●修学旅行ですよ!
武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
今年の修学旅行は、6月23日から6月26日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。
修学旅行の行き先は沖縄です。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
と言う感じの「修学旅行のしおり」が、6月某日、対象学年の学生達に配られた。
●穏やかな時間の流れる島へ
修学旅行3日目は、自由行動日。
沖縄本島を離れ、八重山諸島に足を伸ばす事も出来ます。
八重山諸島の1つ、石垣島から高速船で10分程の距離にあるのが、竹富島。
周囲約9kmと小さな島で、隆起珊瑚礁で出来ているので、山のないほぼ平坦な地形が広がっています。
島の中心にある集落の道は、一面の白。
珊瑚を砕いた白砂が敷き詰められています。
周囲には伝統的な赤瓦屋根の民家が並び、それらを囲む琉球石灰岩の塀を飾るのは、色鮮やかなハイビスカスとブーゲンビリア。
集落の中心にある『なごみの塔』に登って周囲を一望すれば、赤瓦屋根の上にシーサーが鎮座しているのも見えるでしょう。
そんな昔ながらの沖縄の原風景が残る島。
自分の足で歩いたり自転車を借りて回るのも良いですが、水牛車もお勧めです。
時速1~2kmの水牛車に揺られて、のんびりと観光する事が出来ます。牛の都合で止まってしまう事があるのはご愛嬌。
集落の外でお勧めなのが、島の南西にあるカイジ浜です。
別名、星砂の浜。
白い砂浜の中に、星型の砂が混ざっています。
砂浜に手を押し付けてみれば、掌に付いた砂の中に星型の欠片を見つける事が出来るでしょう。
(星の砂は持ち帰りOKですが、砂ごと掘って持ち帰りは禁止されています)
木陰が多い浜なので、透明度の高い海を眺めてのんびりと過ごすのも良いでしょう。
「皆もどうだ? 3日目、竹富島に行ってみるのは」
しおりの1ページを見て、3日目に竹富島行きを考えている学生達の中には、上泉・摩利矢(大学生神薙使い・dn0161)の姿があった。
「少し意外ね、摩利矢さんも竹富島に行きたいって」
同じく竹富島行きを決めた夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)が、軽く目を瞬かせる。
「私だってのんびりしたい時くらいあるよ。それに修学旅行も沖縄も初めてだから、実は結構楽しみでね。最初の2日を遠慮できる自信が、全くない」
だから3日目は少しのんびりしようと言う事か。
「あー……成程」
きっぱりと言い切った摩利矢に苦笑を返す柊子だが、今回が武蔵坂での初めての修学旅行なのは、彼女も同じ。その気持ちは、判らないでもない。
「折角の機会だ。皆で、楽しい修学旅行にしようじゃないか」
そう言うと、摩利矢はガイドブックを買いに行く、と言い残し教室を去って行った。
●離島でゆるりと
「……着ぐるみじゃない……だと……」
待ち合わせた直哉の服装に、レミが愕然としていた。
着ぐるみに対抗するつもりで制服と白衣を着てきたのに、今日の直哉はジーパンに黒猫柄Tシャツと至って普通の服装だ。
「ちょ、ちょっと待つっす!」
慌てて何処かへ消えたレミは、数分後、白のワンピ姿で格好で戻ってきた。
「お、大きい……」
「実物は凄いですね……」
水牛車乗り場で、樹とフィオナは生の水牛の迫力に驚き目を丸くしていた。
2人の視線を気にした風もなく、ガイドさんに名前を呼ばれた水牛は、車に近寄ると器用に頭を動かし角を入れて、自分で背負ってみせる。
逸る気持ちそのままに、フィオナは樹の手を引いて真っ先に牛車に乗り込んだ。
ガタゴト、ガタゴト。
一定のリズムで揺れながら、水牛車は集落を目指して進み出す。
「水牛さんって力持ちね!」
自分の体より大きい車に人を乗せて運ぶ力強さに、車の上から声が上がる。
「すげー、本当に牛が車引いてるし!」
「……」
観光中に行き合わせた人達も、興奮したり、無言で釘付けになってたりしていた。
「フィオナさん、見てください! ブーゲンビリアが塀いっぱいに咲いてます……!」
「わわわ!?」
そんな中、白い道と赤い屋根が続く町並みに目を奪われていたフィオナは、樹の声に慌てて紫の広がる光景に目を向ける。
「ほら、あのシーサー、さっきのとは違う顔! 皆違う顔してるんですねぇ」
三線の音とガイドさんの唄が終わった所で、樹が屋根の上にシーサーを見つける。
「え、あ。本当。樹さん、教えてくれてありがとうですよ~~」
また町並みに気を取られていたフィオナも、その声でシーサーに気づく事が出来た。
色々見つけられるのも、ゆっくり進む水牛車だからこそだ。
「お嬢さん、良く見てるねぇ……っと」
ガタンと少し大きく揺れて、水牛車が止まる。
「……ん? ……あれ?」
最後尾近くに座っていた実は、その振動で目を覚ました。
そして、自分がいつの間にか水牛車の揺れに誘われうたた寝していた事に気づく。
2年前のあの日と、同じように。
寝起きでぼうっとしたまま、隣の空席を眺める。
あの日、そして今見ていた夢の中で隣にいたあいつは、今はいない。
(「もう、会えないのかな……会いたいな」)
昔と変わらずに水牛車を吹き抜けた風が、知らぬ内に実の頬を伝った雫を乾かした。
「樹さん、樹さんっ」
水牛車を降りるなり、フィオナは樹に向き直る。
1人だったら見逃していたかもしれない光景は、幾つあっただろう。
「今日は本当にありがとうございます、ですよ~♪」
「はい、私の方からもありがとうございます!」
フィオナが見せた心からの笑顔に、樹も頬をほころばせ笑顔を返す。
とても楽しい時間を一緒に過ごす事が出来た。
さて、次はお土産を探しに行こうか。
「あ、貝のアクセかわいい」
(「……ですけど、んー」)
悩んだ末に結局買わずに小物屋を出た遥香は、そこに見覚えのある背中を見つけた。
「やれやれ。それではお二人とも、また機会があれば」
そう言い残し引っ張られていく少年を唖然と見送る2人の背中に、声をかける。
「上泉さんに夏月さん。こんにちは」
「やあ。遥香もこの島に来てたのか」
気づいた摩利矢が振り返る。
「『武蔵坂のトビウオ』こと園観ちゃんも、今日は羽を休めてのんびり観光です。同じクラブの後輩さんに、何かお土産探したいのですよねー」
2人合わせると『竹富コンビ』になる2人の後輩達は、どちらかと言うと小物の類より食べ物の方が喜びそうなタイプな気がするらしい。
そんな話を3人でしながら、土産物屋に入ってみる事にした。
「はっ! なんか辛そうなラー油が売ってます!」
「え!? それ、確か凄い辛いって……」
「よしっ、これにしましょう」
遥香が手に取った小瓶に柊子が驚いた声を上げるが、遥香は迷わずそれに決めた。
「お。あれがなごみの塔か」
高台の上にある石造りの小さな塔。そこに順番待ちの列が出来ているのを横目で見ながら、桂はペダルを踏み込んだ。
なごみの塔も海も気になるけど、まずは自転車で散策したい。お土産に良さそうな物も探さなくては。
海は夜、静かになってから星と一緒に見に行くのも良さそうだ。
「あの屋根のシーサー、めちゃカッコいい!」
「沖縄って感じがたっぷりで和むっすねぇ」
屋根の上に見つけたシーサーに、直哉とレミはそれぞれの感想を抱く。
互いの感動を共有し、並んで歩いていたが。
歩いている内に集落を抜けて、周りに草木しかない道を2人で歩く状況になった。
(「珍しい風景に好奇心が刺激されるな。頬が緩むのもきっとそのせいだ」)
(「いやー、普段と直哉さんの格好が違うだけで落ち着かないっすね。……うん、格好だけが原因のはず、はず……」)
互いに目を合わせられず、景色を見ながら歩き続ける。
やがて視線の先、ちょっとした木々のトンネルの向こうに白い砂浜が見えてきた。
「おー、やっぱり沖縄は海っ?!」
「レミっち行こう!」
言うが早いか、レミの手を取って駆け出す直哉。
「だ、だから、いきなりは危ないってば!」
引かれる腕に揺れる赤いバンダナを見ながら、麦藁帽子を押さえレミも駆けて行く。
「星の砂、どっちが先に見つけるか勝負だ!」
「争奪戦っすね? 受けて立つっす!」
●星砂の浜でゆるりと
揺蕩う波音が、静かな浜辺に響く。
「綺麗な海だな……沖縄の海は透明度が高いと言うが、本当の事なのだな」
みゆが、ほうと息を呑んで呟く。
沖に広がる海の色はまさにマリンブルー。だが足元を見下ろせば、波に揺られる砂の欠片がくっきり見える程の透明度。
「僕の故郷も海があったんですけれど、ここもまた随分趣が違いますねぇ」
「潮の香りが心地いいですね……」
司は故郷の海との違いに想いを馳せ、芽瑠は海風を感じながら、【ましろのはこ】の3人はのんびりと波打ち際を歩いていく。
別の波打ち際では、沖に広がるまさにマリンブルーの海に見入っている者もいる。
「やっぱり沖縄の海は色が違うね」
「うん。綺麗ね、えあんさん」
南国の景色に感嘆の呟きを漏らすの隣で、手を繋いだまま百花も笑顔で頷く。
エアンはその手を離さず、足元の水に手を入れると、百花にパシャリとかけた。
カイジ浜の周りには防風林も兼ねた木々が多く、波打ち際から離れると木陰には事欠かない。
ラフな服装の一刀は【静真撃剣会】の仲間より一足早く自転車でカイジ浜を訪れ、木陰に腰を落ち着けてくつろいでいた。
頭上の枝に腰掛けた白いワンピースに麦藁帽子姿のビハインドも、海を眺めるようにそちらを向いている。
「一刀君。そんな所にいないで、波打ち際に行こうよ。こんなに素敵な景色、眺めてるだけじゃ勿体ないって」
そこに、タンクトップにホットパンツと露出高めな格好の椎奈が、派手なアロハシャツを着た國鷹を引っ張って椎奈が現れ、一刀も波打ち際へ促した。
水牛車になごみの塔にと、満喫してきたキングと美玖も、カイジ浜の木陰で一休み。
「飲物まで有難う! うん、ひんやり美味しい」
「勿論アタシの奢りよッ」
冷たいジュースで喉を潤しながら、しばらく海を眺めていると、キングは不意に頬に冷たさを感じる。
「ふふ、びっくりした?」
横目で見ると、美玖が冷たい容器を手に微笑んでいる。
「もう元気そうね。じゃあ、浜で星の欠片を探してみない?」
もしゲットできたら、星の廻りが良くなって運勢も好転するかも、なんて。
「でもなんで星形になるのかしら?」
「そう言えば……?」
砂浜にしゃがみながらキングが漏らした呟きに、美玖も首を傾げた。
その答えは、離れた所で話題に上がっていたりする。
「知ってます? 星の砂って元は生き物なんですって」
「え? 砂じゃないの?」
掌の上で星の砂をより分けながら、リィザが口にした言葉に小笠が目を丸くする。
「昔、小説で読んだのですが、小さな生き物の殻らしいですの。他にも、大昔の化石もあるらしいですよ!」
そう。星の砂とは、有孔虫と言う原生生物の殻が残ったものだ。中には数万年前の、化石になっているものもあると言う。
だが、小笠は『頼もしいお姉ちゃん』の言葉を、随分と素直に受け取ったらしい。
「恐竜の化石が見るかるかもしれないんだっ! フタバスズキリュウとか、プレシオサウルスとか見つかるのかな!」
興奮する小笠の可愛らしい間違いを、リィザはくすくす笑うだけで訂正しなかった。
エアンと百花は、せーので、砂に押し当てていた手を上げる。
「4、5……6個あったよ、えあんさん」
「へえ、結構あるものだね。でも、掌の大きさの分だけ俺の方が多いかな」
掌の上に指の数より多く星砂を見つけて表情をほころばせる百花に、エアンはほら、と掌を開いて9つの星砂を見せる。
「えあんさんの手、大きいもんね」
笑顔で顔を見合わせ、相手の掌から1つずつ摘んで、小瓶へ入れていく。百花が見つけた綺麗な貝殻の上に、星が降る。
「そろそろお茶にしようか。もも」
今日の思い出を閉じ込めたら、エアンは恋人の手を引いて海から上がって木陰へ。
「ゆっくり流れる時間を二人で過ごせて嬉しいよ、もも」
「私もよ、えあんさん」
2人で波の音を聞きながらのティータイムは、きっと格別だ。
「そう言えば、海辺をこんな風に歩いたなんて始めてですね……何か、地獄のような潜水とかやらされた事はありましたけど」
「わたしは泳げないから、こういう楽しみ方で充分だ」
屈んで星の砂を探すみゆと、それを手伝う芽瑠。
「泳げないのは残念ですが、こういうのも何だか悪くないですよね……それっ!」
足首まで水に使った司が、2人へ向かって思い切り水面を蹴り上げる。
「お、中々綺麗な欠片が見つかっ」
バシャンと大きな水音を立てて、派手な水飛沫がみゆと芽瑠を濡らした。
「ふはははは、隙ありです……って、ぉぅ」
「柊ーーーーー! 許さんぞ貴様ー! ええい、報復だー!」
「……私に射撃攻撃を仕掛けるとは、司さん。やる気ですね。いいでしょう」
「待て。待つんだ」
勝ち誇るような笑顔だった司の表情が、2人の視線を浴びて一変する。
「待てと言われて待つ訳がないだろう! 覚悟しろー!」
「真のトリハピは素手でも撃てると言う事をお見せしましょう」
みゆの両手が水を跳ね上げ、芽瑠は祈るように両手を組んだ水鉄砲で飛ばしてくる。
それを避けようとした司の足が、海の中でするっと滑った。
「……罰があたったのじゃないか?」
芽瑠は表情を変えなかったが、みゆはそう言うなり大笑い。
「く……っ。こっから先は本気でやらせていただきますよ……!」
「ぬ? 本気って……ちょっ……待てっ!」
「……喰らいなさい、風呂場で毎日練習している水鉄砲を!」
コケてずぶ濡れになった司が両手で水をかけ始め、芽瑠がすかさず応戦。間に挟まれ面食らっていたみゆも、すぐに応戦を始める。
あっという間に、水も滴る良い男女が3人出来上がる。
遊んで、はしゃいで、笑いあえるひと時。それは、幸福以外の何ものでもない。
「結構見つかるね」
「いいじゃないか。思い出が多すぎると言う事はないだろう」
星の砂を探す椎奈と國鷹に、一刀は椎奈から預かったカメラを向ける。
(「ハードでなければ生きていけない、ジェントルでなければ生きていく気にもなれない……キキキっ……何を今さら……」)
いつの間にか、自分も薄く微笑んでしっかり自然を堪能している事に気づいて、一刀は照れ隠しに砂をすくって2人に浴びせかける。
「やったな!」
砂を返しながら、椎奈は胸中で歌うように呟いていた。
――なんて素晴らしい世界なんだろう。
(「こんな日が長く続くといいんだな。。。クククっ」)
砂を浴びながら、一刀はやはり薄い微笑み浮かべていた。
「ねぇ、ミゼリアさん。運命って信じる?」
星の砂を探しながら、美玖がふと呟いた。
無数の宇宙には、無数の星に無数の原子がある。
人の身体にも無数の原子がある。
「なのに確率的に、一人の体には必ず同じ星で生まれた原子があるの。人ってちっぽけだけど、そんな奇跡が必然だなんて凄く素敵よね。きっと、出会いも……」
「そうね。人と人の出会いというのも不思議よね」
美玖の言葉を、キングが少し低い声で引き継ぐ。
「浜の真砂ほどではないけれど、世界には人も沢山いる。その中で出会えたという事はそれこそ、『星の廻りあわせ』なのかもな」
キングの口調に、美玖が思わず顔を上げる。
「別れはいずれ訪れるけど、それまでは大切にしたいわね」
その時は、いつものキングに戻っていた。離島は電波も短いか。
「だからこれからも仲良くしてね。てことで! その証のシェイクハンド、しましょ」
いつどうなるかも分からない。そんな宿命だけれど。
「出会えて良かった。これからも仲良くしてね!」
美玖は微笑んで、差し出された大きな手を握った。
「見て見て小笠様! これおっきい!」
「見て見てっ! こんな綺麗な砂があったよ!」
リィザの掌には、一際大きく丸い星の砂が。
小笠の掌には、綺麗に5つの角が伸びてまさに星の形の砂が。
「では、これは小笠様に上げますね」
「えっ、リィザお姉ちゃん、その大きいの私にくれるの? じゃあ、お返しにこれあげるねっ」
顔を見合わせ、互いの星の砂を交換し、また笑顔で顔を見合わせる。
その様子は、まるで仲の良い姉妹のようだった。
「やあ、起きていたのか」
木陰で穏やかな寝息を立てていた刑が、目を覚まして海を眺めていると後ろから声がした。振り向くと、摩利矢が立っていた。
「この時間の海も、綺麗なもんだな」
「綺麗だなぁ……ああ、本当に綺麗だ……」
頷いて、刑は海に視線を戻す。
遠くの海面は傾きだした太陽の西日に照らされ、キラキラと輝いていた。
「こんな風に安らげる日が、いつか来てくれるといいなぁ……」
呟く刑の顔に、穏やかな表情が浮かぶ。
やがて、浜から人影がなくなっても。竹富島の海は、穏やかに揺蕩い続けていた。
作者:泰月 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月25日
難度:簡単
参加:20人
結果:成功!
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