壬生狼の粛清

    作者:泰月

    ●逃亡者
     琵琶湖に程近い、小さな旅館の一室。
     浴衣に着替えた男が独り、畳の上に胡坐をかいてぼやいていた。
    「天海ってのもダメだな。負けてばかりで、もう付き合い切れねえぜ」
     男の素性は、脱いだシャツに入ったHKTのロゴが物語っていた。
     HKT六六六の、序列外の六六六人衆。とは言え、HKTの中でも末端。
     勝ち馬に乗って張り切って殺していつか序列に食い込もうと天海の軍に着いていったは良いが、そこでも末端。
     で、続く敗戦に嫌気が差して逃げ出して来たと言うわけだ。
    「やっぱ時代は城だな、城。何とか安土城怪人ってのに渡りをつけ」
    「その必要はない」
     男の独り言を、外からの声が遮った。
     かと思えば、重い音を立てて扉が外から倒れて来る。その向こうにいたのは――。
    「士道に背く裏切り者は、この場で粛清する」
    「げ、げげぇぇー!? お、お前は、天海のとこのスサノオ!?」
     浅葱の羽織姿の狼頭の剣士に、HKTの男の顔に驚愕が浮かぶ。
    「う、裏切りじゃねえよ。二重スパイって奴で――」
    「問答無用」
     男の下手な言い訳を、スサノオは刃で遮った。男の胸に赤い筋が浮かぶ。
    「く、くそっ。こうなったら、てめぇを殺ってその首を手土産にしてやらぁ!」
     諦めてナイフを手に飛び掛る男だが、技量の差は歴然。すぐに防戦一方になり、赤く染まった部屋の真ん中に倒れるまで、時間は余りかからなかった。
    「お、おい。あんた何やって――ぎゃっ!?」
     騒ぎに気づいて様子を見に来た他の宿泊客を、スサノオは一刀の元に切り伏せる。
     ものの数分で、旅館から人の気配が消えて血の匂いしかしなくなり――そして、スサノオに斬り殺された筈のHKTがゆらりと立ち上がる。
     その身体には、スサノオの発した畏れが纏わりついていた。

    ●追っ手の名は壬生狼
    「天海大僧正の勢力から、造反者が出るわ」
     集まった灼滅者達に、夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)はそう話を切り出した。
    「形成不利と見て、安土城怪人に寝返ろうと言う動きが末端に出だしているみたい。今回見つけたのは、HKTから陣営に加わっていた序列外の六六六人衆よ」
     羅刹以外だろうが下っ端だろうが、造反を許しては天海大僧正側の陣営は瓦解するかもしれない。
     そして、それを天海が黙って見過す筈がなかった。
    「追っ手に派遣されたのが、配下のスサノオ壬生狼組。新撰組そっくりの浅葱の羽織を着たスサノオの剣士ね」
     スサノオ壬生狼組は、ブレイズゲートにも存在する。そこで見たことのある灼滅者もいるだろう。
    「まあ結論を言うと、HKTの男はスサノオに斬られて配下に造り変えられるわ。ここまでだったらタダの内輪揉め。勝手にやってて、と言いたいとこだけど……」
     スサノオが斬るのは、裏切り者だけに留まらない。
    「HKTが泊まっている旅館にいる人まで、スサノオに斬り殺されてしまうわ」
     そんな凶行を止められるのは、灼滅者だけだ。
    「スサノオは、人狼と日本刀のサイキックを。HKTは殺人鬼と解体ナイフの一部のサイキックを使うわ。スサノオはかなり強いから、気をつけて」
     幸いと言うべきか、スサノオが一般人に刃を向けるのはHKTを斬ってから。
    「目撃者を残すなって指示があるのか、新撰組だし隊の法度とかあるのかは、判らないけれどね」
     理由はどうあれ、一般人の避難についてはあまり考えなくても良いだろう。
    「戦闘を仕掛けるのは、スサノオが踏み込んできた直後か、逃げ出そうとするダークネスを倒した直後の、どちらかよ」
     前者なら、逃げ出そうとするHKTはこれ幸いと逃走し戦場から撤退する。
     後者はその心配がない代わりに、スサノオの配下として戦闘に加わってしまう。
    「有利なのは、間違いなく前者の方よ。でもその場合、安土城怪人の勢力に加わってあちらの戦力増強に繋がると思われるわ」
     後者ならその心配はないが、その分、戦闘面のリスクが高まる。
    「どちらが良いとも言えないわ。だからそこは、皆で話し合って決めて」
     選ぶのは、灼滅者次第だ。
    「スサノオ壬生狼組も、天海も。一般人を巻き込もうとするなら、武蔵坂が気づいて動くって、まだ判ってないみたいね。判るまで、教えてあげましょ」
     そう言って、柊子は気をつけて行ってらっしゃい、と教室を後にした。


    参加者
    九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)
    犬神・夕(黑百合・d01568)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)
    柊・司(灰青の月・d12782)
    藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)
    近藤・勇士郎(誠一文字ミブロウガン・d23204)
    鍵山・このは(天涯孤独のフォクシーウルフ・d32426)

    ■リプレイ

    ●介入
     血の雨が降る、と言う言葉もあるが。
     まさにそんな雨が降ったかのような惨状の部屋の中、狼頭の獣人が放つ畏れが倒れた男に纏わり吐いていく。
    「さて。あとは手早く済ませるとす――っ!?」
     畏れを止めて、男から視線を外した獣人――スサノオの壬生狼が目にしたものは、すぐそこまで迫っていた天峰・結城(全方位戦術師・d02939)の姿だった。
     不意を突かれ驚く壬生狼の頬に、障壁を纏った結城の拳が叩き込まれる。
    「ぐっ」
     衝撃に後ずさる壬生狼の脇を、犬神・夕(黑百合・d01568)が駆け抜けた。
     立ち上がりかけていたHKTの男に身を低くして迫り、雷気を纏った拳を掬い上げるように叩き付ける。
     壬生狼に対しても、間を空けず九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)が続いていた。
    「打ち抜く! 止めてみろ!」
     雷気を纏った拳と壬生狼が構えた刀がぶつかる。だが、龍也は真紅の篭手が削れるのも構わずにそのまま振りきって、打ち抜いてみせた。
    「っ……灼滅者。武蔵坂の手の者か!」
    「言うまでもないでしょう。2人ともきっちり倒させていただきます、よ!」
     更に部屋に雪崩れ込んで来る灼滅者達に壬生狼が上げた声に返して、柊・司(灰青の月・d12782)は畳に槍を突いて、跳び上がる
     槍を支えに体をぐるりと回し、煌きと重力を纏った足でHKTを蹴り飛ばした。
    「一般人を巻き込めば私達が出張ってくるのは、重々承知している筈なんですけどね。よくもまあ懲りないもので……褒めてないです。ウザイです」
     壬生狼に毒のある言葉を吐きながら、藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)はオーラを纏わせた左右の拳を、連続で男に叩き込む。
    「内輪揉めならまだしも……一般の方を巻き込むのは見逃すことはできません。何の意味があるかは分かりませんが……絶対に防ぎましょう」
     控えめな物言い中に確かな意志を込めて、花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)は、敵の攻撃に備え光輪を手に身構える。
     代わりに「すん!」と鼻を鳴らした霊犬・まっちゃが、咥えた刃で男に斬りつけた。
    「うぅ……ひどい血の臭い……喧嘩するなら、よそでやってなの!」
     部屋の惨状と立ち込める血臭に眉をしかめ尾をぱたりと振って、鍵山・このは(天涯孤独のフォクシーウルフ・d32426)が青白い炎を放出する。
     耳と尻尾の毛色ゆえに狐のような印象を与えるこのはだが、秘めた力は壬生狼と同じ、スサノオのものだ。
    「某は一振りの剣、誠一文字・快傑ミブロウガン!」
     近藤・勇士郎(誠一文字ミブロウガン・d23204)は名乗りと共に、霊的な力を鎮める結界を壬生狼の周りに広げる。
    「汝の道に、恥は無いか」
     掲げた縛霊手を降ろし、代わりに刀の切っ先を突きつける勇士郎。
    「愚昧な主人の尻拭いを遣らされる、忠誠に生きれば、そのようなこともあるだろう。だが、そこに忠はあっても己を殺しては誠はない。正しいだけが正義では――」
    「黙れ」
     勇士郎の言葉を、唸るような壬生狼の低い声が遮った。
     直後、壬生狼の足元で畳が弾け、イグサの破片が飛び散る。
    「がっ!?」
     上段から振り下ろされた刀がミブロウガンの甲冑を砕き、大量の血が噴き出す。
    「説法に付き合う気はない。言いたい事があるなら、その刀で示せ。我も我が一刀、慈眼衆壬生狼組の技をもって答えよう――どちらが愚昧か」
     刀を引いて身構える壬生狼の声と視線に、怒りの色が浮かぶ。
    「某は……己の背に刻んだ誠の字に反した生き方はせぬで御座る」
     刀を支えに壬生狼を見返す勇士郎に、桃香が光輪を飛ばして傷を塞ぐように紡ぐ。
    「こいつぁ楽しみだ! どっちの剣が上か、真っ向勝負と行こうぜ!」
    「死にたい者から掛かって来い」
     高揚を抑えきれない龍也に返した壬生狼の声に応じるように、壁に叩きつけられたままだったHKTも動き出した。

    ●激剣
    「やれ」
    「お……おぉぉ!」
     壬生狼の短い指示で、HKTの全身からどす黒い殺気がにじみ出る。
     それにひるむ事なく、夕は正面から片腕を半獣化させながらHKTに飛び掛った。
     余計な事をのたまう暇があるなら、殺せ。少なくとも目の前の壬生狼はそう言う類の敵である事は、既に明らか。
     ならばこちらも同様に、殺意に身をやつし、敵を蹂躙する。
     金髪をなびかせ、突き立てた銀爪でHKTを引き裂く。だが敵は止まらず、大量の殺気が放たれた。
     そこに、壬生狼が力強く踏み込んで、腰の横に構えた刀を横薙ぎに振るう。
     描いた三日月の如き軌跡のそのままに、斬撃が鋭い衝撃に変わり、殺気に包まれていな司もまとめて灼滅者達に襲い掛かった。
    「だ、大丈夫……!?」
    「皆さん、まっちゃも……間に合って!」
     すぐにこのはが青白い炎を広げ、桃香はまっちゃを案じながら天魔の力を持つ光の陣を展開する。
     先手を取って壬生狼とHKTの距離を離すことに成功したが、癒し手の2人も含めて、誰もが2人の敵の間合いの中だ。
     この状況を打破する為に、灼滅者達はまずHKTを倒す事にしていた。
     龍が咽ぶような音を立てて回る朱塗りの槍がHKTを貫き、触れたロッドから流し込まれた魔力が体内で爆ぜる。
    「これが造り変えられる、と言う事ですか」
     何かに乗り移られたように動く姿を見て、司は教室で聞いた言葉を思い出す。
    「……大人しく死んでいればいいものを。ウザいです」
     恵理華が吐いた毒は、どちらへ向けたものか。
     畏れによって造りかえられたHKTは、3人では互角より少し有利なくらい。
     壬生狼を警戒した為に、攻撃に向ける人数をほぼ均等に割り振っていた事もあり、2分を回ってもHKTはまだ倒せていなかった。
    「……直刀か」
    「おう! 伊達や酔狂でこんな物を持ってる訳じゃねぇぞ」
     愛用の刀に興味を示した壬生狼に獰猛な笑みを返し、龍也は血のような紅輝に包まれた刀を力強く突きこんだ。
    (「さて。向こうの決着が着くまで私の体力が持てばいいのですが……」)
     胸中で呟く結城の片腕は、肩の骨を砕かれて、だらりと下がっていた。
     その痛みも内心も一切顔に出さず、静かに影を宿した槍を片手で振るい、横殴りに叩き付ける。
    「……世知辛いで御座る」
     呟いて、勇士郎が床を蹴り飛び掛る。
     敵は同じ壬生狼を名乗る者。そこに対する感傷をほんの一抹だが、彼は拭いきれずにいた。それでも心を鬼に片腕を獣に変えて、銀爪を突き立てる。
    「温いわ!」
     引き裂かれた壬生狼が、吠えると同時に刀を鞘に納める。
     一拍置いて、鞘から疾った刃が勇士郎を逆袈裟に斬り裂いた。ぐらりと倒れた体は、起き上がれない。
     壬生狼はビュンと刀を振って血を飛ばすと、すぐ前の2人に向き直る。
    「次はどちら……いや、全員纏めて斬り捨てるか」
     身構えたまま首だけ動かし、壬生狼が横に向けた視線の先で、司の手にした夕暮れ色の杖の先で揺れる鳥かごから放たれた雷光が、HKTを飲み込んだ。
     光が収まった時には、HKTに纏わりついていた畏れが消えていた。
    「次はそちらですよ。壬生の狼さん」
     淡々とジト目で告げる恵理華の掌から、魔力を持つ赤い霧が広がった。

    ●それぞれの道
    「ぬんっ!」
     壬生狼が振るった刃が、三日月の軌跡を描く。
     放った三日月の衝撃が灼滅者達を襲うのを見届けず、壬生狼は刀を振った勢いそのままにぐるんと半回転し、獣の腕を振り上げる。
    「それで隙を突いたつもりか!」
     結城の槍が壬生狼の足を掠め、狼の爪が容赦なく結城の体を引き裂く。
    「むっ!?」
     だが、仰向けに倒れた結城は口元に笑みを浮かべていた。それに壬生狼が気づいた時には、その背中を夕が銀爪を突き立てていて、思い切り引き裂く。
    「捨て身か……中々やりおる」
    「どんな相手だろうと、ただ斬って捨てるのみ!」
     すぐに向き直った壬生狼へ、龍也が上段に構えて振り下ろす。刀と刀がぶつかり火花を散らし、反りのない刃が壬生狼の肩を切り裂いた。
    「まっちゃも、手伝って!」
     桃香が天魔の力を持つ光の陣を展開し、霊犬は仲間を庇った夕に癒しの視線を向ける。
    「うぅ……血の臭いで、頭がくらくらしそうなの……」
     むせ返るような血臭に小さくかぶりを振って、このはも青白い炎を放つ。
     回復に傾けていた力をサイキックの精度へと変えることも考えていたが、2人と1匹でやっと回復の手が足りる状況だった。
    「さて。ご大層なことを言っておりますが、勿論、士道の意味は理解なさっているのですよね?」
     そこに、司が額の血を拭いながらゆっくりと距離を詰め、壬生狼に問いかける。
    「……」
    「その意味を解さないまま壬生狼を名乗るなんて、その羽織がただのコスプレだと誤解されても仕方がない。だから尋ねているのですけれど……。貴方はどうして一般の方にまで手をかけるのでしょうか?」
     槍の間合いで足を止め、無言を返す壬生狼に問いを重ねる。
    「それは私も気になりますね。局中法度でしたっけ? 裏切りの粛清はご自由に、なんですけども。無関係の一般人まで巻き込むのは、士道に反していませんか?」
     恵理華も手にした刀に炎を纏わせながら、毒を封じて問いを向けた。
    「これが天海の指示なのか、独断なのか。どうなのですか、壬生の狼さん?」
    「……」
     無言を返し続ける壬生狼に、恵理華は紫紺の瞳をジトりと向け続ける。
    「何とでも、好きに言え」
     根負けしたか、壬生狼が口を開いた。
    「敵である貴様らの理解を得ようとは思わん。どう思われようとも、我は我らが士道を往くのみだ!」
    「なら、その道、断たせていただきますよ。此方には此方の士道、人を護るっていう『道』がありますので」
     理由すら話さない壬生狼に不快そうに槍を旋回させながら、司が飛び掛る。
     手に馴染んだ鱗模様の柄が血塗れの掌の中で回し続け、龍の咽ぶ様な音を立てる朱塗りの槍を、壬生狼目掛けて突き込んだ。
    「……ま、ウザいので、最後まで邪魔させて頂きますよ」
     変わらずに毒を吐いて、恵理華が炎を纏った刀で一撃を叩き込む。
    「ぐっ……はぁっ……それで終いか!」
     2人の攻撃を耐えた壬生狼が、刀を再び鞘に納める。
     そこに夕が飛び掛ると、傷口の上から鋼のように鍛えた拳を叩き付ける。そのまま壬生狼の正面に立ち、意識を自身に引き付ける。
    「がぁぁっ!」
     苦悶の混じった咆哮と共に、壬生狼が抜き放った刀は夕を容赦なく斬り裂いた。
     それで夕も倒れるが、結果、回復を必要としない一時が生まれる。
    「まっちゃ、行って!」
     駆け出した霊犬が咥えた刃で壬生狼の足を斬り、まっちゃを追いかける形で桃香が放った意志持つ帯が壬生狼を撃ち抜いた。
    「今なの……おねがい……当たってぇ!」
    「ぐぅっ」
     半ば祈るようにこのはが放った矢は、彗星のように真っ直ぐに壬生狼を射抜く。
    「……フーッ、フーッ……ぐぅぁぁぁぁっ!」
     突き刺さった矢と帯を壬生狼は両手で纏めて掴んで、一気に引き抜いた。
    「当たったのに……まだ倒れないの……?」
     このはが思わず息を呑む。壬生狼の姿は浅葱の羽織もぼろぼろで、立っているのが不思議なくらいだ。
    「さぁ、最後の勝負と行こうぜ」
     そう言って、龍也が刀を鞘に納めて飛び出すのを見て、壬生狼は刀を頭上に構える。
     壬生狼の剣腕を考えれば、今の龍也の体力では一撃でもやられかねない。だが、分の悪い賭けは望むところ。浮かべた笑みは修羅のそれ。
    「牙壊!! 瞬即斬断!!」
     龍の爪の様に研ぎ澄まされた真っ直ぐな刃が鞘から放たれ、壬生狼が刃を振り下ろす。一瞬早く届いた刃が、獣の体を切り裂いた。
    「……見事」
     炎が燃え尽きるように、力尽きた壬生狼の体は緩々と消えていった。

    ●流血の後に
     夕が気づくと、先に目を覚ました結城が覗き込んでいた。
    「大丈夫ですか?」
    「……。私より、自分の心配をしたらどうですか」
     夕のそっけない物言いが照れ隠しと気づいて、結城は何も言わずに僅かに笑みを浮かべて、手を取り引き起こす。
     どちらも負傷の度合いは、
    (「……迷わずに逝け」)
     戦いに生きた侍に、勇士郎は黙祷を捧げる。
     忠節に生きるなら、主の命があらば、それが本意でなくとも、どんな血塗られた道でもいかなくてはならない。
     だが、己の体で味わった壬生狼の剣は、果たして本意ではなく忠節だけで動かされている者の剣だっただろうか。
    「大したものは残ってないですね……少しでも疑わしいものは、持ち帰ってみます」
     部屋を探していた桃香は、恐らくHKTの男の私物と思わしきものをいくつか見つけていた。壊れているものもあったが、何か見つかるかはこの後の行動次第だろう。
    「ひどい血まみれの部屋……きれいにしなくちゃ、なの」
    「粛清するにしても、もう少し綺麗にやって欲しいものですね。ウザいです」
     部屋の惨状を憂うこのはに頷いて、恵理華がまた毒を吐く。
    「と言っても……この状況、僕達で直せる気はしないですよ?」
    「あー。確かに、こりゃ俺も無理だ」
     お手上げと言った様子で告げる司に、1人暮らしで家事に慣れている龍也も頷いて同意を示す。
     壬生狼の粛清を待って介入した時点で、そこは諦めるべき問題だと言えよう。
     周囲の人々を守り、壬生狼を討ち、安土城怪人勢力への戦力追加も阻止できた。これ以上を望む
     灼滅者達は静かにその場を去るのだった。

    作者:泰月 重傷:犬神・夕(黑百合・d01568) 天峰・結城(月天・d02939) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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