修学旅行2015~蒼を綴込めて『黒潮の海』

    作者:一縷野望

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月23日から6月26日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     
    ● 
     蒼。
     爽やかな南国の空が抜けるように澄んだ上昇の蒼だとしたら、海の蒼は不可思議でいて安寧をもたらすのではなかろうか。
     柔らかな水という生命最初のゆりかごを、未だゆらりゆらりたゆたう海の彼らを間近で見られる『美ら海水族館 黒潮の海』

     海水というにはあたたかな蒼の中、まず目を惹くのは白い水玉模様の巨大なジンベイザメと、愛嬌ある顔したナンヨウマンタ。
     その元で着々と繰り広げられる黄の行進。尾びれ背びれの黄が艶やかなウメイロモドキの群れだ。
     幾何学模様のように整然とした沖縄県漁のグルクン、羽ばたくようなマダラトビエイと素早いマルコバンの群遊は、まるでそこだけ時間の流れが違うよう。

     贅沢な事に、10mの深さの中を悠然と気ままに泳ぐ彼らを室内で見上げるも、階段を昇り上から覗き込むもお気に召すまま。
     オーソドックスに横から見る他、
     アクリル天井の元じっくり観察『アクアルーム』で、ジンベイザメのつやつやのお腹が横切るのに目を見張る。
    『黒潮探検』で、普段は決して見られない足下を泳ぐ魚達にわくわくしたり、楽しみ方は盛りだくさん。
     時間をあわせれば、餌付けシーンを目にすることだって、できる。

     併設のカフェ「オーシャンブルー」で、憩いと沖縄ならではなフードをつつきながらゆるく愉しむのも、いい。
     オーソドックスな飲物の他に、
     マンゴーの独特の甘みを生かしたソーダ、スムージー、ミルク。
     花の赤そのままの鮮やかな水色と酸味のハイビスカスティ。
     アセロラ、シークワーサー等南国らしいものも取りそろえている。
     添えるのは、海のデコレーションで賑やかなマフィンがオススメ。チョコは真っ赤なヒトデクッキーを中心に愉しげに泳ぐお魚、プレーンはピンクの珊瑚礁に囲まれたクジラのクッキーが愛らしくて、思わず笑みがこぼれること請け合い。
     ピラフなどの軽食の他に、豚角煮の載ったどんぶりやピタパンサンドなど、お腹も満足!

     ひとりで何時間でも気ままに海に浸るのもいいし、気のおけない誰かと時に言葉を交わしながら回遊する魚達を追うのもまた愉し。
     心分け合った唯一の人や、心の海から出でたサーヴァントと共に『命』を眺めるのも格別かもしれない。
     
     海はゆりかご。
     生命の出発点。
     蒼に浸り、蒼に魅入られ、蒼に……そう、あなたの心の中の蒼と眼前に広がる蒼が、今目の前で混ざり合う。
     さあ『美ら海水族館 黒潮の海』へ。初めてでも何処か懐かしい海の蒼へ、おいで――。


    ■リプレイ

    ●蒼と融けあう
     燐光のように爽やか色の上層と、清幽の如き揺らぎの無い下層と、切れ目無く繋がる『黒潮の海』
     身の丈を遥かに超える計り知れぬ水の中、彼らは鳥のようにしなやかに泳ぐ――。

     羨望に染みるような懐かしさは生命の揺籠故か。
     璃乃の面に安堵憶える煌介の表情は硬いが気遣いは伝わる。
     此処は昔思い出さぬか心配で――でも彼らは何処吹く風と心ゆくまでこの海を遊ぶ。
     飼育人の愛情は勿論、海と彼らの心は……大きい。
     マンタの尾を追い同じ想い囀る璃乃は、見惚れる横顔の袖を引く。
    「鯨さんの洋菓子、食べてみたいんよ」
    「勿論……喜んで」
     手をのべて、いつかこの目元君に向け和らぎますように。
     海を綴込める硝子の透明感に魅入られて。
     鮮やか帯を振るよな仕草に南国感じる茜は、不意打ちのジンベイザメに瞬き。
    「口大きい~、マンタはどこかしら?」
     探し歩き堪能したら足はアクアルームへ向く。
     烏兎の匣の面々の中、先陣を切ったのは創だ。
    「あーワクワク止まんねー!」
     テレビで見た沖縄の海が目の前に! 興奮が隠せない。
    「海は自然の食糧庫」
     空木の屈託なさに葎は胡乱げ。
    「おめだぢ、あんまりハシャギすぎるなよ」
     マップ広げる焔も内心広大な水の館にドキドキ。
    「紗雪ちゃんはアタシと手を繋ぎマショウ!」
    「はい」
     はにかむ紗雪は空木と指つなぎ。
    「……何、リツ。羨ましいの?」
    「羨ましい? アホか」
     さっさと行けと振る葎の手が華奢な指に包まれた。
    「葎さんも、一緒に」
    「……ああ」
     自分を挟み繋がる二人が嬉しい、
     紗雪の手を引く空木のかしましさ、
     嗚呼……二つは、なつかしい。葎と紗雪に同時に浮かぶ、懐旧。
    「――」
     全てを塗りつぶすような蒼に皆しばし息を呑む。
    「大きいねぇ、すごいねぇ!」
    「……今度は、自分が水の中にいるみたいです」
     創の瞳の煌めきに紗雪は海の蒼を見出して。
    「……でけぇな」
    「でけぇ」
     葎に続く創の隣あんぐり口開く空木を閉じてやり、
    「俺もこんな風に泳いでみたいもんだ」
     焔は自然と笑む創の口元に心躍る不可思議につられ笑む。
     ――今日の大切な匣は、海の色。
    「ねぇ太治くん、マグロが小さく見えるよ」
     ジンベイザメの大きさに瞳を瞬かせる安寿に陽己は硬く頷く。
     ひらり泳ぐように器用に言葉が出てこない。
     だから、指を。
     融かすように握り返す安寿。
    「……水槽の中にいる魚を全種類探してみようか」
     少しでも長くそばにの言い訳だけど。
    「それってすごく大変そうだけど、面白そう」
     無邪気な彼女に、気取られなかったかとゆるり笑んだ。
     ――硝子籠を覗くミストラルは自分が見えてないと失望露わ。
    「ごめんなさい」
     上辺だけの彼女へ赦しで試す、此処に堕ちろと。
     急な優しさ、眼下の人気者に彼重ね不安から逃れた。
    「その他大勢小魚でも……幸せ、ですよ」
     傍らならば。
    「僕は大層な人間じゃない」
     せいぜいが頬白鮫。
    「……モニカ以外にも、噛み付くんですか」
     醜き嫉妬嬉しや。
     笑みの彩が変わったのに瞳を瞬かせ。
     さて、見透かし彷徨う水の瞳――どちらがどちら?

    ●南国を頬張って
     水の世界に絶妙に混じる深海色の造形は、本土ではお目にかかれない珍しいメニューも並ぶカフェテリア。
     テーブルの傍には細長いスクリーンの如く伸びる硝子、彼らの遊覧をどうか心ゆくまで――。

     水槽傍の席に幼なじみ四人が腰掛けると、鮮やかな魚達と目が合った。
    「わぁ、あんなに魚がいる」
     破顔の都璃ははたと我に返り着席。
    「……あれは食べられるやつだね。美味しそう」
     おかーさん系男子柊慈の台詞に、織兎はぷっと吹きだす。
    「柊慈っちはすぐ料理の話題になるから」
     集まる魚にはしゃぐ彼らを前に、
    「挨拶みたいだな」
     都璃の真正面に腰掛ける慶。
    「魚に見惚れてる都璃をじっと見るチャンスだろ」
     真顔で言われ赤面。
    「まに~は相変わらずだな~っ。お、すごいうまそ~」
     豚角煮どんぶり前に織兎は手を合わせいただきます!
    「マフィンはシェアしましょうか」
    「……何これかわいい。ああ、食べる前に!」
     携帯電話でカシャリ☆ クジラのマフィンをおさめ都璃はほくほく。そんな彼女を前に慶は大満足。
     入れ替わり特等席に着くのは三人娘、マフィンより間近の水槽に視線釘付けだ。
    「あっエイだ! つぶらな目が可愛いー!」
    「魅勒、エイのアレは鼻のあ……」
     まぁツッコミは後で、亮の隣スマホを掲げる千波耶は真顔でカシャリ。
    「ねえ、マンタとか来たら一緒に撮りっこしない?」
    「いいですね」
    「……あ、マンタが来た!」
     魅勒の指の向こう、ふわふわと滑空の如く横切るマンタさん。かわりばんごでツーショット☆
     マンゴーとハイビスカスで乾杯、見せ合いっこの送りっこ。創作意欲をそそられて、ヴォーカルとピアノのサンプリング依頼。
    「エイサーみたいな感じにしてみる?」
    「いいですね。元気がでそうです」
     一昨年と変らずジンベイザメもマンタも迫力満点! 案内道中夢中のセイナに莉央の心も弾む。
     休憩とお揃いピタサンド頬張り興奮の感想会。
    「ってあら、さっきのジンベエザメじゃない?」
    「ああ、そうだな。間近で見たから憶えてる」
     食べるの忘れて釘付け、そんな互いに吹きだしてみたり。
    「莉央くんも楽しそうでなにより」
    「案内ありがとう」
     お礼にご馳走、後ろのテーブルも峻も同じく仁奈へ奢りを申し出る。
     さて、やってきたマフィンのクッキーが可愛すぎる件。
    「鯨のデコレーションクッキー食べるか?」
    「食べるの勿体無い」
     タコス頬張る仁奈は矯めつ眇めつ。海の中で美味しい物いっぱいなんて贅沢。
    「あ、泳いでる大きいのなんだろ」
    「スマホで撮っといて後で一緒に調べるか」
    「わぁ賛成! じゃぁあれも……っ」
     海の中ふわり……魚のように自由に揺蕩うのが好きと、二人微笑み分かち。
     ずらり。
     黒部兄妹の前に並ぶ南国メニュー。瑞葵は咲耶のお財布の心配、でも自分は出さない。
    「なの~♪」
     その大半はもここのお腹に消えるのですが。
    「もここのお陰で、色々楽しめるね♪」
    「ね♪ あ、桜樹にたまには私も……」
     お行儀良く尻尾はたはた。お腹一杯になったらまったり水槽眺め。
     沖縄、夏休みに家族で来たいと兄が言えば妹がにっこり。帰ったらおねだりしよう。きっと母はいいよと言ってくれるはず。
    「ここが本命」
     マンゴーソーダにスイーツ一杯頼む雪姫前に、雪隠れ邸の面々もメニューを覗き込む。
    「どうしよう」
    「他の沖縄らしいメニューも気になります」
    「マフィン頼んじゃおうかな」
    「た、食べちゃう?」
     ハイビスカスティとシークワーサー・アセロラジュース前に薙乃と火夜、日生。
    「追加注文するなら付き合う……」
     既に雪姫のマフィンは無くお皿にはクッキーのみ。
    「何が印象的でしたか?」
     蒼に囲まれた空間で火夜が問えば、
    「イルカが可愛かったな」
    「うん。あとナンヨウマンタに癒されたなぁ」
     薙乃と日生は口々に。
    「お魚はクジラかな」
     クジラクッキーをちょんとつつけば、お仲間のマフィンも届いたぞ。
     南国の味に舌鼓、花より団子? いえいえ、蒼に魅入られ海の彼らに思いを馳せて――話は留まる事なし、です。
    「考えてみたら、僕一人では辛いです」
     海デコつつきディートリヒは嘆息。セレティアの常識レベルを計りに来た、が、
    「凄い、凄いです!」
     ぱたぱたと手を振り大興奮の葉月も世間知らずときたもんだ。
    「ウン、後半はボクも気を付けてみるカラサ?」
     ラフテーもぐもぐ味わうレオはのほほん。
    「グルクンの大軍はすごかったですねー」
    「うん。グルクン……まとまってうごくのね」
     銀色きらきら想い描きセレティア。
    「グルクンって本土の方で言うアジみたいなモンなんだって~」
    「食用、まぁ情報は大切ですが」
     少し、せつない。
     尻尾ぶんぶんの琴寧を膝に抱え葉月はマフィンに舌鼓。
    「もう一回まわりたいです!」
    「うん。ジンベエザメ、みれる、かしら?」
     あさひにお土産話沢山、セレティアは胸弾ませる。
     ふわり。
     エイが水翔る傍でハイビスカスティを啜る二人の名はエルディフラワー、味をじっくり研究。
     葵と菫飾るマフィンをとスミレが頬緩めれば葵も瞳眇め頷いた。
    「あーん」
     不意打ちに眼鏡越しの瞳きょとん。おすまし葵の「美味しいですよ」に頬が染まる。
    「んっ♪ ふふ、ではお返しに……あーん」
     口の中のマフィンに負けぬ甘い一時、大切な貴女と共に。

    ●水満ちる天蓋
     見上げれば海がある。
     海と空を逆さまにしたような不思議な空間アクアルーム。水の底にいるようで、空気の殻に護られている安らぎの、場所――。

     はじめての、水族館/二人きりのおでかけ。
    「こういう風になっているのですね」
     シオネは壮大な作りの『海』を見上げた。
    「……綺麗……です……」
     アクリルの先、ふわり白のお腹見せ去るマンタに瞳丸める蒼は、結ぶ指に力が。
    「……一緒に、此処に、来れて……ありがとう、ございます」
     握り返しシオネは紅眇め笑む。
    「蒼」
     はぐれぬよう二人泳ごう、蒼の中、並ぶ魚のように。
     視界の端に常に鏡を置いて時雨は甘えるように身を寄せる。二人だけのロマンチックな空間で交わされる会話は、
    「どれも油が乗ってておいしそうだぁ。ぁ、あの鯨とか……」
    「……食うなよ?」
     日常の欠片。
     華奢な唇に飴玉落とし気が紛れるだろと嘯き再び瞳は水槽へ。
    「ねえ、鏡。今度は二人だけで旅行とか……」
     だめ、かい?
     見上げれば唇に降る熱、それが答え。
     ――天井行き交う彼らにしばし心が奪われて。
    「マグロにカツオ、アジにカンパチ……」
    「彰は物知りだなー!」
     えへんと胸逸らす彰へ彰二は感嘆。その上を水玉巨大なジンベイがゆうらり。
    「でけー」
    「はい、大きいですね……」
     両手広げても抱えきれぬ大きさに溢れる溜息。
     そろそろ?
     まだ。
     裾引く彰の囁きに彰二は破顔、お土産屋さんでぬいぐるみふかふか買って行こう。
    (「……こいつ、こんな顔すんのか……」)
     クッキーのヒトデ浸食が止まった、うっとり天蓋見上げる宵に士土の瞳が捕まったのだ。
     不意に上横切るジンベイで視界を下ろした宵は士土ともろ目が合った。
     ――!
     焦る士土に宵は仕切り直すように、
    「士土さんは、他に見たいお魚とかいますかぁ?」
    「え!? は、あ、く、クラゲとかいんじゃね!?」
     いいですよねぇと普通に返されますます焦る。
    「お腹大きくて白いなぁー」
     同じジンベイを見上げるマコトは、はたと半開きの口を押さえた。
    「頭の上を魚が泳いでいくなんて、こんなのはじめてだよ」
     マコトさんと破顔するマシューに気付かれず胸撫で下ろし、波立つ水のよに煌めく瞳に喜びを。
    「うわぁ。あれはなんていう生き物かな?」
    「あれは……なんだろう?」
     二人同じ速度で歩く。一緒に来て良かった、それも同じ気持ち。
     深淵のブルーに融けてしまいそう……朔眞は百花へと振り返った。
    「すごいたくさんのお魚さんです!」
    「ふふっ、相変わらずココは凄いわよねー……」
     二度目でも色褪せない感動は朔眞の笑顔もあるからか。
     仲違いせず海を構成する彼らに感動すら憶え、ふと、遥か後ろになってしまった百花へ戻り手を引く。
    「ほらほらももちゃん……迷子になっちゃうよ?」
     似た気持ちで勇介の腕を掴んだのは曜灯だ。二回目だから案内は任せてと言っておいて!
     吹きだした健は「ほら」と天井泳ぐジンベイザメのお腹を指さした。
    「想像より迫力あるっ!」
    「つるっとしてるわ、お腹」
     男の子らしくはしゃぐ勇介とクールに観察の曜灯の瞳を、二匹目のジンベイザメが横切る。
    「あれはオスだな」
     腹の下に二本の棒線、それがオスの印だとの健の博識に神妙に頷く二人。
    「コバンザメもくっ付いてたりしてないか?」
    「どれだろ……」
     目をこらす前でマンタがゆるり宙返り!
    「すごいわね」
    「カッコいいね!」
     ……母なる海からお土産沢山。LEAVESに戻って解こう、海に似合う紅茶を添えて。
     一方、背中合わせで海無し県のヒーロー達が天井見上げあんぐり。
    「流石、ここの規模は圧巻ね」
     友人の無垢さを見守るアガーテ。
    「キラキラして、星空見上げてるみたいだな」
     陽坐の視線の先のジンベイザメに良信が瞳を細め、命は圧倒される。
    「共存できててなんだか平和だ」
     未知のガイアパワーが心地よいとは、さすがご当地ヒーロー。
    「あっ、マンタ! かわいい!」
     はしゃぐ二人に緊張ほぐれ、ふわり髪をたなびかせてもう一度天井を仰ぐ。するとジンベイザメが白く穏やかな影を、くれた。
    「生まれて初めての、不思議な感覚ですー……!」
     ……例えば魚のサーヴァント、と良信が切り出せば、
    「空を飛ぶやつならつれて帰りたい、かな……?」
    「えーっと、どっちがマンタでエイなんですかっ?!」
     命の問いにわいわい高まる声。
     アガーテはふと瞼を下ろす。
     もし、
     もし一人なら孤独から生まれる安心に身を浸していたのだろう。
     でも今は三人の笑顔が、嬉しい――まるで海から生まれたばかりの感情のよう。
    「うぉおお! 水槽でっか!」
    「供助見て見てーっ! ジンベイザメ!」
     朱那と才葉のはしゃぎっぷりは、空部面々の予想通り。
    「ジンベイザメって、愛嬌ある姿してるよなー」
    「確かに」
     頷き合う供助とアシュ。熱が籠もる声に珍しいと幸太郎は瞳を眇めた。
    「国内旅行なのに異国に来た気分だ」
     見慣れぬ魚達も相まって、そんな幸太郎はふと思考の海に戯れる。
     ――生まれ変わるなら鳥、でも魚で海を揺蕩うのも悪くない。
    「マンタ! 一緒に泳いだら気持ちよさそう!」
    「本当に顔みたいで可愛いなあ!」
     モモンガのようにひらり往くマンタへ朱那はぺたり。
    「笑っちまうんだよな、あの腹」
     指フレームに友を収める供助にアシュは胸を反らす。
    「この流れるようなフォルムが浪漫なんだよ!」
     ぬいぐるみ欲しいかも。
    「幸太郎はクラゲになりたいの?」
     聞かれたかと顔をあげれば、
    「何となく似てるよね!」
     朱那が指さす愛嬌マンタ。
    「それはさすがに……いや、似てるかも」
    「誰がマンタだよ?」
     弾ける笑い。
     恒例の写真と供助、蒼空色水槽の前ではいチーズ!
     五人を収めシャッター切った流希は、笑み零し再び天井のアクリルへと目を向ける。
    「それにしても、ジンベイザメ、大きいですねぇ……」
     大らかな動きに心解け。
     大学生になり慌ただしい毎日をリセットするような穏やかな時間は悪くない。
     蒼の世界をひらり舞う彼らと、様々な心の彩を編んだ僕ら――いつでも海はいってらっしゃいと、ゆらり手を振るように水揺らし、生きるモノ達を見守ってくれるのだ。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月24日
    難度:簡単
    参加:60人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 3
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