繁華街の裏路地を地下に降りた先のライブ会場。そこは明日を夢見る若者とそれを支えるファン達の聖地。
「みんなーっ! 今日はライラのライブに来てくれてありがとーっ!」
「おおーっ!」
今日もアイドルの卵である少女が、十数名の観客を前にパフォーマンスを披露している。飾ってあるチラシを見るに、歌って踊って料理の美味しいアイドル……ということらしい。
「では、新曲を聞いてくれた皆に、ライラからプレゼントだよっ!」
その設定通り、ライラがファン達に手料理を振る舞うイベントを宣言した時、会場の扉が音を立てこじ開けられる。
「おおっ、遂に見つけましたぞ!」
現れたのは人身鴨頭でネギを背負う京都鴨鍋怪人で、鴨肉を手にライラへと迫る。
「おいコスプレ野郎! 食材の差し入れは良いけど順番は守れよな!」
「む。人間風情が小生の邪魔をするでない!」
背負うネギが一閃し、注意をしたファンの首が飛んだ……。
灼滅者達の前に置かれた土鍋では、ネギや鴨肉が美味しそうに煮えている。初夏の兆しが見える6月の中にあっても食欲をそそる光景だ。
「最近、ラブリンスター勢の淫魔がライブをしているのはご存知ですか?」
そう切り出し、西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)は具を小皿に取り分けながら話を進める。
「バベルの鎖で集客の望めない状況でしたが、勢力に組み込んだ七不思議使いに情報操作を手伝ってもらい、僅かながら集客に成功したようです」
成功といっても十数名と売れない地下アイドル程度の集客だし、集まるのが一般人だけというのであれば特に問題は無かった。
「ですが、この会場にご当地怪人が乱入する予知が見えたのです」
怪人がライブへ来た目的は不明だが、このままで揉めたファンを全て殺してしまう。
「そのため、怪人が会場入りする前に灼滅をお願いします」
会場のある裏路地に潜んでおき、怪人が現れたら襲い掛かる流れだ。人気はほとんど無く人払いは不要。夕方なので明かりも不要だが、ライブの邪魔にならないよう戦闘音は消した方がいいだろう。
「怪人の能力ですが、クラッシャーでこのような攻撃をしてきます」
資料によると、ネギで斬る、エノキを撃ち出す、白菜を叩き付ける攻撃方法を持ち、順にフィニッシュ、ホーミング、足止めの効果を持つとある。
「回復もキュアもありませんし、攻撃力にさえ注意すれば大した相手ではないでしょう」
戦闘後に余裕があれば、ライラに挨拶していくのも良いだろう。ライラは学園の灼滅者に助けられたことがあるため、友好的に出迎え手製の肉じゃがを振る舞ってくれる。
「また、選択肢としては先にライブの方を解散させる案もあります、皆さんが乱入者となりライブを中止に追い込むパターンですね」
但し、その場合は淫魔の方が黙ってはいない。恩義があるとはいえ、敵には容赦無いのがダークネスだ。一般人のファンは戦闘開始で勝手に逃げ出し、淫魔も邪魔をした灼滅者達を狙うので避難は容易だが、戦闘中に怪人がライブ会場に到着し乱入の可能性がある。
「淫魔の能力も高くは無いのですが、服破りやアンチヒール、壊アップ付き回復と怪人との相性が良く、メディックな点も考えると同時に戦うには手強いタッグとなります」
ダークネスは全て灼滅と言うこともできるが、成功条件はあくまでも鴨鍋怪人の灼滅だ。
「すいません。少し話が重くなってしまいましたね」
気付けば土鍋の具は空になっていた。
「ですが、私には選択肢を示すことしかできません。だからこそ選択肢を隠すこともしたくないのです」
語り終えたアベルは表情を和らげ、鍋の締めは蕎麦と雑炊のどちらかと尋ねるのだった。
参加者 | |
---|---|
私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405) |
愛良・向日葵(元気200%・d01061) |
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889) |
ルチア・イルミナ(神獣ノ背ヲ往クモノ・d21884) |
鷹嶺・征(炎の盾・d22564) |
吉武・治衛(陽光は秋霖に降り注ぐ・d27741) |
ジュリアン・レダ(ダウトな私です・d28156) |
鋼菊・待宵(自由と誇りとその他諸々・d34217) |
●ただ1人の観客
沈みゆく陽で空と同じ紅色に染まる路地裏の中、身を隠していた灼滅者達は待望の人影を確認すると、カードを起動させて飛び出し相手を取り囲む。
「な、何だ貴様達はっ……!」
「なに、一方的にキミに用があってね。さぁ始めよう……。穢れも、罪も共に……」
開戦を宣言すると、ジュリアン・レダ(ダウトな私です・d28156)は手にした交通標識を狼狽える鴨鍋怪人へと叩き付ける。
「君には、僕達のコンサートに付き合ってもらうよ」
「くっ……。小生には先の予定があるのでな。そこを通してもらうぞ!」
続く私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)に斬られながらも、鴨鍋怪人は強引に地下へ降りようと階段に迫る。
「悪いがこの先は通行止めだ」
「ライブの邪魔はさせないのだー!」
だが、ここを通すわけにはいかないとフィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)が槍を突き出し、愛良・向日葵(元気200%・d01061)も階段前に陣取ると、次に備え自身の回復力を強化する。
「この先に向かわれる理由はなんでしょうか。お料理アイドルに食材の差し入れですか?」
「小生の邪魔をしておいてモノを訪ねるか……。答えはこれだ!」
鷹嶺・征(炎の盾・d22564)に返ってきたのは、柄の先が白菜となったハンマーの一撃。鴨鍋怪人は続けて攻撃を試みるが、吉武・治衛(陽光は秋霖に降り注ぐ・d27741)の巨腕がそれに割り込んだ。
「これ以上やらせない!」
「何のこれしき!」
巨腕と翻されたハンマーが激突しせめぎ合うが、ここで治衛が声を上げる。
「来いっ、キャリバーっ!」
主人に応えたライドキャリバーの無銘の騎馬が、横から突っ込み鴨鍋怪人を吹き飛ばす。
「こんな光景やその恰好って、どっかで見たことある気がするよね……。お笑い番組とか」
「小生は芸人ではないわっ!」
瞳に力を集めながら放つ鋼菊・待宵(自由と誇りとその他諸々・d34217)の言葉に怒声を上げる鴨鍋怪人だが、その隙にルチア・イルミナ(神獣ノ背ヲ往クモノ・d21884)が強襲をかける。
「未だ、我、有り……なのだ」
「ぐうっ……! いいだろう。どうしても通さぬと言うならば、力ずくで通るのみ!」
攻撃は受けるも改めて構えを取る鴨鍋怪人。上手くこちらに引き付けられたようだ。
●切り方1つで味は変わる
攻撃力にさえ注意すればと言われるだけあり、鴨鍋怪人はガンガン押してくる戦法だ。
「そこな娘を潰せば、小生の攻撃には耐えられまい!」
「後ろへ通すわけにはいきませんよ。そちらこそ己の闇に喰われなさい」
向日葵へ向けエノキが撃ち出されるが、征がカバーに入ると反撃に影を操る。
「くぅぅぅ。小癪な!」
「いい感じだ。少しづつテンポを上げていこうか」
聖剣に影を宿すと、奏は指揮者のように軽やかな剣捌きで鴨鍋怪人を斬り付ける。
「それじゃあまずは具材を切ろうかな。そのままじゃ鍋に入らないもんね」
「つぅ……。雑な切り方をしてからに……。そんな包丁捌きは御免こうむる!」
続いた待宵に更に切り傷を増やされた鴨鍋怪人は、一旦距離を取ろうと後退りする。
「逃がすものか……。我が腕はこの二本に非ず。行けっ!」
「己が主張を流血を伴ってでも成そうとするのに、己が流血する覚悟はないのかい?」
だが、離れるならとフィナレやジュリアンがミドルレンジに帯を繰り出すと、狙い違わず鴨鍋怪人の体を貫いた。
「このっ……。鬱陶しい布切れが!」
「我、汝、動き、妨げる……なのだ」
迫る帯に翻弄される鴨鍋怪人を、ルチアの影が縛り上げる。
「おのれおのれおのれぇぇぇっ! 小生が一体何をしたというのだ!」
(「何をした、か……。何かをするのはこれからなんだよね……」)
素直にライブを見に来ただけならまだしも、そこで人死にを出すとあれば放置できない。事件を起こさなければ妨害されないのにと思いながらも、治衛は被害を出さぬため風の刃を撃ち出し、無銘の騎馬も射撃で主人を援護する。
「痛いの痛いの……飛んでけなのだー!」
鴨鍋怪人を削り取る一方で、灼滅者側は回復役に専念する向日葵が仲間達を癒していく。
「はぁ……、はぁ……。小生は……小生はまだ諦めぬぞ……!」
とは言いつつもかなり苦しげな鴨鍋怪人。やはり、回復無しでは厳しいのだろう。
●音楽も料理も美しく仕上げよう
ディフェンダーと回復専任メディックにより、鴨鍋怪人の持ち味を封じ込めた灼滅者達。こう言うと不味い料理を作ったように聞こえるが、これは戦いのため何も問題はない。
「そろそろ仕上げですね。守りは引き受けますので、皆さんは攻撃をお願いします!」
一気に決めようと号令をかけると、治衛と無銘の騎馬はカバーに備え自分を回復する。
「そうだね。そろそろ幕を閉じさせてもらおうかな」
「さぁさぁ援護するよー♪」
脚に炎を纏わせ駆けるジュリアンを、魔法弾を撃ち出す待宵が援護する。
「ここがクライマックスだね。最も強く……だ」
そして奏が追い打ちをかけるように漆黒の弾丸を浴びせかける。
「しょ、小生は料理をする側……。料理される側に立つなど、認めるわけにはいかぬ!」
叫び必死にネギを振るう鴨鍋怪人だったが、ディフェンダーの壁を破ることはできない。
「料理で言えば、既にあなたはまな板の上。おとなしくしていただきますよ」
「汝、変える、鴨肉、の、叩き……」
そして、返す刀と迫る征の影とルチアのロッドが鴨鍋怪人に吸い込まれる。
「認めるも何も、『鴨鍋』怪人ちゃんはもう料理された後なのだー♪」
また、渾身のネギブレードで負わせた傷も向日葵が即座に癒していく。
「万策尽きたか……。鴨鍋を広める使命は、まだ始まったばかりだというのに……!」
「続きはあの世でしてもらおう。これで最期だ」
フィナレは寄生体と融合させたダイダロスベルトを腕に巻き付けて大剣を作り上げると、うなだれる鴨鍋怪人へと勢いよく振り下ろす。
「ぐあっ……! か、鴨鍋とグローバルジャスティス様に、栄光あれぇぇぇぇぇぇっ!」
断末魔の叫びを上げ爆散する鴨鍋怪人。これでライブへの乱入は無くなったのだ。
武装を解き一息ついた灼滅者達だが、ここで帰還とはならなかった。
「よーし、それじゃあライラちゃんのライブにレッツゴーなのだー♪」
「さて、ライブで奏でられるリズムはどんなものだろうね?」
向日葵やジュリアンに続きライブハウスへの階段を下りる灼滅者達。ライラとの接触は、どのような結果となるのだろうか?
●突撃! 楽屋の晩御飯?
途中からとはなったが一通りライブを楽しんだ後、灼滅者達は学園関係者と明かし楽屋にお邪魔させてもらうこととなった。
「とっても素敵なライブでした。可愛くて、かっこ良かったです!」
「ふふ、ありがとね。皆のおかげでライブも盛り上がったし、集客も1.5倍だったよ♪」
灼滅者達8人が増えただけで集客1.5倍というのが涙を誘うが、これまでのほぼ0人と比べれば天地の差だ。笑顔でライブを褒める治衛に、ライラも上機嫌で笑顔を返す。
「参加者も一緒に盛り上げるのがエンターテインメントだから、これくらいはね」
流石にオタ芸をする気にはなれないジュリアンだが、観客として場が冷めるようなことをする気も無く、手拍子などで応えていた。
「こちらこそ素敵な歌声をありがとうございました。後、こちらは気に入っていただけるか分かりませんが……」
次に挨拶ともに征が取り出したのは可愛らしい花束。プレゼントと言えばな一品だ。
「ファンから花束って本当にあるんだ……。ヤバイ、嬉しすぎて泣きそう……」
ファンサービスとしての演技な可能性もあるが、ラブリンスター勢のアイドル淫魔だし、本当にそうだとしても不思議ではない。
「あれ? ツンデレではないですの?」
ライラの素直な様子に疑問を返すルチア。言葉が流暢なのは、会話の席ということもありハイパーリンガルを使用しているためだ。
「ああ、前に助けてもらった時のこと? あの後プロデューサーにお願いしてキャラ変えてもらったのよ。性格以外の設定を希望したらお料理だったってわけ」
イベント用に作った肉じゃがもまだあるから食べて行ってよと続けるライラ。少し楽屋を後にすると、鍋と食器を持って戻ってくる。
「あ、配膳くらいは手伝わせてください。……そういえば、僕達が来た時に無粋な闖入者がいましたので、撃退しておきましたよ」
「闖入者?」
「撃退することを灼滅と呼ぶ手合いです」
ライラから椀を受け取る傍ら、奏は他のダークネスが来ていたことを伝えてみる。
「それは助かったわ。ファンに万一のことがあったら大変だもの」
ホッと胸を撫で下ろすライラ。前述の通り苦労に苦労を重ねているだけあり、イベントが潰れたりファンが死んだりはできるだけ避けたいのだろう。
「可愛いくて料理もできるなんて憧れちゃうなー。七不思議使いの人から噂も良く聞くし、宣伝にチカラ入れてるよね」
「まあね~。彼らのおかげでファンが付くようになったし、具体的な方法は分からないけど手腕は確かよね」
肉じゃがを口に運びながら、一歩踏み込んだ情報がないか試す待宵だが、ライラが未知の情報を知っていることは無いようだ。
そして談笑やそれに織り交ぜ質問をする内に鍋も空となり、お開きの時間がやって来た。
「もうこんな時間か。馳走になったな」
「ご馳走様でしたー! 美味しかったのだー♪」
「ふふ。お粗末様でした。お口に合って何よりよ」
フィナレや向日葵を始め、振る舞いに礼を述べ席を立つ灼滅者達にライラが声をかける。
「機会があったらまた来てね。私もレパートリー増やして待ってるわ♪」
まず胃袋を掴めっていうしねと言うライラのウインクに見送られ、灼滅者達は楽屋を後にするのだった。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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