武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
今年の修学旅行は、6月23日から6月26日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。
修学旅行の行き先は沖縄です。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
●神秘の鍾乳洞
玉泉洞をご存じだろうか?
観光施設「おきなわワールド」内にある、沖縄県下最大の鍾乳洞だ。
修学旅行4日目の自由行動では、この玉泉洞に行くこともできる。
全長5000メートルに及ぶ玉泉洞の内、観光用に整備されて実際に見て歩くことが出来るのは900メートル程度だが、それでもかなりのボリュームといえる。
入り口から長い階段を下りれば、目の前に広がるのは石筍が林立する広大な空間『東洋一洞』だ。
ちょっと奥へ行けば白銀のロケットのような石柱『昇龍の鐘』がそびえていて。
鍾乳洞内を流れる水路に沿った通路沿いに歩けば、2万本もの細長いつらら石が天井から触れられる高さまで伸びてきている『槍天井』が広がる。
ベンチの設置された『初恋広場』を抜けて進めば、透明な水を湛えた『龍神の池』や神秘的な青い水を湛えた『青の泉』を目にすることができるだろう。
さらに奥に進めば、板状の横に広い鍾乳石が幾枚も重なってできたカーテン状の『絞り幕』が視界に迫り、石柱とつらら石が繋がって出来た『銀滝柱』のような石柱が幻想的な景色を作り出している。
白い鍾乳石が波打つように連なった『白銀のオーロラ』を抜ければ、長い通路の果てに地上に戻るエスカレーターがある。
観光用に整備された区画には照明もあるし、一般的な鍾乳洞のイメージと異なり寒いこともないので上着も必要ないだろう。ただ、滑りやすいので足下にだけは気をつけた方がいいかも知れない。
また、洞内は撮影自由なので、記念写真を撮るのもいいだろう。
30万年という気の遠くなるような時を刻む鍾乳洞。修学旅行の思い出作りに、訪れてみては如何だろうか。
きっと、忘れられない体験ができるはずだ。
●いざ鍾乳洞へ
修学旅行4日目。
おきなわワールド内にある玉泉洞へと続く階段の前に立ったかなめが、集まった一同を見回した。
「いいかっ! 我々はこれから洞窟に突入を試みる! 何が起こるか解らない! 気を引き締めていくぞ!」
「なんとかスペシャルみたいですよね!」
翠はライトのついたヘルメットを被ってどきどきわくわくしている。
「武蔵坂学園玉泉洞探検隊、出発進行ーっ!」
ミカエラのそんな掛け声に合わせ、一同は階段に足を踏み出した。
「鍾乳洞! わたし、入ったことありません! つまり洞窟だよね!?」
長い階段を下りながら、織姫が期待に満ちた声を上げる。
「これから冒険にいくみたいでわくわくするね」
クラスメイトのマシューがそう応じれば、
「ふふ、探検隊みたいだよね。戻って来られなくなるのは、怖いけれど……」
イーニアスが期待半分、不安半分といった表情を浮かべた。
「全長5000メートルあるそうですよ。私の身長の36倍以上ですね。万が一はぐれたら戻ってこれなさそうです」
好弥が、言葉とは裏腹にウキウキした様子で言うと、
「道が整備されているみたいだし、帰ってこられないなんてことはなさそうだよ」
マシューが皆を安心させるように説明した。
「そ、そうだよね、道も綺麗だし、明かりもたくさんあるから大丈夫、だよね!」
イーニアスも意を決したように、足を速めていったのだった。
階段を下りきると、早速目に飛び込んできたのは、無数の石筍が林立する東洋一洞だった。
「単に涼めるかなって思って来てみたけど……。こうやってみたら結構興味そそられるんなぁ……」
目前に広がる奇景に藍が感嘆の声を上げれば、
「色も幻想的やねぇ」
夕眞も同意するように頷く。
「玉泉洞って東洋で最も美しい鍾乳洞らしいぜ? 鍾乳石の数は100万本以上で国内最多だってよ!」
「他のとこもいってみたら、ここのすごさを実感できんのかもしんないなぁ」
声を弾ませながら、二人は順路に沿って進み始めた。
(「ちょっと、お兄ちゃんとまだ、出会えなかった頃を思い出しちゃいました……。もう、昔と違って、今のわたしには、皆さんや、お兄ちゃん達が居ますから、大丈夫、です」)
洞窟独特の雰囲気に昔を思い出し、ちょっとだけ暗い雰囲気になっていた初子の隣では、
「でっかいつらら……じゃなくて、これが鍾乳洞? 上だけじゃなく、通路上にも鍾乳石ができてますよ!?」
かなめが無邪気な歓声を上げていて。
「せきじゅん(石筍)だっけ? へー、うごのたけのこともいうのかあ。面白いね!」
シェレスティナも目を輝かせていた。
「というわけでみんなでたけのこポーズで記念撮影ですよ! 日野森さん、お願いしますなのです!」
かなめに促され、光画部の翠がパシャリと、クラスメイト達を撮影する。和気藹々とした様子に、初子も暗くなっていては駄目と自分を励まし、
「みぃ! 皆さん、青の泉、行って、みませんか? とっても、綺麗な、所、みたい、ですよ! お兄ちゃんに、教えて、貰いました!」
そう、クラスメイト達を誘うのだった。
「暑い日差しには少々参っていたものですから ひやり涼しい鍾乳洞は格好の場所ですね、いいですね」
ゆったりと歩いていたツヅシリは、ふと鍾乳石の前で足を止める。
「およそ30万年、でしたか。時が織り成す美を知れば、同時に人の営みの小ささを識らされますね。故にこそ我ら人の織り成す噺は面白く、蒐集するに相応しい……と、わっちはそう思うのです」
ツヅシリはそう呟くと、連れ立つサイリに目を移した。
「もしへ、あんたさんは人工物の方がお好きですか」
「そうですなぁ。壮大な自然の創造物も好きですが、人工物への愛の方が勝るやもしれません。此処を安全に見学できる設備も人が創り出した美しい芸術だと感じるのですよ」
サイリはそう応じると、表情を緩めて、
「いやはやしかし。正反対の趣向を持ち合わせている君と、こうして意見を交わせる時間は誠楽しく愉快爽快」
そう笑みを浮かべる。
「一先ずこの感動を忘れぬ内、帰り次第に一ツ、噺を描こうかと。その際は、手伝っておくんなんし」
「これは帰った後も楽しみですな。このサイリ。全力で貴方のお力になりましょうとも!」
そうして七不思議使い2人、さらなる噺の種を求めて通路を先へと進んでいくのだった。
●奇景巡り
「なんかゲームのダンジョンみてーなとこだな」
葉の言葉通り、Quipuの面々は縦一列になって歩いていた。垂れ下がる石のつららやライトアップで鮮やかに輝く水面を眺めながら、奥へ奥へと進んでいく。
「綺麗だなあ……! ねえ、ジョー」
結理は先頭を進む錠に呼びかけると、下調べで手に入れた玉泉洞や洞窟、そこに棲む生物等のうんちくを語り始めた。
「なるほど、滴る雫が連なってこの姿になったのか。あァ、油断したら呑まれそうなぐれェ綺麗だ」
錠は結理の解説に感心して聞き入る。
(「ユウリが解説してくれてるおかげで紹介動画っぽくて良い感じだ」)
貫は、置いてきたナノナノのらいもんの為の動画の撮影に忙しそうだ。
「割と湿度高くて足元濡れてるらしいから皆気をつけてなー」
貫がそう注意すると、
「足元以前に俺のメガネが曇ってヤバイ」
見事に眼鏡を曇らせた葉が真顔で応じた。
「こういう時ぐれェ外しゃいいのに」
と錠が吹き出し、
「可能性については先に触れておいたんだが……」
と啓は嘆息したのだった。
やがて通路は槍天井と呼ばれる、無数のつらら石が天井から生えている箇所に差し掛かる。
「ちょ……夕眞ちゃん上見てみろよ! めっちゃぶら下がってんだけど!」
はしゃぐ藍に、夕眞は真顔で、
「映画でようこんなんが落ちてくるシーンない? 一般人でこれ逃げられんのか……」
そんなことを口にした。
「そんな事言われたら想像しちゃったぜ。こっわ……」
思わず顔をしかめた藍を見て、つい噴き出してしまう夕眞だった。
通路に沿って進みながら、好弥は複雑な気分だった。
「天然自然の中進むのかと思ってましたからちょっと寂しいです。足元が崩れ去ったり、大岩が転がって来たりとかないですよね。……浪漫なのに」
やがて通路は開けた空間に辿り着く。そこには東屋風の休憩所が設置されていて、『初恋広場』という看板が掲げられていた。
「なんとも可愛らしい名前だね。いままでの昇龍の鐘や槍天井との差が……」
イーニアスがそんなことを考えている傍らで、
「ここに座ると初恋に陥っちゃうとか!?」
初恋広場という響きに胸をドキドキさせているのは織姫だ。
「好弥ちゃんにも春が来ちゃうんじゃないかな!?」
織姫がそう振ると、
「春ですか? 眠気がノンストップですね」
なんとも的外れな回答が帰ってきたのだった。
一方、初恋広場をどこか恥ずかしそうに足早に抜けていくのは七波と真琴だった。二人は滑りやすい通路で転ばない様にと、お互いにしっかりと手を握って先へと進んでいった。
通路は鍾乳洞内を流れる水路に沿って設置されていて、やがて水路の奥に澄んだ水を湛える龍神の池が姿を見せた。
「俺にとっての一番の目的地に辿り着いたか」
さっそく瞑想を始めたのは光明だ。
「我龍脈操者にして理乃体現者也。彼の力我に貸し与えん……」
静かに目を閉じ体の力を脱力させて祝詞を読み上げる。親友の朔夜も、
(「龍は月にどんなパワーを与えてくれるんだろう?」)
そんなことを楽しみにしながら、共に瞑想をするのだった。
「龍神の池か。ここはなにか言い伝えがありそうだよね。パワースポットみたいな場所なのかもしれないよ」
マシューが言えば、
「じゃあ、お賽銭とかお願いとかしておくと良いのかな? マシュー君は何かお願いしますか?」
織姫がそう返して。
「お賽銭……って、なに? お願い事は、あっても内緒だよ」
マシューがきょとんとした表情を浮かべる横では、吸い込まれるように水面を見つめていたイーニアスが、
「確かに力を貰えそう……願えば、身長も伸びるかな」
そんなことを、そっと呟いていた。
「水は元から透明とか思ってたけど、ここの池は凄いね。こんなに澄んだ水になるんだ。これ見ちゃうと、普段の水は色が付いてるような気がするね」
夜雲は澄んだ池の水に目を丸くしながら、順路に沿って次なる目的地、青の泉を目指していく。
●青の泉にて
「斎賀君の見たかったのってあれかな?」
結弦が声を上げたのは、目の前にコバルトブルーの水面を見せる青の泉が姿を現したからだ。
「凄いな……」
なをは一言そう発したきり、目の前の光景に釘付けになる。
(「沖縄は空も海も青いけど、洞窟内の青は今まで見た青とは違う青なんだな」)
「本当に青いよ。ライトアップなのかな? とても透明で神秘的だね。来て良かった」
結弦も時間を忘れて泉を見つめていた。
裕也は皆の邪魔にならないように写メを撮っていたが、
「せっかくですから、記念撮影もしたいですね」
そう、二人に声をかけ、
「え、写真撮るの? 僕も良いかな。皆で撮ろう」
結弦もスマホを取り出した。
「俺、きっとこの風景を一生忘れないと思う」
写真を撮りながら、なをはそんなことを口にする。
「はい、いい思い出になりました……!」
裕也もまた、撮った写真を大事そうに眺めていた。
「本当に水が青いよ。自然の力って凄いんだな」
同じように青の泉を撮影しているのは、夜雲だ。彼は美しい情景を次々と写真に収めると、満足したように顔を綻ばせた。
「うわ、綺麗だね……」
七波の呟きに、泉に魅入っていた真琴がこくこく頷く。七波が目を向ければ、泉からの青い反射光がぼんやりと真琴を照らしていて。水面の揺らぎが投げかける陰影がさらに彼女を幻想的に見せていた。
「いや、もっと真琴さんは綺麗だ」
人目のないのを確認して、真琴をきゅっと抱きしめる七波。
「ふぇっと!? 七波くんはいつも私を褒めすぎと思います」
真琴は照れつつも、ぎゅっと七波を抱きしめ返していた。
「おー、確かに青い! 海とはまた違った雰囲気で神秘的ですねー!」
感嘆の声を上げるかなめに、
「わーーお、ライトアップもされててはっきり見えるねー」
シェレスティナの目も美しい光景に釘付けになる。
「みなさん、並んでください。卒業アルバム用の写真も撮って帰らないといけないですしねっ♪」
翠がカメラを構えて次々と記念写真を撮影していき。
(「……わたしの、大事な想い出、また一つ、作る事が、出来ました。みぃ、すっごく、幸せ、です!」)
笑顔を浮かべる初子の姿をミカエラはほんわかと見ながら、
「ホント、みんなで来れてよかったな~」
自分もまた、笑みを浮かべたのだった。
「……此処だけ、すごく、綺麗な水の色、ですね」
蒼が、幻想的な泉の風景に驚きの声をあげる。
「まぁ……よく水色って言いますが、本当にここのは青いんですのね。とても神秘的な感じがいたします」
楓も同意して泉を見つめ。
「……長い年月を、掛けて出来た、鍾乳洞。……来てみたかった、の、ですよね」
蒼がそっとそう漏らせば、
「鍾乳石は今でも成長し続けているという話ですが、とてもゆっくりなのだそうですね。……そう、蒼さまとわたくしのようにっ!」
楓はどこがとは言わずに力強くそう言い切るのだった。
「……そう云えば青と月には色々と繋がりがあった筈だな」
光明の口から、ふとそんな感想が漏れ、
「そうなんだ? だから青には心魅かれるのかな」
朔夜が自分の衣装と同じ青を湛えた泉に目を向けたまま応じる。
「付き合ってくれてThanksな。これからも宜しく親友」
「僕も楽しかったよ。僕からも宜しく、親友」
そして光明と朔夜は、更に奥へ向けて歩き出した。
●そして出口へ
「夕眞ちゃん疲れてない? 休憩する場所もあるからゆっくりでも良いからな?」
鍾乳洞も半ばを過ぎ、藍は連れだって歩く夕眞に声をかけた。
「俺は平気やけども。でもそうねぇ、藍ちゃんはしゃいでどっか行っちゃいそうだし、手ぇつなご。足元濡れてっし、転ばないようになー」
夕眞は自然な動作で藍の手を取って。
「べ……別にはしゃいでるワケじゃないからな!? 楽しまなじゃ損だろ?!」
藍はしどろもどろになりながらもそう反論していた。
「何十万年もかけてこういうのが出来上がるって、なんだかスケールが大きすぎてピンと来ないよ~」
有紗は、所々で撮影しながら、楽しそうに通路を進んでいた。
「なんか冒険してるみたいで楽しー」
共に歩く俊輔も、鍾乳洞を満喫しているようで。
「知ってる? 成長が早くて今でも成長し続けてるんだって」
有紗が調べてきた知識を披露すると、
「へー、じゃー、じーっと見てれば大きくなってくのかなー?」
俊輔の反応に、有紗は声を上げて笑う。
「いや、流石にそんなに早くは伸びないでしょっ」
そうして通路を進む二人は、やがて鍾乳石で作られた壺を見つけて。
「壺まであるんだ~」
「なんだか化石とか社会で出て来たしゅつどぶつ? みたいだねー」
そう言って、二人で笑いあうのだった。
「ライトアップされると異空間だな」
啓が、時折現れる白い鍾乳石や、水を湛えるリムストーンに目をきらきらとさせる。
「資料より本物を見た方がやっぱりずっと素敵だね」
結理もすっかり目を奪われていたが、いつしか通路も終点間近まで来ていて。
「そういえば、6月15日はニノマエの誕生日だよな?」
ふと思いついたように貫が葉に祝いの言葉を投げかけた。
「地上に戻ったらお祝いに乾杯しようぜ」
錠の言葉に、葉は嬉しいような戸惑ったような表情を浮かべ、
「まあなんだ、あんがとな」
照れくさそうに、礼を口にする。
「葉さん何か食べたいものあれば僕が奢るよ!」
結理がそう言えば、葉はしばし考え込み、
「んだなぁ、せっかく沖縄に来たんだからパイナップル食いてぇなパイナップル」
やがてそう答えると、啓がポンと手を打つ。
「……そういえば外の果樹園ではパイナップルが見られるとか」
「パイナップル!? 俺が苦手って知ってるクセにこのドSども!」
たまらず錠がそう叫んで。一同の笑い声が洞内に響き渡った。
とうとう通路も終わりを迎え、地上へと戻るエスカレーターが視界に入ってくる。
「鍾乳洞デートも楽しいねっ。一緒に修学旅行に来れてよかった~」
有紗が満足そうにそう言えば、
「オレも有紗と一緒に修学旅行に来れて楽しいぜー」
俊輔も笑顔でそう答える。
「いい記念になったよ、誘ってくれてありがとう!」
「おー、こっちもありがとーだぜー」
「最後にもう一枚写真撮ろうっ」
鍾乳洞を出る前に、二人で写真をパチリ。いい記念写真が出来たのだった。
長いエスカレーターを昇りきれば、そこには沖縄の日差しに包まれた果樹園が広がっている。
いっときの神秘的な体験の記憶を胸に、一行は沖縄の空の下へと足を踏み出したのだった。
作者:J九郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年6月26日
難度:簡単
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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