清純派アイドル淫魔の地下ライブ

    作者:相原あきと

     都内某所、雑居ビルの地下にあるそのライブハウスは、売れないバンドや売れないアイドルのライブ会場として使われていた。
     今日も今日とてライブ会場には20人程度の客が集まる――。
     そして、照明が落ち、イントロが流れ出す。
    『列車で出会ったあなたは、胸ポケットに白いバラをさして』
     ステージにスポットライトが灯り、フリルのついた可愛いワンピースの衣装を着た、黒い長髪の少女が現れる。
     うちわやサイリウムを歌に合わせてゆっくり動かしだすお客たち。
    『道に迷った私を、優しい笑顔で手を引いて』
     歌っている少女は自称清純派アイドル淫魔の初花(ういか)という。
     客が集まらない苦難の日々を過ごしても、憧れのラブリンスター先輩の事務所でがんばって来た……そして、初花は歌いながら客席を見る。20人前後のファンが自分の一挙一動に魅入り、名を呼び、応援してくれている。
     こんな、こんな日が来るなんて……。
     思わず涙ぐみそうになるのを我慢し歌い続ける。
     バタンッ!
     乱暴に会場のドアが開き巨漢のお客さんが入ってくる。遅刻だったのだろうか?
     その巨漢は一直線に初花に向かっていく。途中、歌に聞き入っているファン達がいたが、男は煙でも払うように殴り殺しながら突き進む。
     死屍累々。
     その巨漢の頭には2本の黒曜石の角が生えており……。
     そうして、売れない地下アイドル程度にやっとステップアップした初花のライブは、唐突にダークネスによって邪魔され失敗する事となったのだった。

    「みんな、最近ラブリンスター配下のアイドル淫魔が、頻繁にライブを開いているのは知ってる?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     今までアイドル淫魔たちはバベルの鎖があるため、客が集まる事は無かったのだっが、ラブリンスターの仲間になった七不思議使い達に噂を流してもらうなどして、なんとか売れない地下アイドル並の一般人の客を集める事に成功しているらしい。
    「まあ、それだけなら何も問題は無かったんだけど……そこに、噂を聞きつけた羅刹がやってくるの」
     この羅刹は会場に入るや否や、お客を殺しつつアイドル淫魔の元に向かうらしい。その目的は不明だが、ライブ会場の一般人が殺されてしまうのは止める必要がある。
    「だから今回の依頼は、この羅刹が会場に入る前に灼滅して欲しいの」
     今回のターゲットである羅刹は、『八郎』と言う名の巨漢の男らしい。
     ライブ会場のあるビルの前で待ち伏せておけば、『八郎』と会う事は可能だと珠希は言う。
     もちろん、寂れた路地とはいえ一般人がやって来ないよう対策する必要はあるだろう。
     ライブ会場へ『八郎』が入ってしまうと一般人に被害が出る。その前に、なんとか『八郎』を灼滅する必要があるだろう。
     戦闘になった場合、『八郎』は神薙使いとウロボロスブレイドに似たサイキックを使い、攻撃特化の戦術で襲ってくるらしい。
     ちなみにライブをしているのはラブリンスター一派の淫魔であり、自称『清純派アイドル』の初花(ういか)という淫魔だと言う。一応、戦闘になった場合を説明すると、初花はサウンドソルジャーとWOKシールドに似たサイキックを使い、支援が可能な立ち位置で戦うらしい。
    「それにしても、1年前も似たような未来予測をしたような……」
     腕を組んで考える珠希だが、まぁデジャヴみたいなものだろう。
    「あ、そうそう。一応事件を未然に防ぐ方法として、ライブを解散させるという方法もあるわ。ただこの場合、ライブを邪魔された淫魔との戦闘になると思って」
     一般人は初花にとってファンらしいので手出しはしないようだが、戦闘途中にライブ会場に羅刹の『八郎』が乱入してくるので、依頼の難易度は上昇するのでその覚悟は必要だろう。
    「とにかく、一般人に被害が出ないようお願いね!」


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    風水・黒虎(跳梁炎獣・d01977)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    九重・木葉(蔓生・d10342)
    大御神・緋女(紅月鬼・d14039)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    オルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)

    ■リプレイ


     ある雑居ビルの前で、男性客からスタッフだと思われチケットを受け取った九重・木葉(蔓生・d10342)は、七不思議使いってライブの人集めにも効果あったんだ……と、考えつつ一般人をライブ会場へ促す。
     淫魔とはいえ協力関係を築けるなら大事にしときたい……そんな木葉の内心を察したか足元にすり寄るわん(黒柴)に。
    「それに、がんばってる女の子は応援したくなっちゃうよね」
     そう黒柴の頭を撫でる。
    「まったくだな」
     木葉に並んで激しく同意するのは風水・黒虎(跳梁炎獣・d01977)。
    「アイドルライブに乱入するたぁ、マナーのなってない羅刹野郎だぜ! 俺達がきっちり躾けて追い払ってやらねーとな!」
     やがてオルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)や風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)、他の仲間達が戻ってくる。会場に到達する道々に「工事中」の立て看板を使ったりして封鎖して来たのだ。
     そして……。
    「おい、こっから先は通行止めだ。それとも、何か大事な用でもあるのか?」
     真紅のバンダナに背中に『風の団』の紋章を入れたジャケットを着た風真・和弥(風牙・d03497)が、やって来た羅刹の前に立ち塞がる。
    「あ゛?」
     2mはある羅刹が威圧的な声を出す。
     羅刹の狙いが何か知らないが、ラブリンスター一派狙いの襲撃なら大変な事だ。もちろん、純粋に初花のファンという可能性もあるのだが……。
    「頑張ってるオンナノコの邪魔はさせないよ! どうしてこんな時に乱入しようとするの!?」
     ふわっと白ロリを着こなし、東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が再度尋ねる。
    「お前ぇーらこそ何だべ! オラの邪魔する気か!」
     ドガッと羅刹が拳で横の壁を殴りつけ壁に亀裂が入る。
     羅刹の好戦的な雰囲気から、もしもの時を心配するのはハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)だ。今回、会場の一般人に影響が出ないよう殺界形成を使うのは止めた方が良いとの結論だった。もし一般人が看板を除けてやってくるようなら……。
    「その時はわらわが何とかするのじゃ」
     一般人を心配するハリーの服を引き、大御神・緋女(紅月鬼・d14039)が王者の風で何とかすると言う。確かに、もしもの時はそちらの方が手間はかかるが騒ぎを大きくしないで済むだろう。
     ハリーも納得し、ビシリと羅刹を指差し。
    「お主が八郎でござるな。いったい何処の手のものでござる!」
    「質問してるのはこっちだべ!」
     大声を出す羅刹に、灼滅者達がやれやれと。
     質問されたからと言って、ここに来た理由を素直に説明する者は誰もいない。
    「淫魔とはいえ、清く正しいライブを邪魔する事は許せないよねっ」
     夜好がため息交じりにそう告げ、オルゴールが「だめよ、邪魔しちゃ」と言葉をかぶせる。
     その頃には羅刹は凶悪な風を纏い始め、灼滅者達も次々にカードから殲術道具を解放する。
    「なんで淫魔狙うかわからないけど……」
     木葉の足元の影が赤き枝のように伸びはじめる。
     ザッ。
     前に出るは緋女。
     赤き振袖をひる返し、曙光を思わせる深紅に染まった刀身を羅刹に向け、戦いの幕開けを宣言する。
    「紅月鬼の緋女、いざ参る!」


     ――護符よ舞え、護りの力となれ。
     ――眠れ、安らかに。

     朗々と響く声と共に、緋女の手から護符が飛び羅刹の額に張り付く。
     一瞬だけグラリと身を揺らす羅刹。
    「今じゃ!」
     緋女の声と共に、金髪の少女が羅刹の横をすり抜け後ろを取る。
     それは挟撃を目的とした物ではない。一般人が「羅刹が来た方向」からやってきた場合の保険、狙いの位置に到達したオルゴールが緋女に小さく頷き連携の礼を言う。
    「ご、ごんなモノ!」
     羅刹が護符を握り潰し、己が纏う凶風を腕に集めると邪魔だと灼滅者達を薙ぎ払う。鋭い風が刃のように吹き荒れ、後列に位置取る灼滅者達を切り刻む。
    「くぅ……羅刹の力、やはり侮れないわね……ッ」
     風圧に飛ばされそうになるのを耐え、夜好が右の指を揃える。
     キンッ。
     竜鴉の十二枚翼に飾られた契約の指輪、その中心の赫き円石が輝きそのまま逆十字を切る。
     同時、羅刹の胸が十字の赤に切り裂かれ血飛沫が舞った。
    「おごっ!?」
    「ったく、羅刹ってのはどいつもこいつもこんな猪みてーな脳筋ばっかなのか?」
     その声は羅刹のすぐ足元から聞こえた。
    「淫魔とはいえ女の子、男ならもっと優しく愛でてやらねーと駄目だぜ!」
     黒虎が羅刹の足元から飛び上がるように炎の拳を鳩尾にめり込ます。
    「ぐ……げはっ……」
     羅刹が身体をくの字にするも、振り上げた羅刹の拳は先ほどの凶風が纏わりついたままであり――。
    「黒虎殿!」
     それに気が付いたのは2人、ハリーとオルゴールだ。
     跳躍し羅刹に迫る2人、オルゴールが羅刹の腕を纏う風ごと鋼鉄拳によって弾き飛ばし、再び胴がガラ空きになった羅刹の背後に、ハリーが周り込んでガッシと腰を抱え込む。
    「ニンジャケンポー・イガ忍者ダイナミックっ!」
     高く持ち上げそのまま大地に叩きつける。
     ドガンッ、と爆発しハリー達が羅刹から離れる。
    「よ、よぐも……」
     爆発の煙を払いつつ、ゆっくりと羅刹が現れる。攻撃力を増していた風は消えたが、まだまだ体力は残っているようで余裕がある。
     そこに矢のように突き刺さるは優歌の跳び蹴り。
     重力の力を宿した流星の如き蹴りが、そのまま羅刹の機動力をゴッソリ削り、その隙に和弥がヴァンパイアミストで仲間前衛をフル強化。
    「邪魔だべ!」
     優歌を振り払い、ノシノシと会場へ近づこうとする羅刹の前に、木葉とその霊犬わんが立ち塞がる。
    「お前ぇら! これ以上邪魔するなら……皆殺しだべ!」
     激昂する羅刹。
     その闘気に呼応するよう路地に凶風が逆巻いた。


     風を纏いつつ戦う羅刹に対し、灼滅者はブレイクしつつ連携しダメージを重ねていた。
     だが、羅刹がバッドステータスを重ねてくるのを嫌ったか、純粋に戦闘に対する心構えが薄かったか、優歌が巨大化した八郎の鬼の腕の一撃をモロに受け倒れる。
     額が切れ流れた血が優歌の視界を赤く染めていく。
     思い出すはあの戦争時。
     淫魔ラブリンスターは武蔵坂学園の為に必死に戦ってくれていた。
     優歌にあるのは心からの感謝の念。
     ――だから、私は……。
    「私は……アイドルとしての道を一生懸命歩く初花さんを……戦わせたくない」
    「なん……だべ!?」
     魂が、信念が、肉体を凌駕し優歌を再び立ち上がらせる。
    「アイドルは人々と共にあり、その心に感動を与える存在……そう在るべきだと、私は信じています。だから……ここで倒れるわけにはいきません」
    「風輪に回復を」
     呟き羅刹に躍りかかるは木葉。影の枝を操りつつ縛霊手と足技を混ぜ羅刹を翻弄する。 
    「わらわに任せるのじゃ!」
     緋女が防御符を優歌に投げ、そばで同じくメディックをやっていたナノナノもハートを飛ばしてダブルで回復を行なう。
    「邪魔をするなと言ってるべ!」
     羅刹が剛腕を振るい、木葉が吹き飛ぶ。耐えているのは防御に特化した戦い方をしているからだ。
    「邪魔はするよ」
     正面、羅刹を真っ向から見つめるは夜好。
     その手の指輪が紅く輝き、魔法弾が放たれる。
    「夢を追うのは誰もが平等、其れは侵させない!」

     戦いも佳境、途中で優歌が倒れはしたが、連携を繋げ攻撃を続ける灼滅者達。
    「行くぜ!」
     黒虎が声をかけると共に羅刹の動きが止まる。見れば黒虎の足元から伸びた影が羅刹の両足を大地に縛り付けていた。
    「ナイスでござる!」
     ハリーがここぞと地を駆けるも、羅刹も頭上で両指を組み飛び込んでくるハリーを叩き潰そうと勢いよく振り下ろす。
     ドガッ!
     ハリーの目の前に跳び込んだオルゴールが、ガラスのように透き通った刀身の剣で羅刹の拳を受ける。
     ズンッ!!
     勢いが殺せずオルゴールの両足が僅かにクレーターを作り大地に沈む。だが、鋭い目つきでハリーに無事だとアイコンタクト。
    「かたじけない!」
     ハリーが羅刹の背後へ回り、再びイガ忍者ダイナミックを――。
    「それはさっき見たべ!」
     羅刹がオルゴールを抑えていた手を離し、自身の背後を叩くも、バチンと自身の手で柏手を打つ音が響く。
    「ど、どこだべ!?」
    「こっちでござる!」
     上空から羅刹の頭部をハリーがロック、羅刹がハリーの落下力に抵抗できず大きくお辞儀をするように。
    「ニンジャケンポー・新(ネオ)イガ忍者ダイナミック!」
     ドガッ!
     大地にめり込む羅刹の頭。
     足を黒虎に抑えられ、ハリーに頭を大地にめり込まされ「へ」の字型に固まる羅刹。
    「どんな理由があったってな、結果的に初花のライブを邪魔しようとするなら……この世からお引き取り願おうか」
    「とどめ、よ」
     和弥が風牙と一閃を交叉させ、無防備な羅刹の首を狩り。オルゴールが炎を纏った脚でその胴体を蹴りつけ燃え上がらせる。
     羅刹の八郎は最初こそビクリと動いていたが、やがて動きを止め。
    「紅蓮の如く燃え散るがよい。灰も残さぬ」
     緋女の台詞が灰となって消えていく羅刹との戦いの、終焉を物語っていた。


    「清純派黒髪ロング……イイ、イイね!」
     初花の楽屋へスタッフに案内されつつ黒虎がライブ終了時にチラッと見た初花の姿を思い出しつつ興奮する。
    「フリルのワンピースドレスもあざと可愛い! だがそれが、いやそれがいい!」
     灼滅者達は想像以上にすんなり楽屋に招待された。まるで最初から「来たら通して下さい」と言伝があったように……。
     その違和感に警戒心を抱くものもいたが、黒虎のように――。
    「おい見たか! さすが淫魔、清純派なのにワンピースの上からでも解るぐらいスタイルも良くて……良いよな! 淫魔とか関係なくファンになってもいーと思うか?」
    「ああ、いいんじゃねーか?」
    「だよな!」
     横の和弥にしきりに同意を求めつつ燥いでいる。
     やがてスタッフの黒服が扉の前で止まり、「どうぞ」と中へ灼滅者を促す。
     果たして部屋の中には、ライブ後の汗も引かぬ少し上気した初花がいた。暑いのか少しだけ着崩したワンピースが淫魔らしくもあり……。
    「ライブサイコーだったぜ! 感激の白バラだ! これからも頑張ってくれよな!」
     黒虎が開口一番、白いバラを初花に渡しつつさらっと握手。
     ありがとう御座いますと素直にお辞儀をする初花だが、何かに気づいたように和弥の元へ。
    「来てくれると思っていました。だから、スタッフにも武蔵坂の方々が来たら通すようにって言っておいたんです」
    「ああ、まあな」
     初花に握手され、微笑みを返す和弥。
    「ちょ、お前! 知り合いだったのかよ!?」
     黒虎が割って入り和弥を詰問すれば「初花とは何度か縁があってな」と説明する和弥。
    「初めましてでござるよ、初花殿。拙者、武蔵坂学園のニンジャ・ハリーと申す者にござる」
     和弥と黒虎が隅に行くのと入れ違いに、ハリーがお辞儀し自己紹介を行なえば、夜好も挨拶しつつ白薔薇、ブランピエールドゥロンサールの花束を初花へ渡す。
    「うわぁ、ありがとうございます! あ、メッセージカードも! 大事にしますね!」
     無邪気に喜ぶ初花。と、「あれ?」と足元の黒柴犬を発見。
    「わわ、可愛いワンちゃんですね!」
    「えっと……わん、って言うんだ」
     初花が触ろうとすると、初花がダークネスだからか木葉の後ろに逃げ込む霊犬。
    「ごめん、まだ慣れて無くて……でも、俺は君を応援してるよ。今までの客入りで良く挫折しなかったよね?」
     犬に逃げられシュンとした初花だったが、挫折せずにと言われると、両手でグーを作って笑顔を見せる。
    「はい! 例えほんのちょっとでもファンの皆さんがいてくれる限り、アイドルに諦めるという文字はありませんから」
    「すごい、な」
     初花は淫魔でありダークネスだ、しかし頑張っている空気は直接話せば伝わってくる。いつか戦う時が来るとしても、今は本心から応援したいと木葉は思う。
    「うーむ、あいどるとは大変な仕事なのじゃな」
     腕を組みうんうんと頷く緋女に、初花が気が付きギュッと抱き付く。
    「可愛いっ!」
    「にゃっ!? 何をするのじゃ!?」
    「あ、ごめんなさい!? 可愛かったから、つい」
     慌てて離す初花に、にゃにゃにゃと驚いた緋女だが、パタパタと何かを持ってきた初花に「おお」と目を開く。
    「差し入れのお菓子をどうぞ、あ、お腹が減ってるならおにぎりもありますよ?」
    「う、うむ、なら――」
     もぐもぐとおにぎりを食べる緋女を可愛いなぁと見つめる初花。そんな初花の袖を引きオルゴールが。
    「ごめんなさい、実は謝らないといけないの」
    「?」
    「あのね、突然だったからビルの前で戦っちゃって、もし遅刻の人とかいたらもっと人集まったかもだけど……」
     それは詳しい話ではなかったが、誠意を持ったオルゴールの説明だった。初花も神妙に耳を傾け。
    「あの、それで、遅れて来たファンの方とかいませんでした? 巻き込まれたりとか……」
    「それは大丈夫、わたくし達が守ってあげたの」
    「そうですか……ありがとうございます」
     本心から安堵する初花。
     もしかしたら羅刹もタダのファンだった可能性も……と、その推測を飲み込み、戻って来た和弥が別の台詞を言う。
    「ま、いつもの事だろう?」
    「……はい♪」
     微笑む初花。そのファンを思う気持ちが本心だと解り、スッと前に出てくるのは優歌。
    「私たちの学園は戦争で一般人の救出を行い、また治療もします。でも、心の傷を癒すのは誰だって難しい……だから、そこで初花さんの優しい笑顔と歌声でその心を支えてあげてほしいんです」
    「アイドルが被災地で行う慰問コンサートのように、ですか?」
    「はい」
     優歌は事務所の皆様にもお伝え下さいと伝言を頼み、初花は頑張ってみます、と頷く。
    「これは儚くても美しい氷の花です。きっと、初花さんの歌と在り方に重なると私は思います。受け取って、くれますか?」
     氷の結晶で作られたような薔薇の花を差し出し、初花は「喜んで」とそれを受け取る。
    「そうだ初花、この後は『花言葉はホワイトローズ』の手売りがあるんじゃないか?」
     和弥の言葉に「いけない! 急いでいかないと!」と慌てだす初花。
    「俺も手伝うよ」
    「あ、ありがとうござい――」
    「ちょっと待て、もちろん俺も手伝うぜ!」
     和弥を押しのけ黒虎も割り込む。
    「手伝うのはやぶさかで無いでござるが、花言葉はホワイトローズ……拙者、生で聴きたかったでござるなぁ」
    「わたくしも聞きたかったの」
     ハリーに続きオルゴールも呟く。実際、羅刹を倒して会場に入った頃にはライブも終盤、フルで聞く事ができなかったのだ。
    「わらわもー」
     と、緋女が初花の歌を口ずさめば、初花は笑いつつ「手売りが終わったら特別に時間を取りましょうか?」と。
     もちろん、会場を抑えているスタッフの許可は必要なのだが……。
     そして灼滅者達はCD販売を手伝い、サインを貰い、そして――。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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