アイドル!? レスラー!?

    作者:邦見健吾

     杜の都仙台の夕暮れ。
     とあるオートキャンプ場に設置されたプロレスリングの前に、1人のマスクレスラーが立っていた。
    「ケツァールの翼出身のレスラーは全て敗北した。私は全てを失ったのだ」
     嘆き悲しむようなセリフを言いつつも、その声は歓喜していた。
    「つまり、私もまだまだだったという事だ。これは、師匠の元に戻って修行するしかないっ!」
     上機嫌にそう言い切ったのは、目を爛々と輝かせたケツァールマスク。
     彼女にとって自分の団体の完全敗北は、新たなるパワーアップの為の導入に他ならない。
     大技を掛ける為には、一度しゃがみ込まなければならないのだから。
     とそこに、一体のデモノイドロードが乱入する。ただのデモノイドロードではない、レアメタルナンバーの1体、ロードビスマスだ。
    「ちょっと待って下さい。あなたのお力を、わたし達に貸してくれないでしょうか」
     ロードビスマスは挨拶の為に持ってきた菓子折りをケツァールマスクに差し出し、礼儀正しく会釈する。
    「わたし、こういうものなのです」
     彼が差し出した名刺には「ラブリンスター事務所 アイドルレスラースカウト担当 ロード・ビスマス」と書かれていた。
    「今は、アイドルの時代です。ケツァールマスクさんには、アイドルレスラーの団体を立ち上げて欲しいのです! それが、ラブリンスターの望みなのです」
    「……」
     菓子折りと名刺を受け取ったケツァールマスクは、ビスマスの目を見てゆっくりと頷いた。
    「うむ、アイドルレスラーか。それもまたあり。だが、そのためには、各地にスカウトに行くしか無いだろう。才能のあるものを見つけ出さねばなるまい」
    「スカウトキャラバンですね、わかります」
    「そうか、わかるか」
     ロード・ビスマスとケツァールマスクは、そう言うと、互いに頷きあった。

    「シン・ライリーと抗争を繰り広げていたケツァールマスクに、新たな動きが出たようです」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)は緑茶を一口飲み、説明を始める。
    「シン・ライリーとの抗争に敗れ団体を失ったケツァールマスクは、新たなレスラーを発掘するため、各地でスカウト活動を始めました」
     ただし、スカウトするのはただのレスラーではない。
    「アイドルを夢見る少女を闇堕ちさせて、アイドルレスラー団体を設立しようとしているようです。闇堕ちを阻止して救出するか、不可能な場合は灼滅してください」
     この動きにはラブリンスター勢力の働きかけもあるようだ。
     なお、少女が完全に闇堕ちしてレスラーとなり、そのアンブレイカブル危険度が低いと判断した場合、灼滅するかどうかは灼滅者に任せる。
    「闇堕ちしようとしているのは、藤乃・亜矢さん。15歳の高校生です」
     亜矢は、アイドルとしての力が自分より高い相手に対し、プロレス勝負で勝利することでアイドルになれると思い込まされている。
     普段は河原でダンスの練習をしたり体力トレーニングをしているが、アイドルとしての力が負けていると感じるとプロレス勝負を挑む。放置すれば完全に闇堕ちするのも時間の問題だ。
     接触するには、普通に生活しているところに勝負を挑むか、アイドル対決をしているところに乱入するか、またはプロレス勝負を仕掛けているところに乱入するか。相手は、普通に生活しているので、接触は難しくない。
     そして戦闘で撃破すれば、救出あるいは灼滅できる。プロレス勝負だけでなくアイドル勝負でも勝利できれば、説得が成功しやすいかもしれない。
    「河原でトレーニングしているところが最も接触しやすいと思います。また藤乃さんは歌が苦手なようですので、利用できるかもしれません」
     亜矢の使うサイキックはシャウトおよびアンブレイカブルのもの。またパッショネイトダンスと同様の技を使うこともできる。
    「それでは、よろしくお願いします」

    「うおおおおおおお! 夕日に向かってえ、ダーーーーッシュ!!」
     夕日の沈みかける河川敷を、亜矢は走っていた。アイドルという夢を目指して。
    「アイドルに向かってえ、ゴーーーーーーーッ!!」
     何も考えず、走ればなんとかなると思って、ひたすら走っていた。


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    白鐘・睡蓮(連夜の篝火・d01628)
    海老塚・藍(アウイナイト・d02826)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    雨来・迅(宵雷の兆候・d11078)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)
    寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)

    ■リプレイ

    ●アイドル(?)との邂逅
    「こんにちわ」
    「こんにちは!」
     日の暮れかけた河川敷、海老塚・藍(アウイナイト・d02826)がにぱーと満面の笑みで挨拶した。すると挨拶された少女、亜矢も元気に挨拶を返す。
    「~~♪」
     藍が少し離れた場所で歌の練習を始めると、亜矢は走り込みをしながら透き通る声に耳を傾ける。藍に熱い視線を注ぎ、トレーニングに身が入っていないようだった。
    「やあ、精を出しているな」
    「うん! あ、こんにちは!」
    「こんにちは」
     白鐘・睡蓮(連夜の篝火・d01628)の声に振り返り、挨拶する亜矢。睡蓮も返事を返す。
    「ところで、誰?」
    「武蔵坂という学園の者で、白鐘・睡蓮という」
    「私は藤乃・亜矢! アイドル目指してるんだ!」
     名乗り合いながら、スクワットを始める亜矢。体を動かしていないと気が落ち着かないらしい。
    「亜矢、お前の思うアイドルとは具体的にどんな物なのだ?」
    「えーっと……かわいくて、すごい人!」
     アイドルに疎い睡蓮の問いに、亜矢はものすごく漠然とした答えを返した。一応、頭を使わない亜矢にとってはこれでも考えた方なのだが。
    「藤乃・亜矢ちゃん、わたし達とアイドル勝負だよ!!」
    「勝負!?」
     そこに守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が現れ、ビシッと亜矢を指差す。
    「いいよ! 勝負しよう!」
     亜矢は少し驚いたものの、勝負を快諾。灼滅者達とアイドル勝負をすることに。
    「……」
     その様子を、いかつい体格の山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)がボディガードっぽく見守る。ついでに殺界形成で一般人を遠ざける。
    「んじゃご当地アイドルとして、厄介な事にならねえ内に解決ようじゃねえの!」
     寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)は一見ヤンキーだが、これでもご当地愛とアイドル魂に溢れている。
    「ではまずダンス勝負!」
     そして亜矢が種目を選び、アイドル勝負が始まった。

    ●アイドルバトル!
     まずは豆虎とのダンス勝負からだ。
    「亜矢はどんな想いでアイドルになろうとしてンだ?」
    「楽しそうだから! 豆虎さんは?」
    「オレはな……」
     ダンスで仙台を有名にして、他県の人達にも興味を持って貰う。それが豆虎の想い。想いを鳴子に乗せ、みちのくで鍛えたよさこいを派手に、勢いよく舞い踊る。対する亜矢のダンスは力強くダイナミック。1つ1つの動きが大きく、技術は拙いものの情熱的だ。
    「頑張れー!」
    「豆虎ちゃ~ん!」
     英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)と雨来・迅(宵雷の兆候・d11078)は亜矢に負けを認めさせるため、ファンのふりをして応援。実際のアイドルの応援は分からないが、声を出して熱心なファンを演出する。
    「くうう……悔しいけど私の負けだよ」
    「よっしゃあ!」
     演出の甲斐あってか、亜矢が負けを認めた。まずは1勝。
    「よし、アイドルっつったらやっぱり歌だよな。歌で勝負だ!」
    「う、歌? それはちょっと……」
     さらにファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)が歌唱勝負を挑が、歌が苦手な亜矢は及び腰の様子。
    「大丈夫。どんな歌だって、魂を込めた歌ならばいつかは人々にカンドー与える。例え相手が誰であろうとなっ」
    「そ、そうだね! 逃げちゃダメだよね!」
     そして亜矢VSファルケの戦いが始まる。
     先行は亜矢。亜矢は音を外しながらも、一生懸命声を出して歌った。決して上手くはないが熱意は伝わってくる。一方ファルケは大き過ぎる声量で超音痴な歌を響かせ、聞く人の精神をかき乱した。想いを込めれば込めるほど、えげつない歌を轟かせる。
    「ふっ、どうだ?」
    「今のはキツイぜ……」
    「うん、そうだね……」
    「えーー!?」
     歌い終わってドヤ顔のファルケだが、鴇臣も迅もさすがにファルケに旗を上げることはできなかった。というわけで亜矢の勝ち。
    「次はボクの番です!」
    「受けて立つよ!」
     次はVS藍。藍は先ほどと同じく澄んだ歌声でアイドルソングを歌い上げ、亜矢を圧倒した。
    「うう……私ダメダメだな~」
    「そんなことないですよ。お姉さんも素敵ですよ」
     落ち込む亜矢を、藍が励ます。これで2勝目だ。
    「こ、こうなったら……」
    「最後は歌とダンス、総合勝負。相手は私だよ!」
     どうやら負けが効いている様子の亜矢に、さらに結衣奈が勝負を仕掛ける。ここで勝てば亜矢プロレス勝負に出るだろう。
    「~~♪」
     まずは亜矢から。歌いながら踊るのに慣れていないのだろう、歌詞が途中で途切れたり、振り付けも先ほどより雑になってしまっている。だがそれでも、一生懸命声を出して歌い切った。
    (「アイドル……意味は偶像だったかな。アンブレイカブルつまり「破壊不可能者」が偶像にあこがれるとは何とも奇妙な話だな」)
     踊る亜矢を眺めながら、睡蓮が心の中で呟く。が、自分もアイドルなど絶対に似合わないと思うからお互い様なのかもしれない。
    「いくよー!」
     結衣奈は元気に、そしてかわいらしく歌う。ダンスも忘れず、軽やかにステップ、ターン。女の子らしく、かわいらしさを意識して踊る。
    「いいぞー!」
    「頑張ってー」
     さらに鴇臣と迅が応援して盛り上げ、場は一気に結衣奈ムードに。霞もその様子を少し離れたところから見つめていた。
    「今のわたしの精一杯のアイドル、どうかな?」
    「うん、かわいかった。私の負けだよ。……だからプロレスで勝負だ!」
     そして決着し、アイドル勝負は灼滅者達に軍配が上がった。だが今度は亜矢の方からプロレス勝負を挑んできた。
    「いいだろう、亜矢。私達ヒールを倒して夢のアイドル生活へ飛び立つがいい」
     スレイヤーカードから殲術道具を解放し、敵として立ちふさがる睡蓮。こうしてステージの第二幕が上がった。

    ●バトルバトルバトル!
     とうとう始まったプロレスバトル。とはいえ本当のプロレスではなく、サイキックを使った超常の戦いだ。
    「いざ尋常に勝負です」
     アイドルレスラーに必要な心技体、心は歌で、技はダンス、そして体はレスリングだと藍は思っている。藍は小さな体を活かして俊敏に駆け回るとソバットで牽制、さらにサマーソルトキックで蹴り上がり、空中から蹴りを繰り出して連撃を見舞った。ナノナノの紫も、しゃぼん玉を飛ばして支援する。
    「うおおおおおおっ!」
     亜矢は拳を固く握り、結衣奈目掛けて真っ直ぐに振り抜いた。鋼のごとき拳を、結衣奈は正面から受け止める。
    「亜矢ちゃんが為りたいのはアイドル? それともレスラー?」
    「もちろんアイドルだよ」
    「だよね。でもアイドルなら腕力で無理やり認めさせるのでなく、自分を信じ抜いて力の限りにやって勝ち取ろうよ?」
    「う……」
     結衣奈はロッドで反撃しながら、目を見つめて言葉をかける。一瞬はっとして、亜矢が目をそむけた。
    「今までの練習の積み重ね、君はそれを活かしてアイドルを目指したいんじゃなかったのかな?」
     迅は柔らかな微笑を浮かべ、けれど瞳は真剣に亜矢を見つめながら仲間を白炎で包み込む。白炎は結衣奈のダメージを除くとともに、前衛に立つ灼滅者の能力を高めた。
    「藤乃が理想とするアイドルは、本当にプロレスで勝った先にあるのか? アイドルとして負けたなら、アイドルとして勝てるように努力した方がいいんじゃねぇか?」
     鴇臣も亜矢を説得しながら槍を振るう。妖気宿る槍を横一文字に振るうと、氷柱が撃ち出され、亜矢に突き刺さった。
    (「救えるのであれば、全力を尽くそう」)
     剣に炎を纏わせ、睡蓮が迫る。ライドキャリバー・赫怒が突進し、間髪入れず燃え盛る刃で一閃した。
    「私はアイドルに……あれ?」
     混乱しながら振るわれた紫電の拳を、霞は鈍色のオーラを凝縮させて受け止めた。オーラが鉄壁のように亜矢の拳を弾く。
    「どうした、アイドルになりたいんだろう?」
     さらに霞が呼びかけながら鋼の拳で叩いた。重い一撃に亜矢が吹き飛ばされる。
    「アイドルになるって夢を抱いて、それに向かって頑張ってるの最高じゃねえの。でもちゃんと見極めねえと、程遠い世界で辛い想いしちまうぜ?」
     ライドキャリバーの牛タンが機銃を連射して牽制すると、豆虎はエアシューズで駆ける。炎を纏ったシューズを振り抜き、燃えるローラーを叩き付けた。
    「俺の歌を聴けえ!」
     ファルケは魂の歌声を響かせ、亜矢の精神を攻撃。天の(破滅を知らせる)笛を思わせる声が河原に響き渡った。

    ●アイドル? レスラー?
    「うう……ああっ……」
     灼滅者達の説得により、力を失っていく亜矢。灼滅者達はその隙を逃さず攻撃を重ねる。睡蓮は纏うオーラを拳に集めて踏み込み、至近距離から連撃を打ち込んだ。
    「そろそろ終わりにするぜ」
     鴇臣が接近、螺旋描く槍を突き出し、鋭い衝撃が亜矢を打ち貫く。続いて迅は大地に宿る畏れを宿して手刀を振るい、斬撃とともに畏怖を刻み込んだ。さらに霞が背後から腕を回してホールド。そのまま背中を反らせ、豪快にジャーマンスープレックスを決めた。
    「刻み込め、魂のビートっ!」
     ファルケはマイク代わりに使っていたロッドをくるりと回し、亜矢に向けて構える。
    「さぁ、とっとと闇から戻ってきやがれっ! 魂の旋律、サウンドフォースブレイク!」
     そして渾身の一撃とともにエネルギーを流し込み、とうとう亜矢が倒れた。

    「んん……」
    「大丈夫? どこか痛いところとかない?」
     結衣奈達が見守る中、亜矢が目を覚ました。どうやら無事灼滅者として救出できたようだ。
    「あれ? 私どうして……」
    「それはね……」
     混乱する亜矢に、迅が事の次第を語る。途中亜矢が何度か聞き返すが、迅はその都度説明し直した。
    「ダークネスに闇堕ち、アンブレ……アンブレラ? よくわからないけど助けてくれたんだね、ありがとう!」
     立ち上がり、灼滅者達に頭を下げて礼を言う亜矢。素直なところは闇堕ちしかけていたときと変わらない。
    「うう……でも私負けてばっかり……」
    「もっとトレーニングを積む事だ。それが君の力になる」
    「アイドルは自分への戦いなのです。今回上手くいかなくても輝く未来に向けてリベンジです」
     だがその分落ち込むのも早い。負けてうな垂れる亜矢を、霞と藍が励ました。すると亜矢は顔を上げ、両腕を振り上げる。
    「そうだよね! がんばるぞー、オー!!」
    「……」
     元気に叫ぶ亜矢を見て、少しもどかしさを覚える睡蓮。夢を諦めてしまったから、このひたむきさを羨ましく感じているのかもしれない
    「そいじゃアイドルとして深みが出るように、学園で勉強しねえ?」
    「いいの?」
     豆虎の誘いに、亜矢が目を輝かせて反応した。学園にはアイドルを志す者もおり、切磋琢磨することができるだろう。
    「アイドルの夢を真っ直ぐ追い掛けながら、亜矢ちゃんのその力を貸してくれると嬉しいな?」
    「うん! よろしくお願いします!」
     結衣奈も誘いの言葉をかけると、亜矢がまた頭を下げて返事する。ここにまた1人、灼滅者の仲間が増えた。
    「俺はファルケ・リフライヤ、よろしくな。ふっふっふ、それじゃ歓迎の歌でも――」
    「それはちょっと」
    「そうはさせねぇよ」
     自己紹介し、自信満々にギターを構えるファルケ。しかし迅と鴇臣に止められ、ファルケの歌声が響くことはなかった。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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