修学旅行2015~沖縄最凶の肝試し

    作者:るう

    ●レッツ、修学旅行!
     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月23日から6月26日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

    ●武蔵坂学園、教室
    「……楽しい思い出? 果たして君たちは本当にそれで済むのかな?」
     白鷺・鴉(高校生七不思議使い・dn0227)は口元をにやり。

     沖縄県、某所。何の変轍もない道の一角に、そのカーブはある。
     通称、『スリーエス』。その名の由来となった、赤く『SSS』と書かれたガードレールは既に存在しないが、そこから先が『ユタ(琉球の霊能者)の修行場』と呼ばれた森だ。
     近付くだけで霊障に見舞われ、命を落としたユタもいると言われるそこは、沖縄最凶のパワースポットとも噂される。

    「……というわけで修学旅行二日目の夜、俺は君たちを『スリーエス』に案内しよう……まあ、ありていに言ってしまえば『肝試し』だ」
     スリーエス入口に集まった肝試しの参加者は、幾つかのグループに分かれる事となる。
     まずは最初のグループが、阿形のシーサーを持って森の中の小路を抜ける。すると吽形のシーサーの乗った石台があるので、自分のシーサーを置かれているシーサーを取り替える。そのまま吽形のシーサーを持ち帰れればミッション成功だ。
    「以降のグループは前のグループが持ち帰ったシーサーを持って行き、台にあるはずのシーサーを持って帰る。どうだ、簡単だろう?」
     ただし、と鴉は付け加えた。
    「ESPやサイキックを使用すると、最凶の霊たちを怒らせるかもしれん。よってそれらの使用は禁止とさせていただこう。人造灼滅者の皆も人型形態でいて欲しい……が、サーヴァントの同行はアリだ」
     それが真実か、単なる鴉のはったりかまでは判らない。けれども鴉の顔をよく見れば……霊はともかく必ず何かが起こる、と期待しているようだった。
     つまり、誰かが脅かし役に回るかもしれないって事だ。もしかしたら鴉自身も、何かを企てているのかもしれない。

     そんな事を訝しむ目も向けられているのに気付くと、鴉は飄々と肩を竦めた。
    「おっと、俺はわざと霊を呼んでやろうなんて事は考えてないぜ? だから、君たちにも安心して参加して貰いたいんだがね」
     でもそれは、「それ以外の事は何かやるつもりです」と言ってるようなもの。
    「まあ君たち。人生で限られた数しか楽しめない修学旅行を、この機に存分に楽しもうじゃないか」
     再びにやりと笑う鴉。どうやら自信がありそうなので、逆にこちらから彼の企みを暴いてやるのも面白そうだ。


    ■リプレイ

    ●夜の修行場にて
     何の変哲もなさそうな道。沖縄のどこでも見かける熱帯の森。
     なのに桃野・実を始めとした幾人かは、そこにただならぬ雰囲気を感じ取っていた。それもそのはず……ここがかの『スリーエス』の入口なのだから。今まさに、最凶の肝試しが始まらんとしているのだ。
     にもかかわらず、日本の風物詩なんだってね~、と笑うミカエラ・アプリコット、幽霊がい~っぱい集まる場所なんだって、と嬉しそうな久成・杏子の様子に、櫨川・茜は困惑を隠せない。
    「ところで肝試しって何ですか?」
     セトスフィア・アルトフォードは七識・蓮花から説明を受けた途端、凄みのある笑みを零した。武蔵坂に来てからは専らおどかし役だった十文字・天牙ですら、そうお目にかからなかった笑みを。
     その時唐突に、富芳・玄鴉の不思議語りが始まった。
    「皆々様方、お耳を拝借」
     紡がれる伝説、恐怖の噂。けれども語りは唐突に止まり、玄鴉は笑いながら森の奥へと去る……数秒後、彼の絶叫。今夜が初肝試しの守森・リアのどきどきは、否応なく高まっていた。
    「自分も初めてやわぁ。葉月ちゃん、ようさん頼むで」
     岸部・吟葉に期待され、貴夏・葉月の気合は十分。両手で二人と手を繋ぐ。

     その頃……部長の木元・明莉の姿がいつの間にか消えている事に、ミカエラ達は気付いただろうか?

    ●悪戯好きの友と
     如月・雀太の姿も、神代・みはるの前から消えていた。
    「置いてかないでよぉぉぉ!」
     みはるが心細さに呼んだその時……雀太の悲鳴!
     血相を変える。慌てて悲鳴の元に駆け寄ると、無事そうな雀太の後姿……の化物が振り向いた。今度は彼女の声にならぬ声。
     へたり込んだまま立てない彼女を、雀太は慌ててお面を取って抱き上げる。どうやらこの後は、お姫様抱っこで回らされそうだ。

     ビビんなよと茶化す燃日・萌火へ別に怖くないわよと返し、杜乃丘・ひよりは強気で歩き出す……のも束の間、彼女の指先は明日楽・逢魔の裾を求めていた。
    「そうね、お互い見失わないようにしないとね」
     そんな大義名分の逢魔の心遣い。伸ばされた手をひよりは掴み……けれども、道のりはまだ長い。
    「気が紛れるお話……ある?」
     求めに応じて逢魔は紡ぐ。明るい、向日葵畑の光景を。

     おかげで何事もなく戻って来た二人と入れ替わりに、今度は萌火たちが森へと入る。
     気合を入れたはずが先頭を譲る萌火を見、白石・翌檜は訳知り顔で東屋・紫王と目配せし合った。
    「ユタの修行場か……ここ確実に何かいるな」
    「ここで霊に足を掴まれたら二度と帰って来られないんだって」
     しきりに明日の話題を喋る萌火など耳に入らぬかのように、後ろを振り返らず談笑し……ふと、手の中の灯りが消える。
    「○×△☆!?」
     突如足元に触れる蛇。慌てて飛びついた相手は……骸骨!?
     玩具と人体模型相手の絶叫をひとしきり隠し撮りした後、ようやく二人は彼に謝るのだった。

    「今夜は先に叫んだ方が負……」
     仔犬のように吠える樹宮・鈴を置いて、一・葉は歩き出す。鈴が幾ら強がろうとも、葉を盾にしてるようじゃ世話がねぇ。
    「あっ待って、ここ何か憑いてくる奴でしょ」
     知・ら・ね・え。こうなったら……。
    「鈴……それ、髪の毛か?」
    「ぎゃあああ!?」
     それから鈴は完全沈黙。安心して葉が歩き出した直後……その背中に、鈴のビンタが襲いかかった。

     ディス・アンモラルがレスト・フィメフェスを先導したのは最初だけのこと。今や彼女はこっそりと、レストの後ろに下がっていた。
    (「ふふふ、驚かしてあげよう……」)
     と、飛びかかろうとしたその時……目の前には急にレストの顔が!
    「ふひゃあああっ!?」
    「まったく……世話の焼ける事です」
     家族同然の相手の考える事など、レストはとっくにお見通しだ。

    ●道々の怪
     ところで森に響き始めた和太鼓の音に、参加者の皆は気付いただろうか?
     冷静に考えれば沖縄らしくない。けれども肝試しとは、理屈以上に雰囲気なのだ。
    「同行者がこの二人であれば安心でござろう」
     そう思って四方祇・暁が比嘉・アレクセイを見……すぐに認識を訂正した。
    「なんです、この音は!?」
     頭では人間の仕業(正体を明かすなら識守・いりす)と思ってはいても、雰囲気がそれを信じる事を許さない。アレクを襲う不安感が、次第に暁にも手を伸ばす。
    (「おかげで俺の方は逆に落ち着けるなァ」)
     くすくす笑う高梨・透。さぁて、一体何が出てくるか。
    「うわあああ!?」
     地面から生えた手に足首を掴まれたアレクが、思わず暁に抱きつき首を絞める。もがいていた暁は……不意に首筋に冷たさを感じた直後、遂に意識を手放した。
    「びっくりしました? ……って、ちょっと効きすぎてしまいましたか」
     氷を詰めた魔法瓶を片手の上里・桃が暁の後ろで頭を掻くと、地面の迷彩布の下からはオルゴール・オペラが顔を出す。
    「かくれんぼ、成功ね……素敵な声で歌ってくれたの」
     二人が再び隠れる位置に戻った後、透は二人を正気に戻すとにやりと笑う。
    「ここらで一つ、怪談話でもしようじゃねェか」

     七蛇・虚空を驚かせられる者がいれば相当だ。本田・優太朗の場合もまた然り……ではあるのだが。
    「うわっ!」
     目の前に落ちるはずの人体模型が衝突。
    「あっ!?」
     マネキンの首を踏んで転倒。
    「に、兄さん大丈夫ですか……?」
     違う意味で悲鳴を上げ続ける彼に、さしもの虚空も驚いた。義妹のアイン・ティーゼリムに至っては、何か肝試しを誤解してしまった様子。
    「いろんな、罠、楽し、そうなの、です」
     何の躊躇いもなく……木の上から落ちてくる袋の下へとダイブ!
    「ダメですアイン……ああっと!」
     木の根に躓きそうになる虚空。彼にまで、義兄の不幸病が伝染ったのかもしれない。

    「雨打は頑張って下さい」
    「はいいっ、つみき様も!」
     生成・雨打とそんなやり取りを交わしてから、折紙・つみきは梢の間の星空を仰ぎ、夜の空気を胸一杯に吸い込んだ。森には優木・ギンの鼻歌が響き、シーサーと睨めっこしていたギンが不意に彼にシーサーを渡すのを、アンジュ・エールブランシェは不思議な気持ちで見守る。
    「お化け、信じてますか?」
     不意に尋ねたギンに首を振ってアンジュ。
    「信じてる……けれど、怖くはない」
     もちろん、急に仕掛けが落ちてくれば驚くけれど。
     ギンの案でつみきを盾にして、一行は再び歩き出す。
     大丈夫でした、か? 大丈夫。
     がんばれ。はい、がんばります。
     静かに、楽しい時間が過ぎてゆく。

     そんな三人からシーサーを受け取って、私たちも行こうかと篠目・雪灯。初めての肝試しは大好きな友と。
     懐中電灯の手とは反対側を、雪灯に差し出す美空・鈿灯。二人の後ろから不安げに、雨打がシーサーを抱いて追いかける。
    「ついてきてる?」
     鈿灯の問いへの答えの代わりに、大きな雨打の悲鳴が上がる。見れば……木の枝からぶら下がるお化けの姿!
    「わたくし、非科学的なものは信じていませんの」
     鈿灯が仕掛けの裏に目を遣ると、作戦成功への喜びと怖がらせてしまった申し訳なさが綯い交ぜになった燻野・燻の姿があった。クラブの皆とおどかしに来たのだという彼女と挨拶を交わすと、雪灯は再び鈿灯の手を握……らずに、弱虫な自分にしょげ返る雨打を間に入れてやる。
     ゴールまで、あと少し。

     ツェザリ・モーリェの背中を流れる冷や汗。けれども彼は逃げられない。
    「勇者は先頭だから懐中電灯な! シーサーは怖い顔同士、琉生が持つか?」
    「頑張れよ、勇者ツェザリ。このシーサーは怖がられて傷ついたから、七星を助けられるのは勇者だけだ」
     虹古・七星と眞咲・琉生に持ち上げられ、意を決して歩き出したのも束の間……風に乗り聞こえる狼の遠吠え。思わず身を強張らせた直後、目の前を横切る何者かの姿!
    「ヒャーーーっ!?」
     勇者が息を吹き返すのは、琉生が握り飯を差し出した時。
    「ほら、これでも食って元気出せ」
     復活した彼を、幽霊に負けるなと七星が頭を撫でた。
    「今度から、おどかし役を逆に驚かせてやるのはどうだ?」
     もっとも飛び出した張本人、山上・尊は、冗談じゃないと震えるばかり。だって彼女、クラブの皆のおどかす仕掛けが怖くて逃げてきたんだもの。

    「そんなに楽しみならシーサー持っててよ」
     懐中電灯を離さない楪・颯夏の様子を観察し、普段と違うなと感想を抱く陽瀬・瑛多。まったく好き好んで、と文句を垂れる榛原・一哉の様子もどこか変だ。これが旅行の効果だろうか?
     その時鳴り響く三線の音。激しく、物悲しく響く演奏が、聞く者の焦燥感を掻き立てる。
    「ねえ……足首掴まれた人もいるけどいっちーは怖くないのかなー?」
     絡むのを装って一哉の服を掴む颯夏へと、なんで僕が怖がらなくちゃいけないんだと一哉が怒る。絡み返した体で密かに密着感に安堵する、意地っ張りな一哉に気が付いて、瑛多は少し離れてから二人を呼んだ。
    「二人とも、そんな事してると置いてくよー」

    「ねえ……怖いものないんだよね?」
    「うん」
    「何で懐中電灯オレなの……」
     震える城・漣香に抗議され、朝山・千巻は平然と言ってのけた。
    「だって、光源あるとと虫が来るでしょ」
    「オレだってやだよー!」
     結局ビハインドに持たす事で解決した漣香だったが……彼はまだ、千巻の虫嫌いを甘く見ていたと言うほかない。

    「ひゃあああ……!」
     漣香を置いて帰ってきた千巻から蛾が出たと聞いて、八重樫・貫は隣の東谷・円に声をかけた。
    「俺は山育ちだから幽霊も虫も平気だが、東谷はどうだ?」
    「俺もだ。んなモンよか人間の方が何倍も怖いしな」
     二人とも、怖いのはおどかし役の人間の方なのだ。
     果たしておどかし役が現れた。目深なフードに手招きをして。
    「コッチへおいで……ボクと遊ぼうよ……」
     そっと帽子に手を当てる貫。ああ、怖いのは帽子を取られる事かと納得する円。もう片方の手で怯えるナノナノを抱く貫の前に出て、彼が立ち去るまでの時間を稼ぐ。
     二人の姿が消えた後、フードの秋本・響はほっと溜め息を吐いた。
     もう少し、沖縄風の方がよかっただろうか?

    ●忍び寄る恐怖
     狂舞・刑の顔は真っ青だ。影絵となって蠢く人影。悪霊? ゾンビ? どっちであろうと同じ事だ!
     ああ、影だけで済めばいいが……そんな刑の祈りは天には届かなかった。
     加えて目の前に飛び出す血塗れゾンビ。けれども刑は動じない。おや……と思ってゾンビ――月影・黒が彼の顔を覗き込むと……。
     白目を剥いた死体のような顔が、口から泡を吹いていた。

     三線の旋律はさらに激しく。倉敷・音愛――燻や尊、秋本・響、他にも何人ものおどかし役とクラブを同じくする一人だ――は一層の恐怖を演出する。
     空気が違う……そう実は戦慄する。賀正・紀明は頷いて、取り出したるは天狗面。
    「俺は山伏の端くれ……こんな時にはこうするに限る」
     お面をつけて目を閉じる彼を真似て目を瞑る。僅か薄目を開けて進む紀明に手を引かれて往けば、恐ろしいものなど見えはしない……のではあるが。
     霊犬のクロ助が吠え立てる。頭上から覆い被さるぶよぶよの塊!
    「何……これ……!?」
     もしもしっかりと目を開けていれば、足元のドライアイスの霧から七瀬・悠里のこんにゃく袋の罠を察せたかもしれないものを。
     想像以上の完全成功に、悠里は思わず顔をほころばせた。

     いそいそと出発の準備をする久篠・織兎は、年下の細氷・六華から見ても小動物のよう。けれども「大丈夫?」と問いかける彼は大きく腰を屈めていて、そんな時の彼は大きなお兄さんなのだ。
     一瞬で燃え上がる鬼火のようなものを見て、不安げに織兎の手を求める六華。頭をなでなでされてしまっては、『くーるびゅーてぃー』なんて望めない。もっとも織兎も急に輝いた閃光に驚いていて、その点ではおあいこだったかもしれないけれど。

     鬼火の種をバラしてしまえば、油に浸した紙に金属粉末をまぶし、炎色反応で色を生み出すというものだ。廻・巡の考えた仕組みは花火と同じ、高度な化学。その一方、悩んだ末に網代・めじなが思いついたおどかし方法は、至極単純明快だった。
     手には一斗缶、そして目の前には小さなカップル。どげなるかえ、とめじなは楽しげに笑む。

     普段は大人びたタシュラフェル・メーベルナッハも、十六女・千尋が差し出した手にしがみつく時は歳相応だ。
     怖いのだ。それはもう……大きな金属音が鳴り響いた途端、千尋の顔を強く胸に抱きしめるほどに。
    (「く、苦しっ……!」)
     どこを触ろうがお構いなく脱出した千尋が見たものは、恐怖に気絶していたタシェ。そんな彼女を優しくお姫様抱っこして、彼は休める場所を探す。

     山田・菜々の体をぐっと引き寄せ清水・式は囁く。
    「夜は冷えるから近寄って」
    「エッチな事しちゃダメっすよ?」
    「まさか」
     菜々が嫌がる事などするものか。式はお化けより、彼女が転ぶ事の方が怖いくらいなのだから。
     そんな彼に、悪戯っぽく尋ねる菜々。
    「少し怖がったくらいの方がかわいいっすか?」
     二人の時間を邪魔するなんて、おどかし役にだってできやしない。

     木陰で片月・糸瀬が広げた肝試しグッズの数々に、マイア・リトヴィノヴァと抄禅寺・詠乃は揃って目を見張る。
    「好きなもんを選んでくれ」
     そう言われ、マイアが不思議そうに手に取ったのはこんにゃくだった。相手をひやっとさせるためにある、と詠乃が説明していると……近付いてくる標的の姿。
    「も、もう無理……!」
     扇・吉光が大きな体を縮こませて握るお札を見て、時鳥・ウェステリアは一瞬だけ両眉を上げた。
    「あらそれ……安産祈願ね?」
     言われて気付き、さらに小さくなる吉光……その目が急に鋭く変わる。
     身を呈し、ウェステリアを飛来する何かから庇う。そして冷たい感触に気絶。
    「……ないすこんとろーる」
    「じゃねえ! 何投げてんだあ!?」
     マイアが投げたこんにゃくの後を追って出てきた詠乃と糸瀬に、ウェステリアは初めて困惑した表情を見せた。
    「……何やってるのよ貴方たち」
     その問いに、少々考え込んでからマイア。
    「驚いた?」
    「俺が一番慄いたわ!」
     荒れる糸瀬の気持ちなど知らず、詠乃は暢気に、なら成功ですねと微笑んだ。

     ようやくリア達の番が回ってきた。けれども彼女の行く先には、神酒嶋・奈暗が潜んでいる。
    (「おどかされんのは趣味じゃねえからな」)
     彼の用意した様々な仕掛けにうずくまるリア。目がけて奈暗はこんにゃくを揺らし……。
    「うん、食感がナイス」
     こんにゃくが、葉月の歯の形に欠けた。頼もしいなぁと微笑むばかりの吟葉に、どうか葉月を止めてくれと懇願する奈暗。そんな彼の様子も吟葉には楽しくて。
     ひとしきり腹を満たした葉月に背負われて、リアはようやく落ち着きを取り戻した。ただ手を繋ぐだけよりも、背中の方が暖かい。両手の塞がった葉月から、シーサーは吟葉の手に渡る。

     並み居る『お化け』をあしらって、紅羽・流希は石台に辿り着く。
    「いやはや、丁度良い暑気払いです」
     そこで彼は、シーサーを後ろ向きに置くと……?

    「都市伝説は殴れる、よって怖くない!」
     サイキック使用禁止を忘れて豪語するアルカンシェル・デッドエンドは置いて、四季・彩華は石台のシーサーを見た。
     背中を向ける像。白鷺・鴉が何か企んでいる証拠だろうか……? さてどうしようとアルカを見ると、彼女は甘いわと叫んで裏側に回り……悲鳴を上げてシーサーを叩き割る!
     暴れるアルカを宥めつつ見ると、彩華が見たのは一枚の紙。紙には赤い文字で……。
    『見・た・な』

    「きゃー、こわーい!」
     わざとらしく各務・樹に抱きついた東海林・朱毘は、樹の様子がおかしい事にすぐ気付いた。
    「シーサーは持つから懐中電灯お願い……」
     青ざめた顔で、石台を見た瞬間駆け出そうとする彼女の気持ちは解らないでもない。けれども、最後の油断が命取りだ。
     もっとも仕掛けの紙は、先程回収されたばかりだった。何もないのに安堵して、樹は素早くシーサーを取り替えた。

    「ユズは明かり消すからヤダ! キツツキ君に渡して下さい!」
     篠森・彩香がそう主張するのなら、黒田・柚琉は懐中電灯を使わず彼女を驚かすだけだ。
    「うぅらぁめぇしぃやあああ!!」
    「恨まないで下さい!?」
    「白い服の女がいる……彩香さんシールド!」
    「えっ嘘!? って私を盾にするな!」
     そんなやり取りが楽しくて、キツツキこと小柳・深槻も何もない木陰を指差してみて……ふと明かりを消してしまう。
     彩香をからかうのもさる事ながら、何やらシーサーに近付く鴉の姿を見て取ったために。

    ●幽霊の正体見たり
     藍井・響と慈恩寺・矜持の絶叫が響く。二人が石台に近付くと、突然シーサーの首が取れたのだ。
    「乙女の悲鳴は高くつきましてよ……」
     壮絶な笑みの矜持。木陰で糸を操る人物はすぐ見つかる。
     響と互いに目配せし。
    「白鷺様、御機嫌よう。そちらの女性もお仲間でしたの?」
     はて何の事かと振り向いた鴉の前には……白目を向く女!
    「反撃せいこーう!」
     女――鬘を被った響は矜持とハイタッチし、呆然とする鴉の元を後にする。

     お化けなど、黛・藍花にとっては身近なもの。王華・道家と手を繋ぎ、ビハインドは彼のMT5に座らせて、三人と一機の道のりは続く。
    「きゃっ」
     急に木が一本だけがさがさ鳴れば、怖くはなくとも驚くばかり。道家のおどけた悲鳴を聞きながら木の周囲を確かめて……何もない、と振り返ったその時。
     邪悪な笑顔のピエロの姿! 道家じゃない、サイレン・エイティーンだ。
    「出たYOOO!」
     藍花に覆い被さって震える道家の姿に、どうやらサイレンはご満悦。そのままルナティックに踊りながら去ってゆく。
     折角の肝試し、大袈裟に驚くのが楽しむ秘訣なのSA☆

     星明りさえあれば十分と、月翅・朔耶は平然と進む。音が鳴ろうと、仕掛けが出ようと。
     彼女ほどではないものの、月舘・架乃も恐れはしない……突然出てくるもの以外!
    「うわあああ!?」
     けれど驚いたのは彼女だけ。枝から垂れ下がる人体模型を、神夜・明日等のリーンフォースはてしてしと叩いている。
     かくなる上は……闇の中で不意に光る刃。人体模型でダメならば、メスと注射器の血塗れた医者ならば……?
     さらに逆からは別の道化師! 返り血を浴びた白塗りの顔で、ナイフの刃をべろりと舐める!
     ……けれども。
    「ふ、ふん! 怖くないわよ!」
     少々怖気付きながらも完全警戒の明日等を見るに、正体はバレずに済んだものの、敵と勘違いされたかもしれない。
     辺りにトランプを撒き散らして倒れる道化師――神凪・陽和。全身を掻き毟って苦しむ医師は、弟の朔夜。後は、黎明寺・空凛が仕切りなおしてくれるはず……。
     静かに立っていたゴスロリ少女は、黒いフードから口元だけを覗かせた。籠から紫の林檎を差し出して……それが血塗れのナイフに変わる。
    「中々似合ってるね、空凛」
     朔耶には、少女の正体はバレバレだった。原因は、二人の霊犬が、普段と同じように遊び始めたせいだ。
     一気に和む空気にほっとして、架乃はシーサーの石台を探す。

     ぺこりと頭を下げた今井・紅葉が不安げに抱くテディさんの隣に、待鳥・謳琉はノクスを持たせてやった。
    「これで私含めて三人ですね」
     江島・彩夏を含めた即席グループは、謳琉の話を聞きながら進む。紅葉も、一度意を決すればずいずいと。
     夜空が青い。その中を横切る赤い染みのシーツ。
    「きゃあああ!」
     紅葉がテディさんをぺしぺしと叩きつけると、シーツは吊っていた竹竿から外れて地に落ちた。
     なあんだ、本物のお化けじゃないのか、との残念そうな謳琉の呟きで我に返る紅葉。こんなものでは怖がりませんよ……得意げな顔を作った彩夏の表情が、その時急に青ざめた。
    「み……!」
     腰を抜かした彩夏に期待して謳琉が見ると……それは彩夏が巨大ミミズと見間違えた、蛇の玩具に過ぎなかった。

    ●お化け達の災難
    「よっしゃ成功!」
    「やってみたかったんですよ、こういうの」
     蛇を回収してきた七瀬・遊と、竹竿の先をこんにゃくに付け替える橘・晃のお喋りを、志水・小鳥が制止した。どうやら次は知り合いのようだ。
     妙に楽しげなハンナ・ケルヴィリム。隣の糸木乃・仙の髪はやけに艶やかだ……おどかす相手に不足はないと、小鳥は首筋に吹き付けるための霧吹きを手に、霊犬の黒耀に待てを命じる。
    「それ、蒸し暑くない~?」
    「失敗したかも……でも、そろそろでしょ?」
     二人がお喋りに気を取られてる今こそ襲撃のチャンス。せーので三人と一匹はタイミングを合わせ……。
    「ってちょ!?」
     手の中の玩具を放り投げ、遊が叫ぶ。
    「仙の顔がねえ!」
    「えっ……ハンナ、首がないんだけど!?」
    「二人とも何を……えええ!?!?」
     小鳥と晃まで悲鳴を上げたのに満足して、濡れ髪にのっぺら坊お面の仙と、服の細工で首が落ちたように見せかけるマジックのハンナはハイタッチ。もっとも仙からしてみれば、一番驚いたのは何よりハンナの仕掛けだったのだけど。

     帰りたい。
     影門・開明は心底思った。漂う雰囲気は嫌いじゃないが、兎に角やる気が出てこない。
    「大丈夫です! 僕と糊で先輩たちを守ってあげますから!」
     一方の常儀・文具は、傍らの霊犬と共にやる気満々。彼をどうやって守ってあげよう……と不安げだった日輪・瑠璃も、ちゃっかり守られる側に回れば良さそうだ。
     じきに石台が見えてくる。油断は禁物と注意する文具……その時!
    「……ヂャアアアム!!!」
    「えっ、ダークネス!?」
     蝋燭つきの鉄輪を被った、壬生狼士の如き狗頭の男! 咄嗟に文具らの手を引き逃げ出した瑠璃の前方に……分厚い皮膚をぬらぬらとてからせる、2mほどのタコ魔人!
     タコはその触手を三人に伸ばす。開明が開眼! あまりのやる気なさゆえ肝試しという事を忘れ、思わずスレイヤーカードを解ほ「先輩、ストップ!」
     文具が止めねばどうなっていた事か。向きを変えて逃げ出した三人を触手が追う。そこへと狼士が突っ込んでドンガラガッシャーン!
     頭に乗せた霊犬のせいで前の見えない斎倉・かじりは、タコ着ぐるみの真心・流々を巻き込んで目を回した。

    「超常現象ドンと来い!」
     シャドーボクシング中の教祖様、ワルゼー・マシュヴァンテの耳元で、白石・明日香はこう囁く。
    「阿吽って、人生の始まりと終わりを意味してるらしいぞ?」
    「なぬ? ではアレは何だ!?」
     いかついシーサー着ぐるみのバニラ・ラビィは、近寄ろうとせず自分を指差す教祖様を見て、無表情のまま首を傾げた。シーサーの目が光ってて怖い。
     ……その時不意に、おどろおどろしいBGM。何だ、と思う暇もなく、ぎゃああと教祖様の悲鳴!
    「ニゲルナヨ……!」
     教祖様の肩を明日香が掴む。テレビの中から現れ教祖様の足首を捕らえた長髪の女に、あたかも生贄を捧げるかの如く!
     けれども、長髪の女――赤松・鶉の動きが……はたと止まった。目の前には無表情に見つめるバニラ。シーサーの目がちかちかと点滅し、不意に鶉を追い始めた。

     おどかすつもりが逆におどかされるとは災難ではあるが、暴力がない分まだ幸いな方かもしれない。
    (「怖がる彩澄さんをかっこよく助けて好感度アップ。完璧な作戦です!」)
     ……と皮算用したはいいものの、津島・陽太はすぐに失敗を悟った。
     なにせ宮村・彩澄は鈍感なのか何なのか、全然怖がる素振りなし。彼の思惑に気付いた様子もない。終いには、明らかに怪しいうずくまる少女に、何も警戒せずに声をかける始末。
     この時、国津・十六夜は成功を確信した。助けを求める女の子を装えば、必ず声をかけられる。そしたら……。
    「あ、ありがとうですの……」
     ゾンビお面を被った顔を、下から照らして露にする!
     反射的に出る拳。それを必死で止めた時が、陽太のドキドキの最高潮だった。

    「ぶちょう、どこー!?」
     杏子の呼び声がこだまする。
    「まさか……一人ずついなくなるパターン?」
     怯える茜。ミカエラも両手を合わせて冥福を祈る。
    「……なぁんてね♪ きっとおどかし役に回ったんだよ」
     その通りであった。
     明莉は内心高笑い。顔を蝋燭で照らし、茜の肩に手を置いた。
    「ひゃあああっ!?」
     茜の悲鳴が天高く響く。思わず杏子のねこさんが飛び掛かり、ミカエラが便乗でぽかぽか叩く!
     何やら言い訳している明莉を、茜は冷めた目で見遣っていた。

    「お化けは殺せないから怖い? 俺はその思考が一番怖いぜ……」
    「今回のお化けはおどかし役の人ですから、攻撃するのもいけませんよ」
     天牙と蓮花は嫌な予感しかしなかった。そしてそんな予感ほど、よく当たる。
     そんな時に限り、おどかし役だったはずの蒔村・ブレンダが皆の仕掛けに降参して逃げ出してきたのだった。俄然、セトスフィアの目の色が変わる。
    「私の前に飛び出てくるとはふふふふふ」
     ナイフは切らずに当てるだけ。とはいえ、ブレンダの恐怖の感情が堰を切るのは、最早避けるべくもない。

    ●怪奇の森
    「半分くらい都市伝説化してそうだよな」
    「実家の方の道もこんなだったから、不思議な気分だな」
    「おいやめろよ!」
     会話を妨げた迅瀬・郁に、時浦・零冶と二海堂・悠埜が訝しむ。
    「なんでそんなに怖がってるんだ?」
    「今までも倒してたろ」
    「だって未来予測ないじゃん……ひいぃ!」
     突如二人に飛びつく郁。彼の悲鳴が止んだ後耳を澄ませば、ずるべちゃぐしゃという音が響いている。
    「なんだ、誰かがスピーカーで流してるだけだろ」
    「迅瀬。お前に飛びつかれる方がよっぽど心臓に悪いぞ」
     残念だけれどその通り、と鈴音・凛はノートパソコンを弄った。
    (「けれど、本番はこの後だ」)
     凛の眼鏡にモニターの光が映ったその時……青黒い肌に血を滴らせたゾンビが唸りを上げる!
    「グオォォォ!」
     あれ、と白星・樹咲楽は内心首を傾げた。おかしい、一人しか効かないな。凛に秘かに目配せすると、今度はポップな音楽で踊りながら退場。
    「何だろうな、今の……」
    「あんなのにビビるのか?」
     呆れた様子の悠埜と零冶に、郁はふるふると首を振った。
    「今……一瞬別の気配が……」

     フローレンツィア・アステローペから借りたナノナノ用丑の刻参り衣装をもここに着せ、黒部・瑞葵はご機嫌な様子。
    「どんなお化けが出るか、楽しみなの~」
    「レイスみたいなのもいるのかしら?」
     何気ないレンの言葉に、ぶるぶるとエミーリア・ソイニンヴァーラ。そんな彼女にもここを預け、瑞葵はレンと森へ行く。
     任務を果たし、鬼火もお化けも楽しんで、さあてもここを迎えに行くだけ……そんな時、何かの吠え声と共に瞬く光!
    「ふぎゃっ!」
     不意打ちに驚いたレンを見て、深束・葵は満足そうに頷いた。我是丸のライトは録音に合わせ、効果的に明滅してくれる。

     そんな出来事を聞かされて、エミーリアは涙目でフィリア・スローターに縋る。
     こくり、とフィリアは頷いた。自分のバイク王に彼女を乗せて道を往く。怪しい物影はライトで照らし、小さな音などエンジンを吹かして掻き消してしまえ。
     すっかり安心したエミーリアを連れて、フィリアはお化けなど退治する。噂の光も怖くない。
     こりゃ降参。葵が天を仰いだ時……指示もなく我是丸のライトが点滅した。

    「何だか、でーとって感じでもないよね……」
     右隣の霧渡・ラルフの顔を見上げる上條・雅。そんな彼女に笑みを向け、ラルフは怪談を語り出す。
    「今、そのお話……?」
     繋いだ手を、ぎゅっ。その時ラルフは思い出したように。
    「ところで雅嬢。こんな森でワタクシ以外の手を握っていると……」
     血相を変えて駆け出す雅。何故なら彼女が手を握る感触があったのは……左手だったのだから。

    「さて、これで全員終わりかな?」
     肝試しの締めを宣言する鴉を、幾人かがねぎらった。その中で、柚琉は彩香を指差して。
    「鴉先生! もっとおどかしてもよかったよ!」
     すると鴉はこう答えた。
    「だろうな。俺としたことが、森にも入らず転寝してしまうとは」
     ざわ……と空気が変化する。だとしたら、森の中で見た鴉の正体は……?
     きっと、今のは彼流のジョークに違いない。けれど、万が一そうでなかったとしたら……ここで撮った写真には、一体何が写るのだろうか?

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月24日
    難度:簡単
    参加:122人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 18
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