脱走者、羅刹・芳賀の捕縛指令

    作者:のらむ


     時刻は午後九時。場所は琵琶湖からやや外れたとある旅館、その中にある、多くの人で賑わう大食堂である。
    「ヒック……ああ、全く。勢いに乗ってるかと思ってあの天海大僧正の傘下に納まってたけどよ……全然じゃねえか。今の内に逃げ出せて良かったぜ。あ、姉ちゃん、もう一杯酒くれや。あと肉も」
     グビグビと日本酒を煽るこの中年の男の名は、芳賀。天海大僧正傘下の末端に納まっていた羅刹である。
    「戦況的にはどう考えても安土城怪人の優勢だよなぁ……ヒック。勝ち馬に乗るのが生き残る為の必勝法……ってな。まあ問題は、その勝ち馬にどうやって乗るかだが……」
     芳賀が思考を巡らせながら再び日本酒を煽るとしたその時、大食堂の入り口が何やら騒がしくなる。
    「あぁ? 何だよ俺よりも性質の悪い酔っ払いでも現れ……っ!」
    「一度自らの大将と認めた者を裏切るとはな。天海大僧正様も大変憂いておられる。貴様は、我が刀で粛清させてもらおう」
     芳賀の前に現れたのは、通常の狼形態とは異なる半人の姿をしたスサノオ。新撰組の隊服の様な物を着た、『スサノオ壬生狼組』の剣士であった。
    「チッ、わざわざここまで追って来てやがるとは……ここまで来て殺されてたまるかよ!!」
     状況を一瞬で理解して酔いも吹き飛んだ芳賀は、自らの力で巨大な槍を生み出し、構える。
    「無駄な足掻きだ」
     スサノオは吐き捨てると刀を構え、芳賀との距離を一気に詰める。
    「チッ!」
     芳賀は破れかぶれに槍を突き出すが、スサノオはその刺突の軌道を完全に見切り、軽く身体を逸らし避ける。
     そしてスサノオはそのまま躊躇なく、畏れを纏わせた刀を芳賀の心臓に突き立て、引き抜いた。
     噴き上がる血飛沫に、周囲の人々が混乱に陥る。
    「ガ、フ…………た、頼むぜ……命だけは助け……」
    「問答無用」
     スサノオは芳賀の言葉を遮り、鋭い銀爪で芳賀の喉笛を引き裂いた。
     バタリと床に転がり、動かなくなる芳賀。
    「…………次は貴様らの番だ」
     芳賀を斬り捨てたスサノオは、そのまま周囲の一般人達に斬りかかる。
     そしてその場にいた一般人が全員死ぬか逃げるかした頃、スサノオは床に倒れた芳賀の前に立つ。
    「…………」
     すると、芳賀を無言で見下ろすスサノオの身体から畏れが溢れだし、芳賀の全身に纏わりついていった。
    「う、あ…………」
     そして何故か、床に倒れ動かなくなった芳賀の身体がゆっくりと起き上がる。
     起き上がった芳賀には既に脱走の意思は無く、スサノオの配下として取り込まれていたのであった。


    「小牧長久手の戦いで勝利した安土城怪人も色々と動きを見せている様ですが、敗北した天海大僧正側でも、何やら動きがあったみたいですね」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「天海大僧正側の末端のダークネス達が、どうやら安土城怪人側に寝返ろうと、琵琶湖に向かっている様です。先の戦いの敗北に続き末端の配下まで脱走してしまえば、天海大僧正側の陣営は瓦解してしまうかもしれません」
     その状況を危惧した天海大僧正が、配下のスサノオ達に、脱走ダークネスの捕縛命令を出した様だとウィラは説明した。
    「彼らの隊名は、スサノオ壬生狼組。彼らの手によって倒されたダークネスは、どうやらスサノオの配下に作り変えられてしまう様です」
     だが、安土城怪人に寝返ろうとするダークネスを助ける必要性は、全く無いと言っていい。問題はその後だとウィラは語る。
    「スサノオ壬生狼組はダークネスだけでなく、周囲にいた一般人達にも斬りかかり、相当の数の死者が出てしまいます。スサノオ壬生狼組はかなり強力なダークネスではあるのですが、一般人が殺されるのを見過ごす訳にはいきません。現場に介入し、何とかこの事態を防いでください」
     そしてウィラはファイルをめくり、敵の戦闘能力の説明に入る。
    「スサノオ壬生狼組のスサノオは、シャウト、人狼のサイキックに加え、日本刀のサイキックを使用します。戦闘能力はかなりの物ですので、十分注意して下さい」
     ウィラは脱走したダークネスの資料に目をやり、説明を続ける。
    「脱走したダークネスは、羅刹、名を芳賀といいます。神薙使いのサイキックと、妖の槍のサイキックを使用します。スサノオに比べれば戦闘能力は劣りますが、それでもそこそこの物です。ダークネスですからね」
     続いてウィラは、灼滅者達が介入する事件現場についての説明をする。
    「まず初めに言っておきますと、スサノオが一般人を殺すのは、戦闘が終わった後になります。戦闘中に一般人に手をかける事はありませんので、そこは安心して下さい」
     スサノオが一般人を殺戮する理由は何なのか、しっかりとした理由があるのかも不明だが、とにかく一般人の避難にはそこまで気を回さなくても大丈夫だとウィラは続ける。
     そして灼滅者達が介入するタイミングには、2つのパターンがある。
    「まず1つは、スサノオと羅刹が接触した直後。この場合、脱走してきた芳賀はその騒ぎに便乗して、さっさと戦場から撤退してしまいます」
     この場合、安土城怪人側の戦力が強化されてしまうだろう。
    「2つ目は、スサノオが芳賀を斬り倒した直後。この場合芳賀が撤退する事はありませんが、その代わりスサノオの配下として立ち上がる為、2体のダークネスを同時に相手取る事となります」
     ただでさえこのスサノオ自体が強力なダークネスである為、苦戦を強いられるのはまず間違いないだろう。
    「どちらの方針を取るかは、よく考えて決めて下さい」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。予知通りの未来が訪れれば、かなり凄惨な事態になる事は必至です。一般人の死者を防ぎつつ、ダークネスを灼滅して下さい。お気をつけて」


    参加者
    立花・銀二(黒沈む白・d08733)
    小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)
    香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)
    風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)
    斎・一刀(人形回し・d27033)
    日輪・朔太郎(汝は人狼なりや・d27538)
    ハンナ・ケルヴィリム(悪魔を宿した少女・d30176)
    セティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668)

    ■リプレイ


     午後九時。人が多く集い賑わうとある旅館の大食堂。
     この場所は今、一触即発の緊張感に包まれていた。
    「あぁ? 何だよ俺よりも性質の悪い酔っ払いでも現れ……っ!」
    「一度自らの大将と認めた者を裏切るとはな。天海大僧正様も大変憂いておられる。貴様は、我が刀で粛清させてもらおう」
     天海大僧正の下から脱走した羅刹・芳賀と、スサノオ壬生狼組の剣士が、対峙する。
    「チッ、わざわざここまで追ってきやがるとは……ここまで来て殺されてたまるかよ!!」
     芳賀がそう言って槍を構え、ほぼ同時にスサノオが刀を構えた、次の瞬間。
    「ちょっと待ったー!」
     スレイヤーカードを解放した立花・銀二(黒沈む白・d08733)がこの二者の間に割り込み、他の灼滅者達もそれに続く。
    「何者だ」
     スサノオは赤くギラツイた瞳で睨みながら、灼滅者達に問いかける。
    「貴様を殺す者達だ」
    「ダークネス同士でチャンバラやるのはいけどねえ……クククッ、他人を巻き込んじゃあ……いけないんだよねぇ」
     風間・小次郎(超鋼戦忍・d25192)と斎・一刀(人形回し・d27033)が殲術道具を構え、スサノオに付きつける。
    「な、なんだ……? よく分からんが、この好機を見逃す手はねぇ!」
     突然現れた灼滅者達が、自分では無くスサノオに武器を向けているのを見た芳賀は、迷いなくその場から逃げようと走り去る。
    「逃がさん……!」
     スサノオは刀を構え芳賀に突撃するが、灼滅者達はその行手を遮る。
    「あなたの相手は、わたし達だよ」
    「別にあいつを助ける気なんてさらさらないけど……一般人を殺させる訳にはいかないんだよ!」
     ハンナ・ケルヴィリム(悪魔を宿した少女・d30176)と香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)がスサノオにサイキックを放ち、無理やりその場に留まらせる。
     大食堂内は突然の騒ぎでややパニック状態となっていたが、補助に集まった10人程度の灼滅者達が、避難誘導を行っていた。
    「一般人の避難誘導を頼みます」
     小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)は自らがリーダーを務める『B.K.S.F』のメンバー達にそう声をかけ、敬礼した。
    「隊長の要請とあっちゃ出ないわけにはいかないからな。一般人には傷一つ付けさせないぜ」
    「ええ。こちらは私達が受け持ちますので、隊長は戦いに集中して下さい」
     雷歌と邦彦はそう返して、避難誘導を行っていく。
    「幸い怪我人と呼ぶほどの人はあまりいない様ですね……兄さん、そっちはよろしくお願いします」
    「了解ですわ……さて、皆さん。落ち着いて、あちらへ避難してくださいませ」
     織久が怪力無双を使用して咄嗟に動けない人々を運び、ベリザリオがラブフェロモンで一般人達の行動を誘導する。
    「皆さん、こっちです……! 粛清の為か知りませんけど、一般の方は関係ないじゃないですか……」
    「脱走ダークネスを粛清とは、まるで局注法度といったところですが……無関係な一般の方にまで凶剣を向けたりはさせませんわ」
     アリスとミルフィも協力しながら、避難を推し進めていた。
    「さて、此処まで来たはいいが、上手く情報が集められるだらうか……まあ、何にせよ興味深い」
    「何故スサノオが一般人を襲うのか、直接聞いてみたかったが……そこまでの余裕は無さそうだね」
     有無と壱里は今回の事件に関して色々と気になる事が多い様だったが、しっかりと避難誘導も行っていた。
    「店内は危険だ。助かりたければ冷静に、あっちの出口から避難するんだ」
    「思ったより避難に当たる人手も多いみたいだし……問題なく終わりそうだね」
     ヴァーリがプラチナチケットと拡声器を使って避難を呼びかけ、來鯉は店内にいた一般人達が概ね避難できたことを確認した。
    「貴様らは、武蔵坂の手の者か……だが、誰であろうと関係ない。我が任務の遂行を邪魔しようと言うのならば、斬り捨てるのみ」
     スサノオは鋭い眼光をで灼滅者達を睨みつけながら、刀を構えなおす。
    「大した忠犬っぷりだねえ……」
    「私達にも、私達のすべき事がある……全力でやらせてもらうわ」
     日輪・朔太郎(汝は人狼なりや・d27538)とセティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668)がそう言い、スサノオと相対する。
     そして戦いが始まる。


    「死んでもらうぞ」
     スサノオは地を蹴り灼滅者達に接近しつつ、刀で大きく薙ぎ払う。
     同時に放たれた鋭い斬撃が、灼滅者達に襲いかかる。
    「確かにお前は強敵だと聞いているが……私たちは誰も死なない」
     真は放たれた斬撃を『ライオネットシールド』で受け流し、その勢いのまま突撃する。
     そして真正面から盾を突き出すと、スサノオの身体が大きく弾き飛ばされた。
    「確かにそれなりに戦えるらしいが……我等の剣術には叶うまい」
     弾き跳んだスサノオはそのまま壁を蹴り、反動で急接近した真の心臓目がけて勢いよく刀を突きだす。
    「ヒヒヒ……随分と自信があるみたいだねぇ……」
     一瞬で真の前に跳び出した朔太郎が、自らの身体でその刺突を受け止めた。
    「助かった。このまま追撃する」
     真は拳を固く握りしめたままスサノオの懐に潜り込み、鳩尾にアッパーカットを放つ。
    「グ……!」
     スサノオの身体が一瞬浮いた隙を見過ごさず、真は更に特殊警棒を振り降ろす。
     次の瞬間、スサノオの身体が床に叩きつけられ、爆発した。
    「犬のくせに二足歩行なんかしてるから、痛い目あるんですよ!!」
     続けて銀二が放った激しい斬撃が、スサノオの身体を削り取る。
    「我等を愚弄するものに、容赦はせぬ」
     立ち上がったスサノオは刀に畏れを纏わせ、鬼気迫る斬撃を放つ。
    「ククッ、案外短気なんだねぇ……」
     操り人形を操りながら、ゆらりと戦場を舞うように動く一刀は、正面から斬撃を受け止める。
    「さぁ、人形回しの開演だよ……カカカっ。ビハインド、一緒に踊るんだなあ」
     そして一刀は手から無数の鋼鉄を放つと、スサノオの周囲に張り巡らせていく。
    「この程度の攻撃……くっ」
     戦場を駆け抜け糸をくぐり抜けていくスサノオだったが、不意に放たれた一般の糸に、両脚が絡め取られた。
    「ククククっ。人形回しとビハインドの舞。特とご覧あれ」
     一刀が呟くと、動きが鈍った背後から一刀のビハインドが姿を現す。
     そして左手の刀で霊力が込められた鋭い中段突きを放つと、スサノオの背から毒が浸食した。
    「綺麗な何とかには毒がイッパイサぁ……ケケケっ」
     一刀の攻撃に続き、翔が槍を構え突撃する。
    「まさかこんな所で壬生狼組と戦えるとはね。その力がどれほどのものか、見せて貰おうか」
     翔が放った刺突が、スサノオの身体に突き刺さる。
    「悪いけど、ここで倒させてもらうんだよ」
     ハンナは縛霊手に霊力を込めると、一気に地面に叩き付ける。
     そして構築された霊的結界が、スサノオの全身を痺れ上がらせた。
    「……斬る」
     スサノオは再び鋭い斬撃を放つと、後衛を纏めて斬りつけた。
    「まだまだ、わたし達は倒れないよ」
     ハンナは傷を抑えつつ片手に魔力を込め、魔法の矢を形成していく。
     そして放たれた無数の矢が、スサノオの全身に突き刺さる。
    「…………」
     それなりの傷を負っている筈のスサノオだが、その表情には全く変わり無く、淡々と刀を振るい続ける。
    「本当に強敵みたいね……だけど、これも乗り越えなければならない壁なのよね」
     セティエはそう呟きつつ、癒しの風を放ち仲間たちの傷を癒した。
    「その剣術は確かに本物……それにその羽織。貴様は新選組に縁の者か?」
     小次郎は刀型クルセイドソード『ブレードオンハート』を構えたままスサノオと相対し、そう問いかける。
    「答える義理は無い」
    「確かにな」
     小次郎はトン、と地を蹴ると脚に炎を纏わせスサノオに向けて一気に飛び掛かる。
    「その毛並みはよく燃えるだろうよ」
     放たれた蹴りはスサノオの身体に抉りこみ、同時に全身を炎で包み込んだ。
    「グ……!!」
     スサノオは熱さに顔を歪めつつもカッと目を見開き、小次郎の肩を一瞬にして斬りつけた。
    「速い……流石に自信があるだけの事はあるか。だが……」
     小次郎は不意に横に跳ぶと、一瞬にしてスサノオの視界から消える。
    「…………」
     神経を張り巡らせたスサノオは背後に気配を感じるが、一瞬襲い。
    「この刃は致命に至る!」
     小次郎が刀を振るい死角から放った斬撃は、スサノオの急所を深く斬りつけた。
    「思っていたよりはよく耐える様だ……だが壬生狼組の名に懸けて、任務を果たさず死ぬ訳にはいかぬ」
     そう強く言い切るスサノオには、未だ灼滅者達と戦う体力と意思が残っている様だった。


     更に戦いは続いたが、スサノオには未だ倒れる気配も、弱った様子も全く見られない。
    「やたらとしぶとい犬ですね……そんなに斬られ足りないですか!!」
     銀二はチェーンソーのエンジンを駆動させると、激しいエンジン音と共に突撃する。
     そして放たれた轟音と斬撃が、スサノオの呪的防護を打ち破る。
    「我等を畜生と一緒にするか。貴様はどうしても死にたい様だな」
     スサノオは言葉に僅かな怒りを滲ませながら、後衛に向けて斬撃を放つ。
     その一撃は銀二の身体を深く抉ったが、銀二は怯むことなく攻撃を続ける。
    「随分と躾のなってない犬ですね。上等です……というかお前も少しは役に立てですよ。お前も躾不足なのですか?」
     そして銀二は自身のナノナノを掴み上げて思いきりぶん投げると、足元の影を大きく拡げ、スサノオに向けて放つ。
     まずぶん投げられたナノナノがスサノオの懐で巨大な竜巻をお越し、身体を打ち上げる。
    「今です」
     そして大きく伸びた影が浮いたスサノオの身体を飲みこむと、その精神を蝕んだ。
    「追撃するよ」
     更にハンナがライフルの引き金を引き、放たれた光線がスサノオの身体を焼いた。
    「…………舐めるな」
     スサノオは鬼気迫る勢いで灼滅者達に突撃すると、銀爪を大きく振り降ろす。
    「クククッ……白狼の銀爪。確かに凄い威力だねぇ……」
     仲間を庇い、身体を引き裂かれた一刀の身体はかなり傷を負っていたが、それでも尚一刀は笑い続けていた。
    「結構きついわね……すぐに回復するわ」
     セティエは指先に集束させた霊力の塊を一刀に撃ち出すと、一刀の全身の傷が瞬く間に塞がった。
    「表情には出てないけど、相手もかなりの所まで追い詰められている筈……一気に攻めるわ」
     セティエはそう言ってエアシューズを駆動させ、自身の霊犬と共に駆けだした。
     霊犬はセティエの攻撃を補助する様に、遠くからスサノオに向けて無数の六文銭を放つ。
    「くっ……小賢しい」
     スサノオは刀を振るい六文銭を叩き斬っていくが、セティエはその隙にスサノオと肉薄した。
    「捉えた……ここよ」
     そして放たれた鋭い蹴りが、スサノオの胸元を打ち付け周囲に鈍い音を響かせた。
    「グハッ……!!」
     その攻撃にスサノオは無意識に後ずさり、胸を抑える。
    「まだだ。こちらの攻撃は終わっていない」
     その一瞬の隙を捉えた真は警棒を振るい、スサノオの脳天を強く打ちつけた。
    「グ……調子に乗るな」
     スサノオは一段と激しい斬撃を灼滅者達に浴びせるが、灼滅者達は耐え続ける。
    「多分あと少しだ! 援護は任せとけ!!」
    「私も援護するぞ、きついの一発当ててやれ!」
     誠は標識を振るい、リュカは赤い霧を放ち、灼滅者達の傷を癒していった。
    「さて、次はオレがいくか……一般人に手をかけるお前を、見過ごす訳にはいかない」
     翔は全身のオーラを拳に集束させ、拳を大きく振り上げスサノオに接近する。
    「安土城怪人に負けた上に部下にも見捨てられ、裏切り者を始末するはずの壬生狼組が仕事を離せないんじゃ、天海勢力もこれで終わりだろうな」
     そして放たれた無数の打撃が、スサノオの全身に叩き込まれる。
    「貴様らが何と言おうと、我等が忠義が揺らぐ事は無い。勝利するのは天海大僧正様だ」
    「……求心力を失くしてそれでもまだ勝てると思えるその自信、ある意味尊敬するね」
     翔はクルセイドソードの刃を非物質化させながら、スサノオと再び対峙する。
    「けど、どれだけやっても体勢は決してる。天海勢力には安土城怪人勢力は倒せないよ」
    「その口を閉じるが良い。不敬者が」
     スサノオは居合いの構えで翔の身体を一閃するが、翔も攻撃を止めない。
     放たれた斬撃はスサノオの魂を斬り、大きな傷を刻み込んだ。
     その直後、スサノオの背後から燃え盛る刀を構えた小次郎が迫る。
    「焼き滅ぼす……!!」
     小次郎の一撃はスサノオの首元を斬ると同時に、灼熱の炎によってその傷を焼いた。
    「まだ……だ。まだ私は死ぬ訳にはいかぬ」
     それは恐らく忠義の為。瀕死に成る程の傷を刻みつけられてなお、スサノオは勝利を諦めてはいなかった。
    「ほんと、その忠誠心には頭が下がるねえ……君には、逃げるという選択肢が最初からないみたいだねぇ」
     朔太郎はそう言いながら弓を構え、しっかりと狙いを定めていく。
    「貴様は人狼……自らの魂にスサノオを封印した忌むべき存在。任務でなくとも、貴様には死んで貰う他無い」
     スサノオは眼にも止まらぬ速さで朔太郎に接近すると、その身体に日本刀を突き立てる。
    「ヒヒヒ……まだまだ俺は死ねないねぇ……!」
     朔太郎が呟くと、側に控えていたナノナノの恭次郎が竜巻を放ち、スサノオの身体を壁に叩き付ける。
     そのまま朔太郎は矢を放つと、スサノオの身体を壁に縫いとめた。
    「……死ねぬ。死ぬ訳にはいかぬ。壬生狼組の名に懸けて、負ける訳にはいかぬ……!!」
     突き刺さった矢を無理やり引き抜き、スサノオは灼滅者達に突撃する。
     しかしその攻撃が放たれるよりも早く、灼滅者達が一斉に攻撃した。
     一刀が作り上げた結界がスサノオの全身を蝕み、
     翔が突き出した槍が心臓を抉る。
     ハンナが放った魔術が足元を凍りつかせ、
     銀二が振り下ろしたチェーンソーが腕をズタズタに引き裂く。
     真が放った鋼鉄の拳が顎先を打ち、
     小次郎が振るった刃が腹を斬る。セティエが放った霊力の網が全身を縛り付け、
     朔太郎が片腕を半獣化させる。
    「長い闘いだったけど……それもこれで終わりだよぅ……!」
     朔太郎が全身の力を込めると、半獣化した腕に嵌められた鈍色の手甲『貧狼』に、日輪の紋章が浮かび上がった。
    「く……おのれぇ!!」
     スサノオは朔太郎の首を狙って刀を振るう。
     しかしスサノオの決死の一撃を朔太郎はするりと回避し、銀爪を喉笛に突き立てる。
     そして一気に引き裂くと、スサノオは首から血を噴き出しながら膝を付く。
    「ガフッ……申し訳ありませぬ、天海大僧正様……忠義を果たせず死ぬ私を、どうかお許しください……」
     そう言うと、スサノオは刀を手落とし床に倒れ、次の瞬間には全身が白い煙となって掻き消えていった。
     灼滅者達は、壬生狼組剣士との戦いに勝利し、一般人の虐殺を防ぐことに成功したのだ。

     こうして戦いは終わった。
     荒れ果てた食堂内を可能な限り修復した灼滅者達は、誰も欠ける事なく帰路につく。
     灼滅者達の中には、いくつかの疑問があった。
     壬生狼組と新撰組の関係。
     畏れによるダークネスの配下化。
     スサノオが一般人達を虐殺しようとした理由。
     未だ分からない謎は多いが、今後の調査や敵の動きによっては、そういった謎は明かされるかもしれない。
     同時に新たな謎が増える可能性もあるが。
     だが、壬生狼組との戦いにより、灼滅者の多くはそう浅くない傷を負った。
     今は学園へ帰還し、戦いの傷を癒すとしよう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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