ロリに母性を求めるのは間違っているだろうか

    作者:刀道信三

    ●北へ
    「くっ、長年の布教でバブミアル様の教えが支部に根付いてきていたというのに、それを放棄しなければならないとは……」
     大量の物資を積み込んだ大型のバンを運転しながら、ソロモンの悪魔の配下である強化一般人が悔しさのあまりハンドルを拳で叩く。
    「あなた達のがんばりを私は理解しているですの。あなた達ならこれからの行き先でも大丈夫ですの」
     信号待ちでバンが止まっている間に、バブミアルと呼ばれたソロモンの悪魔は、後部座席から運転手の強化一般人を労るようにその細い腕で抱きしめながら頭を撫でる。
    「バ、バブミアル様……!」
     身長140センチに満たない幼い少女のように見えるソロモンの悪魔の慈愛に満ちているように見えなくもない姿に、狂信者である配下一般人達は感極まって涙を流した。
    「さあ、先を急ぐですの。これからも私とがんばるですの」
     ソロモンの悪魔は人形のように整った顔に微笑みを浮かべ、それに鼓舞された強化一般人達は気持ちを新たに車を北へと走らせるのだった。

    ●未来予測
    「最近動きのなかったハルファスの勢力に動きがあったみたいだぜ」
     動きがあったと言っても、事件を起こすわけではない。
     安土城怪人などの他のダークネス組織の勢力拡大によって、劣勢に陥ったハルファス勢力が、近畿や関東の支部を閉鎖して戦力を結集して、北へ拠点を移そうとしているようだ。
    「ハルファス達は既に撤退しているみたいで、今は各地の支部を閉鎖したソロモンの悪魔達が、物資と戦力をもってハルファスに合流すべく北に向かっているみたいだな」
     彼らが向かう北海道では、地下鉄のアンデッド迷宮事件や、SKN六六六のアリエル・シャボリーヌの事件、六六六人衆の斬新京一郎の事件などが立て続けに起こっている。
     ここにハルファス配下のソロモンの悪魔が戦力を集結させれば、何が起こるかわからない。
    「ソロモンの悪魔達は、人通りの少ない間道を、大量の物資と強化一般人を乗せた車で移動しているみたいだぜ。その内のひとつを俺が予知できたんで、先回りして迎撃することは難しくないぜ」
     阿寺井・空太郎(哲学する中学生エクスブレイン・dn0204)は灼滅者達に未来予測で示された場所を記した地図を配った。
    「俺の未来予測では、お前達がバリケードで間道を封鎖して、ソロモンの悪魔達が車から降りて来たところで戦うところを予知したぜ」
     走行中の車に攻撃をした場合に、未来予測から外れてしまうかもしれないので注意が必要である。
    「敵はソロモンの悪魔1体と、配下の強化一般人が3人だ」
     ハルファス配下のソロモンの悪魔は、戦闘が得意ではないタイプが多く、バブミアルというソロモンの悪魔も、そのタイプである。
    「それでもダークネスは強いし、強化一般人の士気も高いんで油断はしない方がいいと思うぜ」
     未来予測という情報的優位があるので、しっかり作戦を立てれば問題はないだろう。
    「今回の事件は、普段は表に出て来ることのないソロモンの悪魔を灼滅できる絶好の機会だ。これを逃す手はないよな。良い報告を待ってるぜ」


    参加者
    龍宮・巫女(鬼狩の龍姫・d01423)
    烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)
    キング・ミゼリア(ロイヤルソウルはうろたえない・d14144)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    クラリス・ランベール(袖触れ合うも多生の縁・d14717)
    月影・瑠羽奈(蒼炎照らす月明かり・d29011)
    三和・透歌(自己世界・d30585)
    サン・クロース(戦うミニスカサンタ・d32149)

    ■リプレイ


     灼滅者達はクラリス・ランベール(袖触れ合うも多生の縁・d14717)のヒッチハイカーによって、バリケードを作るための資材と一緒に未来予測の現場に到着していた。
     クラリスはヒッチハイカーを使うにあたって、夏らしく大胆に肌を露出した服装でアピールしながら、目的地に向かう車を捕まえた。
    「ハルファス軍にダメージを与えるチャンスです。頑張りましょう」
     車の手配に引き続きクラリスの指揮で、灼滅者達は未来予測の時間までに、持ち寄った資材を間道に敷き詰めてバリケードを作成していく。
    「ロリで母性ある子ねぇ……これで悪魔じゃなきゃ可愛がってあげるんだけど、そうもいかないわよねぇ」
     可愛いもの好きの龍宮・巫女(鬼狩の龍姫・d01423)は、美しい幼女であるらしいソロモンの悪魔を惜しみながら、バリケードを作る手を動かす。
     相手は灼滅者達の宿敵であるダークネスである。灼滅者達にとって、ダークネスを灼滅することが、宿命であり優先事項だ。
    「こういうカワイイ系の悪魔って正体がめっちゃ化け物だったりしそうっすよね。まあ、ダークネスに限ってそんなことはないでしょうけど」
     会ってみなければわからないが、嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)は怪力無双で大きい資材を両腕で持ち運びながら、そう呟く。
    「……まあ、必ずしも見た目通りの年齢とは限らないのがダークネスですから」
     成人男性である強化一般人達が、幼い少女姿のソロモンの悪魔に甘やかされている姿は、絵面的に問題はあるが、年齢的には合法的なロリなのかもしれないと、三和・透歌(自己世界・d30585)は思った。
    「……しかし、絵面が悪いだけで十分にダメですね。始末しましょう」
     たとえ合法ロリであったとしても、客観的にアウトであると、透歌は切り捨てる。
    「母性とか、私の対極にある言葉じゃないか。よくわからん」
     烏丸・織絵(黒曜の識者・d03318)は紅いコートとシャボン玉をたなびかせながら、アイテムポケットで持ち込んだ段ボールをバリケードに被せていくことで、思わず車が止まってしまいそうなくらいバリケードを大きく見せようとした。
    「ぎゅってされるとか、なでなでされちゃうとか、きょうかいっぱんじんりあじゅうすぎるだろゆるせん」
     強化一般人達が幸せなら、実際にそうなのかもしれない。
     やや危ないテンションでキング・ミゼリア(ロイヤルソウルはうろたえない・d14144)は憤る。
    「あ、でもこうしていると、何だか鉄壁の仕上がりにしたくなるわね……」
     バリケードの細かい補強作業に凝り始めて没頭し出すと、キングの気持ちは幾分そちらへと紛らわされたようである。
     そしてバリケードを完成させた灼滅者達は、バリケードを見張れる場所に身を隠し、ソロモンの悪魔達の車が到着する時間を待つのであった。


     時間は少し遡る。
     月影・瑠羽奈(蒼炎照らす月明かり・d29011)は戦場となる間道から離れていて、その間道に入って行く道路の隅に身を潜めて、バブミアル達の乗った大型バンをやり過ごした。
     バンが通過した後で、十分距離を取ってから、瑠羽奈はアイテムポケットから取り出した通行禁止の看板を設置し、気付かれないように注意をしながら走ってバンを追った。
     そして白いバンがバリケードの前まで来ると、警戒するように停車した。
     段ボールなどに覆われたバリケードを無理矢理突破しようとして、タイヤがパンクするような仕掛けがしてあれば、物資の運搬に問題が生じると考えたのだ。
     その隙に物陰に隠れていた灼滅者達はバンを包囲する。
     巫女の展開した殺界形成の効果で一般人が近づく心配もないだろう。
     まず灼滅者達を警戒して、強化一般人達が車外に出て、最後にバブミアルがスライドドアから道路に降り立つ。
     バブミアルは一見すると幼い少女のような姿をしているが、後頭部と背から巨大なカタツムリの殻のような材質のわからない異形の物体を背負っている。
     異形の殻を含めたバブミアルの全高と重量は、一目で強化一般人達を上回っており、大きなスライドドアからしか車を乗り降りできなかったのだろう。
     殻からは巨大な腕のようなものが一対生えており、それが後肢のように地面に着かれることでバランスを取っているようだ。
    「初めまして。バブミアルさん……ですね」
     会話が失敗した時のために、殲術道具を手に持ちながら、透歌はバブミアルに話し掛ける。
    「よう、此処から先にお前達の敵が待ち伏せしているから、回り道をした方がいいぞ」
     瑠羽奈が来るまでの時間を稼ぐために、織絵もバブミアルを言いくるめようとする。
    「あなた達の言っていることの真偽は私にはわからないですの」
     人形のように作り物めいた美しさのある唇が言葉を紡ぐ。
    「でも灼滅者にバリケードだけでも私達にとっては邪魔ですの」
     淡々と述べられる言葉には、灼滅者達と会話をする気が最初から感じられない。
    「投降するなら死ぬ前にするですの。そしたら私がずっと可愛がってあげますの」
     そう言いながらバブミアルは、人型の細い腕を肩の高さまで持ち上げて指を向ける。
     ダークネスの膨大な魔力によって繰り出されたフリージングデスが、広範囲の熱量を一瞬で奪い取る。
     絹代と2体のライドキャリバー達が身を盾にして仲間達への被害を防ぐが、凍りついた体の上から断続的に襲い来る衝撃波に浅くない傷を負った。
    「そんな見せかけだけの優しさなんて、尊くもなんともないんだから!」
     サン・クロース(戦うミニスカサンタ・d32149)がギターをかき鳴らし音波で強化一般人を攻撃する。
     ライドキャリバーのモータールドルフも、サンのギターに合わせるように機銃から銃弾をばら撒いた。
     一度はソロモンの悪魔に闇堕ちしようとしていたサンだからこそ、バブミアルに対して毅然とした態度で立ち向かう。
    「ホホホ、逃がさなくてよ!」
     バブミアルの魔法とサンの音波攻撃の応酬によってできた空間を回り込むようにして、キングはバブミアル達の車のタイヤにマテリアルロッドを叩き込んで破壊する。
    「まずは動きを止めましょうか」
     巫女は左腕の縛霊手を突き出し、バブミアル達に向かって除霊結界を展開、反射的にバブミアルの前に出た強化一般人達が、霊的因子を停止させる結界に足を取られた。
    「動きを止めるのは、そちらですの」
     バブミアルの巨腕がアスファルトを叩いて跳躍、強化一般人達の頭上を飛び越えて、前衛の灼滅者達の中心に禍々しい爪を突き立てる。
     殻から伸びた異形の指先から白光と共に半球状の結界が発生し、灼滅者達を飲み込んだ。
     絹代と織絵は虚脱感に襲われ動くことができない。
    「ウェッジ、立て直しは自分でお願い……」
     セイクリッドウィンドでバブミアルの除霊結界の効果を打ち払おうとしつつ、透歌はライドキャリバーのウェッジに指示を出す。
     まだやれると答えるようにウェッジは勢いよくエンジン音を鳴らすが、率先して敵の攻撃を肩代わりし続けているウェッジの消耗は激しい。
    「バブミアル様に続くぞ!」
     リングスラッシャーの光輪を、強化一般人達はそれぞれ7個、計21個展開すると、前線へと突撃して来る。
     飛び交う光輪に前線は乱戦となり、バブミアルによってつけられた傷をより深く抉られていく。
    「皆さんの心を惑わす悪魔を討ち滅ぼしましょう」
     クラリスは大胆な衣装を纏い魅力を振り撒くように一回転しながらギターを手に取り、仲間達を鼓舞する旋律を奏でる。
     しかし強化一般人の目にあるのは色欲からくる懸想ではなく、使命に殉ずる者達の狂気だった。
     これはこれで手遅れだとクラリスは溜息を吐く。
     クラリスと透歌が対処することで相殺できているが、予想通りバブミアル達は搦め手を多用してくる。
     もし対策を立てていなければと思うと戦慄を禁じざるを得なかった。


    「固いわね……!」
     キングのオーラを纏った拳の乱打を、強化一般人はシールドリングで防ぎながらしのぐ。
     強化一般人達は押されればリングスラッシャーを盾とし、隙あらば7つの光輪で切り込んで来る。
     その間にバブミアルの強力なフリージングデスと除霊結界の波状攻撃が灼滅者達を襲い、強化一般人達はそのための時間を稼ぐ壁役に徹していた。
     戦いが続くほど、強化一般人達も徐々に消耗してはいるが、それで彼らの士気は些かも下がる様子はない。
     強化一般人達は、バブミアルのために己が命を賭けることを、なんら厭ってはいないのだ。
    「余計な部分を除けば可愛いから、気持ちはわからなくもないけど、死兵ほど怖いものもないわねぇ」
     右手に持った槍から氷柱の穂先を飛ばしつつ巫女は呟いた。
     こちら側の前衛も徐々に疲弊している。
     膠着した状況が変わるとしたら、それは数の均衡が崩れた時だろう。
    「あんたらはロリコンなのかマザコンなのかハッキリしないっすねぇ。せっかくなんでどっちか決めようじゃないっすか」
     バブミアルによる波状攻撃の合間、強化一般人を飲み込むべく這わせた影業を操り接敵しながら絹代は問い掛けた。
    「バブミアル様は我らが聖母だ」
     リングスラッシャーを重ねて直撃を避ける強化一般人は、問いに答えるというよりは、彼らにとって当たり前なのだろうことを短く即答した。
    「遅れて申し訳ありません! ここから遅れを取り戻すべく、頑張らせていただきますわね!」
     戦闘開始から数分、間道を封鎖するために別行動をしていた瑠羽奈が、駆けて来た勢いをそのままに槍を構えて突進する。
     咄嗟に瑠羽奈のことをマークできていなかった強化一般人の腹部を槍が貫通し、1人の強化一般人が崩れ落ちた。
    「母性が欲しけりゃくれてやる。しっかり味わえ!」
     織絵の母性(物理)とでも言わんばかりの豪快な上段回し蹴りが炸裂し、頭部を発火させながらまた1人、強化一般人が倒れる。
     1人穴が開いたことで、回復のために下がっていた1人を庇うことができなかったのだ。
    「プレゼントよ。受け取りなさい!」
     1人、バブミアルへの射線に立ち塞がる強化一般人に、サンは一発に集束したマジックミサイルを撃ち込む。


     ダークネスとはいえ、戦闘要員というほどではないバブミアルの戦闘力は、未来予測でわかっていた通り、連携さえ取れていなければ高いものではなかった。
     バブミアルには一撃で灼滅者達を圧倒する攻撃手段はなかったし、壁となる強化一般人がいなければ頑強な耐久力も持ってはいない。
     配下の強化一般人さえ倒してしまえば、あとは灼滅者達の集中攻撃によって徐々に反撃すら覚束なくなり、回復役まで参加しての総攻撃でボロボロになっていった。
    「残念だけど、これで終わり。生まれ変わったらまた会いましょ」
     ふらつくバブミアルを、巫女は槍を握り込んだままの右手を鬼神変で異形化し、打ち下ろして地面に転がす。
    「悪魔ってのは、人に倒されて初めて物語が完結するんだろう」
     織絵は仰向けに倒れたバブミアルの胸の中心に両手で持った槍を突き立てた。
     バブミアルは何か言いたげに織絵を見返すが、喉に逆流した血を吐きながら、そのまま事切れた。
    「あれほど狂信的な強化一般人を従えるなんて、敵ながら怖ろしい相手だったわね……」
     バブミアルを灼滅してから、バリケードを片づけながらキングは呟く。
    「アタシが何を言いたいかというと、ロリ母性……アリね!」
     そう言いながらキングは誰に向けるでもなく、いい笑顔でサムズアップするのであった。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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