福岡県白島、男島。
かつては、下関要請の一翼を担う軍事基地。
現在は、巨大な石油備蓄基地となっている、福岡県沖の小島である。
その小島の岸壁に、多数のイフリートが集う。
「ガイオウガ様ノ無念、イカニシテモ果タサネバナラヌ」
その中心には、黒い毛皮のイフリート、クロキバが居た。
「アフリカンパンサーノ座ス軍艦島ハ、間モナクソノ姿ヲ見セルダロウ」
「ウズメトハ話ヲツケタ。本懐ヲ遂ゲタ後、アフリカンパンサーノ地位ヲ我ラガ占メルナラバ、軍艦島ヘ導コウト……」
クロキバは、苦渋の表情を浮かべる。
アフリカンパンサーを討つ為とはいえ、うずめ様の配下に成り下がらなければならぬのは業腹なのだろう。
だが、他に方法は無い。
武蔵坂の灼滅者さえも撃退する軍艦島に、アカハガネ達が離脱した事で更に勢力を縮小させた、クロキバ達が攻め入るには、これしか方法が無いのだから。
「オ前達ノ、命、アズカラセテモラウ」
そのクロキバの言葉と同時に、海上に島のように巨大な軍艦が姿を見せ、イフリート達が、力強く吼え猛った。
因縁の決戦の幕開けである。
「と言う戦いがあったようだ」
集まった君達に座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)が明かせば、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)立ち上がって問い。
「えっと、はるひ姉ちゃん……あのイフリートは?」
「チャシマか。彼女もこの戦いには参戦したらしいな。そもそもこの戦いだが――」
答えながら頷いたはるひは補足説明を始めつつ視線を窓の外に向けた。
「うずめ様の傘下に加わると言う条件を呑んだのは、やむを得なかったと私は見る」
獄魔覇獄の後の反乱騒ぎもあってクロキバの求心力が低下していたことは言うまでもない。クロキバと仲間のイフリート達だけで軍艦島に乗り込み、アフリカンパンサーを倒すのには無理があったのだ。
「とは言え、我々には獄魔覇獄で協力を断られている。こちらには頼りづらかったのかもしれん」
そして、クロキバが話を持っていったのがうずめ様と言うことなのだろう。
「目的を果たすため、他のダークネスに……」
「先日、クロキバを救出した際、『考えさせてくれ』と口にしていたと聞く。クロキバなりに考えた結」
「それより、戦いは?」
「今日はやけにがっつくな、少年。戦いは、アフリカンパンサーの勝利に終わった。ただし、クロキバ達は、うずめ様の取り成しで撤退を許され、今は道後温泉にいる」
戦いで負った傷を癒しているのだよ、と続けたはるひはその中にチャシマの姿があることも明かす。
「温泉には、ゴッドセブン『もっともいけないナース』配下の、いけないナースが居てイフリート達の傷を癒している。戦いに負けて意気消沈しているところを優しくされれば、絆され仲間になってしまうことも十分考えられる」
まして、助けてくれた灼滅者達の為に強くなったとかつて話していたチャシマであれば、もっともいけないナースを恩人と認識して、その為に力を振るうことは充分考えられる。
「流石にそれは歓迎出来ないのでね」
何とかすべく君達が呼ばれたと言うことなのだろう。
「君達がバベルの鎖に引っかかることなくダークネス達と接触出来るのは、夕暮れ時。チャシマ達からするとちょうど風呂上がりとなる」
温泉で身体を洗ったり、傷薬を塗り込んだりする為、温泉は一時的に貸し切り状態になっており、周囲に一般人は居ない。
「また、温泉は露天風呂の為逃げる場所には事欠かない」
加えて君達が乱入しようとした場合、いけないナースはお客様に安全にお帰り頂く為、足止めに回ると思われる。
「ダークネス2体と同時に戦うのは厳しいとも思うが……チャシマは説得すればそのまま立ち去ってくれる可能性がある」
チャシマから見れば灼滅者も恩人なのだから。
「戦闘になった場合、いけないナースは殺人注射器のサイキックに似た攻撃で、チャシマはファイヤブラッドのサイキックに似た攻撃の他、炎で作り出した盾を投げつけたり叩きつけて攻撃してくる」
もっとも、チャシマはいけないナースのご奉仕でパワーアップしているらしく、チャシマまで敵に回った場合、勝ち目はなくなると見ていい。
「よって、私は無理に双方と戦うようなことはせず、チャシマを帰らせることを推奨する」
優先すべきはチャシマがもっともいけないナースの仲間になることの阻止なのだから。
「今の段階で介入しなければ、チャシマは完全に籠絡されてしまうことだろう、それだけは避けたい」
真剣な顔を作ったはるひは君達に向き直ると、大変な任務だが宜しく頼むと頭を下げるのだった。
「ほらほら、逃げちゃ駄目ですってば」
『みぃ、クスグッタイ』
「ほら、大人し……あら?」
泡まみれになったイフリートの少女を塗り薬の容器片手に押さえ込んでいた水着のダークネスは、ずれかけたナースキャップを洗い場の床に落としつつ顔を上げると、脱衣所の方を見て。
「ここは貸し切りにしたはず……と言うことは、招かざっきゃあ」
呟いていたところをイフリートの少女にはねのけられてひっくり返った。
「痛た……あ、あの客様? どうかお逃げ下さい。ここは私が」
『力、湧イテクル……コレナラ、チャシマ――』
相手がその少女であるが所以の不運か、それでもめげずにいけないナースは退出を促すが、肉球のある手を握ったり開いたりするイフリートの少女は、まだ、心ここにあらずの様子だった。
参加者 | |
---|---|
明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578) |
火之迦具・真澄(火群之血・d04303) |
聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863) |
東屋・紫王(風見の獣・d12878) |
園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061) |
システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975) |
清浄・利恵(華開くブローディア・d23692) |
十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221) |
●突入
「つーワケで温泉の前までやって来ました」
出たとこかねェと呟いて火之迦具・真澄(火群之血・d04303)が脱衣所の前で立ち止まった。
『ふみぃ、前見エナイ』
「もう、じっとして下さい」
中から聞こえてくるのは、二人分の声。
「えーと」
鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は言葉を探して視線を彷徨わせ。
「片方はチャシマの声だな」
先日チャシマと言葉を交わしたからか、漏れてくる声に聞き覚えのあった聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)は脱衣所の中へ視線をやりつつ漏らした。
「なら、チャシマは情報通りこの先だね」
(「んー、まぁダークネス勢力も、群雄割拠で色々入り乱れてるっつーか。ややこしいわねぇ」)
倣う形でシスティナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)がのれん越しに脱衣所を見やる中、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)は一つ嘆息するとちらりとスレイヤーカードを確認してからちらりと振り返る。
「では、わたくしはアリスお嬢様と一緒にサポートさせて頂きますわ」
「遥香姉ちゃん、気をつけてね」
「システィナさん、全力で応援するから説得&灼滅頑張ってね!」
仲間に声をかけるは、応援の灼滅者の面々。至れり尽くせりと言ったところか。
(「まぁウチら的にも、一つの勢力が力つけるのは避けたいトコだし、ここはひとつ妨害してやりましょうか」)
バックアップ体制が整っているなら、あとは為すべき事を為すだけである。視線を戻すと気怠そうな表情を引っ込め、瑞穂は口を開き。
「……ところで、チャシマって誰だっけ?」
「え゛?」
「嘘嘘、冗談よ」
先程とは別の理由で顔をひきつらせた少年へ、ハタハタと手を振ってみせる。場の緊張をほぐす為のジョークだったのかも知れない。
「では、行こう。話にあったチャシマの様子も気になる」
一連のやりとりを見届けた十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)は、仲間達を促すと脱衣所へと向かって歩き出し。
「お客様、着替えたのですから逃げて下さいね? さっきの気配、おそら……あ」
中にいたダークネス達の内、最初に気づいたのは、もう一方へ念を押すナース服の女性。
「指定された接触のタイミングが湯上がりで良かったと思うべきかな」
あと数分早ければ、着替え中。異性である東屋・紫王(風見の獣・d12878)達にとって少々拙いことになっていた可能性はある、ただ。
『み? ……あ、すれいやー』
直後にもう一方のダークネス、チャシマもこちらに気付き。
「灼滅者? お、お客様お逃げください」
チャシマの言葉から相手の素性を知ったナース服のダークネスこといけないナースは注射器を取り出し、身構えるが。
「久し振り。傷、大丈夫かい?」
「久しぶり……だな」
『みぃ、久シブリ』
「えっ」
待っていたのは、清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)と続く忍魔に挨拶を交わすチャシマと言ういけないナースからすれば想定外の展開である。
「ええと、これはどういう……」
「怪我はもう大丈夫? また会えて嬉しいよ」
ある意味置いてきぼりにされているダークネスを尻目に紫王も顔見知りであるイフリートの少女へ声をかけた。
●再会に
『み……チャシマモ』
肯定的に答えつつもチャシマの表情にあったのは、陰り。
「初めまして。チャシマさん。私の名前はエンミ・ハルカ。エンミちゃん、ですよ」
原因が何処にあるのかを察すには情報不足であったが次の言葉が口から出るよりも早く、園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)が名乗ったことで参加者を増やしつつ挨拶は続いた。
「え、えーと……お久しぶり?」
『あ』
とある少年がこれに加わったのは、ちらりと会話中の遥香へ横目で見られたからであるが、挨拶された側は目を見開いて硬直した。何故なら、和馬は久々に会う恩人の一人だったから。
「ボクは以前クロキバ奪還の時に会ってるんだけど覚えてるかな……?」
チャシマの見せた反応に、時は違えど面識のあるシスティナも声をかけ、そこでようやく硬直は解けたらしい。
『みぃ』
「いきなりでごめんね。今回、ボクらは君を倒しに来たわけじゃない」
一鳴きして頷いたのを見て、話が出来る状況と判断し、声をかけたのは、利恵。
「私たちは、チャシマさんと戦いに来たのではありません」
「チャシマ、利恵達の言うように俺達はチャシマと戦うつもりは無い」
『み? 戦ワナイ? ナラ温泉入リ来タ?』
「ああ、そういうことでしたか」
続いた遥香と忍魔の言葉へチャシマが首を傾げれば、置いてきぼりだったいけないナースはポンと手を打つと注射器をしまい始め。
「灼滅者のお客様は想定外ですが、お客様のお知り合いということなら話は別です。闇落ちするまでしっかりご奉」
「生憎だが間に合っている」
「それに今は、チャシマさんと大事なお話をしてるんです……!」
「ですわね。……今は、チャシマ様との大事な話の最中ですわ……邪魔などという無粋な事はご遠慮願いますの……」
接客モードに対応変更しようとしたところへ瑞樹が立ち塞がり、応援の灼滅者達が手をワキワキさせ始めたいけないナースを牽制する。
「園観ちゃんたちは、チャシマさんとお話がしたいのです」
ひょっとしたら、遥香の言うお話が自分にとって都合の悪いモノだと判断し、わざととぼけた反応をした可能性はあるが、牽制されれば会話に割り込むのは厳しい。
「無事で良かった」
『みぃ』
割と穏やかなムードで言葉が交わされて行くのは、それもあってか。自身に気遣われたのは理解している様子の反応へ背を押され、瑞樹は続いて切り出す。
「ところで、クロキバ殿は無事なのか? 他の仲間は大丈夫なのか?」
『クロ……キバ』
ただ、投げられた問いを鑑みればチャシマの表情が曇ったのも無理はない。
「ボク達はチャシマと戦うつもりはないから……出来ればこの場から立ち去って、一刻も早くクロキバと合流して欲しいなって思ってるんだ」
知らないのか、それとも戦い敗れたことを連想したのか、沈黙してしまったイフリートの少女へは戦意がないことにもう一度触れながらシスティナは告げ。
「早くクロキバと合流して、これからの事を話し合う方が良い」
『にぃ、ケド、チャシマ……』
更に忍魔へ勧められたチャシマはちらりといけないナースの方を振り返る。
「癒してもらったナースに恩があるのは分かる……だが、私は以前に共闘したキミとは戦いたくない」
『み? 戦ウ?』
「他のイフリート達も今、こうして篭絡されようとしているんだよ。あっろうらくって言うのはね、ええとツケイル、アブナイ」
恩人と一緒にいることがどうして戦うことになるのか、解らなかったのだろう。怪訝そうな顔をしたイフリートの少女へ何とか理解して貰えるように言葉を考えつつ紫王は説明を始め。
「くっ」
『駄目ッ』
最初にしかけたのがダークネスであれば、防いだのもまたダークネスだった。
「チャシマ」
「お、お客様……どうして」
『戦ウ、駄目』
紫王を狙った注射器の針を弾き散らしたイフリートの少女は炎の盾を手に持ったまま頭を振る。両者を恩人と認識するが故の行動だった。
●誤算の結果
「こんなことになるなんて……」
いけないナースからすれば最大の誤算は、灼滅者達にチャシマと面識のある者が、多すぎたことだろう。
「んー、ちょっとこれはなかったわ」
もっとも、真澄達側からしてみても、チャシマが自分達を庇うのは想定外だったに違いない、ただし。
(「状況は別だけどね」)
逆にこちらがしかけた場合チャシマがいけないナースを庇うであろうことは、想定していた者も居た。もっともこちらの説得を無視する形でいけないナース側についてと言う前提条件でのものではあったが。
「仕方ありませんね」
短いにらみ合いの後、最初に獲物を収めたのは、いけないナース。
「戦うのが駄目と仰るのであれば、戦いません。ですから、お客様、どうぞお引き取りを」
「なるほどな」
口止めすべく攻撃しようものならチャシマが庇い、何もしなければ灼滅者達が自分に都合の悪いことを吹き込む。
「なら、チャシマの要求を呑んでかわりに帰って貰おうってトコかしらね?」
反論しようにもいけないナースが一人に対して、灼滅者側は応援まで数に入れれば十五名。戦闘を停止してお客様であるチャシマにお帰り願うというのは、妥当な判断であると思われた。
「だからってナースの思惑に乗ってやるないわけだけど」
ちらりといけないナースの方を見た瑞穂はそのままチャシマへ向き直る。
「ま、強くなってるんだかどーだか知らないけど、ひとます仲間んトコ戻ってみるのがいいんじゃない? もうここは用済みでしょうし、クロキバ達にも無事な姿見せるのが先決じゃない?」
口にしたのは、一つの提案。
『みぃ』
「傷が癒えたならクロキバの元へお帰りよ。お前の支えが必要なんだ」
『クロキバ……』
唸るように一鳴きし考え込んだチャシマは、真澄へ促されると慕う相手の名を反芻してからいけないナースの方を振り返り。
『……解ッタ』
少し黙してから答えた。
「お客様!」
『チャシマ残ル、戦イニナル。チャシマ、去ル、戦イナイ……ソレニ、サッキ帰レ言ッタ』
「っ」
チャシマからすると恩人双方の要求に沿ったつもりなのだろう。
『みぃ』
灼滅者達に視線を戻すと、イフリートの少女は別れの挨拶のつもりか、一鳴きし。
「チャシマさん。あなたの力は、あなたが本当に守りたいもののために、ある。……園観ちゃんは、そう、思うのです」
「それと、余計なお世話かもしれないけど……くれぐれも人から与えられた力に支配されないで欲しいな……」
「溢れた力の事を含めクロキバ殿や仲間とどうするか話をして欲しい」
『に』
その背に声をかけた遥香とシスティナ、そして瑞樹の言葉に足を止めた。
『アリガト』
唐突に発したのは礼の言葉。
『チャシマ、モウ負ケナイ』
続いて決意の言葉を残し。
「クロキバさんに……よろしく」
「あー、そうそう、アタシのダンナにヨロシク!」
「うずめには気をつけて欲しい。それと、話くらいはいつでも聞ける、そう伝えてくれると嬉しいな」
再び歩き出した背に、かけられる声が三つ。
「あのっ、私達の学園、もうすぐ学園祭があるんです……もし、よかったら、クロキバさん達と……遊びに――」
「……ええと、チャシマ……またね?」
いや、五つか。
『みぃっ』
どれかに対しての返事なのか、応じるように鳴き声を上げたイフリートの少女は立ち去り。
「チャシマ……また会う時は、静かに会いたいよ」
「そうだな」
まだ揺れるのれん越しに外へ視線をやりつつ、呟く忍魔の横で目を瞑り祈っていた紫王は頷いた。
●残されたのは
「お待ちどう様~。そんじゃま、あとはアンタをブチ殺すだけね。覚悟して貰うわよ~」
瑞穂の手にした殲術道具の銃口がいけないナースへ向けられた。
「いけないナース……お前をチャシマとこれ以上会わすわけにはいかない!」
「まぁ、それはいけませんね」
結局戦いになってしまうことは、察していたのか忍魔の言葉にも口ぶりとは裏腹にダークネスの表情には困った様子はない。
「君自身の意図はわからない。だけれど、彼らの矜持をボクらは君達から守って見せる」
「ご立派だと思」
ただ、利恵の言葉に応じ続きを口にすること出来なかった。
「それが、軍艦島での彼らの戦いに何もできなかったボクらの、せめてもの報いだ」
言葉と共に交通標識が振り下ろされたのだから。
「くっ」
注射器を盾にすることでかろうじて防ぐも、いけないナースの注意は正面へ注がれ。
「よそ見は厳禁ですよ」
「え? きゃああっ」
「見せてやるぜ、アタシの真っ赤な炎をさ!」
声に気づいた時には、もう遅かった。WOKシールドを叩き付けられ、バランスを崩したところへ真澄が炎を宿した七支刀・白銀【シロガネ】を手に肉迫し。
「手加減しないからね」
「く、うあっ」
真澄からの一撃へ何とか反応しようとした脇を肌が触れそうな程の距離からDear Snow Ver.12.14の刃で斬られ、そのままシスティナの蹴りに足をすくわれる。
「好機到来、かな」
この時、紫王は既にいけないナースの死角に回り込んでいて。
「かはっ」
急所を斬られ血の花を咲かせたダークネスの身体を魔法の光線が貫いた。
「う、くっ……」
綿密な連係攻撃とそれに加えて支援に駆けつけた灼滅者の存在。
「お前達の後ろにいるのは誰だ? 話す気無いだろうが、一応いっておく」
早くも一方的な流れになりつつある中で、忍魔は問い。
「やあっ」
「っ」
答えの代わりに繰り出された注射器の針と【鋸引鬼】斬魔の刀身がぶつかり、右と左に弾かれたそれらは、再度相手を狙う。
「くっ」
再び咲く紅の花、ただ。
「と、待ってな、最近出番の多いヒーラーマスミン、女子力MAXで行くぜ!」
ただ一人のダークネスと灼滅者の間にはフォローしてくれる仲間の有無という明確な差があり、傾きつつある状況へ拍車をかける。
「あ」
増えて行く傷とおぼつかなくなる足下。巨大な注射器を杖代わりに立つ体躯を貫いたのは、支えにした注射器ではなく、システィナの手にするそれ。
「このっ」
「おっと」
引き抜かれる際に、一矢報いようと一撃を繰り出すが、当たっていたとしても、道連れを増やせたかどうかは怪しい。
「医者は壊すのではなく、治すのがお仕事、ってね~。ナースごときなんぞにゃ負けてられないわよ~」
「っ、ここまで……ですか。けれど、まぁ、お客様にはお帰り願えましたし……」
瑞穂を一瞥し、顔を歪めたいけないナースが最後に見たのは、白光を放つ瑞樹と迫り来る刃。
「終わったな」
崩れ落ち、消え始めたダークネスの骸を一度だけ省みてから、瑞樹は視線をチャシマの去った方へ向け。
「お疲れ様……大丈夫?」
抱いたガンナイフへ告げたシスティナは顔を上げると周囲を見回して、問う。
「とりあえず、大丈夫そうだね。けど、もふもふしたかったな」
仲間の無事を確認してからポツリと漏らしたのは、触れること叶わず去った少女への未練か。
「チャシマさん。またお会いできますかねー」
ああやっぱりと応援の灼滅者の一人が漏らす中、その時はと続けた遥香は頭を振る。
「……うん、その時になってみないと、わからないのです」
「そうだね。ただ、悪い結末にならぬと信じよう、今は」
頷き、倣うように紫王の向けた視線の先を夕日は染める。チャシマの炎に似たオレンジへと。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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