修学旅行2015~沖縄の食材で、作って食べる夕食を

    作者:雪神あゆた

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月。
     今年の修学旅行は、6月23日から6月26日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅をする。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われる。
     行き先は沖縄。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載。
     さあ、君も、修学旅行で楽しい思い出を作ろう!
     
     修学旅行、一日目の夕食は――自分で作る!
     ご飯は旅館の人たちが炊いてくれる。
     だから君たちには旅館の厨房で、おかずを作ってほしい。
     メニューは、『ゴーヤチャンプルー』と『石垣島産の和牛のステーキ』だ。
     それを作って、食べる!
     
     まずゴーヤチャンプルーの説明から。
     ゴーヤを、まず包丁で縦に半分にする。
     中の種をスプーンでくりぬき、3センチくらいの厚さに切ろう。
     これを豚肉と一緒にフライパンで炒め、塩コショウで味付け。
     卵を入れて炒め合わせれば――完成!
     これが基本のゴーヤチャンプルー。
     アレンジもOK。
     例えば、本州の豆腐に比べ大豆のうまみが濃く歯ごたえのある島豆腐、この島豆腐を入れてもおいしい。
     苦いのが嫌ならゴーヤを入れず、島豆腐をたくさん入れた豆腐チャンプルーや、茹でたソーメンを入れたソーメンチャンプルー等々にしてもいい。
     次は『和牛ステーキ』の説明に入ろう。
     君たちに提供されるのは、石垣島産の和牛の肉だ。
     これをフライパンで焼いてステーキにしちゃおう。
     フライパンを持つ手に伝わる、ずっしりした重さ。脂の焼ける音と匂いが君の耳と鼻を刺激する。
     中が赤いレアから、しっかり焼いたウェルダンまで、焼き加減は君次第! 味付けは塩コショウやお好みのソースでどうぞ。
     チャンプルーもステーキもシンプルだから、料理が苦手な人にもお勧め。料理上手な人は、工夫やアレンジするのも面白いかもしれない。
     
     出来上がったら、旅館の食堂に行って皆で食べる!
     ゴーヤは鮮烈な苦味が魅力的だ。石垣島の和牛は、一年中青々と茂る草でそだてられたもの。その肉は柔らかく、たっぷりの脂のうまみが口の中にあふれ出る、溶ろける!
     それらの材料で作った、君たちの料理のお味は、いかがだろうか?
     
     
     生徒の一人が腕まくりをして見せる。
    「料理、頑張らないとな!」
     それに答え、別の生徒が、
    「私の技術の見せ所ね!」
     とうれしそうに笑う。
    「石垣産の和牛たべたい!」
    「沖縄だったらゴーヤでしょ!」
     と、目を輝かせる生徒たちも。
    「私の手料理、たべてくれる?」
     なんて大事な人に尋ねる生徒もいた。
     一人で懸命に作るもよし! 仲間とワイワイガヤガヤ盛り上がりながら作って食べるもよし!
     大切な修学旅行の夕食の一時。楽しく作って、楽しく食べて、おいしい思い出を作ろう!


    ■リプレイ


     旅館の厨房では、集まった生徒たちが、まな板やフライパンの前で、腕を振るっていた。
     敬厳は豆腐チャンプルーを作っている。出来上がり前に味見をと、島豆腐を小さく切り、摘まむ。舌の上で転がし、
    「本土のお豆腐より、ずっしりしてますね! 完成が楽しみです!」
     と頷いた。
     流希はチャンプルーに入れようと、ソーセージミートの缶を開けた。が、ふと手を止める。
     偶然隣あわせた夢乃の手元、そこにある物体を見て、目をぱちくり。
    「あの……その長細いのは一体……?」
    「これ? ウミヘビ。チャンプルーのアクセントになるかと思って」
     夢乃は、大きめの包丁で蛇の頭を切り裂いた。
     蛇を丁寧に切断していく夢乃。流希は料理に戻るまでの間、しばらく夢乃を見続けていた。
     唯とルフィアもチャンプルーを、協力しながら作っている。
     ルフィアは片手で割った卵を溶き、フライパンに流しいれた。
    「卵の殻が混じったが……カルシウムだから大丈夫だな? 後、味付けはコショウとめんつゆでいいよな?」
     ルフィアの提案に、唯がめんつゆの瓶を開け、
    「あ、いいね。めんつゆいっちゃえ!」
     どぼっとかけ、しゃもじで混ぜた。皿に盛り付け、海ぶどうを添え、完成! 出汁の香りが漂う中、唯とルフィアはハイタッチを交わす。

     【武蔵境中 2B】調理スペースでは、維津が顔を顰めていた。ゴーヤを味見したのだ。
    「……苦い」
     腹話術も忘れ、呟く維津。
     メイド姿の明人が維津に飲み物を差し出す。
    「沖縄のパイナップルのジュースです。お嬢様、お口直しにどうぞ」
     維津は明人のジュースを受け取り『ありがとう』と腹話術で感謝。
     隣では、リィザと有栖、クロシェットがそれぞれステーキを焼く。
     リィザは鼻を軽くならし、
    「お肉の焼けるいい匂い! いいお肉だから、ソース作りも頑張りませんとね。私、ソース用に、シークワーサーを買ってきたんです」
     有栖は肉をひっくり返しながら、
    「ボクのソースは玉葱と醤油を使うヨ。折角の和牛ステーキだし皆デ分け合っテ、いっぱい食べるヨー」
     と満面の笑顔。
     クロシェットが有栖に頷いた。
    「うん。いっぱいいーっぱい食べよう。あたしも少しでも肉付きをよく……っていっても胸を気にしてるわけじゃないから! 体作りだからね、勘違いしないでよ!」
     クロシェットの物言いにリィザと有栖が、くすり。
     仲間がやり取りしている間に、こころはチャンプルーを炒め終わった。皿に盛る。もうもうと湯気。こころは皿を掲げ、
    「できたの! 黒狼のごーやちゃんぷるー! 初めて作ったけど上手く出来てるでしょ? みんなのと一緒にたべよ?」
     他の五人が「ええ」「うん!」等と返事。楽しい食事が始まりそうだ。

     ヘキサ、透、瑛斗の三人のステーキもそろそろ焼きあがりそうだ。
     ヘキサが、
    「フンフーン♪ 炎使いのオレにゃ、焼き加減も自由自在♪ コンガリ焼き尽くしてやらぁー♪」
     鼻歌まじりに肉を焼き上げ皿にのせた。焼きゴーヤを添えて完成!
     透も肉と炒めた野菜を盛り付けようとしていたが――瑛斗の手元を見て、目を見開いた。
    「ちょっと待て瑛斗。お前ステーキに何する気だよ……?」
     瑛斗は肉に蝋燭を刺していたのだ。驚く透とヘキサの前で、瑛斗は火をともす。
    「Happy Birthday、姉さん。お誕生日おめでとうございました。どうぞ、火を吹き消してください」
     瑛斗が持つステーキ皿の上で、祝福の火が揺れる。

     【井2C】の璃羽も調理を終え、仲間に自分の料理を披露していた。
    「ゴーヤチャンプルーです。豚肉のかわりに和牛の細切り肉を使ったんです。豆腐も入ってて、おいしいですよ」
     が――誰も手を付けない。仲間を見つめる璃羽。じぃぃ。
     夜好は額に汗を浮かべ、
    「まっかっかで、牛肉もゴーヤも見えないね……。璃羽ちゃんは沖縄でもいつも通りだね♪ むしろ島唐辛子を手に入れて、絶好調?」
     そう、夜好の言葉通り、璃羽のチャンプルーは赤い。一皿に数キロの島唐辛子や豆板醤入り!
     花火も、璃羽と赤い料理から目を逸らし、棒読み口調で、
    「おいしそうだねー赤いしー。私は宗教上の理由で無理だから――頑張って、じょじょくん!」
     ぽん、丈介の肩を叩く。
    「えぇっ、俺が食うの?! いや、あの、ちょっとま……」
     うろたえる丈介を、皆が見る。お前が食べろと、念のこもった眼で。
     丈介は視線に抵抗できない。真っ赤なチャンプルーを一口、二口、三口……。
     バタアアアン! 丈介は椅子ごと倒れた。
     麗は丈介を助け起し、
    「頑張ったね、ジョジョ……手作りのアイスクリームを後であげる。それで舌を治してね」と慰める。
     丈介が落ち着く頃、佐奈子がテーブルに自作の料理を置く。豆腐チャンプルー、ミディアムレアのステーキ……派手ではないが、基本に忠実な料理。
    「別に作っておきましたの、よろしければ、こちらもどうぞ」
     燈は、
    「わ、ソーメンチャンプルーもある! 佐奈子ちゃん、燈もこれ、食べていい?」
     歓声を上げる。歓声をきっかけに、皆が食べ出した。
     妃那もチャンプルーの豆腐を口に運びつつ、
    「みんなでわいわい食べれば、それだけでおいしいですね」
     そして、
    「超辛は例外ですけどね」
     とつけたし、軽く笑う。

     【天神の月道】のテーブルで。
     百花は料理の一つを見、背を向けた。それは暗緑色の塊。朔眞によればゴーヤチャンプルーらしいが、信じらない。食べ物とすら思えない
     逃げようとする百花の肩を、朔眞が掴んだ。
    「朔眞が食べさせてあげますね! いっぱい作ったので、食べてほしいのです!」
    「私を捕まえるとはやるじゃない、朔ちゃん。……観念しましょうか」
     朔眞は百花に食べさせるためにスプーンで暗緑色の物体を掬い……、その時、征四郎が暗緑色の塊の前に立つ。
    「お待ちください、煌様。差し支えなければ、私が頂いてもよろしいでしょうか?」
     征士郎は箸をとり上品な仕草で、暗緑色の塊を口に入れた。
    「丁度良い塩加減ですね。おいしいですよ」
     穏やかにコメント。味は普通のチャンプルーらしい。
     悟は征四郎に、さんぴん焙じ茶を淹れた湯呑を渡す。
    「そんな美味い言うんやったら、征士郎に全部譲らななぁ。俺食べられへん。残念やぁ」
     と、大げさに嘆息。自分はあの暗緑色は食べない、と暗に主張。
     六口も朔眞たちを横目で見ていたが、そっとしておこうと、他の料理に目を移す。
    「皆、料理ができると聞いていたが……なるほど……」
     感心しているように聞こえる声。六口が見たのは、様々の料理。歩の和牛ハンバーグ、紅葉のパプリカや玉葱を使ったサラダ……。
     紅葉はぱちぱちと拍手。
    「どれもおいしそうっ♪ あ、私のサラダはレタスでお肉と一緒に食べてね!」
     鵺白も一緒になって手を鳴らす。
    「歩君のハンバーグもジューシーそう! ちなみに、わたしはデザートを作りましたー! わたしにも拍手拍手」
     鵺白はマンゴー、バナナ等の沖縄フルーツにアイスを添えたものを披露。
     光明が薄く笑う。
    「確かに見事だ。他の皆のもな。折角だ、料理の前で皆の写真を撮らないか?」
     歩たち仲間が光明に賛同し、料理の前に並ぶ。光明はカメラを構え――パシャリ。
     歩は椅子に座りなおし、仲間一人一人の顔を見る。手を合わせて、
    「じゃあ、少し食べちゃった人もいるっすけど、改めて作った人と食材、沖縄の地に感謝を込めて、いただきます!」
     仲間達が「いただきます」と声を揃えた。

     【LEAVES】の勇介、曜灯、健は、互いのチャンプルーやステーキを見比べている。
    「健くんのチャンプルーはごま油のいい香りがして、美味しそう! 曜灯のは出汁の香りがする。二人ともさっすが!」
     勇介が目を輝かせる。曜灯も、
    「ありがと。勇介のも最初は火の通りにむらがあったけど、火を通しなおしたら、美味しそうになったわ?」
     と勇介の努力を評価した。
     やがて、三人はさんぴん茶で乾杯する。
     健は乾杯が終わるや否や、ステーキにナイフを入れる。抵抗なくすっと切れる肉。
    「おお、柔らかい! あふれ出る肉汁とか、その匂いもたまんないよなー!」
     健は勇介と曜灯に幸せそうな笑顔を、向けた。

     【食う寝る遊ぶ。】の吾平は、ステーキに舌鼓を打っていた。
    「うんっうんっ、すっごく美味しいよ! 肉厚なのにジューシーで、塩がまろやかで…って大丈夫?」
     吾平は食べるのを止め、心配そうな顔になる。玉乃の手に包丁傷があるのに気付いたのだ。
     システィナは玉乃の指に応急手当を施し、絆創膏をまいた。目を閉じ
    「痛いの飛んでけ~」と祈る。
     ちからは玉乃の傷が大したことがないと確認してから、
    「怪我するくらい、頑張って料理したご褒美に――これをあげますよー。苦いの嫌いなたまのっちのために、ウチが考えたのです! はい、あーん」
     とパンを玉乃の口に近づける。それは二つに切ったメロンパンでゴーヤチャンプルーを挟んだもの。
     玉乃は、ちから作メロンパンゴーヤバーガーを一口。ごくんと飲み込んでから
    「うむ。苦味と甘みが絶妙に……合うかこんなもん! なんじゃこりゃー!」
     と絶叫!
     夏奈は、
    「じゃあじゃあ、苦いゴーヤを食べるための秘密兵器の出番だね! ボクも苦いのは嫌いだけど、これで大丈夫なはず!」
     とマヨネーズをゴーヤの上にめいっぱい注ぐ。ゴーヤチャンプルーとマヨネーズの相性はいかに。五人の食卓はより賑やかになる。

     【スタジオ・プラスチック】の織絵は食べる手を止めた。食堂のあちこちから聞こえる賑やかな声に、目を細める。
    「こうしていると、なんだかほっとする。旅も悪くない……ってこら、蓮」
     呼ばれた蓮の頬は、膨らんでいた。自分が作った豆腐チャンプルーだけでなく、織絵の肉まで手を伸ばし口にしたのだ。
    「もぐもぐぱくぱく……お肉、おいしい」
     蓮を睨む織絵。
     美咲はくすっと笑う。
    「喧嘩をしてはいけませんよ。織絵さんには、私が焼いたステーキバーガーを差し上げますから。あ、でも、お野菜も食べてくださいね」
    「ありがとう、ミサキー」「ステーキバーガーも、食べたい」
     織絵が礼を言うと、蓮がねだる。やがて食べ出す二人を、美咲は暖かな目で見守る。

     木葉は食べていた。爆食していた。皿の料理が木葉の口へ消えていく。
     木葉をじぃぃと見ているのがヴェロニカ。
    「モーモー……ねぇ……おいしい? 木葉にぃにはよく食べるわね? どんな胃袋をしているか、見てもいい?」
    「人を牛みたいに言わないでよ。それに、お腹に誰もいないから、見ても楽しくないよ……!」
     慌てて首を振り、腹を両手で庇う木葉。彼をヴェロニカはさらにじぃぃっと見る。木葉もヴェロニカを見つめ返し、そして、どちらからともなく、くすっと笑う。
     
     朝恵は近くにいた蘭花からステーキを貰っていた。
    「料理人・蘭花のステーキの焼き加減は如何でしょう?」
     コックスーツの蘭花が問うと、朝恵はステーキをあむあむ。付け合わせの自家製漬物をぽりぽり。そして答えた。
    「お肉もお漬物も美味しいの! お礼に、ワタシのチャンプルーも食べてほしいの! バターを使ったの。香りだけでおなかの空く自信作なのよ!」
     満面の笑顔の朝恵に、蘭花も微笑。

     【元39】のメンバーもステーキを食べている。
     馨麗は椅子に座ったままながら、足をバタバタと動かした。
    「~~~~っ、至福っ! 至福の味ですねぃ!」
     右九兵衛はまだ食べていない。馨麗の様子に肩を竦めた。
    「お肉で喜ぶんは、子供の……」
     言いながら一口。途端、
    「ン! まァアアアイ! 口の中で肉が踊りよるー!」
     と絶叫。
     千巻も限界まで目を見開いて、
    「何これ!? 何これ!? おいっしいっ!」
     ひとしきり感動した後、
    「これで、良いスイーツがあったら最高だよね! そうだ、後でアイス買にいかない?」
     と提案。
     瑞穂は千巻の提案に頷いてから、仲間達全員の顔を見回す。眩しそうな目をし、口の中だけで呟く。
    「(みんなで作ってみんなで食べる。とても贅沢な時間だ。こういう時間は『人間』として生きる上で、大切なんだろうな、きっと)」

     周りの者たちの、元気な声と笑顔は、きっときっと最高の調味料。
     最高の調味料に彩られた、贅沢で幸せな時を、学園の生徒たちは、堪能していく、存分に存分に――。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月23日
    難度:簡単
    参加:50人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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