サーバールーム・デストロイヤー

    ●情報収集は秘密裏に……
     真夜中のオフィスビル。
     職場の社員達は全員帰ってしまい、裏口を守る警備員がひとり、呑気にあくびをしていた。
     一方、オフィスビル3階のサーバールームでは、
     本棚の様に整然と並んだサーバーが、いつも通り青い光を放っている。
     暗闇の中、青い光にぼんやりと照らし出された4つの影……。
     そのシルエットは人間とは程遠く、獣のパーツを繋ぎ合わせたような異形の姿をしていた。
    「我、充分な叡智を主に送信せり。そして、叡智の持ち主はただ一人、我が主のみ。ゆえに、今より、この地の知識を破壊する」
     サーバーに蓄積された膨大なデータを、取得し尽したのだろう。
     自身の体から青いオーラを放つ、リーダー格のブエル兵がそう告げると、
     ブエル兵達は四散し、サーバーを滅茶苦茶に破壊し尽したのだった。

    ●教室にて
    「喉が乾いたなぁ。仁左衛門に何か飲み物入れてあったかな?」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は移動型血液採取寝台の『仁左衛門』に搭載された冷蔵庫をまさぐっていた。
    「やったぁ! サイダーが入ってた♪ ……はっ! 皆さん集まっていたのですね!?」
     一部始終を皆に見られていたらしい。
     カノンは、こほんっと咳払いをして、事件について語り始めた。
    「ブエル兵がサーバールームで情報を取得しているようです!
     図書館襲撃事件が失敗してからというもの、各地のサーバーから情報を得ていましたが、
     表立った事件を起こさず、密かに情報収集していたため今まで動向に気付けなかったのです……」
     こそこそと情報を集めていたなんて! と憤るカノン。
    「サーバーから充分に情報を得たブエル兵達は、他の勢力が使用出来ないように、サーバーを破壊してから帰還しようとしています」

     そして、注目すべきは、リーダー格のブエル兵の強さだ。
    「青いオーラを放つリーダー格のブエル兵は、手下の3体とは別格の強さなのです!
     サーバールームで膨大な知識を得て、かなり強くなったようです」
     手下のブエル兵達は、体当たりや、手足からエネルギー弾を撃ちまくる攻撃を仕掛けてくる。
     リーダー格のブエル兵は、上記に加えて、纏った青いオーラの冷気を放って氷漬けにする攻撃、そして自身を回復する手段も持っているようだ。
     特に、リーダーは眷属とは思えない強さを持っている事を念頭に置いて、戦いに挑んでほしい。

    「皆さんが現場に到着するのは、ブエル兵が動き出す直前のタイミングです。
     突入の時点ではサーバー内の情報を収集し終えていない状態なので、まだサーバーを攻撃する事は無いでしょう」
     カノンはサイダーをひと口飲んで、
    「ですが、灼滅者達が敗北すると、残りのデータを収集し、サーバーを破壊して帰っていくようです……」
     サーバーが破壊されてしまったら、会社の人々が困り果ててしまうだろう。
    「後は……サーバールームへの潜入ルートの事を説明しますね」
     深夜のため、表の入口は閉まっている。出入り出来る裏口には、警備員がひとり。
     裏口さえ突破できれば、オフィス内は無人。
     階段で3階へ行き、扉を開けるとオペレータールームがある。
     オペレータールームの奥にさらに扉があり、開ければそこがサーバールームだ。
     因みにオペレータールームはレイアウト替えのために机椅子等が運び出されており、
     がらんどうなので、何らかの手段でブエル兵達をおびき出して戦うと良いだろう。
    「因みに、ブエル兵達はデータ取得に集中しているので、それを妨害すると怒って攻撃してくるようですね」

     サーバーの膨大なデータを収集してゆくブエル兵達……。
    「集めた知識を何かに悪用される危険があります。それに、サーバーが破壊されるのを放って置おく訳にはいきませんから、どうか皆さんの手でブエル兵達を灼滅して欲しいのです」
     カノンはぺこりとお辞儀をして、灼滅者達を送り出したのだった。


    参加者
    水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)
    一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)
    嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)
    羽場・武之介(滲んだ青・d03582)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    御手洗・黒雛(気弱な臆病者・d06023)
    鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)

    ■リプレイ

    ●ミッドナイト・オフィスビル
     通勤ラッシュの時間帯なら、多くの人が行き交うオフィス街だが、
     今は真夜中とあって、オフィスビルへ向かう灼滅者達とすれ違う者は無い。
     いつも通りの静かな夜だというのに、サーバールーム内では、ブエル兵達が膨大なデータを得ている最中だというのだ。
     強固なシャッターで戸締りされた表口を迂回して、回り込んだ先の裏口を守るのは、
    「ふぁあ……」
     退屈そうな警備員が1人。
    「お主に恨みはござらぬが、しばし眠っていてもらおう」
     鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)が魂鎮めの風を送りこむと、
    「な、何なんだ! 君達、は……」
     警備員はたちまち眠りこけてしまった。
     崩れ落ちる警備員を不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)が受け止め、
    「ここで休んでいて貰おうか」
     扉の脇に寄せておく。
     寝息を立てて、しばらく目を覚ます様子がない事を確認して、
    「さて、先を急ぐとしよう」
     嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)を筆頭に、無人のビル内に突入だ。
     敵のいる3階まで階段を使って一気に駆け上る。
     オペレータールームのドアはうっすらと開いていて、先客の存在が確信に変わった。
     中に入れば、がらんどうの部屋の奥にさらにもう一枚の扉。
    「準備はいいな? 行くぞ」
    「ああ」
     五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)は扉を開け放ち、神羅と共にサーバールームへ足を踏み入れる。
     それと同時に九朗がサウンドシャッターを発動させ、
    「お二人共、気を付けてください」
     御手洗・黒雛(気弱な臆病者・d06023)は2人の背中を心配そうに見送った。
    「一会社のデータなんて、何の役に立つのかねェ。
     どうせなら、美味しいケーキの焼き方でも教えて貰いてぇもんだぜ」
     と、オペレータールームで待機中の一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)は呟いた。
    「サーバーから知識を得て強くなるブエル、か……。
     うーん、私もテスト勉強とか頑張れば強く……いや、考えるのはやめよう」
     と、水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)。ブエル兵の特性は少し羨ましくもある。
     
    ●サーバーデータとブエル兵
     ブエル兵がオペレータールームへ飛び出してくるのを仲間達が待ち構える中、
     サーバールームに入った2人は、本棚の様に整然と並んだサーバーの間で、夢中になってデータを取得している異形の獣――ブエル兵の姿を確認した。
    「此処までだ! 悪いが始末させてもらう!」
     神羅は挑発の意を込めて声高らかに、ブエル兵の背中に槍を穿つ。
    「グルルルッ……!」
     作業を妨害されたブエル兵は怒って振り返り、神羅へ向かってきた。
     一方香も、手の甲に貼りついたヘックス状の光の盾を構え、別の個体に思い切りグーパンチ。
    「あれはチョップだ」
     と言って、反応を試してみる。
    「グォオオ!」
     怒りに任せて、オペレータールームへ後退してゆく香を追いかけて来るが、言葉に反応している訳ではなさそうだ。
     そして、騒動に気づいたもう1体の配下ブエル兵も着いて来て、オペレータールームへなだれ込んだ。
     挑発したブエル兵から体当たりを食らうも、サーバールームから引きずり出す事に成功したかに思われたのだが。
    「……我々の任務を邪魔する者共よ。何者だ?」
     物々しく問いかける声の主は、サーバーから膨大な知識を貪り、力を得たボスブエル兵。部屋の奥から動こうとせず、こちらの様子を窺っているようだ。
    「やはり、あやつも殴って引きずり出すべきであったか……しかし」
     ここからでは流れ弾がサーバーに当たってしまいそうだ。
    「誰か! 拙者の代わりにボス格のブエル兵を挑発してはくれまいか!」
     神羅は自分に向かってくるブエル兵から体当たりを受けつつ、オペレータールームで待機する仲間達へ呼びかける。
    「む、私が手伝おう!」
     弥咲は赤黒い炎の揺らめきを宿し、
    「さぁて、美味しい美味しい食事の最中……か何かはわからんが、おいたはここまでだ!」
     斬り裂き、空中に出現させた逆十字がボスブエル兵へ襲い掛かった。
    「貴様ら……」
     怒ったボスが近づいてくるにつれ、体に纏った青いオーラが扉から溢れ出てくる。
     オペレータールームに4体のブエル兵が出揃い、待機組の灼滅者達も攻撃開始だ。
    「ま、なるだけぶっ壊さないようにはしてみるがな。あんま期待すんなよ?」
     智巳はサングラスの奥の目をにやりと細め、ブエル兵をガッと蹴り上げた。
    「こうやってブチ込みゃ、余計な被害は出ねぇなァ?」
     宙に浮いた敵の下から【ヴァルティ・タスク】で挟み貫いた。
    「手早く倒してしまうとしよう。これ以上強くなられても洒落にならない」
    「んじゃ、確実に削っていくとしようか」
     松庵は肉体を覆うオーラを拳に集束させて凄まじい連打を繰り出し、九朗が剣を高速で振り回せば、鞭のようにしなやかに加速して威力を増して、前列に構えた敵達を薙ぎ払った。 
    「頑張ろうね、お母さん」
     ビハインドのお母さんは黒雛の傍からブエル兵へと勇み出て霊撃をブチかます。
     気弱な黒雛と対照的に、ガンガン男前に攻めていく性質なのだ。
     黒雛はその背中を見届けながらクルセイドソードを掲げ、先程体当たりを食らった仲間へ、浄化の風を送り込み癒してゆく。
     ブエル兵はサーバーから得た知識をもやの塊として頭上に具現化させ、黒雛へ撃ち放つが。
     お母さんが割って入り、エネルギー弾の衝撃を受け止める。
    「だ、大丈夫? お母さん、ありがとう」
     不意を突かれた攻撃、一瞬の出来事にひやりとする黒雛だが、守ってくれたお母さんへの嬉しさがこみ上げる。
     次に向かうのは羽場・武之介(滲んだ青・d03582)。
    「とりあえずサーバーが無事で何よりです……まずは目の前のブエル兵を何とかしましょうか」
     無自覚に、戦闘に集中する彼の目つきが鋭く険しくなる。狙いを定め、マテリアルロッドで殴りつければ、流れ込んでいく魔力によって内部から爆発したブエル兵は、ため込んだ知識を放散させながら無に帰っていた。
    「それほど強い相手では無さそうですね。……配下のブエル兵の話ですが」
     倒した敵の手ごたえから、そう感じる。
     しかし、ボス格のブエル兵はどうだろう。
     纏った青いオーラを放ち、凍てつくほどの冷気が前衛陣に襲い掛かる。
    「青いオーラのブエル兵……成る程、確かに今までよりも強い。
     されど対応出来ぬほどでも無い」
     ダークネスレベルの強さを持つ、敵の力を推し量る神羅。配下との差は歴然、どれだけのデータを蓄積したというのだろう。
     香は早急に清めの風を送り込み、仲間達の回復に当たる。油断できない緊張感の中、今は配下を倒す事を念頭に、各々動いていく。
    「……」
     松庵は仕込み杖の柄に手を掛けて構え、抜き放ちながら目前の敵を斬り裂いた。
    「グゥ……」
     傷を庇い、ふらつくブエル兵だが、息つく間もなく、神羅のオーラを纏った拳の連打が襲い掛かる。
     一歩下がった位置から、別のブエル兵がエネルギー弾を撃ち放つが……。
     智巳はそれを物ともせず、
    「ハッハーッ! 俺に知識なんて打ち込んだって無駄だぜ? 右耳から左耳へ通り過ぎてくからなァ!」
     雷を宿した拳でアッパーカットを繰り出し、ブエル兵は宙を舞う。
    「ガ……ハッ……」
     床に叩きつけられたブエル兵は消滅してゆく。2体目を倒して勢いづき、
     武之介は両手に集中させたオーラを、あと1体残った配下ブエル兵へ目掛けて放出した。
     反撃とばかりにエネルギー弾を生成するブエル兵だったが、オーラキャノンを食らった影響で、放ったエネルギー弾の軌道は空しく宙を切る。
    「グルルッ!」
     悔しそうにしているブエル兵の目の前に、床を蹴り上げてクルセイドソードを構えた弥咲が踊り出る。
    「うおりゃあああ!」
     破邪の白光を放つ強烈な斬撃に続いて、黒雛の足元から伸びる影が襲い掛かる。
     そして追い打ちを掛けるようにーー。
    「Set……Fire!」
     九朗掛け声と共に中空に浮かぶ魔法の矢が敵に殺到し、降り注ぐ矢に射られて配下ブエル兵は消滅した。

    ●ボスブエル兵の威厳
    「見事なものだな……だが、我は同じようには済まぬぞ」
     配下を失い、劣勢にも関わらずその佇まいは堂々たるもの。
     頭上に生み出した、知識のエネルギー弾は配下の物よりも一回り大きく球を成し、九朗に襲い掛かるがーー。
     身を挺してそれを受けたのは香。
    「うっ……」
     見た目に違わず威力も強く、淡々と攻撃をこなしてきた香でも思わず顔をしかめる。
    「やはり、油断できぬ相手であるな」
     神羅はボスブエル兵へ警戒の眼差しを向けたのち、指先に集めた霊力を香に撃ち出して傷を癒してゆき、武之介の霊犬、天網丸も静かに歩み寄り浄霊眼を向けた。
    「強かろうがなんだろうが攻撃あるのみだぜ!」
     智巳はジェット噴射で敵の懐に飛び込み、雷の牙を思わせる鋭いパイルで思い切り貫く。
    「貴様らの勇猛さには感心するがーー」
     攻撃を受けても表情一つ変えないボスブエル兵。
     しかし、灼滅者達は代わるがわる怒涛の攻撃を仕掛けてゆく。
     武之介は魔法の矢を飛ばし、避ける間もなく松庵の足元から伸びる影に飲み込まれる。
    「ああ……我が主よ……」
     主君に捨てられるトラウマでも見ているのだろうか。気を取られている内に、
    「うおおおお!」
     弥咲のクルセイドソードで叩き斬られた。
    「おのれ……」
     青いオーラを増幅させて自身を癒し、攻撃をしのぐボスブエル兵だったが、
     魔導書を手にした黒雛の放つ魔力の光線で貫かれ、それと共に向かい来るお母さんの霊障波で毒を浴びーー確実に体力を削がれていくのだった。
    「ここで散る訳にはいかぬ。我が主に充分な叡智を送信する使命を果たすまではーー」
     しかし約滅者達は攻撃の手を緩めない。
     九朗は飛び上がり、炎を纏ったエアシューズで顔面へかかと落とし。ぐらりと体勢を崩した所に、香がヘックス状の光の盾で殴り掛かる。
    「知識は積み重ねられ共有されて初めて広く価値が活かされるものだ。使い捨ての力になどさせん」
     ここでブエル兵を倒し、悪事を阻止するのだという意思を持って。
    「天網丸、構え」
     武之介の指示が耳に届けば、咥えた斬魔刀を敵に向け、
    「斬れ」
     声のタイミングに合わせてひらりと切り裂いた。その後ろから続けざまに、武之介の手元の燃え尽きること無き蝋燭から、炎の花が飛んでくる。
    「小癪なっ……」
     ボスブエル兵は、息も絶え絶えの様子だがエネルギーを青いオーラに込めて、全身全霊後衛へと、凍てつくオーラを放った。
     しかし灼滅者側は連携し、神羅の清めの風と黒雛のセイクリッドウインドがすぐさま癒してゆく。
    「もう虫の息だね。一気に決めよう」
     ウロボロスブレイドに炎を灯しながら狙いをつける九朗の言葉に弥咲は頷き、
    「そっちが冷気を伴ったオーラ、ってところなら、こっちの熱気とフルパワーで蹴散らしてやろうかっ!」
     九朗の横薙ぎの一閃でボスブエル兵に着火し、ポニーテールを翻してローラーダッシュで向かい来る弥咲の激しい蹴撃が、さらに炎を増幅させる。
    「最早、ここまでか……」
     ボスブエル兵の纏った青いオーラは、赤く燃え上がる炎に浸食されてゆき、燃え尽きてゆく中で、奪った知識が白いもやとなってサーバーに戻って行ったのだった。

     武之介はサーバーを傷つけずに済んだ事を確認し、ほっと胸をなでおろす。
    「被害が出なくて何よりです。……サーバーって高いんですよ」
     工学部所属の人間なので、どうにも情報機器の価値や値段には敏感になっているのだった。
    「よし、これで問題は無さそうだな。こっそり撤収しよう」
     と、松庵もほっとした様子。ブエル兵にサーバーを滅茶苦茶にされていたら、可哀想な事に警備員の責任になっていただろう……。
    「ええ、長居する理由もありませんしね」
     がらんどうとはいえ戦いの跡の残ったオペレータールームの戦闘の痕跡を消し、灼滅者達は部屋を後にした。
    (「狙われたサーバーを調べてもデータの内容は分からなかったがーー」)
     帰り際、香はテナントの社名をちらりと見たが、恐らくはネットゲーム関係の会社なのだろう。
    「帰りも誰かに見つからない様にしないとダメだよね……」
     静かに階段を降り、九朗は裏口の警備員の様子を窺う。……まだぐっすり眠りこけていた。
     起こさないようにこっそりと裏口を抜け、東の空から朝日が昇りくる中、オフィスから立ち去ったのだった。

    作者:koguma 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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