滅す、士道に背くまじき事

    作者:中川沙智

    ●震える夜に
     未明。
     夜を斬る。影を払う。走る。
     駆ける男は人ではない。鬼だ。羅刹と呼ばれし鬼だ。
     だが角を隠せば見目だけでは人と大差ない。その体躯に救われた上に羽振りも良かったため、宿の主人は訝しみながらも宿泊を許し部屋へと通した。
    「ここまで逃げれば……! これ以上天海大僧正勢力に属しても削られるだけよ。今は安土城怪人の勢力に、どうにかして潜り込まねば」
     弾む呼吸を整える。肩の大きな動きがようやく収まりかけた頃、ようやく羅刹には安寧が訪れた。
     はずだった。
    「滅す」
     一閃。
     叫び声はしばしの間があってから。羅刹が顔面を貫く日本刀の存在に気付いたからだ。鮮血が迸るのはその更に後の事。
     いつの間にか斬りつけてきたその刀の持ち主が粛然と佇んでいる。間合いは既に取られている。白き狼、それが武士の如き姿で刀を引いた。
     低く、呟く。
    「――一、局を脱するを許さず」
     羅刹は大きな音を立て崩れ落ちる。部屋の入口のドアにも血が舞っている。恐らく宿の人間のものだろう。
     それでも顔色ひとつ変えぬ、壬生の狼の白。
     羽織を翻したその時、倒れたはずの羅刹が立ち上がる。だがその身に纏わりついているのは、――畏れ。
     スサノオから馳せたそれをよすがとし、羅刹は再び立ち上がる。
     
    ●浅葱羽織が行く
     天海大僧正側の末端のダークネス達が形勢不利とみて、安土城怪人に寝返ろうとしているのだという。どうやら秘密裏に琵琶湖に向かっているらしい。
    「これを許してしまえば、天海大僧正側の陣営は瓦解するかもしれないわ。そこで天海大僧正は配下のスサノオに、造反しようとするダークネスの捕縛命令を出したみたいなのよ」
     説明する小鳥居・鞠花(高校生エクスブレイン・dn0083)は慎重に言葉を選ぶ。今まで耳にしたことがない――いや、ブレイズゲートでは見た事があっただろうか――その存在。
    「隊名はスサノオ壬生狼組。新選組のような衣装で、刀を装備した剣士のスサノオが派遣されてるの。まったく市中取締りったってねぇ……」
     スサノオ壬生狼組のスサノオによって、造反しようとしたダークネスは倒され、スサノオの配下に作り替えられてしまうらしい。つまり造反した配下を忠実な部下へと生まれ変わらせる、実に効率のいい作戦だ。
    「当たり前だけど安土城怪人に寝返ろうとするダークネスを助ける必要は全然ないわ。でもスサノオ壬生狼組は、ダークネスだけでなく周囲の一般人も斬り殺してしまう……それは絶対見過ごせないもの」
     だからお願い。
     鞠花が深く頭を下げると、夕焼け色の髪がさらりと音を立てた。
     そして顔を上げた鞠花は常の面持ちに戻り、敵戦力の説明へと移る。
    「スサノオ壬生狼組のスサノオは、人狼のサイキックに加えて日本刀のサイキックも使いこなすわ。戦闘力は高いわよ。充分注意して頂戴」
     スサノオが一般人に手を出すのは、戦闘終了後になるという。目撃者を消せという指令を受けているのかもしれないし、壬生狼組の隊規か何かかも知れない。それはわからないけれど。
    「戦闘が終わるまでは、一般人に手出しはしないみたい。だから一般人の避難についてはあまり考えなくても大丈夫よ」
     そしてここからが大切。
     鞠花は集まった灼滅者達を見渡して言葉を紡ぐ。
    「戦闘をしかけるタイミングが重要になるわよ。二通りあるからちゃんと聞いててね」
     ぴっと指を立てて順を追って説明を始める。
    「ひとつ、スサノオが踏み込んできた直後。もうひとつ、逃げ出そうとするダークネス……今回は羅刹よ、それを倒した直後」
     スサノオが踏み込んだ直後に戦闘をしかけた場合、逃げ出そうとする羅刹はこれ幸いと逃走し戦場から撤退してしまうだろう。
     スサノオが逃げ出そうとする羅刹を倒した直後の場合は、逃走する事はない。ただし羅刹はスサノオ配下として戦闘に参加してしまう。
    「戦闘を楽に進めたいなら、踏み込んだ直後に戦闘を開始するのがいいでしょうね。でもその場合、安土城怪人の勢力が増強されちゃうわ」
     方針をどちらにするか相談して決めて頂戴ねと鞠花は念を押す。
     そしてペンをくるりと回して、ぴっと道を指し示すように止めてみせる。
    「今回は皆の決断がひとつの道になるわ。士道に背いてんのはどっちなのかはっきり見せつけてやんなさい!」
     不敵に笑い、鞠花は灼滅者達の背を押した。
    「行ってらっしゃい、頼んだわよ!」


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    梢・藍花(影踏みルーブ・d28367)
    浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756)
    道敷・祀(代替の神体・d31225)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)

    ■リプレイ

    ●局ヲ脱スルヲ不許
     その事変の起こる宿は、こじんまりとしているが手入れが行き届き風情がある。埃や染みのない縁や壁、奥行きのある空間使い、品のあるしつらえの配置。
     だからこそ。
     張りつめた空気だけが異様であった。
    「今は安土城怪人の勢力に、どうにかして潜り込まねば」
     羅刹の荒い息が徐々におさまっていく。額から頬、顎のラインへと滴る汗が畳に染みを作る頃。
     注意を払ってさえいれば気付いたはずの、大きく膨れ上がる殺意が近づいてくる。
    「滅す」
     だが一閃が飛ぶ前に、なだれ込む別の勢力がそこにはあった。
    「カチコミじゃオラァー!」
     半端に開いていた襖を力任せに蹴破り、撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)が部屋に踏み込んだ。声を失う羅刹、僅かに注意を向けるスサノオ。
     だがその『僅か』があれば十分だ。
    「……見逃すの、今回だけだよ」
     梢・藍花(影踏みルーブ・d28367)が囁けば羅刹が我に返ったらしい。藍花が後ろ手で窓を開け、浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756)が半歩下がり進行方向を示す。
     追い打ちをかけるようにヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)が吐き捨てる。
    「今回は逃してやるが、次に会えば……その時は貴様だ」
    「ひっ……!」
     恐怖で顔を真っ青にした羅刹は庭に降りて一目散に逃げ出した。スサノオの動線は灼滅者達が塞いでいるから、追う事は出来やしない。
    (「無様ですね、掌を返し逃げ惑う羅刹など」)
     これが己の宿敵か――八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)は睫毛に侮蔑を乗せて見送る。これが依頼でなければ、しかも熟慮を重ねた判断の上でなければ、いっそ二度と同じ天を仰ぐ事無くしてやるものを。
    「……痴れ者が」
     スサノオが指したのは羅刹か灼滅者達か。真意は知れないけれど、その感情の幾らかを掬い上げて道敷・祀(代替の神体・d31225)は言葉を紡ぐ。
    「今回は敢えて甘んじた、それだけですよ」
     羅刹を見逃す事は灼滅者達の総意だ。だが誰も好き好んでというわけではない。
     判断基準となったのはスサノオが一般人に手を出すのは戦闘終了後になるという予測。逆に言うと、戦闘終了後までスサノオを生かしておけば一般人を刃にかける事は明らかだ。
     加えて確実にスサノオを倒すため、念には念を押した結果が、眼前にある。神薙・弥影(月喰み・d00714)は紫苑の瞳に憂いを含む。
    (「本当は両方倒したい所ではあるのだけどねえ……二兎を追う者は一兎をも得ずって言うものね」)
     力量は圧倒的に羅刹が劣るとはいえ、どちらもダークネスには変わりない。ならば慎重に慎重を期した、という事だろう。
    「見逃すのは結構歯痒いものね……」
     弥影が羅刹の逃亡した窓辺を見遣ると、月の路が細く部屋へと注ぐ。そちらへの名残を振り払い、志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)は凛と視線を上げる。
     羅刹を見逃すのは悔しいが、まずはスサノオを討たなくては。それこそが人狼たる彼女の矜持だった。
     友衛の後方を浅葱が確りと支える。同じクラブの先輩後輩同士、言葉にせずとも結ばれた信頼が、彼女達を前へ走らせる力になる。
     月の光が、雲に遮られる。
     薄暗がりの宿の一室。眼と切っ先が、光る。

    ●勝手ニ金策致不許
     スサノオは刀を。
     灼滅者達は殲術道具を。
     構え、間合いを測る。じりじりと距離を詰め、先手を奪ったのは娑婆蔵だ。中段に構えた刀を振り翳す。
    「ワンワン吠えるスサノオならかつて鴨川で斬って参りやしたが、さて。こっちのこいつとはどんな喧嘩が出来やすかねえ!」
     重くも速い太刀筋は鍔元にあたる。金音と火花が散った後、そのまま腕を撫で斬りにする。
     だがスサノオとて黙ってはいない。有形無形の『畏れ』を呼び起こすとその力を増幅させるように刃に乗せ、お返しとばかりに娑婆蔵に斬りかかる。月色の残像は隼の如く、確かに心の臓を狙い澄ます。
     だがその一撃を受けたのは彼ではない。
    「お初にお目に掛かります、壬生狼様。率直にお伺いしますが天海大僧正様はいまどちらへ?」
     決して浅くはない傷は、即座に懐に寄った浅葱が癒してくれた。埃を払うように袖を翻し、微笑みを綻ばせて梅子が問う。
    「答える阿呆がいると思うか」
    「恐れ入ります。敗走され、ざぞ無念なことでしょうと思いまして。是非ともそのお顔を拝見したいものです」
     艶やかな物腰に似合わぬ右腕は膂力に満ちた鬼そのもの。着物の裾を乱さず楚々と駆け、渾身の力を籠め叩きつける。
     かろうじて間一髪スサノオが避けるも、続いたのは友衛だ。銀の槍の穂先を高く掲げれば、少しずつ初夏の夜を裂くに相応しい冷気が集まってくる。
     迸る氷柱の矢は標的を逃さない。氷の欠片が軋む間に、尚も灼滅者達の攻撃は続く。
    「恐れなさい、灼滅されることを」
     弥影の言葉と共にあふれ出るのは漆黒の殺気。スサノオを覆い尽す傍ら、胸の奥に妨害能力をも息衝かせる。強敵だからこそ一手一手を慎重に重ね。
     そして、捕えるのだ。
    「……そこですね」
     祀が的確に見出したのは敵の脇腹。注意深く佇むスサノオの本来は攻撃など受けぬ場所を人狼の牙で破り切る。やむを得ず気がそれたところを、それでも灼滅者達は見逃さない。
     愛刀『雷花』を畳から擦り上げればまさに雷鳴が宿るよう、ヘイズが敵の死角となる利き腕側から斬撃を放てば、スサノオも武士の血が騒ぐのか咄嗟に刀身を交わして威力を逃がす。
    「貴様の相手は俺達だ。犬侍……」
     不敵な挑発。乗ってくる気配はないが、冴え冴えとした刃の輝きはヘイズをこそ狙う。
     それでいい。一般人の事も羅刹の事も忘れてしまえ。
    「おい駄犬、俺だけ見てると危ないぞ?」
     叩いた軽口の側、藍花のビハインド ・そーやくんが疾走した。藍花が支えるように放った小光輪は分裂し、想いと共にそーやくんの身を確かに護る。そして死角を突いて真直ぐに飛ぶ、障害の力持つ霊波。
     スサノオはいずれ辿りついてしまう竟の先。
    (「……けれど、」)
     藍花は視線を上げる。
     今は、人狼として喉笛を掻き切ってみせようか。

    ●勝手ニ訴訟取扱不可
     庭から差し込む月明かりと、蛍のように揺らめく照明――娑婆蔵や浅葱、祀や梅子らが用意したものだ――のおかげで、戦闘に差し障りのないくらいには視界が確保されている。
     だからこそ、スサノオの齎す洗練された太刀筋がよくよく見て取れた。
    (「古の畏れを生み散らかすだけではない、このようなスサノオと対峙するのは初めての事で御座いますね……」)
     細い目を更に細め、祀は仲間の影から覗くスサノオに照準を合わせる。狙い定めて首根を狩る。
    「わたくしとて、造られた身とは言え人狼の端くれ。全力を賭してお前を滅しましょう」
     疾く馳せるは影の刃。一気に膨れ狩り白き狼を呑みこむ。心象の苦界を破り捨てたスサノオの眼に映るのは、浅葱が操る白い焔だ。
    「群れから追い出されるならまだしも、裏切り者が出るならもうその群れは長くない」
     だから始末するのも理解出来る。けれど、
    「関係ない相手を巻き添えにするのはどうかと思うわね」
     前衛陣を包むように広がる白炎は穢れを祓い、傷を塞ぐ。負傷が嵩む仲間に冷静に且つ的確な癒しを施す浅葱の存在は、灼滅者達が戦線を維持する上で大きな力となっている。
     そう、狩りは頭が熱くなったら成功しないのだから。
     傷痕が消え、短く礼を告げた弥影は再び前を向く。
    「強敵だからこそ備えはしっかりしなくちゃいけないものね」
     それは仲間に対し状態異常への耐性や防護壁を蓄積させていたからこその実感だ。月喰みの少女は杭を高速回転させ、そのままの勢いで体重を乗せ突き刺した。そのまま回転を続ける。捩り切る。
     流石に痛手を感じたのか短く舌打ちをして、スサノオは間合いを取った。
    「これも大戦を望んでの行動なのか?」
     友衛は咄嗟に問いを投げかける。
     泉のようにあふれ出る疑問、そのままに唇に上らせていく。
    「分割存在となって天海大僧正に従えられてまで、果たすべき目的があるというのか。それとも、分割存在と無限存在は違うとでも言うのか?」
     矢継ぎ早。そう喩えるのが正確だろう。友衛自身も止めようがないのかもしれない。
    「そしてスサノオの力を使って、天海大僧正は何をしようとしている? 慈眼衆は何を為そうとしているんだ? ……かつて京都で起きた動乱を、再び起こすつもりか」
    「志賀野先輩」
     いつの間にか隣に来ていた浅葱が、無言で首を横に振った。クラブの部長、敬愛する先輩を近くで支えようという心が、染み入るように伝わっていく。
    「そちらの娘のほうがいささか察しがいいようだな。もう一度言ってやろう、答える阿呆がいると思うか」
     今すべきは交渉や情報戦ではなく、戦闘。
     その事実が否応なく目の前に叩きつけられる。
    「ならば問うてやろう。お前の使命は何だ。その所以を、お前は敵前で語る事が出来るというのか」
    「それ、は……」
     所以、という言葉に友衛が息を詰まらせる間に、スサノオが畳を蹴り一気に肉薄する。誰ともなく息を呑んだその刹那、中段から繰り出されるのは真直ぐな一撃。
     だがその斬撃を受け止めたのは、そーやくんだった。
    「……よかった、そーやくん、無事だね。頑張ったね」
     藍花が安堵の息を零しながら、再び癒しの技を注いでいく。未だ灼滅者達の陣形が乱れず誰も脱落していない事が奇跡のようにも思えた。
    「頼もしゅうございますね」
     淑やかに戦場を駆けるその様は、まさに夜半に咲く梅花のよう。
    「御免あそばせ」
     梅子が踵を踏み抜けば、傷痕残す星が降る。その煌きに興が乗ってきたのか、娑婆蔵は豪放と笑う。
    「お宿で斬り合いとか池田屋みてえだと思いやせんか!? なあ!」
     今までの流れで反応は望めぬと知りつつ、それでもいいとすら思えた。強敵というのなら只々向かい、刃を交え、屠るまで。
     一気に眼前まで接近して、鳩尾に注ぎ込むのは死を呼び込む毒。確かな手応えを掴みながら、そのままの勢いに乗せてヘイズが飛び込んでくる。
     一瞬、視界から消える。
     と思ったのもつかの間、低い体勢で脚の腱を狙う。振り払えば鮮やかに飛び散る、血の雨。
    「どうした、その程度か?」
    「小僧めが」
     不敵さ不遜さ。豪胆さ。
     抱いて尚、刃を高らかに交し合う。

    ●私ノ闘争ヲ不可
     死闘は続いた。
     一気にとはいかない。けれど確かに戦いの流れを引き寄せていたのは、灼滅者達だ。
     適切な技を選び己が役割を理解し、時に庇い時に癒し時に渾身の攻撃を敵に叩きつける。
     月の姿は既にない。夜明けの気配を誰もが感じながらも、目の前のスサノオを倒す事が大命題だと全員が理解していた。
    「!」
     それは偶然。
     目に流れ込んだ血が皮肉にも目潰しとなる。スサノオの動きが緩慢になったその瞬間。
     その瞬間を見逃してなるものか。
     脚を大きく振り上げた弥影の爪先からは炎が躍る。顎下狙い蹴り上げれば、篝火よりも明るく美しく燃え上がる。
     その炎を目印にして友衛は槍を剣のように振り翳し、裂帛の気合いと共に一気に断ち切る。火傷跡に更に傷を被せ、もはや逃れられないのだと知らしめるかのように痕を残す。
     その傷痕ごと呑み込むべく膨らんだ影は、藍花が放ったものだ。開花する蕾が逆に閉じていくような、ふくよかで豊かな、けれど冷酷な影の花。
     苛むトラウマの正体は知りえないけれど。
    「撫で斬りにしてやりまさァ!」
     名を体現するとはこの事か。娑婆蔵が回り込んだのは右肘下、浅葱羽織ごと裂くように、刃を振り下ろす。
     鉢巻がはらり、畳に落ちる。
     その僅かな間に灼滅者達は、『スサノオ』が二体いる事を知る。
     否。手前に佇む白い獣は、仲間が一人。
     人造灼滅者たる祀の姿は、今や眼前の敵と同じ白き狼だった。
     遠吠えが響く。
     彼女の刃は人狼の牙。だから迷うことなく突き立てる。
     喉笛に深く喰いつき、喰い破り、斬り捨てる。
     スサノオが声にならぬ声で哭く。
     夜明けの風に攫われて、崩れ落ちた白い獣は掠れて、消えていく。その名残を視線で追うも、もはや何も残ってはいない。
    「散々、犬と言ったのは謝罪する……お前は誇り高い狼だったよ」
     刀から血を払い、鞘に納める。ヘイズの横顔に宿るのは、スサノオに対する確かな敬意だ。浅葱も静かに瞼を伏せる。
     この勢力争いの決着には遠い。けれど――。
     扇子越しに薄く笑んだ梅子が囀るように囁いた。
    「さて、今後鬼が出るか蛇が出るか」

     空の色が明るく染まる。
     夜が、夜が、――明けていく。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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