来たれ針妙若干名

    作者:小茄

    「私はレプラコーン、天才裁縫師。求めに応じて面接行くの」
     静寂に包まれた夜の廃工場には、不似合いな露出度の高い女。上機嫌でステップを踏む彼女の手には、求人雑誌。
    「チクチック チクチックック チクチック チクチックック 山ほど縫うわ」
     一頻り踊り終えたレプラコーンは、物陰へヒラヒラと手招き。
    「安土城怪人だっけ……? 雇って貰えるとイイね。うん、雇って貰えるよきっと」
     それに応じて姿を現わしたのは、上は浴衣、下はミニスカートという和洋折衷のいわゆる「ミニ浴衣」を纏ったギャル。
     二人は、面接会場への案内役であるペナント怪人と合流すべく、その地点へと向かうのだった。
     
    「度々事件を起こしていたフライングメイド服ね、あれらを作っていた淫魔『レプラコーン』が安土城怪人の募兵に応えて、行動を開始した様ですの」
     有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、小牧長久手の戦いにも勝利し、勢いに乗った安土城怪人は勢力を更に拡大すべく、彼女らを配下に加えようとしているらしい。
    「これ以上勢力を拡大されては面白くないですわ。なので、合流前にこの野良レプラコーンを灼滅して下さいまし」
     
     レプラコーンはフライング服飾系眷属を生産する力に長けた、強力な淫魔である。
    「のみならず、戦闘においては瞬時に15メートル移動すると言う高速移動能力を有していますわ」
     大地のどこかに眠る「黄金鉱脈」が彼女らの力の源であり、同時に弱点でもあると言われているが、現時点で確かな事は解っていない。
    「また、彼女は新作のフライングミニ浴衣を一体引き連れていますわ。安土城怪人の面接で見せる為の、いわばサンプルかも知れませんわね」
     加えて、戦いが長引けば出迎えとしてペナント怪人がやってくる可能性も有る。可能ならば短期決戦に持ち込みたい所だ。
     
    「強力な敵ではありますけれど、貴方達なら勝てるはずですわ。では、気を付けて行ってらっしゃいまし」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    桃山・華織(白桃小町・d01137)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    アガサ・ヴァーミリオン(燃えるイナズマヒーロー・d27889)
    今・日和(武装書架七一五号・d28000)
    フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)

    ■リプレイ


    「そろそろ時間ねー、行きましょー♪」
    「おっけー」
     夜、廃工場に似つかわしくない高露出度の若い女が二人。楽しげな様子でいずこかへ向かおうとしていた。
     片や、淫魔レプラコーン。そして付き従うのは、彼女が作ったフライングミニ浴衣を纏い、取り憑かれてしまった一般人少女である。
    「遅刻でもして印象が悪くなっても困るしね。こんな好条件、なかなか見つかるものじゃないしー。これからは安土城怪人さんの所でバリバリ縫っちゃおう♪」
    「そうはいかぬぞ!」
    「……だ、誰?」
     二人が意気揚々と、安土城怪人(の手の者)との待ち合わせ場所へ歩き出したその時。かけられたのは桃山・華織(白桃小町・d01137)の声。小柄な中学生の少女ではあるものの、口調と気迫は武士顔負けだ。
     見れば、彼女を初めとして暗闇から灼滅者が姿を現す。
    「空飛ぶ服を作ったりして、色々お騒がせした人かな? だったらここで止めないとね!」
    「あなたに恨みはないッスけど安土城怪人の野望を阻止するため、ここで倒させてもらうッスよ!」
     困惑するレプラコーン達の背後から威勢良く響く声は、いかにもアクティブな印象の少女、今・日和(武装書架七一五号・d28000)と、腕を組み仁王立ちの登場シーンを披露するアガサ・ヴァーミリオン(燃えるイナズマヒーロー・d27889)。
    「職人が服を作って何が悪いのー? この子が来てる浴衣だって、とっても素敵でしょ?」
     が、全く悪びれる様子もなく、むしろ自慢げにフライングミニ浴衣を披露するレプラコーン。
    「レプラコーンさん、、デザインする服、とっても素敵だと思いますけど、、服が一般の方に及ぼす事を考えたら、、ごめんなさい」
    「うん、折角の浴衣……勿体ないですけれど……フライングなのはお断りです」
     ジリ、と一歩間合いを詰めつつ言うドレス姿の可憐な少女。アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)。頷きながらほわんと同意するのは、本作戦では最年長者でありながら、余りそれを感じさせないゆるめのお嬢。桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)。
    「……んーと、つまり貴方達は、私の邪魔がしたいの?」
     レプラコーンは、少し状況を整理してから、改めて皆を見回して小首を傾げる。
    「そ、そう言う事です。ペナント怪人さんたちを裁縫して、フライングペナント怪人さんにさせるわけにはいきませんしね」
    「はい、皆さんへのごめいわくを阻止するためなのです!」
     問い掛けに頷きつつ応じるのは、おびえを隠す様に、しかし小声で隠し切れていない小動物属性のフリル・インレアン(小学生人狼・d32564)。対照的に元気よく付け加えたのは、カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)。愛犬のヴァレンを傍らに携えている。
    「なるほど、色々と訳知りみたいねー? じゃあ、通してってお願いしても通してくれないかしら」
    「はー、マジでウザいんですけどー」
     レプラコーンと浴衣ギャルは、軽く顔を見合わせて迷惑そうな表情。あちらにすれば、面接の直前にケチが付いたのだから当然と言えば当然だ。
    「恨みは特にないけど……倒させてもらうよ……」
     ゆっくりと包囲を縮めるように歩みを進めていたメリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)は足を止め、眠そうな表情とは不釣り合いな独特の眼力で敵を見据えると、スレイヤーカードを解放する。
    「極限動作履行開始。抑止行動に移行します」
    「一気に行くよ!」
    「しょうがないなー。力ずくでどいて貰うしかないみたいね」
     これを受けて他の灼滅者も一斉にカードを解放し、レプラコーン達もまた身構える。


    「大体さぁ、子供がこんな時間まで遊んでていいわけ?」
    「子供ではない! 行くぞ、皆! 弁慶も援護じゃ!」
     挑発的に言うのはミニ浴衣のギャル。まだ夏本番ではないと言うのに、小麦色に焼けている。一方、今回のメンバーでは華織も立派な年長者。負けじと年下の仲間を激励しつつ、剣を抜き放つ。
    「ハートの鎚! ここで通行止めです!」
     これを受け、アリスの手にしたスート・ザ・ロッドがハートの槌へと姿を変える。
     ――ヒュッ!
     夜闇を切り裂くように振るわれる炎剣と、警告の赤を宿した鈍器が同時に浴衣のギャルを捉えた。
    「っ……ちょ、何すんの!」
     フライング服のご多分に漏れず、纏った者へのダメージも全て衣装へゆく仕組み。元々少なかった生地の面積が破れたり解れたりで、更に少なくなってゆく。
    「性質上服を引き裂かねばならぬ仕事であろうが……余りにも目の毒というか、なんというか」
     背徳的な光景に、同性の華織でさえやや頬を染めて複雑な表情。灼滅者の8人中7人が女性という所が、不幸中の幸いだろうか。
    「行くよ、ヴァレン!」
     と思いきや、唯一の男子であるカリルは全く気にする様子もなく、ヴァレンとの息の合ったコンビネーションで追撃を仕掛ける。
    「や、ヤバイってこれは!」
    「一人狙いはズルいんじゃない?! それ、面接で見せるサンプルなんだからー!」
     集中攻撃に慌てる浴衣ギャルと淫魔。しかし当初より速攻による短期決戦を予定していた灼滅者達は、包囲陣形からの波状攻撃を継続する。
    「ミニ打掛とかミニ羽織袴とかもあるのかしら……」
    「ミニ打掛?! その発想はなかったわ」
     殺界を形成しつつ言う萌愛の言葉に、はっと息を呑むレプラコーン。束の間、ミニ浴衣を救助する事さえ忘れるのは職業病……いや、職人病だろうか。
    「セオリー通り……早めに倒そう」
     そんな一瞬を活かさない手もなく、メリッサは大地に眠る畏れをエアシューズに集めると、カミソリの様に鋭利な蹴りを見舞う。
    「きゃぁぁっ!!」
     浴衣に一際大きな裂け目が入って、胸元が更に肌蹴る。女性ばかりで本当に良かった。
    「もう怒りましたよー! 浴衣ちゃん、懲らしめてやろう!」
    「う、うん」
     さすがのレプラコーンも、自信作を破られて怒り心頭と言った様子。脚を小刻みに動かすと、灼滅者達の動体視力を持ってしても容易には捉えられない程の速度で、瞬間的に高速移動。
    「くっ!」
     ――ギィンッ!
     針を模したストック状の武器が、予期せぬ速度で華織を突かんとする。が、彼女もとっさに上体を逸らし剣でこれを打ち払う。
    「まだまだぁ!」
     と、同時に攻撃を仕掛けるのは浴衣(らしきものを纏った)ギャル。すらりと長い脚を活かした、鋭い蹴りを繰り出す。
     ――ガッ!
     と、今度は霊犬の弁慶が斬魔刀でこれをガード。盾役の少なさは、高度な連携でこれをカバーする構えだ。
    「か、回復いきます」
     と、間髪を入れずに白き炎で二人の傷を癒やし、同時に味方の力を高めてゆくフリル。
    「今度はこっちの番ッスよ! イナズマアッパー!!」
     攻撃は最大の防御とばかり、再び攻勢に転じる口火を切ったのはアガサ。浅草をご当地とするヒーローだけあって、雷神の力を帯びた拳を浴衣の背後から叩き込む。
    「あぐっ!? ま、マジでもう無理!」
     殆ど残骸と言って良い状態になってしまった布を抑えつつ、大きくよろめく浴衣ギャル。
    「弾体投射。対象を斬伐します」
     ――バッ!
     後一押しと言った場面、龍砕斧を手に間合いへと飛び込むのは日和。竜の骨さえ断ち切る一撃が浴衣の帯に直撃し、完全に粉砕する。
    「きゃあぁーっ!!? なにこれ何なの!?」
    「これを!」
     華織とアリスが、混乱して騒ぐ少女に服を投げ渡す。
    「むうぅ……良くも私の自信作を! これで採用されなかったら、どう落とし前付けてくれるんですか!」
     これに激怒するのはレプラコーン。地団駄を踏んで、灼滅者達を非難する。
    「えっとそれは……」
    「これ以上怪人さんの力を強くするわけにはいかないのです! お迎えが来る前に、いきます!」
     思わぬ剣幕にやや気圧されるフリルだが、カリルが庇う様にきっぱりと言い放つ。
     戦闘開始から数分、安土城怪人の使者がやって来るまでに残された時間は少ない。灼滅者達は、怒れるレプラコーンへの集中攻撃を開始する。


     ――ガキィン!
    「確かに素早い……が、それしきで惑わされる私ではないのじゃ! 大体、そなたら淫魔は不必要な露出が過ぎるのじゃぞ。私の手で教育的指導を行ってくれる!」
    「ぐっ?! 貴方達こそ、ちょこまかとうるさいですよ! 露出できるモノを手に入れてから言って下さい!」
     針を受け止め、逆に白熱を帯びた蹴りを見舞う華織。一方焦りを隠す様に、声を荒げるレプラコーン。
     瞬間移動の技を持つ強力な淫魔も、灼滅者達の高度な連携と激しい波状攻撃によって、次第に旗色を悪くしていた。
    「さぁ皆、一気に決めるのじゃ!」
    「ヴァレン、僕達も攻撃なのです!」
    「これで――ハート・ニャっクル、、!」
     支援に回っていたカリルとヴァレンも、華織の呼びかけに応じて一気に攻勢に出る。加えて、ロッドに浮かぶのは縞模様の猫の手。アリスも時を同じくしてレプラコーンに肉薄。
    「はぁっ!」
     カリルの拳から霊力の網が放たれ、淫魔の身体を縛める。と同時、アリスの影を宿したロッドが叩き込まれ、Suit Strikeの電子音と共に彼女を包み込む。
    「うわっ! こ、このぉ……あんまり調子に乗ってると、本気で怒りますよ!」
    「その本気って……『黄金鉱脈』って言うのと何か関係が……?」
    「んん?! 私達の何を知ってるの? いえ、今はとにかく面接に行くんだから邪魔しないでっ!」
    「そうは、いかないけれど……」
     萌愛の問い掛けにやや反応しつつも、強行突破を図るレプラコーン。萌愛は妖の槍で行く手を塞ぐと、螺旋状に捻りながらその穂先を突き立てる。
    「ぐっ!?」
    「当てる……」
     槍の一撃を受けて、束の間動きの止まるレプラコーン。メリッサは掌中に宿した魔力を、鋭い矢に変えて放つ。
    「そ、そんなもの……っ!」
    「攻撃は一方からじゃないッス! イナズマスラッシュ!!」
     回避の体勢に入るレプラコーンの側背を突き、巨大な戦斧――イナズマトマホークを振るうのはアガサ。
     ――ザシュッ!
    「あぐうぅっ!! ……いたた……ち、ちょっとタイム」
     斧の一撃と、魔法の矢を同時に受けて吹き飛ばされる淫魔。しかし敵も然る者。フラつきながら辛うじて立ち上がると、あからさまな時間稼ぎを始めようとする。
    「火焔召喚。対象を焼灼します」
    「そ、その……いきます」
     ――バッ!
     が、それもここまで。フリルのサイキックソードが淫魔の身体を貫くのと同時に、高熱を帯びた日和のエアシューズ「黒き翼のリリエンタール」がレプラコーンを正確に捉える。
    「っ……わ、私の夢……が……」
     そして糸が切れたように突っ伏した淫魔が、再び立ち上がる事は無かった。


    「後数分あるッスね、間に合って良かったッス!」
    「大体予定通り……かしらね」
     時計を確認して、安堵の息をつくアガサと頷く萌愛。幸い、灼滅者達の作戦を狂わせる様な事態は起こらなかった。
    「全く、けしからぬ敵であった。ダークネスももっと青少年に優しくあるべきじゃ。さ、速やかに撤収じゃ」
    「だね、ペナント怪人が来る前に早く帰ろう!」
     ぶつぶつ呟きつつも、撤収を指示する華織の言葉に日和も頷く。長居すれば、使者がやってきて面倒な事になりかねない。
    「別に……メリッサは戦ってもいいけど」
     と、こちらはまだまだ余裕のメリッサ。事実、怪人が現れていても、打ち破るだけの戦力は備えていたと言えるかも知れない。
    「お気がついてよかったです、、大丈夫ですか?」
    「うんうん……」
     予備の服に着替えた少女の手を引きつつ、尋ねるアリス。彼女もフライング服に取り憑かれていただけで、特に心配は無さそうだ。
    「人通りのある所まで……わ、私達と一緒に」
     フリルも消え入りそうな小さな声で、彼女を誘う。
    「では、いざ凱旋なのです!」
     ヴァレンの頭を一撫でしてから、歩き出すカリル。

     かくして、灼滅者の活躍により、レプラコーンが安土城怪人の勢力に加わる事は防がれ、一般人の少女も救われたのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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