとする、だがそれよりも早く支配人が動く。
    「こうやって殺しあうのも久しぶりですね。鈍っていなければいいんですが」
     支配人は恐ろしく素早い身のこなしで一気に詰め寄りルーパスに接射しようとする。とっさに彼は支配人の手を払い自らに向けられた銃口をギリギリで反らせる。
    「……え……? あ? あ!?」
     即座に悲鳴が店内に響き渡る、行き先を間違えた弾丸が客の男の胴体を貫いた。ここでやっと周りの客が逃げ出していく。その彼らの顔を横目で見るルーパスに支配人が銃を構えたまま話しかける。
    「おや、守らないんですね」
    「梅雨時で気分が乗らなくてね」
    「なるほど、わかります。あなたは『こちら寄り』なんですね」
     肉薄するルーパスと支配人、その支配人を援護しようと黒服アンデッドが殴りかかる。だがその前にリースリングが割り込んでモーゼルビームを放ち攻撃を引き付ける。
    「宵越しの銭も……宵越しの弾も持たない主義だからねー!」
     ありったけの弾丸を打ち込まれれば黒服も彼女を意識せざるを得ない、攻撃目標を彼女に切り替えた。そしてもう一方のアンデッドは月夜がその腕を握っていた。
    「拳ってのはこう打つんだよ!」
     彼はもう片方の手でアンデッドを強く殴りつける。勢いで吹き飛ばされたアンデッドは月夜を探す。
    「雑魚は黙ってろ!」
     そう言った月夜に攻撃衝動を向けるが、立ち回りで攻撃をさせない。その隙に月夜は支配人にターゲットを定める。その支配人には灼滅者達の集中攻撃が向かっていた。
    「止まれ!」
    「はい残念。見え見えです」
     蒼朱の黒死斬は敢え無く避けられる。当たれば確かに効果が高いのだろうが、当てるための手段を構築しなければ上級のダークネスには中々通用しないだろう。サーヴァントを扱う彼ならなおさら。
    「ところで、もし俺達がチップ無くしたらどうすればよかったんすか?」
    「それはもっとレベルの高い犯罪を犯してもらっていたでしょうね」
     狙いすまされた蓮司の炎が相手を焼く、だが支配人は気にせず世間話をしながら引き金を引く。
    「じゃあ、アンタを殺りゃあ殺人罪、って事でいいっすかね? ……痛っ!」
    「残念ながら、私は人ではないのです。申し訳ありません」
     詫びの言葉と共に放たれた弾丸が蓮司の急所を抜いて行く。即座にもう一度支配人は引き金を引き弾丸を放つ。とっさにノウンが割り込んでその弾丸を防ぐが、耐久力の殆どを奪われてしまう。その間にも円が蓮司の傷を癒やす。
    「おっとォ……、俺が居て仲間を倒れさせるなんて真似させねーよ?」
    「ケルナー! あの人をお願いッ!」
     リースリングのケルナーも回復に参加して攻撃役である彼を守る。ディフェンダーである伊織も加われば戦線の維持はできる。互いのディフェンダーを掻い潜り、攻撃を当てる。戦況は徐々に灼滅者達に傾いていく。
    「ちっ、邪魔だ!」
     月夜が割り込んできたアンデッドの髪を掴み床に叩きつける、それからアンデッドは動かない。もう片方もルーパスが撃破し残るのは傷ついた支配人のみ。
    「さて、どうしましょうか」
    「どうにもならないよ」
     ノウンの陰から蒼朱が黒死斬を放つ。今度こそ完全に決まり相手の機動力を奪う。
    「……そろそろ、肉片にしちまいましょーかね」
    「肉片残るんでしょうかね? 私」
     世間話のように返す支配人だがもはや趨勢は決まった。橘花の六六六人衆を討つためのチェーンソー剣が駆動音と火薬が爆ぜる音を伴って激しく回転する。
    「あの世で一人でやってろ」
     支配人は胴から真っ二つに断たれそのまま消滅していった。


    「終わりましたね」
     伊織が武器を収めて呟く。月夜が棒付き飴を吐き出した床には戦場で流れた血が広がっている。
    「仕事は終了……と。早く帰りましょ―や」
     蓮司が言えば皆成すべきことを早々に終えてこの部屋から出て行く。ルーパスは一度だけ振り返り、すぐに部屋を出る。階段を登りながら緊張感が解けた故か少しばかり言葉が溢れる。
    「……賭け事ダメ、絶対。だね」
    「ああ、うん、そうですね」
     蒼朱の言葉を聞いて円は曖昧に頷いた。今回はたまたま彼が勝てただけだ、と言うかイカサマをしてやっと普通の勝負ができる、ほとほとギャンブルに向かない人間なのだ。
    「……罪をチップに、か」
    「悪い種からは悪い実りしかないと思うんだけどなー……人って、悲しいくらいに弱いねー……」
     橘花とリースリングの言葉はそれに付け込むダークネスの狡猾さを示している。彼らが階段を登りきり扉を開けると、外の光が眩しく出迎えた。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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